初めの森から帰還し、夜遅すぎるため食堂が閉まっていたために皆でフェアリーの寮に集まり晩御飯……もとい夜食を食べていた。
「ヤー、今日も疲れたネー」
「魔法壁しか使ってなかったじゃありませんの?」
「魔法壁も意外と疲れるヨー?」
そのような会話をしながら、冒険中に手に入れた食料を皆で思い思いに手にとっては頬張っていく。
そんなとき、セレスティアが口を開いた。
「そういえば、バレンタインデーだったんですね……」
「ん?あぁ、そういえばそうだな……。だけどもう過ぎてるぞ?」
ヒューマンが時計を見ながら話す。
「あーあ、今年もゼロか……」
「しょうがないよ、自分達は朝から初めの森にいたんだから……」
「うにゅう……ねぇ、『ばれんたいんでー』って何?」
フェルパーのびっくり発言に落ち込んでいたヒューマンとフェアリーが光の速さでフェルパーを見る。
「フェルパー、バレンタインを知らないのか?」
「うん、僕は初めて聞いた。……あれ?どうして皆でこっちを見てるの?」
フェルパー以外の皆がフェルパーの方へと視線を集中させていた。
ある者は信じられない、またある者は天然記念物でも見るような目でフェルパーを見ていた。
そこで、再度セレスティアが口を開く。
「フェルパーさん、バレンタインというものはですね、女性が好きな男性にチョコレートを渡す習わしですよ?」
最近は逆チョコ、友チョコというものも流行っていると続けるセレスティア。
しかし、フェルパーの耳には届いていないようで顔を赤くしながら慌てている。
そんなフェルパーを横目にエルフはポツリと呟く。
「わたくしは、用意はしていましたけど……過ぎてしまいましたものね」
「朝がくるまではその日だぞ、エルフ!」
「なんですの、そのいい加減な言い分は!」
ヒューマンにツッコミをいれるエルフ。
やがて目を閉じ、溜息をついた後にヒューマンにチョコを差し出す。
「はい、チョコですわ。言っておきますけど、仲間としての義理チョコですわよ?」
「エー、一人にあげるノー?」
「う、五月蝿いですわね!ニヤニヤしないで下さる!?」
怒るエルフだが、クラッズが笑いを止めないため諦めた顔になる。
「これは、フェアリーの分ですわ。ヒューマンと同じで仲間としての義理チョコですから、勘違いしないで下さる?」
チョコを渡した後に顔を急いで背けるエルフ。
「あれ、なんで顔が赤いんだい?」
「へ、変なことを聞くものではありませんわ!」
フェアリーにエルフの拳が襲い掛かるがフェアリーはひょいとかわし、軌道上にいたクラッズにクリーンヒットした。
「……私はちゃんと皆さんの分を用意してありますから」
セレスティアは一日遅れですいません、と断りをいれ、フェアリーとヒューマンに手渡し、横たわっているクラッズの隣にチョコを置いた。
「ぼ、僕は、チョコなんて……」
オロオロしながらしまいには泣きそうになるフェルパーにヒューマンは何かを耳打ちした。
「行け、フェルパー!今日は恋する乙女の為の日だぞ!」
「リ、リーダー、御免!」
「うぶす!?」
フェルパーがフェアリーに飛び掛かり、唇を奪う。
半ば強制的だがヒューマンにそそのかされたのだから仕方がないといえば仕方がない。
「あーあー、チョコより甘いねー」
「ヒューマン、それはクラッズのチョコですわよ?」
「気にするな。こっちは口寂しいんだよ……」
クラッズが気絶しているのを良いことにクラッズの貰ったチョコを食べるヒューマン。
エルフはやれやれといった表情をし、ヒューマンに軽く口づけをする。
「な、なぁ!?」
「ん、少し甘いですわね……。貴方が口寂しいと言っていたからしてあげただけですわよ?」
髪をさらりとかき上げ、クスリと笑うエルフ。
「い、一瞬びっくりしたぞ……」
「安心なさって、別に貴方に興味はありませんから」
「……泣いても良いか?」
一日遅れても、幸せなバレンタインを過ごすことができたフェアリー達。
朝になるとまた冒険に明け暮れるだろうが、これも思い出の一つに残ることだろう。
この後目を覚ましたクラッズが、チョコを貰っていないことを三日間ほど歎いていたのはまた別のお話。