第二章―いざ行かん、学びの園へ!  
 
 
「ここが・・・・クロスティーニ・・・・」  
「私たちの通う『学園』かぁ・・・・」  
村を出てから早数日。カレン達は冒険者養成学校の一つ、クロスティーニ学園の正門前に到着していた。  
「にしても、門からして凄い立派ね。村長の家がウサギ小屋に思えてくるわ」  
「ウサギ小屋はないでしょ。せめてウシ小屋にしてあげないと」  
「あ、そうだったね」  
カレンとカオルはいつものように談笑しながら校門を潜るって中に入った。  
敷地の中には男女様々な生徒達が行き交っている。ヒューマンやドワーフはカレン達も村で見たことがあるし、フェルパーやバハムーンは互いの親だから言うまでもない。  
しかし・・・・  
「俗に『エルフ耳』って言うけど、エルフの耳ってホントに尖っているのね」  
「でもって、ディアボロスとセレスティアは仲が悪いってのは本当みたい」  
田舎育ちの悲しい性か、周囲をキョロキョロしつつ人間(?)観察を始めてしまう二人。  
「イッエェーイ!!」  
すると、歓喜の声・・・基、奇声を発するヒューマンの少女が目に入った。  
蜂蜜色の髪を側頭部で一本にまとめ、それを青いバンドで固定した髪型が特徴的だ。  
その反対側には赤いリボンが巻かれており、左右のバランスを保っている。  
「新しい環境!新しい生活!楽しい学園生活の、始まりだよ〜っと♪」  
性格も発せられた言葉の調子からして社交的だろう。  
「うぅ。私・・・ああいうの苦手かも・・・」  
フェルパーという種族は極端に人見知りをする。カオルもまた、例外ではない。  
特に猫の面影が残るからか、犬のようなドワーフとは相性があまり良くない。  
「そう?良いじゃないの明るくて。ハロー!」  
そんなカオルをガン無視して、カレンはそのヒューマンの少女に歩み寄った。  
「おっと!初めまして。あなたもここへ入学しに?私はオリーブ。よろしくね!」  
カレンが近づいたのに気付くと、慌てて取り繕ったようにヒューマンの少女―オリーブは自己紹介した。  
「私はカレン。で、こっちにいるのが・・・・。カオル?何やってんの?」  
カレンも挨拶で返し、カオルを紹介しようと振り返ると・・・・  
「うう・・・・。よろしく・・・・」  
当の本人は植え込みの影からジッとオリーブを見ている始末・・・・。  
「えっと・・・・まあ、そういうことで、改めてよろしく」  
 
――――  
 
「へぇ、カレンは『希望の六騎星』に憧れてここへ?」  
「ま、そう言う所だね。すると、オリーブもそう言う理由でここに?」  
「まあね♪私さ、前々からこの学園には見学の名目でちょくちょく遊びに来てるんだ。だから、ここには何人か知り合いも居るし、何処に何があるかとか、カリキュラムも網羅してるの!まあ、早い話が困ったことがあったら何でも聞いてね」  
「そん時は頼りにしてるよ」  
ベンチに座って三人は会話話に花を咲かせている。  
「けどさイヤらしい話、冒険者って儲かる?」  
すっかりカオルも打ち解けて早速得意の的外れトークを炸裂させる。  
「それがね・・・・まさしく勝てばウハウハ、負ければ大損、最悪命を落としかねないのよ・・・・。あっ!そう言えばもうすぐ入学式始まっちゃうわ。一緒に行きましょう♪」  
「いいねぇ!」  
「反対の賛成!」  
『女三人で姦しい』とは言うが、今の彼女たちはまさにそれだった。  
 
 
入学式が行われる体育館へやってきた三人は、上級生の案内に従って所定の席に着席した。  
『では続きまして、校長先生より新入生の皆様への祝辞です。では、ヴァシュラン校長お願いします』  
司会進行のアナウンスの後、初老のエルフが壇上に上がり、演説を始めた。  
『フォッフォッフォ。クロスティーニ学園へようこそ、新入生の諸君。先の紹介通り、ワシは校長のヴァシュラン。見た目はすっかりジジイじゃが、心はまだまだ若かりしあのころのままじゃ。諸君らも知っての通り・・・・―』  
ヴァシュラン校長の演説は数十分にわたって続いた。この手の事は万国共通のようで。  
『式が終わって、職員室で入学手続きを済ませたら、君たちは正式にこの学園の生徒じゃ。さあ、楽しい学園生活の始まりじゃぞい!』  
 
――――  
 
カレン達は入学手続きを済ませると、中庭に掲示されたクラス割表で自分達のクラスを確認していた。  
「えっと・・・・私のクラスはっと・・・・。お、B組だ。カオルは?」  
「んーと、私もBだよ!」  
「やりぃ!ところで、オリーブは?」  
「ウソッ!マジで!?あ、あり得ない・・・・悪夢だぁ・・・・」  
見る見る顔が青ざめていくオリーブ。カレンが彼女の名前を探してみると、同じB組だった。  
「なんで?同じクラスじゃん」  
「それを加味しても最悪なのよ・・・。担任の欄見て・・・・。『あの』ダンテ先生なんて・・・・。はぁ、憂鬱だなぁ」  
「まあ、決まった奴はしょうがないよ」  
カオルはオリーブの肩を叩き、励まし半分諦め半分の言葉を掛ける。  
「それもそうね。気を取り直しまして、教室に行きましょ♪」  
 
 
「あれ?コッパにルオーテ・・・・」  
教室に入ったオリーブの目線に、ドワーフとバハムーンの少年が入る。  
ドワーフの方は赤いスカーフを首に巻き、手首に金属製の腕輪を着けている。額には何故かゴーグルが見受けられるが、ドワーフのトレンドなのだろうか?  
一方のバハムーンは鋭い目つきと蒼天のような青い髪が特徴的だった。  
「偶然だね〜。あんたらと同級とはね」  
「・・・・そうなるみたいだな」  
ルオーテ―と呼ばれたバハムーンの少年―は少し間を空けてオリーブの質問に受け答えした。  
「むぅぅ・・・オイラ、パーネ先生ってひとのクラスが良かったよー!」  
で、ドワーフの少年―こちらがコッパだろうか―は頭を抱えていた。理由はオリーブと似たクチだろう。  
「あ、二人は私と地元が一緒で付き合いも結構長いのよ。目つきが悪い方がルオーテで、小っこい毛むくじゃらがコッパ」  
「お前なぁ・・・・人が気にしていることを・・・・。ルオーテだ。まさか同じクラスに同胞がいるとは、これも何かの巡り合わせだな」  
「私はカレン。よろしくね」  
握手を交わすカレンとルオーテ。バハムーンどうし、相性は良さそうだ。  
「オイラはコッパ。よろしく!っていうかオリーブ!毛むくじゃら言うな!」  
「カオルよ。こちらこそ、お見知りおきを」  
一見すると、こちらも友好的に見えるがカオルの方は一歩引いてしまっている。  
「おら、席に着け、お前ら。ホームルーム始めっぞ」  
五人が会話をしていると、一人の男性教師が教室に現れた。  
鮮やかな赤毛の持ち主だが、頭に生えた二本角からディアボロスのようだ。  
「おら、席に着けお前ら。俺がこのクラスの担任を務めるダンテだ」  
赤毛のディアボロス―ダンテの指示で着席する生徒達。  
「うわ、ディアボロス。ツいてないわね、カオル」  
「もっと苦手だよ、あの人は・・・」  
カオルだけでなく、オリーブやコッパも、いや、周囲の生徒の半数以上がイヤな顔をしている。  
「顔合わせして早々だが、クラス委員を決めようと思う。・・・・オリーブ、お前がやれ」  
「っぇええ!?」  
いきなりの指名にオリーブは開いた口が塞がらないでいる。  
「どうした?不満か?」  
「不満も何も、立候補すら取らずに決めるんですか!?」  
確かに、オリーブの言う事はもっともだ。本来なら何人か立候補を募るハズなのだが・・・・・。  
「面倒だ。お前がやれ。どうせヒマなんだろ?」  
「でも、私には図書委員の仕事も・・・・」  
「反論を許したつもりはないが?とにかく、お前がやれ。いいな?」  
「・・・・・はい・・・・」  
「では、ホームルームは終了だ。各自、寮の部屋を確認しておくように。では解散」  
 
 
「もう、何よ何よ!!ヒューマンがそんなに憎いわけ!?」  
ホームルームの後、オリーブはケーキをヤケ食いしながらカレンとカオル相手に愚痴っていた。  
「まあ、気持ちはわかるけどさ・・・・」  
「何が『ちょくちょく見学に来ているから』よ!!だったら他の連中も一緒でしょうに!」  
「はぁ。この先どうなっちゃうんだろ・・・・・」  
ついに始まった楽しい学園生活・・・・・のはずが、どうやら早速暗礁に乗り上げそうだ。  
 
 

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