エルファリアが4人目のメンバーとして、キルシュトルテのパーティーに加わってから、ひと月あまりの時が流れた。  
 当初の予想に反して、エルは非常にうまく王女達3人のグループに溶け込んでいると言ってよいだろう。  
 「プライドが高く我が道を行くキルシュトルテ」、「礼儀正しく有能だが姫様命なクラティウス」、「明るく脳天気に見えて実はちゃっかり屋のシュトレン」という取り合わせに、「温和で優しいが常識人かつ苦労人」なエルの性格がピタリとハマったからだろう。  
 これまで、王女の我儘に振り回されっぱなしだったこのパーティに、内部から控えめながら異議を唱えたり、(ごくわずかではあるが)軌道修正したりできる人間が入っただけで、周囲の被害は格段に減った。  
 それは、メイド娘とクノイチ娘にとっても例外ではなく、そのため引っ越しから一週間ほどで、エルの存在を、ふたりも好意的に受け止めるようになったのである。  
 ──まぁ、そのぶん、エルが苦労する機会は少なくないワケだが。  
 そして、意外かもしれないが、キルシュトルテ王女自身もエルの存在を極めて歓迎しているようだった。  
 これはおそらく、一部の身内や老臣を除いて、これまで「反対意見や忠告を述べる味方」と呼べる者がほとんどいなかっただけに、新鮮に思えたのだろう。  
 また、エルは決して真っ向から反対したりせず、あくまで控えめに、かつできるだけキルシュトルテの意に添うような形での修正案を出すので、反発が少ないというのもあるだろう。  
 
 
 そんなワケで、当のエル自身も(気苦労がないわけではないものの)、仲間として皆に受け入れられていることで、新たなパーティへと急速に馴染みつつあるワケだが……。  
 実のところ、気がかりな点がない、というワケでもない。  
 ──断っておくと、女装や女の子扱いについてではない。コチラは当初から早々にあきらめている。  
 
 ひとつは、単位コンプリートを目前にして狩人科から聖職者に転科されられたこと。とは言え、狩人の場合、単位100になったからと言って特別強力なスキルや魔法を覚えられるワケではないので、あくまで気持ちの問題だし、そこはさほど拘っていない。  
 また、前衛に偏ったこのパーティーで、自分がサポート役の後衛になる必然性も理解していたし、防御や回復面を考えれば聖職者という選択肢にも頷ける。  
 問題は──ドラッケン学園の固有学科である聖職者のうち、なぜか「修道女(シスター)」として登録されていたことだ。  
 迂闊なことに、エルがそのコトに気付いたのは、初めての授業に出て点呼を受けた時のことだった(牧師、シスターの順に名前を呼ばれたので気がついた)。  
 王女の差し金であろうことは明白だったが、以前クラティウスに釘を刺されたように、「このパーティに在籍する限り、女の子扱いされる」のだから、彼女達に抗議するワケにはいかない。  
 微かな期待を込めて学園側に問い合わせてみたのだが、仮に身体的性別が♂であっても、本人が希望するなら「シスター」となることに手続き上の問題はないらしい。  
(余談ながら、この点はプリシアナ学院の執事/メイドや、タカチホ義塾の神主/巫女なども同様である。リベラルというか何と言うか……)  
 さらに、ご丁寧にも、転科後初めて冒険実習に出かける際に、キルシュトルテに手ずから特製の修道服や聖帽など(無論、いずれも女物)を贈られてしまっては、「嫌です」と言うワケにもいかず、そのままシスターをやっているワケだ。  
 もっとも、神に祈って仲間を癒し、あるいは守り支える修道女という役回りは、エルファリアの性に合っていたことも確かだろう。とくに「魔法壁」を覚えた現在では、パーティの守護神として、強敵相手にはなくてはならない存在となりつつある。  
 その意味では「天職」と言えないこともないし、「彼女」の不満もさほど大きなものではない。  
 
 しかし、もうひとつの方は幾分深刻だった。  
 同じ屋根の下で暮らし始めて1ヶ月あまりが経つというのに、キルシュトルテがエルファリアにアプローチしてくることが皆無だったのだ。  
 いや、スキンシップや触れ合いなどが、まったくなかったワケではない。むしろ、(以前から顔見知りだったとは言え)わずかひと月前に仲間になったとは思えないほど、王女は親しげにエルに接している。  
 気軽に背後から抱きついたり、手をつないで(それも恋人つなぎ!)買い物だの観劇だのに引っ張り回したり(その際、王女の選んだドレスを着せられたりもしたが、それくらいは我慢するべきだろう)。  
 中庭で昼寝する際、エルに膝枕をねだった時なぞ、それはもうメイド猫娘が嫉妬して黒い波動を全身から発する程の懐きぶりだ。  
 エルとて、想い人に気安く接してもらってうれしくないワケではないのだが……何というか、それらはすべて「仲の良い友達」に対する態度ではないか、と思えてしまうのだ。  
 王女という立場(と性格)上、キルシュトルテには友人と呼べる人間が極めて少ない。その上に「親しい」と付くような友など皆無に等しいだろう。  
 そんな中でエルファリアは、王家の家臣でも、雇われ人でもなく、自分自身の意思で彼女に近づき、また彼女が自ら受け入れた稀有な人材なのだ。  
 さらに性格的な面での相性も悪くなく、戦友としても頼りになるとなれば、彼女が親友、マブダチ扱いしたくなるのも無理もない話だと言えよう。  
 とは言え、エルも(こんな格好しているとは言え、一応は)男のコ。好きな女性が自分を「お友達」としか見てくれないとなると、多少は切ない気持ちになったりする。  
 ──もっとも、結論から言うと、それは「彼女」の取り越し苦労だったりするワケだが。  
 
 
 その夜、クラティウスによる「メイド修行」をそれなり以上に巧くこなして、彼女に褒められたエルファリアは、上機嫌で風呂から出て、眠りに就くところだった。  
 「うーん、お料理はもとより、お掃除やお裁縫もだいぶ上達してきたし、もうじきクラティウスさんのレッスンも卒業かなぁ」  
 「やったね♪」と浮かれながらエルがベッドに入ろうとしたところで、「コンコン!」と小さいが鋭いノックの音が部屋に響いた。  
 「エルファリアよ、わらわじゃ」  
 「え、キルシュトルテさん!? ど、どうぞ」  
 「うむ、邪魔するぞよ」  
 あいかわらず尊大な物言いとともに入って来た想い人の様子に微笑むエル。  
 こういう話し方なので誤解されやすいが、身近で見るキルシュトルテは、意外に繊細で優しい女の子だ。いや、そのコトは以前からわかってはいた(だからこそ、ココへ来た)のだが、こうやって一緒に暮らしていると、そのコトがよりいっそうよく分かるのだ。  
 一応、キルシュトルテの方がひとつ年上なのだが、よくできた姉(的存在)がいるエルとしては、どこか「手のかかる甘えん坊な妹」的な感慨を抱いてしまう。  
 だから、珍しく彼女が自分でお盆に載せて持って来たお茶を、何気なく飲み干して……そのまま意識を失ってしまったのだ。  
 
 「……んんっ」  
 意識を取り戻したとき、エルファリアはほかならぬキルシュトルテに唇を奪われていた。  
 ほどよい弾力感と湿り気を帯びた感触が、唇にジワジワと広がる。どうやら上唇と下唇を丁寧に王女の舌で砥め回されているらしい。  
 「ふふふ、お主の唇は、まことに柔らかくて甘いのぅ」  
 「き、キルシュトルテ、さん……」  
 身じろぎをしようとして、エルは痺れたように身体が動かないことに気付いた。  
 「大丈夫じゃ、わらわに身を任せるがよい」  
 強い力で抱きしめられ、今度は舌を差し入れられたかと思うと、トロリとした唾液を注がれる。甘酸っぱい柑橘系の匂いが、エルの喉の奥に広がった。  
 「ん……だ、ダメですよぅ……」  
 何とか顔を背けると、ふたりの唇の間に唾液の糸がツーッと伸びて切れた。  
 「おぉ、この期に及んで、そうまで自力で動けるとは、さすがエルファリアじゃな」  
 王女は、エルのほつれた髪を華奢の指で梳りながらニコリと笑った。  
 普段の歳の割に無邪気な笑顔ではない。明確に「女」を意識した淫靡な笑みがそこにはあった。  
 
 「しかし、逃げずともよかろう。お主も、わらわとこうなることを望んでいたのではないかえ?」  
 「そ、それは……はい」  
 確かに否定はできない。こうなって嬉しいという気持ちもないワケではない、と言うか大いにあるのだ。  
 「まったく。一応身体的性別は男であるお主の顔を立てて、このひと月待ってやったと言うに、わらわのしとねを一向に訪ねて来ぬとは。とんだヘタレよ」  
 「そんなコトを言われても」と内心苦笑するエル。無論、王女の寝室の隣りの部屋には侍メイドが控えており、夜這いなどすれば最悪首が飛び、良くても男根を斬られていただろう。  
 そんなエルの気も知らず、キルシュトルテは尖らせていた唇を、ニィと三日月型に歪める。  
 「じゃからな、もぅ待つのはヤメにした。お主に抱いてもらうのではなく、わらわがお主を抱いてやろう」  
 「えーーーーーっ!? ちょ、ちょっと……」  
 「大丈夫じゃ。何も苦しいことなぞない。それどころか、わらわにかかればどんな娘とてメロメロ故、お主も気を楽にして身を任せるがよい」  
 想い人に、とてもとても優しく甘い声で言われたのに、エルの顔が引きつる。なんとか身体を起こして逃げようとするのだが、どういうワケかおそろしく緩慢にしか動けない。  
 「無駄じゃ。シュトレンからもらったシノビ特製の弛緩剤ゆえ、あと半時間は思うように動けんはずよ」  
 「で、でも、こんなコトしてたら、クラティウスさんが……」  
 「安心せい。今夜は王宮の方に使いにやっておる。戻るのは明日の昼じゃ」  
 ──どうやら、完全に逃げ道は塞がれていたらしい。  
 
 再三キルシュトルテに唇を奪われ、先ほど以上に深く舌がエルの口腔内に侵入してくる。  
 顎にうまく力が入らないのは、薬だけのせいでないだろう。唇から広がる感覚が全身に広がり、抵抗する気力を端から奪い去っているらしい。  
 「そう、大人しくしておれば……悪いようにはせん。わらわに身を委ねよ……」  
 まるで、スケベなヒヒ爺が言いそうな台詞であったが、キルシュトルテの可憐な声でそう言い聞かせられると、思わず反抗心が揺らいでしまう。  
 「お主、初めてであろう? フッ……優しくしてやるぞよ。なに、誰にだって初めての時はあるのじゃ。わらわが、忘れられない思い出にしてやろうて」  
 「百合王女」の異名にふさわしく、「女性経験」がそれなりに豊富らしく、王女の舌の動きは俊敏かつ巧みで、エルの口腔をクチュクチュといやらしくかき混ぜてくる。  
 嚥下させられた唾液が□の端からトロリと溢れる。  
 (あぅぅ……キルシュトルテさん、キスがすごくウマいよぅ……)  
 身体の奥底に火が灯ったかのように、ジリジリとした欲望が湧きあがってくるのをエルは感じていた。  
 そんなエルの様子を見てとったのか、キルシュトルテの指先が、夜着越しに胸を揉んできた。  
 先ほど風呂に入ったばかりで軽く火照った身体は、敏感に刺激に反応する。  
 「……はんッッッ! だ、だめぇ!」  
 エルは思わず拒絶の悲鳴を漏らしたが、男のコでありながら乳首がピンと堅く尖っていくのが、薄い布越しにハッキリとわかった。  
 「ほほぅ、それならこちらはどうじゃ?」  
 「そ、そこは……あぁン、らめえ〜」  
 意図せず舌っ足らずな嬌声をあげてしまう。  
 どうやらその言葉がツボだったらしい王女は、顔を真っ赤にして鼻息を荒くする。  
 「もっとじゃ! もっとお主の素敵な声を聞かせるのじゃ!!」  
 夜着の裾に手をかけられ、めくりあげられた瞬間、不覚にもエルの腰がビクンと大袈裟に反応してしまった。  
 (だ、ダメ、そこ、は………み、見られ、ちゃったら……)  
 「おお、すっかり熱くなっておるわ……フフ。安心せい。わらわは、お主がこんな風に弄られて感じてしまういやらしいコでも、幻滅したりはせぬからな」  
 勝手なことを言いながら、王女は右手でエルの内股を撫でさすりながら股奥を目指しつつ、左手で夜着を脱がせにかかっている。  
 ほどなく、半裸に剥かれたエルの股間にキルシュトルテの手が触れた。  
 ネグリジェの下に履いた女物の下着の中で、後ろ向きに窮屈に折り畳まれたまま、その先端から先走りの液体をジクジクと滲ませている部位を、その指先がかすめる。  
 
 「きゃンッ!」  
 魔法のマエバリによって封印された陰茎の先に柔らかな指が触れた瞬間、声を上擦らせてしまう。  
 (うぅぅ……ボク、なんて声を出してるんだよ〜、これじゃあ、完全に女の子みたいだよぉ)  
 「クックック……男とスるのは初めてじゃが……意外と悪くはないのぅ。ま、お主は女顔じゃし反応も可愛いゆえ、男とヤっておる気はあんまり、と言うか全然せぬがな」  
 などと悪役っぽい笑いを漏らしつつキルシュトルテは、積極的にエルをを責める。ベッドの上でエルの両足首をつかむと、グイと持ち上げ、いわゆるまんぐり返しの姿勢にさせる。 「やぁ……やめてくださいよぉ……」  
 蚊の鳴くような弱弱しエルの抗議を意にも介さずショーツをはぎ取り、王女はジロジロと「彼女」の下半身を見つめる。  
 その恥ずかしい体位のおかげで、男のものとは思えないほっそりと形のよい太腿から、丸く引き締まった尻、そしてひくつく肛門まで、あまさず王女の目にさらされていた。  
 「ふむ……あいかわらず、下手な女以上に愛らしい肢体じゃが……その札は、何じゃ? 変わったシュミじゃのぅ」  
 「ち、違いますぅ!」  
 エルに侍メイドがした事の説明を受けたキルシュトルテは、しばし考え込んでいたものの、程なく何事もなかったかのようにエルへの愛撫を再開する。  
 「ま、男性器を封印されておっても、何とかなるじゃろ……穴は他にもあるワケじゃしな」  
 「ひ、ひぇええ〜」  
 王女の不穏な言葉におののくエルをよそに、マイペースかつ念入りに「彼女」の身体を開発していく。  
 「あぁぁンッ……」  
 エルの全身に電流のような快感が走った。王女はマエバリ越しに陰茎の先端を弄って来たのだ。その巧みな指使いに、股間はますます熱を帯び、いやらしい体液を滲ませてしまう。  
 「ふむ……陰核(クリトリス)と同じように刺激してやれば、よいようじゃな。札の下でビクビクと震えておる様は、なかなか可愛いのぅ……フフ、まだまだ、たっぷりと楽しませてやるから、楽しみにしておるがよいぞ」  
 布越しに染みてくる先走りを潤滑油代わりに、さらにソコを攻め立てる。  
 「ぅくっ……そ、ソコはあっ……アァン、ダメですぅ……び、敏感、だ、だからぁ」  
 女の子のような──と言うより発情した少女そのものの甲高い喘ぎを漏らしながら、エルが懇願する。  
 「ほほぅ。ソコとはココのことか? ココがよいのか?」  
 キルシュトルテは、ワザとらしく集中的に急所を刺激した。  
 もちろん、エルは局部から全身へと波及する快楽の波に翻弄されてしまう。  
 「ふぁ……やぁっ、やめてえ……ひぃぃん、か、感じ過ぎるぅ! だ、ダメぇ………」  
 途切れ途切れの喘ぎを漏らすエルだが、陰茎を不自然に折り曲げられているせいか、あるいは魔法のマエパリの効果なのか、射精するには至らず、際限なく快感が体内に蓄積される。  
 「なんと、札がすっかりベトベトになってしまったぞ。男も感じると濡れるのじゃな。またひとつ賢くなったぞよ」  
 王女の感心したような言葉に、奥歯を噛みしめて懸命に堪え、はしたない痴態を見せまいとしたエルだったが、すぐに白旗を上げる。  
 
 「ああっ………き、キルシュトルテさん……ゆ、許して……そんなに……ひんッ! お、同じトコばっかり、し、刺激されちゃったら……ぼ、ボク、お、おかしくなっちゃうよぅ」  
 「いやいや、我慢は身体に毒じゃぞ。ここは我慢なぞせず、素直にわらわの手にすべてを委ねるがよい」  
 「きゃうんんんっ!!! ああぁぁぁ……そ、そんなにされたら……ぼ、ボク……もぅ、ほ、ホント……ダメになっちゃうよぉ!」  
 大好きな女性に、恥ずかしい格好のままで、まるで本物の女の子みたいに感じさせられる。  
 その倒錯した快感に身悶えしつつ、それでもかろうじて正気を保っていたエルファリアだが、続くキルシュトルテの行動で、その微かな理性さえはじけ飛ぶことになる。  
 「そ、そこは、お、おしりぃっ!」  
 思わぬところへ感じた違和感に、正真正銘の悲鳴をあげる。  
 「そ、そんなトコロ……だめェ!!」  
 「いやいや、そう頭から決めつけるモノでもないぞえ。女子の中にも、ここを刺激されて悦ぶ者が決して少なくはないのじゃ。ふむ……男の場合はどうなのかのぅ?」  
 「そ、そんなに……はうゥンンンッ!」  
 キルシュトルテの人差指が、エルのひくつくアヌスへと忍び込む。王女の細い指は、驚くほど簡単に菊門に入り、エルの身体は反射的にその指を締めつけてしまう。  
 「おお、なかなか具合は好さそうじゃな。安心せい。わらわがタップリと時間をかけて、愛でてやろう」  
 そのまま無造作に人差指を根元まで差し入れるキルシュトルテ。  
 その時エルが感じたのは、ただひたすらに違和感だった。  
 正直決して痛くはない。しかし、気持ちいいというわけでもない。  
 それでも、腹の奥に大きな石でも埋め込まれたような圧迫感があり、息苦しいような気分にさせられる。  
 しかし。  
 ──ズルッ  
 「はうンッッ……」」  
 アヌスに差し込まれた指が、ゆっくりと抜かれるのに合わせて、思わず声をあげてしまう。  
 「ほほぅ、感じておるの」  
 「…………」  
 その感覚を否定するには、エルはあまりに正直で、また純真過ぎた。  
 (こ、これ……く、苦しいのに……そのはずなのに……なんか……なんだか……お  
腹が熱いっ!)  
 体内に生まれた熱は、王女の指が往復する度にだんだんと存在感を増してていく。  
 その「熱」の名前を、エルは知っていた──それは、まぎれもなく「快感」だった。  
 
 (嘘……お、お尻なんかで、感じるなんて……あぁ……でも、でも……)  
 「気持ち……いぃ……」  
 思わず心の中の呟きが唇からこぼれる。  
 ハッと気がついた時には、キルシュトルテがニヤニヤしながらエルを見つめていた。  
 「ふむ。そうかそうか。ようやく素直になったようじゃな。では、さらにピッチを上げるとするか」  
 「だ、だめぇ! こ、これ以上したら、ボクの尻、壊れちゃうよぉ……ひぃああああ!」  
 悲鳴をあげるエルとは裏腹に、そのアヌスは、あっけなく中指までも飲み込む。むしろ、その悲鳴には、心なしか嬉しげな色がにじんでいるようだ。  
 二本の指が体内で蠢くたびに、エルの下半身に鈍い疼痛走るが、それさえも今の「彼女」にとっては悦楽へと繋がる刺激なのだろう。  
 会いも変わらず、股間の一部からはヌルヌルと快楽の証の液体が、これまで以上に大量に染み出してきているのだから。  
 「わらわの指に吸いつくようじゃ。お主のココは、なかなかの名器じゃな」  
 「そ、そんなトコ褒められても……」  
 「嬉しくない、か? じゃが……お主の肉体は悦んでおるようじゃぞ?」  
 「くぅはあっ……」  
 指の出入りがいっそう激しくなるが、すでにその刺激は、エルの身体に苦痛ではなく快楽として認識されるようになっていた。  
 腸内の粘膜がエグられるたびに身体の奥で燃え上がる炎に、理性が徐々に焼き尽くされていく。  
 「こんなの……こんなのヘンだよぉ……ボク、男の子なのに…お尻で気持ちよくなるなんて……」  
 「──なるほど。確かに、男が入れられて喘ぐのは奇妙じゃな」  
 うんうん、と頷くキルシュトルテ。どうやら、一応正常な男女の性交に関する知識も持ってはいるらしい。  
 「じゃが、お主は、わらわに尻穴を弄られて快楽に悶えておる。つまり……」  
 「つ、つまり……」  
 その先を聞いてはイケナイ……そう囁く心の声を無視して、エルはオウム返しに問うてしまう。  
 
 「つまり、お主はわらわの愛人(おんな)じゃろと言うことよ!」  
 ニンマリ笑った王女は指の動きを一気に速めた。  
 「ぼ、ボクがおんな……女の子……」  
 一気に高まる快感とともに、エルの脳に刷り込みのように王女の言葉が染み込んでいく。  
 「そうじゃ。可愛い可愛い女の子じゃ。付けくわえるなら、わらわのモノじゃ。誰にも渡さぬぞ」  
 「ぼ、ボクは……あたしは……ひぃああああああッ!」  
 ──ヌチュ……ヌプッ……クチュッ……  
 それ以上考えさせない、とばかりに指のピストン運動が激しさを増す。  
 「あぁぁ……ダメ、だめですぅ……そ、そんな強く、こす、ったらぁ……そんなの……きゃはああああああン!!」  
 とどめとばかりに、前立腺を突かれると同時に、アヌスがひと際キツく収縮し、ついにエルファリアは射精することを許されないまま、快楽の高みへと至るのだった。  
 

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