「その……本当に大丈夫?痛いと思うけど…」  
不安げに尋ねるフェルパーに、ドワーフは笑いかけた。  
「だーいじょぶだって!私達ドワーフは丈夫だし、これぐらいじゃ壊れたりしないから、わふっと突いてきて!」  
「わかった……じゃ、いくよ?」  
「うん、来て。遠慮しないで、思いっきり、ね?」  
「ああ。それじゃあ……ふっ!」  
思い切り突かれ、さすがにドワーフの顔が苦痛に歪む。  
「あうっ…!くっ、痛たたた…!」  
「ご、ごめん!大丈夫か!?」  
「へ、平気平気……でも、こんなの初めてだから……ちょっとびっくりしたかな…」  
弱々しくも笑顔を見せるドワーフに、フェルパーは心配そうな視線を向ける。  
「やっぱり、いきなり思いっきりはきつかったんじゃ…」  
「いいの。私がしてほしかったんだから」  
そして、二人の様子を大人しく見ていたノームが口を開いた。  
「それでどう、ドワーフ。壊れてない」  
「あ、大丈夫だよー。さっすが、ノームが作っただけあるね」  
そう言いながら、ドワーフは制服の中に入れてあったバックラーを取り出した。  
「いや〜、びっくりだねー。これ入れてるのに、直接殴られたみたいな衝撃が来るんだもん」  
「まあ、格闘家が本職だったしなあ……俺としては、今の突きに耐えてるのがすごいと思う」  
「あたしとしても、耐久実験になるからちょうどよかった。それにしても、さっきの会話。会話だけ聞くと変な勘違いを生みそうね」  
「会話だけ…?」  
ノームの言葉に、ドワーフはちょっと上を向いて考える仕草をした。そして、その顔がだんだんと締まりのない笑顔に変わる。  
「……えへへ〜…」  
「……ドワーフ、行くんじゃない」  
若干距離を取りつつ、フェルパーが声を掛ける。さすがにしばらく付き合っていると、彼女が時折妄想の世界に浸ることは理解していた。  
「へ!?だ、大丈夫ですよ!ちゃんといますよ!」  
慌てて言ってから、ドワーフはふと真面目な顔になった。  
「でも、すごいなあ。寸止めでも、直接当てても、一ミリもずれてないところに拳叩きこむんだもんなあ。それも、肝臓のあるところ  
ぴったりだもん。これだけ距離があって、種族も違って、そうでなくても同じところを突くなんて難しいのにさ。ほんと、フェルパーって  
すっごく興味深いサンプルだよ」  
「標本かい……けど、まあ、それは日々の訓練の賜物だよ。続けてれば、誰でも出来るさ」  
「続ければね。でも、それだけじゃないよ。あのしなやかな動き、体の柔らかさとばねを十分に活かした踏み込み……元々の種族的に  
優れた部分を、さらに強化した君の体って、医学的な面から見てもすっごく興味深いよ」  
医学的以外の面ではどう興味深いのか、と聞こうかと思ったが、答えを聞くのが恐ろしいので、フェルパーは黙っていた。  
「同じ部分を正確に突く能力、踏み込みとかの体捌き……ちょっとやそっとでお目にかかれるものじゃないもんねー。ねね、次は  
武器使って、同じとこやってみてよ。その棒、飾りじゃないんでしょ?」  
そう言って笑いかけるドワーフ。だが、不意にその目が焦点を失っていく。楽しげに揺れていた尻尾も、だんだんと動きが止まる。  
 
「……その、棒……飾りじゃ……ないんですよね…?」  
「……ドワーフ、帰っておいで」  
「え!?あ、うん!平気ですよ!?と、とにかくそれ使って……あ、でも今回は止めてね。さすがにそれで殴られたら、怪我じゃ  
済まないかもしれないから」  
「わかってるよ。それじゃ……いくぞ」  
太陽の杖を構え、フェルパーは一旦呼吸を整えると、踏み込みざまにドワーフの脇腹目掛けて杖を繰り出す。そして、まさに触れるか  
触れないかの距離で、杖はピタリと止まった。  
「……さっすが。さっきと全く同じ位置なんて……素手でも、棒使ってもまったく同じところ攻撃するなんて、普通じゃないよ」  
「まあ、普通にいられても、ちょっと自信失うよね」  
「そう。普通はできないよ、そんなこと。なのに、君はそれをやってのける……つまり、やってできないわけじゃない。人の可能性って、  
まだまだいっぱいあるんだって、フェルパー見てると素直に思えるよ」  
「ああ、ありがと」  
「それでドワーフは」  
ドワーフがずっとフェルパーと話しているのが気に入らないのか、ノームが少し不機嫌そうな声を出す。  
「どうしていきなり、フェルパーとこんなことする気になったの」  
「え?うーん、医者として興味深いっていうのもあるんだけどねー。あと、場合によっては私が前に出て戦おうかなとも思ってさ」  
「君が?」  
「うん。ほら、体力には自信あるしさ!で、私はドクターだから、生き物の体の構造には詳しいの。だから治療行為ができるんだけど、  
逆に言うと…」  
ドワーフはにっこりと笑い、常に携帯しているダガーを取り出して見せた。  
「壊し方にも、詳しいってことなんだよねー」  
「……そこは、錬金術も同じね」  
「そそ!フェルパーもそうじゃない?」  
「え、俺?何が?」  
「ほら、フェルパーも急所とかわかるでしょ?どこを突いたら死ぬとか、どこが痛いとか、逆にどこは大丈夫とか」  
「あ、ああ……まあね」  
「だからある意味では、フェルパーも医学の基礎はできてるんだよね。ただ、壊し方に特化してるだけ。私はそれを、経験的にも  
知識としても、ちゃんと持ってる。差なんてそんなもんだよ。生かし方を知ってれば、殺し方を知ることにも繋がる……ドクターって、  
結構危ないんだからね」  
よくよく考えてみれば、生死を司るほどの職である。その言葉に、フェルパーもノームも納得してしまった。  
「ただねー、壊し方は知ってても、戦い方を知らないんだよねー。だから、フェルパーの動きを見るついでに、戦い方の  
参考にしようと思ってさ」  
「殊勝な心がけね」  
「でも、うーん……フェルパーの動きって、種族の特徴を活かしすぎてるんだよねー。私じゃ、ちょっと真似できないや」  
「あー、なるほど……もっと根本的な部分なら、教えられるけど」  
「あ、大丈夫大丈夫。これでも得るものはあったからさ」  
事あるごとに妄想の世界へ旅立つことを除けば、ドワーフはかなり真面目な性格だった。ドクターとしても順調に腕をあげており、  
今はこうして戦闘訓練も熱心に行っている。  
 
「ほんと、精の出ることね」  
「精が……出る…………激しい運動で……精が……出る…」  
「……毛むくじゃら、今日は絶好調ね」  
「はい!?え、ええ!体調はわふっと好調ですよ!」  
そんな三人を、バハムーンは仲間外れにされた子供のような目で見つめている。  
「いいないいなぁ〜……私もフェルパーとかドワーフと仲良くしたいのになぁ…」  
「じゃあ無理矢理抱っこ迫るのやめてあげなよ。それが主な原因なんだから」  
「え〜?抱っこって、一番可愛がってあげてると思うんだけどなあ…」  
「………」  
ディアボロスは特に誰と話すわけでもなく、黙って他の仲間を見つめていたが、そこで不意に立ち上がった。しかし、動作の一つ一つが  
静かであり、しかも普段から喋らないため、バハムーンもクラッズも気づかない。  
「最近フェルパー、ノームとずっと一緒だしさ……私が近づくと、ノーム怒るし…」  
「なんか、ノームってドワーフとフェルパー以外が近づくと怒るよね」  
「そうなんだよぉー!だからさ、最近全然あいつらと喋れなくて…」  
その時、バハムーンはちょんちょんと肩を叩かれた。振り向いてみると、ディアボロスがタオルを差し出している。  
「ん?タオル?私、別に使わないけど…」  
「………」  
ディアボロスは首を振り、ドワーフ達の方を指差した。  
「?……あっ、もしかして渡して来いって!?」  
バハムーンの言葉に、ディアボロスはやはり、黙って頷いた。  
「そうだよな、汗かいてるもんな!よぉし、行ってくる!ありがとな!」  
タオルを受け取ると、バハムーンは嬉しそうに三人の元へ走って行った。それを見送ってから、クラッズはディアボロスに笑顔を向ける。  
「君って、優しいよね」  
「………」  
ディアボロスは笑顔だけでそれに答え、再び腰を下ろした。  
それは普通の、というより、ようやく普通の光景になった、ある休日の一場面だった。  
 
翌日、一行は相変わらず蹲踞御殿の探索に出ていた。今はもうだいぶ下層にまで行けるようになっており、この時も最下層付近まで  
足を踏み入れていた。現れるモンスターは強いが、今ではそれぞれ互角以上の戦いができるまでに腕を上げている。  
しかし、それはあくまでも正面から対峙した時の話である。  
「どうする?あと二回ぐらい戦ったら戻るか?」  
「そうだねー。ドワーフも、魔力少し減ってきてるでしょ?」  
「うん。調子良ければまだ数回いけるけど、それぐらいが無難かな」  
「よし、それじゃああと二回…」  
そこまで言った時、フェルパーの動きが止まった。  
何気なく踏み込んだ曲がり角。その陰から、一本の刀が伸び、フェルパーの脇腹に突き刺さっていた。  
「っ!?フェルパー!!」  
クラッズが気付き、刀に手を掛ける。直後、風を切る音が鳴り、クラッズまでもが倒れた。  
「な、なんだ!?」  
「こいつっ……フェルパーを放せっ」  
「あ!ノーム、ダメだよ!」  
ドワーフの忠告も聞かず、ノームは前列に躍り出ると、フェルパーに刀を突き立てるはぐれ忍者に打根を投げつけた。  
しかし、その攻撃は容易くかわされ、さらなる状況の悪化を招いた。  
「ぐっ」  
陰に隠れていたのは、はぐれ忍者だけではなかった。ドラゴンデスの一撃で、ノームは地面に激しく叩き付けられ、動かなくなった。  
同時に、突き刺さっていた刀の抜けたフェルパーは、杖を支えに辛うじて立っていたものの、やがて力尽きたように倒れた。  
「うわっ、ノーム!フェルパー!うぅ〜、こいつらぁ…!」  
「ちょっとまずい状況だね。トカゲ、前衛頼める?」  
「う……い、痛いのやだけど……しょうがないな、やる!」  
「頼むよ。ディアボロス、トカゲの援護お願い」  
言い終えると、ドワーフはヒーラスを詠唱した。しかし、あまりに傷が深すぎるため、先に倒れた三人にはほとんど効果が  
ないらしかった。  
「おい、ドワーフぅ!こいつら死んじゃうよぉ!早くしないとぉ…!」  
「わかってるっ!!なら、今やることは何!?この状況をどうにかしなきゃ、私達だって死ぬ!!そしたら、誰も助けられない!!」  
「く……そう、だよな…!このおおぉぉ!!お前等、覚悟しろおおぉぉ!!」  
自棄になったように叫び、バハムーンはウォーピックを振り回した。力任せで技術の欠片もない攻撃とはいえ、その速さは到底  
見切れるものではなかった。一体のはぐれ忍者が吹っ飛び、動かなくなるのを見届けると、バハムーンは次の獲物に目を移す。  
その隙に、ディアボロスは癒しの踊りを踊り、ドワーフの補助をする。自身への攻撃は、それこそ踊りのような動きでかわしてしまい、  
まだ一撃も受けてはいない。敵もそれがわかったのか、だんだんとバハムーンに攻撃が集中し始める。  
「トカゲ、大丈夫!?」  
「うぅ……痛いよぉ……でも、負けないんだからなぁ!!」  
再び、バハムーンはウォーピックを振り回す。しかし、その危険さは敵も身に沁みてわかったらしく、残ったはぐれ忍者は  
ドラゴンデスと隊列を入れ替えた。  
「あっ、このっ!!逃げるんじゃ……うああぁぁ!!!」  
ドラゴンデスが尻尾を振り回し、バハムーンの腹に直撃する。その一撃は異常なほどに重く、バハムーンの巨体が吹っ飛び、  
壁に叩きつけられた。  
「トカゲっ!!」  
 
「ぐ……あ…」  
一声呻くと、バハムーンはぐったりと倒れ込んだ。どうやら気絶してしまったらしい。  
「くっ……ディアボロス、クラッズとノームの回収、どれくらいかかりそう…!?」  
煙玉を後ろ手に持ちながら、ドワーフが尋ねる。しかし、ディアボロスは険しい表情で首を振った。  
「あの位置じゃきついか……でもやらなきゃ……ああっ!?」  
ドラゴンデスが足を踏み出す。その先には、倒れたままのクラッズの姿があった。  
「死なせない!!」  
一声叫ぶと、ドワーフは止める間もなくドラゴンデスに突進した。しかし、何の準備もなかったわけではない。  
相手が腕を振り上げた瞬間、ドワーフは煙玉を叩きつけようとした。  
瞬間、はぐれ忍者が懐に飛び込み、煙玉を蹴り飛ばしてしまった。  
「ちぃ!!でも、やらせない!!」  
流れるような動きで、はぐれ忍者が刀を振るう。しかし、ドワーフはあえて相手の懐に飛び込み、胸倉を掴むと片手で投げ飛ばした。  
その隙に、ドワーフはクラッズを抱きかかえ、その場を離れようとした。その瞬間、ドラゴンデスがドワーフ目掛けて腕を振り回す。  
「きゃあっ!?あう……ぅ…」  
派手に吹っ飛ばされ、ドワーフとクラッズが地面に横たわる。  
「っ!」  
そこに、ディアボロスが慌てて駆け寄る。ドワーフを抱き起こし、体を調べると、幸い大した怪我ではないものの、  
ドワーフは完全に気を失ってしまっていた。  
「………」  
優しくその体を横たえると、ディアボロスはゆらりと立ちあがった。そして、両腰に下げたタルワールをゆっくりと引き抜く。  
凄まじい殺気を放ち、相手を睨む。同時にモンスター達は、最後の獲物に向かって突進した。  
 
ドワーフは誰かに体を揺さぶられる感覚に、ゆっくりと目を開けた。  
「う……あれ、私…?」  
「……大丈夫か?」  
目の前に、不安そうな顔をしたディアボロスの顔がある。辺りの景色を見る限り、どうやらまだ迷宮の中のようだった。  
「あ……気ぃ失っちゃったんだ……ごめん、迷惑かけたでしょ?」  
「………」  
ディアボロスは黙って首を振る。ドワーフは感覚を探るように体を動かし、ゆっくりと立ち上がった。  
「場所は……ちょっと移動した?よかった、逃げられたんだね」  
「………」  
「あ、しかも全員いるし!ちょっと!ちょっとトカゲ!起きてよ!」  
角をゴンゴン叩くと、バハムーンは顔をしかめながら体を起こした。  
「うあぁ、角やめてよぉ……あれ、ドワーフ?え、あの、敵は?」  
「ディアボロスが、連れて逃げてくれたみたい。トカゲ、傷は平気でしょ?他の運ぶの、手伝って。あいつら、私の手に負える  
怪我じゃないからさ」  
「え、ちょっとお腹痛い……で、でも、他のみんなの方がやばいんだよな?じゃあ、我慢する」  
残った三人は、それぞれ一人ずつ倒れた仲間を抱きかかえた。仲間が揃ったのを確認すると、ドワーフは帰還札を使い、一行は地上へと  
戻って行った。  
それ故に、彼女達は気づくことがなかった。  
彼女達のいたところから、僅かに離れた場所。そこでは四肢を切り取られ、それでもなお死ぬことができず、苦悶の呻きをあげ続ける  
モンスター達が、血だまりの中に横たわっていた。  
 
ドワーフの応急処置と、治療所での手当ての甲斐あり、倒れた三人は無事、一命を取り留めた。その後、ドワーフが魔力の続く限り  
回復魔法をかけ続けたおかげで、翌日には全員が再び探索に出られるほどに回復していた。  
「迂闊だったよなあ……あんな不意打ち受けるなんて、本当に迂闊だった…」  
「僕も、抜刀前に斬られたのは悔しいな……もっと精進しないと」  
最初にやられた二人は、それが相当にショックだったらしく、しきりと反省の言葉を口にしている。  
「で、ノーム。私、あの時ダメって言ったよね?なのに勝手な行動して、挙句に一発でやられて、全滅したらどうするつもりだったの?」  
「……どうだかね」  
「感情に任せた行動っていうのは、極々一部の特殊な状況下ではすごい力発揮するけどね、不意打ち受けた時なんて最悪だよ?  
相手はそれも踏まえた上で待ち構えてるんだから。今度また同じことしたら、お尻百叩きにするからね」  
「……覚えとく」  
ノームの方は、ドワーフに叱られっぱなしである。彼女が残っていれば、また状況は違っていただけに、無理のない話である。  
「なあなあ。それで、今日はどうするんだ?また蹲踞御殿行くのかー?」  
「僕はそれでもいいと思うけど、どう?」  
「あ、俺ちょっと交易所見てきていい?何か面白い物でも入ってないか、見てみたい」  
「あたしも行く」  
「じゃ、ひとまず解散かな?またあとでね」  
フェルパーとノームが交易所に向かい、他の四人はその辺で適当に時間を潰すことにした。その時、一人のタカチホの生徒がクラッズに  
声を掛けた。  
「あれ、クラッズ!?久しぶりだね!どうしたの、君一人?」  
「え?ああ、フェアリー!久しぶり!いやね、ちょっと事情があってね…」  
話によると、二人は同期だということだった。クラッズは現状を説明し、簡単に仲間を紹介する。  
「へー、なるほど。噂には聞いてたけど、この人達が…」  
「……小さいなあ…」  
「トカゲ、やめてよ。これ以上余計な騒動起こさないで」  
「あ、そうそう。クラッズ、ここを拠点にしてるってことは、蹲踞御殿に?」  
「うん。昨日も行ってきたばっかりだよ」  
「お、奇遇だね。僕も行ってきたんだけど……君、どこまで行った?」  
急に声を潜め、喋り出すフェアリーに、クラッズも表情を改める。  
「え、何かあったの?」  
「うん、実はね……昨日、僕達かなり深いとこまで行ったんだ」  
「おお、腕上げたね」  
「……煙玉様々だよ」  
「……そ、そう」  
「まあとにかく。そしたらさ、気持ち悪いもの見ちゃって…」  
「ど、どんなの?」  
「それがさあ、すごいんだ。ドラゴンデスと、はぐれ忍者がさ、手足斬り落とされて、倒れてんの。しかも、生きてるんだこれが」  
「うわ……何それ」  
「どうも、わざととどめ刺さないでおいたみたいでさ、モノノケ相手とはいえ、さすがにかわいそうだったよあれは……だから、  
とどめはしっかり僕達が刺してきたけど」  
「ひどいことする人もいるんだね」  
「それが怖いんだよね。つまり、そんなことした奴がどこかにいるってことだろ?クラッズ、一応気を付けてな」  
 
その会話を聞きながら、ドワーフはバハムーンに耳打ちした。  
「ねえ……私達が襲われたのも、はぐれ忍者とドラゴンデスじゃなかった?」  
「だよなー。お前とかフェルパーとかにひどいことするから、バチが当たったんだろ」  
「……ま、そうかもね」  
「絶対そうだって……あっ、猫!」  
いつの間にか、ディアボロスの足元に一匹の子猫がまとわりついていた。それを目ざとく見つけ、バハムーンは文字通り跳び付いた。  
「ああっ、可愛いなあ〜!うりうり、ニャーニャー」  
子猫を抱き上げ、撫で回すバハムーン。それを、ドワーフは呆れたように見つめている。  
「まあ、かわいいけどさ。懐かれたら、色々大変だよ?」  
「ええー、懐いてほしいのに…」  
「その子ガリガリだし、変な病気持ってる可能性もあるんだからね。まあ、トカゲは引っ掻かれても怪我しなさそうだけどさ」  
ミイミイと小さな鳴き声をあげる子猫。バハムーンは蕩けるような笑顔でそれを見つめており、下手をすれば持ち帰ろうと  
言い出しかねない雰囲気である。  
「あと、餌もダメだからね。飼うわけじゃないんだから」  
「うぅ……痩せちゃってるのになあ…」  
「自然の摂理に手出ししないの。誰かが拾ってくれること祈れば?」  
「お前、ドクターなのに冷たいこと言うよなー」  
「そりゃ、助けたいから仕事にしたわけじゃないもん。むしろ、パティシエのトカゲの方が、出番なんじゃないの?」  
「……お菓子の材料、今はないもんなあ…」  
そんなことを話しているうちに、いつしかフェアリーはいなくなっており、交易所にいたフェルパーとノームが帰ってくるのが見えた。  
「おーい、クラッズ!いい収穫あったぞー!」  
「おかえりー。何があったの?」  
「これ!破れた転移札!安かったからさ、買ってきちゃったよ!これで、楽にタカチホ戻れるぜ!」  
「ああ!そういえば、タカチホ行く予定だったんだもんね!よし、じゃあみんな、半分忘れてたけど、タカチホ向かっていい?」  
無論、断るはずがない。目的地が決まったところで、バハムーンは子猫を下ろした。  
「連れて行きたいけど、そうもいかないんだよなー。強く生きろよー」  
フェルパーとノーム、そしてクラッズは既に歩き出しており、バハムーンとドワーフも後を追う。  
最後尾になったディアボロスは、再び足元にまとわりついてきた子猫に目を移した。  
「………」  
ちらりと仲間の方を見、ディアボロスは上体を屈め、子猫の頭を撫で始めた。  
ゆっくりと、右足が上がる。ディアボロスの手が視界を遮っているせいで、子猫はそれに気付きもしない。  
愛情の籠った手で子猫の頭を優しく撫でると、ディアボロスは大きく息を吸い込んだ。  
 
「……ああそうだ!ディアボロス、きの…!」  
バハムーンが振り返るのと、ディアボロスが足を振り下ろすのはほぼ同時だった。  
辺りに嫌な音が響き、ディアボロスが明らかに狼狽した顔を向ける。だが、バハムーンの方は狼狽どころではなく、  
完全に怯えきった目をしていた。  
「な、な……何、して……るんだよぉ…!?」  
「ん?トカゲ、どうし…」  
異変に気付き、仲間が次々に振り返る。そして全員が、ディアボロスの凶行を目にすることになった。  
「……え?な……何、してんの…!?」  
「ど……どう、して…!?」  
「………」  
ディアボロスは表情を曇らせ、俯いた。  
「……ド、ドワーフ!あの子、助けられないか!?何とかしてやれないか!?」  
「無理だと思うけどねぇ……一応見てみるよ」  
ドワーフは、さして大きな反応もせず、堂々とディアボロスに近づく。彼女が近づくと、ディアボロスは一歩後ろに下がった。  
しかし足元の亡骸を見るなり、ドワーフは首を振る。  
「……どうしようもないね。頭砕かれたんじゃ、蘇生のしようもないよ」  
「そ、そんなぁ……なんで……なんで、そんなひどいことするんだよぉ!?」  
泣きそうになりながら叫ぶバハムーン。しかしディアボロスの方も、沈痛な表情で俯くばかりだった。  
「……とにかく、目的地に向かおう。バハムーン、その話は悪いけど後にしてくれ。あと、ディアボロス…」  
一瞬言葉に詰まり、フェルパーは後ろを向いてから口を開いた。  
「……遅れるなよ」  
異様な雰囲気を湛えたまま、一行はのろのろと歩き出した。初めての砂漠にバハムーンがはしゃぐこともなく、クラッズやフェルパーが  
帰郷の言葉を発することもなく、ただ黙々と歩き、飢渇之土俵に着くと、何も言わないまま破れた転移札を使う。  
結局、彼等はタカチホ義塾に着くまで、誰一人として言葉を発することはなかった。  
 
その日はもう、探索に出ようという話は出なかった。元々、この周囲の迷宮はさほど強いモンスターがいないため、あまり鍛錬に  
ならないというのもあるが、仲間の突然の凶行に、どうしていいかわからなかったというのが大きい。  
だが当のディアボロスは、それに対して何か釈明をするでもなく、あてがわれた寮の一室に篭ったまま出てこない。昼食にも姿を  
見せず、それどころか夕食にも姿を見せなかった。  
当然、話題はその彼のことになる。三校の制服が入り混じった編成に好奇の目を注がれつつ、一行は小声で話をしている。  
「なあ、あれからディアボロス見た奴、いる?」  
「誰も見てないみたいだよ。僕も見てないし」  
「……あんな悪魔、放っておけば」  
冷たいノームの言葉に、バハムーンも賛成の意を示す。  
「そうだよー!あんなひどいことする奴ー!なんで、あんなかわいそうなことできるんだよ……ん、この饅頭っていうの、おいしい…」  
「まあ、気になるよねえ。あんなの、今までしたこともなかったのに…」  
「何か、嫌なことでもあったのかな?」  
「……豆、か?これに砂糖と……砂糖だけかな?柔らかいのは、煮て、潰して……なるほど……皮はパンみたいだけど、  
イースト使ってないなこれ…」  
バハムーンは途中から意識を別のところに奪われ、完全に自分の世界に入ってしまっている。  
「八つ当たりする奴でもないと思うんだけど……わかんないなあ…」  
「わかんないんならさ」  
気のない感じで、ドワーフが口を開く。  
「直接聞けばいいじゃん。簡単なことでしょ?」  
「直接、ねえ……そうは、言うけどさ…」  
「子猫を平気で殺すような変人とは、話したくもない?」  
遠慮のない物言いに、フェルパーは一瞬言葉に詰まった。  
「……胸を張っては、否定できないな…」  
「もー。そこは嘘でも否定しなきゃ、女の子にもてないよ?」  
「毛むくじゃらっ」  
「でもさ、本人に聞きもしないで、どうなんだろどうなんだろって話してたって、わかるわけないじゃん。憶測だけで  
解決する話でもないしさ」  
「でも、ドワーフ。あんなこと平気で出来る人と…」  
「気持ちはわかるよ。怖いんでしょ?理解できない存在が。だから、たとえ間違ってても、一応の類型化をしたくて、話し合ってる。  
そうすれば、未知への恐怖は消える。つまりそういうことでしょ?」  
「………」  
ドクターだからなのか、それとも元々の性格なのか、ドワーフは極めて冷静だった。その言葉に、誰も反論できない。  
「大体さ、あれ、平気で出来てたわけじゃないと思うよ」  
「え?」  
「あの時の顔、見た?なんかさ、見られちゃったー、みたいな顔してて、だからあれがひどいことだっていう自覚はあると思うんだよね。  
わかっててやるんだから、何かしら理由はあると思うんだ。そもそも、ディアボロスって優しい人でしょ?フェルパーだって、  
アイスクリームおごってもらったの覚えてるでしょ?」  
「まあ、確かに…」  
「てわけで、私は本人に直接聞いてくるよ。長話になるかもしれないし、結果は明日にでも教えてあげるから、安心して」  
そう言うと、ドワーフは席を立った。  
 
「……あれ?もう食べ終わったのか?」  
「トカゲがボーっとしてる間にねー。えっと……食器返すのってどこ?」  
「ああ、それはあっち。ほら、あの角の…」  
「ああ、あそこね。ありがと」  
ドワーフは食器を返してから、学生寮へと向かう。さすがに他校の生徒が珍しいらしく、周囲からは好奇の視線がいくつも飛んできたが、  
特に気にすることもなく歩き続ける。  
そして、他校の生徒用の部屋が並ぶ階に出ると、ディアボロスの部屋のドアをノックする。  
「ディアボロス、いるー?入っていい?」  
返事はない。ドワーフはもう一度、中に声を掛ける。  
「返事ないなら入るけど、いいよねー?」  
やはり、返事はない。ドアの取っ手に手を掛けると、鍵はかかっていないようだった。  
少しだけ開けて、中を覗いてみる。ディアボロスはベッドの上で、膝を抱えて座り込んでいた。  
「お邪魔しまーす」  
一声かけて、部屋の中に入る。ディアボロスは僅かに顔を上げ、ドワーフの顔を見つめている。  
「何やってんの、着替えもしないでさ。その格好、パンツ丸見えだよ」  
冗談めかして言うと、ディアボロスは軽く息をついた。  
「……見て楽しいもんでもないだろう」  
「まあねー。でも……パンツ越しに、見えるものが…」  
そう言いかけると、ディアボロスは片足を伸ばし、スカートと膝でその部分を隠した。  
「ちぇ……ま、いいや。隣座っていい?」  
「………」  
ディアボロスは答えず、黙って頷いた。だがそれ以前に、ドワーフはぴょんとベッドに飛び乗り、勝手に隣に座っていた。  
「でさ、私が何しに来たか、わかるよね?」  
「……パーティから、出て行けとでも?」  
「ちーがーう。その判断下すにしても、話聞いてからじゃないと下せないでしょ?」  
ドワーフの言葉に、ディアボロスは小さく笑った。だがそれは、自嘲のようなものも多分に含まれていた。  
「話して、わかるもんか」  
「かもねー。でもさ、話してくれなきゃ、もっとわかんない。それがわかるかどうかだってわかんないよ。どうしても話したくないなら  
別にいいけど、そうじゃないなら話してほしいな」  
「………」  
それでも答えずにいると、ドワーフはにんまりと笑った。  
「じゃ、こういうこと?『俺はバハムーンに撫でてもらえないのに、どうしてお前は撫でてもらえるんだ!?気に入らない!死ねー!』  
って、そう思って殺した?」  
「違うっ…!」  
呆れと怒りの入り混じった声で、ディアボロスが否定する。すると、ドワーフはまた笑う。  
「じゃ、教えて。それが理解できるかどうかはわかんないけど、とりあえず聞かなきゃそれもわかんないから」  
「……変わった人だ」  
「それはお互い様」  
ドワーフの言葉に、ほんの少しの笑顔を浮かべてから、ディアボロスはぽつぽつと語りだした。  
 
「あの猫……あんなガリガリに痩せ細って……つまり、餌ももらえていない、獲物も獲れてないってことだろ?それに、親もいない。  
あのままじゃ、あの子猫は散々苦しんで死ぬのは目に見えてる。餓死か、モンスターに食われるか、いずれにしろ楽には死ねない。  
だから、そんな苦しみを味わう前に、殺してやったんだ」  
「………」  
その言葉を、ドワーフは頭の中で整理していく。  
「誰かが拾ってくれるとか、そういうのは考えなかったの?」  
「その可能性より、そのまま死に至る可能性の方が高い」  
「頭を砕くなんて殺し方したのはどうして?」  
「俺の知る限り、あれが一番苦痛が少ない」  
「なるほどね。確かに脳を破壊するんだから、痛みを感じるかどうかも微妙なとこだね」  
つまるところ、彼はやはり善人なのだ。しかし、その基準が違う。普通の者が、あの子猫に対して『幸せになってほしい』と  
考えるところを、彼は『不幸になってほしくない』と考えるのだ。その結果、『頑張って生きて幸せになる』という答えではなく、  
『不幸が訪れる前に、今この場で楽にしてやる』という結論に至ったのだ。  
「あのさあ、もしかして、蹲踞御殿の四肢切られたモンスターとか言うの、あれも君の仕業?」  
ディアボロスは黙って頷いた。  
「あれはどうして?」  
「当たり前だろ…?お前……お前達を、あんな目に遭わせたあいつらを、楽に死なせてやるつもりはない」  
むしろその質問が意外だと言うように、ディアボロスは答えた。  
「お前、火刑を見たことは?」  
「ないよ、そんなの。後学のために、一度は見てみたいんだけど」  
「あれだって、本当に生きたまま焼かれる奴は少ない。普通は、執行人が隙を見て、火を付ける前に慈悲の一撃をくれてやるもんだ。  
重罪人であれば、それすらもらえず、わざと火勢を弱めて炙り殺されるのが普通だ……それが、普通だろ…」  
そこまで話して、ドワーフはようやく彼の考えを理解した。  
確かに善人ではある。しかし、基準があまりに違っているのだ。受けた苦痛は何倍にもして返して溜飲を下げ、苦痛だらけの生を  
続けるよりは、速やかな死という安らぎをもたらしてやる。それが彼の善行であり、いわゆる世の『善』とは、明らかに異なっている。  
「……私の、ドクターとしての目標はね」  
突然、ドワーフはそう切り出した。  
「百人見て、百人が絶対助からないって言う患者も助けること。だから、私は君の考えには賛成できない」  
「………」  
「でも、理解はできるよ」  
その言葉に、ディアボロスはハッとしたようにドワーフを見つめる。  
「医学にも、聖術にも、限界はある。そのどっちでも、もう絶対に助けられないってなった場合……最後にできることは、苦しみを  
引き延ばさないための、安楽死って手段がある。私は、その必要をなくすのが目標。だから賛成はできないんだけど、理解は十分に  
できるよ」  
「………」  
「まったくもう。最初っから言ってくれれば、こんな面倒臭くなかったのにさ……それにしても、君ちゃんと喋れるんだね。  
本当に喋れないんなら、カウンセリングでもしようかとか考えてたんだけど、必要ないかな。あはは」  
そう笑いかけると、ディアボロスも微笑を浮かべた。  
 
「……ねえねえ、せっかく珍しく喋ってるんだからさ、もっと色々聞かせてよ。たとえば……あっ、そうだ!今の仲間のこととかどう?  
フェルパーとかどう思ってる?」  
「フェルパー……いい男だな、あいつは」  
「いい男……ですか……や、やっぱり女の子として…」  
「あいつは飾らない。言葉も自分も。信頼のおける相手だ。寝起きだけは厄介だが」  
「なぁんだ……まあいいや。じゃあさ、そのフェルパーにべったりのノームは?」  
「……あまり、好きじゃない。言葉も性格も、冷たい奴だ」  
「君も、知らない人が見ればいい勝負だと思うけどね……トカゲとかは?」  
次々に振りかかる質問にも、ディアボロスは嫌な顔一つせずに答える。  
「……子供みたいな奴だな。独善的なところが、子供らしくもあり、バハムーンらしくもある。純真でいい奴なのは間違いない」  
「買い被りすぎじゃない?まあいいや、じゃあ同じく純真そうなクラッズは?」  
「クラッズ……あいつは、わからないな…」  
意外な言葉に、ドワーフは首を傾げた。  
「一見、純真そうだが……隠しきれない陰がちらつく。たぶん、人に言えない何かを抱えてるはずだ。恐らくは、フェルパーも」  
「……そ、そんな奴だったっけ?へえ、よく見てるなあ…」  
ちょっと息をついてから、ドワーフはにまーっと笑う。  
「じゃ、最後、私のことはどう思ってる?」  
「………」  
一瞬の間が空き、ディアボロスは口を開いた。  
「……可愛い奴だと思ってる」  
「可愛い?あ〜、トカゲと一緒か。ま、ねー。このわふっともふっと獣っぽいところが可愛いって、よく…」  
「いや……女の子として、可愛いと思ってる」  
一瞬、時が止まった。  
「……は、はい?」  
「……可愛い、女の子だと、思ってる。それに、ドクターとしての誇りを持ち、自分なりの矜持を持ってるところは、好感が持てる」  
「え、ええと……それは、あの、あれですか?いわゆる告白?なんですか?」  
再び一瞬の間が空き、ディアボロスが答える。  
「……そうとも言える」  
あっさり肯定され、ドワーフは凍った笑顔のままでディアボロスを見つめる。  
「へえ……女の子として、可愛い?」  
「ああ」  
「そっかそっか……そうかあ…」  
特に、彼を男と意識したことはなかった。無論、妄想の対象にしたことはよくあったが、彼を一人の男として見たことはない。  
しかし、こうして面と向かって、女として見ていると言われると、途端に彼を一人の男として意識し始める。  
その上で、改めて彼を見た場合、少なくともドワーフとしては十分に魅力的だった。顔立ちもよく、ダンサーならではの均整のとれた  
体を持ち、また女装しているというところも、ある種の倒錯的な魅力を感じる要因だった。  
 
そして、頭の中で現状把握と相手の吟味、さらに自身の感情などの整理がついた瞬間、ドワーフはディアボロスを押し倒していた。  
「っ…!?」  
「……女の子として、可愛いと思ってるよね!?」  
鼻息荒く、そう尋ねるドワーフ。戸惑いつつもディアボロスが頷くと、彼女はぺろりと舌舐めずりをした。  
「あのさ!最近探索ばっかだったでしょ!?溜まって、ませんか!?私は、溜まって、ます!」  
丁寧語になったことに不安を覚える間もなく、ドワーフはディアボロスの体に馬乗りになりつつ、制服を脱ぎ始めた。  
「お、おいっ!?」  
「いいでしょ!?男なら嫌じゃないでしょ!?大体、男の部屋に女の子入れた時点で、覚悟はできてますよね!?」  
「普通逆だ…!」  
「ちょっとぐらい期待しましたよね!?男なら!それに、君だって溜まってるでしょ!?それとも何気に抜いてましたか!?」  
「い、いや…」  
答えるまでもなく、ドワーフの尻尾に何かが当たる。それに気付くと、彼女の尻尾がビクッと震えた。  
「あっ……ほ、ほら、スカートの下で元気になってますよ?あ、なんかいいな、この光景……それに、ほんとに私のこと、  
女の子として見てるんだね……ちょっと嬉しいかも」  
わざとか無意識か、ドワーフはぱたぱたと尻尾を振り始めた。その付け根がモノの先端を撫で、ディアボロスは呻きをあげる。  
「……ね?いいよね?お互い気持ちよくなって、すっきりできるんだし。それに、私も……君のこと、嫌いじゃないよ」  
上着を脱ぎ捨て、ドワーフはディアボロスに顔を近づける。そして、固まっている彼の頬をペロッと舐めた。  
「ふふ、ちょっとしょっぱい。汗の味と、涙もちょっと?」  
「……泣いた覚えはない」  
「ほんとかなー?じゃ、他のとこと味、比べてみないとね」  
笑いながら言うと、鼻の頭をかぷっと噛み、すぐに顔を離すと、今度は耳朶に舌を這わせる。  
「う……く、くすぐったい…」  
「ん〜、男の子はここ、そんなによくないかな〜?でも、ここ舐めるのは好きなんだよね」  
言いながら、ドワーフはディアボロスの制服に手を掛け、留め具を外していく。  
胸元をはだけさせ、少し体をずらすと、そこに舌を這わせる。胸板を舐め、うなじをなぞるように舐め、一瞬口を離したかと思うと、  
不意打ちのように乳首を舐める。  
「くっ……ドワーフ…!」  
「舐められるの、嫌い?えへへ、私は舐めるの好き。すべすべの肌、舐め心地いいんだもん」  
言いながら、ドワーフは腰を動かし、自身の秘部をディアボロスのモノへ擦り付ける。お互いの下着越しとはいえ、その刺激は  
十分すぎるものであり、既に彼のモノは大きく屹立していた。  
「ふふふ〜、男の子の味。こうしてるだけでも、濡れてきちゃうよ……ね、ディアボロス。私にも、して?」  
ドワーフはディアボロスの腕を取ると、自分の胸に押し付けた。  
「……手の方が余っちゃう代物なのは、知ってるつもりだけど…」  
「………」  
ディアボロスはあえて何も答えず、胸をそっと撫でる。同時に、ドワーフの体がピクンと震えた。  
「んっ……あっ、ディアボロス……もうちょと、内側……きゃんっ!そ、そこぉ…!もっと触ってぇ…!」  
確かに、肉付きはいいが脂肪の少ない胸だった。それでも控えめな膨らみは存在しており、円を描くように揉みしだくと、ドワーフは  
甘い吐息を漏らす。  
 
「んあぅ……それ、いいよぉ……やっ……もっとしてぇ…」  
その言葉に応えるように、ディアボロスはさらに強く刺激する。ドワーフは軽く体を仰け反らせつつも、ディアボロスの下着を  
手探りで掴むと、一気に引き下ろした。  
「はう……ふぁう……気持ちいい…!」  
うっとりと呟き、ドワーフは突然ディアボロスの首を掻き抱くと、その口元をぺろっと舐めた。そして間髪入れず、彼の口を  
自身の唇で塞いだ。  
「んむ……ふ……ん…!」  
ディアボロスの口内で、ドワーフの舌はまるで生き物のように動く。舌同士を絡め合い、頬を舐め、歯茎を撫で、喉の奥まで舌が  
侵入する。えずく直前まで舌が挿入されると、ディアボロスは苦しげな表情を浮かべたが、ドワーフはそれを見て陶然とした顔をする。  
「んん……ぷはっ!えへへ、また君の味知っちゃったね」  
「………」  
「ね……そろそろ私、我慢できないよ。まずさ、私のスパッツ、脱がせてくれると嬉しいな」  
そう言い、ドワーフは甘えるように頬を擦り寄せる。拒否権はなさそうだと判断し、ディアボロスは片手で彼女を抱き、  
手探りでスパッツを掴むと、グッと引き下ろしてやる。ドワーフも尻尾と足を動かし、脱がされるのをしっかり手伝っている。  
「……下着はつけてないのか」  
「だって、パンツ穿いたらラインがくっきり出ちゃうんだもん。あ、もしかしてその方がいい?」  
「………」  
呆れた溜め息をつきつつ、尻尾の付け根に手を這わせる。ドワーフの体が、びっくりしたように震えた。  
「やんっ、いきなりそこ……あ、やめないで。いっぱい触って」  
「……けど、いいのか。今までに経験は?」  
「ん、男の人とするのは初めてだけど、心配しなくていいよ。自分でいっぱいしてるから、もう中イキもできるんですよ!?」  
「………」  
それが具体的にどれほどの経験を指すのかはわからなかったが、少なくとも彼女は相当に経験豊富なのだということは理解できた。  
「ね…?だから、楽しみなの。早く、このすっごく大きくて硬いおちんちん、私のおまんこに入れたいの」  
そんな言葉を、満面の笑みで吐く彼女に、ディアボロスは改めてドワーフの性格を再確認した。  
スカートを捲り、彼のモノを掴み出すと、ドワーフは膝立ちになって位置を調整する。自分で秘裂を開き、そこに先端をあてがうと、  
ディアボロスに笑いかける。  
「それじゃ、いくね。これ、入れちゃうねっ……んっ…!」  
くちゅ、と小さな音が響き、ディアボロスのモノは大した抵抗もなく彼女の中に入り込む。  
「うっ…!」  
「んああっ!すごっ……おっきくて、熱くて、動いてるよぉ…!」  
そのまま一気に腰を落とした。腰と腰がぶつかり、ぱふ、と小さな音が鳴る。  
彼女の中は熱く、ほとんど愛撫を受けていないにもかかわらず、とろとろとした粘液に包まれていた。初めての感覚に、ディアボロスは  
いきなり射精してしまわないように耐えるのが精一杯だった。  
「あっ……はぁ……はぁ……お、おっきいよ……おっきくて、硬くて…」  
苦しげな呼吸をするドワーフ。ディアボロスは少し心配になり、彼女の太股に手を置いた。  
だが、ドワーフは苦しげな笑みを浮かべ、こう続けた。  
「……気持ちいい…!」  
 
ゆっくりと、腰を浮かせる。それに従い、ぬちぬちと音を立ててディアボロスのモノが扱き上げられる。  
彼のモノが抜ける直前まで腰を上げ、一瞬の間を置いて、ドワーフは一気に腰を落とした。  
「ふああぁぁっ!!!」  
「うあぁっ…!」  
一際大きな嬌声。ドワーフはそれこそ犬のように舌を突きだし、その顔に恍惚の表情を浮かべていた。一方のディアボロスは、  
片方の手で硬くシーツを握りしめ、もう片方の手はドワーフの太股の毛を握り締めている。歯を食いしばり、必死にその快感に  
耐える顔は苦悶にも似ていて、もはやどちらが犯されているのかわからない。  
「ああ、あっ……い、いいよぅ!ディアボロスも、もっと突いてぇ!おまんこ壊れるぐらいにぃ!おちんちんいっぱい感じさせてぇ!」  
叫ぶなり、ドワーフは激しく腰を上下させ始めた。ベッドが激しく軋み、腰がぶつかりあう度に、溢れた愛液がぐちゅぐちゅと  
湿った音を響かせる。  
十分すぎるほど濡れているにもかかわらず、ドワーフの中はディアボロスのモノを、まるで吸いつくかのようにきつく締めつけてくる。  
その上で上下に扱かれ、耐える一方だったディアボロスも、ドワーフの言葉を受けて両手を彼女の尻を掴み、腰を強く突き上げた。  
「ふあっ…!?あっ、あっ、あっ!!す、すごいいぃぃ…!」  
突然の反撃に、ドワーフは全身を仰け反らせ、快感に震える。尻尾もピンと上に伸びて震え、口からは熱い吐息と嬌声が漏れる。  
「あうっ!あっ!ふっ!わうあぁ!やっ、すごっ……すごいよぉ!ディアボロス、もっとぉ!!」  
ディアボロスに対抗するように、ドワーフも腰を動かし、彼の動きに合わせる。ディアボロスが思わず動きを止めると、奥深くまで  
咥え込んだまま腰を前後に動かし、快感を貪る。  
「ひ、久しぶり、でっ……も、もうっ!い、イっちゃいそっ…!」  
その言葉を証明するように、徐々に動きが荒く性急になり始める。だがそこで、ディアボロスが声を漏らす。  
「ぐうぅ……で、出そうだ…!」  
「えっ!?やっ、うそっ!?ま、まだダメぇ!!!わっ、私もイキそうだからあっ、まだ出しちゃダメぇ!!」  
叫ぶなり、ドワーフはディアボロスのモノの付け根を、親指と人差し指で強く摘んだ。  
「痛っででででっ!!!!」  
恐らく、今まで聞いた中で最も大きな悲鳴を上げるディアボロス。それに構わず、ドワーフはさらに強く腰を打ちつけ、  
さらに空いている手で自身の胸を滅茶苦茶に揉みしだく。  
「ああっ!!あっ!!やっ、あ!!き、きた!!きたぁ!!ああぁぁイキそう、イク、イっちゃうよぉ!!!もっと突いて!!  
滅茶苦茶にしてええぇぇ!!あああ、もうダメ!!出して!!出してええぇぇ!!!」  
獣のような叫びをあげると、ドワーフは摘んでいたモノを放した。途端に、せき止められていた精液が噴出し、ドワーフの膣内に  
注ぎ込まれていく。  
「うあああぁぁぁ!!!お腹がじわってぇ!!やあぁぁもうダメぇ!!私もぉぉ……う、うわぁうううぅぅ!!!」  
悲鳴とも嬌声ともつかない叫びが上がり、ドワーフの体が弓なりに反り、ガクガクと震える。同時に膣内も激しく収縮し、  
注ぎ込まれる精液を残らず吸い上げようとするかのように蠢動する。  
二度、三度とドワーフの中で精液を吐きだしていたモノが、少しずつ動きを弱め、やがて動きを止める。それでもしばらくの間、  
二人は余韻を楽しんでいた。ディアボロスのモノは未だ硬く、ドワーフの中にはっきりと存在を感じられる。一方のドワーフも、  
時折思い出したようにそれを締め付け、体内の異物の存在を楽しんでいた。  
 
「フーッ、フーッ、フー……フー……ふー……ふぅー…」  
長い時間をかけ、ドワーフの荒い呼吸が治まっていく。やがて完全にいつもの呼吸に戻ると、ぱたりとディアボロスの胸に体を預ける。  
「はぁ……はぁ……すごかったよぉ……きもち、よかった…」  
「………」  
「んっ…!」  
軽く腰を持ち上げ、彼のモノを引き抜く。途端に、出されたばかりの精液が溢れ出す。  
「あう、すごい量……こんなに出したんだ、えへへ」  
それをハンカチで拭うと、ついでにディアボロスのモノも軽く拭いてやり、そのハンカチをベッドの下に投げ捨てる。  
「あ、君も私も、ちょっとスカート汚れた?」  
「……俺は大丈夫だ」  
「そう?私も、気になるほどじゃないか……ね、それよりさ」  
ディアボロスを見上げ、ドワーフはにんまりと笑った。  
「またさ、私とセックスしてくれる?」  
「今は無理だ」  
「あうー、残念。でも別に今じゃないって。また溜まった時にでもさ、どう、です、か?」  
「それなら」  
「えへへ、やったぁ!君の、大きいし硬いしいっぱい出るし、気に入っちゃった!」  
途端に、ドワーフの尻尾が元気よくパタパタと動きだす。しかしふと、ドワーフは表情を改めた。  
「ねえ。明日、ちゃんとみんなに、子猫のこと説明してよ。じゃないと、変にぎくしゃくしちゃうから」  
ディアボロスは答えなかったものの、黙って頷いた。  
「約束だよ?それじゃ、おやすみ!また明日!」  
唇に、ちゅっと軽いキスをする。そしてドワーフは、当たり前のように目を瞑った。  
胸の上のドワーフを見つめ、ディアボロスは呆れた溜め息をついた。だが振り落としたりはせず、代わりに頭と背中に腕を回し、  
ディアボロスもそっと目を閉じる。  
恋人とは違う。しかし、体だけの関係でもない。そんな微妙な関係の二人の寝顔は、しかしとても幸せそうだった。  
 
翌朝、ディアボロスは少し気が重かったものの、ドワーフに腕を引かれて仲間の待つ部屋までやってきた。  
だが、いざ話すとなると、どこから話せばいいかわからない。しばらく無言でいると、ドワーフが口を開いた。  
「……何も言わないなら、私が代わりに言うねー。あのね、昨日聞いてみたら、バハムーンに抱っこされて撫でてもらってるのに  
嫉妬したから、ムカついて殺したんだって」  
「嘘を言うな。俺はそんなことを言った覚えはない」  
すると、ドワーフはディアボロスに笑顔を向ける。  
「そうだっけー?じゃ、もう一回お願いね」  
ディアボロスは溜め息をつき、昨夜ドワーフに話した内容を一言一句間違えずに再現してみせる。  
その言葉に対し、仲間は多少の戸惑いを見せていた。  
「けど、だからって殺すことないじゃないかぁ……子猫の方だって、死にたいなんて思ってなかっただろうし…」  
「いかにも、悪魔らしい善意ね。他から見れば、悪行と変わらない」  
「でもまあ、言いたいことはわからなくもないよ。それを実行しちゃうのはどうかと思うけどさ」  
ディアボロスはやはり理解を得られないかと、寂しげに溜め息をついた。そこで再び、ドワーフが口を開いた。  
「でね、どうせみんな理解できないでしょ?だから、ディアボロスはパーティ抜けたいらしいよ」  
「おい、だから嘘を言うな!そんなこと、俺は思ってな…!」  
言いかけて、ディアボロスは慌てて口をつぐんだ。恥ずかしげに頬を染め、俯く彼の姿は、残念なほどに可愛らしく映った。  
「ディアボロス、その仕草やめてくれ……誰も出て行けなんて言わないし、抜けて欲しいとも思ってないから」  
「……まあ、モノノケは良くて子猫はダメっていうのも、変な話か。あと、受けた痛みは返すっていう考え、僕は嫌いじゃないなあ。  
それに関しては、僕は全面的に支持するよ」  
「………」  
笑顔で言うクラッズを、フェルパーは黙って見つめていた。  
「でも、もう二度とあんなことするなよー?次やったら、私怒るからなー」  
「私は別にどうでもいいけど……フェルパーがいいなら」  
とりあえず、無事に話もまとまり、ドワーフはにんまりとした笑顔でディアボロスに話しかける。  
「ね?話してみないとわからないでしょ?」  
「……ああ」  
それに、ディアボロスも小さな笑顔で答える。そこでようやく、一行の間に和やかな空気が漂い始めた。  
「それじゃ、今日どうする?どこか迷宮でも行く?」  
「あ、私砂漠とか初めてだから、飢渇之土俵とか回ってみたいなー。それに、饅頭っての作れるようになりたいし!」  
「そう?じゃあそれでもいいよ。僕も、これ試しておきたいし」  
そう言って、クラッズは腰に差した脇差を叩く。  
「ん、長秀の脇差。いい物ね、小さいのにはもったいないぐらいに。どうしたの、それ」  
「ひどいなノームは……本当は班長が、僕がそれなりの腕になった時くれる予定だったんだけどさ、今回の混成班作るにあたって、  
より力を発揮できるようにって。鬼切とこれで、ようやく侍らしく大小差せるよ」  
 
その言葉に、ドワーフが早速反応した。  
「だ……大小……刺すんですか…」  
「う、うん。侍は普通、こうやって二本腰に……またどうしたの、ドワーフは…?」  
「二本刺し……大きいのは下の口で……小さいのは上の口…」  
妄想の世界に入り込んだドワーフを、ノームが何も言わずに引きずっていく。  
「まったく、あんたは……でも意外ね。毛むくじゃらなら、口じゃなくてお尻とって言うと思ったのに」  
「いやあり得ないから」  
突然、素に戻り、ドワーフが反駁した。  
「アナルなんて、雑菌だらけで不潔なんだからね?普通そんな所でしないよ」  
「でも、あんたは男同士もいけたと思ったけど」  
「それは、いいの……そこしかないし……しちゃいけないところでするって、なんか背徳的で……いいですよね…?」  
「……なら、なおさらあんたもいけるんじゃないの」  
「いや、だからあり得ないから。おまんこあるんだから、そっちでするのが普通でしょ」  
「……よくわからない、毛むくじゃらの考えは」  
朝っぱらから猥談に華を咲かせる女子二人を無視し、四人は今後の予定を話し合っている。  
「それじゃ、少しここに滞在して、それから三大陸一周でもしてみようか?」  
「いいなーそれ!ケーキ食べ比べとかもしてみたいぞー!」  
「はは、それもいいな。それまでに、防寒着でも用意しとくか」  
「フェルパー、寒がりだもんね。……ねえ、ディアボロス」  
「……?」  
不意に呼ばれ、ディアボロスは不思議そうにクラッズを見つめる。すると、クラッズはにっこり笑った。  
「これからも、今まで通りよろしく!」  
一瞬反応に迷ったものの、すぐにディアボロスも笑顔を返した。  
「ああ……よろしく」  
その言葉に、フェルパーとバハムーンも笑顔を浮かべる。そして、フェルパーは少し離れている女子二人に声を掛ける。  
「おーい、ノーム、ドワーフ。話聞こえてたかー?」  
「うん、聞こえてるよ。この毛玉はどうか知らないけど」  
「ふえ!?あ、あ、しばらく滞在でしょ!?大丈夫、聞こえてますよ!今日もわふっと頑張ろうね!」  
明らかに考え方の違う者もいる。同じような者もいる。やたらに気の合う者もいれば、気の合わない者もいる。  
それらをすべてひっくるめ、彼等はそれでもパーティを組んでいる。  
理解しがたいこともある。できないこともある。しかし、それを認めることはできる。  
たとえ理解しがたくとも、その考えを認めたこの日、彼等がまた一歩、パーティとして進んだ瞬間だった。  
 
 

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