ある日、友人であるヒューマンのパーティに誘われた。性格の合わないパーティで人間関係に疲れていた僕は、二つ返事でそれを承諾した。  
早速紹介された彼のパーティに、一際目立つエルフの女の子がいた。彼女はエルフの中でも飛び抜けて美しく、また露出の多い服が人目を引いていた。  
繊細なガラス細工のような容姿にドキドキしながら、ヒューマンにこっそりたずねる。  
「ねぇ、あのエルフの子…」  
「ん?……ああ、あいつはアイドルだよ。おい、エルフ!」  
ヒューマンに呼ばれて、エルフがこちらに近付いてきた。彼女の冷たい瞳がまっすぐに僕を映したので、僕は顔を赤らめて目を泳がせる。  
いたたまれなくなって隣のヒューマンを見ると、彼は彼女の長い耳に何かを囁いていた。  
「……それじゃあ、後でな」  
エルフは首を小さく縦に振って、一言も発することなく僕たちに背を向けた。その時、一瞬だけ彼女が僕を見た気がして、また胸が高鳴った。  
ヒューマンのパーティは今まで僕がいたパーティよりもずっと実力があり、僕は後ろをついて歩くだけで精一杯だった。学園に帰りついたときはクタクタで、荷物を適当に放り出してベッドに寝転んだ。  
しばらくそうしてうとうとしていると、部屋のドアがノックされた。夕食はとっくに済ませていたので、ヒューマンあたりが遊びに来たのかと思って返事をする。  
「どうぞ。開いているよ」  
ドアを開けて入ってきたのは、やっぱりヒューマンだった。ヒューマンはベッドでぐったりしている僕を見て、小馬鹿にするようにニヤニヤと笑った。  
「……見ての通り、疲れているんだ。大した用じゃないなら明日にしてよ」  
「つれないこと言うなよ。せっかくお前の歓迎会でもしてやろうと思ったのに」  
「歓迎会?……はは、なんだよそれ」  
随分可愛らしい表現をしたヒューマンがおかしくて、つい笑ってしまう。ヒューマンは僕の腕を引っ張って無理矢理起こすと、屈託のない笑顔を見せる。  
「ほら、俺の部屋来いよ。良いもんがあるからさ」  
「あんまり引っ張っらないでよ。一張羅の制服が伸びるじゃないか」  
ヒューマンに急かされるまま部屋を出ると、僕たちはヒューマンの部屋に向かった。  
それにしても、歓迎会だって。今までのパーティでは有り得ない和やかな響きに、僕は嬉しくなって内心すっかり舞い上がっていた。  
 
ヒューマンの部屋は階段を上がって一番奥にある。鍵のかかっていないドアを開けると、ヒューマンは僕の背中を押して部屋に入るよう促す。  
「俺からのプレゼントだ。麗しの歌姫さまがお前のためだけに歌ってくれるって」  
その言葉を最後に、部屋の主であるヒューマンを迎え入れることなくドアが閉められた。  
びっくりして咄嗟にドアノブを回したが、どういう訳かドアは開かない。外側からしっかり鍵がかけられているようだった。これは立派な盗術技能の悪用ではなかろうか。  
まさか歓迎会と称して部屋に閉じ込められるとは思わなかった。困り果てた僕がぐるりと部屋を見渡すと、ベッドに腰掛けているあのエルフと目が合った。  
驚いて思わず後退ったが、僕の後ろは開かないドアが塞いでいる。エルフは立ち上がり僕に近付くと、恋人にするように僕の首に腕を回した。  
呆然とする僕の唇に触れるかと思われたエルフの唇は、頬を軽く撫でて僕の耳にかじりついた。少し背伸びをし、僕の耳を舐めたりかじったりしながら、エルフの身体は絡み付くように擦り寄ってくる。  
「な、なっ……え、あのっ、なにを…!」  
ぎこちなく肩を掴んで身体を離すと、エルフは不思議そうに僕を見上げた。扇情的な仕草で首を傾げ、唾液に濡れた唇を指で撫でる。  
「貴方、私の“歌”が聞きたいんでしょう」  
彼女の言葉に、ドアを閉める直前のヒューマンの言葉がよみがえる。だけど僕は彼女の歌を聞きたいと言った覚えもなければ、そもそもそれとこれとは全くの別問題だ。  
目を白黒させて困惑する僕の胸に、エルフは頬を寄せた。するりと跪いて、僕の股間にそっと手を触れた。  
恥ずかしながら先程の愛撫とも呼べないような行為にも、今まで女の子に縁がなかった僕の股間はすっかり反応してしまい、内側からズボンを押し上げている。  
エルフは一瞬だけ頬を笑みの形にして、テントを張ったズボンに頬擦りをした。そのこそばゆいようなささやかな刺激さえ、今の僕には致命的だ。  
「や、やめてよ、何でこんなっ…」  
「お金なら気にしなくて良いのよ。ちゃんと、ヒューマンに貰ったわ」  
頭を離して僕のベルトに手をかけながら言ったエルフの言葉で、僕はようやく理解できた。同時に、金で仲間を買うヒューマンに激しい嫌悪感を抱いた。  
とは言っても、この状況では僕も同じ穴のムジナだ。自分から穴に飛び込んだのか、突き落とされたのかは、大した差ではない。  
 
エルフの細い指は慣れた手付きでベルトを外し、ズボンの前を開けて、下着の中から僕の陰茎を引きずり出す。  
先端からにじみ出る体液を指ですくい、くるくると亀頭の部分を撫でた。それだけで僕の全身は雷に撃たれたように震え、足に力が入らなくなる。  
エルフは白くしなやかな指で優しく僕の陰茎をしごき上げ、時折甘えるように頬擦りをする。そのたびに僕の身体は跳ね、情けない喘ぎが喉の奥から出てきた。  
慣れた手付きの奉仕に、たちまち僕の陰茎ははち切れんばかりに膨れ上がる。エルフは手を止めてベッドを目で指した。  
「続き、したいでしょう。床でやるのは好きじゃないの」  
エルフは服を脱ぎ捨てながらさっさとベッドに横たわった。僕も服を脱ぎ散らかして、彼女の上に覆い被さる。  
「好きにして…」  
呟くような彼女の言葉に頷いて、おずおずと手を伸ばして乳房に触れた。  
「んっ…」  
鼻にかかったような可愛らしい声がこぼれ、気を良くした僕はそのふくよかな乳房に夢中になる。  
全体を捏ねたり、乳首を指で転がしたり、舌でつついてみる。エルフは身体をくねらせ、時折か細く美しい声で鳴いた。頭を振り、顔にかかった長い髪をかきあげる仕草がとびきり美しい。  
調子に乗って彼女の唇に顔を近付けると、やんわりと押し返された。  
「それは、駄目」  
僕は少し不満だったが、すぐにエルフは腕を伸ばして僕の頭を抱き、足を僕に絡ませてきた。エルフの言わんとしていることを察し、僕は唾を飲んで彼女の足を大きく開かせる。  
露になった秘裂に指を這わせると、くちゅ、と小さな音を立てた。エルフの顔色をうかがうと、責めるような、或いはねだるような目で僕を見ていた。  
もっとじっくり彼女の反応を楽しみたかったけど、これ以上我慢出来なかった。僕はエルフの秘裂にいきり立った陰茎をあてがい、彼女の瞳をのぞきこんで最後の確認をする。  
「……本当に、良いの?」  
エルフが視線をそらして小さく頷くのを見るや、僕はゆっくりと腰を突き出して彼女の中に押し入った。初めて味わう快感に時折動きを止めながら、時間をかけてなんとかすべてをエルフの中におさめた。  
本当は滅茶苦茶に腰を振って彼女の身体を貪りたかったけど、それをやったらすぐにでも果ててしまう。ノロノロと腰を引いて、慎重に腰を沈める動きを何度か繰り返していると、エルフが苛立ったように息を吐いた。  
 
「もっと、激しくして頂戴。焦らされるのは嫌いなの」  
「そ、そんなこと言われても……あっ、ちょっと!」  
情けない声を出した僕にため息をつくと、エルフは僕に強く抱き付いて素早く体勢を入れ替えた。エルフが上になり、その体重でより深く僕のモノが彼女に入り込む。  
エルフが髪をかきあげて、身体を上下に揺らした。彼女の身体が跳ねるのに合わせて、緩急を持って締め付けられる。  
形の良い乳房がユサユサと揺れる眺めがたまらない。僕はシーツを握りしめ、必死に快感に耐えていた。  
気持ち良いのか、次第にエルフの唇からも喘ぎが出始める。高く愛らしい彼女の喘ぎ声は、まるで歌を歌っているようだった。  
しかし残念ながら僕にはそれを聞く余裕なんてなかった。喉の奥から絞り出すように声を上げる。  
「エルフ、もう…やめて……出るっ…!」  
泣きそうな僕の声に、エルフは上下の動きを止めた。かわりに円を描くようにグリグリと腰を回してくる。  
これはこれで気持ち良いが、我慢出来ないほどではない。ほっと息をついた僕を見下ろして、エルフが心底楽しそうに笑った。  
「良いわよ。私の中に思いっきり出して」  
「良くないよ……うあっ!?」  
エルフの身体が先程よりも激しく跳ねた。彼女の“歌声”にも艶がこもり、金色の髪がキラキラと踊った。  
「エルフ、僕…もうっ……うああっ!!」  
再三の刺激に耐えきれず、僕はとうとうエルフの中に精を吐き出してしまう。ビクンビクンと何度も脈打って、今まで出したことないくらい大量に出したと思う。  
エルフも動きを止めてそれを受け止め、うっとりと目を細めていた。  
頭が真っ白になるくらいの快感に呆然と天井を見上げていると、再びエルフが腰を動かしはじめた。射精したばかりで敏感になっていた僕の粗末なモノは、たちまちかたさを取り戻してしまう。  
涙目になってエルフを見上げると、エルフもまた快楽に溶けた妖艶な笑みを浮かべていた。その笑顔を見た瞬間、僕の中で何かが吹っ切れる。  
「エルフ!」  
「きゃあっ?!」  
身体を起こし、エルフをベッドに押し倒す。驚いて身体をよじるエルフの小さな尻を掴み、力の限り彼女の中を突き上げた。  
深く突き入れ、ぎりぎりまで引き抜くと、先に注がれた僕の精液が掻き出される。それだけで僕は彼女を蹂躙しているような錯覚に陥り、より強く突き上げる。  
 
エルフの“歌声”も次第に甲高く、熱のこもったものになって、僕はますます行為に酔いしれる。気まずさや後ろめたさとか背徳感みたいなものは、とうの昔に吹き飛んでいた。  
「エルフ、エルフ!くっ、また…っ!」  
「あっ、あんっ、中に、出してぇっ!」  
ギュッとエルフの中が締まり、僕を強く締め付けた。僕も一際強く彼女に腰を打ち付けると、更に腰を押し付けて二度目の精を放つ。  
「エル、フ……うあっ!」  
「んぅっ、熱いのが……あっ、ああああっ!!」  
エルフの身体が大きく震え、精を搾り取るように蠢いて僕のモノをしごきあげた。立て続けに二度の射精で流石に疲れていたが、女の子の絶頂を目の当たりにして、よくわからないけれど物凄く興奮した。  
僕はまたエルフの腰を掴み、猛然と突き動かす。そこで初めてエルフは慌てたように僕の手を掴んだ。  
「待って、まだ駄目っ!」  
「なんでだよ。僕の言うことは聞いてくれなかったじゃないか」  
「とにかく駄目なの!お願いだからもう少し待って……あ、ああっ!」  
往生際悪く言いつのる彼女を振りきって、僕はエルフを激しく攻め立てる。本当に悲鳴をあげているような喘ぎに、彼女を犯している気さえした。  
その夜、僕は何度もエルフの中に射精した。長い髪を振り乱して“歌う”エルフは、とても綺麗だった。  
彼女の歌声は僕が今まで聞いた中でも最高で、最低なものだった。  
 
カーテンの隙間から入る外の色が僅かに明るくなった頃、腕の中のエルフが動く気配を感じた。  
あまりにも疲れていて眠かった僕は、トイレか何かだと思い再びの眠りに落ちていった。外から閉ざされていたはずのドアが開いて、小さな音を残して閉められた。  
そして目が覚めたときには、太陽はだいぶ高い位置にきていた。先に行ってしまったのだろう、傍らにはあのエルフはいない。  
起こしてくれれば良かったのに、とこの場にいないエルフに文句を言いながら、飛び起きた僕は足元に散らかっていた制服を適当に着ける。  
大慌てで階段を掛け降りる途中で、のんびりした足取りで階段を上ってくるヒューマンに出くわした。真っ青な顔で謝る僕に、ヒューマンは少しだけ暗い笑顔を返してくれる。  
「ああ、大丈夫。今日はどうせ休みだから、気にしなくて良いよ」  
「……は?どういうことだよ、それ」  
「新しいメンバーが見付かるまで、探索は休もうと思ってさ」  
「新しいメンバー?」  
 
おうむ返しに訊きながら、僕は嫌な予感に襲われていた。ヒューマンはおどけたように肩をすくめて、珍しくため息なんかを吐き出した。  
「エルフが退学したんだって」  
「エルフが退学?!」  
馬鹿みたいにヒューマンの言葉を繰り返しながら、僕は目の前が真っ暗になる気分だった。  
まず間違いなく、エルフが最後に会ったのは僕だ。もし朝方のあのときにエルフに声を掛けていたら……彼女を引き留めることができたのかも知れない。  
気付けば僕は頭を抱え込んで、階段の踊り場に蹲っていた。僕の肩にヒューマンの手がかかり、哀れみの声が降ってくる。  
「気に病むなよ。お前のせいじゃないからさ」  
「でも、僕…」  
「まあ、元々何考えてるかわからない奴だったし。……お前だって、一月もヤれば飽きてたよ。うん」  
「なんだって!」  
ヒューマンのあんまりな言いぐさに、僕は彼に掴みかかっていた。だが、僕に胸ぐらを掴まれてなお、ヒューマンは僕を哀れみの目で見ている。  
その彼の眼差しで全てを悟ったような気がして、僕はヒューマンから手をはなして項垂れた。  
彼にとってエルフを失ったことは、仲間がいなくなったということではないのだろう。言うなれば、便器が壊れたくらいの感覚なのだ。代わりは探せばいくらでもある。  
突然黙り込んだ僕を不審に思ったのか、ヒューマンが再び僕の肩に手を触れる。僕はそれを振り払い、ヒューマンを見て笑った。  
「僕も、パーティを抜けるよ。君とはやっていけないみたいだ」  
本当は睨み付けて殴り飛ばしてやりたかったけど、もはやそんな気力もなかった。どうせ彼にとって、僕の代わりも探せばいくらでもあるのだから。  
僕は困惑するヒューマンに背を向けると、覚束ない足取りでなんとか自分の部屋に帰りついた。ドアに鍵をかけ、ベッドに倒れ込んで枕を抱えると、暗くなるまで泣き続けた。  
オイオイと泣き続ける僕の嗚咽は、あまりにも情けない歌だっただろう。  
 
その後、僕は他の学校の先輩たちのパーティに入り、またついて歩くだけで精一杯の毎日を送っている。行く先々の街でさりげなく彼女の姿を探したけど、あの美しいエルフは僕の前に現れることはなかった。  
けれども、時が経つにつれこんな話を耳にするようになる。期待の新人として彗星の如く現れた、可憐な歌姫の話。  
とびきり美しいエルフの女の子は、今日もラジオの向こう側で歌っているのだと、僕は信じることにした。  
 

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