エルフが精霊使いに転科してからの、一行の活躍は目覚ましかった。数々の依頼をいともたやすく達成し、実技試験では誰よりも早く
迷宮を突破し、クロスティーニ始まって以来最速の記録を打ち立てた。もはや周囲に彼等と渡り合えるような者はなく、彼等はまさに
イノベーターだと噂されるようになった。
しかし、その声が肯定的なものであるとは限らない。むしろ、妬みや僻みからそう言われることも多く、まして、彼等は学園きっての
問題児である。今でこそ大きな問題は起こっていないが、細かいところでの諍いはしょっちゅうである。
バハムーンはヒューマンと見れば露骨に喧嘩を売り、ドワーフは主に学食で食事絡みの喧嘩を引き起こす。フェルパーはフェルパーで、
少しでも強そうな相手を見るとすぐにナイフを抜こうとする。もっとも、彼女はあまりに危険なため、常に誰か一人は付いているのだが。
そんな彼等を監視するという名目とはいえ、実質ではその三人の力を利用する形になっている風紀委員の三人も、今では彼等と
同じような目で見られることが多い。
この時に起こったことも、そんな現状を表すようなものだった。
「おい、あんた」
久しぶりに一人になり、何をするでもなく学園をぶらぶらしていたセレスティアは、突然後ろから呼び止められた。
「はい、わたくしですか?……おや、あなたは…」
そこに立っていたのは、以前バハムーンと喧嘩し、首を掻き切られた竜騎士の彼女であった。
「お久しぶりですね。その後、お変りはありませんか?」
「あったらここにはいないだろう。それより、ちょっといいか?」
「ええ、構いませんよ」
普段と違い、よそ行きの話し方で対応するセレスティア。だが彼女には、むしろその方が好ましく映った。
「……いきなりこんなことを言うのは失礼だとは思う。だが、あえて言わせてもらう。あんたら、あいつらを贔屓してないか?」
「贔屓、ですか。やはりそう映りますか?」
「あんたらも知ってるだろう。あいつらはどいつもこいつも、いつ退学になったっておかしくない問題児だ。だが、あんたら風紀委員が
一緒にいるおかげで、それを免れてる。違うか?」
「多少、言葉の認識にずれがあるような気はしますが、大筋では合っていますね」
セレスティアが言うと、バハムーンは露骨に顔をしかめた。
「……あんたらは、あいつらの問題行動も、全て黙認してる。あんたらは風紀委員で、しかも委員長と副委員長までいる。そいつらが
黙認してるとなれば、他の奴等は何も言えない」
「………」
「あんた、恥ずかしくないのか?」
まるでダガーを突き刺すように鋭い声で、バハムーンは言った。だが、セレスティアは困ったような表情を浮かべるだけである。
「あんたらは自分の利益のために、あいつらを利用してるんだ。あんな奴等、さっさと退学にでもなった方がよっぽど学園のためだ。
それを、仮にも風紀委員であるあんたらが肩を持ってやってるなんて、おかしいと思わないのか?恥ずかしいと思わないのか?」
その質問に、セレスティアは困ったように息をついた。そして少し考え、口を開く。
「やはり、そう見えますか」
「それ以外、どう見ろと言うんだ」
「確かに、その言葉の全てを否定はしませんよ。彼等には大分世話になっています」
セレスティアの言葉に、バハムーンの眉が吊り上がる。
「あんた……それを認めたうえで…!」
「『全てを』否定はしない、と言ったはずです。別にわたくし達は、それだけのために彼等と行動を共にしているわけでは、ありません」
落ち着き払った口調で、セレスティアは続ける。
「彼等を放っておけば、大きな問題が起こるのは目に見えていました。だからこそ、わたくし達は彼等を監視するため、行動を共に
することにしました」
「だから、それは口実…!」
「……あなたは、わたくし達の何を、どこまで知っていますか?」
口調こそ落ち着いているものの、その声には隠しきれない苛立ちが混じっていた。
「なるほど、あなたは良い方です。その身を犠牲にしてでも仲間を助ける竜騎士になれるのですから。ですが、あなたの信じる善は、
あなたの目を眩ませている。それには気づいていますか?」
「……何が言いたい?」
「あなたは彼等を、排除するべきものとしか見ておらず、またそうとしか見ようとしない。まして、あなたは彼に恨みがありますからね。
だからこそ、彼等と共にいるわたくし達を同じく悪だと思い込んでいる。それが、目が眩んでいるということ。それに……あなたは、
大きな勘違いをしていますよ」
「勘違い?」
「規則は、善では、ありません」
一つ一つを区切るように、セレスティアは言い切った。
「な、何…!?」
「その逆もまた然り。あなたはその身を犠牲にしてでも仲間を助けるのでしょうが、他人のために命を捨てることを求める規則は、
ありません。たとえば、死者の救出をしたければ、対価を払うことがこの学園の常識です。あなたのように善意の方が、無償で
助けることもよくありますがね。ですが、死者を放って探索を続けたとしても、この学園では罪には問われませんよ。なぜなら、
自分の身は自分で守ることが基本なのですから。他者のために自身を危険に晒すことなど、考えようによっては愚かですらあります」
その言葉に、彼女は何も言えなかった。
「死者を助けることを、当然と見るか、仕事と見るか、愚かと見るか。わたくしは、対価をもらえるなら喜んで引き受けますよ。
さて……ここまで言えば、あなたならわかってくれますね?うちの彼と違って、あなたは頭が良さそうですから」
最後に冗談めかして言うと、セレスティアは彼女に微笑みかけた。だが、バハムーンは苦りきった顔で、彼を見つめるばかりである。
「お前は、奴等の監視をしているなら、その力を利用するのも当然の報酬だ、と言うのか…!?」
「その通りです。でなければ、誰がわざわざ好き好んで、彼等と関わりを持ちますか?あなたのような善意の方なら、なおさら、ね」
反論の余地を次々に潰してくるセレスティアの言葉に、バハムーンは苛立ちの籠った溜め息をついた。
「……どうにも、お前と話していると調子を狂わされるな。怒るに怒れないところが、余計にまた、な」
「ですが、何もわたくし達だって、仕事だから一緒だというわけではありません。もちろん、様々な問題を引き起こしはしますが、
彼等は彼等で、いいところもあるのですよ」
「あんな奴等の、どこにそんなものがっ…!?」
「あなたも、ヒューマンの方と一緒にいるでしょう?あなたのような方が、どうして彼のような種族の方と?」
「そ、それはっ……な、仲間だから仕方なく…」
「わたくし達も同じですよ……いえ、でしたよ。では、なぜそんな嫌いな種族と一緒なのに、脱退を考えないのです?あんな下等で、
繁殖力しか取り柄のない出来損ないのような種族と…」
「貴様、私の仲間を悪く言うな!!いくら貴様といえどっ……あ…」
途中で気がつき、口をつぐんだバハムーンに、セレスティアはにっこりと微笑みかけた。
「わたくしも、同じですよ。わたくしには正直、あなたの仲間の良さは、わかりません。ですが、それはあなたも同じですよ」
そんな彼から目を逸らし、バハムーンは苛立ちを通り越して悲しげな溜め息をついた。
「……それでも、私は認めないぞ…。あんな奴等など、いない方が学園のためだ…」
「強情な方ですねえ。ですが、認めてくれなくとも、わかってくれればいいのです。わたくし達風紀委員は、決して私利私欲の為だけに
動いたりはしませんよ」
それ以上の会話はなかった。黙って去っていく彼女の背中を見送ってから、セレスティアは学食へと向かった。この時間ならば、既に
仲間達が来ているだろう。
中に入ってみると、果たしてドワーフがエルフに絡む声が響いてきた。
「ほんっと、てめえのハープはいつまで経っても下手くそなままだよな。いい加減、少しはうまくなろうと思わねえのか?」
「うるさいですわ!わたくしだって、毎日練習してますわよ!」
「結果の出ねえ練習に、何の意味があるんだよボケ。しっかも毎っ回、おんなじところで間違えやがって。薬指がしっかり
動いてねえからだ」
「これを弾くのは難しいんですのよ!あなたの武器のように、振り回せばいいというものではありませんわ!」
それこそ毎日毎日、よく飽きないものだとセレスティアは感心する。パーティを組んで以来、あの二人が喧嘩をしなかった日は、
それぞれが転科をしていた時ぐらいしかない。
「やあ、お二方。もう来てたんだね」
「ああ、セレ……副委員長。このけだもの、どうにかしてくれませんこと?」
「相変わらずだね君達は。ところで、他の三人は?」
「あ〜、バハムーンとフェルパーの野郎は、屋上で日向ぼっこだってよ。だからあの虫も一緒だろ」
学年が違うため、普段の生活においては問題児三人の動きは把握しにくい。こういうときは、これといって重要な役職に就いていない
フェアリーの身軽さはありがたかった。
「まあそんなことより、てめえはあたしの武器を振り回すだけって言うけどな、それこそてめえが物をよく見てねえ証拠だ。そんな目で
見てるから、てめえの武器もうまく扱えねえんだよ。下手くそが」
「人のことをそんなに言うなら、あなたはさぞうまく弾けるんでしょうね!?わたくしの武器も見ているんですから!」
「出たよ、馬鹿の得意技、『じゃあお前がやれ』。あたしはそんなもん使う気はねえし、てめえは出来て当たり前ってことがそもそも
わかってねえんだよな。ま、でもいいぜ?じゃあ貸してみろよ」
「さすが、イノベーターですわね!じゃああなたの素晴らしい腕前、とくと拝見させていただきますわ!」
売り言葉に買い言葉の様相で、エルフはドワーフにハープを渡す。大きな手でそれを受け取ると、ドワーフは全ての弦をポロンと
弾いてみる。
「……なるほどな。ま、いいだろ」
そう呟くと、ドワーフは静かにハープを奏で始めた。外見とは裏腹に、その指は恐ろしく繊細な動きを見せ、澄んだ旋律が流れ出る。
しかも、その曲はエルフが散々練習していた曲であり、彼女が間違ってしまうところさえ、ドワーフは間違えずに弾き切ってしまった。
一通りの演奏が終わると、最後にポン、と間の抜けた音を鳴らし、ドワーフはにやりと笑って見せる。
「てめえの演奏はいっつも聞かされてたしよ、そん時に指の動きも見てるからなあ。こんぐらい訳ねえや」
「っ…!」
「んじゃ、その上でもう一回言うぞ。下・手・く・そ」
「………」
差し出されたハープをひったくるように奪うと、エルフは黙って席を立った。その顔は真っ赤に染まり、怒りとも悲しみともつかない
表情を浮かべている。
「……何だよ、言い返さねえのか?委員長様よ?」
「……さすが、イノベーターですわね……どうせ、わたくしは下手ですわ…」
震える声で呟くと、エルフは食器を下げに行ってしまった。その後ろ姿を見送り、ドワーフはぽつんと呟く。
「……なーんだ、つまんね」
「あのねえ……言いすぎだよ。そりゃあね、君から見たら下手かもしれないけどさあ…」
「苛つくんだよ。下手くそなのに言い訳ばっかしやがって。何が悪いのかもわかっちゃいねえ。足りねえもんがあるなら、それなりに
することだってあるんだ。何が足りてねえのか分かってねえから、おんなじ失敗繰り返すんだ。あいつに一番足りねえのは頭の中身だ」
一気にまくしたてると、ドワーフは苛立たしげに溜め息をついた。そんな彼女を、セレスティアは呆れたように見つめる。
「……まあ、いいさ。それにしても、君は思った以上に器用なんだねえ」
「他の奴等と一緒にすんな。大体、あたしらドワーフに手先の技術で勝とうと思う方が馬鹿なんだ」
気のない感じで言うと、ドワーフは食事を再開する。だが、その勢いはやたら激しく、自棄食いをしているようにも見えた。
軽く二人前の分量を食べ尽くすと、ドワーフはホッと息を吐いた。そして、例によってスペアリブの骨を幸せそうに咥える。
「あーあ、食った食った。これ齧ってる時が一番幸せ…」
「好きだねえ。私の顎じゃ、それは無理だなあ」
「不幸だな、そりゃ。あ、ところでよ、この間のモンスターの襲撃あっただろ?あれの原因って何かわかったのか?」
「あれか…」
つい数日前、学園内にグロテスクワームが大量発生するという事件が起きた。当然、彼等は先頭に立って戦い、その力を存分に
見せつけていた。
盾と剣を使い、危なげなく最も安定した戦いを見せるバハムーンに、両手に大斧を持ち、一撃で敵を叩き潰すドワーフ。
そして狂気の笑みを浮かべ、その俊敏な動きで敵を翻弄し、切り刻むフェルパー。
その戦いは、まさに次元が違うと言うのにふさわしいものだった。だが、グロテスククイーンまでを倒し、学園を救ったとはいえ、
彼等を好意的に評価する者はほとんどいない。その力だけは認められているものの、それだけである。彼等を英雄と呼ぶ声もあるが、
そこには皮肉も多分に込められていた。
「これといって、まだわかってることはないよ。結界が、内側から破られてたっていうのが気になるけど…」
「ふーん……まさか……あり得なくはねえな。でも……まあいいか」
小声で呟くと、ドワーフは改めてセレスティアに顔を向ける。
「君も、やっぱり気になるのかい?」
「あー。もしそれ関連の課題が出たら、忙しくなりそうだからな。あたしさ、そろそろ盛りに入りそうだから、そういうの早めに
終わらせてえんだよ」
「ま、またはっきり言うね君は……まあ、その、今のところは進展もなさそうだし、気にしなくていいんじゃないかな」
「そっか、ならいいんだ。んじゃ、あたしは飯も終わったし、昼寝でもしてくる。んじゃな」
セレスティアの食事に付き合おうという気は全くないらしく、ドワーフは骨を咥えてさっさと引き上げてしまった。その後ろ姿を
少し寂しげに見送ると、セレスティアは一人で食事をするべく、料理を取りに行くのだった。
イノベーターでもあり、問題児でもあり、学園きっての実力者でもある三人のことは、今や学園中の誰もが知っている。そのため、
『あの問題児達』という言葉は、もはや彼等の代名詞にもなっているが、だからといって他に問題児がいないわけではない。
「最近、全然ヤッてねえなー」
白昼堂々、そんなことを呟くヒューマンの男子。それに対し、隣のクラッズが笑って答える。
「今年の新入生、ガード硬い子多かったもんねー。しかも無理矢理しようにもさ、ダンテ先生が担任じゃバレるとやばいしね」
「何人かいいのいたんだけどな、くそー。もうこの時期じゃ、それなりの強さになっちまってる奴多いし…」
「ま、少々なら二人がかりですれば、何とかなると思うけどね。忍者二人だし、ちょっとやそっとじゃ負けないもん」
問題児と一言で言っても、それには色々いる。二人は問題児ではあるが、学校側に気付かれないよう、うまく立ち回っており、
よって彼等が問題児だと知るのは、ごく一部の者だけだった。
「……あ、そうそう。今の時期だと、一部の奴等って狙い目じゃねえか?そろそろ盛り入るだろ?」
「あ〜、そういえばそうかも。種族限って見ると、狙いも付けやすいかな」
「狙い付けやすいって言えば、あいつらかな」
「あいつら?」
クラッズが首を傾げると、ヒューマンは笑った。
「ほら、あれだよ。一年の、問題児のあれ」
「あ〜、あのフェルパーとドワーフと、他おまけの」
「あのフェルパー、結構可愛くなかったか?落とせるもんなら落としてえけど…」
「いや、それはやめとこ。あの子、殺人狂だよ?血ぃ見るのが大好きで、強い相手殺すのが楽しくてたまらないって子だから、
いくら何でも危なすぎるよ。彼女落とす前に、僕達が命落としちゃうって」
クラッズが言うと、ヒューマンは残念そうに溜め息をついた。
「じゃあドワーフの方……も、危ねえ気はするよなあ。あいつにやられたエルフって、しばらく保健室から出られなかっただろ?」
「でも、案外いいかもよ?盛りの時期なら落としやすそうだし、あいつらなら少々いたぶったって、誰も何も言わないでしょ。
むしろ、それを望んでる人だっているんじゃないかな?」
「……言えてるかもな。ドワーフ相手ってのは初めてだし、楽しみっちゃあ楽しみだ」
二人は顔を見合わせ、にやりと笑った。
「んじゃ、それ確定で行くか。クラッズ、最初は任せるぜ」
「わかってるよ。君こそ、うまくやってね」
拳と拳をぶつけ合う二人。その顔は何とも楽しげで、まるでゲームでも始まるかのような、そんな表情が浮かんでいた。
数日後、ドワーフは昼食時にもかかわらず、一人で学園を歩いていた。セレスティアに言った通り、早くも発情期が来てしまい、
他の仲間とはあまり会いたくなかったのだ。
彼等がいなくなるまで、どうやって時間を潰そうかと思案していると、不意に後ろから声がかかった。
「そこの君、もしかして噂の英雄さんじゃない?」
振り向いてみると、そこには一人のクラッズが立っていた。しかし、いくら考え事をしていたとはいえ、声を掛けられるまで気配を
まったく感じなかったことに、ドワーフは些かの警戒心を抱いた。
「誰だてめえは」
「そう怒らないでよ。気配を隠すのは忍者の癖なんだから」
「ああ、なるほど。お前忍者なのか」
種族自体は、元々好きな相手である。隠密を旨とする忍者学科であると聞いて、ドワーフの警戒心は一瞬で消えた。
「んで、噂の英雄って、そりゃ皮肉じゃねえのか?」
「皮肉にしても何にしても、そう呼ばれてるのには違いないでしょ?」
「そりゃあ確かにな。ま、そうだよ」
クラッズは自然な動作でドワーフの隣に並び、揃って歩き始める。
「やっぱりね。ここだと、狂戦士とか上級学科の人って珍しいからさー」
「上級にもなれねえ、低能野郎ばっかりだからな」
「あはは。さすがにイノベーターともなると、言うこと違うね」
「事実だろ?ろくに才能もねえ、努力もしねえって奴多いしよ。そんなのはさっさと退学するかロストしちまえばいいんだ」
ドワーフにまとわりつくように歩くクラッズ。どこに向かっていたわけでもないのだが、たまに前に出る彼を避けて歩くうち、二人は
だんだんと人気のない校舎裏へ歩を進めていた。
「きついねー。努力してもできない人は?」
「才能ねえんだから退学すりゃいいんだよ」
「力相応のとこにいるって選択肢はないの?」
「ああ、それでも構わねえけどよ。そもそもそんな才能しかねえなら、最初から来……がっ!?」
突然、首の後ろに凄まじい衝撃が走った。体勢を立て直そうにも、気力を振り絞る間もなかった。
視界が赤から黒へと変わり、一瞬ぼやけた視界が映る。その中で、クラッズは無邪気な笑顔を浮かべていた。
はめられたと気付いても、もう遅かった。視界は黒く塗り潰され、やがて体の感覚がなくなり、そこでドワーフの意識は途絶えた。
埃の臭いが鼻を突き、ドワーフは目を覚ました。首の後ろがズキズキと痛み、その痛み以外はまだどこかぼうっとしている。
「お、起きた?」
聞き覚えのある声に、ドワーフはハッと顔を上げた。そして目の前のクラッズを見るや、鼻に皺が寄り、怒りに満ちた猛獣の顔になる。
「てめえ……何のつもりだ…!?」
「はは、怖いねー。とはいえ、その格好じゃあそこまで怖くもないけどさ」
言われて、ドワーフは自分の体を眺めた。着ていたはずの服はなく、すっかり裸に剥かれている。さらに、両足首は一本の棒に
縛りつけられ、開いた状態のまま固定されており、おまけに両腕も、その棒の中心に縛りつけられており、身動きのろくに
取れない状況となっていた。
「……手の込んだことだな。ここまでしねえと怖くて触れもしねえかよ」
「念のため、だよ。余計な怪我したくないし、させたくもないし」
「あたしが、てめえらに負けるとでも?」
言いながら、ドワーフは縄を外そうと体を動かすが、半端な前傾姿勢のままでは思うように力も出せない。
「はは、『てめえら』ね。やっぱ気付いてたか」
体育用具の影から、ヒューマンが姿を現した。そこで初めて、ドワーフはここが体育倉庫だと気付いた。
「たりめえだろ。そこのチビと並んで歩いてて、木の横通った瞬間に一撃食らってんだ。罠が仕掛けられてたわけでもねえ、でも気配も
感じさせねえ。となりゃ、忍者かレンジャーか、あるいは堕天使の仲間が襲撃してきたとしか考えられねえだろ」
「おーお、案外頭もよく回るんだな。さすが、イノベーターの称号は伊達じゃねえか」
見た感じでは、二人とも大した強さではないように見えた。だが、全身凶器の忍者が危険であることに変わりはなく、こちらは
縛られているうえに仲間もいない。
「……で?あたしをどうするつもりだ。盛りの相手でもしてくれるってのか?」
「あはは、わかってんなら話が早いねー」
「………」
こんな奴等に犯されるのかと思うと、強い不快感が湧きあがる。しかし、だからといって抵抗できる状況でもない。
「へ〜え……そりゃありがたいな。じゃ、舐めてやるからさっさとちんこ出せよ」
「お、君も乗り気?それじゃ、遠慮なく…」
言いながら目の前まで近づき、しかしクラッズは直前で立ち止った。
「……なんて、かかるわけないでしょ。君、噛み切るつもりだったでしょ」
「ちっ…」
「そんな殺気立った顔してたら、そりゃばれるよ。僕達だってさ、嫌がってる君と無理矢理するつもりなんてないし」
言いながら、クラッズはゆっくりと後ろへ回る。何を仕掛けてくるかと思った瞬間、彼の両手が胸を包んだ。
「んあっ!?て、てめっ……何しやが……んっ!」
クラッズの小さな手が、優しく胸を揉みしだく。強すぎず、弱すぎず、その絶妙な刺激に、ドワーフは思わず甘い声を漏らしてしまう。
「どう?気持ちいいでしょ?」
「こ、こんなの……全然、気持ちよくねえ……んんっ!」
「あははー、嘘言っちゃダメだよ。ほら、乳首もこんなに硬くしちゃってさ」
言うなり、クラッズはそこをきゅっと摘んだ。途端に、ドワーフの体がビクンと跳ねる。
「うあっ!?やっ……やめ、ろぉ…!」
見知らぬ、嫌いな男に愛撫される、強い不快感。だが、発情期に入ったドワーフの体は、相手から受ける刺激を正直すぎるほどに、
快感として受け取ってしまっていた。
「くそぉ…!てめえらになんか……あんっ!」
手先が器用な種族だけあって、クラッズの手は的確にドワーフの性感帯を刺激する。胸を捏ねるように揉み、指先で乳首をコリコリと
摘むように弄る。嫌悪感を上回る快感に、彼女の秘部は既にじんわりと濡れ始めていた。
「うあぁ…!あぅ、う…!」
それに従い、ドワーフの反応も変わっていく。敵意剥き出しの表情は鳴りを潜め、代わりに苦悶にも似た快感の表情が浮かんでいた。
「あはは、大人しくなったねー。正直に言ってみなよ、気持ちいいんでしょ?」
「うぅ〜…!うる、せぇ…!」
反論の言葉も、既に力が入っていない。それでも、ドワーフは彼を拒否し続ける。
「ほんっと、強情な子だなあ。ま、いいよ。もっと気持ちよくしてあげる」
クラッズの手が胸から離れる。しかしホッとする間もなく、不意に尻尾が撫でられた。
「ひゃっ!?てめっ……そ、そこ触んな…!」
ドワーフは慌てて尻尾を動かすが、クラッズはすぐにそれを捕える。そして尻尾を撫でながら、もう片方の手を秘裂へと伸ばした。
指先が触れると、くち、と小さく湿った音がし、ドワーフの体が跳ねた。
「うあぁ!や…!そこは……あっ!」
「ほらー、もう濡れてるよ。君だって、もっと気持ちよくなりたいんじゃないの?」
「くっ……あうっ!やぁっ!……そ、そんなこと…!」
理性すら飲み込みそうになる快感と戦いつつ、ドワーフは何とか答える。だが、限界が近いことは誰の目にも明らかだった。
それを見て取ると、クラッズはにやりと笑う。
「我慢しないでいいのにさ。ただでさえ発情期なんだから、もっといっぱいしてほしいでしょ?」
「……おーい、クラッズ。俺の番は…?」
そこに、さっきから二人を見ているばかりのヒューマンが声を掛ける。
「あーもう。慌てないでよ、まだこの子乗り気じゃないみたいだし」
「そうは言うけどよ……さっきから見てるだけ…」
「君はそうせっかちだからね。まあもうちょっと待っててよ」
その間も、クラッズの手は止まらない。尻尾の付け根をコリコリと刺激し、秘裂に指を挟み込んで前後に擦る。そこはとめどなく
愛液を滴らせ、ドワーフももはや声を出さず、ひたすらに歯を食いしばって耐えるばかりである。
「それで、どうかなー?そろそろ欲しくなってきたんじゃない?」
「うあぅ……はぁっ…!」
「……返事はなし、か。はは、それとも返事もできないかな?どっちにしろ、そろそろ次に移ろっか」
「次…?うあっ!?」
突然、クラッズはドワーフの腰を持ち上げた。手足を縛られているため、ドワーフはそのまま前のめりに倒れる。
「うあっつ!」
頬を床に擦りつけ、尻を高く持ち上げた格好になりつつも、ドワーフは何とか後ろのクラッズを睨む。しかしその視線は、
それまでのような強さは感じさせない。
そんな彼女に構わず、クラッズはズボンを下ろすと、ドワーフの尻尾を掴んで持ち上げた。そして、自身のモノをドワーフの秘部に
擦りつける。
「あっ!?てめ……やっ!あっ!」
短い声を上げ、ドワーフの腰が跳ねる。クラッズは先端で彼女の入り口を何度も擦り、その度にドワーフは嬌声を上げ、体を震わせる。
しかし、いつまで経っても挿入する気配はない。
「あんっ!やぁっ!……てめっ……どうして、擦るだけ…!?」
思わずそう言うと、クラッズはにやりと笑った。
「言ったでしょ?嫌がってる君とする気はないってさ。欲しいんだったら、欲しいって言ってみなよ」
「くぅ……こ、こいつら…!」
ドワーフはギリッと歯を食いしばった。こんな相手に自分から体を許すなど、考えただけでも虫唾が走る。しかし、状況は拒否することを
許してはくれない。
「別に嫌ならいいけどね〜?早く答えないと、やめちゃうよ?」
何度も何度も入口を擦られ、その度に強い快感が走る。もはや体の疼きはどうしようもないほどに高まり、またそれを口に出さなければ、
この拷問に近い責めが終わらないこともわかっていた。
しばしの逡巡の後、ドワーフは震える唇を開いた。
「……い……入れ、て……くれ…」
「ん?なんか言った?」
わざとらしく聞き返すクラッズに、ドワーフは一度唇を噛み締め、そして再び口を開いた。
「い、入れてくれよぉ!お前のちんこ、あたしの中に入れてくれぇ!!」
「ふふ……よく言えました。それじゃ、お望み通り…」
秘裂にしっかりとあてがうと、クラッズは軽く息をつき、直後思い切り腰を突き出した。
「うああっ!!あっ……こ、これぇ…!」
「くっ……君の中熱くて、すっごくぬるぬるしてる」
しばらくの間、クラッズは動かずに中の感触を楽しんでいた。やがて少しずつ、ゆっくりと腰を動かし始める。
「んっ……あくっ!ああっ!」
奥を突き上げられる度に、脳天まで突き抜けるような快感が走り抜ける。引き抜かれれば、無意識に離すまいと強く締め付け、
彼のモノをよりはっきりと感じる。指などとは比べ物にならないほどの快感に、ドワーフは縛られた体を震わせ、嬌声を上げる。
「あうっ!お、奥がぁ…!奥が、いいのぉ…!」
「あはは、素直になってきたねえ。じゃ、もっと強くしてあげるよ!」
「ふあっ!?あ、あああ!そ、それぇ!」
少しずつ、ドワーフの顔から理性が消えていく。とうとう落ち始めた彼女の姿に、クラッズはにやりと笑う。
動けないドワーフの中を、乱暴に突き上げる。パン、パンと乾いた音が鳴り、それに彼女の嬌声が混じる。ドワーフは動けないながらも、
必死に腰を動かし、何とか快感を貪ろうとしている。
動きがさらに荒くなり、クラッズがドワーフの腰をしっかりと掴む。いよいよ中に出されるかと思った瞬間、クラッズは不意に
彼女の中から引き抜いた。
「あ……ん…。ふえ…?どうして、途中で…?」
「あはは、危ない危ない。次いるのに、先に出しちゃあ使えなくなっちゃうもんね」
クラッズが言うと、いかにも待ちかねたようにヒューマンが近づく。
「本当に忘れ去られたかと思ったぜ。んじゃ、いよいよ本番だな」
ヒューマンもズボンを脱ぎ、ドワーフの後ろに回る。しかし、まだ入れようとはしない。
「……棒、邪魔だな。これ取るぞ」
「いいよー。でも手はまだダメだよ」
「わかってるって」
そう言うと、ヒューマンはドワーフの足の縄を解き、固定されていた棒を外す。しかし手だけは、まだしっかりと縛ったままである。
「そんじゃ、お楽しみだな。気持ち良すぎて気絶したりすんなよ?」
「何……んあぁ!さ、さっきより太いぃ…!」
ヒューマンはドワーフを抱き、前から挿入を果たすと、彼女を抱いたまま仰向けに寝転がった。そんな彼女の尻尾を、クラッズが
掴んで上げさせる。
「やっ……な、何を…!?」
「ふふ。せっかく二人いるんだからさ、両方塞いであげるよ。その方が、君も嬉しいでしょ?」
後ろの穴にあてがうと、クラッズはゆっくりと腰を突き出した。
「うあぁっ!?ま、待てっ……そんな、いきなりっ……うっ、あっ!あああああっ!?」
先端が入り込み、ドワーフは悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げる。同時に、クラッズはさらに強く腰を突き出した。
「あっ、が!いっ……うああぅ!」
慣れていない穴を無理矢理押し広げられる痛みが走り、同時に腸内へと何かが入り込んでくる感覚が快感に変わる。その感覚に
一瞬力を抜いた瞬間、途端に根元までが一気に彼女の中に入り込んだ。
「うあっ……きっつ…!」
「くぅ……あはは、こっちもきっついや。僕ぐらいだと、こっちの方がちょうどいいね」
「あ……かふ…!は、ぐ…!」
ドワーフは口をだらしなく開け、犬のように舌を突き出し、荒い呼吸をついている。慣れない刺激に、ドワーフは突き入れられた二本の
モノをぎゅうぎゅうと締め付け、それが二人の男に大きな快感を与える。
「それじゃ、動くよ。君ばっかりじゃなくて、僕達ももっと気持ちよくさせてね」
クラッズが腰を動かす。体勢がきついため、ヒューマンはあまり動いていないのだが、腸壁を隔てて二本のモノがゴリゴリと擦れ、
それだけでも十分の苦痛と快感をドワーフにもたらす。
「あぐぅ!は、腹ん中がぁ…!かふっ!尻が、焼けちまうよぉ…!」
痛みのためか、それとも快感を貪るためか、ドワーフはそれまで以上に二人のモノをきつく締め付ける。ただでさえ、お互いのモノが
彼女の中を狭め、十分なきつさになっているのだ。その上で締め付けられると、もはや軽く痛みを感じるほどである。
「さすが、狂戦士だなこいつ。すっげえ締めつけやがる」
「ここまできついのは初めてだね。んっ……これは気持ちいいや」
だんだんと、二人の動きが荒く激しくなっていく。ドワーフは縛られた両手でヒューマンの服を掴み、必死にその責めを耐える。
「うあぅ…!あんっ…!あ、ぐぅ…」
もはや、それまでの反抗的な態度など、見る影もなく消えていた。すっかりおとなしくなり、自分達の腕の中で従順に耐える彼女の姿は、
二人の目にはとても心地よく映る。
「くぅ…!僕、さっきしてたから、もう…!」
クラッズが切羽詰まった声を出し、同時に一層強く腰を打ちつける。
「もう…!くっ、出る!」
根元まで突き入れ、クラッズはドワーフの腸内に精液を注ぎ込んだ。その感覚に、ドワーフの体が震える。
「うあぁ……腹ん中にぃ…!出され、てる…!」
動きのなくなったクラッズの代わりに、今度はヒューマンがドワーフを突き上げる。
「やべ、俺も出そう…!」
「あっ!んっ!は、早く……出せ、ぇ…!精液……出せよぉ…!」
「言われなくても……うぅ、限界だ!」
最後に思い切り突き上げ、ヒューマンもドワーフの中に精を放った。腸内よりもはっきりとわかる感覚に、ドワーフは熱い吐息を漏らす。
「ああ、ぁ……あたしの中……いっぱいぃ…」
陶然と呟くドワーフ。そんな彼女を満足げに見つめながら、二人はしばらく余韻に浸っていた。
やがて、ヒューマンがゆっくりと腰を引く。彼のモノが完全に抜け切ると、ドワーフの秘裂が名残惜しげにヒクっと震える。
「ふー、なかなかよかったなあ、こいつ」
「だねー。僕はせっかくだから、このままもう一回しようかな」
ドワーフはしばらくうつむき、荒い息をついていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「……もっとぉ……せいえき、もっと飲ませてぇ……ちんこ、なめさせてぇ…」
どこか遠くを見るような目つきで呟くドワーフに、ヒューマンはにやりと笑った。
「完全に落ちたな、こいつ。いいぜ、舐めさせてやるから、きれいにしろよ」
ヒューマンは立ち上がり、ドワーフの前に自身のモノを突きつける。クラッズはクラッズで、再び彼女の腸内を犯し始める。
「ああ……ちんこ、もっとぉ……せいえき、だしてぇ…」
呆けたように呟き、ドワーフは自身の愛液と精液に塗れたそれに舌を這わせる。先端を舐め、裏側を丁寧に舐め取り、キスをするように
軽く吸いつく。
「く……なかなかいいぜ。次は咥えろよ」
言われたとおり、ドワーフは口を開くと、彼のモノを根元まで咥えこんだ。
直後、グチュッとくぐもった、嫌な音が響いた。
「ぎゃああああぁぁぁ!!!!」
「え!?ど、どうしたの!?」
股間を押さえ、倒れるヒューマン。クラッズが慌てて彼女の中から引き抜いた瞬間、ドワーフは思い切り身を屈め、股の間から
クラッズの睾丸を掴んだ。
「あぐっ!?……がっ、あっ…!」
急所を強く掴まれ、クラッズの額に脂汗が浮かぶ。そんな彼に、ドワーフは口元から血を滴らせたまま、凄絶な笑みを浮かべた。
「やぁっと隙見せやがったな、馬鹿野郎どもが」
「あがっ……がっ…!そ、そんなっ……確かに、落ちたはずっ…!?」
「てめえら、エロ本の読みすぎじゃねえのか?てめえみてえな、体も心もひ弱な野郎と一緒にすんじゃねえよ。あるいは万年発情期の
ヒューマンなら、落ちたかもなあ。けど、あたしらドワーフを、ましてあたしを舐めんじゃねえよ。たかが快感で、落ちてたまるか。
そもそも、てめえらにヤられるなんて、不快以外何物でもねえんだよ。次のために覚えとけ」
そう言い、ドワーフは冷酷な笑みを浮かべた。
「……次がありゃ、だけどな」
プチンと、小さな破裂音が響いた。直後、クラッズの絶叫が辺りに響き渡った。
「あああああぁぁぁ!!!あがぁっ!!!ぐっ、があぁっ!あああぁぁ!!がっ……げぶっ、おええぇぇ…!」
あまりの痛みに嘔吐し、のたうち回るクラッズ。ドワーフはそれを冷ややかな目で見つめ、次に両手を縛る縄を見つめた。
「ふんっ!!」
思い切り力を入れる。たちまち縄はメリメリと悲鳴をあげ、やがてブツリと音を立ててちぎれた。両手が解放されると、クラッズと
同じく、股間を押さえて震えるヒューマンの髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる。
「てめえのモンだ。てめえで舐めてな」
冷やかに言うと、ドワーフはヒューマンの顎を掴んで口を開けさせると、そこに噛みちぎった彼のモノを吐き入れた。
「がっ……げぁ…!」
「おっとぉ、吐き出すんじゃねえよ。てめえのもんなんだから、もっと大事にしな!」
笑みすら浮かべながら、ドワーフはヒューマンの口に手を突っ込み、それを喉の奥へと押しやった。手を離すと、ヒューマンは床を
のたうち、やがて呼吸困難を起こしたらしく、皮膚が紫色に変わる。そこで気を失ったらしく、ヒューマンの動きが止まった。
一瞬死んだかとも思ったが、恐らくは噛みちぎった部分からの流血で、喉を塞いでいたモノが小さくなったのだろう。耳を澄ますと、
微かな呼吸音が聞こえる。
気付けば、クラッズもあまりの痛みに失神しているようだった。それを見て取ると、ドワーフは自身の秘部を見つめる。
「……きったね」
そう呟くと、ドワーフはその場にしゃがみ、軽くいきんだ。
「んっ…!」
膣内と腸内の精液が押し出され、小さな音と共に溢れ出る。ある程度出したところで、膣内に指を突っ込み、残りの精液を掻き出す。
最後に手を振ってそれを振り飛ばすと、ドワーフは立ち上がり、床の精液を見つめた。
「……きったねえ」
もう一度呟くと、ドワーフは小さく息をついた。近くに捨てられていた自分の制服を見つけ、それを元通り着ると、全身の埃をはたく。
そして倉庫の扉を開けると、あとはもう何事もなかったかのように、学食へと歩き出した。
「だから、僕はその方がいいと思うってだけだよ」
「いや、俺は認めん。どう考えても俺の方がいいだろ!?」
「君の意見が万人の意見だとでも思うのかい?だから君は傲慢だってんだよ。僕にだって、少なからず賛成者はあると思うけどね」
「まあまあ、二人とも。そう熱くならないようにね」
「うるさい!じゃあ貴様は納得できるのか!?」
学食の中に、男三人の声が響く。彼等は昼食を終えた後も、特に予定がないため、そのまま中で話をしているのだ。
「副委員長、僕の意見だっていいよね?」
「うるさい、黙っていろ!ブルマの色が赤に限るなど、邪道もいいところだろう!?」
「君だって、紺以外認めないとか何様だよ。確かに紺色は基本中の基本だけど、普通すぎると思うんだよね」
そして話の内容は、『理想のブルマ像』だった。英雄だ問題児だと言われる彼等も、一皮剥けばただの男である。
「副委員長、それで副委員長はどうなんだい?」
「紺がいいだろ!?赤なんぞ邪道だろ!?」
「う〜ん、そうだなあ。私は……紺色もいいけど、赤もいいとは思うよ」
「……そんな日和見な意見言われてもな」
「そうだな、お前自身の意見は…」
「けど、色は特にこだわらないけど、私としては横に白いラインがついてるのがいいなあ」
予想外の答えに、フェアリーとバハムーンは何も言えなくなってしまった。
「……そうきたか、副委員長」
「白いライン……まあ、確かに悪くはねえが…」
「それと、私個人としては、いわゆるぴっちりしたショーツ型よりも、こう、だぶっとした奴の方が好きだなあ」
「あれがか?あれでは、尻の形が見えねえだろ?」
「ああ、君はスパッツとか好きだもんねえ。確かに、見えないね」
「なら、どうしてあんなのが?形が見えないなんて…」
「違うんだよ、あれがいいんだよ」
体をテーブルに乗り出し、セレスティアは静かに続ける。
「ラインが見えない。それはすなわち、想像の余地があるってことだよ。まずあのブルマを見て、中はどうなってるんだろうと
想像するんだ。お尻の小さい子なのか、それとも意外に大きかったりするのか……でね、前屈みになった時に、はっきり見えるんだよ。
こう、普段は見えないのに、ふと気を抜いた瞬間に見えるもの……私は、これが好きだね」
「……は、はぁ…」
「あんまりお尻の小さな子だと、それでも見えないことがあるけど、それはそれでいいものだよ。ああ、あのだぶだぶで隠しきれるほど
可愛いお尻なんだなあって……想像の余地があるっていうのは、無限の可能性を秘めてると言えるね」
「むう…」
「そしてね、ガードが堅い故に気を抜いてしまうってこともあるんだよ。あれ、お尻覆う面積が多いでしょ?それに裾が絞ってあるし、
だからね、裾とかあまり気にしない子が多いんだ。ぴったりしてると、結構裾に気を使う子が多いけどさ……いや、あの裾を直す仕草も
たまらないものはあるけどね。でも、あの一センチに足るか足らないかの白い色……あれはまさにこの世の楽園だよ」
静かでいて、この上なく熱い語り口に、もはや二人は声もなかった。
「……副委員長、あなたにはほんと、かなわないよ…」
「ああ……たかが色などで争っていた俺達が馬鹿だった…」
「いやあ、色ももちろん大切だと思うよ。それに、何が一番なんてないよ。各々が思う理想が、その人にとっての一番なんだから」
「や、参りました……でも副委員長、そんなにこだわりあるってことは、委員長にもブルマ穿いてほしいとか思っ…」
言いかけたフェアリーの口が、直前で止まる。同時にバハムーンも表情を硬くしたが、セレスティアは律義に答えた。
「委員長に?そりゃあ思うよ!いや、ほんと最高だと思うよそれは。委員長が穿いてくれたら……たまらないね」
「ふ、副委員長……あの、もうやめ…」
「いや、実際頼もうかと思ったことすらあるよ。でも……ねえ」
急に声を落とし、セレスティアは首を振った。
「そんなこと、できるわけないよ。委員長、ずっと頑張り通しでさ。その上で私のわがまま聞いてくれなんて、どうして言える?
私は委員長が好きなんであって、まずは委員長ありきだよ。それに、私は副委員長なんだから、委員長を助けることが仕事なんだしね。
何か頼むにしたって、仕事が全部片付いてからだよ」
言い終えると、セレスティアは背もたれに寄りかかった。その拍子に、背後の人物に頭がぶつかる。
「あっと、すみませ…」
「……ずいぶんと、熱く語るものですわね」
そこにいたのは、エルフとフェルパーであった。ただ、エルフは口調の割にその表情は柔らかく、フェルパーはあまりよく意味が
わかっていないらしい。
「ああ、委員……エル、じゃない、委員長。来てたんだね」
「まったくもう、これだから殿方は……いえ、いいですわ。でも副委員長、あまりそういう話はしないでいただきたいですわね」
「わかったわかった、ごめんよ委員長」
「んむー?何の話だったのー?」
「あなたは知らなくていいことですわ。さ、早く料理を取りに行きましょう」
二人が行ってしまうと、フェアリーとバハムーンは大きく息をついた。
「あ〜……心臓止まるかと思ったよ。副委員長、さすが天使だけあって、神がかり的なタイミングだったね」
「ああ、あれ?いや、私とっくに気付いてたよ」
「……え?」
意外な言葉に、二人は目を丸くする。
「君達さ、実家でエッチな本とか読んだことある?ああいうときって、一見熱中してるように見えて、実は気配にものすごく敏感に
なるでしょ?私だって、そりゃ話してる内容次第で警戒もするよ」
「お前にとって、ブルマはどれだけ性的な話題だ」
「かといって、あの場面で急に話やめても不自然じゃない?だから、一番穏やかに済むようにしたってわけ」
「……副委員長、すごいな」
「そうでなきゃ、副委員長は務まらないってね」
そこへちょうど、エルフとフェルパーが戻ってきたので、男達は話を打ち切った。あとはいつも通り、差し障りのない話で盛り上がる。
その話も盛り上がってきたところで、不意に割り込む形で声が掛けられた。
「おう、ずいぶん楽しそうだなお前等。やっぱ、あたしがいねえ方が楽しいか?」
そちらに顔を向けると、皮肉っぽい笑顔を向けるドワーフがいた。
「やあドワーフ。君、お昼とかこなかったけど、どうしたんだい?」
「あー?どうでもいいだろ、んなの。あたしの勝手だ」
言いながら、ドワーフは席につく。
「勝手をされては困りますわ。あなた達の行動を把握するのが、わたくし達の仕事ですのよ」
「ほー?じゃあてめえは、今日は仕事サボってたってことか。委員長の割に、大した根性だよな」
それに言い返そうとした時、エルフは何とも言えない違和感を覚えた。どこが、とはうまく説明できないのだが、どうにもドワーフの
雰囲気が、いつもと微妙に違っているのだ。
「ま、上に立つ奴としてはいいのかもな。上が率先してサボってんなら、下もさぞかしサボりやすいだろうよ」
「………」
エルフは何も言わず、その違和感の正体を探ろうと全神経を集中する。
「まただんまりかよ。まあいいけどな。……それよりよ、バハムーン」
「ん?何だ?」
不意に呼ばれ、バハムーンは顔を向けた。そんな彼に、ドワーフは当たり前のように言った。
「盛り来てるからよ、あとでヤろうぜ」
あまりにも直球な言葉に、場の空気が凍りつく。そしてやはり、それを真っ先にフェルパーが破った。
「やーっ!どうしてそういうこと平気で言うのー!?信じられないー!」
「ああ?てめえだって盛りん時はヤッただろうが」
「そ、その時はその時だもんー!それにそれに、私そんなこと言わなかったもんー!」
彼女の言葉を、ドワーフは鼻で笑う。その時、エルフの嗅覚は妙な埃臭さを感じ取った。
「ほーう、お前からそう言うとは思わなかったな。いいだろう、じゃあさっさと食って部屋に行くぞ」
「もうやだー!この人達大っ嫌いー!」
「君はほんと……元気だねえ」
「嫌ってる割に、その元気さはヒューマン並みだね」
「黙れ羽虫」
エルフのみ、その会話に参加せず、ただただドワーフを観察する。
なぜか、彼女の制服は薄汚れている。軽くはたいてはあるようだが、それでも取りきれない埃が薄っすらと付着している。そして、
それは体も同じである。おまけに、彼女の吐く息からは、僅かながらも血の臭いが感じられた。
明らかに、彼女の身に何かがあったのだ。しかも、それはただの喧嘩などではない。もしそうならば、彼女は喧嘩したことを一応は
報告するはずだし、そもそもこのような言動をとること自体が異常なのだ。
エルフは黙って席を立った。そんな彼女に、一行は思わず視線を向ける。
「委員長、どうしたんだい?」
「……ちょっと、お先に失礼させていただきますわ」
「どうしたんだよ?下手くそなハープの練習にでも行くのか?」
そう笑うドワーフを一瞥し、エルフは何も言わずに学食を出た。あの埃の臭いには、確かにカビの臭いも混じっていた。その臭いには、
一つだけ心当たりがある。
校舎の脇を通りぬけ、校庭を横切る。そして体育倉庫前に来ると、そこにかかっているはずの錠を確認する。
錠は開いていた。誰もいないことを確認し、扉を開ける。
途端に、血の臭いが流れ出る。一瞬たじろいたが、それでもじっくりと目を凝らして見ると、中に二人の生徒が倒れているのが見えた。
一人は死んでいるのか、それとも気を失っているのか、ピクリとも動かない。そしてもう一人はうずくまったまま、苦しげな呻き声を
あげている。
「これは…」
思わず呟くと、その内の一人、クラッズが顔を上げた。
「う……うぅ…。た……助け……て……苦……しい…!」
どこを押さえているのかと思えば、彼は股間を押さえて呻いている。もう一人のヒューマンも、股間から血を流し、おまけに口からも
血を流して倒れている。どちらも、ひどい重傷なのは一見して明らかだった。
正直なところ、エルフは幾度となく、ドワーフが誰かに痛い目に遭わされることを望んだ。付き合えば付き合うほど、嫌いな点ばかりが
目立つようになり、今でもドワーフのことは大嫌いなのだ。
だが、いざ実際にそれが起こってみると、エルフの中に浮かんでくるのは、決して歓喜などではなかった。それどころか、今彼女の
中にあるものは、抑えきれないほどの怒りだった。
「……自業自得、ですわね。できれば今すぐ、あなた達をこの場で葬りたいところですわ」
冷たい声で、エルフは言い放った。
「でも、校内での抜刀・魔法の詠唱は禁止。だからそれは叶わぬ願いですわ。だけど同時に、あなた達のような負傷者を助けろという
規則もないですわね」
止めを刺すが如く、エルフは吐き捨てるように言った。
「せいぜい、誰かが見付けてくれるのを祈るがいいですわ」
扉を閉め、鍵を掛け直す。それから踵を返すと、エルフは再び学食へと向かった。
戻ってみると、セレスティア以外の仲間は全員戻ってしまった後のようだった。エルフを見つけ、彼は軽く手を挙げて挨拶する。
「おかえり、委員長。ご飯の途中でいなくなるから、どうしたのかと思ったよ」
「ごめんなさい、ちょっと用事があったんですの」
席につくと、セレスティアは優しく笑いかける。
「そうなんだ。私、またドワーフが嫌になってどっか行っちゃったのかと思ってさ」
「………」
「ねえ、委員長」
不意に声の調子が変わり、エルフはセレスティアを見つめる。
「何ですの?」
「委員長は、ドワーフのこと嫌いだよね?」
「……嫌い、ですわね」
「だろうね。たぶんドワーフも、委員長のことは嫌いだと思うよ」
だからどうしたのかと、エルフは怪訝そうに彼を見つめる。
「でもね、だからって憎んでるわけじゃないよ。ドワーフ、あれはあれで委員長のこと、いい仲間だとは思ってるんだよ」
「何を根拠に、そんなことを…?」
「……ねえ委員長。ハープのあの曲、うまく弾けるようになったかい?」
セレスティアが尋ねると、エルフは少し不機嫌そうな顔になった。
「……まだ、難しいですわ…」
「良ければ、今ちょっと弾いてほしいな」
「どうして今…?ま、まあいいですわ。それなら、少しだけ…」
エルフはハープを取り出し、いつも練習していた曲を奏で始める。最初こそ調子も良かったが、山場に差し掛かる辺りからその表情は
苦しげになり、やがて最も盛り上がりを見せる部分で、ぺぃん、と間の抜けた音が鳴ってしまった。
「うっ…」
「……ねえ、委員長。今の失敗、どうしてだと思う?」
「え……それは、ただ……まだ、わたくしの練習が足りないだけ…」
「いや、それは間違ってないかもしれないけどね。……委員長、薬指使うの苦手でしょ?」
言われてみれば、確かにその音は薬指で弦を弾き損ねた結果である。
「ドワーフが前に言ってたこと、覚えてる?口は悪いけどさ、彼女、しっかり委員長のこと見て、その上でちゃんとした
アドバイスしてたんだよ」
「………」
「まあ、その、だからどうしろってわけではないよ。でも、ドワーフだって委員長のこと嫌ってばっかりじゃないってこと、それだけは
頭の隅にでも留めておいてほしいな」
それに対する言葉はなかった。よりにもよって、あんなことが起こった後でこんな事実を知っては、エルフの心は重くなるばかりだった。
結局、その日一日中、エルフの心は晴れることがなかった。
それから数日。一行はまたもほとんどの依頼を片づけてしまい、初めの森で鋭い針やモンスターの血を集めると言う名目でピクニックに
来ていた。
「いやー、やっぱりここがいいよねえ。ホッとする」
「だよねえ。色々思い出深いところだしね、ここは」
例によって、フェルパーは木の上で寝ており、バハムーンも日向でのんびりと寝ている。ドワーフはフライドチキンの骨をがりがりと
齧っており、エルフは一行から少し離れたところで、ハープの練習をしていた。
あれから、薬指を意識して練習するようになった分、今までつっかえていたところはきちんと弾けるようになった。だが、どうにも
音を外してしまうことが多いのだ。きちんと弦を押さえているはずなのだが、なぜか音が外れてしまう。
とにかく練習あるのみと頑張っていると、不意に誰かが後ろに立った。
「相っ変わらずだな。まだその曲練習してんのかよ」
「うるさいですわ、毛むくじゃら。わたくしのような凡人は、一朝一夕で弾けるようにはならないんですのよ」
「お、凡人だって認めたかよ。大した成長じゃねえか」
馬鹿にしたように笑いながら、ドワーフはエルフの隣に座る。
「……てめえ、それ貸せ」
「はい?また、お手本でも見せてくれるというわけですの?」
「ちげえよ。いいからさっさと貸せ」
ともかくもハープを渡すと、ドワーフはいくつかの弦を弾き、続いて一本一本を数回鳴らしてみる。
「……これ、ペグついてねえのか。おい、これの調弦の道具よこせ」
「え?」
「え、じゃねえよ。さっさとよこせ。それとも、まさか持ってねえとか言うんじゃ…!?」
「あ、ありますわよ!これですわよね?」
エルフが渡したのは、先端が輪を作って指を掛けやすくしてあるだけの、簡素な作りの道具だった。
「あー、こんなん使ってんのか。ちっ、道理でな……おい、何か棒。木の枝でもペンでも何でもいいから、さっさとよこせ」
言われるままに、エルフは普段使っているペンを渡した。ドワーフは輪の間にペンを通すと、それを使ってピンを回し始める。
「……あのなあ、お前、力とか筋力ってもん自体、野蛮だって嫌ってねえか?」
「それは…」
ない、とは言えなかった。
「嫌うのは勝手だけどよ、常に全力出さねえとピンも回せねえような状況で、どうやって微調整ができるんだよ。こういうのは、
余分なぐらいに力がねえと、微妙な調整ってのはできねえんだ。てめえに力がねえなら、こうやって道具をどうにかするぐらい考えろ」
言いながら、ドワーフは真面目な顔で弦の張りを調整していく。
「大体お前、これは楽器か?それとも武器か?」
「楽器ですわよ……武器でもあるけれど…」
「だよな。ぶん投げたりぶん殴ったり……粗雑な扱いするのは結構だけどよ、そういう扱いするなら手入れもしっかりやれよな。
衝撃与えるだけでも、弦の張りは変わるんだ。形が変わっちまえば、根本から音も変わっちまう。それに、弦の張り変えだって
ただじゃねえんだ。仮に一本5ゴールドだとして、二日置きに交換してりゃそれだけで年間910ゴールドちょいかかるんだ。
この14本を全部交換すりゃ、12740ゴールドだぞ」
ある程度の調律をこなしたところで、ドワーフは全ての弦を一つ一つ弾いてみる。その音は、今までよりずっときれいな音だった。
「いいか。武器にしろ楽器にしろ、これはお前の相棒だろ?道具ってのは、ただ使って、使えなくなったらおしまい、じゃねえんだ。
相棒なんだから、愛情を持って、愛着を持って、しっかり手入れをしてやるんだよ。道具は人と違って、絶対に持ち主を裏切らねえ。
手を掛ければ手を掛けた分だけ、それに応えてくれるんだよ」
およそ、ドワーフの口から出たとは思えないような言葉だった。だが確かに、彼女は暇があると、よく武器の手入れをしていた。
「……そもそも、お前は下手くそなんだからよ。てめえに腕がねえなら、道具で補うってのは恥ずかしいことじゃねえぞ。下手くそな
演奏垂れ流す方が、よっぽど恥ずかしいからな。ほら、返すぞ」
投げ渡されたハープを、エルフは慌てて受け取った。
「音が狂ってたんだよ。それじゃ、基本に忠実なほど、まともな音は出ねえ。今度は、うまく弾けるんじゃねえか?」
エルフは一つ一つ、音を鳴らしてみる。確かに、今度はすべて、思った通りの音が出せた。
「……器用、ですのね」
「こういうのいじるのは好きなんだよ。大体あたしらドワーフに、手先の技術でかなう奴なんかいるもんか。ま、そんな完璧な
調弦したって、使う奴が下手くそじゃあどうしようもねえけどな」
ニヤリと笑いかけるドワーフ。それに対し、エルフも挑戦的な笑みを返した。
「なら、練習の成果、お見せしますわ。凡人でも練習すれば、天才に追いつけるということ、証明してみせますわよ」
「調弦もできねえで、追いつけるもんかよ」
「あら、それは演奏を聴いてからにしてもらいたいですわ」
「じゃ、やってみろよ下手くそ。ちゃんと聞いてやるからよ」
最後にお互いの顔を笑いながら睨み合い、エルフは静かにハープを弾き始めた。
初めの森に流れるハープの音色。それはそよ風に乗り、森全体へと優しく響く。
困難を増していく一行の行き先。だが、全員が仲間と認めあった今、それらは彼等の足を止める存在たり得ない。
仲間のために笑い、泣き、怒る。たとえどんなに嫌いな仲間であろうと、それは変わらない。
共に歩く存在がいる限り、彼等は止まることはない。どんな困難があろうと。
それがたとえ、世界を巻き込む大事件であったとしても。