-フェアリーPT:男性陣-
「で、だ。前回のバレンタインの時のことは覚えてるな?」
「あぁ、『一日遅れのバレンタイン』でしょ?忘れるはずがないよ」
「小生は忘れたくても忘れられないバレンタインだったけどネー、ヒヒヒ!」
「……俺、今まで生きてきた中でそんな皮肉を込めた笑い、聞いたことねぇよ……」
今日はホワイトデー。
バレンタインデーとは打って変わって恋する青年の為の日……ではなく、チョコレートを貰ったお返しをする日である。(ヒューマン談)
こうしてヒューマン、クラッズ、そしてフェアリーと男三人でフェアリーの寮に集まり、話し合いをしていたのである。
「まぁ、だ。あの出来事を繰り返さない為にだな……フェアリー!ぬかりはないな?」
「耳に胝が出来るほど聞かされたからね……ちゃんとフェルパー達には昨日のうちに言っておいたよ」
「よぅし、よくやったフェアリー!それじゃあ今日の探索は休み!ホワイトデーの作戦を練るぞ!」
「小生は別にお返しはいらないよネー?」
「却下」
その後クラッズとヒューマンの言い争いが続いたが、フェアリーが場を静めクッキーを買わせるべく購買へと向かわせた。
-フェアリーPT:女性陣-
「それにしても……フェアリーにしては珍しいよねぇ?『急遽、明日は探索は休みにするから』なんて」
ワッフルを口に運びながらフェルパーはエルフ達に話しかける。
どうやら女性陣は食堂で話し合っていたようだ。
「それでしたら、きっとホワイトデーだからではないでしょうか?」
ケーキを食べていたセレスティアがフェルパーの疑問の答えを返す。
「ほわいとでー?」
「貴女……本当に何も知らないんですわね」
優雅にパフェを食べていたエルフが食べる手を止め、フェルパーを見る。
「ホワイトデーというのは、殿方が女性にチョコを貰ったお返しをする日ですの。バレンタインの時にチョコをあげてなければ、当然お返しは貰えませんけど」
「へー……僕の暮らしてた所ではそんなことしてなかったからなぁ……。あ!じゃあ僕はお返し貰えないのか……」
食べかけのワッフルを皿に置き、耳を伏せて悲しそうな顔をする。
「チョコはあげてなくても、気持ちはあのキスで届いたはずですよ。元気をだしてください」
セレスティアがニコリとフェルパーに微笑みかける。
「うん……そうだよね!」
フェルパーもセレスティアに笑い返す。
その様子を見ながらエルフは微笑んでいた。
-???PT:女性陣-
「渡せるかな?渡せるかなぁ?うー、緊張してきたぁ〜!」
そう言い落ち着き無くパタパタと歩き回っているのは、見た目よりずっと年下に見えるクラッズだった。
「ふむ、リーダー殿も女の子に戻ることがあるのだな。普段からでは想像もできん」
ディアボロスがクラッズを小馬鹿にするように平然と言い放つ。
「そういうお主が手に持ってるそれはな〜に〜?」
「あっ、こら!返せ!やめて!」
大事そうに抱えていた小袋をクラッズに取られ、顔を真っ赤にしながら取り返そうとする。
「この口調の割には純情乙女め!だからあの男共にドMと罵られるのだぞ!」
ビシッとディアボロスを指差し、そのままほっぺをグリグリする。
「ええい!返せ!」
「あー、わしのチョコレートクッキー返せー!」
「私のだ!そしてどうしてチョコレートクッキーだとわかった!」
「匂いと感だ!レンジャー学科舐めるなぁ!」
「無駄なことにレンジャースキルを発揮するな!罠解除率零のダメレンジャーめ!」
「五月蝿い、お主が解除してみろ!気配バレバレのダメ忍者め!」
寮内に言い争いが虚しく木霊した……
-クラッズPT:男性陣-
パシン
「で?あのドMとダメチビは何をやっているんだ?」
カチャ
「どうやらバレンタインの時にチョコレートを渡せなかったとかでー……」
パシン
「チョコレート関係の物を渡しに行くらしいお」
カチャ
「へー……まさか俺達にじゃないよな?バレンタインの時に貰ってないし」
パシン
「ロン。平和、混全帯口九、二盃口、混一色、ドラ二で三倍満だドワーフ」
「ノームてめぇ、俺に何の恨みがあって三倍満だコラ!」
「早くよこせ、子三倍満で二万四千円だ」
ぐちぐち言いながらもノームに二万四千円を払うドワーフ。
「あーあ、なけなしの金が……」
「勝てば良いんだよ」
「知ってらい!コノヤロー!」
ニヤリと黒い笑みを浮かべるノーム、うっすら涙を浮かべるドワーフ。
バハムーン、フェアリーがやれやれといった表情をし、バハムーンが口を開く。
「ほら、凹むなドワーフ。もう一局やろうぜ」
「うぃ、今度こそ負けねーぞ!」
ジャラジャラと音を立てまた麻雀をやりはじめる。
「よーし、今度はおいらが親だお!」
フェアリーがさっと手牌を見た後に口をあんぐりと開ける。
「て……天和……だと……?」
「「なにぃ!?」」
「まぁいいや、元はドワーフの金だ」
なんだかんだで平和だった。
-フェアリーPT:男性陣-
「な……何で俺らが……」
「力仕事は自分には堪えるよ……」
「小生は今回は見学ということデー……」
「却下」
現在フェアリー達はクッキー生地を練っていた。
何故こうなったかというと、クッキーを買いに購買へ行ったところ、トレネッテに『手作りの方が思いが伝わる』と言われ、手作りせざるをえなくなったからである。
「あーもう!やってられん!」
「モンスターを相手にしてる方がっ!楽だよっ!」
「二人ともエプロン似合ってるヨー、ヒヒヒ!」
「クラッズ!お前も生地作りをしろー!」
ヒューマンの怒号が響いたが結局クラッズがクッキー作りに参加することはなかった。
-小一時間後-
「やっとできた……」
「後は焼けば良いんだよね?」
「あぁ、後はオーブンで」
「ファイヤー!」
クッキー生地を炎が包みこむ。
薄く伸ばされた生地は火力に耐え切れずに灰になってしまった。
「あ……阿呆ー!フェアリー、おま、ゲフンゲフン!お前なんてことを……!」
「お、落ち着いて!焼けば良いっていうから……」
「火力が強すぎだ!」
「一からやり直しだネー、ご愁傷様、ヒヒッ!」
そこでまたヒューマンの怒号が響き、フェアリーが謝り倒していた。
-クラッズPT:女性陣-
二人は罵り合っていた時に(主にクラッズが)散らかした物を片付けながら会話する。
「あの人達、何処にいるかなー?」
「食堂じゃないか?」
「よーし、食堂へ行こー!」
片付ける手を止め、クラッズが扉の方へと走っていきそのまま蹴り飛ばす。
扉は凄い音をたてながら外れんばかりに勢いよく開いた。
「お、おい勘弁してくれ。ここは私の寮であってリーダー殿の寮じゃ」
「細かいことは気にしない!さぁ、出発ー!」
まだまだ散らかっている部屋、若干壊れている扉を見て少し涙目になりながらも先へ行ってしまうクラッズの後を追いかけた。
-フェアリーPT:女性陣-
「やっぱり……毎日の日課が潰れるとやることがありませんわね」
そう言いながらもパフェを食べる手を止めないエルフ。
「エルフは食べ過ぎだよー。食堂のパフェ、制覇しちゃうんじゃない?」
「既に二十六種類目ですからねぇ……」
「う、五月蝿いですわね!量が少ないからですわ!」
エルフにそのように言われ、フェルパーは並べられたパフェの容器を見る。
「これ……結構大きいんじゃない?」
「う……そ、そうですわね……。でもわたくしは食べても太らない体質だから食べてるのですわ!」
「いくら太らないからといって食べ過ぎは毒ですよ」
セレスティアに窘められ、エルフはそっぽを向いた。
「魔法使いは頭の回転を良くするために甘いものが必要でしてよ!……だからあと四種類だけ、ね?」
セレスティアに顔を向け直し、片目を瞑りお願いする。
普段はお願いはしない彼女だが、そうしまで食べたい位パフェが好きなのだろう。
「しょうがないですねぇ……あと四種類だけですよ」
やり取りの一部始終を見て、フェルパーがのほほんとした顔で笑う。
「何か親子みたいだねー。セレスティアがお母さんで、エルフが娘?」
「そうですか?」
「確かに……セレスティアは良いお母さんになれそうですわね」
「エルフさんまでからかわないで下さい!」
言葉こそは怒っていたが、セレスティアは満更でもない顔をしていた。
「……どうしたのかな、あの人達。三回目だよ、ここ通るの」
フェルパーが人を視線で追う。
視線の先にはクラッズどディアボロスの女の子がいた。
「え?あぁ、あの人達、まだ居たんですわね。大方誰かと待ち合わせかしらね?」
「手に小さな袋も持ってますしね……。あれ、探し人が居なかったのですかね?」
三人は諦めた表情をした女の子達が食堂から出ていくのを見届けた。
-クラッズPT:女性陣-
「誰かなー、食堂にいるって言ったのは?」
食堂から出た後、クラッズはディアボロスに抱き着き頭をグリグリしていた。
「痛い痛い、私は『食堂じゃないか』と言っただけで、食堂にいるとは一言も」
「五月蝿いドM!少しは抵抗したらどうだ!」
「えぇ!?そこ怒るとこ!?」
クラッズに怒られ、ようやく抵抗し始めるがクラッズが離れる気配はない。
「そんなんじゃわしは離れんぞぉー!」
変なところで変な力を発揮してしまったクラッズにディアボロスは迷惑極まりないといった表情をする。
不意にクラッズの押さえ付ける手が緩んだ為、ディアボロスは慌てて抜け出した。
「スンスン……何か良い匂いがする。こっちかな?」
「そうか?私には何も匂いなどしないが……」
「レンジャー学科舐めるな!」
「関係ないだろう!」
クラッズが匂いのする(と思われる)方へとドンドン進んで行ってしまうので、ディアボロスはついて行かざるをえなかった。
-フェアリーPT:男性陣-
「出来た……」
「出来たんだねぇ……」
「良い匂いだネー」
フェアリー達はこんがり焼き上がったクッキーを見てやり遂げた表情を浮かべていた(クラッズ以外)。
「後はこのクッキーを袋に詰めて……」
「リボンを巻いて……」
ヒューマンが手際よくクッキーを袋に詰め、フェアリーがそれにリボンを巻いていく。
「小生にも一袋わけて欲しいナー?」
「例の如く却下だ」
ヒューマンとクラッズがまた言い合いをしていたが、フェアリーは違うことを考えていた。
(フェルパー……喜んでくれるかな?)
思わずにやけ顔になるフェアリー。
リボンを巻き終え、ヒューマンに三個、自分で三個持ち、調理室から出た時に不意に声をかけられた。
「あーっ、見つけたーっ!」
「いたーっ!?」
-フェアリー・クラッズPT:男性・女性陣-
不意に叫ばれたため、ヒューマンとフェアリーが驚いたよう目の前のクラッズとディアボロスを見る。
「どうだ、わしの嗅覚は!」
「まさか……本当にいるとは」
クラッズとディアボロスが何やら会話をしているが、ヒューマンがお構いなしに話し掛ける。
「み、見つけたって……君達、俺達を探してたのかい?」
「はい!その……バレンタインの時にどこにもいなくて渡せなかったので、今日チョコレートクッキーを持ってきました!」
バレンタインの時に見つけられなかったのはそれもそのはず、夜遅くまで探索をしてその後はフェアリーの寮に集まっていたからである。
「チョコレートクッキーって、私のと被って……」
「早い者勝ちでしょ?」
「えー……」
「まぁ、そんなわけで……受け取ってください!」
クラッズが小袋を前に差し出す。
だが……
「え、自分?」
「はい!」
クラッズがチョコレートクッキーをあげたのはフェアリーだった。
ヒューマンは自分に来ると思ってたのか何ともいえない表情をしている。
「え、え?あ……有難う」
「そして私のために用意してくれたと思われるクッキーを貰って行きますね!」
そう言うや、 クラッズはフェアリーの持っていた小袋を一つ引ったくり、何やら叫びながら逃げて行った。
「あっ、待って!こ、これは私からのバレンタインプレゼントです……だ!」
ディアボロスはヒューマンに小袋を押し付けるように渡すと、急いでクラッズを追いかけに行ってしまった。
二人はとても速いスピードですぐに見えなくなってしまった。
-フェアリーPT:男性陣-
「ディアボロスか……。苦手な種族に好かれちまったな、俺も」
「恋愛に種族は関係ないヨー?」
「いや、わかってる……と?フェアリー、どうした?」
フェアリーは何かボーゼンと立ち尽くしていた。
「いや、フェルパーへのメッセージカードを入れたのを持って行かれて……」
「あー……それはそれは。立ち尽くしたくなるわな」
「逆にあのクラッズの子が可哀相だヨー、今頃告白したは良いけど実は相手に彼女いましたー、なんてサー」
クラッズがヒヒヒと笑い、フェアリーを見る。
「ん、んー……何か悪いことしたなー……」
「まぁ、持ってかれたからには仕方ねぇよ。さ、エルフ達と合流しようぜ」
ヒューマンがフェアリーの背中を押し、エルフ達を探しに行った。
-フェアリーPT-
「おーい!なんだ、食堂にいたのか」
「うわぁ……なにこれ、パフェの容器?」
食堂へ真っ先に向かい見事にビンゴした。
そしてエルフ達に近付き、フェアリーがまずこの状況の感想を述べる。
「あら、探索を休んでまで今までどこにいましたの?」
「まずこのパフェは誰が食べたのか教えてくれ」
「エルフだよー。今三十種類食べ終わ」
「フェルパー、余計なことを言わないで頂戴!」
「モゴモゴ!」
フェアリーとセレスティアが苦笑いを浮かべる。
そして思い出したようにフェアリーが小袋を二つ取り出しエルフとセレスティアに渡した。
「はい、バレンタインのお返しだよ」
「まぁ、良いんですか?」
セレスティアがニコリと微笑み小袋を受け取る。
「あら……別にお返しなんて大丈夫でしたのに」
エルフは口ではそんなことを言いながら、嬉しそうな顔をしていた。
「俺も用意してるから受け取ってくれ」
「小生は用意してないから悪しからずだヨー」
ヒューマンがエルフ達に小袋を配る。
「わざわざ有難うございます」
セレスティアはやはりニコリと微笑みながらヒューマンを見る。
「意外ですわね、貴方のお返しは期待してませんでしたのに」
「フェアリーのは期待して俺のは期待してなかったのかよ」
「まぁ受け取ってあげますわ」
冷やかしながらも嬉しそうな顔をするエルフ。
そしてフェルパーが嬉しそうな声をあげる。
「わーい、ありがとう!甘いかなー、食べるのが勿体ないよー!」
口の端から涎を少し垂らしながら幸せそうな顔をする。
「フェアリーはフェルパーの分を用意してませんの?」
「あ」
フェアリーはエルフに言われ、思い出したようにこれまでのいきさつを話した。
「……という訳なんだ。」
「うにゅう……」
「だから自分はこれで許してもらおうと思うんだ」
そう言うとフェアリーは周りを見渡し、パーティー意外に誰も見てないことを確認するとそっとフェルパーの唇に自分の唇を重ねた。
「はいはい、お腹一杯ですわ」
「だな」
「ですね」
「だネー」「そんな……しょうがないよ」
「……僕は積極的になってくれて嬉しいよ」
フェルパーが猫独特の顔でニッコリと笑うと、フェアリーの手を握る。
フェルパーの顔はほのかに赤くなっていた。
フェアリーもニコリと笑うとフェルパーの手を握り返した。
-クラッズPT-
「ただいまー」
「……ただいま」
「よぅ、ダメチビとドMか。お帰り」
「……で?何でバハムーンとドワーフはパンツ一枚なの?」
「麻雀やってたら、払うものがなくなってだな……」
「うぃ、同じく……」
「今日はついてるお!」
「確かに、フェアリーはツモ率が高いね」
不審者を見るような目でバハムーンとドワーフを見るクラッズ、言い訳をするバハムーンとドワーフ、ホクホク顔のフェアリー。
ノームは相変わらずのポーカーフェイスだった。
「そ、そんなことよりお前等はどうだったんだ?」
「ふっふー、バッチリ!ちゃんとクッキーも貰ってきたし、メッセージカードも入ってる!」
「ほう、メッセージカードまで?」
「というよりリーダー殿、あれははたして貰ったと……」
「ドMはつべこべ言わない!それではメッセージカードを読み上げます!」
リボンをほどき、袋の中からメッセージカードのみを取り出し読み上げはじめる。
-フェルパーへ
バレンタインから一ヶ月たち、今日はホワイトデーですね。
もうパーティーを組んでから半年たったのに、君と出会ったことを昨日のことのように鮮明に思い出せます。
こんな頼りない自分だけど好きになってくれてありがとう。運命を信じるなら君との出会いは運命と信じます。
フェアリー-
「……」
メッセージカードを読み終わり、クラッズが口をあんぐりと開けたままになる。
「り、リーダー殿」
「……」
「ご愁傷様、だね」
「……」
クラッズの行った行為が、フェアリーとフェルパーの愛を深めたのかは定かではない。
むしろ、どちらでも愛は深まっていただろう。
しかしフェアリーを積極的にしたぶん、クラッズの行為は良い方向へ転がったのだろう。
クラッズの恋は終わってしまったが、ディアボロスの恋はどうなったのか?
それもまた別のお話。