「ふぁ〜あ…」
皆が寝静まった深夜、小さくあくびをしながらトイレから戻ってきたラルク。
部屋のドアを閉めて自分のベッドに戻ろうとしたその時…
「お姉さまぁ…」
不意に、隣のベッドで眠っていたノノに自分の事を呼ばれたような気がして、小さく振り返るラルク。
そこには、子供のような無邪気な寝顔をこちらに向けているノノがいた。
「えへへ…大好きですぅ…」
「なんだ…寝言か、ったく、ロボットのくせに寝言なんか言って…」
いつものノノにするようにぶつぶつ愚痴りながら、
身を乗り出してノノの寝顔を覗き込むラルク。
「気持ち良さそうに寝ちゃってら…」
余りに無防備な寝顔に、つい悪戯したい欲求に駆られて、
柔らかいほっぺたを指でつついてみる。
ふにゅふにゅと柔らかく指を押し返して、それでいてノノは目を覚まさない。
「ふふふ…大好き…か、大がつくほど好きだなんて、ニコラにも言われた事ないや」
ノノの無邪気な寝顔を微笑みながら眺めていると、
ラルクは唇に目が止まった。
「………な、なにやってんだ私は…」
ノノの唇を凝視している自分の間抜けなおこないを
自嘲するように、頬を染めながら目線を唇から逸らした。
(……ノノの唇、とっても柔らかそう…)
どんなに気にしないふりをしても、
呼吸をするたびに開いたり閉じたりしている唇に、視線がすいよせられてしまう。
そして、今この場所には自分と深く眠りにつくノノしかいないという状況が
ラルクの「ノノの唇に触れたい」
という後ろめた欲求を余計に煽った。
部屋の鍵が締まっているのを確認して、
ノノのベッドの縁に腰掛けて、
再びその安らかな寝顔を眺める。
(ごめん、ノノ…触る、触るだけだ……)
心の中で何度も頭を下げながら、
震える指先をノノの唇に伸ばして起こさないようソフトタッチする。
心臓がバクバクする、
興奮の余り、爆発して小さな身体も心も四方八方に飛び散ってしまいそうな程に力強く。
緊張のあまり喉はカラカラ、唾液をごくりと飲み込んでも砂漠に水滴を垂らすように潤うことはなかった。
今まさにラルクの心境は、初めて女性の性器に触れる男性そのものだった。
「すごく柔らかい……」
思わず感想を口に出してしまう程に柔らかな感触に目を細めて楽しむと、
気づかれないようにつついたりしてその素晴らしい弾力を堪能する。
暫くそうしていると、不意にノノの口が動いた。
「…だめ、です…お姉さま…そんなところを……」
(えっ…?)
気付かれたかとどきりとするラルクを余所に、ノノは寝返りを打つ。
(…寝言?)
仰向けになったノノは気持ちよさげに寝息を立てる。ゆるやかな呼吸をする度、ノノの豊かな胸の膨らみが、衣服の布越しに上下に動いた。
はだけた胸元からのぞく白い谷間に、ラルクは内側から何か熱い衝動が沸き上がるのを感じていた。
(ノノ……)
気付くと、ラルクは甘い吐息の漏れるそのノノの唇に、自らの唇を重ねていた。
(知らなかった…女の子の唇って、こんなにも柔らかい……)
目を閉じ、触れ合った唇だけでノノを感じる。
唇を離して余韻に浸っていると、突然下から掛けられた声に我に返った。
「…お姉さま……?」
「あ…」
瞳に驚きの色を映したノノが、頬を桜色に染め見上げていた。
「こ、これは…その……」
「…夢じゃ、ないんですよね……?」
ノノの瞳から溢れる雫に、ラルクは言葉を失う。
「ノノは…幸せです」
微笑んだ途端、その頬を涙が伝って流れ落ちた。
(…ロボットも流すんだ、涙…)
「夢じゃないよ」
言うとラルクはふわりとノノを胸に抱く。桃色の長い髪を優しく撫でた。
「お姉さま…」
背に回された腕に力がこもる。ラルクの服をきゅっと掴んだ。
…ああ、漸く気付いた…。
私はこの子を愛していた――。
ずっと側にいてあげたい。この子の無垢な笑顔を守りたい。たくさん話をしたい。
…それから、ずっと一緒にいて欲しい。
「ノノ…好きだ」
二人は、再びくちづけをかわした。