黒と白で構成された修道服(実は、特注のホーリークロス)姿のエルフの少女が、どことなく高貴な雰囲気のディアボロスの娘に魔法をかける。  
 「リフレッシュ! ……ハイ、これで終わりです。如何ですか、キルシュトルテさん?」  
 「おぉ、さすがはエルファリア、回復呪文はお手の物じゃな。うむ、褒めて遣わすぞ」  
 滅多に他人を認めることなどないキルシュトルテが素直にそう称賛するのだから、エルフ娘のシスターとしての技量は確かなのだろう。  
 「どういたしまして、これくらいお安い御用です」  
 パーティーリーダーであり想い人でもある王女の言葉に、エルファリアと呼ばれた少女はニッコリ微笑んだ。  
 「確かに、豊富な回復呪文や魔法壁の能力を持つシスターが仲間にいると、冒険時の安定感が段違いですね」  
 「うんうん、ホント、エルちゃんが仲間になってくれて助かったよー」  
 クラティウスやシュトレンと言った、古くからのキルシュトルテの従者ふたりも殆ど手放しで褒める。  
 「アハハハ……そんなに褒められると照れくさいですよ〜」  
 明るい笑顔で、仲間からの称賛を受け止めるエルファリア。  
 「さて、もう少しで学園じゃ。まだ日は高いが、わらわは早ぅ休みたい。急ぐぞ!」  
 キルシュトルテの言葉に他の3人も異論はなく、一行は円陣(キャンプ)を解いて、再び冒険行へと戻る。  
 
 だが……最後尾を歩くエルファリアの顔は、何故か先ほどまでと異なり、微妙に浮かない顔だった。  
 (回復役として役に立ち、頼りにしてもらえるのはうれしいけど……)  
 チラと自分の装備に目をやる。  
 黒地のワンピースに白襟がついた修道衣。本来ふくらはぎか足首近くまであるはずの裾が膝丈に改造されているのは、冒険時の動きやすさを考慮した結果か。  
 頭部には、本来のベールの代わりに、白と金糸で聖印が縫いとられた黒の聖帽をかぶっており、エルフらしく整った彼女の繊細な美貌と見事な亜麻色の髪を過不足なく引き立てている。  
 腕部に装着した煌びやかな籠手と足元のパンプスは、やや聖職者らしくないとも言えるが、いずれも王女からの贈り物であり、実用品としても優れているため、エルファリアとしても外す気はない。  
 
 まぁ、そういう意味では、修道衣や聖帽も同様にキルシュトルテがくれたものであり、実用面でも心情面でも簡単に変えるわけにはいかないのだが。  
 唯一修道衣の胸元で揺れるハート型の護符だけが彼女本来の持ち物だが、こちらも精神力を回復してくれる効果があるため回復魔法の使い手としては手放せない。  
 いずれにしても、絵に描いたような「冒険に赴く修道女(シスター)」姿だ。あえて言うなら、頭に「美しい」とか「魅力的な」といった形容を付け加えてもよい。  
 エルフの種族特性故か、胸や腰のボリュームには多少欠けるきらいはあるが、同族はもとよりヒューマンやクラッズなど他の種族も含め男性を100人連れて来たら、その7割方は彼女を「美人」ないし「美少女」と評価するだろう。  
 ──もっとも、そう言われてもエルファリアは微塵も嬉しくなかったろうが。  
 (ハァ……まさか狩人からシスターに転科させられるとはね)  
 無論、エルファリアとて「冒険にはパーティバランスが重要」と言うことは心得ている。  
 そもそも、キルシュトルテたちに3人に後から合流したのは自分なのだし、種族的な適正から言っても、エルフの自分が術師系の後衛に転科するのが妥当なコトも十分理解してはいた。  
 
 しかし……。  
 (どうして、よりにもよって「シスター」なんだよ〜!?  
 ボクは……ボクは、男なのにィーーーー!!!)  
 
 エルファリア・ノーザンライト  
 年齢・17歳  
 種族・エルフ  
 メイン学科・シスター/サブ学科・狩人  
 性別…………♂(!!)  
 
 コレは、決して恋してはイケナイ姫君に恋したが故に、その後、苦難の道を歩むこととなった、ひとりの男の娘の物語である。  
 ……なんちて。  
 
-つづく?-  
 

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