白刃が煌めき、赤い花が咲き乱れる。暗闇を溶かし込んだような黒髪が舞い、長い尻尾が揺れている。
金の目を光らせて獲物を睨み付ける娘は、誰よりも速く刀を振るう侍であった。
群れを成していた魔物も瞬く間に沈黙し、一行は再び地下道を踏破していく。何度も通った地下道、地図を完成させるためだけに歩くその足取りは気楽なものだ。
フェルパーに悟られないように、ヒューマンがドワーフに近付いた。セレスティアもやってきて、男三人顔を寄せあって密談を交わす。
「なあなあ、今日は何色だった?」
「ん、白と水色のしましま」
「マジかよ!ちくしょう、場所代われドワーフ!」
「くっ…!何故後ろにいる私からは見えないのでしょうか…!」
白刃一閃が走る瞬間、フェルパーの左隣にいるドワーフにだけは、彼女の下着が見えていた。フェルパーはそのことに未だ気付いていないようだが、男たちの話題は専ら彼女の下着の色だ。
「随分と楽しそうね。ヒューマン、ドワーフ、セレスティア」
しかし、フェルパーには聞こえないくらい小さな会話も、エルフの聴覚には丸聞こえだった。いつの間にか三人のすぐ後ろで薄ら笑いを浮かべた錬金術士のエルフが、死の呪符の束をこれ見よがしに叩いている。
ヒューマンの顔がひきつり、セレスティアが顔を青くし、ドワーフだけは不敵に笑ってエルフを見ていた。
「因みに、エルフは緑に白いレース、だな」
「なっ!?」
途端に、エルフは顔を赤くしてスカートを抑えた。慌てるエルフを見て、ドワーフが笑う。
「ははは、適当に言ったのに騙されてやんの。もしかして当たってたか?」
からかうような笑いを浮かべるドワーフに、エルフの端正な顔が歪んだ。大きな目が三角につり上がり、手にした死の呪符が怪しく光を帯びる。
ドワーフは大きな盾を両手に構えながら、一目散に逃げ出した。エルフはそれを追い、死の呪符を一枚構える。
「待ちなさい!」
エルフの手の中で一枚の死の呪符は十枚の虹の呪符に姿を変え、ドワーフに向けて無数に放たれる。ドワーフは背を向けたまま器用にそれを受け流していた。
走り去った二人の影を見送って、ヒューマンとセレスティアは胸を撫で下ろした。生還を祝うように顔を見合わせた二人の首筋に、スゥッと冷たいものがあてられた。
それが何であるかは、見なくてもわかる。
「言い残すことは、あるか?」
刀を突き付けたフェルパーの恐ろしいまでに優しい声が、ヒューマンに問い掛ける。ヒューマンは打ち上げられた魚のように口をぱくぱくさせるだけで、声を出せない。
「逃げられると思うなよ?」
目を泳がせてフェルパーの隙を伺っていたセレスティアにも、冷たく言い放つ。少し離れたところでは、くの一のクラッズがおどけたようにシャドーボクシングをしていた。
「ま、待ってくれ!俺たちは実際に見た訳じゃない!」
「そう、そうですよ!」
ヒューマンの苦し紛れの命乞いに、セレスティアが必死に賛同する。未遂だ、冤罪だ、情状酌量などと喚き始めた二人の愚か者が最期に聞いたのは、冷たく凍り付くようなフェルパーの声だった。
「理由になっていない」
二つの首が転がる。