フェアリー一行は魔女の森へ来ていた。
既に初めの森や剣士の山道では物足りなくなっていたからだ。
「ンー……疲れたネー。目眩がしそうだヨー」
クラッズが目を擦りながら溜息を漏らす。
エルフがクラッズのその様子を見て、同じく口を開く。
「クラッズもですのね……。フェアリーが道を盛大に間違えたおかげで、ワープをし過ぎたからですわ!」
エルフがフェアリーをビシッと指差し、怒号を上げる。
フェアリーはというと、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「まぁまぁ、マップは大分埋まったんだから……喧嘩しないでー?ほらっ、転移札もあるし、今日は学園に戻ろうよ?」
フェルパーが自分のポーチから転移札を一枚取り出す。
ヒューマンがそれを受け取り、皆に向かって口を開く。
「フェルパーの提案もあるし、何より雨も降ってきた。疲労も溜まってるだろうし、一旦帰ろうか?」
「えっ?あら、本当ですわ……」
「うえー、なんか僕も湿ってきたよ……」
エルフが雨を確認するとフードを深く被る。
フェルパーは顔をゴシゴシと拭っていた。
「じゃあ使うぞ。俺の周りに集まってくれ」
ヒューマンが転移札を掲げると光に包まれ、あっという間に魔法球の前へとワープしていた。
「やっぱりワープは速いなぁ……。さ、帰ろうか?」
フェアリーがいつものようにワープの感想を述べた後全員が魔法球に手を触れ、またもやあっという間に学園の校門前へとワープしていた。
「じゃあ一旦解散!雨に濡れたから風邪を引かないようにね?」
「この服気に入ってましたのに……。乾かしてきますわ」
「私は翼のお手入れをしてきますね」
フェアリーが解散宣言をした後、皆が思い思いの事をするべく散っていった。
「フェルパーは行かなくて良いのかい?」
「僕?これから寮に行ってシャワーを浴びるつもりだよー」
「覗くなよ?」
「覗かないよ!」
「フェアリーじゃなくて……コイツだよ」
「小生はより人間らしく人形を扱うための研究を……」
それからクラッズにムッツリスケベや変態などの罵声を浴びせていると、目の前に一人のヒューマンが現れた。
他の冒険者には目もくれず、明らかに自分達を待っている様子だった。
「あの……ちょっと、良いんだな?」
「うわっ、デ……」
「駄目だよヒューマン!せめてメタボって言わなきゃ……」
「顔が油でテッカテカだネー……」
フェアリー達が小声でヒソヒソと話しているときにも、メタボヒューマンはフェルパーを見ながら息を荒げている。
そんなメタボヒューマンを見ながらフェルパーが口を開いた。
「え?僕……です、か?」
フェルパーは自分を指を向けると、メタボヒューマンはテンションが上がったように鼻の穴を広げる。
「そっ、そそそ!クゥッ、ボクっ娘良いんだな!」
「しかもあれか……ちょっとイタい奴か……」
「イタいと言うか、ヤバいというか……」
「小生も初めて見たヨー……」
少し離れた所でフェアリー達がコソコソと話している内にフェルパー達の話も進んでいく。
「というわけで、魔女の森に来てほしいんだな」
「ここじゃ、駄目……です、か?」
「仲間を待たせてるんだなー……。人見知り萌え!」
さすがに困った様子でフェルパーがフェアリーをちらりと見る。
フェアリーはそれに気付き、フェルパーへと駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「僕と話したい人がいるから、魔女の森へ来てくれって言われて……」
「んー……嫌なら断っても良いんだよ?」
「仲間を待たせてるって……」
「えー……それじゃあ僕も行っていいなら」
良いよ、と言おうとしたところで話を聞いていたメタボヒューマンが叫んだ。
「ちょっと待てい、そこのフェアリー!ついて来るのは許さんが、ジェラートタウンまでなら許してやるんだな!」
ビッシィと指を真っ直ぐに指されるフェアリー。
その指を自分の口元に戻し、メタボヒューマンはニヤリと笑う。
「ただし、お前だけなんだな。他の奴らは認めーん!」
フンフンと鼻息を荒げ、いやらしい笑みに変わっていく。
さすがにフェルパーも気持ち悪く思ったのか、フェアリーの後ろに隠れる。
が、メタボヒューマンが先に行ってしまおうとしていたので諦めて後をついて行った。
「……よし、行ってこいフェアリー。あのメタボ野郎に制裁を与えてやるんだ」
あんなヤツと同種だなんて……と呟き、グッと拳を握ってフェアリーに見せる。
「いや、まだ制裁を与えるって決めた訳じゃ……。それに何もやらないだろうしさ?」
「まぁ、行ってきなヨー。小生は来いって言われても行かないだろうしネー?」
「む……まぁ、何もないと信じて俺達は待ってるからな。ただし、三十分たってもフェルパーが帰ってこなかったら突撃しろ」
「了解だよ、ヒューマン」
フェアリーはヒューマンと同じく拳をグッと握り、ヒューマンに見せる。
ヒューマンがニッと笑ってフェアリーの肩を叩き、フェアリーも先に行ってしまったフェルパー達を追いかけた。
「さて、俺も雨に濡れたバッカスの剣とか防具の手入れをしてくるか」
「……小生は初めの森で昼寝でもしてくるヨー」
「初めの森で?まあ、服も乾くからな。気を付けろよ」
クラッズは人形を頷かせ分かったの合図を送り、初めの森へと向かって行った。
「――フロトル!」
詠唱が終わったメタボヒューマンは声高らかに叫ぶ。
初めから浮遊しているフェアリーを除くフェルパーとヒューマンが地面から軽く浮いた。
「我等が大事なお姫様に傷は付けれないんだなー」
「……にゃあ」
明らかに不快そうな顔を浮かべるフェルパーに、フェアリーがボソリと声をかける。
「大丈夫?」
「僕、あの人は生理的に受け付けないよー……」
ただでさえ人見知りな上、相手の気持ち悪い外見に性格と、フェルパーがドン引きする条件は万全だった。
「大丈夫、自分もさ。」
ボソボソと会話をしながらフェアリーはニコッと笑う。
フェルパーの不快そうな顔が解れかけたときメタボヒューマンは叫んだ。
「ジェラートタウンに着いたから、そこのフェアリーには退場を願うんだな!」
「宿を取ってるから。待ってるよ」
フェアリーはそう言うと、フェルパーに手を振り宿へ向かって行った。
「ささ、魔女の森へ行くんだな。目印を付けて進んだ道で仲間を待たせてるんだなー」
メタボヒューマンはフェルパーの背をぐいぐい押し、魔女の森へと連れていった。
「目印を付けて進んだ道か……。先回りして様子を見ようか」
そこに誰かが居たことはまだ誰も知らない――
メタボヒューマンは地図を片手に、誰もが惑わされる樹海をスイスイと進んでいく。
と、そこで雨がまた降ってきた。
「ん?雨なんだな。好都……いや急ぐんだな」
メタボヒューマンがフェルパーの手を掴み、走り出す。
フェルパーが不快そうな顔を浮かべているのを知るはずもなく、例の目印を付けて進んだ道へと移動する。
「いたいた。連れて来たんだなぁー!」
メタボヒューマンは仲間と思わしきバハムーンに向かって走り出す。
バハムーンはこれまたバンダナに眼鏡、そして男なのに制服は男物ではなく女物を着ている異様な風貌で、フェルパーは尻尾を思わず逆立ててしまった。
「おい、お前の言った通り……だな!」
「我が……を間違うはずがないんだな、隊長殿!」
遠くにはいたが、一部の会話が聞こえてきた。
フェルパーは近寄りたくない気持ちを堪え、半ベソをかきながらのたのたと近づいていく。
ある程度近づいたところで、先程の異様なバハムーンがフェルパーに声をかけた。
「君、かわいいね!よかったら我々の猫娘愛好パーティーに入らないかい?」
「へっ……?」
フェルパーは思わず素っ頓狂な声を上げる。
自分の事をなめ回すように見つめる気持ち悪い人に、そのような事を言われたのだ。
フェルパーはそのまま口を半分開けてバハムーンを見る。
「もちろん、君に選択権はない。なぜなら、我々は二年であり、断ったら実力行使するからだ!」
フェルパーはサアッと血の気が引く。
噂でエルフから聞いたことがあったのだ。
『フェルパーの種族を狙って猥褻な行為を繰り返す二年がいて、襲われた人は寮に篭るようになってしまった』、と。
「我々と一緒に来たまえ!楽しいことをしてやろう!」
バハムーンはフェルパーの腕をがっしりと掴む。
「に……にゃあ!嫌ぁ!」
嫌がるフェルパーはというと、必死の抵抗でバハムーンの顔を引っ掻く。
バハムーンは一瞬腕から手を離し、折らんばかりに力を込めてまた腕を掴む。
「てめぇ……しょうがねぇ、野郎共!コイツを黙らせろ!」
明らかに怒りの表情で近くの岩陰に向かって叫ぶが返事も何もない。
「おい、いつまでも隠れてないで出てこい!」
バハムーンがそう叫ぶと、ようやく一人出てくる。
が、出てきたと同時に倒れ込んでしまった。
そしてヒョッコリと岩にもたれかかり、人形を弄っている男が出てきた。
「あれ、ごめんネー?お仲間さんだったノー?」
「クラッズ!?」
フェルパーが驚きの表情をする。
そして、バハムーンが怒号を上げた。
「おい、テメェ!そいつに何した!?」
バハムーンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
それを見てニヤリと笑い、他にいた三人を引っ張りだして放り投げる。
「ンー?ちょっと麻痺してもらっただけだヨー?」
そういうと、急にクラッズのおちゃらけた目が鋭くなりメタボヒューマンとバハムーンを見つめる。
するといきなりメタボヒューマンが叫びだした。
「うわっ、敵?隊長殿はどこに行ったんだな!?」
「なっ、敵!?敵なんかどこに……いた!見つけた!殺す!」
メタボヒューマンはパチンコをバハムーンに向かって構え、バハムーンはナックルをメタボヒューマンに向かって構えた。
「サー、行こうカー」
自由になったフェルパーの手を握り逃げようとするクラッズ。
しかし、クラッズは背中に気配を感じ、次の瞬間魔法壁ごと吹き飛ばされた。
フェルパーは振り返ると怒りに満ちた表情のバハムーンと、その後ろに血まみれのメタボヒューマンが横たわっているのを一瞬で把握した。
「幻惑とは小癪な野郎だ……」
クラッズはムクリと起き上がり、バハムーンを睨みつける。
「混乱だったか。麻痺とか石化だったら良かったものの……」
フェルパーは訳が解らないといった様子でクラッズを見る。
そこでフェルパーはいきなり激しい恐怖を感じ、寒気や吐き気等に襲われ意識を失った。
クラッズが異変に気付きメタボヒューマンを見ると、メタボヒューマンはニヤリと笑い、そして力尽きた。
「彼、幅広い魔法を使うね。うちの剣豪気取りの馬鹿ヒューマンとは全く違う」
「当たり前だ。奴は受けれる学科は全て受けた。経験は浅いが幅広く対応出来るからなぁ?」
バハムーンはゴソゴソと鞄を漁り、一枚の札を取り出す。
そしてクラッズに向かってハッと笑い、フェルパーを抱えたまま光に包まれ消えてしまった。
(奴が行きそうな場所は分かっている……が、リーダーへの報告が先だな)
クラッズも鞄から帰還札を取り出し、魔女の森から脱出した。
クラッズは急いで宿に向かい、宿帳を確認した後にフェアリーがいる部屋へと向かった。
「フェアリー!フェルパーが……さらわれた!」
ノックもせずにいきなりドアを開けたため、フェアリーがビックリしてベッドから体を起こす。
「クラッズ!どうしてここに……ていうか、フェルパーが!?」
「詳しい説明は後!いる場所は分かってる!」
クラッズはフェアリーの手を引っつかみ走り出す。
宿から出る際にはフェアリーに金を支払わせ、魔女の森へと向かっていった。
「う……」
フェルパーが目を覚ました時には雨は降っておらず、ここが洞窟というのを理解するのには時間がかからなかった。
「よう、お目覚めかい?」
焚火を焚きながらバハムーンはフェルパーを見る。
フェルパーは言い知れぬ恐怖と寒さで歯をカチカチ鳴らせ、小刻みに震えていた。
「フィアズが抜けきってねぇのか。そっちの方が好都合だけどな」
バハムーンが横たわるフェルパーに手を伸ばし、無理矢理髪を引っ張り上体を起こさせる。
「ふんふん、今回は当たりだな。かわいい顔だし……」
「……!?」
バハムーンはおもむろにフェルパーの胸を掴む。
フェルパーは悲鳴を上げたつもりだったが、声が出なかった。
「胸もでかい。いつぞやとは大違いだな」
乳房を揉みしだきながらバハムーンは笑う。
しかしフェルパーには握り潰されている感覚に近く、苦痛以外の何ものでしかなかった。
「制服が邪魔だな。まぁ、ゆっくり楽しませてくれよ?」
バハムーンは懐からダガーを取り出し制服を下着ごと切り裂いていく。
制服が切り裂かれていくにつれ、あらわになっていく乳房をバハムーンは何の躊躇いもなく握り潰す。
「にゃあっ、ああぁ……」
苦痛と恐怖で体をガタガタと震わせながら、痛みで顔をしかめるフェルパー。
しかしバハムーンが力を緩めることはなく、更に荒々しさを増す。
「さって、いつコイツを慰めて貰おうか?」
制服のスカートとパンツを脱ぎ捨て、バハムーンは既に大きくなっているモノをさする。
痛みで顔をしかめていたフェルパーの顔が絶望の物へと変わった。
「クラッズ、ここからどう進むんだい!?」
「そこを真っ直ぐ行って左!立ち止まらないで!」
フェアリーとクラッズは全速力で迷いし者が集う場所へと向かっていた。
クラッズの魔法壁を駆使しながら無理矢理駆け抜けているため、道中出て来た敵が後ろから迫っていた。
「そこの洞窟!早くー!」
「クラッズも急いでー!」
洞窟に入ったところで、フェアリーが固まった敵の群れにアクアガンを炸裂させ一掃する。
「ハァ……ハァ……で、次は?」
「此処から真っ直ぐに行って……ヒュー、それから道なりに行けば大丈夫だよ……ゲホッ」
よほど疲労していたのであろうフェアリーとクラッズはヒーラスで回復した後、また全速力で目的地へ急ぐ。
「まだ、まだ着かないの!?」
「そこ曲がって曲がって曲がって曲がればもう着くはずだから!」
クラッズに言われた通り、四回角を曲がるとそこには……
「にゃっ、い、ゃぁっ……!」
「もともと雨に濡れてたからなぁ、滑りが良いよ!」
パンッ、パンッと響く音。
パァンッ!と一際大きな音が響くと同時にバハムーンのモノからフェルパーの顔目掛け白濁が飛び出し、顔を白濁でドロドロにする。
「にゃああぁぁ!何、コレ……熱、い……!」
「あ、あぁ……うっ、げっ!」
「あちゃ、遅かった……。じゃあ小生はここで見てるからお姫様を助けて来ると良いよ」
クラッズは外していたシルクハットを見てはいけないモノを見ないよう深く被り、フェアリーを横目で見る。
フェアリーはというと、その光景に耐え切れず嘔吐していた。
やがてフェアリーの顔は怒りの表情へと変わり、叫びだしていた。
「……サマ、貴様あぁぁ!」
フェアリーは素早く詠唱を開始し、詠唱が完成したと同時に叫ぶ。
「ダクネスガン!」
闇の球がバラバラに散らばりながらもバハムーンへと襲い掛かる。
バハムーンはフェアリーの怒号に気付き、フェルパーの乳房から自分のモノを引き抜き、ダクネスガンの範囲外へと逃げる。
「あっ、馬鹿……!」
恐怖で動けないフェルパーの前にクラッズがかろうじて魔法壁を張る。
魔法壁は数発のダクネスガンを飲み込み、そして砕け散った。
冷静になってきたフェアリーはフェルパーの元へと飛んで行き、リフィアをかける。
「あ、ありがとう……僕、怖かったよー!」
フェルパーはフェアリーに抱き着き、声を上げて泣いた。
フェアリーは優しくフェルパーの頭を撫で、声をかける。
「大丈夫?まずその汚らしいモノ、拭いてあげるよ」
汚らしいモノと言われ、バハムーンは顔を歪ませる。
そんなバハムーンなど気にも止めずにフェアリーはフェルパーを一旦離し、高級な布で顔、髪、乳房など、体中についた白濁を丁寧に拭う。
そしていつも着ている服を脱ぎフェルパーに渡す。
「大きさが合わないけどこれを着て、あっちにクラッズがいるからそっちで待ってて……」
やー、制服姿なんて久し振りだな、などと呟きながらフェルパーがクラッズの元へ行ったのを確認する。
そして転移札を取り出し、それを掲げるとフェアリーが光に包まれる。
「転移札……?ハッ!背後に回って襲撃なんて見え見えだ!」
スカートをはき直し、バハムーンは後ろを向く。
すると、先程見ていた方向から声が聞こえた。
「考えすぎ、さ」
バハムーンは背中にグッと手を押し当てられる。
急いで振り返ろうとするが、既に遅かった。
「――サンダガン」
冷たく放たれた言葉と同時にバハムーンの体に電流が流れる。
「アガ、ァガガガガッ、アアアァァ!」
「……終わった、ね。君は雨に濡れた、と言っていたから」
全身がピクピクと痙攣しているバハムーンに向かってニコリと笑うフェアリー。
フェアリーはバハムーンを尻目に、クラッズの方へと飛んでいく。
「……!フェアリー、後ろっ!」
フェルパーが叫び、フェアリーが咄嗟に横へと避ける。
飛んできたダガーはフェアリーの右手の一部をえぐり、飛んでいった。
フェアリーが振り向くとバハムーンが不敵な笑みを浮かべていた。
「……!サンッ……」
サンダガンを詠唱する前にフェルパーが弾丸の如く飛び出していき、次の瞬間にはミスリルソードでバハムーンの首を跳ね飛ばしていた。
「フェル、ぱぁ?」
フェアリーが口をパクパクとしており、クラッズがやれやれといった表情をする。
フェルパーはミスリルソードを鞘に納め、フェアリーの方へと歩き出す。
「……ごめんなさい!僕があんな怪しい奴に付いていったばかりに、こんな目にあわせちゃって……」
「いや、その……いや大丈夫だよ。じゃなくて!フェルパー、あれ……」
フェアリーがバハムーンだった物を指差す。
「どうせ救助されるでショー?あんな変態、放っておいてもいいヨー」
クラッズがへらへら笑いながらフェアリーに近づく。
どうやらいつものクラッズに戻ったようだ。
「そう……だね。じゃあ、学園に戻ろうか!」
フェアリーはそう言うと帰還札を取り出し掲げた。
ジェラートタウンに帰還し、魔女の森の魔法球を使って学園へと戻る。
フェアリー達は心なしかほっとした顔になっていた。
「今度こそ僕はシャワーを浴びたいよ……。まだ髪もべとべとするし……」
「念入りに洗った方が良いよ。せっかくサラサラした綺麗な黒髪なのに……」
「はーい、フェアリーは保健室ネー」
フェアリーはクラッズに連れられ保健室へ、フェルパーは自分の寮へと戻っていった。
そして夜、食堂にはヒューマン、クラッズ、エルフ、セレスティア、フェルパーが揃っていた。
「よう!ようやく来たな。」
「遅いですわ!食事のリズムが狂えば生活のリズムも狂いますわよ!」
「まずお腹ペコペコだよー」
「右に同じく、だネー」
「では報告しながら食べましょうか」
「の前に……どうしたの?皆集まって……」
それからの話を聞くかぎりではクラッズが重要な話があるらしく集まったらしい。
「実は小生……」
「ねー、クラッズ。あの時に使った幻惑って何?」
「話を聞いてれば分かるヨー。実は小生、両親が暗殺専門の忍者だったんだよネー」
「「「「!?」」」」
「にゃ?」
「幻惑も忍者の技の一つでネー。小さいときから忍者の基礎から技まで全部叩きこまれて」
遠い目でほうっと息を吐くクラッズ。
「い、今でもできるの?」
「今はあんまりだネー。情報収集、追跡はお手の物だヨー。」
「じゃあ、あの時に言った『ついて来いって言われても』と『初めの森で昼寝』は……」
「あのメタボ君が例の……フェルパーを性的な意味で襲う二年だって知ってたから、ネー。それと言われても言われなくても『追跡』はするつもりだったからネー」
クラッズの発言に場が凍り付く。
「さ、先に言えー!馬鹿クラッズ!」
「うるさいナー、剣豪気取りの馬鹿ヒューマン」
「な、なぜ忍者学科ではないのですか?」
セレスティアが気をきかせ話題を変える。
「忍者だと見たくない物を見ちゃうからネー、おちゃらけていられる人形使い学科を選んだんだヨー」
クラッズはヒヒヒと笑い、そしてフェアリーへと話題をふる。
「そういえばフェアリーって、怒ると恐いよネー?」
「そうなの?意外ですわね」
「んー、強いて言うなら、自分は大切なモノを守るときには抑制が効かないんだよね」
「僕って物なの?」
「人の意味の者かもしれないヨー?」
「オホン!で、次はフェルパーに質問だよ?フェルパーはどうして」
「フェアリー……右手大丈夫か?」
ヒューマンがフェアリーの右手の包帯を見て心配した表情を浮かべる。
「待って、言いたいことを忘れるから!えーと……そうだ!どうしてミスリルソードを持ってたんだい?」
「そ、それは……クラッズが……くれて……」
どんどんフェアリーから顔を背けていくフェルパー。
「クラッズ、どうやって……」
「麻痺させた奴が持ってたから貰ってきたんだヨー」
フェアリーが頭を押さえてやれやれといった表情で首を振る。
そこでヒューマンが話しかけてきた。
「フェアリー、右手……」
「え、あぁ、大丈夫だよ。自分は左利きだから」
「えぇ!?」
「意外ですわ……」
「それは馬鹿にしてるのかな?」
「気付かないものですね……」
「にゃあ」
「そんな、セレスティアにフェルパーまで……」
嫌な思い出も良い思い出に変えていこう。
きっと懐かしく思えるときが来るから……
そう心に決めたフェアリーとフェルパーだった。
後日、救助された猫娘愛好パーティーの方々は保健室で治療された後、退学処分を受けましたとさ。