さて、今日も午前の授業が終わり、僕達は食堂にやって来た。
今日は朝からずっと全学科共通の授業だったから、カレリアにショウンの言っていたボブテイルの話をしてあげた。
カレリアの反応はと言うと、自分の尻尾が病気や呪いではないとわかって凄く喜んでくれた。
でも、いくら嬉しいからって教室で抱きつかれたのは恥ずかしい。……と、言うか
「カナタ。恥ずかしがるか見せ付けるか、どっちかにしなよ」
「ショウン、僕が見せ付けてるわけじゃないだろ」
正面に座ったショウンは呆れ顔をし、僕と僕の隣に座ったカレリアを眺めている。
「……スリスリ」
カレリアはと言うと、ショウンの言葉なんか気にせずに僕に頬擦りをしてくる。
実は、今朝話をしてからずっとこうなのだ。
授業中にもチラチラ僕の方を見てきて、休み時間になれば直ぐ様僕の席にやって来て、お喋りしつつ僕に頬を寄せる。
お陰で僕はクラス中から冷やかされてしまった。……まあ、カレリアは可愛いいから良いけど。
それに、少し寂しかったというのもある。疎ましいぐらいに僕にまとわりついていたピコと離れてから、もう一月も経つんだから。
「でも、今日の午後は学科別授業だからイチャイチャ出来ないだろ」
「だからイチャイチャなんてしていないってば!」
ショウンの言う通り、午後から僕とショウンはパーネ先生の授業。カレリアはロッシ先生の授業だ。
食事を終えて別れる時、カレリアは僕にしがみついてしばらく離れなかった。
「カナタにはよく懐いてるね」
「懐いてるってレベルかな。まあ、悪い気はしない」
僕としてはビルグリムみたいな他のフェルパーとも仲良くして欲しいと思うんだけど。
カレリアと別れた僕達はパーネ先生の授業を受ける為に教室へ向かった。
「僕、パーネ先生苦手なんだよね」
「カナタも? パンナもパーネ先生を苦手そうにしていたな」
尻尾(?)の一件以来、僕はパーネ先生が分からなくなってしまった。
僕とショウンは魔法基礎の授業に並んで出席していた。ショウンはレンジャーだけど、将来は錬金術士を目指してるから魔法を習っている。
パーネ先生は始業のチャイムが鳴ってから教室に入ってきた。
そして、授業に入らずにかねてから話が出ていた転入生を紹介する、と言った。
「では、ピコさん。入って来て下さい」
「ハーイ」
ん?
ピコさん? まさか……
先生に促されて女生徒が一人、入って来た。
「初めまして。魔法使い学科のピコです」
「って、ピコぉっ!?」
僕は驚いて叫んでしまった。本当にピコだ。隣でショウンもポカンとしている。
「あら。知り合いですか?」
パーネ先生の尋ねる声になんとか頷く。
「はい。おさなな……」
「ハイ。私はカナタのものですから!」
マテ。今ナント言ヒマシタカ?
「私は頭の天辺から爪先まで」
ピコはそう言って自分の頭の上に右手を置き、右足を曲げて爪先を空いてる左手で掴んで続ける。
「髪の毛一本、血の一滴までカナタのものです」
とんでもない事を宣言した。周りからの視線が突き刺さる。
「ピコ! 誤解を招くような事を言うな! しかもソレ、悪魔との契約のポーズだろ!」
「あら、悪魔との契約なら全裸のはずですよ?」
横からパーネ先生が的外れなことを言ってくるがスルーする。
「ほら、ショウンからも何か言って」
隣に座るショウンに助けを求めるけれど、そこには誰も座ってなかった。
ショウンはいつの間にか席を移動していた。
「ゴメン、カナタ。僕もソッチの趣味はムリ」
「オイ!」
午後の授業は針のムシロに座っているみたいだった。
授業が終わってすぐに食堂に移動したのに、既に噂が広まっているのか周りからの視線が痛い。
何だか分からないけれど、ショウンがニヤつきながら隣に戻って来た。
「カナタ凄いなぁ〜。一部のフェアリーから大人気だよ」
「アレで人気出るってドユコト?」
思わずカタコトになってしまった。
「ちなみに、ピコ。君はフェアリーの選ぶ『死ねば良いフェアリー』の5位にランクインしたよ」
「ふーん。そうなんだ」
僕の肩に座ったピコが、無感動に返事をする。物騒なランキングに突っ込むべきか、ピコに突っ込むべきか……。
「突っ込み所が多すぎて困る」
僕は頭を抱えた。
「カナタ、どうしたの? 頭痛い?」
「うん。いや、大丈夫」
横から顔を覗き込んでくるピコに『お前のせいで』と、言おうとしたけれど、ピコの心配そうな顔を見ると言えなくなった。
「カナタもピコには弱いねぇ」
「うるさい」
ショウンがにやついているけれど、無視しよう。
「そういえば、カナタとショウンと、もう一人は?」
ピコが食事の手を止めて訊いてきた。
「カレリアってフェルパーの子だよ」
ピタリとピコの動きが止まる。
「……女の子?」
「ああ。可愛い子でさ。ちょっと人見知りだけど、ピコも仲良くしてくれ」
そう言って僕はテーブルの下に手を突っ込んだ。
「ふにゃア!」
隠れていたカレリアを、引っ張り出す。
「このコがカレリア」
「わぁ! カワイイ〜」
ピコが引き出されたカレリアにじゃれつく。
「私はピコだよ。カレリアさん、よろしくね!」
「……」
にこやかに挨拶するピコに対し、カレリアは反応が鈍い。困惑するピコだけど、ふと、カレリアの尻尾に気付いた。
最近、その尻尾が恥ずかしいモノではないと分かったカレリアは、スカートの下に隠す事をやめ、外に出していた。
「あれ? 変わった尻尾だね」
ピコの手が尻尾に伸び……
「!! フーーーッ!」
触るか触らないかで、カレリアは僕の背に隠れてピコを威嚇した。
「あ、ご、ごめんなさい、カレリアさん」
「ちょっと、カレリア?」
「にゃ! す、すみません、取り乱して」
謝るピコと僕の呼び掛けにカレリアはハッとなる。
「まあ、落ち着いて座ろうよ」
一人冷静なショウンの言葉で、みんな席についた。
「それで、これからなんだけど」
みんなの視線が集中した事を確認して、ショウンは咳払いを一つして話を進める。
「ピコは僕達のパーティーに加わるんだよね?」
「うん! 私はカナタの側にいたくて来たんだから当然だよ!」
ピコの恥ずかしいセリフを聞き流して、僕は目で先を促す。
……ってゆーか、カレリアが何か怖い。
「じっ」
蛇に睨まれた蛙状態だ。目玉以外動かせないよ。
「じゃあ、これで僕達のパーティーは4人になるわけだけど……」
僕とカレリアの様子に構わず、ショウンが話しを続ける。気付いてても触れない、さすがショウンだ。
「実技試験、かなり厳しいらしいから出来れば6人パーティーを組みたいんだ」
「オリーブとルオーテは?」
「ルオーテって誰?」
ピコが訊いてくるけど、後で教える事にして話しを続ける。
「二人はそれぞれでやってるみたいだし。邪魔しない方がいいよ」
「そっか」
ちなみに、みんなコッパは始めからあてにしてない。酷いよね。
「……でも、二人なら僕に心当たりがあるから、任せてくれるかな?」
「いいともー」
「私もいいよー」
「わ、私も……」
メンバー募集はショウンの心当たりに期待する事にした。
ピコの加入と新規メンバーの募集以外には特に何もないから、そのまま解散となった。
「じゃあ、みんな。改めてよろしくお願いします!」
ピコが深々と頭を下げる。
「ピコ、こっちこそよろしく」
「また、楽しくやろう」
「……よろしくお願いします」
カレリアだけ重苦しく返し、なんとなく雰囲気が悪くなってしまった。
「ねぇねぇ、カナタ」
気まずいので皆バラバラに帰っていたんだけど、『迷い子になりそうだから』と、ピコは僕の肩に座っていた。
この配置、ピコの羽とか髪が非常にくすぐったい。
「ねぇってばー」
「ん? 何?」
耳元のくすぐったさに耐え、なんとか話しを聞く。
「あのね、後で私の部屋に来てくれない?」
「……は? なんで?」
「備え付けの家具が大き過ぎて使えないから、カナタに作って欲しいなぁー、なんて。ダメ?」
確かに、備え付けのタンスとか、フェアリーのピコには開けるだけで一苦労だろう。
「わかった。後で道具持って行くよ」
「うん! ありがとうねー!」
頭に抱きついてくるピコ。そのくすぐったさと笑顔に、僕は目が眩んでいるんだと思う。