夕刻、学生寮の食堂は毎日、ちょっとした騒ぎになる。
食事はきちんと人数分用意されている上に、パンやパスタはおかわり自由なのだが、
育ち盛りの生徒たちにかかれば、イナゴに襲われた畑よろしく、瞬く間に食い尽くさ
れてしまう。
所持金に余裕のある生徒は、物足りなければ購買部を利用することになるが、そう
でない生徒にとっては、ここで腹を満たしておかねば、空き腹を抱えて眠ることに
なるのだ。
当然、配膳台付近では熾烈な争いが繰り広げられることになる。
そんな喧騒をよそに、食堂の片隅で、一人の少女が静かに食事をしていた。フェル
パーの侍。獣人族として生存本能は人一倍だが、武人としての誇りも重んじている。
(一口一口味わって食べれば、規定の量でも満足感は得られるものだ。みっともなく
早食いする者たちには分かるまい)
半ば自分に言い聞かせるように、ボリューム不足の魚フライにナイフを入れ、一切
れ口に運ぶ。数を揚げている割には程よい火の通り。ハーブの効いたソース。
肉が出ないと落胆する生徒は多いが、魚だって、寮母がしっかり料理してくれるお
かげで充分なご馳走なのだ。
おだやかな心で食事を続ける彼女。その向かいに、つつましさとは無縁とも言える
大盛りの皿が置かれた。
「ここ空いてるよね?座るね!」
返事を待たずに席に着いたのは、同室に住む、クラッズの少女。盗賊学科の彼女は、
戦術系学科のような肉体派ではないのだが、とにかくよく食べる。他のおかずが隠れ
るぐらい、山盛りにされたパスタ。その横の小さなトレイの上には、どこからか買っ
てきたであろうおかずが3品。金儲けが得意な盗賊の食糧事情は、錬金術師に次いで
恵まれている。
「また、意地汚い盛りだな。少しは食材に敬意を払え」
「食べることが敬意だもん。あ、お魚あるけど、食べる?」
「ん?ああ……ありがとう……」
フェルパーの少女は口をもごもごさせた。ドカ食いする相手を嗜めておきながら、
貰える物は貰ってしまうのだ。
だったら最初から、偉そうに非難しなければ良かった。
(彼女のほうがよほど大人だな)
クラッズの少女は自分の分のおかずを一品、あっという間に平らげると、空いた皿
の上に一尾の魚を置いた。
袋から取り出した、生魚を。
「はい、召し上がれ」
「いや、生で出されても困る」
「なんで?ネコなのに」
「私はネコではない!」
机を叩いて抗議する。フェルパーは獣人族であり、本能の面では猫に近い部分があ
るのかも知れないが、文明社会の一員として生活している以上、食文化は他種族とそ
う変わるものではない。
「まあまあ、何も、口にくわえて走れって言ってるんじゃないし」
「いくら乱心しても、そんな事はせん。魚は嬉しいが、あまりからかわないでくれ」
「ゴメンゴメン」
あまり反省した様子もなく、クラッズの少女は、目の前の大盛りパスタを掻き込み始めた。
二人はほぼ同時に食事を終える。フェルパーの少女が一息ついていると、クラッズ
の少女が身を乗り出してきた。
「ねえ、食後の運動しようよ」
「元気だな。私は腹八分だからすぐに動けるが、お前は大丈夫か?」
「私もハラハチブだよ?ごはんお腹いっぱい食べたら、おやつ食べられないもん」
「寝る前にも菓子を食すのか」
「おやつパーティはコミュニケーションだよ。同じ学科の子達と情報交換」
「そうか、お前の情報網には助けられているからな。わかった、運動につきあおう。
お前が太ったら大変だからな」
笑みを浮かべたフェルパー少女に、クラッズ少女は顔をかがやかせた。
「わーい!じゃあ、これで遊ぼ!」
彼女が懐から取り出したのは、先端に、なにやらふさふさした物がついている、細
長く撓り易い棒状の物体。
「なんだ、これは……」
「ねこじゃらしだよ」
屈託の無い笑顔で、クラッズ少女は、フェルパー少女の目前で猫じゃらしを振る。
「やめんか!」
フェルパー少女が左手で猫じゃらしを払いのけようとするが、クラッズ少女は素早
くかわす。逃げた先に、今度はフェルパーの右手が襲い掛かる。クラッズは、椅子に
座ったまま、体を横に一回転する。
「あはは、気に入ってくれたんだね」
「目の前でそんなものを振られたら、鼻がむずがゆくなるだろう!ネコじゃ有るまい
し、気に入るものか!」
「だったら後ろ向いたら良かったのに?」
「う……か、からかうのなら私は部屋に戻るぞ!」
「ごめんごめん。おわびに牛乳おごるよ」
「牛乳?」
フェルパーの耳が動いた。
クラッズは懐から牛乳瓶を取り出し、手早く皿にあけた。
「はい、人肌だよ」
「いいかげんにしないか!」
腹を立てたフェルパーは、洗濯も入浴も一人で済ませた。座学の課題も終わらせ、
ベッドに入っても、まだ苛々していた。
その原因となったクラッズは今頃、同じ学科の友人たちと楽しくおやつパーティ
だろう。からかわれた自分がこれだけ悔しい思いをしているのに、からかった本人
は覚えてさえいまい。
声に出して罵れば、少しは心も落ち着くのだろうか。
そう思って、クラッズの少女の名を口に出そうとしたとき、扉が開いた。
「ただいま〜。おみやげ持って帰ってきたよ〜」
クラッズの少女は、いつもより早く帰ってきた。だが、フェルパーは答えない。
少し間をおいて、またフェルパーが呼びかける。今度はかなり、静かな声だ。
「お誕生日のプレゼントもあるよ〜」
もしかしたら、耳が動いてしまったかも知れない。
(どうせ鈴か首輪だ、くだらん……)
意地を張って黙ったまま、フェルパーはなお強く目を閉じた。
クラッズは荷物を机の上に置くと、そっと、フェルパーのベッドに近づいた。
ゆっくりと、両手でフェルパーの頭を持ち上げ、その下に膝を滑り込ませて来た。
暖かい太ももの上で、不思議な安らぎをおぼえた。もやもやが解けてどこかへ流れ
てゆくような感覚に包まれる。
「すまない、本当は起きていた」
「分かってたよ」
「重くないか?だったら、もう少しこうしていたい」
「いいよ」
クラッズの手が頬に添えられた。
そこから心が通うような気がして、フェルパーは少しおしゃべりになった。
「どうだ、猫だったら、膝枕なんかされて喜ばないぞ」
「猫は膝の上好きだよ?」
「あ……」
墓穴を掘ったフェルパーに、クラッズは追い討ちをかける。
「あと、おまたの匂いって、お母さん猫の乳腺の匂いに似てるから、子猫は落ち着く
んだよ」
「私はネコじゃないと、今日何度目だ!」
飛び起きたフェルパーに対し、クラッズは余裕綽々といった様子で、なぜか服の前
をはだけた。
「あはは、ネコじゃないんだったら、証明してみる?」
体格だけではなく、体型もまた子供のようだ。下着は下半身だけ。明かりがどれだ
け弱くたって、フェルパーには、クラッズの裸体が、肌の色まではっきり見えた。
(話の脈絡はよくわからないが……この性的な誘いを拒むことで、またネコ呼ばわり
されるのだな。まあいい、いつもからかってくるこいつに対し、少し優位に立ってみ
るのも…)
要するに意表をついてみようということで考えをまとめてみた瞬間、既に相手を組
み敷いていたことに気づく。考えるより先に体が動いてしまったということだろうか。
本能に打ち克つ精神を尊ぶ”侍”の彼女はどこかへ消えていた。意外と狼狽したクラ
ッズの表情が嗜虐心をそそる。
「え、なんで?!ちょっと冗談……」
唇を重ねて黙らせる。右手をクラッズの頭の下に敷き、首の動きを封じる。
左手をクラッズの薄い胸に重ねる。先端の突起がほんの少し、手のひらに触れるぐ
らいの強さで、ゆっくり回すように撫でる。
クラッズは両手で抵抗する。筋力に格段の差があるとはいえ女の子同士、さすがに
片手と両手では勝負にならない。だが、がっちり防備を固めるべく胸の前で重ねられ
たクラッズの両手をあざ笑うかのように、フェルパーは尻尾を筆のように使って、相
手のわき腹をくすぐる。遊撃の左手は、腹部の肌の感触を楽しみながら、上下どちら
にも展開する気配を見せる。歯を食いしばるクラッズを見て、もっと嬲りたくなる。
そして不意に唇を離す。抗議の声を上げようとクラッズが口を開いたところを狙い、
ふたたび口を寄せて、細い舌を滑り込ませる。クラッズは舌で押し返そうとする。強
く押し付け合いながら幾度かすれ違い、たまに絡み合う。だだ漏れになった唾液はク
ラッズの喉へと落ちてゆく。
その攻防を打ち切ったのは、ついにクラッズの秘所にたどりついたフェルパーの左
手。クラッズの体は、抵抗をあきらめたかのように弛緩する。
(得意のだまし討ちか?だが、ここでひっかかっておくほうがいいか。このままでは
泣かせてしまいそうだ)
下腹部の中央を堂々と抜けるように、下着の中に差し込まれた手は、無毛の地を抜
けて、肉の芽が出る裂け目へたどり着く。指で直接粘膜に触ったところで、クラッズ
の口を自由にしてやる。
「懲りたか?二度と私をネコだと言わないな?約束したら、やめてやってもいいぞ」
「それが……よく分からないよ……もし本当に嫌だったら、私、舌を噛み切ってたか
も知れないよ?」
「お、おい……」
気の迷いだと否定しようとして、やめた。もっと彼女を嬲っていたい。自由にしたい。
それだけ彼女を可愛いと思っている。
だって、抜こうとした左手が、彼女から離れることを拒んでいるのだ。
(これではネコと呼ばれても仕方ないのかもしれんな)
フェルパーは、クラッズの首の下に敷いていた右腕を抜き、帽子を脱がせて脇に置
き、頭をなでる。左手は、両太ももの圧力を楽しむように、もぞもぞと股間に食い込
んでゆく。
「あの……胸も……」
クラッズは抵抗をやめ、胸の防備を解除している。フェルパーは最初、尻尾でそこ
を攻めようとしたがうまく届かない。
「顔が見れなくなるが、仕方あるまい」
フェルパーは体の角度を変えて、クラッズの胸辺りに自分の顔を持っていく。上下
の唇で、胸の突起を挟んでみる。硬さや大きさがつかめてくると、咥えたまま先端を
舌で刺激できるようになった。だが、これは気持ちいいのだろうか。舌を伸ばしつつ、
上目遣いでクラッズの顔を確認すると、硬く目を閉じている。
彼女のほうから要求してくるぐらいだから、胸の感度は悪くないのだろう。自分が
下手なのか、相手が緊張しているのか。
(下手だから緊張をほぐせないのか)
手法を切り替えようとして、ふと気づく。先ほどまで左手を阻んでいた「壁」が、
心なしか柔らかくなっている。湿り気も増しているようだ。
「自分でするとき、指は入れているのか?」
クラッズは真っ赤になって首を横に振った。真偽のほどは定かでないが、どうやら
入れないで欲しいようだ。そう考えると入れたくなる。
だが、思いとどまる。自分は服を着たままで裸の相手を責めるというのは、優位に
立っているようで非常に気持ちがいい。もし指技で遅れをとっているとなれば、気後
れが生じ、精神的な立ち位置が逆転してしまうかも知れない。場合によっては逆に攻
め込まれてしまう可能性もある。
(それはそれで……)
盗賊の指というものについての妄想にとらわれそうになる。だが、日常生活では完
全に主導権を握られているのだ。こういう所でまで頭が上がらなくなっては面白くない。
勝負を避けることにしたフェルパーは、いったん身体を離した。
そして、子供のおむつを取り替えるときのように、クラッズの両足を持ち上げた。
意図を察し、クラッズのほうも腰を上げて協力する。
もとから大きめの下着は、するすると簡単に抜き取れた。
素直になったクラッズに対し、フェルパーはますます調子に乗る。
「できるだけ脚を開け」
クラッズは仰向けになり、少しだけ……フェルパーの頭がなんとか入る程度だけ、
脚を開いた。彼女の柔軟性ならばもっと開きそうなものだが、恥ずかしいのを我慢さ
せているのだと思うと、フェルパーは支配欲が満たされるのを感じた。
目標の正面に位置し、唇を舐めて湿らせるフェルパー。ふと目が合ったとき、クラ
ッズが微笑した。
「ミルク塗ってなくて、ごめんね」
「ん?……………………こらぁあああああああああああ!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!……あ、いけない」
クラッズはあわててうつ伏せになって、フェルパーを巻き込んで毛布を被り、動き
を止め、息をひそめた。そして聞き耳を立ててみる。いつものじゃれあいだと思った
のだろうか、人が駆けつけてくる気配はない。
あるいは隣の部屋の住人も、事情を察しているのだろうか。すべて声が筒抜けだと
したら。意識を集中し、気配をさぐってみるクラッズ。その集中を乱すように、違和感。
意地悪のつもりなのだろうか、フェルパーの舌が攻撃を開始していた。
だが、その箇所たるや。
フェルパーの舌の先端は、よりにもよってクラッズの後ろの穴をこじあけようとしていた。
「そ、そこ違う!」
「ん?」
フェルパーは毛布を持ち上げてみた。薄明かりが照らした事実に、頬を紅潮させた。
「お、お前が悪いんだ、前も後ろも分からない体型をしてるから!」
「お尻の形で普通分かるでしょう?!信じられない、キスしないでね!」
「く…………いや、今のは私が悪かった」
フェルパーが耳をたらす。
「ど、どうしたのよ?」
「私たちはもともと、こういうことをする仲ではなかっただろう?お前のほうから誘
うのには、相当の勇気が必要だったはずだ」
「誘った?……あ、えっとね、あれは」
「誘った、だと、みだらな印象があるか?とにかく、私はもっと、お前を労わってや
らなければ……そうではないな。素直にならなければいけなかったんだ」
「えっと、えっとね……」
「可愛いぞ」
フェルパーは、いとおしむようにクラッズを抱きしめた。
クラッズは黙り込んだ。そして、何故か泣いた。
「私は続きがしたい。いいか?」
フェルパーの胸の中で、クラッズの頭が縦に動いた。うなずいたのだ。
クラッズを仰向けに寝かせて、フェルパーは衣服を脱いだ。対等の立場になって、
キスのかわりに、まずは頬を寄せた。
「好きだ」
クラッズがどう動いたか、頬を通して伝わってきた。
あらためてクラッズの脚を開かせ、股間に顔を近づける。
そして、好きだと言ってから初めてのキスを、下腹部に。
ついばむように細かいキスを繰り返しながら、徐々に下にずれて行く。敏感な箇所を
前にして、舌で触れる前に、まず息をふきかける。拒否されないのを確認すると、外堀
を埋めるように、秘芯を唇で包み込む。反応が伝わってこないと、どうも不安になる。
「手、どこにある?」
そう言ってフェルパーは、クラッズの腹の上に左手を置いた。その手の甲に、クラッズ
の両手が重ねられた。これで、痛がっているかどうかは確認できる。
フェルパーは唾液をたっぷり流し、クラッズの肉芽を濡らす。そして、包皮の上から
前歯を軽く当てる。痛がらないのを確認して、今度は前歯と舌で挟んでみる。
うまくできたと思ったが、声の一つも出ない。
「もしかして、眠いのか?続きは今度にでもするか」
「違うの、髪の毛が……くすぐったくて」
夢中になって気づかなかったが、見ると、フェルパー自慢の長い黒髪が、クラッズの
内腿や尻の谷間などにぱらぱら貼り付いている。さっき自分で流した唾液なのか、クラッズ
の愛液なのか、汗なのか、その全てなのか、見分けはつかないがとにかく、髪にいろいろ
と付着している。
「す、すまぬ、気づかなかったから……」
フェルパーは慌てて髪をかき上げ、上で束ねる。そこで手がふさがったのを見て、
クラッズがまた笑った。
「私のを貸してあげるね」
そう言って、髪留めを片方ほどいて手渡す。フェルパーは、教科書で見た侍のように、
髪を頭の後ろで縛った。
「似合っているか?」
「微妙。ツインでお揃いとかどう?」
「遠慮しておく」
クラッズの笑顔を見て、フェルパー自身も気づかないうちに、気負いが抜けていた。
筒状にすぼめた舌を伸ばし、クラッズの膣口をつつく。そこから頭自体を動かし、割れ目を
なぞる様に舐め上げる。上下運動の往路は花弁の内側、復路は外側を通過。それを繰り返し
つつ、右手の指の腹で、秘芯を撫でる。液体を絡めながら、円を描きながら。その半径を少
しずつ縮め、ついには突き立てた指を小刻みに振るわせる。
「あ」
クラッズの身体がのけぞった。
「気持ちいいのか?続けるぞ」
「演技だって」
「…………こ、こらぁ!」
「でも、嬉しそうだったよ。その……私を気持ちよくしようってしてくれてるんだよね」
「当たり前のことではないのか?」
「だったら……えっと、あのね…………お尻……舐めてほしいな…………」
「そ、それは、気持ちいいのか?そうしてほしいのか?」
「さっきは、恥ずかしい気持ちが先に立って……その、一瞬だけだったけど……」
「そうか、うん。四つんばいになって、尻を持ち上げるんだ」
太ももを支えて手伝ってやると、クラッズの身体は簡単に反転した。
(尻、というのは、尻たぶではなく穴の事を言っているのだろうな?)
つい、その箇所を注視する。汚いものが出てくる穴なのに、何やら、意思を持って開こう
としている蕾の様で愛しい。両手で、まだまだ肉薄の尻をかきわけ、顔を近づける。
「え、えっと、汚い?」
「どうだろうな、後で鏡で見てみるといいぞ」
焦らして不安にさせるのもいいが、フェルパーの彼女自身、さほど気は長くない。
その舌は周囲からほぐすのではなく、いきなり中心部に宛がわれた。押し付けたまま、
根元のほうから舌をくねらせる。
「はぁ……はぁ……そこ、いいよ……」
クラッズの、控えめな喘ぎ声が聞こえた。これもまた演技かも知れない。だが、自分の
行為に相手が反応してくれるのは、とても嬉しいことだ。
「あ……そう、続けて……もっと……」
中央を基点として、放射状に伸びる皺に沿って、舌先を動かす。その繰り返し。狭い箇所、
それも突起ではなく窄まりなので、攻めに変化をつけにくい。
「いい、いいよ……あふ……はぁ……」
クラッズは満足しているようだが、尻の穴まで舐めた身としては、もう一つ上の反応が
欲しい。ふと思い立ったフェルパーは、先ほど束ねた自分の髪の先端を寄せ集め、刷毛状
にした。それをこっそり前に回し、クラッズの敏感な箇所を突付いた。
「ひゃあん!だめ、ひぃっ!」
「本物の喘ぎはずいぶん激しいじゃないか、ん?」
「さっきのだって本物だよ、やぁん」
薬指で陰唇を引っ張りつつ、毛の先端で尿道口を攻める。腰砕けになったところで、菊座
に押し当てた舌を、更に深くへとこじ入れる。のけぞったクラッズの乳首の位置を想像し、
そこに刷毛の一撃を繰り出す。
「やっ、あ、あああああああ!」
クラッズが一際大きく全身を震わせ、ぐったりした。強く刺激しすぎた箇所を、手のひら
でやさしく撫でてやる。
「おしっこ、漏れるかと思ったよ、もう……」
「そんなに気持ちよかったのか?」
「それは、そうだけど……普通のやり方で、じっくりしてもらう方が好きだと思う」
「してやろうか?」
「もういいよ、それより、今日は横で寝る?」
「その……服は、着ないままでか?」
「私だけ気持ちよくなったから。寝た頃に、お礼をするね」
「楽しみにしている」
不敵に笑うフェルパーの唇を、クラッズの唇がかすめた。
「あ……」
「おやすみなさい!」
さっき、もうキスしないでと言われてから、フェルパーはずっと我慢してきた。これは、
解禁の合図なのだろうか。しかし、その後いくら誘ってもクラッズは答えず、やがてフェ
ルパーも眠りに落ちた。
翌日、フェルパーが目覚めると、クラッズは既にベッドから出ていた。
「早くごはん行こうよ!」
普段と変わらない様子に若干のもやもやを抱えつつ、フェルパーは下着をつける。
「おはよう」
「うん、おはよう?」
クラッズはきょとんとしていた。期待をはぐらかされ、フェルパーは少し拗ねる。
その様子をみてクラッズはハッとした。
「ご、ごめん、誕生日プレゼント忘れてた!」
(そういうことではないのだが、まあ、いいか……)
くしゃくしゃのままのパジャマを放置し、制服を身にまとうフェルパー。その脇から割り
込んでクラッズが取り出したのは、東洋風の曲刀。フェルパーが普段使っているものより、
5割増し長い。
「はい、これ」
「ありがとう、大事に使うぞ。お前からもらった物なら、命だって預けられる。これの名前
は何と言うのだ?」
「太刀だよ」
「そうか、太刀か。腰に差すより、背負ったほうが使いやすそうだ」
フェルパーは髪を解き、髪留めを返すついでに、クラッズの髪を結んでやる。
そのころクラッズの頭の中はというと。
(ネコがタチ持って、これが本当のリバーシブル!)
― 完 ―