健介が逃げるようにして帰っていき、部屋の中にいるのは春香と望美だけに  
なった。健介の言葉にぽーっとした望美をからかう事に失敗した春香は、ため  
息をついて酒の入ったグラスを手に取る。  
 
「……しっかし、蟹ちゃんがねー……」  
 結構誠実なんだ、と春香は呟いた。横で同じように酒を飲んでいる望美は、  
まだどこか落ち着かないような感じで座っている。  
「蟹ちゃんのこと気になってるんでしょ、あなた」  
 前を向いたまま、春香は尋ねた。反応は返ってこず、ただ望美は黙りこくっ  
ている。考え込んでいるのかそれとも無視しているのか知りたかったが、今彼  
女の顔を覗き込む勇気はなかった。肯定されるのが怖い。  
 
「……何とか言いなさいよ……っ」  
 酒を喉に流し込んで、その勢いで吐き出したはずの言葉はどこか心もとない  
。ゆっくりと横を見ると、望美は唇を噛み締めて黙り込んでいた。  
「……飛鳥、さん? ちょっと、唇切れちゃう……」  
 慌てて望美の頬に手をやると、ようやく望美が口を開いた。  
   
「……分からないです。あたし、健介が好きなのかどうか。椿木さんに会って  
から、余計に分からなくなりました。健介といてもドキドキしないのに、椿木  
さんと一緒にいたら変に緊張するし――」  
 思わず、春香は望美の唇に触れていた。言葉の先を遮るかのように、僅かに  
腫れた下唇を指先でなぞる。は、と望美が吐いた息が指先に掛かる。酒の所為  
かはたまた別の理由か、春香には分からないが、その息はやけに熱かった。  
 
 望美の唇に指を触れさせたまま、春香は黙っている。望美が息をする度に触  
れる息と同じ位に、さっきまで噛み締められていた下唇は熱い。春香は、慈し  
むように何度となくそこを撫でていた。  
 ふと視線を望美に合わせると、望美が不安そうに自分を見つめているのに気  
付く。  
「……じゃあ、はっきりさせてみる?」  
 自分でも意識しないうちに、この言葉が口から零れていた。  
「……何を。ですか?」  
 望美の瞳が、余計に不安そうな色を帯びる。違う、こんな顔にさせたい訳じ  
ゃない。春香はそっと顔を寄せた。そして、囁く。  
 
「……どっちの方が、好きか」  
 言い終えて間も置かず、望美の唇に自分のそれを合わせた。  
 
 自分の唇で触れた望美の唇は、指で撫でていた時よりも熱い。下唇を啄ばむ  
と、望美がぞくりと震えたのが分かった。薄目を開けて見ると、間近にある睫  
も同じように震えていて、そんな望美の反応が春香の何かを駆り立てる。  
「んっ……ふ、あ……」  
 かすかに零れる望美の声は、吐息を含んでいて、甘い。ただ唇を合わせてい  
るだけでは足りなくなって、春香は薄らと開いた唇の間から舌を差し込んだ。  
 
「んんっ!! は、っ……!!」  
 途端、驚いたのだろうか、望美に肩を押し返された。少し惜しかったが、春  
香は唇を離して望美の顔を見つめる。望美の顔は赤くなっていた。  
 
「……ビックリしたー。どうしたのよ」  
 望美が黙ったまま口を開こうとしないので、春香は何もなかったかのように  
尋ねてみる。  
「……ビックリしたのは私のほうです!! 何で、舌いれ……っ!!」  
 言っている途中で恥ずかしくなったのだろう、望美は顔を押さえてうつむい  
てしまった。初々しい反応がやけに可愛く見えて、また望美をからかいたくな  
る。  
 
「何で、って……飛鳥さんが誘ってくるからじゃない」  
「さっ……誘ってなんかいません!!」  
 春香は真っ赤になったままの望美の頬に、また指を伸ばした。触れた肌は見  
た目通り熱い。春香の指が触れた瞬間、望美は大げさすぎるほどに体を引いて  
春香から離れようとしたが、体勢を崩したのかソファの座面に倒れこんでしま  
った。  
 
 ばふっ、という布がひずむ音は意外にも大きく、随分勢いを付けて倒れこん  
だなあ、と春香はどこか冷静に思う。倒れこんだ望美を追うように体を傾ける  
と、彼女の顔は余計に赤くなった。  
「……ほら、誘ってる」  
 春香がそう言うと、望美は自分でしたことをようやく認識したのか、はっと  
したように春香を見つめ返して固まってしまった。  
 
「……何? どうしたのよ」  
 春香が不思議そうに尋ねると、望美は春香に聞こえるか聞こえないかぐらい  
の小さな声で呟いた。  
「……椿木さんは、したいんですか? ……私と」  
 何を、なんて聞かなくても分かる。春香は一瞬返答に悩んだが、ふと気付い  
てしまった。どっちの方が好きか、なんていう質問がただの建前だということ  
に。  
 
 健介と自分を比べるなんてお門違いも甚だしい。ただ、こうやって望美に触  
れるチャンスを作るために尋ねたようなものだった、ということに今更ながら  
気付いて、春香は溜息をついた。  
 
「……椿木さん?」  
「……したい……んだと思う。私もよくわからないわ……あなたと一緒」  
 そう望美に告げると、望美は少し驚いたようだったが、すぐに安心したよう  
に笑った。  
 
「……笑ってんのよ」  
 急に笑い出した望美に、春香は顔をしかめる。  
「……だって、椿木さんすごい緊張してるから……そっかー、したいんだー」  
 望美はそう言いながらまだ楽しそうに笑っている。春香は少し苛立って、前  
触れもなく望美の腰に手を置いた。そして服の裾から指を差し入れ、じかに触  
れた肌をゆるりと撫ぜる。  
 これにはついさっきまで笑っていた望美も目を丸くした。  
「っ!! ちょ、椿木さ……くすぐった……!!」  
 望美はもぞもぞと落ち着きなく体を揺らす。春香の指から逃げようとするが  
、完全に服の中に入り込んだ手からは、掴んで引っ張り出さない限り、逃げら  
れそうもなかった。  
 
「くすぐったいはないでしょ。人が気持ちよくさせてあげようってんのに」  
「だっ、て……本当にくすぐっ……ひゃあっ!?」  
 春香の言葉に反論する望美だが、途中で素っ頓狂な声を上げて固まった。春  
香に胸を揉まれたのだ。春香は楽しそうにニヤニヤと笑いながら、指を動かす  
のを止めようとはしなかった。  
 
「声が大きいわよ。口塞いだら静かになる?」  
「な、っ……ん!」  
 何か言いたげにしている望美の唇を、春香はもう一度奪った。今度はすぐに  
舌を差し入れて、抵抗されることのないように空いた手で望美の両腕を拘束す  
る。  
「んっ……ふ、はぁ……」  
 望美は少し苦しげに息を吸っているようだった。春香はそんな望美の様子に  
は目もくれず、奥に引っ込んでいる舌を探して望美の咥内をねぶる。何度も何  
度も、春香がしつこい位に口蓋や唇を舐めていると、ようやく観念したのか望  
美がおずおずと舌を差し出してきた。僅かに互いの舌先が触れ合うと、とうと  
う春香は耐え切れずに望美の舌を絡め取った。  
 
「んんっ……ん、ふぁ……っぷ、ふぅ……んあ……!!」  
 望美の口からはくぐもった声が零れ出て、春香の耳朶を甘く打つ。キスです  
ら、優しくしてやれる余裕はなかった。――望美の胸に触れている手も、気を  
抜けば力を入れてしまいそうな程に。  
 
 舌を絡めるたび、互いの唾液がぴちゃぴちゃと水音を立てる。望美が下にな  
っている所為か、彼女の口からは唾液が溢れて首のほうへ流れていく。  
「ふぁ……ん、っく……んん……」  
 望美は口内に溜まっていく唾液を必死で飲み下しながら、春香の舌に答えて  
くる。春香はふと舌の動きを止めると、ゆっくりと唇を離した。  
 
「……静かになったわねー。不思議なくらいに……ねえ?」  
 春香は悪戯そうに望美に問いかける。が、望美は肩を大きく上下させながら  
息を吸っていて、とてもではないが返事をできる状態ではなかった。それを分  
かっているからこそ、春香は望美に話しかける。  
「あーもー、どっろどろじゃない、口周り……」  
 春香は呆れたように呟くと、望美の口から零れた唾液を舌先で拭った。顎の  
方に流れている唾液も丁寧に舐め取っていく。春香が喉の辺りをやわりと噛む  
と、望美の体がぴくんと跳ねた。  
 
 そんな望美の反応に気を良くして、春香は何度も同じように喉を噛んだ。時  
折漏れる声に喉が震えて、触れた歯に振動が伝わってくるのが分かる。そんな  
僅かなものにすら、春香はぞくぞくと何かを煽られるのだった。  
 
「……っ、つ、ばきさ……喉、噛むの……止め、ません……?」  
 少しして、望美がようやく声を絞り出した。だが、その声はまだ途切れ途切  
れでどこか頼りない。春香が喉から唇を離して望美の顔を見つめると、望美は  
少し戸惑ったような表情をしていた。  
「……嫌? そうなんだったら、止めるけど」  
 春香は何ともないような表情で望美に聞き返す。実のところ、望美の答えは  
分かりきっているのだが、あえて聞き返しているのだった。普段色々と困らさ  
れている分、今日はとことんやり返してみたい、というのが春香の本心である  
、  
 当の望美は、聞き返されてから少しの間口をもごもごと動かしていたが、と  
うとう観念したのか蚊の鳴くような声で「嫌じゃ、ないです……」と言った。  
その顔は赤く、なんとも言い難いほどに可愛い、と春香は思う。その後すぐに  
、普段はふてぶてしいけど、と心の中で弁解するように付け加えた。  
 
「ふーん、嫌じゃないんだ。だったらいいじゃない、喉噛んだって」  
 春香は更に望美をからかっていく。その春香の唇が意地悪そうにゆがんでい  
ることに、気付いているのかいないのか、望美は何かを言おうとして黙り込ん  
でしまった。  
「……どうしたのよ」  
 春香は訝しげにそんな望美の表情を窺う。その頬はやはり赤く、恥ずかしく  
て言い出せないのだろう、と春香は察した。この辺でからかうのは止めにしよ  
うと思った春香が口を開こうとすると、それと同時に望美もまた口を開いてい  
た。  
 
 互いに口を開けたままの間抜けな顔を見つめあう。……数秒後、同時に吹き  
出して笑っていた。  
「ちょっと、止めてよその間抜けな顔……!!」  
「つっ、椿木さんだって……!! 人のことだけ言わないでください!」  
 今までの雰囲気には似つかわしい会話に、二人そろってまた吹き出した。こ  
の笑いが収まるまでには少し時間を要することになる。  
 
 
 ひとしきり笑い合って波が去っていくと、その後沈黙がその場を支配した。  
互いに話を切り出そうとはしているのだが、言葉が口に出てこない。春香は溜  
息をつくと、望美の胸に乗せたままだった手を服の中から引き抜いた。それを  
見て、望美は不思議そうに春香を見つめる。  
「……あんた、ここでしたいの?」  
 春香がそういうと、望美はすぐにその意味を察して顔を赤くした。その表情  
にはただ恥ずかしい、というだけではない何かが浮かんでいて、今度は逆に春  
香が不思議そうな顔になる。  
 
「……どうしたのよ」  
 春香が呟くように尋ねると、望美は少し迷ったようだが、ゆっくりと唇を動  
かした。  
「……腰が抜けて、動けないんです……」  
 その返答に、春香は一瞬目を丸くしたが、ふと何かを考え込むと、望美の上  
から体を退け始める。そして口の中で何かを呟くと、かがみこんで望美の背中  
と膝裏に自身の腕を差し込んだ。ここまでくれば、望美にも春香がしようとし  
ていることの察しはつく。  
 
「え、ちょっと……! きゃあ!」  
 望美が制止する間もなく、春香はそのまま立ち上がった。体が浮き上がった  
不安からか、望美は声をあげて縮こまる。  
「意外に軽いわねー」  
 春香はそんな望美の様子に目もくれず、気楽な感想を零しながらずんずんと  
歩いて部屋へと進んでいった。完全に閉まっていなかった部屋のドアを押し開  
けて、春香はまっすぐベッドに向かう。  
 
「……っしょ……っと。腰抜けたって、あんたねー……」  
 春香は望美をベッドに下ろすと、呆れたように呟いた。望美は未だ顔を赤く  
したまま俯いている。分かりやすいと言うか、何というか。春香はもう一度溜  
息をついて、望美のすぐ傍に腰を下ろした。  
「……仕方ないじゃないですか」  
 望美が拗ねたように呟くと、春香は望美の肩に手を乗せた。  
「……言っちゃえば? 気持ちよかったですーって」  
 そして、望美の耳元で意地悪く囁く。春香の息が耳に触れたのか、望美は小  
さく体を震わせた。その微弱な震えが、かすかに触れている肩から伝わってく  
る。春香は小さく息を吐いて口を開いた。  
 
「ま、無理に言う必要もないけど」  
「……椿木さんの意地悪」  
 望美の声からは、彼女がまだ拗ねているのがわかる。春香は少し考えると、  
不意に体を望美のほうに向けた。  
 
「……今じゃなくて良い、ってだけよ?」  
「へ?」  
 思ったとおり、気の抜けた返事が返ってくる。春香は間の抜けた顔をして自  
分を見つめてくる望美の肩を掴んで、ベッドへと押し倒した。スプリングの軋  
む音がやけに大きく聞こえる。  
「今から嫌でも言ってもらうから……」  
 春香が望美を真直ぐ見つめながら囁いた。そして、間を置かずにまた唇を重  
ねる。三度目ともなれば、抵抗もなくすんなりと舌を差し入れることができた  
。望美もその気になっているのだろう、積極的に舌を絡めてくる。春香は、舌  
を触れ合わせるだけで、体が熱くなっていくのを感じていた。  
 
 少ししてから唇を離すと、互いの息はかなり上気していて、ろくに息も付か  
ずにキスをしていた事を思い知らされる。春香が何も言わずに望美の服に手を  
掛けると、望美は小さく息を吐いた。そして、口を開く。  
「……あたし、自分で脱げますから……」  
 その言葉は今までと変わらず恥じらいを含んでいて、春香はつい笑みを零し  
た。  
 
「ばかねー。脱がせるのが楽しいんじゃない」  
 春香がそう言うと、望美は余計に顔を赤くして、そして春香の手を自分の服  
から離そうとする。  
「自分で脱ぎます……!」  
 やたらと大きな声を出して望美が抵抗すると、春香はニヤリと笑ってそれに  
従った。  
 
「どーぞ? 脱いでください」  
 春香のその言葉に、望美はハッとして固まる。自分で脱ごうが脱がされよう  
が、大して変わりはないことに気付いたらしかった。  
「え……? あ、の……」  
「どうしたのよ。脱がされるの嫌なんでしょ?」  
 言葉に詰まる望美に、春香は先を促す。望美は縮こまって、固まったまま動  
こうとしない。その様子に焦れて、春香はもう一度望美の服に指を伸ばした。  
 
 
「家にいるのに、こんなにおしゃれしなくてもいいんじゃないの?」  
 春香はそんなことを言いながら望美の服を脱がせていく。ふわりとした柔ら  
かな布地を指先で撫でると、レースの感触が指先にかさついた感触を伝えてく  
る。  
「……別に、おしゃれしてるとかそんなのじゃないです……」  
「ふーん。まぁ、こういう服の方が脱がせ甲斐はあるかもね……」  
 言いながら、春香は服のすそから手を差し入れた。滑らかな肌が指に触れて  
、途端に震えだす。指先でそっとなぞると、望美はぴくんと体を跳ねさせた。  
ちらりと表情を伺うと、望美は目を固く閉じて、何かに耐えているように見え  
た。  
「気持ちいい?」  
 春香が尋ねると、望美は目を閉じたまま微かに首を横に振る。  
「……くすぐったい、です……」  
 その返答に、春香は少しむっつりとした表情になった。少しの間黙り込んで  
いたが、ふとあることをを思いついてすぐに楽しげな表情へと戻る。  
 
「くすぐったいって、これでも……?」  
 春香は望美の耳元に顔を寄せると、その耳たぶを食んだ。それと同時に、脇  
腹に爪を滑らせる。  
「っ!? ちょ、そんな、の……っ!!」  
 今度こそ、望美は春香の求めていた反応を返した。先刻までとは違う、何か  
に耐え切れないとでも言うような望美の声に、春香は嬉しそうに笑う。その息  
が耳に当たるのか、望美はまた声をあげて震えた。  
 
 春香は、望美の肌に触れさせている手を上へと移動させる。中途半端に外さ  
れたブラジャーから零れている胸が指先に触れると、手の平で包み込んで揉み  
上げた。  
「や……んん!! 椿木さ、だめ……!!」  
 胸が弱いのか、望美は更に声を上げて喘ぐ。春香は、今更ながら喘いでいる  
望美の表情が見えないことを少し残念に思った。そして、彼女の喘ぎ声を聞く  
たびに、背筋を震えが走り抜けていくのに今更ながら気付いて、春香は苦笑す  
るのだった。  
 
 春香は、望美の乳首が手の平を突き上げるかのように固く存在を主張してい  
るのに気付いて、胸を揉むのを止めた。手の平を一旦胸からずらすと、今度は  
中心へと指を向けていく。  
 目的のものに触れると、それは春香の指を弾くほどに固く起ちあがっていた  
。軽く指先で撫でてやると、望美は背中をのけ反らせて喘いだ。  
「はぁ……んあっ、ふ、っやあ……!!」  
 どこか抑えたような、けれど甘い喘ぎが春香の耳へ飛び込んでくる。春香は  
その声に満足したのか、またふと笑んで望美の首筋に口付けた。  
 
 春香の手はまだゆるゆると望美の乳首を撫でている。時折指先で弾いて新た  
な刺激を与えてやると、望美は体を震わせて喘いだ。空気を必死で吸い込んで  
いる姿も、自分がそうさせているというだけで、苦しいだろうという心配より  
ももっと気持ち良くさせてやりたいという思いが強くなる。  
 
 春香はふと口付けを止めると、体全体を起こした。そして、乳首を弄んでい  
た手を望美の服の中から抜き去る。どうしたんですか、とでも言いたげな望美  
の視線を受けながら、無言で服をたくしあげた。  
「っ……!!」  
 望美は恥ずかしそうに顔を背ける。春香はそんな望美の反応を楽しみながら  
、あらわになった乳房に唇を落とした。今までの愛撫で敏感になっているのか  
、望美は息を吐いて体をよじる。  
「気持ちいい?」  
 春香はそう尋ねたが返事はなく、ただ望美の息だけが耳に届く。それを肯定  
の意味だと受け取ると、春香は何度も乳房に唇を落としながら先端へと近づけ  
ていった。  
 聞こえてくる望美の息遣いは荒い。白い乳房に歯を立てると、一瞬望美の体  
が緊張した。そしてすぐに弛緩する。それでも乳首は固く立ち上がったままで  
、春香にはそれが「もっとしてほしい」という合図のように思えた。  
 
 春香は乳房にそっと舌を這わせる。触れるか触れないか、そんな僅かな刺激  
にも、望美は体を震わせて感じきっているようだった。  
 春香はおもむろに先端に唇を寄せた。ツンと尖った乳首を唇を挟むと、望美  
はまた体を震わせて喘ぐ。弱く吸い上げると、望美はそれだけで絶頂に達した  
かのように背中をのけ反らせた。  
 望美は意識せずに自らの乳房を春香に押し付けるような体勢になる。  
「んっ……ふ、むぅ……」  
 春香は、急に増した質量に驚く事なく、逆に積極的に舌を絡めていった。舌  
先で潰すように押し付けると、泣きそうな望美の声が聞こえてきて、もっと苛  
めたいという衝動に駆られる。  
(歯とか立てたら、もっといい声出してくれる? 飛鳥さん)  
 心の中で尋ねても答えなど返ってくるはずがなく、それを分かっていて、春  
香はすぐに行動を起こした。  
 舌を絡めていた乳首に歯を微かに触れさせると、望美の声が一瞬甲高くなる。  
「やぁ……! 椿木、さ、あたし……そこ……ああっ!!」  
 愛撫に必死で耐えている望美だが、春香が乳首を甘噛みするととうとう快楽  
の渦に呑まれてしまった。両手を春香の頭にかけて、もっと、とねだるように  
押し付けてくる。春香が乳首を歯で扱き上げるようにすると、良すぎたのか手  
に力がこもった。  
 
(いった……!! どこ掴んでるのよ、まったく……!)  
 その手は当然春香の頭の上に置かれているわけで、春香は痛みに呻いて愛撫  
を止めた。望美の胸から顔を離して体を起こすと、自分の唾液でそこがどろど  
ろに濡れているのが視界に入ってくる。そこから目線を上に上げていくと、快  
楽に溶け切った望美の顔が見えた  
。  
 その表情は、普段はどこか子供じみている彼女からは想像もつかないほどに  
淫猥だ。春香は、また自分の欲求を煽られるのを感じていた。  
「……飛鳥さん……すごいやらしい」  
 格好もそうだけど、と付け足して春香が言うと、望美は慌てて服を引き下ろ  
して胸を隠そうとする。その片手を掴んで引き止めると、唾液で濡れそぼった  
胸へと触れさせた。望美が抵抗するのはわかりきっていたが、それも気にせず  
に乳首に彼女の指を乗せる。  
「……固くなってるの、わかる? ほら、こんなに」  
 言いながら、春香はその指をゆるゆると動かしてやる。唾液でぬめった指は  
、抵抗もなく乳房の上を滑った。親指をとって先端をこすると、望美は長く息  
を吐いて快感を逃そうとする。  
「逃がしたらだめよ」  
 春香はそう戒めて望美の唇を塞いだ。快感の逃げ場を無くせば、望美はもっ  
と乱れるだろう。自分を求めて名前を呼ぶだろう。そんなことを考えながら、  
唇の隙間から舌を差し入れて望美のそれを絡めとった。  
 
 口付けを続けながら、春香は望美の手をそっと乳房から離す。体の脇にその  
腕を下ろして、そのまま自分の手を望美の下腹部へと滑らせた。  
 臍の辺りを撫でて、時折脇腹に手を滑らせる。望美は体全体が性感帯になっ  
ているようで、ただ肌をなぞるだけでも甘い声を零している。春香は肌をなぞ  
るのを止めてズボンのボタンに触れた。今までずっと望美の体に触れていたせ  
いか、金属製のそれはひどく冷たく感じられる。  
 
 春香はしばらくボタンを弄んだ後、それをを外してジッパーを下ろした。望  
美はもう抵抗する気も起きないらしく、春香にされるがままになっている。腰  
を支えてズボンを足から抜くと、白い肌が露出した。ベッドの外にズボンを打  
ち捨てて肌にそっと触れると、表面はじわりと汗ばんでいる。  
 春香は肉付きのよい太股を撫でて、内股へと指を滑らせた。皮膚が薄いそこ  
は、吸い付けばすぐに跡が残るだろうことは容易に想像がつく。ふと試してみ  
たくなって、春香は望の足を折り曲げた。膝を立てて開くと、望美は恥ずかし  
いのか顔を背けてシーツを掴む。何度か確かめるように内股を撫でて、そして  
そっと唇を近づけた。  
 
「……っ!! あ、何して……ん!!」  
 状況が把握できていないのだろう、望美は戸惑ったような声を上げる。気に  
せずに唇を押し付けると、望美はまた体を震わせた。唇でついばんで舌を這わ  
せると、吐息混じりの声が部屋に響く。何度かついばんでから、そこをきつく  
吸い上げた。唇を離して内股を見てみると、そこには薄い鬱血ができている。  
 
「結構きつく吸ったつもりだったんだけど……」  
 薄いわねー、と春香は呟いた。過去、自分が何度となく付けられてきたその  
跡は、意外にも付けづらいものなのだと認識を改める。これぐらいの薄さなら  
2、3日で消えるだろう。もし消えなくても、場所が場所だから見られる心配  
もない。  
 春香は色々と自分の中で整理をつけ終わると、ひょいと望美の顔を覗き込ん  
だ。  
 
「痛かった? さっきの」  
 当たり障りのないことを尋ねてみると、望美はこくりと頷く。いたわるよう  
に鬱血の浮いた箇所を撫でると、望美は目を閉じてまた息を吐いた。  
 

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