死亡者数、18名。うち、ロスト6名。  
この月は死者がやや多く、一つのパーティがロストするという事態になった。残念な結果である。  
 
ジェラートタウンに近い、魔女の森。その中に、軽い調子の声が響く。  
「ははは、委員長もそんなこと、気にしなくてよかったのにさ。責任感があるのはいいけど、余計なもんまで背負い込むのはどうかと  
思うよ、僕は。たまには魔が差したっていいじゃん」  
「でも……やっぱり、まだ迷いますわ。わたくしが転科したら、あのバハムーンがどう動くか…」  
「大丈夫だって。何なら、僕一人で何とかしてみせようか?それに何だかんだで、あいつも馴染んできてるみたいだし」  
ふらふらと飛び回りつつ、軽い調子で話すフェアリー。バハムーンはドワーフが持っていたおにぎりを奪って食べてしまい、  
怒った彼女に追い回されている。  
「そうそう、気にしなくても大丈夫だよ。いざとなったら、私だって少しは役に立てるしさ。委員長だって、たまにはわがまま言っても  
いいんだよ?」  
「……そう言ってくれると、少しは気が楽になりますわ」  
「さっすが副委員長。委員長のためなら何だってするもんな、副委員長は」  
「こ、こらフェアリー!」  
「ははは。図星だからって怒るなよ。別に悪気はないって、魔が差しただけだよ」  
そんな彼を、爛々と光る金色の双眸が見つめていた。真ん丸に見開かれたそれは、フェアリーの一挙一動をじっと見守り、瞬きすら  
することはない。  
やがて、その目がスッと細くなり、そして再び大きく見開かれた。  
「んなぁーう!!!」  
興奮した猫の鳴き声。直後、フェアリーは大きく飛び上がった。  
足の真下を、毒のナイフが通過していく。続いて胴目掛けて振られたダガーを、フェアリーは後ろに飛んでかわす。  
「うわっととと!お、お、おいフェルパー!やめっ…!」  
「んなぉ!!」  
首に飛んできた回し蹴りを、着地して避ける。脇腹に繰り出されたダガーをさらに下がってかわし、一瞬の隙を突いて距離を離す。  
「ちょっ……危ない!危ないって!!刃物は勘弁して…!」  
「んまぁーう!!」  
離した距離が、一瞬にして詰められる。フェアリーの言葉を全く聞かず、フェルパーは次々に殺意の籠った攻撃を仕掛けていく。  
「フェルパー、やめなさい!!」  
「おいおい!フェルパーやめなって!」  
エルフとセレスティアが慌てて止めに入るも、フェルパーは二人の腕をあっさりとかわし、フェアリーに襲いかかっていく。  
バハムーンとドワーフはまったく関心を払っておらず、バハムーンが朝に出たフライドチキンの骨を渡すことで和解が成立していた。  
そんなバハムーンの頭上を、フェアリーが飛び抜ける。さすがに彼の巨体は、フェルパーの追撃を一時的にでも止める効果があった。  
その隙に、フェアリーは大きく空へと飛び上がる。  
「おいおいフェルパー、ふざけるのもいい加減に…!」  
「んむぅ〜……んなん!」  
フェルパーが走った。そしてバハムーンの前で思い切り跳躍し、つい振り返ったその顔を踏みつける。  
「ぶっ!?」  
鼻血を噴き、よろめくバハムーン。彼を踏み台に、フェルパーはフェアリーと同じ高さにまで跳び上がった。  
 
「うおっ…!?」  
「んなぉー!!!」  
毒のナイフとダガーが一閃する。その直前、フェアリーは頭を下にすると、地面に向かって全力で羽ばたいた。間一髪、二つの刃物は  
彼のズボンの裾を切り裂くに留まった。  
地面すれすれで軌道を変え、フェアリーはエルフとセレスティアの後ろに逃げ込む。それに一瞬遅れて、フェルパーが着地した。  
「あっはははーぁ!すごいすごーい!」  
満面の笑みを湛え、フェルパーが手を叩く。ただし、その笑顔は狂気に満ち、およそ可愛げとは無縁である。  
「すごいね!全部避けちゃった!あんな動き、初めて見たー!んにゃーん!」  
「ぼ……僕こそ、地面に飛ぶなんて初めてだった…!怖かったぁ…」  
「フェアリー、大丈夫かい?まったく、こらフェルパー…!」  
「貴様、何しやがる!?」  
セレスティアが叱るより早く、踏み台にされたバハムーンが大股で彼女に歩み寄り、その尻尾を掴んだ。  
「ふぎゃーあっ!?馬鹿ぁ!エッチー!!」  
文字通り跳びあがって驚き、直後尻尾を掴む手にダガーを振るう。慌ててバハムーンが手を放すと、フェルパーはその場にへたり込んだ。  
「尻尾掴むなんて最低ー!馬鹿ぁ!変態ー!うあーん!」  
「貴様……俺の顔を踏んでおいて、その言い草か…!」  
「二人とも、やめなさい。フェルパー、あなたもいい加減にしてくれないかしら?ただでさえ、問題が起こった直後で、周りの目が  
厳しいんですのよ」  
エルフがバハムーンにヒールを唱え、フェルパーを睨む。ドワーフは彼等より少し離れたところで、幸せそうに骨を齧っている。  
「くすん……それ私のせいじゃないもんー」  
「俺のせいでもないぞ」  
「あなたのせいですわよ!」  
「あの女が悪い。俺は売られた喧嘩を買っただけだ」  
一週間ほど前、彼はパニーニで再び喧嘩沙汰を起こしていた。しかも今回は、あろうことか相手を殺してしまったのだ。  
そもそもの発端は、彼が一人で勝手に剣士の山道をうろついていたときに、以前喧嘩をした六人組の一人に会ってしまったことだった。  
相手はバハムーンの女子で、イノベーターとまではいかずとも才能のある生徒であり、竜騎士に転科していた。  
無論、性格が合うはずもなく、しかも恨みのある相手である。学園外でもあり、彼女は武器を抜いて彼に襲いかかったのだ。  
だがそれに応戦した直後、二人の前にささくれシャークが現れた。さすがに強敵であるため、二人は『相手を倒すまで』という約束で  
共闘し、これを倒した。  
が、その後が問題だった。一時的とはいえ、力を合わせてくれた彼に彼女がお礼を言っている間に、彼は後ろから彼女の首を  
掻き切ったのだ。  
先に仕掛けたのは彼女であり、確かに相手を倒すまでという約束はした。だが礼を言っている相手の首を後ろから切るなど、  
それはあまりに卑怯ではないか、というのが大半の意見だった。  
当然の如く、これは風紀委員の中でも問題になり、エルフら三人は些か苦しい立場に立たされた。特に善の思考を持つ委員からは  
彼の退学を具申するべきだとの意見が出されたが、そこはセレスティアが先に手を打ち、彼を謹慎とすることでその声を抑えた。  
それに加え、喧嘩の相手の蘇生が無事に済んだこと、また先に手を出したのは相手だということで、辛うじて最悪の事態を避けることが  
できたのだ。  
そして、今はようやくその謹慎が解け、クロスティーニからブルスケッタへと向かう途中である。  
 
「みんな、その話はもういいじゃない。とりあえずは解決してるんだしさ。それより、今は目の前の心配事をどうにかしないかい」  
セレスティアの声に、一行は空を見上げる。天気の変わりやすいこの地は、非常によく雨が降る。今も、空には厚い灰色の雲が  
かかってきている。  
「しなくていいだろ、んな心配。どうせあと十五分もすれば雨降るぞ」  
「だから不安なんじゃないか!ていうか、君わかるの?」  
「ああ、雨の匂いがするからな」  
「私も私も!私もわかるよ!あのね!空気がね!じとーってして、水の匂いしてるんだよ!」  
「匂いに頼らずとも、風が強くなって空気が冷たくなってきてますわ。雨が近いことは確かですわね」  
「耳長三人組は、天気に詳しいんだなあ」  
フェアリーの言葉に、エルフとドワーフがムッとした顔をする。フェルパーはあまり気にしておらず、いつもの通りである。  
「まあともかく、雨に濡れるのは嫌なものだからね。こんな森、早く抜けよう」  
その言葉に、それぞれ休憩を終えて荷物をまとめ、再び魔女の森を歩きだす。とはいえ、複雑に入り組んだ地形とワープゾーン、  
加えて度重なるモンスターの出現に、なかなか思うように進めない。十五分ほど経つと、果たしてドワーフの言葉通りぽつぽつと雨が  
降り始め、それはやがて視界を遮るほどの土砂降りとなった。  
さすがに傘など持っては来られないため、一行はずぶ濡れになりながら探索を続ける。  
「うあ〜ん、雨やだぁー!どっかで雨宿りしようよぉ〜!」  
フェルパーが泣き声で叫ぶ。やはり祖先が猫だけあり、水に濡れるのは大嫌いらしい。  
「僕もそうしたいよ、ほんと……羽が重くてしょうがない」  
「君の羽はねえ……私のは水弾くから、問題ないんだけどね」  
「ったくてめえらは。雨ぐらいでガタガタ抜かしてんじゃねえよ」  
そう言うドワーフは、毛が水を吸ってしまい、全身からボタボタと水を滴らせている。  
「……あれ?ドワーフ、君ってそんなに細かったっけ?」  
セレスティアの言葉に、ドワーフはちょっと不機嫌そうな顔になった。  
「え、細いか?そっか……もうちょっと鍛えねえとダメかな」  
「ああ、太い方がいいんだ……いや、細いっていうんじゃないけど、ほら、どうしても君って筋肉質なイメージあるし、おまけに毛が  
あるせいで余計に太く見えるんだよね。だから、思ったよりは細いなってさ」  
「濡れただけで細く見られるなんて、委員長もそこだけは羨ましいんじゃないかい?」  
フェアリーが言うと、エルフはムッとした顔で睨みつける。  
「羨ましくも何ともありませんわ。毛だらけで野蛮で……それに、ああ…!」  
もう我慢できないというように、エルフは大きく息を吸った。  
「大体、この臭い!!いつも臭うけれど、雨に濡れたあなたの臭さは格別ですわね!!ちゃんと体洗ってるんですの!?」  
それに対し、ドワーフも声を張り上げる。  
「ああ!?てめえこそくっせえんだよ!全身から変な臭いさせやがって!ほんと、てめえのそれ鼻が曲がっちまいそうで、  
吐き気がすんだよ!」  
「香水のどこが変な臭いですの!?あなたの獣臭さの方がよっぽど臭いですわ!」  
「私も臭いの嫌いー」  
どうやらフェルパーもドワーフの臭いが気になっていたらしく、あからさまに嫌そうな顔をして見せる。  
 
「てめえは臭い無さ過ぎなんだよ!そんな臭い消して何がしてえんだ!?気持ち悪りい!」  
「臭いは無い方がいいんだもんー、んなー」  
「そうですわ!そもそもあなたは――!」  
言い合いを続ける女三人をよそに、セレスティアは自分の翼の匂いを嗅いでみる。  
「……私も臭うのかな?」  
「いや、副委員長のはそうでもないんじゃない?水弾いてるし」  
「そんなもん、気にすることでもねえだろうに。どうしてあそこまで言い合いするのか、俺には理解できねえな」  
「女の子は色々大変なんだよ。と、それより……委員長、ドワーフ、フェルパー、こんなところで喧嘩しないで。君達は熱くなってるから  
いいだろうけど、私は風邪ひきそうだよ」  
「……ちっ!ほんっといけ好かねえ、あのアマ。こんな天気じゃ昼寝もできねえし、ああぁぁ〜っ、ほんっとイラつく!」  
「それはそうだな。昼寝の時間は欲しかったところだが…」  
「私も日向ぼっこしたいなー。したいなぁー……でも今はどっかで雨宿りしたいよぉー!」  
「ブルスケッタまでは休めないぜ、尻尾三人組。昼寝したかったら、頑張って歩くことだね」  
何を言おうと、最終的な決定権は風紀委員の三人にある。結局、彼等はその後、ブルスケッタまで休まず歩く羽目となった。  
 
ブルスケッタに着くと、尻尾三人組はすぐに寮へと向かった。誰かしら監視がいた方がいいかという議論はあったが、あの三人なら  
すぐに寝てしまうと判断し、風紀委員の三人は職員室へと向かう。そこでエルフは転科の手続きをし、精霊使いになることが決まった。  
「それにしても……ちょっと、悔しいですわね」  
「ん?何が?」  
セレスティアが尋ねると、エルフは溜め息をついた。  
「わたくしは、こうして転科するまでに一年を費やしましたわ。でも、あのドワーフは……入学当初から、狂戦士になれるほどの力を  
持っていましたわ…」  
「スタートラインからして、あいつらは僕達とは違うんだよね。イノベーターって呼ばれるのも、納得だよ」  
軽い口調で言うのはフェアリーである。  
「でも、だからって僕達は僕達だ。早いとか遅いとか、負けとか勝ちとか、気にする必要性はないって」  
珍しく気遣うような言葉を言うフェアリーに、エルフも珍しく微笑みかける。  
「ありがとう……少し、気が楽になりましたわ」  
「ほら、あの流行ってる歌でもあるじゃん?後ろだった人に追い越された人、テスト前にきっと大逆転〜ってさ。それ目指そうよ」  
「はは。君も意外と優しいところあるんだねえ」  
「ああ、魔が差した」  
「結局それなんだ」  
「ふふふ。でも、その方がフェアリーらしいですわ」  
そう言って笑顔を浮かべるエルフに、二人も笑みを返す。  
「さあ、それじゃあまた会えるのは一週間後かな。委員長、頑張ってね」  
「わたくしがいない間、任せますわね。副委員長、フェアリー、しっかり頼みますわよ」  
「だ〜いじょうぶだって。何にも気にしなくっていいから、頑張ってきな委員長」  
最後にそれぞれ握手を交わし、三人は別れた。  
彼女がいない間、その分までしっかり頑張ろう。そんな思いが、残った二人の胸に湧き上がるのだった。  
 
エルフが転科を初めてから、はや数日。問題児達は魔女の森での憂さ晴らしとでも言わんばかりに怠惰な生活を送っており、  
これといった問題が起こる気配もない。このままなら楽だと、セレスティアもフェアリーも思っていたのだが、そう思い通りに  
いかないのが世の常である。  
六日目の朝、一行は朝食を取りに学食へ向かったが、フェルパーがいつまで経っても来ない。女同士であるドワーフに何か知らないかと  
尋ねても、「どうしてあたしがあいつのことを知ってなきゃいけねえんだ」と、にべもなく返された。  
人物が人物だけに、行動が把握できないのはかなりの不安がある。仕方なくセレスティアが迎えに行くと、彼を出迎えたフェルパーは  
どこか調子が悪そうに見えた。  
「フェルパー、どうしたんだい?風邪でも引いたのかい?」  
「……違うのー。でも、来ないでほしいな。しばらくほっといてー」  
「そうもいかないよ。朝ご飯だって、ちゃんと食べなきゃ体に…」  
「いいからほっといてー!お昼は食べに行くからー!」  
バタンと、勢いよくドアが閉められる。これ以上は何も話せないだろうと判断し、セレスティアは仕方なく学食へと戻った。  
「あれ、副委員長、あの猫は?」  
「んー、何だか機嫌悪くってねえ。風邪かとも思ったんだけど、そうでもないっぽいし……しばらくほっといてくれってさ」  
「一番ほっときたくない奴なんだけどな……にしても機嫌悪いとか、猫は気紛れだよなあ」  
そう言ってドワーフを見つめるフェアリー。ドワーフは幸せそうな顔で骨を齧っていたが、その視線に気づくと不機嫌そうな顔になる。  
「何か言いてえことでもあんのかよ、チビ妖精が」  
「……骨、好きなんだねえ」  
「これが嫌いな方がおかしいんだ。この歯応えもいいし、噛めば噛むだけ味もあるんだぞ」  
「……犬」  
隣でぼそっと呟いたバハムーンに、ドワーフは容赦なく頭突きをかました。鼻を押さえて震えるバハムーンを無視し、フェアリーは  
セレスティアに話しかける。  
「とにかく、まさか一日中放っておくわけじゃないよね?」  
「ああ、うん。昼は食べに来るって言ってたよ」  
「そっか。じゃあ特に問題もないかな」  
「……は、話が終わったならヒールを頼む…」  
震える声で言うバハムーンに、セレスティアは呆れた顔を向ける。  
「それ、自業自得だと思うよ私は」  
「うるさい……痛いもんは痛いんだ…」  
「お前はほんっと、ありとあらゆるもんに弱えな。それでよく、自分の手ぇ切ったりできるよ」  
「それはそれ、だ…!」  
「どう違うんだよ」  
結局、食卓を鼻血で汚されるのも嫌なので、セレスティアは彼の鼻を治してやる。そして食事を終えると、各自はそれぞれの部屋へと  
戻った。エルフがいないため、勝手に動くわけにもいかないのだ。  
それぞれに自分の学科の勉強をしたり、武器の手入れをするうち、あっという間に時間が過ぎていく。すぐに昼食の時間となり、一行は  
朝と同じ位置に陣取る。  
四人にやや遅れて、フェルパーが姿を現した。しかし、その表情は暗く、何やらビクビクと辺りを窺っているように見えた。  
「フェルパー、本当に大丈夫かい?どっか悪いんじゃないかい?」  
「……いいの!平気なの!ほっといて!」  
そうは言うものの、その姿はとても平気なようには見えない。だが、持ってきた料理の量は多く、食欲は旺盛なようだった。  
 
「そうか、ならいいけど……あ、私の隣空いてるよ」  
普通なら、大人しく従うはずだった。しかし、今日のフェルパーは違った。  
「……嫌!」  
不機嫌そうに言うと、いつもは食事中近寄らないはずのドワーフの隣に座る。不調ではないとしても、普段と比べてあまりに奇妙な  
行動が多すぎる。  
疑問をよそに、フェルパーは黙々と食事を始める。バハムーンとドワーフは我関せずといった様子だが、風紀委員の二人としては  
放っておこうという気にはなれない。  
「ずいぶんと不機嫌だねえ。ほんとに熱なんかないのかい」  
言いながら、フェアリーはフェルパーの額に手を伸ばした。それが触れそうになった瞬間。  
「シャッ!!」  
「痛っ!?」  
威嚇の鳴き声と共に、フェルパーは思い切り引っ掻いた。手の甲がざっくりと切り裂かれ、見る間に血が溢れだす。  
「いっててて……副委員長、ヒールお願いするよ」  
「大丈夫かいフェアリー!?まったくフェルパー、なんてことするんだ!?」  
フェルパーは答えない。代わりに、二人を怒りとも怯えともつかない目で睨むと、再び食事を始める。  
「まあまあ、副委員長。彼女を責めないでやって。魔が差すなんてこと、誰にだってあるんだから」  
「だからって、こんな怪我させるのはどうかと思うよ私は」  
相変わらず、ドワーフとバハムーンは食事に夢中であり、三人と関わろうとする気配はない。が、不意にドワーフが顔を上げ、何やら  
ふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。そしてフェルパーを見つめ、一度、ふん、と鼻を鳴らすと、にやりとした笑みを浮かべ、再び食事に戻る。  
「そりゃ、痛くもない腹を探られるのは不快だっていうのはわかるよ。でも、だからって引っ掻くことはないんじゃないかい」  
「……ほっとけほっとけ。しばらくはそいつに触んねえ方がいいぞ」  
彼女にとってのメインディッシュであるところの、大きな骨にかぶりつきながら、ドワーフが言う。  
「え、どうして?」  
「そりゃあ、なあ?」  
フェルパーを見つめ、ドワーフは意地の悪そうな笑みを浮かべた。フェルパーの耳がビクッと倒れ、食事の手が止まる。  
「そ〜んな状態だもんなあ?そりゃあ触られたくもねえよなあ?」  
「………」  
「ドワーフ、どういうことだい?フェルパーが不機嫌な理由、知ってるのかい?」  
「わっかんねえかなあ。こいつはな、男に触られるのが嫌なんだよ」  
「男に?でも、いつもは普通に…」  
セレスティアが言いかけると、ドワーフはますます意地の悪い笑みを浮かべる。  
「いつもはな。でもなあ、今のこいつは盛…」  
バン!と大きな音が響き、周囲の生徒までもが驚いてそちらへ顔を向ける。  
テーブルを叩き立ちあがったフェルパーは、大きな声で叫んだ。  
「もう嫌!みんな嫌いー!」  
止める間もなく、フェルパーは走り去ってしまった。一体何が起こったのかと、セレスティアとフェアリーは呆然とするほかない。  
「あーあ、行っちまった。ったく、せっかく面白い反応見られると思ったのによ」  
「……あ、あの、ドワーフ?フェルパーは一体…?」  
つまらなそうに息をつくと、ドワーフは気のない顔を向ける。  
 
「だから、盛りだよ、盛り。発情期」  
「……さ、さらっと言うね…」  
「あいつ、エロいの苦手だろ?なのに、あの時期は体が火照って男求めちまうからな。それが許せねえんだろ」  
それを聞いた瞬間、バハムーンが横目でドワーフを見つめる。  
「……お前は、まだその時期じゃねえのか」  
「あたしはまだだなー。生理と一緒で、個人差あるんだよ。てぇか、てめえはそれ聞いて何するつもりだ?」  
「楽しみにするつもりだ」  
直後、ドワーフは咥えていた骨を掴み、バハムーンの顎を殴りあげた。ガコッと妙にいい音が学食に響く。  
「ま、まあそんな時期じゃあ、そっとしておいた方がいいかな。あんまり刺激してもなんだしねえ」  
「そっとしておく……ねえ」  
気のない感じで、フェアリーが繰り返す。しかしその顔には、彼の言葉に従おうなどとは微塵も考えていないような、そんな表情が  
浮かんでいた。  
 
部屋に逃げ帰ったフェルパーは、ベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。カーテンすら閉め切り、暗い部屋の中で眼だけが光っている。  
イラつきと怯えの混じった、震える呼吸の音が響く。やがて、尻尾がゆらりと動き、下着の上から自身の秘部へと触れた。  
途端に、フェルパーはハッとしたように尻尾を戻し、ただでさえ赤くなった頬をますます紅潮させる。  
「うぅ〜…!」  
ただ外に出ただけで、こうなってしまう。どんな種族であろうと、『男』の匂いを感じるだけで止めようもないほどに体が疼き、火照る。  
普段ならば、関わり合いになりたくないと思う他人にでさえ、そうなってしまう。まして、それが気心知れた仲間であれば余計である。  
彼等の匂いを感じてから、動悸が鎮まらない。全身が熱くなり、無意識に自身で慰めようとするほどに、疼いてしまう。  
それが、フェルパーはたまらなく嫌だった。そういうことは大嫌いなはずなのに、自身が無意識に求めてしまうなどということは、  
どうしても認めたくなかった。  
「う〜……こんなのやだ……もうやだぁ…」  
涙声で呟くと、フェルパーはベッドに突っ伏し、頭から布団を被った。経験上、こういう時はとにかく寝てしまうのが最善の手段だった。  
この状態で寝るのは多少骨が折れるものの、不可能というわけではない。事実、布団を被ってから二十分ほど経つと、部屋の中には  
寝息が聞こえ始めていた。  
祖先が猫だけに、フェルパーはよく眠る。一時間経ち、二時間経ち、数時間経った頃、布団の中でフェルパーの耳がピクリと動いた。  
微かに目を開ける。夢と現の狭間を行き来しつつ、フェルパーはもう一度耳を動かす。  
ドアの方から、カチャカチャと微かな物音が聞こえる。それに気付いた瞬間、フェルパーの頭は急激に覚醒を始めた。  
ガバッと体を起こす。それと同時にカチャンと軽い音がし、続いてドアが開けられた。  
「やあフェルパー、調子はどうだい?……うおぅ、目だけ光ってら」  
小さな影。いつもの軽い口調。それは紛れもなくフェアリーだった。  
「え……えぇー!?どうして開くのー!?鍵閉めたのにー!?」  
「おいおい、僕はレンジャー学科所属だぜ。こんな鍵ぐらい、朝飯前だよ」  
「そ、それより、どうして勝手に開けるのー!?なんで来たのー!?ほっといてって言ったのにー!」  
「魔が差した。それと、夕飯にも来ないから、さすがに心配…」  
部屋の中に、微かながら『男』の匂いが入りこむ。途端に、フェルパーの体はかあっと熱くなり、鼓動が早まる。  
 
「こ、来ないでー!部屋に入んないでー!あっち行ってよー!もうほっといてー!」  
「うわっ!?ちょっ……危ない!危ないって!!」  
手近にある物を、フェルパーは手当たり次第に投げつける。毒のナイフ、椅子、前日着ていたシャツ、靴、枕など、あらゆる物が  
飛んでいく。とはいえ殺意の籠った攻撃ではなく、とにかく投げているだけなので、かわすのは容易だった。  
一通り投げてしまい、それ以上投げるものがなくなると、フェルパーは耳をぺったりと寝かせ、ベッドの上を後ずさる。  
「来ないで!ほっといてー!」  
「いやあ、ほっといてもいいんだけどさあ。それじゃあ何にも根本的な解決にはならないし。問題は根元から断ちたいだろ?」  
そう言いながら、ずんずん近づいていくフェアリー。一応、フェルパーが襲いかかってくるかと身構えていたのだが、予想に反して  
彼女はただベッドの上で震えているだけだった。  
「な……何するのぉ…!?」  
「だから、言っただろ?問題は根本から解決したいんだよ」  
フェアリーは遠慮なくベッドに上がると、手を伸ばして震えるフェルパーの腕に触れた。  
ビクッと、フェルパーの体が震える。その目は完全に怯え、フェアリーをモンスターでも見るかのような目つきで見つめている。  
「え……エッチなことしないって言ったぁー…!」  
「あ〜、そんなことも言ったね。でも、今は君自身がそれを求めてるんじゃないのかい?」  
言いながら、フェアリーは彼女の胸に手を伸ばした。  
「んにゃぅ…!」  
その手が軽く触れた瞬間、フェルパーは聞いたこともないような甘い鳴き声を出す。だがその直後、彼女はフェアリーの手を思い切り  
打ち払った。  
「やぁー!!やなのぉ!!こんな声出したくないー!!こんなのやだぁー!!こんなの違うー!!こんなの私じゃないのぉー!!」  
叫びながら、フェルパーは本気で泣きだしていた。そんな彼女に、フェアリーは優しく声を掛ける。  
「そうは言うけどね、君は君だよ。自分のことを、そう簡単に否定するのはどうかと思うな」  
「だってだって……エッチなこと嫌いなのにぃ…!ほんとに嫌いなのぉ…!」  
「でも、今はそういうのを求めちゃうんだろ?だったら、今は別にそれでいいじゃん。魔が差したとでも思えばさ」  
言いながら、そっと手を伸ばす。しかし触れる直前で、フェルパーが爪をかざして威嚇してきたため、そこで止まる。  
「な……なんで、こんなことするのぉ…?ほっといてよぉ……何にもしなくていいよぉ…」  
「なんでって、そりゃあ…」  
手軽にやれそうだから、という本音を危うく漏らしかけ、フェアリーは慌てて口をつぐむ。  
「……魔が差したから。それに、えっと、君は仲間なんだから、仲間が困ってたら助けるのは当然だろ?」  
「助けるって、どうするつもり…?」  
「求めに応じるつもり」  
「やだーっ!エッチなのはやだー!もう帰ってよぉ!これ以上ここいないでよぉ!!」  
時間が経つごとに、フェアリーの、言い換えれば男の匂いが強くなり、それに比例してフェルパーの疼きもますます強くなっていた。  
フェアリーもそれに気付き、心の中で密かに笑う。  
 
「そこまで毛嫌いしなくってもいいじゃん。それに、エッチなのは恥ずかしいことじゃないぜ」  
「う、嘘だぁ…!」  
「本当だって。じゃあ何かい?そういう時期のある君の種族は、恥ずかしい種族なのかい?」  
「……そんなことないもん…」  
「だろ?自然なことなんだよ。別に恥ずかしくもない。それでも、どうしても恥ずかしいって言うなら、そんでもって、  
そんなの自分じゃないって言うなら、それでいいじゃん。今の君は、君じゃない。自分じゃないと思って、その時期を楽しんじゃいなよ」  
「………」  
彼の言葉に、フェルパーは驚いたような、それでいて縋るような目で彼を見つめる。  
「エッチなことしたいんだろ?じゃ、思いっきりしてみればいいじゃん。強い相手殺す以外でも、少しは何か楽しみ見付けなよ」  
「でも……でも、やっぱり恥ずかしいよぉ…」  
「大丈夫だって。こんなの誰にも言わないし、恥ずかしいことでもないって」  
「ほ……ほんと?」  
「本当だよ。だから、今は湧きあがる気持ちを否定しないで、やりたいようにやればいいさ。魔が差すのも、たまには悪くないってね」  
ゆっくりと、手を伸ばす。フェルパーはビクッと耳を伏せたが、その手を打ち払ったりはしなかった。  
何もしてこないのを確認し、胸に触れる。途端に、フェルパーは熱い吐息を漏らす。  
「はぁっ……は、あ…!」  
「柔らかいな……どうだい、平気そうかい?」  
初めての感触を楽しみつつ、フェアリーは優しく問いかける。フェルパーは耳を伏せて震えているものの、微かに頷いてみせた。  
ゆっくりと、円を描くように揉みしだく。フェルパーの呼吸はますます荒くなり、全身が強張る。  
「や……やっぱり、恥ずかしいよぉ……んに…」  
「あんまりそういうことは考えないで。ただ今の感覚だけに集中してればいいよ」  
「う、うん……わかった……ふ、にぁ…」  
熱く震える吐息。その中に怯えの混じった嬌声と、ねだるような鳴き声が響く。その声を聞きながら、フェアリーは彼女の背中に手を回す。  
パチッと小さな音がし、直後フェルパーは慌てて胸元を押さえた。  
「やっ!?な、なんで外せるのぉ!?」  
「おっとー、ビンゴだったか。僕だって、そりゃ少しぐらいは知識あるさ」  
その口と同様、彼の手はよく動く。喋りながら、さらにフェルパーの制服のボタンを外し、胸元を押さえる腕の隙間から指を差し込む。  
指先に彼女の体温が伝わり、僅かな膨らみを感じる。同時に、フェルパーは大きく息を吐いた。  
「あっ!……う、あぁ…!」  
「手、どけて。気持ちよくしてあげるから」  
「んなぁ……あ、あんまり……変なこと、しないでね…?」  
躊躇いながらも、フェルパーはゆっくりと手をどける。その手が完全に離れると、押さえられていたブラジャーがパサリと落ちた。  
露わになった胸を、フェアリーはしばらく見つめていた。思ったよりも小ぶりだが、整った形をしている。そして、先端は既に  
硬く尖っていた。  
「……そんなにじっと見ちゃ、やだ…!」  
そう言い、フェルパーが身を捩る。  
「ああ、ごめんごめん。魔が差したっていうか、つい見惚れちゃってね」  
言いながら、フェアリーは再び手を伸ばす。フェルパーの耳はもはや完全に寝てしまっているが、彼女が抵抗する気配はない。また、  
尻尾は何か期待するかのように、くねくねと艶めかしく動いている。  
手が触れる。フェルパーはピクッと体を震わせ、固く目を瞑る。そんな彼女を見つめながら、フェアリーはゆっくりと手を動かす。  
 
「はぅ…!はぁ……はっ…!は、あ…!にゃっ…!」  
「柔らかいし、温かい。触ってる僕も気持ちいいな」  
「やぁ〜……そういうの、言わないでぇ…!」  
「褒めてるんだぜ?恥ずかしがる必要ないって」  
全体を包み込むように触り、硬くなった先端を指で挟む。フェアリーが指を動かす度に、フェルパーは敏感に反応し、可愛らしい声を  
あげる。それだけでも、フェアリーにとっては十分に気持ちを昂らせてくれるものだった。  
「どう?気持ちいいかい?」  
「あ、あ…!そんなの……い、言いたくな……にゃあっ!?」  
片手を放し、フェアリーは彼女の胸に吸いついた。フェルパーの体がビクンと跳ね、その手は彼の頭に当てられる。  
だが、押しのけるような気配はない。ただ彼の頭に手を当て、フェルパーは熱い吐息を漏らす。  
強く吸いつき、舌先で乳首を転がすように舐める。頭に当てた手に、時々強く力が入る。しかしそれは、  
彼を押しのけようとする動きではなく、むしろ彼の頭をより強く押し付けるようなものだった。  
「にゃぅぅ……私、君のお母さんじゃないよぅ…!あっ…!」  
「ん……いや、誰もそんなの求めちゃいないから。気持ちいいだろ?」  
「あう……そ、そんなの、わかんないぃ…!」  
「強情だな君も。ま、聞くまでもないことではあるね」  
空いている片方の手を、スカートの下に潜り込ませる。途端に、フェルパーはその手を押さえた。  
「あっ!やだっ!」  
そこは既に、ブルマの上からでもわかるほどに濡れていた。紺色の生地の中心に、じんわりと染みが広がっている。  
「ここ、こんなになってるもんな」  
「あぁ……言わない、でぇ…!恥ずかしいよぉ…!」  
「にしても、君これ気に入ってるんだねえ。あげた僕としても、気に入ってもらえるのは嬉しいよ」  
押さえられているとはいえ、彼女の手にはほとんど力が篭っていない。ブルマの上から秘部を擦ると、途端にフェルパーの体が  
仰け反った。  
「にゃあっ!はーっ、はーっ…!あ、んぅ…!」  
快感に翻弄されつつも、フェルパーは必死に声を抑えようとする。そんな彼女をいたぶるように、フェアリーはブルマの中に  
手を差し込み、割れ目に直接触れた。  
「うあっ!?や、やめ……ぇあ…!」  
くちゅ、と、湿った音が響く。フェアリーは大きく指を動かし、わざと大きな音を立てる。  
「やだ、ぁ…!音立てちゃ、や……いっ!?」  
つぷっと、中指を彼女の中に沈みこませる。さすがに痛かったらしく、フェルパーの体は仰け反ったままぶるぶる震えている。  
「痛かったかい?こんなに濡れてるから、大丈夫かと思ったんだけどな」  
フェアリーは指を引き抜くと、それを彼女の目の前に突き付けた。指を開くと、その間に愛液がねっとりと糸を引く。  
それを見た途端、フェルパーの体がかあっと熱くなり、耳の内側までもがはっきりわかるほどに赤くなった。  
「やぁー!そんなの見せないでぇ!」  
フェルパーはいやいやをするように首を振り、ギュッと目を瞑ってしまう。危険人物だとはいえ、年相応の女の子の振る舞いをする  
彼女は、やはり可愛らしい。  
 
「ま、見ての通りになっちゃってるからさ。そろそろ下も脱ごうか?いい加減、僕も限界きそうだし」  
「ぬ……脱ぐの…?」  
「脱がなきゃ続きもできないし。君だって、もっと気持ちいい思いしたいだろ?」  
「………」  
フェルパーは答えない。だがその目には羞恥だけでなく、ある種の期待も混じっているようだった。  
ブルマとショーツを一緒に掴み、反応を確かめるようにゆっくりと引き下ろす。フェルパーは抵抗せず、黙って尻尾をまっすぐ下に  
下ろした。  
秘裂との間に糸を引きながら、ブルマとショーツが引き下げられる。フェアリーはそれをまとめて丸めてしまうと、ベッドの下に  
ポンと放り投げた。そして、自身も着ているものを脱ぎ捨てる。  
のしかかるように体を寄せると、フェルパーは少し身を引いた。  
「逃げるなよ。別に取って食うわけじゃないんだし」  
「うぅ〜……や、やっぱり怖いよぉ…」  
「さっき痛くしちゃったからかい?大丈夫だって、僕のそんなにでかいわけじゃないし……言ってて悲しくなるけどね」  
「……なんで?」  
「いや、こっちの話。とにかく、もっと気持ちよくしてあげるからさ。じっとしててくれよ」  
そう言い、フェアリーはフェルパーの足に手を掛ける。だがそこで、フェルパーは彼の手を押さえた。  
「ほ、ほんとに痛くない?気持ちいいだけ?痛いのやだよ?ほんとに痛くないよね?」  
「えーと……少しは痛いかもしれない……けど、最初だけだよ。……たぶんね」  
さすがにフェルパーは不安そうだったが、フェアリーが有無を言わさぬ勢いで彼女にのしかかる。そして自身のモノを、彼女の秘裂に  
押し当てる。  
ゆっくりと、腰を突き出す。少しずつ秘唇が開かれ、彼のモノが飲み込まれていく。  
「あっ、あっ!あぁっ!あっ……あああーっ!!」  
悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げ、フェルパーの体が仰け反る。フェアリーは一瞬躊躇い、しかしすぐにまた腰を突き出していく。  
だが、半分も入らないうちに、フェルパーは膝を締め、必死にフェアリーを押し返そうとする。さすがにそこまで抵抗されると、  
フェアリーも無理をしようという気にはなれず、一旦動きを止めた。  
「フェルパー、大丈夫かい?」  
「うぅ〜…!痛い〜……痛いよぉ…!さ、最初気持ちよかったのにぃ…!痛くしないでぇ…!」  
「そっか、最初は気持ちよかったのか」  
そう聞き返してみるも、フェルパーはあまり余裕がないらしく、ただこくこくと頷くだけである。  
「じゃ、痛くない範囲で動くよ。辛くなったら言ってくれ」  
思い切り奥まで突き入れたい衝動を何とか抑え、フェアリーはごく浅い部分で腰を動かす。  
抜ける直前まで腰を引き、再びゆっくりと突き入れる。ほとんど先端しか入っていないが、その分亀頭部分が擦れてクチュクチュという  
湿った音が響き、二人を昂らせる。フェルパーは相変わらず荒い息をついているが、徐々に抵抗はなくなってきていた。  
それを見て取ると、フェアリーは少しずつ動きを強めていく。先端しか入らなかったのが、半ばまでを受け入れるようになり、  
その先の硬さも消えていく。より強く感じる彼女の体温が、フェアリーに強い快感を与える。  
「んっ!あぅっ!う……んなぅ…!んにっ!ふ、にゃぅ…!」  
フェルパーの声は、悲鳴から喘ぎへと、そして喘ぎ声といったものから、だんだんと猫の鳴き声に変わっていく。  
「フェルパー、どうだい?平気かい?」  
「んにゃ……へ、へいき……あっ!で、でも……んんっ!あんまり、強く…」  
「じゃ、大丈夫かな」  
 
言うなり、フェアリーはフェルパーの腰を掴むと、思い切り腰を打ちつけた。  
「うあぁっ!?いっ……あぁっ…!」  
フェルパーの体がビクンと跳ね、口からは明らかな悲鳴が漏れる。しかし、その顔には苦痛というよりも、むしろ快感の表情が  
浮かんでいた。  
「くぅ……君の中、すごく温かくてきつい…!うあ、あんま動けないな…!」  
「んっ……あう!あ、あんまり……強く、しないでぇ…!お、おっきすぎて……お腹、きついよぉ…!」  
少しは辛いらしく、荒い呼吸の合間に何とかそう言うフェルパー。途端に、フェアリーの顔に笑みが浮かぶ。  
「そっかあ、大きくてきついのかあ……あーっ、君ほんっと大好きだ!」  
「んにゃっ!?」  
突然、フェアリーはフェルパーを強く強く抱きしめた。フェルパーは状況がよくわかっていないようで、目をパチクリしている。  
「可愛いなあ、君はほんと!まあとにかく、気持ちよくさせてあげるから、いっぱい楽しんでくれよ」  
「え?う、うん……んっ、あ、あっ!」  
ゆっくりと腰を引き、やや強めに腰を突き出す。最初こそ、フェルパーは悲鳴に近い声をあげていたが、数回繰り返す頃には、  
既にその声は嬌声へと変わっていた。  
「んにゃあっ!あうっ!にゃっ!や、やぁ……うぁっ!は、激しいよぉ!」  
「はっ、はっ……でも、気持ちいいだろ…!?」  
「うあぁっ!い、痛いってばぁ…!あんまり……あぁっ!激しいのは、やだぁ…!」  
嘘ではないのだろう。しかし言葉とは裏腹に、尻尾は彼の腰に巻き付き、ぐいぐいと自分の方へ引きつけている。  
「その割には……くっ!この尻尾は、何だい…!?」  
「やぁぁ……だ、だって、それは……んにっ!勝手に……なっちゃうんだもん〜…!あんっ!」  
パン!パン!と大きな音が響く。秘裂からは愛液が溢れ、フェアリーが動く度、彼の腰とフェルパーの肉付きのいい尻に幾筋もの糸を引く。  
それだけに留まらず、結合部から滴り落ちる愛液が、シーツに大きな染みを作っていた。  
二人の体はじっとりと汗ばみ、蒸れた匂いが鼻孔をくすぐる。フェアリーの動きは徐々に大きく荒くなり、それに従ってフェルパーの声も  
次第に大きくなっていく。  
「くぅぅ……君の中、すっごく締め付けてくる…!」  
「うああっ!!んにっ!!あうっ!!お、お腹にずんずん来るぅ!!激……しい、よぉ!!」  
もはやフェルパーの声に苦痛の色は全く無く、激しい行為にも快感しかないらしい。その声に促されるように、フェアリーはさらに強く  
腰を打ちつける。  
「うっ……フェルパー、ごめん!もう出そうだ!」  
「うあぅ!あっ!で、出るって何……あっ!?うあぁ!?」  
ドクンと、フェルパーの中で彼のモノが跳ね、熱いものが体内に注ぎ込まれる。  
「んにゃあっ!お、お腹にあっついのがぁ!!お腹ぁ、あ、熱いぃ!!あ、頭ん中真っ白にぃ!!んにぃー!!んに、あああぁぁぁ!!」  
叫ぶと同時に、フェルパーの体が弓なりに反り返り、ガクガクと震える。  
膣内が精液で満たされる感覚。それはすぐに快感に変わり、全身へと広がっていく。それと同時に、発情期になってから満たされなかった  
疼きが、快感で満たされていくのを感じた。  
やがて、フェアリーは全てフェルパーの中に注ぎ込み、その余韻に十分浸ってから、ゆっくりと自身のモノを引き抜いた。  
「んにぁ…」  
小さな鳴き声を上げ、フェルパーの体がピクンと震える。そして、彼女はフェアリーをじっと見つめる。  
「はぁ……はぁ……ふぅ。フェルパー、どうだい?気持ちよかったかい?」  
「………」  
返事はない。疲れているか、快感の余韻に浸っているのだろうと判断し、フェアリーは特に気にしなかった。  
 
だが、改めて彼女の顔を見たとき、フェアリーは背筋がゾクリとするのを感じた。  
フェルパーの目は、さっきまでのそれではなかった。その目に満ちているのは、快感の余韻でも恥じらいでもなく、強い狂気だった。  
射精後の冷めた頭で、フェアリーはそれまでの状況を思い返した。  
彼女は自分の欲求に、限りなく忠実である。今のフェルパーは発情期であり、性的な快感の欲求が殺人の欲求を上回るほどに強まっていた。  
だからこそ、彼女は今までのように自分を殺しにかかってきたりは一切しなかった。だが、今その欲求を、自分は満たしてしまった。  
ならば、それがなくなった今、今度は何を考えるか。そして、彼女は自分をどう見ているか。  
その答えが出るより一瞬早く、フェルパーが跳びかかった。  
「うわっ!?」  
両腕を足で押さえこみ、フェルパーはフェアリーの腰に座る。イノベーターと呼ばれるだけあり、そこらのバハムーンよりも強靭な  
筋力を持つ彼女に、ただのフェアリーである彼が抵抗することは不可能だった。  
獲物をいたぶる猛獣の目で、フェルパーは彼をじっと見下ろす。そして、ゆっくりと背中に手をやった。  
「な、何するんだ!?おいフェルパー、放…!」  
闇の中で、金色の目が爛々と光り、その隣でダガーの刃がぎらりと光った。手当たり次第に物を投げた時も、これだけは  
手放さなかったのだ。  
「お、おい……何するつもりだよ…!?じょ、冗談きついぜ…!?なあ、おい、よせ……や、やめてくれ!頼むよ!おいフェルパー!」  
フェルパーは答えず、代わりにぞっとするような笑みを浮かべた。  
ゆっくりと、刃がむき出しの胸に押し当てられる。冷やりとした感触が、フェアリーに強い恐怖感を与える。  
「や、やめろ!!やめろぉ!!フェルパーやめてくれ!!助けてくれ!!おいフェル…!」  
刃を一層強く押し当てる。それに押され、胸の皮が凹んだ所で、フェルパーはすぅっとダガーを引いた。  
「うあっ……ぎゃあああぁぁ!!!」  
部屋の中に、フェアリーの絶叫が響く。ダガーが引かれた後には微かな線が入り、やがて血が丸くぷつぷつと浮かび上がり、それらが  
繋がって一つの線となっていく。その線はゆっくりと伸びていき、胸を通り、腹へと移っていく。  
「うあああぁぁぁ!!!やめろぉ!!!やめてくれえぇぇ!!!ぎゃああぁぁ!!!」  
極めてゆっくりと、腹が切り裂かれてく。じわじわと広がる激痛にも、フェアリーは抵抗もできず、ただ叫ぶことしかできない。  
その声を聞きながら、フェルパーはますます狂気に満ちた笑みを浮かべる。しかしダガーの動きだけは、変わらずゆっくりと腹を  
切り裂き続ける。  
臍の上まで刃を進めたところで、フェルパーはようやくダガーを離した。フェアリーの体には真っ赤な血の線が刻まれ、苦痛の脂汗が  
全身に浮かんでいる。  
「い……たい…!フェルパー……頼むから、もう、やめてくれ…!」  
「………」  
必死の哀願にも、フェルパーは答えない。代わりに、猫特有の柔らかさでグッと体を屈め、フェアリーの臍の辺りに顔を付けた。  
ひたりと、腹に湿った感触。見ればフェルパーが舌を出し、腹につけている。だが、その感触は柔らかいだけでなく、なぜかチクリと  
微かな痛みを伴っていた。  
その理由を探ろうと、フェルパーの舌を見た瞬間、フェアリーはぞっとした。そこには、猫と同じく真っ白な棘が大量に生えていたのだ。  
「な……何をするつもりっ…!?」  
言い終える前に、フェルパーは舌全体を使って、ダガーで切り裂いた傷口を強く舐め上げた。  
「うあっ……ぐあああぁぁぁ!!!」  
再び、フェアリーの絶叫が響く。やすりのような舌で傷口を舐められ、それこそ肉をこそげ落とされる激痛が走る。しかも、  
フェルパーは舌で傷口を押し開き、中の肉を削ぐように舐めているのだ。  
 
気絶すら許されない激痛に、フェアリーはただただ悲鳴を上げる。やがて、フェルパーは傷の終わりまで舐め上げると、ゆっくりと  
顔を離した。その舌は真っ赤に染まり、棘には削がれた肉片が僅かに付着している。さらに、終始浮かんでいる狂気の笑みは、  
彼女が快楽殺人者だと示すのに十分なものだった。  
「やめ……て、くれ…!フェルパー……頼むから……助けて…!」  
息も絶え絶えになりつつ、フェアリーは何とか口を開く。もはや命乞いをすることに躊躇いなどなく、ただただ助かりたいという  
思いだけが彼の心を支配していた。  
そんな彼を、フェルパーは笑みを浮かべたまま見下ろしていた。が、不意にその笑みが消え、代わりに唇を尖らせ、頬を膨らませた、  
不機嫌な女の子の顔になった。  
「……つまんないー。つーまーんーなーいー!」  
「……は、はい?」  
突然の言葉に、フェアリーは思わず間の抜けた声で聞き返した。  
「つまんないのー!つまんないー!」  
「な……何、が…?」  
「だって!君、強いのにすぐ諦めちゃうんだもんー!抵抗しない相手殺してもつまんないのー!危ないときの方が楽しいのにー!  
抵抗しなくなるのダメ―!危ないの楽しもうよー!」  
「あ……そ、そう……それは……悪かった、ね…」  
抵抗しなかったからこそ助かったのだと思うと、フェアリーは改めて背筋がぞっとした。必死の抵抗をしていれば、恐らくは今頃  
これ以上の激痛の中で嬲り殺されていただろう。  
その時、ふとフェルパーの目から狂気が消えた。  
「……でもね、変な気分なの。君のこと、すっごく殺したいの。でも、殺したら君いなくなっちゃう。だから、殺したいのに、  
殺したくないの。すっごくすっごく殺したいのに、君がいなくなるのはすっごく嫌」  
そっと、フェルパーが足をどける。そして、フェアリーの顔を両手で優しく包み込んだ。  
「だからね、もっともっと強くなって。もっともっと殺したくなるくらい。もっともっと殺せなくなるくらい。それで、  
危ないのを楽しめるようになるくらい。ね、約束だよ?」  
「……わ、わかったよ」  
「ほんとだよ!?だからね、約束の…」  
言いかけて、なぜかフェルパーは顔を赤くすると、フェアリーから視線を外す。  
「……な、何でもない!あ、でも……えっと、あの……う〜、やっぱり何でもない!」  
「な、何だよ?言いかけてやめないでくれよ。気になるだろ?」  
少しずついつもの調子を取り戻し、フェアリーが尋ねる。すると、フェルパーは耳を倒し、横目でフェアリーを見つめる。  
「あの、だから……んみぅ〜……あの、えっとね?えっと、約束……だからね?」  
「いや、それはわかったって…」  
「だ、だからっ!約束のっ……えと、約束の……約束っ、だからっ……約束したいの!」  
「だからわかったって…」  
「や、約束なんだからっ、誓いのことするのーっ!!」  
そう叫ぶと同時に、フェルパーはフェアリーに飛び付き、唐突に唇を重ねた。  
 
フェアリーが呆気にとられている間に、フェルパーはささっと離れると、頭から布団に包まってしまった。  
「やっちゃったぁー!チューしちゃったよぉー!!んにーぃ!!」  
「………」  
今更それが恥ずかしいのか、とフェアリーは聞きたかったのだが、もうそんなことをする気力すら失われていた。  
「あ、あのねあのね!チューしたのね、今のが初めてなんだよ!」  
「……僕もだよ…」  
初めてのキスが自分の血の味になったと考えると、フェアリーは非常にやるせない気分になった。しかも、とても強引に唇を奪われ、  
雰囲気も何もあったものではない。  
「あ、でも、もう帰ってほしいな…!」  
「こ、こんな傷作って、好き勝手しておいて、帰れって…!?」  
「だってぇー!君が部屋から出てくの見られたら、恥ずかしいんだもんー!だから帰ってー!もう帰ってー!」  
「………」  
断ってもよかったが、それはそれで危険な臭いがした。それに、自分の部屋でゆっくり休みたいという気持ちも、少なからずある。  
仕方なく、フェアリーは傷の痛みを堪え、何とか立ちあがった。流れる血をハンカチで拭い、服を身につけ、部屋のドアを開ける。  
そこで、彼はふとフェルパーの方へ振り返った。  
「……なあ」  
「んー?」  
「明日はちゃんと、ご飯食べに来るかい?」  
「ん、行くー!うずうずしてたの、もうないもん!だからね!多分もう平気!」  
「そっか、ならいいんだ。じゃ、おやすみ」  
「おやすみー!」  
あながち、無駄なことでもなかったかなと、フェアリーは思った。少なくとも、この危険人物の行動が把握できなくなるようなことは、  
しばらくないだろう。発端は自分の欲望を満たしに行っただけだが、収穫らしきものはあった。  
おまけに、フェアリーの懐き具合が、良くも悪くもさらに深まってしまった。とはいえ、さっきの態度を見る限り、この先今までのように  
命を狙われることは減るかもしれない。  
「……やっぱり、魔が差すのも悪くはないよな〜」  
そんなことを呟きながら、フェアリーはただ一人、部屋へと向かって飛んで行くのだった。  
 
翌朝、一行は転科の済んだエルフを加え、久々に六人揃っての朝食をとっていた。問題児三人はともかく、風紀委員の二人としては、  
やはりエルフがいた方がホッとする。  
「いやー、それにしてもその恰好。精霊使いっていうよりは、まるで吟遊詩人みたいだね」  
フェアリーが言うと、エルフもまんざらではないらしく、嬉しそうな笑みを浮かべる。  
「まだ、ハープの扱いは練習中ですわ。でも、月夜に湖の畔で弾き語りでもできるようになれれば、最高ですわね」  
「ああ、いいねえそれ。私もそれ聞いてみたいよ」  
「……下手くそが何やったって、下手くそにゃ変わりねえよ」  
せっかくの和やかな雰囲気を、ドワーフがあっさりと破壊する。  
「うるさいですわ!第一、まだ聞いてもいないのに下手だなんて…!」  
「じゃ、うまく弾けるのかよ」  
「それはっ……まだ、練習中ですわ…」  
「下手くそ」  
「あなたこそ、最初はその斧をまともに扱えなかったのではなくって?それこそ、戦士という割には、下手くそな扱いでしたわ」  
「……んだと?」  
スペアリブの骨が、ガリっと噛み砕かれる。セレスティアが慌てて間に入ろうとしたが、ドワーフは手を出したりはしなかった。  
「言ってくれるじゃねえか、このくそ妖精が。今日はいつにも増して、くっせえ臭いさせてやがるくせによぉ」  
「またそれですのね。香水の一体どこが…」  
「香水じゃねえよ。さっきから、この辺が精液臭えのに気づいてねえのか」  
「なっ、なななっ…!?」  
思わずうろたえるエルフ。それと同時に、フェルパーがガタンと音を立てて立ち上がった。  
「っ…!」  
その顔は真っ赤に染まり、やはり耳の内側まで真っ赤になっている。一行はまた彼女が部屋に逃げ帰るかと思ったが、フェルパーは  
しばらくドワーフの顔を見つめ、そのまま静かに席についた。  
ドワーフは彼女を見つめていたが、やがて気のない風に視線を逸らした。そして、ぽつりと呟く。  
「……しっかり洗わねえからだ」  
「ちゃ、ちゃんと洗ったもんー!」  
それを聞いた瞬間、ドワーフの顔に意地の悪い笑みが浮かんだ。  
「かかりやがった、馬鹿が」  
「あ…」  
途端に、フェルパーの腕までが真っ赤に染まった。自分から秘密をばらしてしまったという事実に、フェルパーは泣きそうな顔に  
なってしまう。  
「さっすが、盛ってただけあるなあ?相手は誰だ?セレスティアか?」  
ゆっくりと、エルフがセレスティアを睨みつける。  
「いや〜、私、口で言うより行動で示す方が好きなんだけど、神に誓って違うよ、ほんとに。だから委員長も、その目やめて」  
「……おい、ドワーフ。一体何が『かかった』んだ?」  
そう尋ねるのはバハムーンである。彼一人、一体何の話をしているのかわかっていなかったらしい。  
「てめえは、ほんっとにおつむの足りねえ野郎だな……てことは、てめえでもないか」  
「おい、俺の質問に…」  
「わかったわかった。こいつがヤッてなかったら、精液臭えのはしっかり洗ってねえからだって言っても、してないって言うだろ?  
なのに、こいつはしっかり洗ったって返したんだ。てことはつまり、ヤッたってことだろ」  
 
「……なぜそうなる?」  
「てめえの頭は飾りか!?中身入ってねえのか!?……ちっ、いいか!?説明してやるからよっく聞け!」  
誘導尋問の講義を始めたドワーフとバハムーンを無視し、エルフとセレスティアはフェアリーを見つめる。その本人は、誰とも目を  
合わさないようにしながら黙々と食事を続けている。  
「……フェアリー」  
エルフの声に、フェアリーの肩がビクッと震える。  
「あなた……何か覚えがあるんですの…?」  
「……魔が差した」  
「恋の時期を利用するなんて、最低だと思いませんの?」  
「……委員長と副委員長だって、することはしてるだろ?そこの二人だってそうだし、僕一人責められるのはどうなのよ」  
「でもねえ、君のそれは明らかにずるいでしょ。せめて、正面から堂々といくぐらいはさぁ…」  
その時、フェルパーがエルフの袖を引っ張った。  
「い、いいの!別にいいのー!だって、その、別に悪いことしてないもん!」  
「フェルパー……あなたは、彼に利用されたんですのよ?それを…」  
「だ、だから平気なのー!だ、だって、だって…!」  
フェルパーはちらりとフェアリーを見つめ、そしてギュッと目を瞑ると、大きな声で言った。  
「わ、私!フェアリーのこと好きだもんっ!」  
一瞬、学食の中がシンと静まり返った。ややあって、誰かがひゅう、と口笛を吹くのが聞こえた。  
「……やりやがった……この子やりやがった……ははは〜、魔が差したんだろうな〜…」  
魂が抜けたような顔で呟くフェアリーに、エルフは呆れたような笑みを送る。  
「……大変そうですわね。まあ、好かれているというなら問題ありませんわ。ついでに、フェルパーのことはあなたに任せますわね」  
「ははは〜、絶対そう来ると思ったよ……あ〜、幸せってどっか落ちてないかな〜…」  
セレスティアは慈愛と同情の入り混じった笑みを浮かべ、翼でぱたぱたと自分の顔を煽いでいる。  
「お熱いねえ、はは。ま、君なら何とか、うまくやれるでしょ。フェルパーのこと、よろしく頼むよ」  
「ははは〜、副委員長にまで頼まれちったぁ。ああみんな、僕強く生きるよ…」  
「……んみぅー、フェアリー、大丈夫?」  
不安そうなフェルパーの声に、フェアリーは一瞬にして我に返った。  
 
「え?あ、ああ。平気平気。うん、もう大丈夫」  
「よかったぁ!だってさ!元気ないの殺してもさ!面白くないもんね!」  
「……そうだね、面白くないね。でも、君には絶対殺されないからな」  
「私以外にも、絶対ダメだからね!君殺すのは私なの!」  
殺伐とした二人の会話に、セレスティアとエルフは顔を見合わせる。  
「……これ、本当に大丈夫かな…?フェアリー、クロスティーニで留守番してた方がいいんじゃないかい?」  
「今更遅いですわ……自業自得の面もありますし、今以上に強くなってもらえばいいだけの話ですわ」  
その時、ようやくバハムーンへの講義を終えたドワーフが、エルフの方へ向き直った。  
「おっとー、うやむやで終わらしちまうとこだったけどな。てめえ、昨日一発ヤッてるだろ」  
「ぐっ……そ、そんなのあなたには関係ないですわ!このけだもの!」  
「へーえ?風紀委員長様が風紀を乱すような真似してるのに、そんな口を利くのかよ」  
「うぐっ…!ふ、風紀を乱すような真似ではありませんわ!在学中の結婚は禁じられていても、それ以外は禁じられていませんわ!」  
「ほー。さっすが規則を守る委員長様だなあ。規則になけりゃ、何やってもいいわけだ」  
「誰もそんなことは言ってなくってよっ!」  
相変わらずの喧嘩を始める二人。それを止めるセレスティア。我関せずのバハムーン。そこまでは、いつもの光景である。  
だが、今ではフェルパーがフェアリーを見つめる視線に、今までにはない熱が篭っている。それに対するフェアリーも、以前ほどには  
軽い態度ではない。  
その関係は、ほぼ狩るものと狩られるものに近い。だがそこには確かに、一つの絆が生まれていた。  
ぼんやりと、しかし確かにそこにある。ともすれば見失いそうなほどに薄い、だが揺らぐことのないもの。  
それぞれ理由は違えども、今の彼等は同じ一つの指標を目指していた。  
愛する者のため、自身を高みへと上げるため、身を守るため、獲物を狩るため、ただ、強く。  
目指すものが一つとなったこの日以降、彼等は急速に力を付けていく。その飛び抜けた力ゆえに、英雄と呼ばれるほどに。  
 

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