彼の最も古い記憶は、外で荒れ狂う猛吹雪。家の中は暖かく、薪の爆ぜる音が耳に心地良かった。  
父と、母がいた。弟か妹もいた気がする。その記憶は、既に霞がかっている。  
突然、玄関のドアが破壊され、一頭の狂った獣が家の中に飛び込んだ。そこからの記憶は、さらにモヤが掛かったようで、はっきりとは  
思い出せない。  
断片的な記憶。父の怒号。母の悲鳴。弟か妹の断末魔。  
その獣、デスバッファローは家の中で暴れ狂い、全てを破壊した。最後に家までもを破壊すると、父が背中に刺した槍をそのままに、  
どこへともなく氷河を駆けて行った。  
ただ一人、彼は生き残った。生き残ってしまった、と言う方が正しいのかもしれない。たった今まで生きていた家族の亡骸と、  
たった今まで幸せを享受していた家の残骸を前に、彼は幼くして絶望を知った。  
生きる気力をも、その獣は奪って行った。だが、生きなければならない理由を、その獣は残して行った。  
家族の亡骸を前に、彼はうずくまり、泣いた。だが確かに、彼は誓った。  
「ぐすっ……ひっく…!あ、あいつ……絶対、殺してやる…!みんなをこんなにしたあいつ……絶対に、殺してやる!」  
そのまま共に眠れれば、どれほど楽だっただろう。しかし、彼は復讐だけを糧に、この地獄のような世界で生き延びることを誓った。  
たった六歳の少年は、たった一人、吹雪の中をあてもなく歩いて行った。  
 
それから十年。クロスティーニ学園には成長した彼の姿があった。  
とはいえ、どこのパーティに所属しているわけでもなく、専攻する学科があるわけでもない。ディアボロスという種族柄、  
他の種族からは嫌われており、またこれといった才能があるわけでもなく、普通科に甘んじている彼に、周囲の風当たりは冷たかった。  
一人には慣れていた。だが、慣れているということと、一人でいることは違う。パーティを組まねば、初めの森すら抜けることができない  
新入生にとって、一人でいるということは致命的な事態だった。  
一人に慣れ過ぎていた。人付き合いをほとんど経験せず、屈折した十年を過ごした彼は、対人関係が恐ろしくまずかった。  
人を気遣うことをせず、誰かに笑いかけることもない。不幸にも、嫌われ者のディアボロスであるということも、彼を周りから遠ざける  
一因でもあった。  
それでも、彼は諦めなかった。たとえ一人でも、復讐は成し遂げると決めたのだ。そのために、彼はこの学校へ入ったのだ。  
初めの森の入り口をうろつき、ツリークラッカー相手に死闘を繰り広げ、寮に戻る。そんな生活を続け、同級生が次々にカリキュラムを  
こなす中、彼だけはいつまで経っても新入生の姿のままだった。  
そんな、ある日のこと。いつものように狩りを終え、学食に入って夕食を取っていると、不意に声をかけられた。  
「おい。ここ、いいか?」  
見上げると、そこには大柄な女子生徒が立っていた。背中に鱗のある翼を持ち、赤い尻尾を太腿に巻きつけた特長的な姿から、  
一目でバハムーンだとわかる。  
「……他にも空いてる席はある」  
それだけ言って、ディアボロスは再び食事を始めた。普通なら、それでどこかへ去ってしまうはずだった。  
「かったいこと言うなよ!別にダメって訳じゃないだろ?」  
言いながら、バハムーンは既にトレイを置き、席についていた。だが、ディアボロスは彼女を完全に無視し、黙々と食事を進める。  
話題も思いつかず、またそれを探すのが面倒でもあり、初対面の相手と話す必要もないと思っているのだ。とはいえ、別に悪意はなく、  
ただ人付き合いというものを知らないだけなのだ。  
そんな彼に構うことなく、バハムーンは勝手に座り、勝手に食事を始めていた。ガツガツむしゃむしゃと、非常に賑やか且つ  
品のない食事風景に、ディアボロスは少し眉をひそめた。  
 
「……もう少し静かに食ってくれないか」  
「ん〜?こばかいことひうばっへ」  
口の中に物を詰めたままで、構わず喋るバハムーン。おかげで噛んでいた肉片が飛び出し、ディアボロスのスープに落ちる。  
「……てめえ…」  
「んっく……おう、悪い悪い。まあ気にしないでくれ、ははは」  
当たり前のようにスプーンを突っ込み、バハムーンはその肉片と、ついでにスープの具材を失敬していく。ディアボロスの食欲は、  
この時点でほぼ消え失せていた。  
「……じゃあな」  
そう言って立ち上がろうとした瞬間、バハムーンが口を開いた。  
「あ〜、ちょっと待てよ。話があるんだ。まだ座ってろ」  
「俺はお前に用はない」  
「あたしにはある。だから待て」  
「いつまでだ」  
「食事が終わるまで」  
いっそのこと、この失礼な女をブレスで灰にしてやろうかとも考えたが、ディアボロスは辛うじて思い止まった。  
騒々しい食事の終わりを必死の思いで待ち、いい加減に我慢も限界だというところで、ようやく彼女の食事は終わった。  
「ふ〜、食った食った。ごちそうさまっと」  
「よし、じゃあ俺は帰る」  
「待てえ!やっと話できるようになったってのに、帰るんじゃねえよ!」  
「食事が終わるまでって話だっただろ」  
「ああ、そうだ。で、食事が終わってからが本題だ」  
「……帰る」  
「帰るな」  
それでもディアボロスが席を立とうとすると、バハムーンは思い切り身を乗り出して彼の腕を捕まえた。  
「待ぁーてぇー!いいから話を聞け!」  
「いい加減にしてくれ」  
「しない。お前がいい加減にしろ。とにかく座れ」  
どうにも、話を聞かなければ一晩中でもこの問答が続きそうな気がしてきたため、ディアボロスは渋々席につく。  
「お前、新入生じゃないよな?」  
「ああ」  
「一人なのか?」  
「ああ」  
「仲間はいないのか」  
「ああ」  
「『ああ』しか言わないな」  
「ああ」  
すると、バハムーンは突然、豪快に笑い出した。  
「あっはっはぁー!そこまで突き抜けてりゃあ、見上げたもんだ!よし、今日からあたしがお前の仲間になってやる。感謝しろ」  
 
「……は?」  
言葉の意味が理解できず、ディアボロスは思わず聞き返してしまった。  
「お前みたいな奴じゃ、そりゃあ他の奴は寄りつかねえだろ!だからあたしが寄り付いてやる」  
「そんなこと、頼んだ覚えはない」  
「そう強がるなって!お前みたいな下等種族一人で、この先何するってんだ?今まで何ができてる?ん?」  
「………」  
「だろ?だから、あたしが仲間になってやる。一人より二人の方が、何かと楽だぜ」  
断っても、無理についてきそうな雰囲気である。それでも、場の空気というものを読めない彼は言った。  
「断る。邪魔なんだ」  
「ひっでーなあ。じゃあ何?お前が何を考えてんのか知んないけど、お前は初めの森でダストに襲われて死ぬのが目的なのか?」  
「………」  
「そうじゃないなら、仲間にしとけ。見た感じ、お前はとても腕があるように見えない。それで一人なんて、死にに行くようなもんだ」  
彼女の言うことはいちいち癇に障ったが、言い返せないのも事実である。結局、彼は首を縦に振らざるを得なかった。  
 
それ以降、彼女はずっとディアボロスについてきた。彼女自身、あまり力があるわけではないようだったが、確かに一人よりは  
二人の方が何かと心強かった。  
「あんた、戦士か」  
「おう!でも、ずっと戦士でいるわけじゃねえぜ。もっと勉強して、絶対竜騎士になってやるんだ!……てーか、今気付いたのか?」  
「ああ、興味がなかったからな。……竜騎士になる、か。なれんのか?」  
「はっはっはー、まだおつむが足りねえとかほざかれたけどな。でも、絶対なるんだ。あたしはそう決めたんだ」  
他者をかばう竜騎士になると言うだけあって、彼女は何かと世話を焼いてきた。彼にとって、それは時にありがた迷惑でもあったが、  
そうして気にかけてくれる人物に会ったのは、これが初めてだった。  
一人では辛かった敵も、二人なら楽に倒せた。一人なら倒されるような場面でも、二人なら切り抜けられた。一人の頃とは比較にならない  
経験を積み、やがて僅かながらも魔法を扱えるようになると、初めの森では物足りなく思えるほどになっていた。  
魔女の森まで足を伸ばすようになり、拠点をジェラートタウンに変える。敵の顔ぶれも変わり、時には極端に強い敵も現れるようになる。  
ある日、カイワーレに出会った二人はいつものように攻撃を仕掛けた。だが、カイワーレは二人の攻撃を容易く耐え抜き、ツタ乱舞を  
繰り出してきた。見た目に似合わず、その攻撃は異常なほど強く、二人は一瞬で瀕死に追い込まれた。  
「ぐあっ!……くそ、こいつ強えな…!」  
「ぐぅ……こんなところで、死ねるか…!」  
二発もの攻撃を受けても、バハムーンはその驚異的な体力で耐え抜いていた。ディアボロスも一撃は受けたが、バハムーンほどには  
傷ついていない。  
にも拘らず、ディアボロスはすぐさまヒールを詠唱すると、それを自分に使った。カイワーレは再びツタ乱舞の構えを見せたが、  
バハムーンが剣を杖代わりに立ち上がり、大きく息を吸い込む。  
「消えろ、この大根が!」  
吐き出されたブレスは、カイワーレを一瞬にして消し炭に変える。辛くも得た勝利に、二人はホッと息をついた。  
それ以上の狩りは危険だと判断し、二人はジェラートタウンの宿屋へと戻る。その道すがら、バハムーンが口を開いた。  
「お前、さっきカイワーレにやられたとき、あたしじゃなくて自分にヒール使ったな」  
「……ああ」  
「あたしの方がひどい怪我だったのにな。どうしてだ?」  
「……死にたくなかったからだ」  
「そうか、なるほどな」  
「……気に障ったか?」  
 
彼女と一緒にいるようになってから、ディアボロスはほんの僅かではあるが、他人を気遣えるようになっている。とはいえ、まだまだ  
絶望的な社交性であることに変わりはないのだが。  
「お、なんだ?気にしてるのか?」  
「……そんな口ぶりだから」  
それを聞くと、バハムーンは笑った。  
「あっはっはっは!お前みたいな下等種族に心配されるほど、あたしは落ちぶれてないさ!お前の判断は正しい、それでいいんだよ」  
「けど、怪我は確かに…」  
ディアボロスが言いかけると、バハムーンは少し真面目な顔になった。  
「いいか、覚えておけ。他人を気遣うなんてのは、その余裕のある奴に任しときゃいいんだ。余裕がなきゃ、てめえのことだけ考えろ。  
てめえの身すら守れねえ奴が、どうして他人を守れるんだ?他人を守る方が、てめえを守るよりよっぽど難しいんだ」  
「………」  
「だから、お前のような下等種族は、自分のことだけ考えてりゃいいんだ。あたしに気遣いは無用!あたしだって、本当にやばくなりゃ  
自分のことだけ考える。いいな、わかったか?」  
「……ああ、わかった」  
何だか釈然としないものはあったが、ディアボロスは大人しく頷いた。  
恐らく普通の者なら、そのことで大喧嘩になっただろう。だが、バハムーンはそれを責めず、むしろ肯定してくれた。  
口調こそ荒いが、相当なお人よしであることはわかる。そんな彼女に対し、ディアボロスはほんの少しずつ、彼女に心を開いていった。  
 
経験を積み、力をつけ、二人はいつしかセミフレッド村を拠点とするようになっていた。今や、二人は出会ったばかりの頃とは  
比べ物にならないほど力をつけている。装備も、バハムーンは両手剣に重装備で身を固め、ディアボロスは片手にデスシックル、  
片手に疾風のナイフと持ち、比較的軽い防具を使っている。  
ただ、そこに来てからディアボロスの様子が少しおかしい。それでもバハムーンは何も聞かなかったが、ある日とうとう彼に尋ねた。  
「おいお前、最近どうしたんだ?元気ねえってわけじゃなさそうだけど、なんか変だぞ?」  
すると、彼はいつも以上に深い闇を湛えた目でバハムーンを見つめた。  
「……俺の家、この近くだったんだ…」  
「お、そうなのか?」  
だが、家が近いことと彼の様子がおかしいことに、関連は見出せない。  
「……なあ、できれば聞かないでおこうと思ってたんだけどよ、お前は力つけて何するつもりなんだ?」  
そう尋ねると、彼の暗い瞳がなお一層濃い闇に包まれる。  
「殺したい奴がいるんだ」  
「復讐、か。だからか、なるほどな」  
バハムーンは単純かつ頭はやや足りない面があるが、そういったことには鋭い。その一言で全てを察すると、それ以上は何も  
聞かなかった。またディアボロスも、それ以上は語らなかった。  
やがて、二人の力はカッサータ砂漠すら物足りなくなり、グラニータ雪原へと足を伸ばすようになる。  
そこへ初めて足を踏み入れた瞬間、バハムーンは翼で体を覆った。  
「うっへぇ〜、寒っ!こんなとこで暮らしてる奴等って、どんな体してるんだよ!?」  
「大丈夫か?」  
「あ〜、あたしにはきっつい、ここ。お前は平気なのか?」  
「………」  
突然無言になったディアボロスを見て、バハムーンはその理由に気付いた。  
 
「そうか、お前の家ってこの辺だったのか」  
「……俺は決めたんだ。絶対に、あいつを…!」  
そう言いかけた瞬間、バハムーンがそれを遮った。  
「おっと、待ちな。それ以上言うな」  
「……?」  
「いいか?言葉にするってぇのは、誰かに自分の考えを伝えるためのもんだ。てめえの復讐は、てめえだけが知ってりゃいいことで、  
人に伝えることじゃねえ。口に出せば、どんなもんでも安くなる。本当に伝えてえこと、安くなっても構わねえこと。口に出して  
いいのは、それだけだ。お前のそれは、そんなに軽いもんじゃねえだろ?」  
「……そうか、そうだな」  
それ以後、ディアボロスはその事について一言も触れなかった。あとはただ、いつものようにモンスターと戦い、経験を積んで戦利品を  
得る、いつもの日々が始まる。  
さすがに以前暮らしていただけあり、ディアボロスは寒さに苦戦するバハムーンを何かと助けていた。  
「ブレスはあまり吐くな。燃えやすい物がある時だけにしろ。じゃないと、呼気で熱が持っていかれる」  
「あ〜、思いっきり息吸っちゃダメなのか。言われてみりゃ、深呼吸すると寒くなるな」  
「鎧の可動部も気をつけろ。凍りついたら動けなくなるぞ」  
「凍りついたらブレスで……って、そしたら今度は体がやられるのか。あーっ、どうすりゃいいんだよ!?」  
「頻繁に動かしておけば、固まることはない。常に動かしておけ」  
「なるほど!お前頭いいな!」  
ディアボロスは、彼女が竜騎士になるのは一生かかっても無理なのではないかと思ったが、口には出さないでおいた。以前なら躊躇いなく  
口に出したであろうが、それもまた彼が成長した証拠である。  
力をつけ、グラニータ氷河基地までたどり着き、今度はそこを拠点とする。ここまで来ると、もはやディアボロスの様子は  
尋常なものではなくなっていた。いつにも増して重い影をまとい、目だけは炯々と光っている。あまりの異様な雰囲気に、店の者ですら  
彼を警戒する始末だったが、常に一緒のバハムーンだけは、相変わらずの付き合いを続けている。  
「よう。お前、ずいぶん漲ってんなあ。やっぱり獲物が近いとなると、腕が疼くかい」  
「……ああ」  
「けどよ、その相手ってちゃんといるのかぁ?時間経ってたら、誰か他の奴が倒しちまったなんてこともあるんじゃねえの?」  
「……さあな」  
「ま、行ってみなきゃわかんねえか!けど、もし見つからなかったときは、今後の身の振り方、考えとけよ」  
「………」  
実際のところ、それは彼も気になっていた。もしも、仇が既に別の者の手で討たれていたら、彼のこれまでの時間は全て無駄なものに  
なってしまう。家族の仇を、この手で討ちたいがため、そしてこれまでの時間を無駄なものにしたくないがために、彼は仇の生存を  
心の底から願っていた。  
翌日、二人は氷河の迷宮に足を伸ばした。少し前まで、オーブだ何だと騒がしかったが、今では他の生徒の姿などまったく見えない。  
中は寒く、滑る床に苦戦し、おまけに浮遊効果のあるアクセサリを持っていないため、途中のディープゾーンを突破できず、探索自体は  
早々に打ち切られることとなった。とはいえ、宿で寝るには早すぎる時間なので、帰還札は使わずに徒歩で迷宮の脱出にかかる。  
その間中、彼は仇を探していた。デスバッファローはここをねぐらとしているらしく、似た相手はたまに見かけたものの、そのどれも  
彼の探す仇ではなかった。  
結局、仇が見つからないままに迷宮を脱出する。出てみると、外はかなりの吹雪になっていた。バハムーンはすぐにでも宿屋に  
帰りたそうだったが、ディアボロスはその案に首を振る。  
 
「悪いが、一つ行きたいところがあるんだ。何ならあんたは、先に戻ってても構わない」  
「う〜、寒…!そうしてえけど、お前一人にできるかよ。あたしも付き合うぞ……寒っ!」  
「そうか……悪いな」  
ディアボロスは先頭に立つと、氷河基地の方へと歩き出した。しかし、微妙に方角が違う。  
そのまましばらく歩くと、ディアボロスは不意に立ち止まった。そして辺りを見回すと、突然その場にしゃがみこみ、足元の雪を  
手で掘り始める。やがて、頭が入るぐらいの深さになったところで、彼は手を止めた。  
「何してるんだ?」  
「………」  
バハムーンがその穴を覗き込むと、何やら木の破片が見えた。それもただの木ではなく、何か木材のように見える。  
「これは…?」  
「……俺の、家があった場所だ…」  
「そ、そうなのか」  
なぜ、こんな拠点から外れたところに家があったのかと疑問に思ったが、彼の種族を考えれば、その理由もすぐにわかった。  
「えっと……いや、何でもねえや…」  
さすがにかける言葉が見つからず、バハムーンは珍しく口篭ってしまう。その残骸を見る彼の顔は悲しげで、とても見ていられず、  
バハムーンは黙って視線を逸らした。  
と、そこに何かが群れで近づいてくるのが見えた。視界が悪いとはいえ、人間ではないのは一見して明らかだ。  
「おい、ディアボロス!何か来る、気をつけろ!」  
その言葉に、ディアボロスは素早く立ち上がり、武器を構えた。やがて、二人の前に相手の姿が浮かび上がる。  
グロテスクワーム、エリマキゾンビ、そしてデスバッファロー。恐らくは、氷河の迷宮から出てきたのだろう。  
「やれやれ、追撃とはご苦労なこった!ディアボロス、やる……おい、ディアボロス?」  
彼は、笑っていた。その目には狂気の光を宿し、真っ直ぐに群れの中の一匹を見つめ、武器を持つ手は震えている。  
視線の先には、デスバッファローがいる。そのデスバッファローは、今までの相手と少し違った。  
「何だ、あいつ?背中に何か刺さって…?」  
「父さんが、刺した槍だ…!」  
「え?ってことは、あいつが…」  
「……見つけた……見つけたぞ…!殺してやる、殺してやる!!」  
すぐさま飛び掛ろうとしたディアボロスを、バハムーンは間一髪で押さえた。  
「待て、慌てるな!あの群れに飛び込んだら、死ぬのはお前だ!」  
「知るか!!俺は、あいつをぉ!!」  
「わかってる、わかってるぞ。お前の言いたいことは」  
いつにも増して真面目な顔で、バハムーンはディアボロスの肩を掴んだ。  
「だがな、無駄死にはするな。お前はあいつを殺すために、ここまで来たんだろ?」  
「当たり前だ…!俺は…!」  
「慌てるな。なら、他の奴は邪魔だろ?」  
そう言うと、バハムーンはディアボロスに笑いかけた。  
「他の奴等は、あたしに任せろ。あのデスバッファローは、全部お前に任せる。あたしは何も手出ししない。仮にお前が殺されようと、  
あたしはお前を助けないし、横取りもしない。それでいいだろ?」  
もはや声を出すのももどかしく、ディアボロスは黙って頷いた。  
「なぁに、もしも本当にお前が殺されたら、その仇はあたしが取ってやる。安心しな」  
「……ふん。余計な気遣いだ」  
「下等種族相手には、ついつい気を使うもんなんだよ」  
冗談めかして言うと、バハムーンは足に巻きつけている尻尾を一度解き、鞭のように勢いよく振った。そして再び足に巻きつけると、  
しっかりと剣を構え直す。  
 
「さあ、行ってこい!」  
二人は同時に走った。敵の目前で二手に分かれ、ディアボロスはデスバッファローに、バハムーンはその他の相手へと飛び掛る。  
デスシックルが一閃する。しかし、その鎌は相手を軽く傷つけただけで、大した傷にもなっていない。  
すぐさま、疾風のナイフを突き立てる。だが、軽い刃は剛毛と硬い皮に阻まれ、容易く弾かれる。  
直後、デスバッファローが角を振り回した。至近距離にいたディアボロスは避けきれず、胸に痛烈な一撃を受ける。  
「ぐほぁっ!」  
体ごと吹っ飛ばされ、しかし辛うじて体勢を立て直し、雪の上を滑る。たった一撃を受けただけにも拘らず、明らかに骨が  
数本やられている。  
だが、そんな痛みなど彼の意識にはなかった。幸か不幸か、強すぎる殺意は冷静さも、恐怖も、痛みすらも消し去っていた。  
再び、ディアボロスが雪を蹴立てる。今度はデスバッファローもこちらへ向かって突撃する。  
真っ直ぐに向かってくる巨大な角を、上に跳んでかわす。飛び越えざま、背中に武器を突き立てるが、やはり大した傷は負わせられない。  
一方のバハムーンは、エリマキゾンビを相手に戦っていた。少々の攻撃は鎧で跳ね返し、強引に隙を作り出して両手剣を叩き込む。  
先の言葉通り、彼女はディアボロスの戦いに手を出す気配はないが、その目は時折、不安そうに彼を見つめている。  
そんなことに気付くはずもなく、ディアボロスは自分の戦いに集中している。だが、些か分が悪い。  
再び、デスバッファローの突進を飛び越えてかわし、ディアボロスは振り向きざまに尻尾を狙った。その瞬間、デスバッファローは  
軽く跳ねると、後ろ足を揃えてディアボロスを思い切り蹴り飛ばした。  
「がはっ…!」  
腹に直撃を食らい、ディアボロスはたまらずその場に崩れ落ちた。そのまま止めを刺しに来るかと、ディアボロスの背筋に  
冷たいものが走る。  
しかし、デスバッファローは突如狙いを変えると、グロテスクワームと戦うバハムーンに突進した。最後のグロテスクワームを倒し、  
バハムーンがようやく振り向いた時、相手はもう避けられない距離まで迫っていた。  
「うわあっ!?」  
「バハムーン!」  
鎧を着た巨体が吹っ飛ぶ。完全に体勢を崩してはいたが、退化した翼を思い切り羽ばたき、空中で何とか体勢を立て直す。  
だが、しっかりと地面を踏みしめたのも束の間。途端に足がガクガクと震えだし、バハムーンは地面に剣を突き立てた。  
「おぉ……お…!?ぐ、う…!」  
剣に寄りかかり、それでも目だけはしっかりと相手を睨みつける。そんな彼女に、デスバッファローは地面を前足で数回引っ掻くと、  
再び突進した。  
ディアボロスの脳裏に、十年前の出来事が蘇る。モヤがかかったように思い出せなかった一つの場面が、はっきりと脳裏に描かれる。  
角に貫かれ、それでも槍を突き刺した父の怒号。隠れていろと言われ、しかし父の姿にその言いつけを破って飛び出した弟。  
弟を守ろうと、共に蹴り殺された母の悲鳴。ただ一人隠れ、生き残った自分。  
そして今、自分の目の前で、また一人殺されようとしている。  
「やめろおおおぉぉぉ!!!」  
腹の底から叫び、ディアボロスはデスシックルを振り上げ、デスバッファローの足目掛けて全力で投げつけた。  
突然の怒号と足の痛みに、デスバッファローの突進が止まる。そこに、ディアボロスが駆け寄った。  
全身の痛みを堪え、デスバッファローに飛び掛る。その背に乗ると、ディアボロスは疾風のナイフを振りかざした。  
「おおおぉぉぉ!!!」  
十年前に父の刺した槍。それを目掛け、ナイフの柄を振り下ろす。肉を引き裂く確かな手応えと共に、槍がズブリとめり込んだ。  
「ブオオオォォォ!!」  
悲鳴を上げ、デスバッファローは激しく暴れ始めた。たまらず吹き飛ばされ、ディアボロスは辛うじて着地するが、様子がおかしい。  
デスバッファローはしばらく暴れたあと、突然倒れた。悲鳴も徐々に小さくなり、やがて途絶える。  
 
しばらくの間、二人はその死体を見つめていた。やがて、ディアボロスがポツリと呟く。  
「……もう少しだったんだな、父さん…」  
あと僅か、力が残っていれば、槍の穂先は急所を貫いていたのだ。だが、その僅かな力が足りなかった。  
「十年も、よく急所に刺さらず残ってたもんだな。あいつ、お前に殺されるために生きてたんじゃねえのか?」  
ようやく足元がしっかりしてきたらしく、バハムーンはゆっくりと剣を納めた。  
「で?これでお前の復讐も終わったな。これからどうするんだ?」  
そう尋ねるバハムーンに、ディアボロスは気の抜けた目を向ける。  
終わってみれば、虚しいものだった。今までずっと、これだけを目標としてきたのだ。それを成し遂げた今、彼にはもう何もなかった。  
「……もう、全部終わりだ。俺も、もう、みんなのところに行くよ」  
言うが早いか、ディアボロスは疾風のナイフを振りかざし、自分の胸目掛けて振り下ろした。  
チィン!と冷たい金属音が響き、ナイフが宙に舞う。痺れる手を押さえるディアボロスに、バハムーンは抜き打ちに振り上げた剣を  
そのままに口を開く。  
「馬鹿なことするんじゃねえ!何考えてんだ!」  
「……もう、疲れた。今までずっと、俺は復讐のためだけに生きてきたんだ」  
「自分のために生きりゃいいじゃねえか」  
「復讐のためだけに生きてきて、今更自分のためになんて、どうすればいいんだよ」  
ディアボロスの言葉に、バハムーンはやれやれと言うように首を振った。  
「復讐のため、ね。そう言やあ聞こえはいいが、要は今までだって、てめえのためだけに生きてたんじゃねえか」  
「……何だって?」  
「いいか?死人にゃあ口もなけりゃ耳もねえ。何も考えねえ、何も感じねえ。葬式にしろ復讐にしろ、死人のために何かするってのは、  
生きてる奴のためにするもんなんだよ。残されたてめえがかわいそうだとか、大切な奴が殺されて腹が立つとか、そういうもんなんだよ、  
死人のためにするってのは。何をしようと、死人は死人だ。喜ぶわけもねえ」  
「………」  
最初は反論しようとしたが、よくよく考えてみれば、彼女の言葉にも頷けるものがある。結局、ディアボロスは黙らざるを得なかった。  
「だから、お前は死人のためのつもりで、今までも十分、てめえのためだけに生きてきたんだよ。一つぐらい目標がなくなったからって、  
情けねえ面ぁしてんじゃねえや」  
言いながら、バハムーンは剣を納め、少しヒビの入った鎧を脱ぐ。  
「死ねば確かに楽だ。それ以上考える必要ねえし、辛いことからもぜ〜んぶ解放される。けどな、生きてりゃ楽しいこともあるぜ?  
辛いことの方が圧倒的に多いけど、その分でっかい楽しみもある」  
「……そんな楽しみなんて、どこにある」  
思わずそう口走ると、バハムーンはちょっとだけ考える仕草をした。  
「んー、そうだな」  
言いながら、バハムーンはディアボロスの手を取る。  
「たとえば、こんなのどうだ?」  
バハムーンは掴んだ手を、躊躇いなく自分の胸に押し付けた。  
「っ!?」  
突然のことに、ディアボロスは一瞬思考が止まる。服の上からとはいえ、手に伝わる彼女の体温と、柔らかい感触が心地いい。  
「どうだ?男なら嫌いじゃねえだろ?」  
それに答えられずにいると、バハムーンの表情が少し不安げなものになる。  
「え〜と……そんなに好きじゃない?自慢なんだけどな、この胸……あ、も、もしかして、小さい方が好きか?」  
「あっ……いやっ、その…!い、いきなり何を…!?」  
「あ〜、ほら、だから、お前どうせこういうのした事ねえだろ?気持ちいいし、楽しいぞ?……でかい胸、嫌いか?」  
不安げに尋ねるバハムーンに、ディアボロスはブンブンと首を振る。すると、バハムーンはホッとした表情を見せた。  
 
「よかったー。じゃ、遠慮なく触っていいぞ」  
遠慮なく、と言われたところで、遠慮なく触れるわけもない。ディアボロスが固まっていると、バハムーンは笑った。  
「いきなりはさすがに無理か、はっはっは!んじゃ、ゆっくりできるとこ行こうぜ。ここじゃ寒いしな」  
誘われるまま、ディアボロスはバハムーンの後をついて行き、二人は氷河基地の宿屋へと向かった。  
部屋に入り、荷物を下ろす。暖かい室内に入って少し落ち着くと、不意に戦闘で受けた傷が痛み出す。  
「あつ…!」  
「ん、どうした?……ああ、あいつにやられたところか。あとであたしにもヒールしてくれ」  
まずは自分にヒールを唱え、傷が治ったのを確認してからバハムーンに近づく。  
「……あんた、どこやられた?」  
「ここ」  
笑みを浮かべながら言うと、バハムーンは胸をはだけた。自慢と言うだけある胸の谷間が見え、思わずディアボロスの動きが止まる。  
「ん、もうちょっと下か……何だよ、その目。怪我してるのはほんとだぞ」  
「あ、いや……悪い」  
一応謝ったものの、バハムーンはいたずらっぽい笑みを浮かべている。  
「腹の方か……ちょっと見せてくれないか」  
「おう、見てくれ」  
「……いや、だから見せて…」  
「何だよ、脱がせてくれないのか?」  
「え!?」  
うろたえるディアボロスに、バハムーンは笑いかける。  
「怪我人に色々やらせんなよ。ほら、脱がせてくれって」  
「う……わ、わかったよ」  
顔を真っ赤にしつつ、ディアボロスはバハムーンの服に手をかける。ボタンを外していくにつれ、素肌が露わになっていく。  
やがて、腹の辺りまではだけると、確かに青く腫れているのが見えた。極力、その怪我だけを見るように努力しつつ、ディアボロスは  
ヒールを唱える。  
青みがなくなり、腫れが引いた瞬間。バハムーンはディアボロスの腕を掴むと、グイッと引っ張った。  
「わっぷ!?」  
バランスを崩し、ディアボロスはバハムーンの谷間に顔を埋めるような形になる。その状況に固まっていると、バハムーンは優しく  
ディアボロスの背中を撫でた。  
「ははっ、ありがとな。んじゃ、さっきの続きな」  
「いや、その…」  
「も……もしかして、あたしとじゃ嫌か?」  
「そっ、そういうわけじゃない!」  
むしろ彼女だからこそ、ドギマギしているのだ。これが他の者なら、それがたとえノームだろうと、あっさり拒絶しているだろう。  
「あ〜、初めてだから不安か?はは、それなら任しとけ。楽しませてやるからさ」  
「ちょ、ちょっと待て!その前に聞きたいことが…!」  
「そんなの後、後!今はとにかく楽しめ!」  
言いながら、バハムーンはディアボロスの肩を掴み、自分の体から引き剥がす。そして強引にベッドに座らせると、ズボンのベルトに  
手をかけた。  
 
「お、おい…!」  
「いいからいいから、じっとしてろって。あたしに任せとけ」  
とは言いつつ、バハムーンはあまり慣れていない手つきでベルトを外す。次にズボンを下ろし、下着を脱がせる。  
「おー、結構立派だな」  
「っ…!」  
「そう恥ずかしがるなよ!男なら堂々としてろって!」  
実に楽しそうに言って、バハムーンはディアボロスのモノを優しく掴んだ。思わず呻き声を上げると、バハムーンは笑みを浮かべる。  
「お前、もしかして自分でしたこともねえのか?」  
「……な、ない…」  
「うへー、どんだけストイックだよ。よしよし、あたしに全部任しとけ。楽しいこといっぱい教えてやる」  
バハムーンの手が、ゆっくりと彼のモノを扱き始める。  
「うあっ!」  
ディアボロスは思わず声をあげ、バハムーンの腕を掴んだ。  
「ははっ、いい反応するなーお前。でも、手ぇ掴むなよ」  
優しい割にかなり強い力でその手を引き剥がすと、バハムーンは再び扱き始める。またもその手を掴みかけ、しかし掴んではいけないと  
思い直し、ディアボロスはシーツをぎゅっと握る。  
さすがに反応は目覚しく、それはバハムーンの手の中であっという間に硬く大きくなり、熱を帯びる。  
「どうだ?気持ちいいだろ?」  
「くっ……うぅ…!」  
「答えられねえくらいか。よっし、もっと気持ちよくしてやるからな」  
バハムーンはディアボロスの前に跪くと、服を脱ぎ捨てた。そして体を寄せると、ディアボロスのモノを自身の胸で挟み込む。  
「うあっ…!」  
「へっへー、悪くねえだろ?他の奴等より皮は硬えけどさ、お前も結構硬いから平気だよな」  
胸をぎゅっと寄せ、強く挟み込みながら扱き上げる。全体を柔らかく包み込まれ、やんわりと締め付けられる感覚が、何とも言えず  
気持いい。バハムーンが動く度、胸が腰に当たり、ぴたぴたと音を立てる。  
初めて受ける刺激に、ディアボロスはそれこそ一瞬で追い込まれた。  
「うあ、あっ…!や、やめろっ……なんか、変なっ…!」  
「ん?まさか、もう出るなんて…」  
「ぐ……うああ!」  
「わ!?」  
バハムーンの顔に、白濁した熱い液体がかけられる。それに驚きながらも、バハムーンは彼のモノを胸で包んだまま目を瞑り、  
じっとそれを顔で受け止める。  
やがて少しずつ勢いが弱まり、ディアボロスのモノを伝って谷間にこぼれる程度になると、バハムーンはそっと目を開けた。  
「……ふー。お前なあ、早すぎだろ」  
「はぁ……はぁ……わ、悪い…」  
「……ま、初めてだもんな、しょうがねえか!で、どうだ?出したのも初めてだろ?気持ちよかったか?」  
言い様もない倦怠感に襲われ、ディアボロスはただこくんと頷いた。そしてバハムーンを見つめ、どうやら自分が  
汚してしまったらしいことに気付く。  
 
「あ……ご、ごめん。あんたの顔…」  
「あー、待て待て。動くな。あたしがきれいにしてやるから」  
胸で挟み込んだまま、バハムーンはディアボロスのモノを丁寧に舐め始めた。新たな快感に、ディアボロスはただ呻き声を上げて耐える。  
亀頭全体を舐め、先端を口に咥える。軽く吸って中に残っていた精液も吸い出すと、バハムーンはようやく体を離した。  
「ん〜、さすがに濃いなあ。すっげえ匂いだし、喉に絡む感じだし……それに、熱い」  
楽しそうに言いながら、バハムーンは胸と顔に付いた精液を指で掬い、舐め取っている。そんな彼女の姿を見ていると、ディアボロスは  
何とも言えない疼きを感じた。  
「あ、あの…」  
「ん?どうした?」  
「……もう一回、してもらっちゃダメか…?」  
ディアボロスの言葉に、バハムーンはにんまりと笑った。  
「お、気に入ってくれたのか?それは嬉しいなー。けど、もっと気持ちいいこと、してみたくねえか?」  
「……し、してみたい…」  
つい正直に答えると、バハムーンは笑いながらディアボロスの頭を撫でた。  
「ははは。ずいぶん素直になったなー。そんぐらい素直な方が、可愛げあるぜ」  
「………」  
「あ、怒るなよ?別にからかったわけじゃねえんだ。ま、とにかく!最っ高に気持ちよくさせてやるからな!」  
バハムーンはスカートとショーツを脱ぎ捨てると、自身もベッドに上がった。そして、ディアボロスの体を優しく抱き寄せる。  
「この先、どうすりゃいいかわかるか?」  
「い……一応…」  
だいぶ緊張しているようで、ディアボロスの体はすっかり強張っている。そんな彼に、バハムーンはいつもの笑顔を向ける。  
「お前のそれを、あたしのここに入れるんだ。別に難しくもねえだろ?」  
言いながら、バハムーンは自分で秘裂を広げてみせる。舐めている間に興奮していたらしく、襞の間に愛液がつっと糸を引く。  
「……ほ、ほんとに入るのか?」  
「入るって。安心しろ」  
「痛く……ないのか?」  
「あー、あたしは経験済みだからな。いちいち気にすんな。……はは、でもそうやって気ぃ使ってくれるのは、ちょっと嬉しいな」  
ディアボロスはおずおずとバハムーンに近づき、そっと体を寄せる。彼女の体を抱きかかえ、ぎこちなく腰を突き出すが、  
きちんとあてがわれていないため、虚しくバハムーンの体を滑る。  
「さすがにいきなりじゃ無理か。手伝ってやるよ」  
太腿に巻きついていた尻尾がするりと解け、ディアボロスの腰に添えられる。さらに、バハムーンは手で彼のモノを掴み、自身の秘部に  
しっかりと押し当てた。  
グッと、尻尾が腰を抱き寄せる。それに促されるように、ディアボロスは腰を突き出した。  
クチッと水音を立て、先端が彼女の中に入り込む。そこから伝わる熱さと、感じた事もない快感に、思わずディアボロスの動きが止まる。  
「う、あっ…!」  
「んんっ……お、おい、焦らすなよ。そのまま奥まで、来てくれよ」  
とは言われても、動けばまたすぐに出てしまいそうで、ディアボロスは動けなかった。すると、バハムーンはちょっと不満げに息をつく。  
「その方がお前も気持ちいいのに……しょうがねえなあ。ぃよっと!」  
尻尾が、さらに強く腰を引き寄せる。それに抗うこともできず、ディアボロスのモノが一気に根元まで彼女の中に入り込んだ。  
 
「ぐっ……あぁ…!」  
「ふあっ……久しぶりだな、これ…!……へへ、動けねえか?」  
いたずらっぽい笑みを浮かべるバハムーンとは対照的に、ディアボロスはかなり切迫した表情になっている。  
「ま、しょうがねえな。でも、動けるようになったら、動いてくれよ。あたしだって気持ちよくなりてえし、じっとしてるより、  
ずっと気持ちいいぜ」  
正直なところ、ディアボロスにはそれに返事をする余裕もなかった。  
中は熱くぬるぬるしていて、しかしディアボロスのモノをきつく締め付けてくる。時折締め付けが緩み、ホッとすると、  
今度は引き込むように蠢動する。それだけでも、もうディアボロスは限界寸前だった。  
だが、動けばさらに気持ちよくなるという言葉が、抗いがたい魅力を持って響く。こみ上げる衝動を何とか堪え、ディアボロスは  
そっと腰を引いた。  
「んあっ……はあぁ…!」  
バハムーンが、今まで聞いたこともないような甘い喘ぎ声を上げる。同時に、熱くぬめった膣内が収縮し、ディアボロスのモノを締める。  
今度は、強く腰を突き出す。  
「うあっ!……ふぅ、あ…!」  
パン!と、腰と腰がぶつかり合う乾いた音が響く。一瞬、苦悶にも見える表情を浮かべたバハムーンが、そっと目を開いてディアボロスを  
見つめる。  
「んん……今の、よかったぜ。もっと、動いてくれ…!」  
ねだる、というよりは命令に近い口調。だが今の彼に、そんなことを気にする余裕はない。ディアボロスは彼女の腰を掴むと、  
欲望のままに腰を打ちつけ始めた。  
「んんっ!あっ!……ど、どうだ?気持ち……んっ……いいだろ…!?」  
「はあっ、はあっ…!ぐうっ、あっ…!」  
追い詰められた呻き声が響き、ディアボロスの動きが荒く性急なものになる。限界が近いことを悟ると、バハムーンは笑みを浮かべた。  
「ふぅ、あ……いいぜ、そのまま中に……出して…!」  
「バハムーンっ……うあ、あぁ!!」  
一際強く腰を叩きつけ、ディアボロスはバハムーンの体内に精を放った。熱いものが注ぎ込まれる快感に、バハムーンは身を震わせる。  
「ふあ……すげえ、いっぱい出てる…」  
「……ぐ…!はぁ……はぁ…」  
全てバハムーンの中に注ぎ込むと、ディアボロスは荒い息をつく。そんな彼を、バハムーンは優しく撫でた。  
「ちっと物足りねえけど、しょうがねえな。気持ちよかっただろ?」  
「………」  
ディアボロスは答えない。その代わりに、不意にバハムーンの腰をしっかりと掴む。  
「ん?何す……ふわぁ!?」  
ディアボロスは強引に、バハムーンをうつ伏せに寝かせた。そして腰を持ち上げると、再び荒々しく彼女の中を突き上げる。  
「うあっ!?あっ、あっ、あっ!!お、お前出したんじゃ……あうっ!」  
完全に油断していたところへ、予想もしなかった行動を取られ、バハムーンは快感に翻弄される。  
「悪い、まだ足りないんだ…!」  
「ちょっ、待っ……あんっ!う、後ろからなんてそんなっ……は、激しすぎるって…!」  
パン、パンと乾いた音の合間に、グチュグチュという愛液と精液の掻き混ぜられる湿った音が響く。バハムーンの体には玉のような汗が  
浮かび、蒸れた匂いがディアボロスの鼻腔をくすぐる。  
 
「んんんっ……くぅ、あっ……お、お前……思ったより、やるじゃねえか……あっ!」  
少し余裕が出てきたらしく、バハムーンの口調はいつもの喋りに戻りつつある。しかしそれに反して、嬌声はますます高く大きく  
なっていく。  
「んあぁ…!も、もっと強く…!あたしも、イけそうだからっ……あぅ!だから、もっと強く…!」  
その声に応えるように、ディアボロスはさらに強く腰を打ち付ける。二人の体を汗が伝い、熱気はますます強くなる。  
「ぐぅぅ……また、出そうだ…!」  
「な、中にぃ…!あたしの中に、全部っ……う、うあぁっ、もう、あたしっ……あ、あ、ああああぁぁぁ!!!」  
一際大きな嬌声と共に、バハムーンの背中が反り返る。同時に、膣内がまるで精液を搾り取ろうとするかのように蠢動し、  
強く締め付けた。  
「うあっ!?中が、きつくっ……うあぁ!!」  
その刺激に、ディアボロスも限界が来た。腰を強く押し付け、再びバハムーンの中に欲望を吐き出す。三度目にも拘らず、それはかなりの  
勢いを保っており、バハムーンの体内で何度も跳ねる。その度に注ぎ込まれる熱い液体の感覚が、バハムーンに大きな快感をもたらす。  
やがて、その勢いが少しずつ弱まり、やがて完全に動かなくなると、ディアボロスは力尽きたようにバハムーンの背中へ覆い被さった。  
同時に、入ったままだったモノが、彼女の中から押し出されるように抜け出る。  
「はぁ……はぁ……ふぅ〜、いい汗かいたな!」  
額の汗を拭うと、バハムーンは妙に生き生きとした声で言った。そしてディアボロスを押しのけ、仰向けに寝直す。  
「で、どうだ?気持ちよかっただろ?」  
「はぁっ……はぁっ…」  
ディアボロスはぐったりしつつ、何とか頷いた。そんな彼を、バハムーンはぎゅっと抱き締める。  
「ははっ、そりゃ何よりだ。あたしも気持ちよかったし、イけるなんて思わなかったぜ?」  
抱き締められると、彼女の匂いがより強く感じられる。その匂いが、なぜかディアボロスの心を落ち着かせる。  
「……なあ、一つ聞いていいか…?」  
「ん?何だよ?」  
ひどい倦怠感を覚えつつ、ディアボロスは何とか声を絞り出す。  
「その……どうして俺に、ここまで…?」  
「……ん〜」  
意外なことを聞かれたと言う顔で、バハムーンは頭をポリポリと掻いた。  
「いやな、実は元々、お前のことは知ってたんだよ。あ、目的とかは知らなかったけどな。でもまあ、お前有名人だったし、  
変わった奴だっていうのは知ってた」  
自分はそんな有名人だったのかと、ディアボロスは今更ながらに驚いた。  
「お前、種族も種族だし、何だかほっとけなくてなー。んで、その……何?実際一緒にいたら、ますますほっとけなくてさ。  
だから〜、その〜……なんだ…」  
複雑な思いを言葉にするのは苦手らしく、バハムーンは言葉に詰まってしまう。  
「え〜と、だから……まあ、いいじゃねえか!とにかくほっとけなかったんだよ!で、もう疲れただろ?今日はもう寝ろ、な?」  
色々とごまかされているような気はしたものの、確かにこれ以上ないほどに疲れきっている。大人しく目を閉じかけ、ディアボロスは  
再び目を開けた。  
「……なあ。一つ、頼みがあるんだけど、いいか?」  
「ん?どうしたんだ?」  
それを言葉にするのを一瞬躊躇い、ディアボロスはぼそりと言った。  
「……できれば、もっと強く、抱き締めてくれないか…?」  
バハムーンは一瞬きょとんとし、すぐに満面の笑みを浮かべた。  
「ああ、いいぜ。お前、結構甘えん坊だな」  
それに反論する気も、もはや起きない。強く抱き締められ、彼女の温もりを全身に感じながら、ディアボロスは目を瞑った。  
初めてのはずなのに、どこか懐かしい感覚。それは、もはや記憶にも残っていない、母の腕の温もりによく似ていた。  
 
翌朝、二人は目を覚ますと揃って宿を出た。とりあえず、もうディアボロスが冒険をする理由はない。  
「……で、どうするよ?お前、やっぱり死にたかったりするのか?」  
軽い調子で、しかしどこか不安げな目をしつつ、バハムーンが尋ねる。  
「どうしてもって言うんなら、あたしももう、止めねえけど…」  
「……いや、やめとくよ。あんだけ楽しいことがあるなら、生きてるのも悪くない」  
「だろ!?はは、体張った甲斐があってよかったぜ!」  
そう言うバハムーンの顔は、本当に嬉しそうだった。  
「んじゃ、これからどうする?もしクロスティーニに戻るなら、送ってくぜ?」  
「いや、それもやめとこう。今のところ、自分でも何すりゃいいか、わからない」  
「そっか。ま、別に焦る必要も…」  
「だから」  
バハムーンの言葉を遮って、ディアボロスは続けた。  
「今度は、俺があんたの手伝いをする。あんたには世話になったし、その恩を返してない」  
「え?お前が?あたしの?」  
その意外な答えに、バハムーンは笑い出した。  
「あっはっはっは!そんなこと、気にしねえでいいのによ!」  
「人助けは、余裕のある奴がすればいいんだろ?俺はもう、自分のやることは終わった。余裕なら売るほどある」  
「あー、なるほど。そう来たか」  
「それに、あんた一人じゃ、いつまで経っても竜騎士にはなれそうもない」  
「言ってくれるな〜、この野郎!下等種族が舐めんな!……でも、勉強とかは教えてもらいてえかな」  
二人は顔を見合わせると、楽しそうに笑った。  
「ははは。それぐらいなら楽なもんだ」  
「おっ!お前の笑ってるとこ、初めて見たなー。いい顔するじゃねえか。よしよし、今日はいいことありそうだ!」  
言いながら、バハムーンはディアボロスの首にがっしりと腕を回した。ディアボロスも、その腕に手を添える。  
「お前がやっぱり死ぬとか言い出さなくて、ほんとによかったぜ。結構心配したんだぞ?」  
「あんたがいる限りは、生きてることにするよ。また、その……したいしな」  
「はっはははは!やっぱ男だなーお前も!いいぜいいぜ、それぐらいお安いご用だ!」  
恋人同士、と言うには変わった関係。戦友同士、と言うには近すぎる関係。だがそのどちらにしろ、二人は強く繋がっている。  
「ああ、でもまた冒険行く前に、武器をどうにかさせてくれ。デスシックルは投げちまったし、疾風のナイフはあんたに飛ばされた」  
「あー、あったなそんなこと。あれだ、あいつの背中の槍使えばいいじゃねえか」  
「父さんの槍か。はは、それもいいかもな」  
もしも、バハムーンの念願叶い、竜騎士になったらどうするか。ディアボロスはぼんやりと考える。だがその答えなど、すぐに見つかる。  
今と変わらず、彼女と一緒にいること。  
それが、今のディアボロスにとっての、生きる指標だった。  
あの、吹雪の日の忌まわしい記憶。屈折した十年間を経てようやく、彼はその呪縛から解放された。  
「しっかし、今日は晴れてやがんなー。今のうちに拠点変えるか?」  
「今度は、パニーニにでも行くか?転科できるようになったら、すぐ手続きできるしな」  
「お、いいなそれ。よし!このくそ寒いのも飽きたし、行くかぁ!」  
氷に閉ざされた大地にも、春は来る。暖かな日が差せば、どんなに硬く凍りついた雪も解ける。  
雪原を歩く二人。吹雪が止んだ今、その先には暖かい日差しが差し込んでいた。  
 

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