ある晴れた日の午後の事。
「りゅう! リリー!」
辺りを見回していたバハムーンの男が見かけた自分の仲間である二人組に聞く。
「む。どうしたレウス」
「一体、何?(せっかく今良いところだったのに……)」
片方は男も見知ったいつも通りのむっつり顔である。しかし、猫耳が生えているせいでイマイチ迫力がでない。(本人自身も悩んでいるらしい)。
もう片方は見て分かるほど不機嫌な顔をしている。角が生えているせいで睨み付けると迫力が猫男の倍はある。
「すまんな。悪いがアイを知らないか? 昨日の午後解散した後から見てないんだ」
男――レウスはやや焦ったような口調で話す。
「? アイなら」
スパンと一発、リリーの『超反応ナイススイング平手打ち』を後頭部に受けて台詞を中断したりゅう。りゅうの腕を引っ張りレウスから離れると、レウスに聞こえないよう声のトーンを落としてりゅうを叱咤する。
(馬鹿! 何で言おうとすんの!?)
(む? 何でって……)
(ったく……兎に角黙ってる! いい!?)
(りょ、了解した)
ちなみに、レウスに聞こえないように話しているので勿論聞こえていない。会話が終わり、不思議そうな顔をしているレウスのいる場所へと戻るりゅうとリリー。
「ごめんね、突然。えーとアイなら知らないわ。ね? りゅう」
「う、うむ」
「そうか……。デート中、悪かったな」
レウスは釈然としなかったが急いでいるのだろう、駆け足でその場を去る。
「あ、いや、レウス!? 私達そんなんじゃないだからね!?」
そんな叫びが聞こえたような気がするが、レウスは無視して次の場所へと走りつづけた。
レウスは様々な場所を走り回った。
学生寮、購買部、実験室、図書室、保健室、校庭、中庭……。果ては職員室や校長室まで探した。
しかし、行く場所行く場所「知らない」「分からない」しか言われない。唯一気になることはすれ違う人の殆どがニヤニヤしたような顔をしていた。
サラやユーノ先生に至っては羨望の眼差しを向けてくる始末である。
だが恐らく、恋人であるアイを探している行為を茶化しているものだと思いレウスは気にもとめなかった。
とうとうアテがなくなったレウスは壁に手を当て、考え込む。
(どこだ……? 何処にいるんだ?)
徐々にレウスは不安になってきた。日々命を賭して共に戦う友人でもあり、仲間でもあり、何より大事な恋人だ。
迷宮に行ったのかもしれないと思い、一旦部屋に戻ろうとし、俯いていた顔を上げる。
「ん?」
その時、彼は気付いた。玄関近くの廊下にあるバハムーンである彼でも全体を移す巨大な鏡。そこに映っている自分。の胴体に後ろから回された見慣れた腕に。
腕を掴む。ビクリと一瞬反応するがそれ以降ピクリとも動かない。頭を後ろに向ける。これでは見えない。頭を戻し、上半身を捻る。胸より上の部分を更に捻る。
いた。
たまに彼女の体が依代――人形であることを忘れてしまいそうな彼女、アイはそこにいた。いつもと変わらぬ表情でこちらを見上げながら。
「……いつからそこにいた?」
「―――昨日の、午後から」
「ずっとそうやってか?」
「―――これは――さっき―――りゅうと、リリーに会う――少し、前から」
ノームである彼女は浮くことができる。更にバハムーンである彼はやや鈍いので抱きつかれたことに全く気づけなかった。
レウスは頭を抑えながら質問する。
「風呂は?」
「―――貴方が――あがってから――――入れ替わりに」
「……寝るときは?」
「―――――ポッ」
「いやポッ、じゃねぇーー!」
――学生寮のとある部屋
同居人のヒューマンであるビューには暫く部屋を空けてもらうことにした。事情を話すとビューはビックリしたような顔をする。
「レウス、君が女の子を連れ込んでくる、とはね……。驚いたよ。ところで脱衣場に彼女らしき髪があるんだけど、まさか僕がいない間に彼女を襲」「誰が襲うかぁああ!」
話の途中だが有無を言わさず彼はビューを廊下の向こう側までぶっ飛ばした。
部屋に招き入れて誰も入らないようにドアと窓の鍵を閉め、カーテンをかける。向こう側の椅子にアイを座らせ、自分も座ると質問を再開する。
「何であんなことした?」
「―――一緒にいたかった、から」
「一緒にいたかったら言ってくれればいてやる。今までもそうだったろ?」
「―――だって……。いつも――寝る、時は―――別々の――部屋、だから――――レウスは、私のこと―――嫌い?」
「んなわけねぇだろうが!」
ドン! と机を叩き身を乗り出す。
「―――じゃあ――何、で?」
「それは……!」
ガラス玉のような瞳(実際ガラス玉なのかもしれない)に見つめられ、その妙な威圧感の前にレウスは、何も言うことができなかった。
「―――帰る」
暫くそうしていた後、アイはカタリと椅子から降りた。レウスが後を追おうとして、椅子から立ち上がろうとする。ガタリと音を立てた瞬間、
「来ないで!」
普段の彼女とは明らかに違う明確な意思表示にレウスはそれ以上動けなかった。
アイはこちらを振り向く。その目からは出ないはずの涙が一筋流れていた。
「―――貴方に、告白して――貴方が好きだと、言ってくれて――凄く――――嬉しかった」
俯き、絞り出すようにして喋るアイ。
「―――いつも――足手まといの――私を、ノームである私を―――好きだと、言って、くれて―――とても―――幸せだった」
その姿は実に、
「―――私達ノームは――他の種族に、比べて――生命力が――非常に、弱いから――昔からよく、虐められていた」
儚くて、
「―――だから、こんな私でも―――頼りにしてくれる人が、いるのは――嬉しかった」
今にも消えてしまいそうで、
「――でも、本当は私の事――好き、じゃないんだよね? 貴方は――凄く、優しいから」
弱々しくて、それでも――
「――ゴメンなさい。―――貴方の優しさにつけ込んで。――ゴメンなさい。―――貴方を縛ってしまって。―……でもこれで自由にするから」
それでも――
「―――だから、別れよう?」
――何よりも、美しかった。
そう言われた瞬間、レウスは体が勝手に動いていた。
椅子から立ち上がったままの状態から一気に彼女の元まで詰め寄り、堅い床に押し倒す。
彼女とはキスができる程の間隔しかなかった。だが彼女は目を合わせようとしない。
「……勝手なことばかり言いやがって」
彼の声には怒気が含まれていた。
「お前を初めて見た時は正直言えばな、そこら辺のノームと大して変わんねーから気にもとめなかった。
パーティーを組んだ時も似たような感じだ」
その言葉に彼女は更に顔を曇らせる。
「だがな、お前と組んで一週間程した時、知らない間に目で追っていた。
迷宮にいる間、お前が何処にいるか探した。
モンスターを倒した時、お前が無事か確認した。
鑑定している時、いつもと変わらねぇ真面目な顔をしているのにずっと見ていた。
鑑定するのが怖くなったとか言って、どことなく暗い顔をしているからスゴく心配した。
強くなったと感じた時のお前の笑顔、誰も見てないと思ったのか無邪気に笑っていたろ? ヤバいぐらい可愛かった。
モンスターの攻撃食らって大怪我した時は俺はもう頭の中が真っ白になった。お前が無事だ、って知った時、俺は『あぁ、こいつの事が好きなんだな』って改めて思ったさ」
彼女は話の中程から信じられないといったような顔だった。しかし、まだ目を合わせようとしない。
「そこからはもう泥沼にハマったようにお前の事を想っていた。
お前から中庭にお前に呼び出されて告白されて、ほぼ条件反射みたいに返事しちまったから、うまくいきすぎたて夢じゃないかと思った。でも夢じゃない、現実なんだと気付いた。
そして俺は俺自身と天に誓った。『絶対大事にする』と。『絶対護ってやる』と」
言葉に含まれていた怒気も徐々に優しいモノになってきた。しかし、それでも彼女は目を合わせようとしない。
「なのにお前ときたら、二人きりになるとスグ抱きついてくるか、腕の中に入り込もうとするし、部屋に入れば制服を脱いでシャツのまま寄り添ってくる。
廊下歩く時でさえ、手を繋ぐか袖を引っ張るかだ。……何が言いたいか分かるか?」
彼女はゆっくりと口を開く。
「―――やっぱり、迷惑」「んなワケあるか馬鹿野郎」
彼女の言葉を遮る彼の声に、え? と呟いて彼を見る。
レウスは笑っていた。その笑顔でアイは見つめ合ったまま、真っ赤になった。レウスは「やっと見たな」とぼやき、また喋り出す。
「どんだけ我慢してたと思う?
好きな女が無防備に目の前にいるのに、嫌われたくない一心で必死に我慢していた。
……さっきだってな、後ろから抱きついていたお前を襲いそうで危なかったんだからな?」
そう言われる彼女は真っ赤のまま硬直していた。
「……寂しい想いをさせてすまないと思っている。
けどな……、別れるなんて、冗談でも言わないでくれ……。
俺は、お前を……、アイを失いたくない……」
そこまで言われてアイは嬉しくて、幸せで、抱きつきたかった。
しかし、押さえつける他でもない彼の腕が、彼女の腕を動かしてくれない。
だからソッと頭を持ち上げて、キスまで後少しのところまで来ると、レウスは真っ赤になり、体を持ち上げる。
当然そうすると押さえつけていた手もどくわけなのだから、そのまま彼女は体を起こし、彼に抱きつき今度は逆に押し倒す。
固い床なのがやや残念そうだ。
「あああぁあアイ!? う、嬉しいが、その! 俺の話聞いていたのか!?」
「―――聞いていた」
「だったら早く!」「嫌だ」
彼の抗議には拒絶の言葉。しかし、どことなく嬉しそうだった。
「―――私は――貴方に――襲われても、いい」
その瞬間、彼は時が止まるのを感じた。
「―――貴方になら、いい」
再度告げるアイに彼はゴクリと唾を飲み込み、もう一度確認する。
「……どうなっても知らんからな?」
「―――好きにしていい。――でも、」
彼女は一旦区切り、頬を更に赤らめぼそりと呟く。
「――――出来れば―――貴方の、ベッドの上がいい」
それを聞いたレウスはアイをいわゆる《お姫様抱っこ》して、ベッドのある寝室まで落とさぬよう、ゆっくりと且つなるべく急いで歩く。
その間、アイは無邪気にそして幸せそうに笑っていた。
・・・・・・・・・。
ベッドの上にトサリとアイを静かに降ろすと自分もベッドに乗り、彼女に覆い被さる。
「優しくできる保証はない」
「―――別にいい」
いつもの口調のハズだが、心なしか喜んでいた。
「服、脱がすぞ」
呼吸をやや荒めにして制服のボタンを一個一個外していく。
途中もどかしくなって引き裂こうとしたが、それは流石に止めといた。
「―――私も……」
そう言い、アイもレウスの制服を脱がしていく。
数分後、アイは下着だけ。レウスはズボンを残して上半身裸の状態になり、双方手が止まった。
と、言うのもレウスはここまで来たというのに、まだ躊躇していた。
雪のような白い肌は見とれるほどの綺麗さ故にレウスは、自分が何か悪いことをしているかのような感じがした。
そんなレウスにしびれを切らしたアイは自分の下着を外していく。レウスはただそれを眺めていて、顔をひたすら真っ赤にしていた。
一糸纏わぬ姿になったアイはそのままレウスのに顔へと近づく。そしてやや強引に口付けをする。
「んっ……」
「っ……!」
始めは触れあうだけのぎこちないものだったが段々と双方熱が入ってきて、やがてレウスはアイの口に舌をいれる。
「んんっ……ふぁ、んっ……」
「んっ…くっ、う……」
暫くして、レウスの方から口を離す。銀色の糸がプツリと切れたところで、名残惜しそうな顔をしているアイと目があってしまいレウスはどことなく気まずそうな感じになる。そんな事から十分ぐらい、レウスはある理由から先に進むのを戸惑っていた。
(ど、どうする? まず……何をしたら、どうしたらいいんだ?)
「―………?」
付き合ってからまだひと月しかたっていない。口付けだって数えるぐらいしかしていない。
何より彼はその手の情報に疎かった。
それらの理由から手が自然と止まる。
アイが望んだことだからといって、そんな簡単にできるほどレウスは器用ではない。
「――――レウス……?」
「ハッ! い、いやコレはその……別に嫌とかじゃなくてだな!? だ、だからそんな顔すんな、な!?」
慌て弁解するレウスを見て、アイは愉快に思うと同時にこの普段とは裏腹に純情な彼が益々愛おしく感じ、唐突に彼に抱き付く。
「――…ん〜」
(あわわわわわ! なんかふにふにする! 吐息が直でぇ!
つーかこの胸の辺りにある柔らかいものはぁああああああ!?)
その学生ならではの未熟かつどことなく大人びいたアイの身体は、思春期真っ盛りのレウスにとってそれは刺激の強すぎるモノだった。
(い、いかんいかん! 欲望に身を任せたらアイを傷つけてしまう!
そうだ! 本に確か、落ち着かせる方法は素数を数えるのがいいと!
え〜と……。素数って何だったかな?)
そんな甘い誘惑に理性でなんとか立ち向かっていると止めの一撃が来た。
「……レウス、大好き」
えへへと無垢の笑顔と甘い言葉に崩壊寸前であった理性は音を立てて崩れた。
何故なら健全且つ純情な男の子(今年で17歳)である彼は好きな子からの誘惑にもはや我慢出来ないし、我慢しない。
理性を心の奥に追いやり、代わりに本能を――バハムーンの祖先である竜族の本能を――目覚めさせる。
「アイ」
「―? キャッ!」
彼女の名を呼び、顔をこちらに向けた瞬間に彼は彼女を組み敷いていた。
そして顔を彼女に近づけ今日二度目の口付けをする。
「んんっ……!?」
いきなりのディープキスに彼女は一瞬戸惑ったが、すぐに受け入れた。
そしてそのまま下の方へと舌を這わせる。桃色の突起まで舌が来るとそれを口でくわえる。
「あっ……んっ、んあっ……! え? レ、レウス? 何を……ああっ!?
や、止めてぇ…! 噛まない…んあっ! あっ! はあっ!」
暫く舐めたり、甘噛みしたりして彼女の反応を楽しんだレウスは乳房からさらに下へ下へと向かう。
腹部をじっくりとじらす様にしてようやく目的にたどり着いた。