その時、学園にいた生徒達は奇跡を目の当たりにした。  
死んだはずの校長と、パーネと共に消えたはずのダンテが蘇り、剣になったはずのルオーテが肉体を取り戻した。  
三つの試練を乗り越え、神に打ち勝った生徒達。そして起こった奇跡は、まさしく神の奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。  
彼女も、それは大きな奇跡だと思っている。だが彼女にとっては、もっと身近に、もっとささやかな、しかしそれに負けないぐらいの  
大きな奇跡が起きていた。  
 
小さい頃から、ずっと弟のように思ってきたコッパ。冒険者養成学校に入学はしたものの、当初は地元にいる頃とほとんど変わらず、  
ヒーローに憧れる割には他力本願で頼りなかった。そんな彼が、今では背中を預けられるほどの冒険者となり、学園のエースのパーティが  
神の塔に挑んだときは、彼等を助けるためにコッパとたった二人でモンスターの大群と戦った。その後に現れた地獄の迷宮でも、  
ボスは先に倒されてしまったものの、先生達と彼と一緒に、迷宮を攻略した。  
もう、彼も一人前の冒険者といえる。あの頼りなかったコッパが、そこまで成長したことに、ティラミスは安堵と寂寥の入り混じった  
複雑な溜め息をついた。  
もちろん、立派な冒険者になってくれたことは嬉しい。だが、あの手のかかる弟のような存在がいなくなってしまうということに、  
多少の寂しさを覚えるのも事実である。かといって、あの彼に戻ってもらいたいかと聞かれれば、もちろん全力で否定する。  
要は、彼が独り立ちできたのは嬉しいのだが、自分の手を離れてしまうということに、寂しさを覚えるのである。  
そんなティラミスの胸中など露知らず、コッパは彼等の戦いと奇跡を見て以来、ずっと興奮している。  
「でさ、すっげえよな!こうバーンって、ドーンってさ!それでこうズバーンって!ほんと、あいつらヒーローみたいだよなあ!  
オイラもあんな風になりてえなあ!」  
「なれるよ、コッパちゃんなら」  
「そうか?へへっ、それならあいつらに負けないぐらい、オイラも頑張らなきゃな!」  
以前なら、恐らく絶対に聞けなかった台詞。彼の口からそんな言葉を聞けたということに、ティラミスはやはり複雑な思いを抱く。  
「にしても、ビックリだよなあ。校長先生とダンテ先生が生き返って、ルオーテまで元に戻っちゃったんだぜ」  
「うん、本当に奇跡だよね。あんなこと起こるなんて、本当にあるんだね」  
「あーあ、あんな奇跡起こせるんなら、ついでにオイラをヒーローにしてくれればよかったのに」  
「もう……せっかくコッパちゃんのこと、少し見直したのに。そんな風に、楽することばっかり考えちゃダメだよ」  
「うるさいなあ、ティラミスは。それぐらいわかってるってば。言ってみただけだよ」  
こういうところは、いつも通りである。とはいえ、コッパは本気で言っているわけではなく、ティラミスも言葉の内容はきついものの、  
本気で怒っているわけではない。  
奇跡のおかげで、学園は大騒動となっている。授業も必然的に休講となってしまったため、二人はカフェに来ていた。  
未だ興奮冷めやらぬコッパに、お茶とケーキと彼の話を楽しむティラミスの他に、生徒はほとんどいない。恐らく、奇跡の結果を  
見に行っているか、部屋に戻っている生徒が多いのだろう。  
「でもティラミスだって、何かオイラ達にも奇跡起きてほしいとか思わない?」  
「それは…」  
もう起こっている、などとはさすがに言えない。正直なところ、ティラミスにとっては今の彼がいれば十分である。  
「……ルオーテが元に戻ってくれただけで、十分だよ。それ以上は、ただの欲張りになっちゃう」  
「かったいなあ、ティラミスは。奇跡なんだから欲張ったっていいのにさ」  
それに対して口を開こうとしたとき、コッパは不意に表情を改めた。  
 
「ま、オイラだってルオーテは良かったと思うけど……でも、ちょっと残念だなあ」  
「何が?」  
「もう一つぐらい、奇跡起きてくれても良かったのにってさ」  
「なぁに?やっぱりヒーローになりたいとか…」  
「違うってば。それはオイラ、頑張ってなるからいいんだよ。ただ……パーネ先生、戻ってこなかったのは、残念だなって…」  
その言葉に、ティラミスは飛び上がらんばかりに驚いた。その惚れていた相手によって化け物に変えられ、そのショックから  
記憶を封印してしまったはずの彼が、どうしてそれを思い出しているのか。  
「コ……コッパちゃん…?パーネ先生って、誰だかわかってる…?」  
「わかってるよ。オイラの憧れの……いや、憧れだった先生だよ…」  
「え、えっと……コッパちゃん、その先生に何されたか…」  
「何だよ、言えって言うのか?ゾンビパウダーで、化け物に変えられたんだろ…」  
完全に、彼の記憶は戻っている。だが今まで、そんな様子は少しもなかったのだ。  
「コッパちゃん……それ、いつ思い出したの…?」  
ティラミスが尋ねると、コッパは暗い顔で溜め息をついた。  
「あの、地獄の迷宮でさ……あそこ入ったとき、何か覚えのある感覚だと思ったんだよ。で、がしゃどくろっていただろ?あいつと  
会ったとき、急に全部思い出したんだ。あいつ、セレスティアが悪霊になった奴だろ?それと、あの感覚。あれ……パーネ先生が、  
本性現したときの感覚と、そっくりだったんだ…」  
言葉が出なかった。記憶を封じてしまうほど辛いことを思い出したのに、彼はそんな様子をおくびにも出さず戦い続けていた。  
そのことに、ティラミスは一層複雑な思いを抱く。  
それと同時に、ティラミスの中に今まで感じたこともないような気持ちが湧き上がる。  
「まあ、しょうがないよな。あいつらに聞いたら、パーネ先生は神になろうとしてたらしいし、生き返らせてもらえるわけないか」  
彼がその言葉を口にする度、ティラミスの中にある気持ちは強くなる。それが何であるか、ティラミスは薄々気付いていた。  
「そうだよな、うん、しょうがない。オイラ絶対、パーネ先生よりいい人見つけてやるもんね」  
その一言に、ティラミスの中にある気持ちがこれ以上ないほど強まった。  
ずっと近くで見てきた、弟のような存在。見違えるほどに強くなった、逞しい男としての彼。彼女自身、それに気付いたのは  
たった今だった。  
頼りなくて、見ていられないようなことばかりして、誰かが助けないと危なっかしくてしょうがない男の子。  
目標に向かって努力することを覚え、一人前と呼べる実力になり、安心して背中を預けられる男。  
昔からなのか、この学園に来てからなのかはわからない。しかし、確実にわかることがある。  
いつからか、ティラミスはコッパのことを弟としてではなく、一人の男として好きになっていたのだ。  
「……すぐ、見つかるよ、そんな人。だって、近くにいるもん」  
知らず、ティラミスはそう口走っていた。  
「え?どこにいんの?」  
まったく予想外の台詞に、コッパは思わずそう聞き返していた。  
「コッパちゃんの、すぐ近くにいるよ。その人も、コッパちゃんのこと、大好きなの」  
「え、誰?オイラの知ってる人?」  
「うん。コッパちゃんも、よく知ってるよ。すっごくよく知ってる」  
「えー、誰?ジェラートなんかありえなさそうだし、パンナ……違うよなあ。オリーブでもないよな?」  
彼の言葉に、ティラミスは呆れたように笑い、僅かに耳を伏せた。  
「……目の前に、いるよ」  
「え…」  
コッパは呆気に取られたように、目の前のティラミスを見つめた。やがて、その意味を理解するにつれ、全身の毛が膨れ上がっていく。  
 
「……じょ、冗談はやめろよな!オ、オ、オイラをからかおうったって、そんな…!」  
「ううん、からかってないよ」  
静かに、しかし強い口調で、ティラミスは言い切った。その雰囲気に、コッパは思わず口を閉じる。  
「私……本気だよ」  
そう言って見つめる目は、真剣そのものだった。逃れようのない視線に、コッパは呼吸すら忘れてティラミスを見つめる。  
「私じゃ、ダメ?私じゃ、コッパちゃんの好きな人には、なれない?」  
言いながら、ティラミスの耳が力なく垂れ下がっていく。表情こそいつもと変わらないが、その目は不安に怯えていた。  
コッパはその問いに、すぐには答えられなかった。彼女の思いは本物で、それがより彼を焦らせる。  
「あ……えっと……と、とにかく、場所変えようぜ。ここじゃ、その、落ち着かないし…」  
ともかくも、考える時間を引き伸ばそうと、そう提案する。ティラミスは頷くと、残っていたケーキを一口で食べた。  
二人は席を立つと、コッパの部屋へと向かう。その間中、二人はずっと無言だった。  
途中、何人もの生徒とすれ違ったが、二人を気にする者はいなかった。それどころではない状況でもあり、まして二人が一緒に  
いるのは珍しいことでもないので、いつもと雰囲気が違うことにも気づくことはなかった。  
部屋に入ると、コッパはティラミスに席を勧め、自身はベッドに座った。が、ティラミスは当たり前のように、コッパの隣に腰を下ろす。  
先の話もあり、何だか妙に気恥ずかしく、コッパはティラミスから少し離れる。が、そうしてずれた分、ティラミスはコッパの方へ  
体を寄せる。  
「な……何だよぅ…?」  
何ともいえない居心地の悪さを感じ、コッパはそう口にする。しかし、ティラミスは僅かに微笑みかけただけで、何も言わない。  
不意に、尻尾に何かが触れた。それがティラミスの尻尾だと気付くと、コッパは慌てて尻尾をずらす。だが、ティラミスはさらに  
体を寄せると、再びコッパの尻尾に自身の尻尾を重ねる。あまりの恥ずかしさに、ベッドの端まで一気に移動すると、  
やはりティラミスもしっかりと移動し、尻尾を重ねる。  
「あああ、あのっ、ティラミスっ……し、尻尾がっ…!」  
「……嫌?」  
「い、いやいやっ、嫌だってんじゃないけどっ、そのっ…!」  
それ以上の言葉を続けるのは恥ずかしく、コッパはうつむいて押し黙った。  
少しだけ、二人の間に沈黙が流れる。それを、今度はティラミスが破った。  
「コッパちゃん。私、コッパちゃんになら、こうしてたって恥ずかしくないよ」  
「え……あ……そ、そう…」  
「……もう、コッパちゃんてば…。コッパちゃんになら、こういうことだってできるよ」  
「え?」  
何を言い出すのかと振り向いたコッパの鼻を、ティラミスはぺろりと舐めた。突然のことに、コッパは全身が固まってしまう。  
「ねえ、コッパちゃん。私じゃ……ダメ?」  
そう尋ねるティラミスの顔は、微笑みを湛えていた。だが、その目は迷子の子犬のように怯えている。怯えを笑顔で覆い隠し、  
ティラミスはコッパの返事をじっと待っていた。  
 
それはコッパも気付いていた。初めて見る、幼馴染の表情。よく知っていたはずなのに、見たことのない顔。そして、今までに  
感じたことのない、彼女への気持ち。  
いつもうるさく世話を焼いてきて、時には煩わしく思うこともあった相手。クラスとしては敵対しつつも、地元にいる頃と変わらない  
付き合いを続けた友達。自分の成長を我が事のように喜んでくれ、危険な目に遭ってまで自分を救ってくれ、背中を預けて共に戦い、  
いつもいつも一緒にいてくれた女の子。  
ティラミスのことを拒絶すれば、もしかしたら彼女は傷つき、離れて行ってしまうかもしれない。それを想像すると、コッパの胸は  
たまらなく苦しくなった。それは今の彼にとって、どんなことよりも辛かった。好きだったパーネ先生に裏切られた記憶より、  
想像の中の出来事の方が、よほど辛かった。  
コッパは何も言わず、ティラミスの手にそっと自分の手を重ねた。ティラミスの体がピクンと震える。  
「……ダメなわけ、ないだろ…」  
恥ずかしさに視線を逸らしつつも、コッパははっきりと言った。  
ティラミスは驚いたようにコッパを見つめ、やがてその顔に笑顔が浮かび、かと思う間もなく涙が溢れた。  
「よかった…!嬉しいよ、私……コッパちゃんに嫌われたら、どうしようって…!」  
涙を浮かべ、ホッとした顔で言う彼女は、たまらなく可愛らしく見えた。そんな顔を見ていると、コッパの胸にどうしようもないほどの  
衝動が湧き上がった。  
「ティラミス!」  
「きゃっ!?」  
気がつくと、コッパはティラミスを押し倒していた。というよりは、抱き締めようとして勢いが余り、意図せずして押し倒してしまった  
だけなのだが、過程はどうあれ結果は変わらない。  
コッパの腕の下で、ティラミスは驚いたように彼を見つめていた。コッパはコッパで、女の子を押し倒してしまったという事実に  
パニック寸前となりつつ、緊張した顔でティラミスを見つめている。  
二人は無言で見詰め合い、やがてティラミスはコッパにそれ以上の意思がないことを悟ると、困ったように笑った。  
「……コッパちゃん」  
「ひ、ひゃい!?」  
名前を呼ばれ、コッパは上ずった声で返事をする。  
「女の子に期待させておいて、何もなしっていうのはひどいよね」  
「え……ええ!?ティ、ティラミスっ、何言って…!?」  
肩を押さえる手を、そっと撫でる。突然の感覚に、コッパはビクリと体を震わせる。  
「ね、コッパちゃん?私、コッパちゃんとなら、いいよ」  
ティラミスの言葉に、コッパの体毛がぶわっと膨らんだ。  
「それとも、コッパちゃんは、私とじゃ、嫌?」  
「いいい、嫌なもんかっ!だだだ、だけど!いきなりそんな…!」  
「それじゃ、その証拠、見せてほしいな」  
そう言うと、ティラミスは誘うような目つきでコッパを見つめた。最初こそ戸惑ったコッパだったが、やがて覚悟を決める。  
ゆっくりと、二人の距離が近づいていく。輪郭が見えていたのが、相手の目だけが見えるようになり、お互いの吐息が  
感じられるほどになる。コッパは緊張からか、荒い息をついている。その息が頬の毛をくすぐり、ティラミスはくすぐったそうに  
目を細めた。そして、コッパを落ち着かせるようにゆっくりと頷くと、静かに目を閉じる。  
 
そんなティラミスを、じっと見つめる。コッパは緊張で、もう心臓が口から飛び出しそうなほどになっていたが、ここまで来たら  
引き返せないと自身を奮い立たせ、震える唇を近づける。  
まるで禁忌を犯すかのように、唇が恐る恐る触れ合う。何度も何度も、確かめるように唇を触れ合わせ、やがて少しずつ、  
強く触れ合うようになっていく。  
お互いの唇を吸うように、二人はその感覚を求め合った。唇から伝わる温もりが、かけがえもなく愛しく感じる。  
不意に、コッパは口の中に異物を感じた。柔らかく、温かく、甘い。一瞬戸惑い、やがてそれがティラミスの舌であることに気付くと、  
コッパも負けじと舌を絡める。  
今度はティラミスが、驚きに目を見開く。しかしすぐに、その目はとろんと蕩けるようなものに変わり、一層強く唇を吸い始めた。  
いつしか、二人ともその手を相手の頬に当て、初めてのキスを貪るように求めていた。  
コッパの舌が、ティラミスの舌を撫でる。彼女の舌には、さっき食べたケーキの味が残っている。それを残さず拭い去ろうと  
するかのように、彼女の舌を、牙を、頬を舐める。  
それに対し、ティラミスは更なる刺激をねだるように唇を強く押し付け、コッパの頭を優しく撫でる。  
思うままに初めてのキスを楽しみ、ようやく二人は唇を離した。二人の間に、唾液が名残を惜しむように白い糸を引く。  
「コッパちゃん…」  
「ティラミス…」  
名前を呼び合い、お互いをじっと見つめる。だが、ティラミスの期待するような視線から、コッパは目を逸らした。  
「え、え〜と……これで、十分……だよ、な?」  
コッパが言うと、ティラミスは不満げに息を吐いた。  
「もう。コッパちゃんの意気地なし」  
「なっ、何言うんだよ!?だって、そんな、いきなり…!」  
「ここまでしておいて、『やっぱりやめた』なんて、いくら何でもひどいよね」  
「そ、それはだから…」  
「コッパちゃん。ヒーローなら、女の子に優しくしないと」  
「う…」  
ヒーローという言葉に、コッパはそれ以上の言葉を止められる。  
「それにね…」  
一瞬言葉に詰まり、それでもティラミスは何とかその先の言葉を続けた。  
「私……コッパちゃんと、続き、したいと思ってるんだよ…」  
「っ!」  
今度はコッパがティラミスを見つめ、ティラミスが恥ずかしげに視線を逸らす。そんな恥じらいの仕草が、たまらなく可愛らしく映る。  
さすがに、そこまで言われてはコッパも覚悟を決めるしかなかった。まして、女の子にそこまで言われて、断れる男もそういない。  
ごくりと、コッパの喉が鳴る。  
「ほ……本当に、いいんだな?」  
「……何回も、言わせないで。私だって、恥ずかしい…」  
もはや逃げ場もなく、逃げる気もなかった。コッパは怯えるような手つきで、ティラミスの服に手をかける。  
震える手つきで留め具を外し、そっと服をはだけさせる。お世辞にも大きいとは言えない胸が露わになり、ティラミスは  
恥ずかしそうに、そっと耳を伏せる。  
「ごめんね、あんまり大きくなくって…」  
「い、いいんだよそんなの。別に、その、胸がでかくたって、でかくなくたって、ティラミスはティラミスだ」  
言いながら、コッパはティラミスの帽子をそっと脱がせる。次に、魚の形をした髪留めに手をかけるが、そこはいいかと手を下ろす。  
 
どうやら、胸をはだけさせたはいいものの、その先を躊躇っているようだった。ティラミスは優しく笑い、コッパの頬を撫でる。  
「コッパちゃん、怖がらないで……ね?」  
「う……こ、怖がってなんかないやい!……ほ、ほんとに触っても大丈夫?」  
ティラミスが頷くと、コッパは恐る恐る彼女の胸に手を伸ばす。  
指先が体毛に触れると、ティラミスの体がピクリと跳ねる。それに驚き、コッパは手を引っ込めた。  
「ん……ごめん、驚かせちゃった?」  
「あ、うん……いや、大丈夫」  
気を取り直し、再び手を伸ばす。やはり直前で少し躊躇い、しかし今度はしっかりと、僅かな膨らみに手を触れる。  
「んっ…!」  
ティラミスの口から、熱い吐息が漏れる。自分で触れたことはあっても、誰かに触られるのは初めてだった。まして、その触っている  
相手は、自分の好きな男なのだ。  
「ティラミス……大丈夫?」  
「ん、うん。優しいね、コッパちゃんは」  
そう微笑みかけると、コッパは恥ずかしげにうつむいた。手はそのまま胸に触れているが、それ以上の動きはない。  
「コッパちゃん、もっと私の胸……触って」  
「も、もっと…?こ、こうでいいのか…?」  
慣れない手つきで、コッパの手がティラミスの胸をまさぐる。  
「ん、もうちょっと優しく……捏ねるみたいにしてみて…」  
「えっと……こう、かな…?」  
言われたとおり、コッパは胸全体を優しく揉みしだく。ティラミスは体を震わせ、一層熱い吐息を漏らした。  
「ん、んんっ…!気持ちいい……上手だよ、コッパちゃん…!」  
「そ、そう…?そうか?」  
褒められて気を良くしたのか、コッパは少しずつ大胆に触り始める。片手で恐る恐るだったものが、両手で乳房を掴むように変わり、  
その柔らかい感触を楽しむようにじっくりと揉み始める。  
「ふぅ……んっ…!んん……ふぁ…!」  
彼の手が動く度、ティラミスの体に強い快感が走る。いつしか、吐息は鼻にかかった喘ぎ声になり、秘裂はじんわりと  
湿り気を帯び、男を誘う匂いをさせ始めている。  
その匂いを敏感に感じ取ると、コッパはティラミスの胸から手を放した。  
「ティラミス…!その……オイラ、もう…!」  
スカートにかけられた手を、ティラミスはそっと押さえた。  
「慌てないで、コッパちゃん」  
「で、でもぉ…!」  
「今度は私が、コッパちゃんにしてあげるから、ね?」  
優しい割に有無を言わせぬ口調で言うと、ティラミスはコッパをベッドの縁に座らせ、自分はその前に跪く。  
そこは既に、ズボンの上からでもわかるほどに怒張している。ベルトを外し、ズボンを下ろすと、下着の上からそっとそこを撫でる。  
「うあっ…!」  
ビクンとコッパの体が跳ねる。そんな彼を見て、ティラミスは嬉しそうに微笑んだ。  
「コッパちゃんのこと、もっと気持ちよくしてあげる」  
下着を脱がし、直接コッパのモノに触れる。先端を指の腹で撫で、優しく握ると、ゆっくりと扱き始める。  
手を上下に動かす度、手の中で彼のモノが跳ねる。手の中で熱くなっていくそれが、今のティミラスにはとても愛しいものに思えた。  
 
「どう、コッパちゃん?気持ちいい?」  
「うっ……あっ…!あ、ああ……くっ!」  
「よかった。もっと、してあげるね」  
ティラミスはそっと、彼のモノに顔を近づける。そして一度心を落ち着けるように息をつき、それを根元から舐め上げた。  
「ぐっ……ティ、ティラミスっ…!」  
途端に、コッパは呻き声を上げ、手はシーツをぎゅっと握る。自分の行為で、彼が気持ちよくなってくれていることに、ティラミスは  
嬉しくなった。もっと気持ちよくなってもらおうと、ティラミスは先端まで舐めると、そのまま彼のモノを口に含んだ。  
その瞬間、コッパがティラミスの頭を押さえた。  
「うあぁっ!もう出ちゃうよ!」  
その意味を理解する間もなく、ティラミスの口の中に粘ついた液体が注ぎ込まれた。  
「んうっ!?う……うぅ…!」  
口を離そうにも、コッパが頭を押さえているため、それもできない。かといって吐き出せば彼の体を汚してしまう。そんなことを  
考えている間にも、それは口の中を満たしていく。  
何度か口の中で彼のモノが跳ね、その度に精液が吐き出される。それをすべて口の中に受け止めると、彼の手がどけられたのを感じ、  
ティラミスは口を離した。  
「ご、ごめんティラミス!オイラ、つい…!」  
慌てて謝るコッパを微笑ましく思いつつ、ティラミスは目を瞑った。そして舌を動かし、口の中にある精液を舌の上にまとめると、  
それをごくりと飲み下した。  
「……ぷはぁ。もう、コッパちゃんてば。いきなり押さえつけられて、びっくりしたよ」  
「ごめん…」  
「でも、それだけ気持ちよくなってくれたんだよね。私、嬉しいな」  
うつむくコッパの頬に手を添え、ティラミスは優しく微笑んだ。  
「コッパちゃん……次は、二人で気持ちよくなろ」  
「……ティラミス!」  
「あっ…」  
コッパはティラミスの腕を掴み、ベッドの上に押し倒した。だが、ティラミスはそれを非難することもなく、彼の顔を期待に満ちた目で  
見つめる。  
スカートに手をかける。今度はそれの手を押さえることもなく、自分から尻尾を動かして脱がせるのを手伝う。  
スパッツには、股間の部分に黒い染みが広がっていた。そこから、男を誘う匂いがより強く感じられる。  
コッパがスパッツに手をかけると、さすがにティラミスは恥ずかしげに身を捩った。しかし、やはり彼を押し止めるような真似はせず、  
大人しく彼にされるがままとなっている。  
ゆっくりと、スパッツを引き下ろす。スパッツの染みと秘裂の間に、愛液がつっと糸を引く。それを完全に引き下ろし、ベッドの下に  
投げ捨てると、コッパはティラミスに覆い被さった。  
そのまま、二人はしばらくそうしていた。やがて、ティラミスは彼の目にある怯えと戸惑いの色に気付いた。やはり彼らしいと思いつつ、  
ティラミスは彼の顔を抱き寄せると、鼻先を優しく舐めた。  
「大丈夫だよ。コッパちゃん、きて」  
ティラミスに言われ、コッパは少し慌てたように自身のモノをティラミスの秘部にあてがう。しかし焦っているためか、なかなか  
狙いが定まらない。そんな彼に、ティラミスは静かに話しかける。  
「コッパちゃん。私、逃げたりしないから、慌てないで大丈夫だよ」  
「う……ご、ごめん…」  
「ううん、いいよ。落ち着いて、そっと、ね」  
 
その言葉に少し落ち着いたのか、コッパは言われたとおりに、彼女の秘裂へ自身のモノを押し当てる。  
「そう。あとは、そのまま……でも、優しくね」  
「わ、わかった」  
優しくリードされ、コッパは大きく息を吸うと、ゆっくりと腰を突き出した。少しずつ秘唇が開かれ、先端が彼女の中に  
飲み込まれていく。その感覚に、コッパは気持ち良さそうな、ティラミスは少し怯えたような声をあげた。  
「うわ……すげえ、ぬるぬるしてる…!」  
「んうっ……うっ……や、優しくね」  
亀頭部分が全てティラミスの中に入り込むと、だんだん抑えが利かなくなってきたらしく、コッパはより強く突き入れ始める。  
「うあぅ!コ、コッパちゃん、もっとゆっくり…!」  
「ご、ごめんティラミス…!けど、もうオイラっ…!」  
「い、痛っ!お願いコッパちゃん、もうちょっとだけ優しくっ……うあ!」  
痛みはますます強くなり、ティラミスはたまらずコッパの腕を掴んだ。  
「お願いっ……コッパちゃん、乱暴にしないでぇ!」  
ティラミスの悲痛な声に、コッパはハッと我に返った。見下ろせば、ティラミスの目には涙が浮かんでいる。  
「お願い……私も、初めてなんだから、優しくして…」  
「ご、ごめんよティラミス…!オイラ…!」  
言いかけるコッパの口に、ティラミスは人差し指を押し当てた。  
「今は、謝らなくていいよ。その代わり、優しくして」  
「あ、ああ。わかった」  
再び、コッパはゆっくりと腰を突き出す。既に半分ほどが入り込んでおり、その先はただでさえ狭い彼女の中が、一層狭くなっている。  
それ以上は無理かとも思ったが、ティラミスは辛そうな顔をしつつも、コッパに話しかける。  
「コッパちゃん。私、コッパちゃんとなら我慢できるから……きて」  
「だ、大丈夫なのか?」  
「うん……たぶん」  
「……わかった」  
お互いに覚悟を決め、コッパはグッと腰を突き出す。狭い膣内を強引に押し広げられる感覚に、ティラミスは唇を噛んで痛みに耐える。  
やがて、そのきつさが不意になくなり、コッパのモノが一気に奥まで入り込んだ。  
「うあっ!」  
「ぐぅっ……う、あっ…!」  
あまりの痛みと驚きに、ティラミスの目に涙が溢れた。しかしコッパに気付かれる前に、ティラミスはそれを腕でぐしぐしと拭い去る。  
「はぁっ……はぁっ……ティラミス、平気…?」  
「だ、大丈夫だよ……ちょっと、痛いけど」  
「そうか……って、ちょっとティラミス!ち、血ぃ出てるぞ!!本当に大丈夫なのか!?」  
大慌てのコッパをおかしそうに見つめ、ティラミスは彼の頭を優しく抱き寄せる。  
「初めてだもん、普通だよ。だから、大丈夫」  
「ほ、ほんとかよ…?」  
「でも、できればまだ、動かないで……もう少し、落ち着いてから…」  
本当はかなり痛んでいたのだが、ティラミスは務めて気丈に振舞う。でないと、ようやく結ばれたというのに、コッパが途中で  
やめてしまいそうで怖かったのだ。  
 
動けない代わりというように、ティラミスはコッパの顔を抱き寄せ、唇を重ねる。コッパもすぐに応え、彼女と舌を絡める。  
キスをしつつ、コッパははだけたままの彼女の胸に触れる。不意に加わった快感に、ティラミスはピクンと体を震わせた。  
更なる刺激をねだるように、ティラミスはより激しく彼の唇を吸い、コッパもそれに応える。  
無意識のうちに、コッパの尻尾がティラミスの尻尾に重ねられる。嬉しそうに目を細め、ティラミスはしっかりと尻尾を絡める。  
気付けば、もう痛みはほとんど感じなくなっていた。ティラミスは唇を離し、キスが中断されて少し不満げなコッパの顔を見つめる。  
「コッパちゃん……動いて、いいよ」  
それを聞いた瞬間、コッパはすぐに腰を動かし始めた。やはり、動きたくてたまらなかったのだろう。  
彼のモノが入り込む度、体の奥に鈍い衝撃を感じる。逆に抜け出るときは、軽い痛みと不思議な喪失感を覚える。  
「んっ!あっ!あっ!コッパちゃん……もっと、いっぱい…!」  
「はあっ、はあっ……ティラミスの中、温かくて、ぬるぬるしてて……気持ちいい…!」  
「うっ!あっ!そ、そんなこと……んっ!い、言わないでぇ…!」  
痛みがないわけではない。苦しくないわけでもない。それでも、突き上げられる度に、自分でもよくわからない快感が体を走り抜け、  
苦痛の声を甘い嬌声に変えてしまう。  
「うあ……コッパちゃん、もっといっぱい、気持ちよくなってぇ…!」  
ティラミスが言った瞬間、コッパは不意に彼女の腰を掴んだ。  
「ごめん、ティラミス…!でも、オイラもう、我慢できないんだ…!」  
「コッパちゃ……うあっ!?あっ!!」  
コッパはティラミスをうつ伏せにさせると、腰を持ち上げて激しく彼女を突き始めた。  
「あぐっ!あっ!コ、コッパちゃん、激しすぎるよぉ!」  
「ごめんティラミス!!でも、腰止まんないよぉ!!」  
それこそ獣のような体勢で、コッパは欲望のままに腰を打ち付ける。ベッドがギシギシと激しく軋み、部屋には腰がぶつかり合う  
音が響く。  
「はあっ、はあっ!ティラミス、ティラミス!!」  
「うあぁ……コッパ、ちゃん…!」  
突き入れるごとに、結合部から愛液が飛び散り、引き抜けばシーツに滴り落ちる。その匂いがさらに二人を刺激する。  
やがて、コッパの動きが一段と荒く激しくなり、切羽詰った唸り声が漏れ始めた。  
「ぐぅぅ…!ティラミス、オイラ、もうっ…!」  
「ふあぁ…!コッパちゃんっ……中は、ダメぇ…!」  
しかし、コッパは彼女の声を無視し、さらに激しく突き上げる。  
「ぐ……うぁ…!ごめん、ティラミス…!出る!」  
最後に一際強く突き入れ、それと同時にコッパはティラミスの中に精を放った。  
「あ、あ……熱い……コッパちゃんのが、中に…」  
どこか陶然とした声で呟き、ティラミスは尻尾を震わせた。そんな彼女の腰をしっかりと掴み、コッパはなおも精液を注ぎ込む。  
ティラミスの一番奥に全て流し込むと、コッパはそのまま彼女の背中に覆い被さった。  
「はぁ……はぁ……はぁ…」  
「もう、コッパちゃん……中はダメって言ったのにぃ…」  
ティラミスも荒い息をつきながら、背中のコッパをなじるように言う。しかし、もはや彼にその声は届いていなかった。  
「はぁ……はぁ……ティラミス……好きだ…」  
うわごとのように言うと、コッパはそのまま意識を失ってしまった。だがその言葉に、ティラミスの表情は和らいだ。  
「……私も、好きだよ。コッパちゃん…」  
聞こえていないと知りつつ、そう囁きかけると、ティラミスも目を瞑った。さすがに疲れたらしく、すぐに全身が浮かび上がるような  
感覚を覚える。  
体の中と背中に、愛しい者の存在を感じるという幸福を噛み締めながら、ティラミスは静かに眠りについた。  
 
翌朝、二人はほぼ同時に目を覚ました。ティラミスは少し恥ずかしそうに朝の挨拶をしたが、コッパの方はわからないはずの顔色が、  
真っ青になっているのがわかるぐらいのうろたえぶりを見せた。  
「ごごごごご、ごめんティラミス!!!昨日、その、えっと…!」  
「もう、コッパちゃんたら。昨日、危ない日だったのに」  
「うえぇ!?」  
「うそうそ。でも、安全な日でもなかったけど」  
「あちゃぁ〜……や、やっぱりやばいよなぁ…?」  
そんなコッパに、ティラミスは優しく笑いかけた。  
「コッパちゃん。もし出来ちゃったら、責任は取ってくれるよね?」  
「う…」  
さすがに、コッパは一瞬言葉に詰まる。だがすぐに、ティラミスも驚くようなしっかりした顔を見せた。  
「……お、おう。それぐらいは、その、覚悟してるよ」  
「よかった、そう言ってくれて」  
本当に嬉しそうに言うと、ティラミスはコッパの頬にキスをした。  
「……オイラ、頑張ってヒーローにならなきゃな」  
不意にいつもの話が出て、ティラミスは何だか肩透かしを食らった気分になった。しかし、コッパはすぐに言葉を続ける。  
「オイラ絶対ヒーローになって、ティラミスも、その子も、しっかり守ってやるからな。大事な奴も守れないんじゃ、ヒーローの  
資格なんてないもんな」  
ティラミスは、そんな彼の言葉を信じられない思いで聞いていたが、やがてその目に涙が浮かんだ。  
「お、おい?オイラ何か…?」  
「ふふ……嬉しいな。コッパちゃんからそんな言葉聞けるなんて。でも、まだ赤ちゃん出来るって決まったわけじゃないよ?」  
「今はそうでも、その……えっと、ほら、そのうち、出来るだろ?」  
一瞬、ティラミスはコッパの言葉の意味を考え、やがて驚きに目を見開いた。  
「……つまり、それって…?」  
「い、言わなくてもわかるだろ!?その……だから……オ、オイラは、ティラミスが好きなんだからさ!」  
はっきりとは言わなかったが、その意味するところは十分にわかった。  
ティラミスは嬉しさのあまりコッパに抱きつくと、彼の口元を何度も舐めた。  
「うわっ!ちょっ、ティラミス!よせって……うっぷ!朝から、ちょっ…」  
「ふふ、やだよ。私だって、コッパちゃんのこと、大好きだもん」  
「舐めるな、舐めるなってば!おい、ちょっと、ティラミスってばー!!」  
大きくとも小さくとも、奇跡は奇跡だと、ティラミスは思う。  
神の起こした奇跡は、紛れもなく大きな奇跡だろう。だが、見る者によっては、小さな奇跡でも十分に大きな奇跡となる。  
あの、頼りなくて心配をかけてばかりだったコッパ。それが、今では誰よりも頼れる存在となるほどに成長した。  
それだけではない。いつしか惹かれていた彼と、こうして結ばれることができたのだ。もうそれだけでも、ティラミスにとっては  
十分に大きな奇跡だった。  
相変わらず、ヒーローになるとコッパは言い続けている。だがティラミスの中では、彼はもう立派なヒーローになっていた。  
周りから見れば、そうは見えないだろう。それもそのはず。  
コッパはティラミスだけの、言い換えれば惚れた相手だけの、たった一人のヒーローなのだった。  
 

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