深夜2時を回った。東京の街にも少しだけ、喧騒を知らない時間が流れている。
寝室の中は間接照明の明かりが灯っているだけ。
突然、ガラッと扉を開ける音がした。
クローゼットの中から飛鳥望美がひょこひょこと出てくる。
「椿木さん・・・・。」
「ん?どした?」
いつもの彼女らしくない、元気の無い口調。
思わずご機嫌を伺うように顔を覗き込んでしまった。
「何か悩み事〜?」
「……いえ」
「じゃあ、何?」
「…眠れないんです…。」
消え入りそうな小さな声で彼女は言う。
間接照明の薄暗い中でも、彼女の顔が赤くなっているのが判った。
心なしか、呼吸も乱れ気味だ。
「………原因は??」
望美の状態を察したのか、春香はワザと吐息混じりに耳元で囁いた。
「〜〜〜〜っ!もうっ!」
「どうしたの?」
「違いますよ!!暑いんです!暑くて眠れないんです!!!」
「……へ?」
「『へ?』じゃありませんよ!クローゼットなんかで寝てるから、全っ然!クーラーの風が来ないんです」
「…???だから?」
「私も、そっちで寝たいです!」
望美の答えに、「な〜んだ」と呟きつつ再びベッドに横になる。
「ちょっ・・・・椿木さーん。『な〜んだ』って・・・・酷いじゃないですかっ!」
「・・・・・・・・」
「椿木さーーーーーんっ!!!」
望美が駄々をこねる子供のように手足をバタつかせると、春香は無言で身体をベッドの片側に寄せた。
顎で“こっち側に寝れば?”と合図。
「ありがとうございま〜〜す♪♪・・・・えへへ」
横になると、自分に背を向けたままの春香にピッタリくっつく。
「・・・・・あなた、暑いんじゃなかったの?」
「こっちに来たら、もう冷えちゃいましたよ。設定温度低すぎじゃないですか?」
そう言いながら、クーラーのリモコンを手探りで探す望美。
溜息をつきながら体勢を変えて、その手を止め、掴む春香。
「丁度良くなるように・・・・・・・熱くしてあげる」
そのまま望美の指に自分の長い指を絡める。
「ちょっ・・・・椿木・・・・さん・・・・・?」
「黙って」
いきなり噛み付くようなキス。
「〜〜〜〜っ!!ぅううう〜〜〜〜〜っ」
突然の激しいキスに目を白黒させる望美。
「〜〜っ・・・ぷはっ!」
「・・・・・・あなた、誘ってるとしか思えないわ。私を弄ぶなんて100万年はやいっつーの」
「そっ・・・・そんな・・・椿木さ・・・が・・・勝手にっ」
絡めていた手を離し、そのまま望美の顎に持っていく。
「じゃあ・・・・やめよっか?ん?」
子供をあやすように首を傾げて聞く春香に、望美は少し苛立った。
「(・・・・・判ってるくせに)」
答えを言葉にするのは癪。
今度は望美が春香に口付けた。ただし、春香のように野生的ではなく、ゆっくりと味わうようなキス。
唇の感触を味わいながら、手のひらを相手の左胸に這わせた。
春香の激しい鼓動が伝わってくる。
「・・・・椿木さんだって、全然余裕ないでしょう?」
その言葉に、春香の動悸は更に激しくなる。
下手をしたら自分のこの鼓動だけでベッドが軋むのでは・・・?と錯覚する程に。