死亡者数、37名。うち、ロスト15名。  
裏世界への救援は自由であるといえ、実力に見合わぬ者が多く行ってしまった結果、このような残念な事態となってしまった。  
今後、裏世界へ行く者には試験を課すべきか、検討する余地があるだろう。  
なお、ロストの中には便宜上、ルオーテも含むものとする。  
 
「たかがヒューマンの分際で……馬鹿か、あいつは」  
「あんまり彼を悪く言いたくはないけど……種族はヒューマンでも、頭の中身はバハムーンだね」  
正面から敵に突撃し、見事なまでの返り討ちに遭うパルタクスの生徒を見て、バハムーンとフェアリーがポツリと呟いた。  
「まったく、あれが作戦と言えますの…!?」  
「あれが作戦なら、このバハムーンだって司令官になれるぜ」  
「当たり前だ、俺はあんな奴等とは違う」  
「バハムーン、フェアリーのそれ皮肉……まあいい、とにかく助けよう!」  
危うく失敗に終わりかけたヤムハス襲撃作戦は、一行の活躍によって辛うじて成功を見た。ドラゴンを主とする強力なモンスターには  
さすがに手を焼いたものの、それらと正面からぶつかってなお、彼等は負けることがなかった。  
この世界に来てからというもの、すっかり主力となった彼等を、英雄と呼ぶ声も多い。しかしながら、彼等はこちらの世界の者と  
関わりを持とうとしなかった。  
それもそのはずで、そもそも問題児三人はこちらの世界自体には興味がなく、ただパーネとの再戦を望んでいるだけである。また、  
風紀委員三人からすれば、この問題児三人に問題を起こされたくはない。クロスティーニだけでも何かと面倒なのに、この上で  
異世界との遺恨勃発などという事態になっては目も当てられない。なので極力、こちらからは異世界の住人と関わらないようにしようと  
決めていたのだ。とはいえ皮肉なもので、そうしてあまり彼等自身が知られていないからこそ、英雄の呼び名には何の悪意も  
込められてはいなかった。  
後の始末を、一緒に来ていたオリーブやジェラートに任せ、一行はパルタクスへと戻る。そして、新たな任務である、ホルデアに現れた  
謎のドラゴンとの戦いを請け負った。  
ホルデアの中継点に向かう道すがら、エルフがポツリと呟いた。  
「この任務……裏がありそうですわね」  
「え?委員長、何を言い出すんだ?」  
フェアリーが聞き返すと、ドワーフが舌打ちを返した。  
「ちっ、てめえと意見が合うとはなあ。ま、思うほどには馬鹿じゃねえってことか」  
「……んにー?どうしたの?ドラゴンいるんじゃないのー?」  
「やれやれ……あのな、山よりでけえドラゴンが、どうして今まで目撃例もねえんだよ」  
ドワーフの言葉に、四人は考え込んでしまった。  
「そうですわ。それに加えて、どうしてそれが今になって現れたのか、というのも疑問ですわね」  
「それだけじゃねえ。こっち側の兵士で、そいつを見たって話は一つもねえ。なのに、山より巨大なドラゴンとかいう、無茶な噂だけが  
広まってる。いつ、誰が、どこでそんな噂を聞いた?見た奴が一人もいねえのに、どうしてそんな噂がたつ?」  
「……ただの想像とか?誰かが魔が差したとか」  
「おめでてえ野郎だな。いいか、これは戦争だぞ。偽情報がばら撒かれるとか、どうして考えねえ。つまりだ、敵にとっちゃ  
四天王の最後の一人ってのは、バレてほしくねえんだよ。そいつが隠し玉、あるいは切り札ってことだな。じゃあどうして隠すのかって  
言えば……答えは、おのずと限られる」  
「敵は既に、こちらに潜り込んでいる。正体を隠し、敵に情報を流しているはず」  
エルフが、ドワーフの言葉を継ぐ。  
 
「重要な情報を得られ、こちらの信用のある立場と言えば、あの、ビットという生徒……恐らくは彼が、最後の四天王ですわ」  
「ビットが!?委員長、そりゃ何かの間違いじゃないのかい!?」  
「てめえはヒューマン相手だと、何でも色眼鏡なんだな。たとえヒューマンだろうが何だろうが、初めて会った相手を簡単に  
信用するんじゃねえよ。あたしら以外、周りはすべて敵だと思え。じゃねえと、死ぬぞ」  
ドワーフの言葉は、この戦争という状況下においては何より重かった。二人の言葉を確かめるためホルデアに向かうと、  
やはりドラゴンなど存在せず、代わりに以前出会った生徒達が全員集められていた。  
「……参ったな、委員長とドワーフの言う通りか」  
「でもどうして、それがわかってるのに、わざわざ言われたとおりにここまで来たんだい?」  
セレスティアの言葉に、エルフとドワーフが同時に答えた。  
「正体を悟っていることを、向こうに気付かせないためですわ」  
「残った奴がどうなろうと、これが任務だからだ」  
二人は顔を見合わせ、そしてニヤリと悪意の籠った笑みを交わす。  
「よかったぜ、何から何まで意見が合ったりしなくてよ」  
「それはわたくしの台詞ですわ。獣と意見が合うなんて、まっぴらですわ」  
「……ある意味、よく似てるんだけどねえ…」  
ともかくも、罠であることがはっきりした以上、一行は即座にパルタクスへと戻った。予想通り、最後の四天王とはビットであり、  
彼はユーノらを捕縛していた。彼が敵であるとわかった以上、一行は彼と剣を交えた。  
戦い自体は、あっけないものだった。先陣を切ったフェルパーが、剣をかわしながら顔面に胴回し蹴りを叩き込み、よろめいたところを  
ドワーフの斧が襲う。辛うじて受けた剣は折れ、文字通り吹っ飛んだ彼を、バハムーンのタージェが叩き落とした。  
止めを刺そうと振り上げた腕に、間一髪でフェアリーが跳びつき、ビットは危ういところで命を繋いだ。よくよく話を聞いてみれば、  
彼はもう戦意もなく、ここで死ぬつもりだったらしい。敵のスパイではあったものの、こちらに味方として接するうち、  
情が移ってしまったらしかった。  
そんな彼を、司令官であるユーノは許した。フェルパーは彼を殺したがっていたが、司令官が許した以上、それはできない相談である。  
その代わりというように、一行は次々に任務を請け負った。死霊術師カテリーナを下し、一気に敵将バルバレスコに迫ったかと思ったが、  
パーネの思わぬ裏切りにより、バルバレスコはモンスターと化した。  
そのバルバレスコ討伐に向かう頃、元の世界からヒューマンら六人が遅れてこちらに到着した。彼等も最近は腕を上げており、今では  
クロスティーニの中で二番目の実力を持つパーティとも言われている。  
問題児三人は、彼等とひどく相性が悪い。特にバハムーンは、最初に喧嘩をした張本人であり、相手の仲間を殺した経験もあり、  
今でもひどく恨まれている。まして、半数が善の思考をする彼等と、相性がいいわけがない。  
だが、風紀委員の三人は別である。彼等がこちらの世界に来たと聞いて、エルフとフェアリーは彼等のところへ顔を出しに行った。  
簡単な挨拶をし、現状を説明する。幸い、彼等はカテリーナやビットの依頼を優先的にこなすと言ってくれたので、こちらのパーティと  
問題が起きそうな気配はなかった。  
話も終わり、いよいよ任務に向かおうとすると、彼等の一人、クラッズの男子がちょこちょこと後をついてきた。  
「あの、ちょっといい?」  
「あら、どうしたんですの?何か言い忘れたことでも?」  
珍しく笑顔を向けるエルフに、クラッズも笑顔を返す。  
「うん、ちょっと聞きたいことがあってさ。あの……先輩は、どうしてこの世界に?」  
その質問に、エルフは表情を改めた。  
 
「……わたくし達が、元の世界に留まっていられると思いまして?それに、パーネ先生……いえ、パーネのこともありますわ」  
「そう……僕は、この世界を純粋に助けたかった。僕だけじゃない、ヒューマンもバハムーンも、ノームだってそう思ってる。でも、  
先輩は……そういうことは、ないの?」  
「ない、とは言いませんわ。でも、それは数ある理由の一つ。ただそれだけで、動く理由にはなり得ませんわね」  
「そっか……ごめんね、変なこと聞いちゃって」  
恐らく、彼も善の思考を持っているのだろう。その顔には、僅かながらも失望の色が見て取れた。  
「あなたの考えは、立派だと思いますわ。だけれど、わたくし達はそんな重荷を背負うのに、適した者ではなくってよ」  
「………」  
「ただ、己の求めるままに……何も背負わず、何も抱えず。そんな者達の集まりですもの」  
「守るものがないのに、力だけを求めるなんて……そんなの、虚しいよ」  
「自由な鳥は守るものもなく、背負うものもなく、だからこそ高く、速く、飛ぶことができるのですわ。あなたには、とても理解できない  
ことかもしれないけれど……あなた達は、重荷を力に変えることができる。でもわたくし達は、重荷は重荷でしかない」  
エルフの言葉に、クラッズはうつむいた。そして、ぽつりと呟く。  
「……僕には、理解できないよ」  
「しなくていいことでしてよ。あなた達には、あなた達の道が。わたくし達には、わたくし達の道があるんですもの。あなた達も、  
わたくし達も、ただ、自分の信じる道に従うのみですわ」  
彼と別れ、仲間の元へ向かう途中、フェアリーが呟いた。  
「背負うものも、守るものもないからこそ、速く飛べる……か。身につまされるね」  
その言葉に、エルフは思わず噴き出した。  
「ふふふ。別に、あなたのことを言ったわけではなくってよ。確かに、ぴったりではあるけれど」  
「委員長が噴き出すのなんて、初めて見たなあ。僕、そんなに面白いこと言ったかい?」  
「いえ。ただ、自覚があるんですのね」  
「まあねえ。委員長と副委員長見てたら、何の役職にもない僕の立場が、どれほど気楽なもんかってのはよくわかるよ」  
相変わらず軽い調子ではあったが、その言葉は本心のようだった。  
「守るべき世界、守るべきもの、守るべき何か。それが足を引っ張るものになるなんて、彼等はわかんないんだろうなあ。あとは、  
守るべき規律、とかね」  
「もう。意地悪ですわね」  
「はは、ごめんごめん」  
直後に続く言葉に、エルフも声を合わせた。  
「魔が差した」  
二人はお互いの顔を見つめ、同時に笑った。  
「はっはっは、すっかり読まれてるなあ」  
「あなたの口癖ですものね。嫌でも覚えますわ」  
だが、少なくとも今年度の初めまで、彼のことなどほとんど知らなかったはずだった。むしろ、風紀委員内での問題児という認識しか  
なかったはずなのだ。それが今では、こうしてお互いのことを誰よりも理解する間柄になっている。  
性格も、力量も、何もかも理解しあえる存在。それがある限り、彼等は誰にも負けないという、強い確信を持っていた。  
 
モンスターと化したバルバレスコを討伐した直後、突然巨大な塔が現れた。そこが最後の決戦の場だということは、全員が何となく  
理解していた。  
だが、すぐに乗り込むわけにはいかない。まだ人質の解放という任務もあり、それ以外の依頼も残っている。もっとも、雑多な依頼は  
ヒューマン達が請け負っているため、一行は人質の解放を受け、トハス海底洞窟へと向かった。  
そこで戦った、白氷の獣王は恐ろしく強かった。バハムーンが瀕死に追い込まれ、最強の召喚獣であるセラフィムすら容易く退けられた。  
それでも、彼等は負けなかった。ドワーフの斧が敵の腕を叩き切り、フェルパーが喉元を切り裂く。フェアリーの矢が次々に  
突き刺さり、エルフが回復し、セレスティアがビッグバムを唱え、元気を取り戻したバハムーンが止めの一撃を放った。  
戦闘に勝利したとはいえ、一行の疲労は激しかった。そのまま神の塔へ行くことはさすがにできず、ポストハスで宿を取る事に決める。  
「それにしても、君達って本当に強いねー。あんな化け物、よく勝てたね」  
「いやー、僕達だって結構やばかったよ。魔が差したから勝てたけど、あんな化け物、二度と相手にしたくないね」  
「魔が差したからって……一体どういう理由ですの」  
宿には一行の他に、オリーブとジェラート、そして剣になっているルオーテも一緒だった。そしてフェアリーはこれ幸いと、大好きな  
ヒューマンであるオリーブやジェラートと話をしていた。  
「明日には、神の塔なんだよね。でも、君達と一緒なら平気かな?」  
「はは、僕もそうだと願いたいね。ま、あんな化け物はもう出ないだろうけど」  
談笑する三人の背中に、不意に声がかかった。  
「んなーぅ。フェアリーフェアリー」  
「……はい!?」  
振り向くと、そこにはフェルパーが一人で立っていた。  
「暇なのー。遊びに行こうよー」  
「ちょちょ、ちょっと待てぇ!どうして君が一人なんだ!?一緒にいた委員長と副委員長は!?」  
「だってだって、話ばっかりで退屈なんだもんー。ねー、何か殺しに行こうよー」  
つまり、あまりに退屈なので、二人に黙って勝手に出てきてしまったらしい。  
「……オリーブ、ジェラート、ごめん。僕はちょっとここで…」  
「あ、ああ、うん。その、頑張って…」  
仕方なしに、至福の時に別れを告げ、フェアリーはフェルパーを連れて歩きだす。  
「殺しに行くったって、僕等二人で行くわけにいかないだろ。明日も明日だし、今日はじっとしてようね子猫ちゃん」  
「んむぅー、何か殺したいのにー……部屋いても暇なのー」  
「トランプぐらいなら付き合ってあげるから、今日は頼むから大人しくしてて、ほんと」  
去っていく二人の背中を見つめながら、オリーブがぽつんと呟く。  
「確かに、すごく強い人達ではあるんだけど……危ない人多いし、正直、あんまり仲良くなりたいと思うような人達じゃないよねえ」  
彼女の言葉に、ジェラートも黙って頷いていた。  
 
夕食も終わり、翌日の準備を済ませる頃には、もうだいぶ夜も更けていた。  
バハムーンも部屋に戻り、準備を済ませてベッドに寝転んでいたが、やがてドンドンと乱暴なノックの音が響いた。  
「入れ、鍵は開いてる」  
「おう、少しは気が利くようになったかよ」  
そんなことを言いながら、当たり前のように部屋へと入るドワーフ。  
「いちいち鍵を開けるのも、面倒なんでな」  
「いちいち鍵開けさせんのも面倒だから、ちょうどいい」  
喋りながら、ドワーフはバハムーンの隣に腰を下ろした。そんな彼女の服に、バハムーンは早くも手を掛ける。  
「うおっと、相変わらずせっかちな野郎だな」  
「お喋りを楽しみに来たわけでもねえだろう」  
「そりゃ、まあな。……おい、服が破れる。無理に脱がせようとすんな。あと、そんならお前もさっさと脱げ」  
あまりに乱暴な手つきに、ドワーフはバハムーンの手を振り払うと自分から服を脱ぎ始めた。彼は彼で、言われたとおりにさっさと  
服を脱ぎ始めている。  
着ていた服をベッドの下に落とすと、バハムーンは先に脱ぎ終えていたドワーフを抱き寄せる。しかし、ドワーフはそこで彼の手を  
掴んだ。  
「おい、待てよ。ヤるときって、いっつもあたしがしてやるばっかりじゃねえか。たまにはお前が、あたしにしてくれよ」  
「断る」  
「だっ……おい、待てって!いつもてめえの好きにやらせてやってるじゃねえか!一回ぐらい、あたしの好きにさせろよ!」  
「うるさい!黙っていつもみたいにしてればいいんだ!」  
「ふざけんなてめえ!あたしがずっと、てめえの言いなりになると思うな!」  
さすがに種族の差があり、力ではバハムーンに分があった。必死の抵抗をするものの、ドワーフはあっさりと組み敷かれてしまい、  
バハムーンは彼女の両腕を封じて不敵に笑う。  
だが、ドワーフは挑発的な笑みを返すと、肘で体を浮かせた。  
お互いの顔が、吐息のかかるほどに近づく。初めて間近で見る顔に、バハムーンの動きが思わず止まった。  
直後、ドワーフの顔が消えた。それと同時に、首に凄まじい痛みが走る。  
「ぐっ…!?」  
「……いいから、黙って従えよ。嫌だってんなら、このまま食いちぎるぜ?」  
喉元に熱い吐息を感じる。それに答えられずにいると、首の痛みはますます強くなり、気道が圧迫されて呼吸すらも妨げられる。  
「がっ……ぐ、が、ぁ…!  
牙が首筋に食い込み、血が流れるのを感じる。どうやら本気らしいと悟ると、バハムーンは抑えていた腕を解放した。  
首筋に相変わらず食いついたまま、ドワーフが体を起こす。そして、今度はバハムーンの体を押し倒すと、ようやく口を離した。  
危うく死の危険を感じるほどではあったが、パタパタと振られる尻尾が、彼女にもう殺意はないことを示している。  
「そうそう。そうやって最初から大人しく従えばいいんだ。あ、けど途中でいきなりやめた、とかはなしだぞ」  
「気に食わんが、そんなことはしねえ。血が流れている以上、祖先の血に誓ったも同然だ」  
「じゃあ安心だな。さーて、何してもらうかな」  
ドワーフはにんまりと笑うと、再びバハムーンの首に顔を近づける。そして、先程の噛み傷をペロッと舐め、体を離した。  
「ふふん……そうだな。いつも、あたしがお前の舐めてやってるだろ?だから今日は、お前があたしの舐めろよ」  
言いながら、ドワーフは足を広げて毛を掻き分け、自身の秘部を広げて見せた。  
 
「……仕方ねえな。だがその前に、一つ聞かせろ」  
「あん?何だよ?」  
「お前、俺の首にしろ骨にしろ、物を咥えたままでどうやって喋ってるんだ?」  
「今聞くことじゃねえだろ。あたしは舌長いし、お前達とは体の作りが違うんだ。んなのいいから、さっさとしろよ」  
ドワーフに急かされ、身を屈めようとすると、彼女は不意にそれを止めた。  
「あ、待て。それじゃやりにくいだろ?こっち座ってやるから、そっちからしろよ」  
そう言い、ドワーフはベッドの縁に座り直した。だがその表情を見る限り、ただの親切というわけでもないようだった。  
それでも従わないわけにはいかない。バハムーンはベッドから降りると、一瞬躊躇ってから、ドワーフの前に跪いた。ただ、さすがに  
両膝をつくのはプライドが許さないらしく、片膝を立てた状態である。  
ちらりと、ドワーフの顔を見上げる。予想通り、彼女はバハムーンを満足げな目で見下ろしていた。  
そっちは意識しないようにしようと心に決め、広げられたドワーフの秘部に目を移す。  
関係を持つことは何度もあったが、こうしてまじまじと見るのは初めてである。思えば彼女の顔すら、あれほど間近で見たことは  
なかった。  
彼女を抱くときは、いつも自分の思うようにしか抱いていなかった。だから行為の間、彼女の浮かべる表情は泣き顔か、  
苦悶の表情ばかりだった。  
新たな表情を見られるのなら悪くないと、無理矢理自分を納得させ、バハムーンはドワーフの割れ目に舌を這わせた。  
「んっ…!」  
ドワーフの体がピクンと跳ねる。バハムーンは反応を探るように、ゆっくりと舌を動かす。  
「んっ!はあっ!うぁ……あんっ!」  
襞をなぞり、小さな突起をつつき、舌を中へ入れる。その度に、ドワーフは嬌声をあげ、体を震わせる。  
奉仕するという意思もなく、知識も全くなかったため、どうすれば気持ちよくなるのかなど、わかるわけもない。だが彼女を見る限り、  
悪くはないのだろう。その反応に気を良くし、バハムーンはさらに丁寧に愛撫する。  
ドワーフとしても、この状況は非常に心地よかった。あの傲慢なバハムーンが、自分の前に跪き、奉仕している。おまけに、拙いが故に  
ひどく丁寧な舌使いで、気分的なものを差し引いても意外なほど気持ちよかった。  
「あふ……あぁ…!なかなか、いいぜ…!もうちょっと上……うああっ!そ、そこぉ!」  
舌を動かす度、ドワーフは素直に反応する。立場としてはひどく面白くないが、しかし彼女の姿はそれだけでバハムーンに十分な  
刺激をもたらす。  
既に、ドワーフのそこはじっとりと濡れ、周囲の毛も黒く湿っている。奉仕させられているという不快感はあるが、自分の行為で  
彼女が気持ちよくなっているのだと思うと、それ自体にはさほど悪い気がしない。  
さらに刺激を強めようと、そこに口を付け、奥まで舌を突き入れる。  
「うあっ!それっ……ああぁ!」  
「ぶっ…!?」  
突然、頭を掴まれ、思い切り押し付けられる。おまけに太股でがっちりと挟まれ、バハムーンは全く身動きが取れなくなってしまった。  
「やべっ、それすげえっ……あっ!くぅっ!んっ……ふあ、ああぁぁ!!」  
一際強く押し付けられ、同時にドワーフの体が震える。ややあって、足と手から力が抜けていき、頭に彼女の体重を感じた。  
「はあっ……はあっ……っふあ、はぁ……おっと、顔汚しちまったか…?ま、気にすんな。意外とよかったぜ?」  
どうやら軽く達してしまったらしく、ドワーフの声は少し間延びしている。しかし、その目に光る情欲の火はまだ消えていない。  
「来いよ。やっぱ舌だけじゃ物足りねえ」  
口元を腕で拭ってから、バハムーンは再びベッドに上がる。そしてドワーフに手を掛けると、彼女はその腕を振り払った。  
 
「おいおい、誰がお前の好きにさせるっつったよ?お前はそこ座ってろ」  
「……ちっ!」  
「ち、じゃねえよ。黙って言うこと聞け。……今度は、絶対に動くんじゃねえぞ」  
「誓いは守る」  
ふて腐れたように答えるバハムーンを満足げに見つめ、ドワーフはいつかのように、彼の腰にまたがる。だが、すぐに入れたりはせず、  
不意に彼の尻尾を掴んだ。  
「うお……いきなりなんだ?」  
「いやあ、別に。ただ、お前の尻尾って見た目ごつごつしてそうなのに、意外とつるつるだよな」  
言いながら、ドワーフは掴んだ尻尾を指先で撫でる。微妙なこそばゆさを感じ、バハムーンは嫌がるように尻尾の先端を動かす。  
「祖先の違いだろうな。中にはざらざらした奴もいる」  
「へーえ。これ切ったら、やっぱりしばらく動いてんのか?」  
「そこまで知るか。大体それこそ、今聞くことじゃねえだろう」  
「それもそうだ。けどうるせえ、口答えすんな」  
そっけなく言うと手を離し、代わりに彼のモノを掴む。そこは既に大きく硬くなり、ドワーフの手の中で熱く脈打っている。  
「相変わらず、無駄にでけえよな。ま、これがいいんだけどよ……ん…」  
ドワーフは秘裂を指で広げると、彼のモノをそこで扱くように擦りつけ、自身の愛液をたっぷりと絡める。やがて全体に塗り広げると、  
いよいよそれを秘部に押し当てた。  
「んっ……くっ、あ…!」  
ゆっくりと体重を掛ける。小さな割れ目が広げられ、バハムーンの巨大なモノが少しずつ飲みこまれていく。  
明らかに大きさは合っていないものの、バハムーンのモノには満遍なく愛液が塗りつけられ、また何度も交わっているだけに、  
ドワーフが痛みを訴えるようなことはない。むしろ、その顔には今までに見たこともないような、快感の表情が浮かんでいる。  
「うっ……あぁ…!はあっ、はあっ……すげえ、いい…!腹ん中、広がって……お前の、こんなよかったのか…!」  
「く……おい、ドワ…!」  
「動くな、馬鹿野郎!せっかく気持ちいいんだからよ……あうっ!ふあぁ……んんん…!」  
さすがにきつくなってきたのか、ドワーフの呼吸は徐々に荒くなり、時々尻尾と耳が痛がるようにピクンと動く。  
しかし、それでもドワーフは動きを止めない。やがて、バハムーンのモノを根元まで咥え込むと、ドワーフは大きく息をつき、  
彼の胸に体を預けた。  
「く……っはあ…!はあーっ、はあーっ……あつ…!さすがに、ちょっと痛え……けど、腹の奥いっぱいで……んう…!気持ちいい…!」  
蕩けるような表情を浮かべ、自分に縋りつくドワーフを、バハムーンは持て余しているようだった。背中を抱こうか抱くまいか迷い、  
しかし動くなと言われているせいもあり、結局は何もせずに上げかけていた手を下した。  
ドワーフの方は、しばらく彼に縋りついたまま荒い息をついていた。少しずつ呼吸が落ち着き、強張っていた体が弛緩してくると、  
彼女は自分から体を離した。  
「はぁ、ん…!いいか、動くなよ……勝手に動いたら、食い殺すぞ…」  
さらりと物騒なことを言うと、ドワーフは腰を動かし始めた。  
「んんっ……ふあ、あっ!あんっ……んあぅ!」  
腰を前後に動かし、時に左右にくねらせ、その度に一番奥がぐりぐりと刺激され、ドワーフに大きな快感をもたらす。バハムーンから  
すればひどく物足りないのだが、言われたとおりに動いたりせず、ただじっと耐えている。  
「ああ、あっ!すげえ、いい…!奥が、擦れてっ……ふあっ!気持ち、いい…!」  
そんな彼とは裏腹に、ドワーフは欲望のままに快感を貪っていた。今までとは比べ物にならないほどの快感。それまでなら苦痛にしか  
なり得なかった、凄まじい圧迫感すら、今は快感としか感じられなかった。  
 
「んあっ!あっ!あっ!もっと、いっぱい……あん!もっと、気持ちよくしてぇ…!」  
「……どうしろと…」  
縋るように言われ、バハムーンは戸惑った。動くなときつく言われ、しかしもっと気持ちよくしろと言う。言葉もなく困っていると、  
不意にドワーフの尻尾が、バハムーンの尻尾に重なった。どうやら偶然ではなく、意図的に重ねてきたらしい。  
「これぇ……まだ、空いてるとこあるだろ…?これ、入れてくれよぉ…!」  
その意味を一瞬考え、理解すると同時に、バハムーンはごくりと唾を飲み込んだ。  
ゆらりと尻尾が動き、ドワーフの尻尾の裏側をなぞるように動く。そして付け根まで動くと、そこにあるもう一つの穴にあてがわれる。  
「んんっ……あ、ちょっと待て…!これ……ふあ…!」  
一度結合部に手をやると、ドワーフは溢れる愛液を指先で掬い、バハムーンの尻尾の先に塗り付けた。  
「い、いいぜ……そのまま、中にぃ…!」  
「……ああ」  
先端が、僅かに入りこむ。一瞬の間をおいて、バハムーンは一気に押し込んだ。  
「うああああっ!?」  
悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げ、ドワーフは再びバハムーンにしがみついた。  
「す、すごっ……腹ん中、擦れっ……擦れてぇ…!」  
なおも奥まで入れようとするバハムーン。しかしそこで、ドワーフが尻尾を掴んだ。  
「あぐっ……ふ、太すぎる…!それ以上は、やめろっ……壊れ、ちまう…!」  
ドワーフは腰の動きを止め、しがみついたまま荒い息をつく。ややあって、体内の感覚を探るかのように、少しずつ腰を動かし始める。  
「はあっ……あくっ…!バ、バハムーン……尻尾、動かせよ……それだけは、許してやる…」  
言われたとおり、バハムーンはゆっくりと尻尾を動かした。途端に、ドワーフの体がビクンと跳ねる。  
「うあぁ!!はぐっ……す、すげ、いい……な、中で、擦れてっ……バハムーン、もっと強く……う、うあああぁぁ!!!」  
ドワーフの言葉を受け、バハムーンは尻尾を激しく動かし始めた。  
腸内を荒々しく犯され、腸壁越しに尻尾と彼のモノがゴリゴリと擦れ合う。腰を動かすまでもなく、それはドワーフに強すぎるほどの  
快感を与える。  
「うああ!!は、激しっ……やぅ!んあ!バハムーン!すげえ、気持ちいいよぉ!!」  
「くっ……なら、もっと激しくしてやる…!」  
バハムーンとしても、それは思った以上に気持ちよかった。尻尾を入れた時から、ドワーフは彼のモノを強く締め付け、また尻尾を  
動かす度に、自身のモノを刺激できるため、バハムーンは彼女への気遣いなど一切なしに尻尾を動かす。  
「きゃう!やあぁ!こ、擦れるぅ!!腹ん中っ……あん!腹ん中、ぐちゃぐちゃになっちまうよおぉ!!」  
両方の穴を同時に犯され、今まで感じたこともないような快感がドワーフを襲う。  
「や、やばっ……バ、バハムーン!!あたし、もうっ!!やっ、ダメ!!掻き回しちゃっ……か、体、変にっ!!うあっ!!やっ、  
よせっ、だっ、バハ……や、んぅ、ああああぁぁぁ!!!!」  
切れ切れの悲鳴を上げ、一際大きな声をあげたかと思うと、ドワーフの体が大きく仰け反り、ガクガクと痙攣する。同時に、  
膣内と腸内が激しく収縮し、バハムーンのモノを強く締め付けた。  
その間も、バハムーンは尻尾の動きを止めない。だが、仰け反っていた体が落ちると、ドワーフはその尻尾を掴んだ。  
「はぁ……はぁ……もう、いい……やめろ…」  
「……仕方ないな」  
自身ももう少しで達しそうだったため、バハムーンは不満そうだったが、渋々彼女の中から尻尾を引き抜いた。それが抜けきると同時に、  
再びドワーフの体が仰け反る。  
 
「んあっ!……やぅ…」  
またも軽く達してしまったのか、再びバハムーンのモノが強く締め付けられる。しかし、その感覚を楽しむ間もなく、ドワーフは  
腰を浮かせると、彼のモノも抜いてしまう。  
「……おい、ドワーフ。俺はまだ…!」  
「あん?あたしはもう十分楽しんだ。だから終わりだ。出してえってんなら、一人で出してろ」  
服を身につけながら、ドワーフはそっけなく言う。そんな彼女に、バハムーンは舌打ちをしたが、すぐに人を見下したような笑みを  
浮かべる。  
「ふん、そうか。確かにお前の勝手をされるよりは、そっちの方がよっぽど気持ちいいかもしれねえな」  
その言葉に、ドワーフも挑発的な笑みを返す。  
「ほーお、じゃあよかったじゃねえかよ。これで大好きなオナニーがいっぱいできるじゃねえか」  
「わかってるならさっさと帰れ、邪魔だ」  
「言われなくても、んなの見たくもねえ」  
「じゃあ出てけ」  
「命令すんな」  
「じゃ、出て行ってくれ」  
「寂しくなっても泣くんじゃねえぞ。もう戻らねえからな」  
「誰が泣くか」  
「お前だお前。じゃあな」  
最後に人を小馬鹿にした笑みを浮かべ、ドワーフは部屋から出て行った。  
バタンとドアのしまる音が響くと同時に、バハムーンは大きな溜め息をついた。  
「……ちっ、無理にでも引き止めるべきだったな……いや、だが誓った以上…」  
一人ぼやき、バハムーンは額に手をやった。  
「それでも、せめて一緒にいるぐらい……いや、今からでも…………いや、ダメだな、もう…」  
大きな溜め息をつくと、バハムーンは一人のベッドの上で、がっくりとうなだれた。  
一方ドワーフも、ドアが閉まると同時に笑みは消え、悄然とした顔で息をついた。  
「……あー、失敗した。あんなこと言わねえで、手か口で抜いてやるべきだったかな…」  
閉まったドアを横目で見つめ、音が出ないように寄りかかる。  
「思えばキスすら、一回もしてねえもんなぁ……それぐらいしてやってもよかったかなぁ……そこまでしなくても、一緒にいてやる  
ぐらい……いっそ今からでも、戻って一緒に……って、んなのできるわけねえよな……あんなの言った後で…」  
天井を見上げて溜め息をつき、ドワーフはしょんぼりとうなだれた。  
「今更、おせえよなぁ…」  
ドア一枚を隔てたところで、二人は全く同時に同じ言葉を呟いていた。  
 
その頃、エルフとセレスティアは同じベッドの上にいた。自分にもたれかかるエルフを、セレスティアは腕と翼とで優しく抱いている。  
「……やっぱり、不安かい?」  
「……ええ」  
素直に答えるエルフに、セレスティアは優しく微笑みかける。  
「大丈夫だよ、エルフ。危ないときは、私が守るから。私としては全世界より、君の方が大事だからね」  
「もう、そんなことを言ってはいけませんわ」  
とはいえ満更でもないらしく、エルフは笑いながら窘めている。  
「はは、ごめんごめん。でも、私だけじゃない。みんなが一緒なんだ。きっと、勝てるよ」  
「『きっと』と言う辺り、あなたも実は自信ないんじゃなくって?」  
そう指摘されると、セレスティアは困ったように笑った。  
「ははは、鋭いなあエルフは。まあ正直、私だって不安だよ。でも、みんないる」  
僅かに、エルフを抱く力が強まる。そんな彼の翼を、エルフは優しく撫でた。  
「ええ……そうですわね。でも、セレスティア……みんなの前で、弱音は吐けませんわ。だから、今だけは…」  
「……わかってるよ、エルフ」  
微かに震えるエルフの体を、セレスティアは強く強く抱きしめる。  
どうしようもないほどの不安の中、お互いの温もりだけが、心を落ち着けてくれる。いつしか眠りにつくまで、二人はずっとそうして  
抱き合っていた。  
 
同時刻、フェルパーの部屋。彼女は退屈から早々にベッドに入り、安らかな寝息を立てていた。  
その耳が、ピクンと動く。ややあって、さらにピクピクと耳が動き、フェルパーはうっすらと目を開けた。  
「んに……フェアリー?」  
カチャカチャと、ドアから音がしている。声を掛けると同時にカチャンと音が鳴り、鍵を掛けたはずのドアがゆっくりと開いた。  
「さすが、よくわかるね。で、君はどこに……ああ、いたいた。ちょっと目、開けててね」  
真っ暗な部屋の中、光るフェルパーの目を頼りにベッドに近づくと、フェアリーはそこに腰かけた。フェルパーも布団から這い出し、  
フェアリーの隣にちょこんと座る。  
「……んむー?フェアリー、どうしたの?」  
彼女の問いかけに、フェアリーは大きな溜め息をついた。  
「……なかなか、君にふさわしい男にはなれないね…」  
「ん〜?」  
首を傾げ、フェルパーは彼をじっと見つめる。  
「……フェアリー、震えてる?」  
 
フェルパーが言うと、フェアリーは自嘲の笑みを浮かべ、彼女を見つめた。  
「……怖いんだ、明日が…。白氷の獣王みたいな化け物が、配下になってた……じゃあそれを従えてるのって、どんな化け物だよ…!?  
そんなの、僕達が勝てるのか…!?怖いんだ……怖くて、たまらないんだ…」  
震えるフェアリーを、フェルパーは不思議そうに見つめていた。やがて、その顔に全く空気の読めない笑みが浮かぶ。  
「だよね!きっと、すごく強いんだよね!あははっ!楽しみだね!だってだって、そんな強いの殺せるんだよ!」  
「……フェルパー、僕の話聞いて…?」  
「聞いてるよ!ちゃんと聞いてるよ!でもねでもね!フェアリー、一個忘れてるよ!」  
「え?」  
思わずフェルパーの顔を見ると、彼女は若干の狂気を孕んだ、それでいて実に無邪気な笑みを浮かべていた。  
「戦うの、フェアリーだけじゃないよ!私もね、戦うよ!みんなもいるし、白氷の獣王だって、ちゃんと勝てたよ!」  
「……ま、まあね。でも、それのボスって…」  
「ダンテ先生だってね!最初勝てなかったけど、今は勝てたよ!みんなね、強くなったし、フェアリーもすごく強くなったよ!だからね!  
絶対勝てるよ!絶対殺せるよ!あはははっ!だからさ、楽しみにしようよ!明日になったら、すっごく強いの、殺せるんだもん!」  
事の重大さをわかっていない、しかしあまりに無邪気な言葉に、フェアリーは思わず呆れた笑みをこぼした。  
「……ははは、君はほんっと、変わらないなあ。逆に殺されるかもしれないとか、考えないのかい?」  
「かもねかもね!でもね、死なないよ!みんないるもん!死にかけるぐらい強い相手なんて、ほとんどいないもん!だからね、すっごく  
楽しみなんだよ!」  
いつもと全く変わらない、いかにもフェルパーらしい言葉。彼女を前にすると、何だかそんなことで悩む自分が、ひどく馬鹿らしく  
思えてしまった。  
「……それもそうか!悪かったねフェルパー、こんな夜中に叩き起こして」  
「ううん!いいよ!だって、フェアリーは……その……あの……私…」  
「こんな僕でも、好きでいてくれるのかい?」  
フェアリーが尋ねると、フェルパーは顔と耳の内側を真っ赤にしながら頷いた。それが、今のフェアリーにはたまらなく嬉しかった。  
「ありがとな。まあ、魔が差したんだ。こんな弱音吐くのは、今日だけだよ。あ……でも、フェルパー」  
「んにー?」  
「その……今日、一緒に寝ていいかな?」  
「えっ!?」  
「あ、エッチなことはしないから。ただ、一緒にいたいんだ」  
「あ、それならいいよ!二人で寝ると暖かいし、いいよね!」  
嬉しそうに言うと、フェルパーは壁側に寄り、布団に潜り込んだ。フェアリーもその隣に寝ると、少し躊躇い、フェルパーの手を掴む。  
顔を真っ赤にしつつも、フェルパーもその手を握り返し、恥ずかしそうに笑った。そして、二人は静かに目を瞑る。  
 
明日には、全ての決着がつく。その結末がどうなるか、今は誰にもわからない。  
多大な不安。そこからくる緊張。それはあまりに大きく、ともすれば押し潰されそうにまでなってしまう。  
だが、それでも彼等は進み続ける。全てを終わらせるため、力を見せつけるため、自身の楽しみのため。  
目的はそれぞれでも、彼等にはただ一つ、信じられるものがあった。  
仲間と一緒なら、負けることはない。  
たった一つの、それでいてこれ以上ないほどに大きな拠り所。ただ一つ信じられるものが為、彼等は歩き続けられる。  
行きつく先に、何が待っているか。その答えが、近づいていた。  
 

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