ふいに正面から抱きしめられて息をのむ。  
「っ、雅人…!」  
「誰もいないよ」  
確かに深夜をとうに過ぎたフロアには自分達だけだ。でもだからって。  
「ちょっと、ふざけないでよ」  
声を潜め、腕を突っぱねて抗議する。  
そんな私の顔を覗きこみ、苦笑しながら彼が言った。  
「今から出張になった」  
「え?!」  
「一週間だってさ」  
そんな!!昨日までは私が出張だったのだ。  
これから彼の部屋でお土産のワインをあけながら食事をして、そして…。  
がっかりした思いが顔に出たのだろう、彼が笑いながら、  
「来週の月曜には帰ってくるよ」  
左手で私の頬をなでた。  
「…わかった…」  
これは仕事なのだ、仕方がない。  
そうと判っていても、これから過ごせる筈だった彼との時間が消えてしまった寂しさに、  
そっと目を閉じて彼の手に頬を摺り寄せた。  
「帰ったらそのまま君の部屋に行くよ」  
「…ん」  
「月曜火曜は代休だったよな」  
「…」  
「ずっと一緒にいられる」  
「…うん」  
スルリと彼の首に腕を回しくちびるを寄せる。  
目を閉じていても気配で彼が微笑んだのが判った。  
「じゃあ、これは前払いと言うことで」  
くちびるに彼の息がかかる。  
「…ん、もいいから…」  
じらされてつい出た言葉は彼のくちびるに飲み込まれた。  
 
来週の月曜日。  
帰ったら早速掃除に取り掛からなくては。  
月曜は朝から洗濯をして布団を干してシーツもピンとはりかえて。  
ワインはもうキンキンに冷えているころだろう。  
あとは、そう貴方だけ。  
 

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