そこを満たしていた闇を、強力な光の呪文が齧り取る。  
 照明によって露わとなっているのは、湿気によって天井から  
床までじっとりと濡れた石組みの通路だった。  
 
 足を滑らせぬよう、注意を払って進む六人のグループがいた。  
 光を受けて、握り締めた剣の刃が、金色の頭髪がきらめいた。  
 ほとんどの者が、バルタクスなる冒険者を育成する学園の黒い  
制服に身を包んでいる。  
 
 それは、六人がそこに在学する生徒であることを雄弁に物語っ  
ていた。  
 そして、全員が女生徒で構成されていた。  
 けれど、もう幾度も死線をくぐり抜けてきたのだろう、彼女た  
ちの態度には緊張はあっても臆している様子は微塵も見受けられ  
ない。動作にもぎこちなさはなく、不意の襲撃にも冷静に対処で  
きると思われた。  
 
 先頭をゆくのは、猫の耳と尻尾を持つフェルパーの少女だった。  
 長剣と盾を構え、前方の暗黒淵を睨み、その猫の血を引く種に  
相応しい、とてもしなやかな体の運びで音も立てずに危険な露払  
いを務めていた。  
 
 その後ろから、ショートカットの人間の娘が悠然とした顔で続  
く。肩に、どちらかといえば小柄な彼女の体格に似合わぬ長大な  
両手剣を軽々とかついでいた。  
 
 三番手は、頭や背に翼のある、非常に上品な容貌をそなえた女  
生徒だった。  
 セレスティア、と呼ばれる天界に住まう種族の末裔だ。  
 フェルパー同様、長剣と盾を携え、翼の魔力による浮揚で完全な  
無音の移動を行っていた。  
 
「……」  
 セレスティアの顔に刻まれているのは、前のふたりのような警戒  
や余裕ではなく、何かの厳しい状況にさらされている者の苦悶だっ  
た。  
 
 一行が進むうちに、彼女はわなわなと体を震わせはじめ、あると  
き急に限界に達して叫んだ。  
「わたくし、もう耐えられませんわ!」  
 
 すぐ前の人間が振り返って、  
「ん、トイレいきたいの?」  
 
 セレスティアはさらにいきり立って、より大きく叫ぶ。  
「違いますわっ!! この恰好ですわよ、恰好!!」  
 
 前のふたりと後続のエルフ、フェアリー、ノームが学園の制服であ  
るのに対し、彼女だけが衣装が異なり――というよりも身につけてい  
なかった。  
 太腿から下は女子生徒が着用する白のニーソックスとブーツのまま  
だが、そこから上は下着のみで素肌の大部分が露出していた。  
 
「うんうん、よっく似合ってるよ」  
 顎に指をやってにやりとする人間の娘。  
「清楚な顔の○○ちゃんに、すごく大胆なデザインのブラとぱんつが  
なんとも」  
 
「ちょっと、変な目で見ないでくれませんこと」  
 盾で前を隠すセレスティアに、人間は肩をすくめて見せた。  
「ま、それだって立派な防具なんだし、ハダカよりずっとマシでしょ?」  
 
 前の戦闘で、セレスティアの衣服は下着までぼろぼろにされていた。  
その戦いでいま彼女がつけているものを入手したのは幸いというべき  
なのかもしれない。が、  
 
「だからって、せめて上着を貸してくれるぐらいの友達がいを見せては  
くれませんの!?」  
 ジロリと仲間を見回すセレスティアに、五人は一様にそっぽを向いた。  
 
 怒りを溜めこむ彼女の背後から、不意にエルフが腕を回して胸を掴ん  
できた。  
「ちょっ、ちょっと何をなさいますの!?」  
 
「生憎とあたしたちの上着じゃ、こんなけしからんおっぱいを隠せるほ  
どのサイズはないのよね……大したことなさそうに見えて実は着やせし  
てたなんて、すっげームカツク(怒)」  
 仲間たちの本音を代弁しつつ、エルフは手に余る大きさのそれをやわ  
やわと揉みしだいた。  
 
「そ、そんなこと言われても、わたくし、だって好きで、お、大きく  
……って、揉まないでぇ!」  
 
 振りほどこうとしても、エルフはしっかりと張りついて彼女を逃が  
さない。  
「ぬっふっふ……。あたし、そっちの趣味はないつもりだったけど、  
何だか興奮してきちゃった。ほぅれ、ここがええのんか〜♪」  
「あっ……はぅ……やっ、いやぁっ……!!」  
 
 エルフに襲われるセレスティアの痴態など関心の外といった風に、  
後衛のフェアリーははからずも小休止になったのを機にとある生徒か  
らもらった古雑誌を読みだした。ふと、ポケットにチョコバーがあっ  
たのを思い出し、フェアリーは二本あった片方をこちらも魔術の教科  
書を開いていたノームに差し出した。  
 
「××ちゃんも、一本どうかな?」  
「……いただきます」  
 無表情に礼をいって、もぐもぐとチョコバーを咀嚼するノーム。  
美味かったにせよそうでないにせよ、感情が表面に出ることは決して  
なかった。  
 
 エルフの責めはなおも続き、  
「こんなにかわいい声で啼く○○のあられもない姿をもし男子が見たら、  
きっと今夜は五分くらい悟りをひらくんじゃない?」  
 
「そ、そんな……ぁ、ぃやっ、見られ、たらわたくし、もう、わたくし  
……はぅ、お嫁に、いけなくなって……しまいますわぁ!」  
「……って、いってるそばから男子のパーティが来たんだけど?」  
「いっ……! いやぁぁぁぁぁぁ――――――!! 見ないでぇぇぇ  
ぇぇ――――――っ!!」  
 
 物凄い力でエルフから身を振りほどき、迷宮の隅々まで聞こえそう  
な大絶叫をあげてセレスティアは床にしゃがみこんだ。ひっくひっく  
としゃくりあげる声が彼女から上がる。  
 
「なんてね♪ いまのは嘘だったりして」  
「………………」  
 ちろりと舌を出していたずらっぽく笑うエルフに、天使の血が流れ  
ている種族とは思えぬ禍々しいオーラを発して、セレスティアがゆら  
りと立ち上がる。  
 
 
「おまえたち、余興はそこまでだ」  
 エルフがセレスティアの剣の錆になる前にフェルパーが硬い声で  
言い放った。  
「いまのバカ騒ぎを聞きつけたようだ。態勢を整えろ」  
 尻尾を逆立て、前方の闇から目を離さずに命じる。  
 
 熟練のパーティらしく、瞬時に臨戦態勢に移行した彼女たちが見  
つめる通路の深奥に、徐々に高まる足音とともに迷宮の住人の目を  
示す光点がいくつも現れた。ふたつで一匹だったとしても、かなり  
の数が迫ってきている。  
 
「わお。いっぱい」  
 人間の娘が少し不安そうに洩らす。  
 
「ふん、あの程度、いまのわたくしの憤激の前には何程でもありま  
せんわ」  
 怒りのやり場を発見したセレスティアは顔に穏やかそうでどこか  
怖い微笑をたたえ、流麗な動作で得物を構えた。  
「こんな破廉恥な恰好で命を落としでもしては、到底浮かばれませ  
んわ。あなたたち、絶対に勝ちますわよ!」  
 
 下着姿だったにせよ、そのときの堂々たる彼女の態度は感嘆の念  
を抱くに値するものだった。  
 

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