あってないようなものの消灯時間が過ぎ、寮に灯る明かりも少しずつ減り始めていた。  
地下道探索の疲れで、とっくの昔に寝ている生徒がいれば、まだ地下道に残っている生徒もいる。転科のために夜遅くまで起きて勉強を  
続ける生徒もいるし、中には夜通し遊ぶために起きている生徒もいる。  
そんな寮の一室。明かりは既に消されているが、中では二つの荒い息遣いが漏れていた。  
「んん……あうっ…!」  
甲高い喘ぎ声を上げるクラッズの女の子。その表情には、快感とも苦痛とも取れない表情が浮かんでいる。  
「やっ……こんな格好、恥ずかしいよぉ…!」  
「クラちゃん、可愛い…」  
自身も仰向けに転がり、クラッズの小さな体をその上に寝かせ、執拗に攻めるのはバハムーンの女の子である。  
ほんのりと膨らんだ胸に手を這わせ、とめどなく蜜を溢れさせる秘部の小さな突起を指で弾く。その度に、クラッズの体はビクンと跳ね、  
悲鳴に似た喘ぎ声を上げている。  
「ね、ねえ……もう、十分でしょぉ…?三回もなんて、聞いてないよぅ…」  
「まだ、聞きたいな。クラちゃんの声…」  
「バハちゃん、もうやめてってばあ…!明日も、探索行くんじゃ……ひゃうっ!」  
バハムーンが、クラッズの耳を甘く噛む。クラッズの言葉が止まると、指でそっと彼女の秘所を広げる。そこに尻尾を押し当てた瞬間、  
クラッズはハッと我に返った。  
「だっ、ちょっ、待ってっ!ストップっ!やめて!」  
必死にバハムーンの腕を振り払い、足を閉じて抵抗するクラッズ。さすがにそうされては、バハムーンも中断せざるを得ない。  
「……ダメ?」  
「ダメだっていっつも言ってるでしょ!?そんなの入れられたら、私死んじゃうってば!」  
「一回でいいから、してみたいなぁ…」  
「バハちゃん……本当に怒るよ?」  
その一言で、バハムーンはビクッと身を竦めた。  
「や、やだぁ……怒らないでぇ…」  
「……うん、いや、怒らないから。しなければ、だけど」  
「うん……ごめんね、クラちゃん…」  
言いながら、バハムーンはクラッズのうなじをつぅっと舐める。ぞくぞくした快感に、クラッズはピクンと身を震わせる。  
「んあ……それ、結構好き……かな…」  
「いっぱい、気持ちよくしてあげるね…」  
首筋にキスをし、今度は尻尾の代わりに指を押し当てる。そしてクラッズの呼吸に合わせ、ゆっくりと彼女の中へと沈めていく。  
「んうっ……うああ……あっ!」  
熱い吐息を漏らし、身を震わせるクラッズ。その姿に、バハムーンは何ともいえない嬉しさのようなものを感じる。  
「気持ちいい?一気に、イかせてあげるね…」  
言うなり、バハムーンは指の角度を変え、腹側を擦るように指を曲げる。さらに、親指で敏感な突起をグリグリと刺激し始めると、途端に  
クラッズは体を弓なりに反らせ、全身を強張らせる。  
「きゃあっ!?だ、ダメぇ!それっ……ダメっ!強すぎるぅ!うああぁぁっ!」  
「二箇所責め、いいでしょ?また、イクときの声、聞かせて…」  
「ま、待ってっ……くっ、はぁ……や、ダメ……わ、私、もう……あ、うああぁぁ!!!」  
必死の抵抗も虚しく、ガクガクと体を痙攣させるクラッズ。さすがに三回も絶頂を迎えていては、もう彼女の体力は限界だった。  
何かバハムーンが言っているのは聞こえるが、それを声として認識できない。やがて、凄まじい快感の中、クラッズの意識はすうっと  
暗く沈み込んでいった。  
 
日光が目を直撃し、クラッズは目を覚ました。見ればかなり日は高く、だいぶ寝坊してしまったらしいことは想像がついた。  
「んん……バハちゃん…?」  
見回しても、バハムーンの姿はない。朝食でも買いに行ったのだろうか。  
とりあえず、ベッドから降りる。が、そこで部屋の中に違和感を覚えた。  
「……?」  
部屋の中をじっくりと見回す。最初は気付かなかったが、徐々に頭が覚醒するにつれ、その正体に気づいた。  
バハムーンの荷物が、ない。探索に行く時の消耗品も、消えている。  
クラッズの頭が、急速に覚醒を始める。さらに、テーブルの上に紙切れを見つけ、クラッズは大慌てでそれを手に取った。  
「うーそーでーしょーっ!?」  
クラッズの絶叫が、朝の寮に響き渡った。  
 
それより少し前。同じ寮の一室で、バハムーンの男子が目を覚ましていた。  
目を開けると、茶色いふさふさした毛が目に映る。まだ寝ているらしく、気持ちよさそうな寝息と共に、体が規則正しく上下に動いている。  
「おい……朝だぞ」  
腹の上で寝るドワーフは、バハムーンの声など耳に届いていないようで、実に幸せそうな顔で寝ている。バハムーンとしても、自分の  
上で腹ばいになっているドワーフの温もりは心地よかったが、かといっていつまでも、そうしているわけにはいかない。  
「朝だぞ、起きろ」  
「んん〜…」  
軽く肩を揺するも、ドワーフはバハムーンの胸に頭を摺り寄せ、再び寝息を立て始めた。  
「おい、起きろ。もう朝だ。飯の時間だぞ」  
「んあ……ああ、バハムーン、おはよ…」  
飯、という言葉に反応したのか、眠そうな目を何とか開けるドワーフ。次いで、今度は大口を開けて欠伸をする。鋭い歯が並ぶ口内が、  
バハムーンの眼前に広がる。  
「その歯を見ると、少しゾッとするものがあるな」  
「ん、別に噛むわけじゃねえんだし、いいだろー」  
ドワーフは少し体を起こしたが、すぐにまたバハムーンの体にしがみついた。  
「……おい、何をしている」  
「ん〜、その、あんま離れたくねえな、ってさ……へへ」  
「やれやれ、朝から何を言ってるんだ」  
そう言いつつ、バハムーンの顔も笑っている。バハムーンは体を起こすと、ドワーフを抱き上げてベッドから降りた。  
「お、おいおい!何するんだよ!?」  
「離れたくないんだろう?だから、こうしてやったまでだ」  
「あ、いや、それはその、嬉しいけど……あの、着替えなきゃなんねえから、下ろして…」  
「わがままな奴だ」  
「それはしょうがねえだろー!できるんだったら、一日中だってああしてたいけどさ…」  
ぶつぶつ言いつつ、ドワーフは服を身に着けていく。着替えるとはいえ、二人とも服は着ていない。  
「それにしても、お前また筋肉ついたな」  
「お、わかる?オレもそろそろ、お前に負けないぐらいにはなったかな、へへ!」  
「俺には、まだまだ程遠いぞ。そもそも種族が違うんだ、こればかりは負けられんな」  
「ちぇー、絶対いつか抜いてやるからな」  
言いながら、ドワーフはパンツを穿き、ズボンに足を通す。続いてシャツを羽織り、上着はまだ着ずに置いておく。  
 
「学科も、僧侶では戦闘向きではないからな。転科を考えてみたらどうだ?戦士とか君主なら、お前には合ってそうだが」  
「転科かあ。でも、オレこの学科好きなんだよ」  
「ま、そもそも君主になれるかどうか、些かの疑念もあるがな」  
バハムーンの言葉に、ドワーフはムッとした顔を向ける。  
「……それ、言いっこなしだろー」  
「はっはっは、気にするな。何であろうと、お前が俺の彼氏だということは変わらん」  
そう言い、バハムーンはまったく反省のない笑顔を向ける。  
「ちぇ、いっつもそうやってごまかす」  
だが、そう言いつつもドワーフの尻尾はパタパタと振られている。  
ともかくも服を着ると、二人は揃ってハニートーストを頬張る。朝は甘い物を、というのがバハムーンのこだわりで、最近はドワーフも  
それに倣っている。  
「んーで、今日はどこ行くんだ?」  
「まだ決めてはいない。最近ずっと探索続きだから、いっそ休みでもいいかと思っているがな」  
「何だよ、じゃあ起きなくてよかったじゃねえか」  
「まだ決めてはいないと言ってるだろうが。あくまでも、案の一つとしての話だ」  
「ん〜、たまには、その……ゆっくり、一緒にいたいけどな…」  
少し恥ずかしそうに言うドワーフ。それを見て、バハムーンは楽しげな笑顔を浮かべた。  
「その意見には、俺も全面的に賛成だ」  
「何だよ!じゃあ最初っからそう言えよな!くそー、いちいち言わせやがって…!」  
「お前の意見も、尊重しなきゃならんからな。そう愚痴るな」  
絶対嘘だ、と言いたいところだったが、確実にうまくはぐらかされるので黙っていた。  
食事を終えると、二人は揃って大きな伸びをする。  
「しかし、ずっと部屋に篭っているのも良くない。少し購買にでも行くか?」  
「あ、そだなー。明日のパンも買いたいしな」  
「ついでに、面白い装備でも入っていればいいんだがな」  
部屋を出ると、バハムーンがドワーフの肩を抱き寄せる。が、ドワーフはすぐにその腕を振り払う。  
「なんだ、嫌か?」  
「いつも言ってんだろ!?外ではやめろよ!」  
「部屋の中だろうが外だろうが、大した違いはないだろうに」  
「全然違うだろうがっ!いいか、とにかく外ではやめろ!」  
部屋で二人きりだと、今では自分から甘えるようになったドワーフ。しかし一歩でも外に出ると、相変わらずいつも通りに振舞っている。  
そのため、二人の関係が大きく変化していることに気付く生徒はいない。  
廊下を歩き、その端にある階段へ向かう。そして階段に差し掛かった瞬間、階段を飛び降りるように走ってきた影がドワーフにぶつかった。  
「うわっ!?」  
「きゃっ!?」  
よろめいたドワーフをバハムーンが支える。  
「ドワーフ、大丈夫か?」  
「あ、ああ。オレは平気だけど……えっと、大丈夫か?」  
相手は小さなクラッズだった。ドワーフの体に吹っ飛ばされ、尻餅をついている。少し捲れたスカートの下からちらりと白い物が見え、  
ドワーフは慌てて視線を逸らした。  
 
「痛たた……ご、ごめんね。だいじょ……ぶ…」  
そこまで言った口が、二人の姿を見て止まる。『ああ、またか』と、ドワーフは心の中で悲しいため息をついた。  
「え、え〜〜〜っと……ほ、ほんとごめんね、あはは、は……じゃ、じゃあ、その、私はここで〜…」  
「大丈夫なようだな。行くぞ、ドワーフ」  
「ちょっ、ちょっと待てよ!引っ張んな!」  
何とか留まるドワーフに対し、クラッズは引きつった笑顔を向ける。  
「わ、私はほんと、平気だからさ!だから、その、えっと、ほんと、大丈夫だから…」  
元々、バハムーンは男子連中から非常に恐れられており、今でも二人に近づく者はいない。女子には被害がないはずなのだが、それでも  
さすがに心象が悪すぎるため、彼は女子からも恐れられていた。今では公認の彼氏となったドワーフも、その例外ではない。  
「いや、でもさ、なんかすっげえ急いでるみたいだし、何かあったのか?」  
「急いでる邪魔をしては悪いだろう。さっさと行くぞ」  
「だぁから引っ張んなっ!ったく、お前女にはほんと冷たいのな…」  
「男でなければ興味はない」  
「男でも興味持つなっ!」  
二人のやり取りを、クラッズは苦笑いを浮かべて見ていた。少なくとも、ドワーフの方はさほど警戒しなくてもよさそうな人物だと、  
心の中でホッと息をつく。  
「えっと、じゃああの、ちょっと聞きたいんだけど、バハムーンの女の子見なかった?」  
「って言われてもな……どんな子?」  
「え〜、こう髪はこのくらいで、無口で内気でポアッとしてて…」  
「無口で内気って……そんなバハムーン見たことねえよ…」  
「まったくだ。そいつは本当に俺と同じ種族か?」  
「だよねぇ……あ〜、じゃあやっぱりもう行っちゃってるんだ〜…!」  
そう言い頭を抱えるクラッズ。さすがに、何か大変なことになっているのだと言うことは、二人にも理解できた。  
「どうしたんだ?よければ、話聞くぞ?」  
「おいドワーフ…」  
「うるせえっ!黙ってろ!」  
「えっとね、その子私の友達なんだけど、私寝坊しちゃって……それで、一人で地下道行っちゃったみたいなんだ」  
「一人で?どこまで?」  
「予定通りなら、たぶんトハス」  
「トハス!?」  
二人が同時に声を上げた。二人でも楽とは言えないところなのに、一人でそんなところに行くとは何を考えているのか。  
「で、でも、一人でそこまで行けるって事は、それなりに力はあるんだろ?」  
「だけどあの子、たまに勝手に宝箱開けちゃうんだよぉ〜!もし、スタンガスとか死神の鎌とか引っかかったら…!」  
「とんでもない女だな。そんな奴、放っておけばいいだろう。一度痛い目に遭えば、嫌でもわかるというものだ」  
「それは、そうだけど…!でも、放っておけるわけ、ないじゃない…!」  
本気で心配そうな顔をするクラッズに、ドワーフは心の底から同情した。きっと、この性格のせいで苦労しているのだろう。  
 
「でも、君一人じゃ、トハスまで行くのはきついだろ?」  
「そう……だけど、でも、逃げ回れば何とかなるし!それに…!」  
「いいよ。オレ、一緒に行ってやるよ」  
「え?」  
「おいおい、ドワーフ…!」  
呆れたように話しかけるバハムーンを睨みつけ、ドワーフは続ける。  
「一人でも仲間いれば、少しはマシだろ?」  
「あの、気持ちは嬉しいけど…」  
「いいよ、こいつは。ほっといたって、死にやしねえし」  
バハムーンは少し不機嫌そうに、二人のやり取りを聞いている。  
「何も初対面の相手に、そこまですることないだろうに」  
「じゃあ、お前が俺に会った時はどうだったんだよ!?ったく、お前はいいよ。部屋に戻っててくれ。この子送り届けたら、  
すぐ戻るからさ」  
「……ほんとに、いいの?」  
「いいっていいって。困ったときはお互い様ってね」  
クラッズは人懐こい笑顔を浮かべ、頭を下げた。  
「ほんと、ありがとう!すっごく助かる!」  
「気にするなって。困った女の子放っておくなんて、できねえしな」  
そう言い、ドワーフはあてつけがましくバハムーンを睨む。バハムーンは相変わらず不機嫌そうに、二人を見ている。  
「じゃ、ちょっと行ってくるから。悪いけど、少し待っててくれな」  
バハムーンの脇をすり抜け、二人は階段を降り始める。バハムーンはつまらなそうな顔で、それを見送っていた。  
階段を降り、寮のロビーを抜ける。その時、上から大きな声が響いた。  
「忘れ物だ!」  
二人が見上げた瞬間、巨体が二階の窓から飛び出してきた。そして、着地際に退化した翼を思い切り羽ばたかせ、着地の衝撃を軽減する。  
「やっぱ、来てくれたんだな」  
そう言い、ドワーフはバハムーンに笑いかけた。が、当のバハムーンはつまらなそうな顔をしている。クラッズの方も、ようやく  
離れられたと思った彼が再び現れ、その顔を引きつらせている。  
「まったく、何の用意もなしで、どこに行くつもりだったんだ」  
装備一式を手渡しながら、バハムーンは実に不機嫌そうな声を出す。  
「休んでてもいいんだぜ〜?元々はその予定だったんだし」  
「やれやれ、お前を放っておけるわけないだろう。ちっ、休みの予定が、とんだ割を食わされたもんだ」  
そうぼやく彼に、ドワーフは笑顔を向ける。  
「けど、ついて来てくれるんだろ?お前ならそうしてくれると思ったぜ」  
「ふん。期待に沿えて光栄だ」  
「つ、ついて、来てくれるん……だぁ…。あはは……は…」  
引きつった笑顔を向けるクラッズに、バハムーンは蔑むような視線を送る。  
「貴様のような下等種族と、こいつだけをトハスなんぞに送り出せるか」  
「こいつ、口は悪いけどさ。そんな悪い奴じゃないから、心配しなくていいぜ」  
恋人の証言ほど、信用ならないものもない。今では、クラッズの心の中は友達に対する心配より、自分の身に対する心配でいっぱいに  
なっていた。  
 
地下道入り口に着くと、ドワーフは重装備に身を包み、ポジショルを唱えた。  
「……ん、もうポストL2にいるみたいだな。すぐ追いかければ間に合うかな」  
「さっさと追いつくぞ。こんな奴等のために、無駄な時間を食いたくはない」  
「だぁから、そういうこと言うなっての!」  
「あの……ほんと、ごめんね。でも、ありがとう」  
申し訳なさそうに言うクラッズ。だが、バハムーンは彼女を一瞥しただけで、あとは無視を決め込んだ。  
「気にすんなって。さて、早く追いつかなきゃいけないのは確かだし、頑張るかー!」  
ドワーフが言うと、バハムーンは何も言わずに先頭に立ち、地下道へと歩き出した。二人もすぐに、その後をついて行く。  
正直なところ、クラッズは二人にさほどは期待していなかった。自身もそれなりに実力はあり、何よりいつも一緒にいる相方の実力は  
飛び抜けたものである。とにかく探索好きで、戦闘も嬉々としてこなす彼女に比べ、この学校でも有数の問題児である二人が、それほどの  
実力を持っているとは、とても思えなかったのだ。  
が、最初の戦闘から、クラッズは目を見張った。バハムーンもドワーフも、今まで見た中でも相当な実力者である。ドワーフは重装備で  
敵の攻撃を弾き返し、相手によって魔法と物理攻撃とを使い分け、的確に回復もこなす。  
バハムーンの方は、軽装に素手ながらも敵を一撃で打ち倒し、相手の攻撃など掠りもしない。まして、彼の吐き出すブレスは、彼女の  
相方であるバハムーンのものよりも強力だった。  
そんな二人と一緒のため、進行は異常に速い。あっという間に地下道を通り抜け、一行はドゥケット岬の中継点に出た。  
「ふう。さてと、君の友達は…」  
一息つくと、ドワーフはまたポジショルを唱えた。  
「……意外と速えな。ポストR2だ」  
「ふん。それなりの実力はあるようだな」  
「二人とも、すごく強かったんだね。私、こんなに強い人だって思わなかった」  
クラッズが正直に言うと、ドワーフは笑った。  
「オレはそうでもないって。こいつにくっついてるおかげだよ」  
「背中を預けるに値する相手がいなければ、その実力も出せんがな」  
そう言って笑う二人を見て、クラッズは少し羨ましくなった。自分の方は、盗賊と戦士という組み合わせであり、戦闘はバハムーンが、  
宝箱や扉の鍵は自分がというように役割分担されている。戦闘も少しはこなせるが、背中を預けられたことなど一度もない。  
「二人とも、ほんとに信頼しあってるんだね」  
「オレの場合、入学してすぐこいつと一緒になったからなー。……でも出会い自体は最悪だったっけな」  
ドワーフがいたずらっぽい笑顔を向けると、バハムーンは曖昧な笑顔を返した。  
「結果がよければ、過程などどうでもよかろう。さあ、話はこれぐらいにしてさっさと行くぞ。追いかけるこっちが置いていかれては  
たまらんからな」  
そしてまた、三人は地下道へと入って行った。この地下道の道のりは長く、仕掛けも複雑なものが多いが、三人ともここに来ることは  
多い。そもそも、今回は探索が目的ではないため、大して手間取ることもなく、順調に進行していく。  
信じられないほど早く地下道を抜け、一行はポストハスにたどり着いた。そしてまた、ドワーフがポジショルを唱える。  
「……よし、追いついてきたぞ!トハスL3だ!」  
「結構なことだ。さっさと見つけて、さっさと帰るぞ」  
ここまで来ると、さすがに敵も強い。バハムーンもたまには攻撃を受けるようになり、クラッズに至っては一撃でかなりの傷を負うことも  
あったが、ドワーフの援護のおかげで進行自体には支障をきたしていない。  
 
フロアを移動するごとに、ドワーフはポジショルを唱える。だんだんと両者の距離は縮まっていき、そしてトハス中央に来た時、  
ドワーフが叫んだ。  
「……よしっ、追いついたぞ!」  
「ほんと!?二人とも、付き合わせちゃってごめんね。それと、ここまで送ってくれてありがとう!あとは私、一人で探せるから…」  
そう言いかけるクラッズを遮るように、バハムーンが言葉を重ねた。  
「ドワーフ、どうせこいつを一人にさせる気はないんだろう?」  
バハムーンの言葉に、ドワーフはニッと笑った。  
「さすが、よくわかってるよなあ」  
「ちっ、そうくるだろうとは思ったが……乗り掛かった船、ということもあるか」  
「い、いいよいいよ!?そこまでお世話にならなくたって…!」  
クラッズは慌てて言いかけるが、ドワーフは優しく笑う。  
「盗賊の君一人じゃ、ここはきついだろ?それに、手分けすれば早く探し出せるしな」  
「手分け、か。なるほど、そうすれば早く帰れるな。それじゃあ、俺は向こうを…」  
歩き出したバハムーンの背中に、ドワーフが慌てて声をかけた。  
「ちょっと待ってくれよ!お前にはこの子と一緒に行ってほしいんだ」  
「は…?」  
「えええ!?」  
バハムーンとクラッズは同時に声を上げ、同時にお互いを見、同時に顔を逸らした。  
「俺より、お前が一緒の方がいいんじゃないのか?大体、俺はこんな奴と二人でなど…」  
「お前、ヒーリング使えるだろ?それに、お前強いけど魔法には弱いよな。オレは防具も見ての通りだし、いざとなったらバックドアルが  
あるし……何よりさ、俺としてはお前がついててくれる方が、安心できるんだよ」  
そう言われると、バハムーンも断りにくくなってしまう。ややあって、バハムーンは渋々といった感じで頷いた。  
「……仕方ないな。なら、お前の言うとおりにしてやる」  
「そ、そっかぁ……ま、まあ、ドワ君がそう言うなら、しょうがないか。あはは…」  
クラッズも相当に気が進まない様子だったが、手伝ってもらっている手前、拒否もできない。結局、クラッズとバハムーンは二人で  
探索をすることに決まってしまった。  
「一応、お互い何かあるといけない。探している奴が見つかろうと見つかるまいと、10分後に一度この入り口で落ち合うぞ」  
「ああ、わかった。んじゃ、お前も無理すんなよー」  
「ドワ君も気をつけてね。それと……は、早く見つかるといいよね…」  
「それはオレの台詞だろ?まあいいけど、君も気をつけてくれよな」  
三人は二手に分かれると、それぞれ別の方向へと歩き出した。  
ドワーフは一度周囲を見回し、人影がないのを確認すると近くの小部屋に入っていく。ここは非常に見通しが利くため、ざっと見回して  
見当たらないのなら、あとは小部屋か、相当遠くにいるかしか考えられない。  
たまに出現する敵は、強敵が多い。しかし幸いなことに、ほとんどが闇属性の敵であるため、僧侶であるドワーフとしては戦いやすい  
相手である。  
そうしていくつかの小部屋を回り、二重構造になっている小部屋に入った時、ドワーフは足を止めた。  
入ってすぐ左の空間、メタライトルの光が辛うじて届く場所に、誰かがうずくまっている。その制服はランツレートの物であり、  
背中の翼から、種族はバハムーンだとわかる。恐らく、彼女がクラッズの探していた相手だろう。  
 
念のため、驚かせないようにそっと近寄る。ふと見ると、彼女の前には金の箱が置いてあった。それを、彼女はじっと見つめていたのだ。  
「……何してるんだ?」  
ドワーフが声をかけると、バハムーンは顔を上げた。どことなく内気そうな、いわゆる一般にイメージされるバハムーンとは、随分と  
隔たりのある表情だった。  
「……箱」  
「いや、そりゃ見ればわかるって。お前、まさかそれ開ける気か?」  
「……開けてみようかなって思うけど、罠がわかんないから…」  
ドワーフは宝箱に向かってサーチルを唱えた。詠唱が完成すると同時に、宝箱に仕掛けられた罠の情報がドワーフの頭に流れ込む。  
「……ボムだ。結構強烈だから、開けるのはやめ…」  
ドワーフの言葉を終わりまで待たず、バハムーンは何の躊躇いもなく宝箱を開けた。  
直後、辺り一面に凄まじい爆音と爆風が巻き起こった。咄嗟に盾で防いだにも関わらず、ドワーフは爆風で数メートルほど  
吹き飛ばされる。一方のバハムーンは、腕で顔を庇っただけで、相変わらず宝箱の前に立っている。  
「痛っててて…!てめえー!!!何考えてやがんだぁー!?」  
中身を取り出そうとしたバハムーンの体が、ビクッと震えた。そんな彼女に、ドワーフは大股で歩み寄る。  
「ボムだっつってんだろうが!?どう考えてもオレ巻き込まれるだろ!?てめえ、オレまで殺す気かよ!?」  
「……あ」  
「『あ』じゃねえだろ!!!」  
これは確実だと、ドワーフは確信した。この口調といい、行動といい、クラッズの証言にぴったり一致している。  
「にしても、やっぱりお前か!あのなあ、お前友達置いてここ来ただろ!?あのクラッズの女の子!」  
「え……クラちゃん、知ってるの…?」  
「知ってるも何も、オレ達はそいつ連れてきたんだよ!ああ、今はお前探すために別行動とってるけど……とにかく来てるんだよ。  
お前を追って、あの子一人でここに来ようとしてたんだぞ!?あんないい子に、心配掛けさせんじゃねえよ!」  
一気にまくしたてるドワーフを、バハムーンはぼんやりした顔で見つめていた  
「……お前、聞いてるか?オレの話…」  
「うん」  
「ほんとかよ…?とにかく、待ち合わせすることになってるから、お前はオレと一緒に来る!いいな?」  
「うん。でも、その前に宝箱…」  
バハムーンは改めて、宝箱の中身を漁る。中から出てきたのは、何かの素材とがらくただけだった。  
「何だろうね、これ…?」  
そう言い、嬉しそうに笑うバハムーン。確かにこれは放っておけないなと、ドワーフは頭の隅でクラッズの言葉に納得していた。  
「ったく……まあ、ボムに巻き込んだのは許してやるけど、あの子には心配かけたこと、ちゃんと謝れよ」  
ぶつぶつ言いつつ、ドワーフはメタヒーラスを唱え、自分と彼女の傷を治療する。そして彼女の前に立ち、さっさと入口に向かって  
歩き出した。その後に続き、バハムーンも歩き始める。  
「にしても、こんなとこまで本当に一人で来るとか……実力があるのは認めるけど、もうちょっと周りのことも考えてさぁ…」  
説教じみたことを言いつつ歩くドワーフの背中を、バハムーンはじっと見つめている。  
「大体、勝手にいなくなるなんて最低じゃねえかよ。置手紙したからって、何でもやっていいわけじゃねえだろ?お前だって、あの子の  
性格はよくわかってんだろうにさー」  
「……ふかふか……小っちゃい……でも男の子…」  
ぼそりと、バハムーンが呟いた。  
「なのに……んお?何か言ったか?」  
「……ううん」  
「そうか?じゃあ空耳か…」  
 
意外と早く見つけてしまったため、まだ合流するまでには時間がある。入口に着いた二人は何をするでもなくボーっとしていたが、  
やがてドワーフが妙にそわそわし始めた。最初はバハムーンも気にしていなかったのだが、ドワーフの落ち着きはなくなる一方である。  
一体どうしたのか尋ねようとした瞬間、ドワーフが一瞬先に口を開いた。  
「悪りい、ちょっとオレ外すからさ、お前はここで待っててくれよ」  
「……どうしたの?」  
「えっと……その……しょ、小便だよ!だから、いいな!?絶対来るなよ!」  
そう言い、近くの小部屋の影に向かおうとするドワーフに、バハムーンが声をかける。  
「その辺でしちゃえばいいのに…」  
彼女の言葉に、ドワーフはビクリと体を震わせた。  
「え、ええっと……い、一応女の子の前で、んな真似できるかよっ!」  
「一応って…」  
「う、うるせえ!言葉の綾だ!とにかく、来るなよ!ほんとに!」  
そう言い残して壁の裏に消えるドワーフを、バハムーンはボーっとした顔で見送っていた。  
当然、すぐに戻るだろうと思っていたのだが、思ったよりも時間がかかっている。おまけに、辺りのモンスターの気配も濃い。  
少し悩んだ後、バハムーンはのそのそとドワーフの消えた方へ歩き出した。これでも一応は、彼女なりに気を使っているのだ。  
ドワーフが消えた壁の向こう側に回ると、比較的近くにドワーフがしゃがみ込んでいるのが見えた。  
「……おしっこじゃなかったの?」  
「えっ!?わっ!?」  
突然話しかけられ、ドワーフは大慌てで顔を上げた。  
「てっ、てめえ来んなってっ……ちょっ、おい!こっち来んなってば!!!」  
「……あれ?」  
その時、バハムーンは気づいた。ドワーフの股間には、男にあるべきものが存在していない。そして用の足し方は、女そのものである。  
「てめっ……どうして待ってろって…!くそっ、こっち見んな!」  
「もしかして……女の子?」  
股間を拭き、がちゃがちゃと慌ただしくズボンと腰の鎧を付け直しつつ、ドワーフは彼女の顔を睨んだ。  
「うるせえなっ!オレは女じゃねえ!!男だ!!」  
「……でも、女の子…」  
「うるっせえなあ!!オレは男だったら男なんだよっ!!女じゃねえんだよ!!」  
だが、ドワーフの言葉など、既に彼女の耳には入っていなかった。  
目の前にいる、小さくてふかふかの毛を持つ、まるでぬいぐるみのような女の子。  
―――すっごく可愛い…。  
クラッズがここに来ていると、ドワーフは言った。『オレ達は』とも言っているので、他にも仲間がいるかもしれない。となると、  
近々この小さな子とは別れることになるかもしれない。  
―――可愛い子……でも、もうすぐお別れ……その前に、一回ぐらい…!  
自分を見る目の変化に気付き、ドワーフは思わず後ずさった。  
「お……おい、何だよ…?な、何するつもり…」  
その言葉が終わるより早く、バハムーンはドワーフを抱きかかえていた。そして、一目散にゲートへと走り出す。  
「お、おいっ!?何するんだよっ!?バ、バハムーン!!!助けっ……むぐぅ!?」  
叫ぼうとしたドワーフの口を押さえ、彼女はゲートへと飛び込んだ。そして後には、元のようにただ静寂が満ちていた。  
 
ドワーフと別れたバハムーンとクラッズは、黙々と反対側のゲートを目指して歩いていた。クラッズからすれば彼には話しかけ辛く、  
バハムーンからすれば彼女とは話したくないのだ。なので、二人の間には非常に気まずい空気が漂っていたが、やがてクラッズが  
それに耐えきれなくなった。  
「あ、あのぉ〜…」  
「……なんだ?」  
「あの、さ……バハ君って…」  
「バハ君だぁ?」  
「あっ!?えっと、そのっ!嫌ならその呼び方やめるけど、別に悪気があったわけじゃっ…!」  
大慌てで弁解するクラッズに、バハムーンは面倒臭そうな顔を向けた。  
「……別に、呼び方など何でも構わん。で、俺がどうした」  
何とか許しを得て、クラッズはホッと息をついた。  
「あの、別に大したことじゃないけど……何か、その、悪い噂ばっかり聞いてたんだけど…」  
「全てではないにしろ、大半が事実だ。否定はしない」  
「でも、今のバハ君って……その〜、思ったより悪い人じゃないような…」  
「女に興味はない。それに…」  
そこで一度言葉を切ると、バハムーンは微笑を浮かべた。  
「今はあいつがいる。男であっても、他の奴にはさほど興味はない」  
本当に、噂ほど悪い人ではないのだろうと、クラッズは思った。彼は確かに問題児なのだろうが、少なくとも悪人ではない。  
「と、ゲートか。ここまでの小部屋にも人影はなかったな」  
「あれ、ほんとだ。じゃあドワ君、合流できてるかな?」  
「あるいは、先に進まれたか、だな。いずれにしろ、一旦戻るとするか」  
懐に入れてきたフレンチトーストを齧りつつ、バハムーンは元来た方へ歩き出す。クラッズも小腹が減ってはいたが、さすがにまだ  
彼から食べ物をたかろうという気にはなれない。  
橋のようになった狭い道を抜け、来るときに通ったゲートへと戻る。見たところ、まだドワーフはいないようだった。  
「ドワ君、いないね」  
「あいつは一人だからな。少し時間がかかっているんだろう」  
特に深く考えず、二人はドワーフを待つことに決めた。しかし、いくら待ってもドワーフが来ることはなく、その気配すら感じられない。  
時間が経つごとに、バハムーンの顔は険しくなり、クラッズの顔にも不安が募る。やがて、とうとう約束の時間を過ぎた時、バハムーンが  
のそりと動いた。  
「いくら何でも遅すぎる。探しに行く。お前はここで待っていろ」  
「一人じゃ危ないよ!私も…!」  
後に続こうとしたクラッズを、バハムーンはギロリと睨みつけた。  
「俺は、あいつからお前を任されている。お前を危険に晒すわけにはいかない。わかったらそこにいろ」  
「……わ、わかった、ごめん…」  
言葉よりも視線に威圧され、クラッズは足を止めた。それを確認して、バハムーンは歩き出した。  
 
「でも、バハちゃんもどうしたんだろ……もし会ってても、ドワ君男の子だから平気だろうけど…」  
そんなクラッズの呟きを背中に感じながら、バハムーンはドワーフを探し始めた。もしもモンスターにやられたのであれば、どこかに  
死体が残っているはずだ。あるいはバックドアルで逃げたのならば、ここには何の痕跡も残らない。  
できることなら後者であってほしいと思いつつ、バハムーンは近くの小部屋の周囲を見回っていく。その時、足元の壁と床に黒い染みが  
あるのを見つけた。その臭いから、どうやらここで誰かが用を足したらしいことはすぐにわかった。  
―――この染みの付き方……女か。  
臭いがあるということは、これはまだ新しいものである。バハムーンはその場にしゃがみ込むと、その染みに軽く触れてみた。  
思った通り、まだ僅かに温もりが残っている。となると、ここについ数分前まで誰かがいたのだ。  
突然、バハムーンの脳裏にクラッズの呟きが蘇る。直後、バハムーンはゲートへと駆け戻り、驚くクラッズの胸倉を掴み上げた。  
「きゃあぁ!?や、やめてぇ!!わわわ、私、女の子だし、バハ君となんかできるわけっ…!」  
「答えろ!!貴様、さっきドワーフが男だから平気だと言っていたな!?」  
「……へ?」  
「なら、もしあいつが女だったらどうなるというんだ!?さっさと答えろ!!」  
質問の意図はわからなかったが、彼の目には、はっきりと焦りの色が浮かんでいた。  
「え、ええっと……あの子、小さい女の子が好きで……それで、その、その好きっていうのが、バハ君が男の子を好きだっていうのと  
同じ意味で……それで、たまに暴走して…」  
バハムーンの顔色が、目に見えて変わった。  
「そういうことか…!くそ!やっぱりあいつを一人にするんじゃなかった!」  
「ちょ、ちょっと待ってバハ君!一体何!?どうしたの!?」  
ゲートに飛び込もうとする彼の腕を、クラッズが間一髪で掴んだ。  
「貴様の連れにバレたようだ!あいつは男だが女だ!」  
「え?な、何それ?どういう意味…?」  
「心が男であるだけで、体の方は女だということだ!貴様らにわかりやすく言うなら、あいつは男のふりをした女だ!」  
「え……ええええ!?じゃ、じゃあ本当はドワ君じゃなくって、ドワちゃん…!?」  
「ここで話してる暇はない!向こうで会わなかった以上、あいつらはこのゲートの先だ!お前はここにいろ!……くそ、ふざけるな…!  
あいつに何かあったら、絶対に許さんぞ…!」  
「待ってよ!わ、私も行く!バハちゃんのことなら、私にだって責任あるもん!」  
ゲートに飛び込むバハムーンの後を追うクラッズ。まったく場違いながら、クラッズはドワーフのためにここまで焦る彼を見て、  
ほんの少しだけ、ドワーフが羨ましいと思っていた。  
 
ゲートの先はマップナンバー43番。いくつもの小部屋とダークゾーンの存在するマップである。そんな場所故に、ドワーフをさらった  
彼女にとっては好都合だった。ダークゾーンを走り抜け、適当な小部屋に到着すると、バハムーンは部屋の隅にドワーフを下した。  
「て、てめえ何しやがるんだよ!?勝手にこんなところまで来やがって…!」  
「……君、可愛いから…」  
「うるっせえ!可愛いとか言うな!!大体、可愛けりゃ何だって…!」  
「……可愛がってあげる」  
その目に宿る異様な光に、ドワーフはようやく気付いた。それはかつて、現在の彼氏であるバハムーンに向けられたものと酷似していた。  
「お、おい…!ふざけんな…!て、てめえ、それ以上近寄るんじゃねえ!!」  
「男の子みたいな言葉遣い……可愛いけど、本当に男の子みたいだよ…?」  
「『みたい』じゃなくって、オレは男だっ!女じゃねえっ!」  
その言葉に、バハムーンは首を傾げた。  
「……でも、女の子だよね?」  
「ぐっ……そ、それは、その、体はそうだけど……で、でもオレは男なんだよっ!男だったら男だっ!」  
「……女の子なのに?」  
「だぁから男だっつってんだろうがっ!体は女でも、男なんだよっ!」  
「…………よくわかんないや」  
「わかんないで済ませるんじゃねえっ!!!わかれよっ!!!」  
しかし、もうバハムーンは考えるのをやめたらしく、ゆっくりとドワーフに迫ってくる。身の危険を感じ、ドワーフはスターダストを  
構えた。それでも歩みを止めない彼女に向かい、ドワーフはとうとう本気で攻撃を仕掛けた。  
咄嗟に、バハムーンは剣で防ぐ。そして鎖が巻き付いた瞬間、バハムーンは思い切り引っ張った。  
「うわっ!?」  
ドワーフの手から、スターダストがすっぽ抜ける。それに気を取られた瞬間、バハムーンはあっという間に距離を詰め、ドワーフの  
両腕を掴んだ。  
「く、くそぉ!放せ!放せよ!!」  
「暴れないで。危ないから」  
「じゃあやめろって……う、うわあ!」  
バハムーンはドワーフの腕を掴んで持ち上げ、片手で器用に腰鎧を剥ぎ取っていく。ドワーフは足をばたつかせて抵抗するものの、  
腕だけで吊るされる痛みのため、大した抵抗にならない。  
「て、てめえやめろ!もうやめろよ!ふざけんな馬鹿!やめろってば!」  
ドワーフの言葉に、バハムーンが耳を貸す気配はない。鎧を剥ぎ取り、さらにズボンを剥ぎ取り、とうとうその手がパンツにかかる。  
「よせーっ!やめろ!!やめてくれよ!!もうやめろぉー!!」  
「大丈夫、気持ちよくしてあげるから」  
「しなくていいからやめろって……うあっ!」  
とうとう最後の下着まで剥ぎ取られ、ドワーフは尻尾で股間を隠し、バハムーンを睨みつける。そんなドワーフに構わず、  
バハムーンはその尻尾をどかしにかかる。  
「よせぇ……み、見るなぁ…!」  
「……毛だらけでよくわかんない」  
バハムーンは空いている腕でドワーフの片足を上げさせ、ついでに尻尾を掴む。足が上がったおかげで、毛の間に小さな割れ目が  
はっきりと見えるようになる。  
 
「畜生…!見るなよぉ…!」  
「きれいだね……自分でしたりとか、しないの?」  
言いながら、バハムーンは尻尾を放し、そこに指を這わせた。途端に、ドワーフの体がピクッと震える。  
「うあっ……やめろ、触るなぁ…!」  
そうは言っても、ドワーフの体はバハムーンの刺激に素直に反応し、いくらも触っていないにもかかわらず、そこはじんわりと  
湿り気を帯び始める。  
「敏感なんだ?思ったより慣れてるみたいだけど……中は、どう?」  
全体を優しく撫で、指で割れ目を開かせると、バハムーンはゆっくりと指を入れた。その瞬間、ドワーフの全身がビクンと震えた。  
「い、痛ってぇ!やめろっ、もうやめろぉーっ!!」  
「きつい……もしかして、初めてなの?」  
その感触とドワーフの反応から、まず間違いないようだった。この、ふわふわで小さな女の子が、しかも処女だということに、  
バハムーンの胸はいやが上にも高鳴る。  
「うう……そこ触るなぁ…!オレは女なんかじゃ…!」  
「どうして?気持ちいいのに…」  
「だから、さっきから言ってんだろ…!?オレは、女じゃねえ!!」  
ドワーフは涙目になりつつ怒鳴るが、バハムーンはやはり首を傾げるだけだった。  
「……気持ちいいのに、もったいないよ」  
「もったいなくねえからやめろってんだよっ!!いい加減に……あっ!?」  
続く言葉を完全に無視し、バハムーンは割れ目に舌を這わせた。  
「うああ!やめろぉ!!やめ……んあっ……お、オレは女じゃ……んんっ!」  
バハムーンの舌が、優しく秘裂を舐める。襞をなぞり、敏感な突起をつつき、そして中へと侵入する。  
「ふあぁっ!?や、やだ……嫌だぁ…!うあっ!も、もうやめて……くれぇ…!」  
力なく哀願するも、バハムーンはその声にますます興奮し、舌の動きもそれに従って激しくなる。  
「こ、こんな……あうっ!あんっ!……ち、ちくしょぉ…!」  
女そのものの喘ぎ声が漏れる。無意識に出た声に、ドワーフは唇を噛む。それと同時に、バハムーンも顔を離した。  
「可愛い声……気持ちいいでしょ…?」  
「やめ……ろ…!頼むから、もうやめてくれよぉ…!」  
言ってから、思わず涙が浮かんだ。これほどまでに自分が女だと思い知らされたことは、今まで一度もない。  
「……どうして泣くの?」  
「オレは……女じゃ、ねえ…!」  
「女の子じゃなかったら、そんなに気持ち良くなれないよ」  
彼女としては、特に深く考えずに出た言葉だった。しかしその一言は、ドワーフの心を挫くのに十分な力を持っていた。  
「う……うええぇぇ…!」  
「……泣かないで。もっと、気持ち良くしてあげるから」  
 
バハムーンは再びドワーフの秘裂を開かせると、そこに舌を這わせる。尖りきった突起を転がすようにつつくと、途端にドワーフの  
体が跳ね上がる。  
「うああっ!そこは、やめっ…!」  
「ここ、好きなんだ…?中の方の気持ちよさも、教えてあげる」  
言うなり、バハムーンは敏感な部分にキスをし、ドワーフの中に舌を突き入れた。既にだいぶ昂らされ、さらに体内で舌が動き回るという  
未知の快感に、ドワーフの体はガクガクと震えた。  
「や、やめろ!!やめろぉ!!うああああ!!!こ、こんなの嫌だぁ!!んあっ……し、舌動かすなぁー!!」  
ドワーフは叫び、必死に抵抗しようとするが、強すぎる快感の前にそれも叶わない。  
どんどん強くなる、『女』としての快感。恐ろしく不快な快感。自身の秘部から伝わる感覚は、何のごまかしも利かない、純粋な  
女としての感覚だった。  
頭に白いもやがかかり、体が浮き上がるような感覚を覚える。それが何であるかを悟り、ドワーフは最後の力を振り絞り、叫んだ。  
「嫌だぁ!!嫌だぁー!!!こんなのでイきたくねえよぉ!!イきたくない!!やだっ……あ、ああっ!!」  
そんなドワーフの顔をちらりと見上げ、バハムーンは笑った。  
「無理しないでいいのに……イッちゃえ」  
ドワーフの体内でさらに激しく舌を動かし、内側を強く舐め上げる。ドワーフの体が、ビクンと震えた。  
「やだ……あ、ぐぅ、あ、ああああぁぁぁぁ!!!!」  
一際大きな声で叫び、ドワーフの体が思い切り仰け反る。体は小刻みに震え、しかしその顔には強い絶望の表情が浮かんでいた。  
「ああ……あ……ぁ…!」  
やがて、その体から力が抜けていく。それと同じくして、堪えきれなくなったかのように、涙が一粒、頬を伝った。  
「あぁ……イかされ……たぁ…」  
涙声で、ドワーフが呟いた。絶望に打ちひしがれたような、悲しみに満ちた声だった。  
そんな様子には微塵も気づかず、バハムーンは顔に付いたドワーフの愛液を舐め、妖艶に笑う。  
「ふふ、可愛い……中の気持ちよさ、もっと教えてあげる…。だから、初めて……もらっても、いいよね…?」  
ドワーフにとっては、死刑宣告にも等しい言葉。しかしその言葉は、もはやドワーフには届いていなかった。  
 

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