おまけです。  
 
「わぁ..あれが"魔法の殿堂"ブルスケッタだが?クラッズさ」  
魔女の森から出るゲートを抜けると、眩しい陽の光に輝く白亜の学び舎を指差して、  
セレスティアが嬉しそうに尋ねる。  
「うん..楽しみでしょ?セレスティア」  
「がっぱど!!はぐ行ぐべし!!」  
クラッズの腕を取って引っ張るようにせかすセレスティア。  
「あはは。そんなに急がなくても学校は逃げないよ」  
やがて二人はブルスケッタ学園の校門の前に立った。  
「..学校辞めねぐて、ほんとえがった..」  
感無量の面持ちでつぶやくセレスティア。クラッズの腕を掴んだ手にぎゅっと力が入る。  
 暫くブルスケッタに辿り着いた感動に浸った後、校門をくぐる二人。すると門柱の  
影から声がかかった。  
「..見慣れない顔だね。クロスティーニの生徒かい?」  
振り向くとディアボロスの女生徒とノームの男子生徒が並んで門柱に寄りかかっていた。  
「あたいはフラン。ここの図書委員。こいつはリモン。同じく図書委員だ。予め言っておくが  
リモンはあたいのイロだから手を出すんじゃないよ」  
「あ、クラッズです。クロスティーニから来ました」  
と、ペコリとお辞儀するクラッズ。  
「わはセレスティア。同じくクロスティーニの生徒だはんで、よろしぐな」  
酷い訛りとは裏腹に、制服のスカートの裾を持ち上げて軽く膝を折り、洗練されたお嬢様  
挨拶で返礼するセレスティア。  
 
(けっ!!田舎者のくせにかっこつけやがって。これだからセレスティアは嫌いなんだよ!!)  
心の中で舌打ちをするフランをよそに、リモンはセレスティアに駆け寄りその手を取った。  
「懐かしい訛りだべなぁ..おめぇさんもイースト-ノーザンエリア出身だべが?」  
リモンの訛りを聞いてセレスティアの顔がパッと明るくなる。  
「んだ。わはツーガリア。リモンさは?わほど訛り酷くねみてだばって?」  
「おらはモガミアだべ。こっちのクラッズさは?」  
「わはクロスティーニの隣だばって、連れがこうだはんで、訛りこ覚えてまっだねはー」  
セレスティアと同じく流暢な訛りでそう答え、セレスティアの服の袖を引っ張るクラッズ。  
照れて真っ赤になって俯きながらそれを振り払おうとするセレスティア。  
「わぁ、なんぼめんこいばぁ。ゆっくりしていってけなあ..」  
そう言ってリモンはクラッズとがっちり握手を交わした。  
 
(な、なんなの、こいつら..リモンまでセレスティアにデレデレしちゃって..)  
一人蚊帳の外に置かれたフラン。しばらく呆然と立ち尽くし、三人の理解不明な会話を  
聞いていたが、やがて思い出したように咳払いをした。  
「オホンオホン..で、挨拶が済んだらそこの二人、後で図書室へ来な。ブルスケッタのこと  
逐一教えてやるから..」  
「なあ、宿はどうするつもりだべが?学生寮の部屋手配した方いべが?」  
そんなフランをよそに、来客二人の心配をするリモン。  
「わいは。ありがてじゃ..だばって料金なんぼすべが?」  
不安げに尋ねるセレスティア。  
「クロスティーニと変わらねべ。素泊まりはタダ。二食付きで100Gだべ」  
ほっとした表情で顔を見合わせるセレスティアとクラッズ。  
「だば問題ねでごさね。なもさねくても二週間は持つべ」  
 
(何よ何よ..この田舎者どもが。あたいが言葉分からないからって..)  
三人に無視された悔しさと訛りが理解できないもどかしさで、めらめらと嫉妬心が  
燃え上がるフラン。  
「..だども、セレスティアさ、鄙に珍しぐエレガントだのぉ」  
フランの心も知らずに、セレスティアに穏やかで柔らかく親しげな視線を送るリモン。  
「実家だば山持ちのりんご農家だど。あんまめぐて、一度喰てまればどったら天使様も  
堕落してまるって噂の、"堕ぢるりんご"で有名なんだど」  
誇らしげにに紹介するクラッズ。隣ではセレスティアがそれこそりんごのように真っ赤に  
なって恐縮している。  
「山持ち?いいどこのお嬢様だべなー。なんも冒険者さならなくてもいいべさ..」  
リモンも久しぶりに故郷の訛りを聞くことが出来たせいか、すっかり二人と打ち解けて  
しまった。  
 
「..お・ま・え・ら・いい加減にしやがれ!!」  
そう叫ぶや否や、目を三角に吊り上げ、訛り丸出しで談笑する三人に向かってブレスを  
吐き出すフラン。炎に炙られ真っ黒に煤けながら、呆然とフランを見つめ返す三人。  
「なによなによ..同郷だからって..初対面でいきなりべたべた仲良くしちゃって..」  
次第に涙声になるフラン。  
「ここはブルスケッタだっつーの!!訳のわからん訛り丸出しでおしゃべりするなっつーの!!」  
「フラン..」  
「寄るな田舎者!!」  
申し訳なさそうに差し伸べられたリモンの手を振り払うフラン。  
「なにさ..あたいだって何年この田舎者と付き合ってきたと思っているのさ?それが訛りが  
同じだからって、一日でこんなに仲良くなられたんじゃ、あたいの立場無いじゃない!!」  
「いや、悪かったなあ、フラン..仲間外れにするつもりは無かったべ?」  
「うるさいうるさいうるさい!!」  
謝ろうとするリモンに取り付く島もないフラン。  
「お前ら田舎者は田舎者同士でそこいらの隅で小さく固まっていやがれ、ばっきゃろーぃ!!」  
乱暴にそういい残すと、フランは学校の中に駆け込んでいってしまった。  
 
「..フランさにはわりごとしてまったなあ..」  
しょんぼりと俯くセレスティア。  
「..わがクロスティーニで味わった寂しさ..今度はわがフランささ、やってまった..話っこ  
通じね辛さ寂しさ、わが一番わがってるはずなのに..」  
そうつぶやいてぽろぽろと涙をこぼした。  
「おらもちょっとはしゃぎ過ぎてしまったべ」  
申し訳なさそうに頭をかくリモン。  
「..だども、あんまり心配しねえでけろ。あれはあれで根性ある奴だがらすぐに立ち直るべ」  
「だばって、せっかくだはんで、フランさども仲良くなりてがったじゃ..」  
フランが駆け込んでいった校舎を覗き込むクラッズ。  
「..大丈夫だべ。こったらこどでひねくれでまるような奴なら、おらのイロは務まらねえべ」  
リモンは、そう言ってにっこり笑って二人を慰めた。  
「そのうちまたみんなで会う機会作るがらまがせてけろ。さ、疲れたべ?まず部屋さ案内すべ」  
そして二人の肩を抱いて学生寮へと案内していった。  
 
(ちくしょう..ちくしょう..今に見てやがれ、田舎者どもが!!)  
その頃フランはドスドスと荒々しく足音を立てながら図書室へ向かっていた。  
(あたいだって魔法には少し自信があるんだ。呪文を覚えることに較べたら  
田舎訛りの一つや二つマスターすることなんて、朝飯前にもなりゃしないんだから)  
図書室に入るとまっすぐに「全国地方方言全集」が並んでいる棚に向かう。  
(ええと、イースト-ノーザンは第二巻か..明日の朝、あいつらに完っ璧な方言で挨拶して、  
あたいの底力見せてやる!!リモンの前で農家の小娘如きにでかい面させるもんか!!)  
空いている机の上に本を置き、椅子にドスンと腰かけるとさっそくペラペラとページを  
めくり始める。  
ふと脳裏に、あの二人と楽しそうに談笑するリモンの顔が思い浮かぶ。  
(..あたいがお国訛りで話しかけたら..リモン、同じように喜んでくれるのかな..?)  
リモンが驚き喜ぶ顔を想像して、頬を赤らめ表情を緩める。  
しばらく生暖かい妄想の世界に浸った後、たまたま開かれていたページに目を落とす。  
-基本日常会話シーンNo.11「街角にて」  
 "どさ?""ゆさ!""だど?""など!""わも?""なも!くな?""いが!""はぐ!""まで!"-  
(..は?)  
目が点になるフラン。果たして彼女の「明日の朝」はいつ来るのであろうか..  
 
とっつぱれ  
 

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