最も歴史あると言われる冒険者養成学校である、ドラッケン学園。他の二校と比べ、生徒数もかなり多く、まさに名門と呼ばれるに  
ふさわしい規模の学園である。  
そんな事情もあってか、この学園には大浴場が設置されている。探索で付いた様々な汚れを洗い流し、疲れた体を温かい湯に沈めて  
仲間と語らう。そんな時間は、冒険者養成学校という特殊な状況下においては、数少ない安らぎの一つである。  
探索は長引くこともあり、また地下迷宮に行っていれば時間感覚が狂いやすい。そのために浴場は大抵の場合、誰かしらが  
使っているものだが、この時は珍しく、誰一人として浴場内にはいなかった。  
ただただ湯の流れる、静かな音が響く。それを切り裂くようにして、浴場の戸が勢い良く開かれる音と、嬉しげな大声が響く。  
「おおーっ、貸し切りぃー!やっほーぅ!!」  
ダダダッと駆け足の音が響き、続いて湯の中に遠慮なしに飛び込む、大きな水飛沫の音が響いた。  
「全くトカゲはー。体洗ってから入らない?普通」  
「子供よね。外見と違って」  
早々に湯船へ飛び込んだバハムーンと違い、ノームとドワーフは先に体を洗い始める。  
「それにしても、やっぱり生身って面倒。しっかり洗わないと、臭いついたり痒くなったり…」  
「それが普通なんだよー。それにノームはまだ楽な方じゃない」  
そう言うドワーフは全身に石鹸の泡を付けており、まるで羊のような姿になっている。  
「ほらほらノーム。羊、羊」  
「楽しそうね。大きいのと同レベルね」  
「……よし、流そ」  
頭からシャワーの湯を被ると、ドワーフの毛は体にべっとりと貼り付き、普段よりも遥かに細い体に見える。  
「毛むくじゃらは大変ね」  
「大変だよー。季節の変わり目なんか抜け毛増えるしさー。その点ノームは……毛、薄いですね?」  
「どこ見てんの変態。必要があれば生やせるけど、そんな必要なさそうだから生やしてないだけよ」  
その時ふと、バハムーンが異様に静かなのが気になり、二人は後ろを振り返った。すると、彼女は顔だけ湯から出してうつぶせになり、  
手足の力をだらりと抜いたまま、尻尾を器用にくねらせて静かに泳ぎ回っていた。  
「泳いでるのは予想の範囲だけど……あれは犬かき……じゃ、ないよね」  
「トカゲ泳ぎでしょ」  
「ドワーフも真似できるんじゃない」  
「いやー、私の尻尾じゃ、ああはいかないよー。あの、まさにトカゲって尻尾じゃないとね」  
その声が聞こえたらしく、バハムーンが唇を尖らせて振り向いた。  
 
「……む。ドワーフ、トカゲって言うなよー。ドラゴンだぞー」  
「似たようなものでしょ。火が吐けるトカゲって程度で」  
「全然違うってばー!トカゲは空飛ばないだろー!?」  
「じゃ、あんたはトカゲで確定だねー」  
「あう……で、でもっ、ランドドラゴンとかだっているんだからなー!」  
「こだわるのね」  
「そういえばトカゲ、ここ入ったのだって『ドラッケン』って響きがご先祖様っぽいから、とか言ってたっけね」  
「あ、そうだ。頭洗お」  
唐突に言って、バハムーンは湯船から上がるとドワーフの隣に座る。ドワーフはノームの方へ僅かにずれたが、ノームはそれ以上に  
座る位置をずらした。  
「……大きいのも毛は薄いのね。その辺は中身通り」  
「トカゲだから、毛が薄いんでしょ。爬虫類だもんね」  
「だからぁー、トカゲって言うなよー。私はトカゲでも、ご先祖様はドラゴンなんだからなー」  
「ま、私としては毛よりも〜…」  
そう言って、ドワーフはにんまりとした笑みを浮かべた。  
「……ノームもトカゲも、胸、結構でっかいですよねー。触り心地よさそー」  
途端に、二人はドワーフから距離を取った。  
「……触ったら殺す」  
「や、やめろよー!?変なことするなよー!?」  
「ああでも、ノームのは小ぶりと言えば小ぶりなんだね。でもカップはそこそこありそう……スリーサイズいくつ?」  
「いくらでも調整利く体のサイズなんか、聞いても無駄でしょ」  
「えー、興味あるのに…」  
「そう言うあんたはいくつよ」  
「秘密ー」  
「どうせ60・60・60でしょ」  
「ちょっ、違うよ失礼な!私だって凹凸ぐらいあるよ!」  
「ああ、60・70・60だったのね」  
「ひどーい!トカゲー、ノームがいじめるー!」  
言うなり、ドワーフはバハムーンに抱きついた。少し戸惑っていたものの、バハムーンは割と嬉しそうだったが、ドワーフの顔に  
だらしのない笑みが浮かぶ。  
「うーん、ウエスト結構あるけど、大柄だから普通……でもこの胸は……大柄でも十分な迫力、ですね…!」  
「わーっ!?ちょっと、やめてよぉ!ノームぅ、ドワーフが、ドワーフがーっ!」  
「……お幸せに」  
「やだぁーっ!ドワーフやめてよーっ!ノーム、お願いだからやめさせてーっ!お願いだからーっ!姉ちゃんーっ!」  
「あたしは別に、妹に思い入れなんかないから無駄。じゃ、お風呂入ってくる」  
「そんなぁーっ!」  
 
一方の男湯。一応壁があるとはいえ、女湯と同様に誰もいない静かな浴場では、隣の声は見事なまでに筒抜けだった。  
「……あいつら、何やってるんだ…」  
「……混ざりたいと思う僕は汚れてると思う?フェルパー」  
「じゃあ俺も真っ黒だ。男はみんな真っ黒だ」  
耳に水が入らないよう最善の注意を払いながら、フェルパーは丁寧に頭を洗っている。  
「それにしても、バハムーンも生えてないのか。意外だなー」  
「僕も最初意外だったけど、さっきのドワーフの言葉聞いて納得しちゃったよ」  
「女の子は無駄毛の処理が大変だー、みたいな話聞くけど、うちの奴等はそんなの縁ない奴ばっかりだな。ははは」  
「あははは。ドワーフなんか、そんなことしたら大変な事になりそうだしねー」  
そしてふと、二人はディアボロスに目をやる。  
「……?」  
腋に剃刀を当て、見つめる二人を不思議そうに見つめ返すディアボロス。  
「……意外なとこにいた…」  
「わざわざ剃ってるんだ……なんでまた?」  
「……踊ってる最中に見えて、きれいなものでもない」  
「なるほど、さすがだね」  
「君って結構、職人気質なところあるよなー」  
フェルパーは最後に頭から湯を被ると、湯船へと向かう。それに続いてクラッズも湯船に浸かり、のんびりとストレッチを始める。  
そこへ、ようやく作業を終えたディアボロスが来た。爪先からそっと湯に浸け、波紋が立たないようにゆっくりと足を差し込んでから、  
一度湯船の縁に腰かける。  
「………」  
そしてタオルを手に取ると、長い髪を根元から掻き上げる。それをタオルで結い上げ、髪が湯に浸からないようにすると、ようやく  
湯船の中へと身を沈めた。  
その動作を見るともなしに眺めていた二人は、揃って言葉を失っていた。  
「……色っぽく見えた僕はどうなんだろう、フェルパー…」  
「男でもしょうがないと思うぞ……見た目、ほとんど女だし、動作もそれっぽいし、細かい気遣いなんかうちの女子連中超えてる…」  
「……?」  
二人の視線に気づき、ディアボロスが首を傾げる。  
「ああいや、何でもないよ。ただ、本当に女っぽく見えるなってさ…」  
「………」  
特に気にしてはいないらしく、ディアボロスは気持ちよさそうに目を瞑った。  
「……男なのがもったいないくらいだよね」  
「だよな」  
「………」  
かくして、騒がしい女湯とは対照的に、男湯は平和な時間が流れていくのだった。  
 
その後、男性陣が風呂を上がると、女性陣もちょうど上がったところだったらしく、外からは楽しげな声が響いていた。  
「ふーっ!やっぱりお風呂上がりはこれだよなー!」  
「おいしいよねー。お風呂上がりの……白い……ミルク…」  
「うるさい毛むくじゃら。牛乳、あたしも買っておけばよかった」  
そんな会話に、脱衣所のクラッズも思わずうんうんと頷く。  
「お風呂上がりの牛乳って、何かおいしいよねー」  
「なー。俺も好きだあれ。ディアボロスはどう?」  
ディアボロスはちょうど髪を掻き上げ、ポニーテールに結い直そうとしているところだった。まだ湿った黒髪と晒されているうなじが、  
そこはかとなく色気を漂わせる。  
「………」  
返答はしなかったが、ディアボロスは少し考えた後、こくんと頷いた。  
「やっぱおいしいよなー。にしてもまあ……まさに烏の濡れ羽色って感じだな、その髪」  
「フェルパーもね。あ〜、僕もあとで牛乳買って来ようっと」  
「俺も付き合う。ディアボロスはどう?」  
「………」  
「よし、じゃあ三人で買いに行くかー」  
買いに行く方向で話がまとまった男性陣とは別に、外の声はまだ続いている。  
「購買まだやってるし、行ってくれば?」  
「うまいぞー、牛乳」  
「……いいや、面倒臭いから。部屋にあったと思うから、帰ってそれ飲む」  
そしてこの選択が、翌日に大変な騒ぎを起こすこととなった。  
一夜明けた朝。学食に来ないノームをフェルパーが見に行くと、彼女はベッドの上で腹を抱えて唸っていた。慌ててドワーフを  
呼んだところ、彼女もこれは手に負えないと判断し、結局保健室に運び込まれることとなった。  
「食中毒ね。何か、変な物でも食べた?」  
カーチャ先生の質問に、ノームは苦しげな息の中で何とか答えた。  
「……ぎゅ、牛乳……三ヶ月前、の…」  
「どうして、そんなの飲むの…」  
その言葉はカーチャ先生だけでなく、その場にいた全員の気持ちを代弁していた。  
「前は、平気だったから……うっ……ぐぅぅぅ…!」  
「……ノームさあ、今あんた生身でしょ?人形じゃないんだから、死ぬ気?」  
「だ、だって…」  
「ていうか、馬鹿でしょ?いや、仲間疑うなんて最低だよね。ノームは馬鹿。余計な手間増やして、このクソ馬鹿肉人形がー」  
久しぶりに、ドワーフは口の悪さを存分に発揮している。  
「ノーム、その体、脳味噌入ってるんだよね?使い方わかる?わかっててそれなら、一回死んでみる?馬鹿って死ななきゃ治らない  
らしいからさ」  
「少し言いすぎよ。仮にもあなた、ドクターでしょう?」  
教師の注意にも、ドワーフは全く怯まない。  
「言いたくもなりますよー!どこの世界に、三ヶ月前の腐った牛乳をわざわざ飲む奴がいるんですかー!」  
その世にも稀な人物を前に、仲間達は言葉を失う。  
 
「噂では聞いてたけど、この子は依代を生身にしたっていう子よね?常識が通用しなくても、仕方ないわよ」  
「うぅ……うっ、あぁぁ…!フェルパー、痛いっ……お腹、痛いっ……死んじゃうよぉ…!」  
「ああもう、お前は〜…!先生、何とかしてやれませんか?」  
「薬は出しておくけど、すぐに治るわけではないわ。後は安静にしてることね」  
「だから面倒なんだよねえ。私だって、一応解毒剤に毒消しにリポイズ試したけどさ、ほとんど効いてないんだもん。こういう、  
病気とかに対する治療魔法も充実するといいんだけどねー」  
結局、ノームには患者に鞭打つドワーフより、心の拠り所であるフェルパーが付いていることになり、迷宮探索は中止となった。  
元々予定していたならまだしも、突然の中止ではやることもない。フェルパーとクラッズは、もう学科の単位を完全に取得しているので、  
授業も特に出る必要はない。他の三人はそれぞれの授業を受け、それが終わると揃ってドワーフの部屋に集まることとなった。  
「で、ここを折り返して……はい、これが鶴」  
「えーっと、こうかな?できたできたー」  
「ん〜っとぉ……えいっ!やった、できたー!」  
「………」  
暇を持て余している四人は、タカチホの遊びである折り紙に熱中していた。最初はトランプでもやろうかという話になっていたのだが、  
クラッズが落ちていた紙きれで何となく鶴を折ると、他の三人は見たこともない遊びに夢中になってしまった。  
「ドワーフとディアボロス、うまいなあ。僕よりきれいにできてるんじゃない?」  
「トカゲは……クラッズのにそっくりだねー。羽の折り目が開いちゃってるところまで忠実にそっくりだね」  
「え?うん、兄ちゃんの真似したらこうなった」  
「……妹学科の技術、妙なところで活用してるね」  
「次、何折ろうか?って言っても、あと僕ができるの蛙とやっこさんくらいしかないけど」  
「クラッズ、折り紙士って奴の経験でもあるの?」  
「いやー、あそこまで出来てたら、鶴そんなに下手じゃないって。タカチホだと、結構折れる人多いよ」  
クラッズが次の紙を取り出すと、そこで不意にバハムーンが席を立つ。  
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくるなー」  
「あ、じゃあ私もー」  
それに続いて、ドワーフも席を立った。  
「二人とも?ディアボロスは……何か折る?」  
「……やっこさん」  
折り紙に興じる男二人を残し、バハムーンとドワーフは寮の女子トイレに向かう。その道すがら、ドワーフはバハムーンに身を寄せた。  
「……で、トカゲ。あれからクラッズとは……どう、なんですか?」  
「どうって?」  
「だからぁ、一発ヤッた後、またヤりました?」  
一瞬意味を考え、その意味を理解すると、バハムーンはたちまち顔を赤くする。  
 
「しっ、してないよっ!ていうか、いきなりなんでそんな話!?」  
「ええっ!?してないのっ!?もったいない!」  
「何が!?」  
「だって、いくらでもヤれる相手いるのに!」  
「で、でも、クラッズ何も言わないし…」  
「……あー、そっか。トカゲ痛がってたから、遠慮しちゃってるのかもね」  
「……え?なんで知って…?」  
「とにかく!」  
つい口を滑らせたドワーフは、聞き返そうとしたバハムーンを無理矢理遮る。  
「前も言ったけど、男なんて全員頭の中はヤることしか考えてないんですよ!?だからトカゲも、またそろそろ抜いてあげた方が  
いいですよ!」  
「そ、そんなこと大声で言うなぁ…!でも、その、クラッズそういうの断りそうだし…」  
「だいじょ〜ぶ!クラッズだって男なんだから、トカゲが『しよ?』って言えば一発ですよ!」  
「……でも、痛いから…」  
すると、ドワーフの目がきらりと妖しく光る。  
「トカゲ、あんたのそのおっぱいは何のために付いてるんですか?」  
「な、何って…」  
「そこにおちんちん挟んで擦ってあげたら、大抵の男は即抜けますよ!?」  
「えっ、ええええっ!?こ、こ、ここでそんなことするのぉ!?」  
何だかんだで、バハムーンもクラッズに何かしたいという気はあるらしく、ドワーフの言葉をいちいち素直に受け取っている。  
「それができるってすごいことなんですよ!?せっかくできるのにやらないなんて、もったいなさすぎですよ!」  
既に二人はトイレの前まで来ているのだが、話に夢中になっており、中に入ろうという気配はない。  
「それにそうすれば、トカゲは痛くないままで満足させられ…!」  
「相変わらず」  
突然、トイレの中から声が聞こえ、二人は驚いて振り返った。  
「セクハラ絶好調ね、わふちゃん」  
ハンカチで手を拭きながら出てきたのは、紛れもなくフリーランサーのリーダーであるクラッズだった。  
「うおおー!クーちゃん久しぶりぃー!」  
「おお、リーダー!?こんなところで会えるなんてなー!」  
バハムーンは早速彼女を抱き上げようとし、しかしクラッズは鮮やかにそれをかわすと、代わりに飛び付いてきたドワーフと  
しっかり抱き合った。  
「え、なんでなんで!?クーちゃんなんでこんなとこに!?」  
「なんでって、私も二人も、ここの生徒でしょうが。何かいい課題出てないかなってさ、寄ってみたわけ」  
ぎゅうっとお互いの体を抱きしめてから、ドワーフとクラッズは体を放した。そこをこれ幸いと、バハムーンがクラッズを抱き上げる。  
 
「……バハムーンも相変わらずだね。でも、何?バハムーン彼氏できたの?」  
「えっ!?あ、うん、その、彼氏って言うか、兄ちゃんって言うか…」  
「……妹学科?」  
「そ。でもパティシエとしても相変わらず頑張ってるよねー」  
「ふーん、わふちゃんも少し仲良くなった?」  
クラッズが言うと、ドワーフはうんざりしたような顔をする。  
「特に変わらずだよー。私のこと狙いにくくはなったけど、だからってわふっと仲良くなるってことはないからね?」  
「そう。残念なような、変わんなくてホッとしたような。何にしろ、元気そうで何より」  
「それは私の台詞だよー。クーちゃん、よく無事だったよねー、あの編成でさ」  
ドワーフの言葉に、クラッズは遠くを見つめるような目つきになった。  
「……あ〜、最初はほんと死ぬかと思ったけど、フェアリー頑張ってくれたし、プリシアナのセレスティアが堕天使になってくれたから、  
今は結構バランスも良くなったよ。ここまでが大変だったけど……そっちはどんな編成だったっけ?」  
「私とトカゲでドクターとパティシエ、プリシアナが盗賊の錬金術師とダンサー、タカチホが侍と炎術師の格闘家」  
「ああ、一通り網羅してる……私のとこなんか、私とタカチホのフェアリー以外、全員術師だったのに…」  
「リーダー、苦労してるなあ」  
クラッズはバハムーンの腕から脱出すると、大きく息をついた。  
「ああでも……ほんとはこういうのしない方がいいんだろうけど……頑張ったし少しぐらい…」  
ぶつぶつと呟いたかと思うと、クラッズはガバッとドワーフに抱きついた。  
「おっと!?」  
「わふちゃんー!ちょっと話聞いてよー!せっかく会えたんだから話聞いてってよー!」  
「はいはい、クーちゃんストレス溜まってるのね。ゆっくりじっくりわふっと聞いてあげるから、とりあえず落ち着こうね」  
ドワーフは子供をあやすように、クラッズの頭を優しく撫で、背中をぽんぽんと叩いてやる。バハムーンがそれを羨ましげに  
見ていると、不意にドワーフがそちらへ視線を送る。  
「トカゲー、見ての通りだからさ、私はクーちゃんのとこ行くから、みんなにはよろしく言っといてー」  
「え、行っちゃうのか?まあ……いいけど」  
「じゃ、よろしく。ほらほらクーちゃん、とりあえず部屋行こうねー」  
異様に親密な感じでクラッズを抱くドワーフに、今まで見たこともない、まるで子供のような表情のクラッズ。その二人が廊下を曲がって  
見えなくなるまで、バハムーンはぽかんと見送っていた。  
「……リーダー、あんなんだったっけなあ…?ま、いいか」  
とりあえずトイレで用を足すと、バハムーンはドワーフの部屋に戻る。  
「……で、なんかドワーフとリーダー、揃っていなくなっちゃった」  
「いなくなっちゃった、って……ここ、ドワーフの部屋なんだけどねぇ」  
一人で戻った経緯を説明すると、クラッズは呆れ顔だった。ディアボロスは折り紙で作った蛙をうまく跳ばせようと、足の折り方の  
調整に余念がない。  
「それにしても、君達の班長って、あの戦士の子だっけ?てことは、フェアリーさんとセレスティアもいるんだなあ」  
「なんで『さん』付け?」  
「先輩だから」  
「うそ?」  
「ほんと。班長とあの人だけ一年先輩なんだよ。久しぶりに会ってはみたいけど……今は違う班だし、会わないままでいいや」  
そう笑うと、クラッズはディアボロスの方へ視線を向ける。  
 
「ディアボロスはどう?仲間と会いたいとかない?」  
「………」  
ディアボロスは顔を上げ、少し考えてから、ふるふると首を振る。  
「そっか。まあ、ねえ。元の仲間と会ったら、色々思うところもあるだろうしねえ」  
「………」  
クラッズの言葉に、二人の表情も僅かに曇る。  
元々が、お互いの力量を見たいがために組まれたパーティである。言うなれば、現在のこのパーティは、『本来の』パーティではない。  
いつになるかは分からないものの、その時が来れば元のパーティに戻らなければならないのだ。  
「……ああ、ごめん。暗くしちゃったかな。ま、とにかく今はこの班が僕達の班だし、みんないい友達だよね」  
その言葉に、バハムーンが微妙な表情で話しかける。  
「……なあ、クラッズ」  
「ん?どうしたの?」  
「私ってさ……お前の、その、か、彼女、に、なるのかな?それとも、友達なのかな?」  
「なっ……えっと、君はいきなり、何を…?」  
「わ、私はなっ!お前のこと、兄ちゃんみたいな、彼氏みたいな、友達みたいな……そ、そういう感じなんだけど…」  
「えぇ〜っと……その、そうだなあ……あの、ね、君の、その『兄ちゃん』って呼び方とか、性格とか、ものすごく妹に似てるんだよ」  
困ったような、あるいは辛そうな表情で、クラッズは続ける。  
「だから、その〜……恋人ってなると、ちょっと違う感じだし、でも親友ってのも……うーん、違うんだよね…」  
「で、でもでも、私、兄ちゃ……じゃないじゃない!お前と、その、エッチなこと…」  
「やめてバハムーン!ディアボロスいるんだから!」  
「………」  
ディアボロスは特に気にする様子もなく、かといって出て行くでもなく、事の成り行きを黙って見守っている。  
「……また、したいとか、思わないのか…?」  
「ちょっ!?バハムーン続けるの!?」  
「わ、私は、その……お前が我慢してるんだったら、やだし、求めてくれたら……わ、悪くないって言うか……嬉しい、かな…」  
「あの、だからね?バハムーン、ちょっと落ち着いてね?君はさ、妹に似てるところが多くて……恋人としては、ものすごく  
見づらいんだよね」  
「で、でも、見づらいんだったら、頑張れば見られる…」  
「あー、いや、そういう意味じゃなくて…」  
「……じゃあ、私は魅力ない…?」  
「いや、なくないよ。って僕何言ってるんだろ……やっ、女の子としては可愛いと思うし、その……君がさっきから言ってることに  
関しては、そりゃ、まあ……僕も男だから…」  
クラッズの声はだんだんと小さくなり、最後の方は何を言っているのかよく聞き取れないほどだったが、それでもバハムーンには  
十分に伝わった。  
「じゃ、じゃあ!またしたいとか、思う!?」  
「だ、だからどうしてそれを今っ……君、ドワーフに悪い影響受けてない?」  
そんな二人を、ディアボロスは黙って見つめていたが、おもむろに紙を取ると何かを折り始めた。  
「とりあえず、ね?バハムーン、落ち着こうか。ここ二人だけじゃないんだし、時間も早いし、そういう話は後でゆっくり…」  
必死に説得を試みるクラッズに、ディアボロスが突然何かを投げた。驚きながらも何とか受け取ると、それはピンクの紙で作られた  
ハート形の折り紙だった。  
 
「……ちょっと、ディアボロスー!?」  
「………」  
クラッズの声を無視し、ディアボロスはウィンクを送ると、そのまま部屋を出て行ってしまった。後にはバハムーンとクラッズと、  
ハートの形をした折り紙が残される。  
「いらない気を使ってくれて…!僕にどうしろって…?」  
「に……いや、クラッズ」  
いつもとは違う声音に、クラッズはバハムーンの顔を見上げる。その目はどこか不機嫌そうな、それでいて寂しそうな色が浮かんでいる。  
「あの、な。私だって、お前に気ぃ使いたいんだぞ。なのに、そういうの全然させてくれないって、ちょっとやだ」  
「あ、う、いや、それは…」  
「お前だって、その、溜まって……るん、だよな?だから、それぐらいは、させてくれよ…」  
「………」  
言葉に詰まったクラッズを、正面から見つめる。そして、バハムーンはドワーフの言葉を思い出した。  
「なあ、クラッズ……しよ?」  
「っ…」  
その言葉は、バハムーンが思った以上の効果を発揮した。クラッズの目からは迷いが消えうせ、代わりに覚悟のようなものが見て取れる。  
「……ほんとに、いいんだね?」  
「う、うん。なんか、改めて言われると、ちょっと怖いけど……よ、よし!じゃあ早速…!」  
「って、ちょっと待った!バハムーン、ここドワーフの部屋!」  
勢い込んで服を脱ごうとしたバハムーンを、クラッズは慌てて止める。  
「あ、そっか。あ、じゃあこの前お前の部屋だったし、今日は私の部屋!ここうちの寮だしさ!」  
鍵はどうしようかと悩んだものの、結局二人は鍵を掛けずにドワーフの部屋を後にした。不用心ではあるが、盗まれてまずいような物は  
一つもなかったので、問題は特になさそうだった。  
バハムーンの部屋は意外と近く、いくつか部屋を跨いだところにあった。部屋に入って鍵を締め、再びバハムーンが服を脱ごうとすると、  
それをクラッズが止める。  
「ん?何だよー?」  
「あー、いや、そうすぐに脱いじゃうのも味気ないからさ」  
「でも、どうせ脱ぐだろ?」  
「その過程が楽しいの」  
言いながら、二人はベッドに向かう。バハムーンがその縁に腰かけると、クラッズは彼女の胸に手を這わせた。  
「あっ…!」  
「この前は、痛くしちゃったと思うからさ。今日は、気持ちよくさせてあげる」  
クラッズの小さな手が、バハムーンの大きな胸を包む。  
指に力が入り、胸を軽く潰す。途端に、バハムーンは熱い吐息を吐く。  
「はうっ…」  
相変わらず、少しくすぐったいような、微妙な感覚。だが、その感覚は少なくとも不快ではなく、むしろ背中がぞくぞくするような、  
不思議な快感を伴っている。  
大きく、ゆっくりと手が動き始める。その度に、胸から全身へとその感覚が広がり、バハムーンは嫌がるように身を捩る。  
服と下着の上から受ける刺激は、あまりにも物足りず、もどかしい。だがそのもどかしさが、また別の快感を生み出し、バハムーンを  
確実に昂らせていく。  
 
「く、うっ……はあっ…!」  
抑え気味の喘ぎ声を漏らし、体を支える腕はぶるぶると震える。そんな反応を見つつ、クラッズは彼女の服に手を掛けた。  
「うく……ん……あっ!?」  
突然刺激が強まり、バハムーンはビクッと体を震わせる。いつの間にか上着がはだけられ、クラッズの手は下着越しに胸を触っている。  
「あう……ク、クラッズ…!」  
「どう、バハムーン?大丈夫?」  
口を開けばすべてが喘ぎ声になってしまいそうで、バハムーンは黙ったまま頷いた。以前よりは緊張していないせいか、彼から受ける  
刺激は前よりも強く、また純粋な快感として感じられる。  
「んあっ……はっ、くぅ…!あんっ!」  
クラッズの手が動き、胸をぎゅうっと寄せられる。一呼吸置いて、その刺激に慣れたと思った瞬間、大きく円を描くように揉まれ、  
バハムーンは思わず声を上げてしまう。  
呼吸はどんどん熱を帯び、体もそれに比例して熱く赤く染まる。クラッズの手に、胸が柔らかく形を崩される度、バハムーンは  
吐息や抑えきれない声でそれに応える。  
クラッズとしても、その感触を存分に楽しんでいた。大きな胸は非常に揉み甲斐があり、適度な張りが手に心地良い。触れれば  
柔らかく、指がふんわりと沈みつつ、力を抜けばすぐにその形を戻す。  
「ふぅぅ……はくっ……く、う…!」  
そして、その快感を必死に耐えるバハムーンの姿は、とても可愛らしかった。時には妹のように見えたりする存在ではあるが、  
こうしているとやはり、一人の女の子としてしか見られなくなってくる。  
また少しずつ抑えが利かなくなってくるのを感じながら、クラッズはバハムーンの背中に手を回し、ブラジャーのホックに手を掛ける。  
簡単に外せると思っていたのだが、それを外すのは意外に手間取った。苦労してやっと外れたかと思うと、二つある留め具の片方だけ  
外れてしまい、もう片方が余計に外れにくくなる。それでも、クラッズは持ち前の手先の器用さと、男としての執念でそれを外した。  
「これ、いい?」  
「んっ……あ、うん…」  
クラッズに言われ、バハムーンはブラジャーから腕を抜き、それをベッドの下に落とす。するとすぐに、クラッズは手を伸ばした。  
「あっ!?はうぅ…!くっ、あっ!」  
直接肌と肌が触れ、快感も一気に跳ね上がる。その刺激に、バハムーンは大きな声を上げ、身悶える。  
汗ばんだ肌は彼女の肌にしっとりとした感触を与え、その手触りは思いのほか心地良い。その感触にクラッズが夢中になっていると、  
不意にバハムーンがその手を押さえた。  
「ま、待って…!あの、私ばっかり気持ちよくなってるから……私も、お前に、する」  
「え、いや、いいよ。僕はこれでも結構…」  
「い、いいからっ!私だって、その、お前に気持ちよくなって欲しいんだ!」  
言いながら、バハムーンはクラッズのズボンに手を掛け、一気に引き下ろした。  
「わっ!?ちょっと!?」  
「へへ〜、ドワーフにちょっといいこと聞いたからさ、お前のこと、すっごく気持ちよくしてやれると思うんだー」  
「やっぱり奴のせいかっ!」  
「いいだろ今はー。とにかく、今度は私の番!」  
バハムーンはクラッズを抱き上げると、ベッドの上に座らせた。そして有無を言わさず下着も剥ぎ取ると、のしかかるように体を寄せる。  
「ええっと、確か〜……こう、かな?」  
「うあっ!?そ、それは……くっ!」  
自分の胸を持ち上げ、クラッズのモノをその谷間に挟む。途端に、クラッズは呻き声を上げる。  
 
「あっ!い、痛いか!?」  
「う……い、いや、全然。というか、その、気持ちいいかな…」  
「そうか?ほんとか?よ、よーし!それじゃ……んっ、しょ!」  
思いっきり胸を寄せ、クラッズのモノをきつく挟みながら、大きく上下に擦り始める。  
皮膚こそやや硬質なものの、全体を柔らかく包みこまれ、その中で擦られる感覚に、クラッズはいきなり出してしまわないように  
耐えるのが精いっぱいだった。  
「くっ、あっ…!バハムーン…!」  
「あ、なんかお前の、もっとでっかくなってきた……気持ちよくなってくれるの、ちょっと嬉しいな、へへ」  
いたずらっぽい笑みを浮かべ、バハムーンは胸を両手でぎゅっと締めつける。そして、さらに激しく上下に扱き始めた。  
全体をやんわりと、しかし強い圧迫感があるほどにきつく包まれ、時折先端が谷間を抜け出る。再び全体を包まれると、外気に晒され  
冷えた部分に彼女の体温を感じ、それがまた適度な刺激となる。  
何より、懸命に頑張るバハムーンの姿と、自身のモノを乳房に包まれ扱かれるという光景が、何よりも強い刺激だった。少しでも長く  
楽しみたいという思いと、そう簡単に出したくないという一種の意地で耐えていたクラッズだったが、それももう限界だった。  
「ご、ごめんっ…!バハムーン、もう出る!」  
「え?わっ!?やっ!?」  
胸の中で、彼のモノがビクンと脈打ったかと思うと、顔に熱い液体がかけられる。バハムーンは咄嗟に胸をぎゅっと押し付け、  
彼のモノを完全に包んでしまった。  
「あっ……中で、出てる……熱い…」  
彼のモノが跳ねる度、胸の中に熱くどろりとしたものが吐き出される。それが動かなくなるのを待って、バハムーンは胸を  
押さえていた手を放してみた。  
「はぁ……はぁ……ご、ごめん。君の体汚しちゃって…」  
「ん、別にいいけど……白くてどろってしてる。なんか、生クリームとかヨーグルトみたいだなー」  
谷間に大量に付いた精液を、バハムーンは指で掬って舐めてみた。  
どことなく楽しげだった表情が、見る間に曇っていく。そして、今にも泣きそうな顔でクラッズを見つめる。  
「……おいしくない〜」  
「そ、そんなおいしい物なんか出さないよ、モノノケじゃあるまいし…」  
「あっ!そ、それより、どうだ?気持ちよかった……よな?」  
「………」  
答えるまでもなく、十分に気持ちよかった。しかし、彼のモノは未だ萎えず、彼自身も物足りなさを感じていた。  
何より、顔と胸に白濁を飛び散らせ、どこか気恥かしげに笑うバハムーンの姿は、ひどく扇情的だった。  
「……ごめんバハムーン、今のもすごく気持ちよかったんだけど、その、最後までしたい」  
「え?最後って……あ、あれか?あの、お前のそれ、また、私の中…」  
途端に、バハムーンの表情は怯えたものになっていく。  
「そんなに怖がらなくっても、初めてじゃなければそんなに痛くない……らしいよ」  
「うぅ……でも、兄ちゃ…」  
「………」  
「じゃないじゃない!!お前のそれ大きいし、あのあと何かはまってるみたいな変な感じ、ずっと残ってた…」  
「えーと、あの時は僕もがっついちゃったけど、今度こそ優しくするから」  
 
怯えてはいても、求められれば悪い気はしないし、また求めるのが他ならぬクラッズだということもある。  
「ほ……ほんとに、痛くしないでな〜…?」  
「うん、約束するよ」  
胸と顔を拭いてやると、バハムーンは少し嬉しそうに笑う。彼女自身の許可が下りたことで、クラッズはそれまでと反対にバハムーンを  
押し倒すと、スカートに手を掛けた。  
「こ、この前は……スカートは、脱がなかったな、そういえば…」  
「ああ、そうだったね……怖い?」  
「す、少し…」  
クラッズはバハムーンの頭を優しく撫で、スカートを脱がせる。その下に穿いていたものは、やはり男物のトランクスである。  
「君、これ好きだねぇ…」  
「す、涼しいし……穿きやすいし……あ、これ、嫌か…?」  
「いや、いいよ。なんか、最初の一回でもう慣れたし」  
それも同じように脱がせてしまうと、胸への愛撫でそうなっていたのか、そこはじっとりと濡れていた。  
前戯は不要かとも一瞬考えたが、それで痛がらせても悪いので、クラッズはそこに顔を近づけた。  
「え!?ちょ、ちょっと何…!?」  
「さっきのお返し」  
秘裂をそっと開かせ、そこに舌を這わせる。途端に、バハムーンの体が跳ね上がった。  
「きゃあっ!?やっ、ちょっ…!だ、ダメだよぉ!そんなとこ汚……はうっ、んあああっ!!」  
思わず、バハムーンはやめさせようと彼の頭を押すが、クラッズは意に介さない。無理矢理押し返そうにも、侍学科専攻のクラッズは  
意外なほど力が強く、それも叶わない。  
下から上へと舐め上げ、形をなぞるように舌を這わせる。さらに小さく尖り始めた突起を舌先でつつくと、バハムーンの体が仰け反る。  
「うあっ、あ、あっ!!やめっ……兄、ちゃ…!」  
最後の一言を全力で聞かなかったことにしつつ、クラッズは彼女の中に舌を差し込んだ。  
「やあぁ!!それっ……うああっ!」  
「痛っ!」  
反射的に、バハムーンはクラッズの髪を掴んでしまった。さすがにかなり痛く、クラッズは愛撫を中断する。  
しかし手を放させてみると、それほど悪くない状況だった。バハムーンは快感にすっかり脱力してしまい、ベッドに横たわって  
荒い息をついている。  
「痛かったら言ってね」  
耳元にそう囁くと、クラッズは有無を言わさずバハムーンにのしかかり、彼女の中へ一気に押し入る。  
「あぐうっ!?うあっ……い、痛…!」  
突然の痛みに、バハムーンは顔を歪めるが、以前ほどに強い痛みは訴えず、また挿入自体も楽なものだった。  
「ごめん、大丈夫?」  
「んっ……ちょ、ちょっと痛い…。けど、前よりは、全然…」  
それでも辛そうなバハムーンを、クラッズは優しく撫でてやる。  
「動いても、平気?」  
「……うん」  
一度出していることもあり、クラッズはがっつくこともなく、ゆっくりと腰を動かし始める。  
 
「くっ……んっ、うっ…!」  
クラッズが動くと、バハムーンは少し顔を歪めたが、以前ほどに痛がったりはしない。彼女の様子を慎重に見ながら、クラッズは少しずつ  
腰の動きを強めていく。  
部屋の中に、ベッドの軋む音と、二人の荒い息遣いが響く。クラッズが腰を打ちつける度、肌のぶつかり合う乾いた音が鳴り、そこに  
バハムーンの苦しげな声が混じる。  
「うっ……くぅ、うっ……あっ…!」  
やがて、その音に少しずつ変化が生まれ始める。突き上げる度に響く乾いた音に、僅かながらもくちゅくちゅと湿った音が混じり始める。  
そしてバハムーンの声にも、苦痛とはまた違った響きが混じり始めていた。  
「うあっ、あっ!ク、クラッズ…!な、何、これっ…!?」  
「ん、どうしたの?大丈夫?」  
少し動きを弱め、クラッズが尋ねると、バハムーンは困惑した表情を浮かべた。  
「お、お前が動くと……お腹の奥が、あっつくなって……なんか、こう、ビリビリって…」  
「……気持ちいいの?」  
「………」  
バハムーンは顔を真っ赤にして俯き、しばしの間をおいてこくんと頷いた。  
「そっか。じゃ、もっと気持ちよくしてあげる」  
「え、やっ……う、うあっ!?」  
言うなり、クラッズは腰の動きを強める。最初こそ、いきなり強くなった刺激に驚いていたものの、やがてバハムーンもそれに合わせ、  
腰を動かし始めた。  
「んっ!あっ!あっ!やっ……こ、腰動いちゃうよぉ…!」  
「はは、いいじゃない。痛いより、気持ちいい方がさ」  
気遣う必要がなくなったことに気付き、クラッズは欲望のままに動き始める。荒々しく腰を叩きつけ、両手で彼女の胸を包み、  
激しく捏ねるように揉みしだく。  
「ふあっ!あっ、んっ!ク、クラッズ……気持ちいいよぉ…!」  
最初こそ戸惑っていたものの、バハムーンもすぐに快感を受け入れ、彼と同じように快感を貪る。尻尾は彼の腰に巻き付き、  
ぐいぐいと引き寄せ、腰は彼のモノをより深く飲み込むように動かされる。それに加え、突き入れられるときは力を抜き、  
逆に引き抜かれるときには、それを引き止めるように思い切り強く締め付ける。元々が筋肉質な彼女は、その締め付ける力も  
非常に強く、それがクラッズに大きな快感を与える。  
「うあっ!?バハムーン、そんな締め付けたらっ…!くっ……も、もう出ちゃうよ…!」  
「んっ!あ、あの熱いの…?い、いいよっ!熱いの、出していいからっ……もっと、もっと動いてぇ!」  
やめるどころか、バハムーンはますます激しく腰を動かし、反対に動きの鈍くなったクラッズを追い込んでいく。  
「も、もう限界っ……バハムーン、バハムーンっ!」  
最後に彼女を呼ぶと、クラッズはバハムーンの中に勢いよく精を吐き出した。その量は二度目とは思えないほど多く、バハムーンは  
体内にその感覚をはっきりと感じた。  
 
「あ、熱っ……熱いの、いっぱい出てるぅ…!」  
半ば放心したように呟くバハムーン。彼女自身は、達したわけではなかったようだったが、性的に未熟な彼女にとっては、これほどの  
快感でも十分すぎるものだった。  
バハムーンの中に全て流し込むと、クラッズは一度腰を引き、モノを半ばほどまで抜いてから、精液を擦り込もうとするかのように、  
再び奥まで押し込む。  
「んっ…!?」  
少しの間余韻を楽しんでから、クラッズは今度こそ彼女の中から引き抜いた。同時に入りきらなかった精液が、どろりと溢れ出た。  
さすがに疲れたのか、クラッズはバハムーンの胸の谷間に顔を埋めるようにして突っ伏した。そんな彼の頭を、今度はバハムーンが  
撫でてやる。  
「だ、大丈夫?兄……クラッズ」  
「ん……今危なかったけど、平気。君こそ、大丈夫?」  
「え?う、うん……気持ち……よかったし…」  
つい乱れてしまった自分を思い出したのか、バハムーンは顔を真っ赤に染めて答えた。  
「よかった。また君に痛い思いさせちゃったら、嫌だからさ」  
「で、でも、だからってあんなとこ舐めるなんて……その……よかった、けど…」  
快感と羞恥心の間で揺れ動くバハムーンを微笑ましく思いつつ、クラッズは彼女の体を抱き締めた。  
「あっ…?」  
「君って、妹みたいなところあるし、そんな雰囲気もあるけどさ……やっぱり、妹とは違うんだよね」  
「え……じゃあ、あの…」  
「仮に妹だとしたって、君は君……一人の、人間だもんね。僕一人の都合で、君のやりたいこと全てを押さえつけるのは、  
間違ってるよね。もちろん、お互いの意思っていうのは必要だけどさ」  
クラッズは顔を上げ、谷間からバハムーンの顔を見上げる。  
「バハムーン。君のこと、僕は妹の代わりにしようとしてた。ごめん」  
「い、いいよいいよ!?私だって、兄ちゃんの妹の代わりになろうとしたし…!」  
「そういう無茶なとこ、似てるよほんと。だから、妹と重ねないっていうのは無理かもしれないけど……妹みたいな、恋人みたいな、  
大切な仲間……って関係じゃ、ダメかな?」  
その言葉に、バハムーンは意外にも嬉しげな笑みを浮かべた。  
「へへ、私が兄ちゃんに思ってるのとおんなじだなー。いいぞ、それでー!」  
ぎゅっと、胸の上のクラッズを抱き締める。クラッズもそれに応え、彼女を強く抱き締める。  
お互いの温もりを強く感じ、それが昂った心を静めていく。やがて二人は抱き合ったまま、いつしか幸せな眠りに落ちていた。  
 
「へー。トカゲ、頑張ったんだー」  
「う……ま、まあ…」  
「ふーん、サイズが合わないのによくやること。それにしてもドワーフ、今日は異様に毛艶いいみたいね」  
翌日、一行は病み上がりのノームに配慮し、迷宮の探索をそこそこにして再び大浴場へと来ていた。この日は数人の生徒がいたが、  
その生徒達は先に上がったため、実質はまたも貸し切り状態である。  
「ん、クーちゃんの毛づくろいだからねー」  
「クーちゃん…?ああ、あんた達のリーダーね」  
「そうそう。で、サイズの違いね……トカゲ、今回はそんなに痛くなかったんじゃないのー?」  
「ええ!?ど、どうしてわかるんだ!?」  
驚いて尋ねるバハムーンに、ドワーフはにんまりとした笑みを浮かべる。  
「だぁって、クラッズ相手だもんねー。経験少ないトカゲには優しい大きさ……ですよね?」  
「大きさが?」  
よく意味のわかっていないバハムーンに、ドワーフはただにんまりとした笑みを送る。  
「でもさー、慣れてくると緩くなりそうだし……知ってる?おまんこの締めつけ強くしたいんだったらねー、お尻の穴をぎゅーっと  
締めるといいんだよ」  
「なっ……い、いきなり何を!?」  
唐突な言葉に嫌な予感を覚え、ノームとバハムーンはドワーフから距離を取る。  
「あ、これほんとなんだからねー。こう、締めつける筋肉は括約筋っていうんだけど、ここの筋肉はおんなじようなところ使うんだよ?  
もちろん、おまんこの方だけ締められるんならそれでいいけど…」  
言いながら、ドワーフは視線をノームへと滑らせる。  
「……ねえ、ノーム?」  
視線と言葉を向けられ、ノームはビクリと体を震わせる。  
「な、何よ…!?」  
「ノームって、その体新しいし、力もそんなにないし……おまんこ締める感覚、教えてあげようかー?」  
「ふ、ふざけるな。大体あたしは…」  
「サイズに頼ってばっかりじゃ、進歩なんて望めないよー?それに、昨日のおしおきもあるしー。だからぁ……私がしっかり、  
教えてあげようかなーってさー」  
じりじりとにじり寄るドワーフに、ノームは顔を真っ青にしながら後ずさる。やがて、浮遊能力を使って逃げようとした瞬間、  
ドワーフは素早くその足を捕え、浴場の床に押し倒した。  
「ふ、ふざけるな!この雌犬!放せ!」  
「うふふー、いいじゃないー?フェルパーだって喜ぶと思うけどー?」  
「だ、だからってあんたに好き勝手させるつもりはっ……きゃあっ!?や、やだ!やめてよ!お、大きいの!お願い、助けてっ!」  
「え〜?私がおんなじ目にあってたとき、姉ちゃん助けてくれなかった」  
冷たく言い放つバハムーンに、ノームは珍しく怯えきった目を向ける。  
「こ、今度は助けるから!だからお願い!こいつ引き剥がして!」  
「やだ、私が狙われると嫌だもん。先にお風呂入ってるー」  
「そういうわけでぇ〜……ノーム、覚悟ぉー!」  
「い、いやあああぁぁぁっ!!!」  
 
その頃、男湯ではフェルパーが湯船を出ようと中腰になっていた。  
例によって、声は筒抜けである。フェルパーはしばらく停止した後、またそろそろと湯の中へ戻った。  
「フェルパー、出るんじゃなかったの?」  
「諸事情により出られなくなった」  
「うん、僕もだよ。しょうがないよね」  
そんな二人から少し離れたところで、ディアボロスは湯船に浸かっている。しかしその顔は真っ赤で、玉のような汗が浮かんでいる。  
「……ディアボロス、そろそろ出たら?暑いんじゃないの?」  
「……俺はもっと出られない…」  
「ああ……君、タオル頭に巻いてるものね」  
とりあえず今しばらくは湯船に浸かっていることにし、三人は大きく息をついた。それは呼気により、少しでも体を冷やそうという  
意図も存在していた。  
「ところでフェルパー、いきなりだけど質問いい?」  
不意に、クラッズが口を開いた。おまけにその顔はひどく真面目で、ともすれば迷宮の探検中よりも真剣に見える。  
「ん?なんだ急に改まって?」  
「仮に、だよ。もし、目の前に金の宝箱があったとして、その中にはすごい財宝があったとして……それを諦めたら、女の子におっぱいを  
揉ませてもらえるって言われたら、君はどっち取る?」  
それを聞いた瞬間、フェルパーの顔もまた、ひどく真剣なものになった。  
「おっぱいだ」  
「……よし、僕は正常みたいだね」  
「男ならしょうがない。というかそれは既にこの上もない宝だろ」  
「………」  
そんな二人を、ディアボロスは『なんだこいつらは』とでも言いたげな目で見つめている。  
「僕は気づいたんだ……あれに勝るものなんて、この世に存在しないってことに…」  
「ん、待て。聞き捨てならないな。俺はどっちかっていうとお尻派だ」  
やはり真剣な表情のまま、二人は睨み合った。  
「胸の方がいいでしょ!?膨らんだ胸っていうのは、それこそ女の子だけの特権で、あのふにふわの柔らかい感じが最高でしょ!?」  
「いや、お前はわかってない!こう、きゅっと締まった、張りのある尻に勝るものはない!」  
「フェルパー……初めて君と意見が割れたねえ」  
「ああ。けど、ここは譲れない……たとえ相手がお前でもだ」  
この上もなくしょうもない主張のぶつかり合いではあったが、そこには何者も介入できない真剣さが存在していた。  
「男の憧れはおっぱいでしょ!?」  
「いや、尻だ!お前は俺が男じゃないとでも言うつもりか!?」  
「君こそ同じようなこと言ってるじゃないか!」  
「お前が先にっ……いや、待て。落ち着こう。俺達二人だけじゃ、決着はつかない」  
そう言うと、フェルパーはディアボロスに視線を向けた。  
 
「ディアボロス、君はどこがいいと思う!?君はまず真っ先にどこを見る!?」  
「………」  
恥ずかしいからか、単に暑いからか、ディアボロスは顔を真っ赤にしながら考え、やがて静かに口を開いた。  
「……角」  
「うん、ごめん。なんか基準が全然違うみたいだね」  
「予想外過ぎるね、それは……ていうか、君ドワーフと仲良かったけど、角はなくない?」  
「……最近は尻尾もいいと思うようになった」  
「うん、やっぱりごめん。よく考えたらドワーフ凹凸ないもんな」  
「なんて言うか……君はひどく通というか、変わり種というか……うん、ありがとう。全く参考にならない」  
 
女湯の会話が筒抜けであるということは、その逆もまた然りである。ほぼ丸聞こえだった会話に、女子連中はすっかり呆れていた。  
「うーん、クラッズとフェルパーもあんな話するんだなー」  
「そうね……お尻派なんだ…」  
蟹ばさみの状態で床に倒されつつ、ノームは呟く。その彼女を拘束しているドワーフは、さすがに少し落ち込んでいるようだった。  
「……聞こえてないと思って好き勝手言って……私にだって凹凸あるのに…」  
「はいはい可哀想ね、万年発情期の仔犬ちゃん。多少の凹凸はあっても、立派な凹凸はないからしょうがないね」  
「うう……二人みたいな凹凸はなくったって、私だってぇ…」  
「あんたも一人前に落ち込むことはあるのね。そういうの興味ないんだと思ってた」  
さりげなく蟹ばさみから脱出し、ノームは湯船に向かった。その間にも、男連中の声は聞こえてきている。  
「あ〜、変な話したせいで余計出にくく……フェルパー、なんか落ちつける方法ってない?」  
「えっ……と……逆に萎えるようなこと考えればいいなんじゃないか?たとえば……イワナガ先生の裸とか」  
「ああ、効くねそれ。若い頃は色々やってたみたいだけど」  
「気兼ねするようなのもいけるか?ここのシュピール先生が誘ってくるとかは?」  
「それは萎えるどうこうっていうか、犯罪の臭い…」  
「……ごぶっ!!」  
突然、大きな音が響き、同時にクラッズとフェルパーの悲鳴が響いた。  
「うわあっ!?吐血!?ディアボロスどうしたのー!?」  
「いやちょっと待て……それ鼻血じゃねえか!それが口に回ったんだろ!おいディアボロス!こっち来い!お湯をお前色に染めるな!」  
「何!?君、そっちの趣味あったのっ!?」  
「……わ、悪くな……がはっ!」  
「いや答えなくていいよ!いいから鼻血を何とかしてー!」  
そんな大騒ぎの男湯様子は、やはり女湯でも手に取るようにわかった。  
「……ロリコンだから、ちびっこのあんたと付き合えるのね、あの悪魔は」  
「うーん、私、得なんだかどうだか…」  
「シュピール先生、可愛いもんなー。ちょっと気持ちわかるぞー」  
「あんたの場合、わかってるようでわかってないでしょ」  
 
そこへ、ようやく立ち直ったドワーフも湯船に入ってきた。  
「まあ何にしてもさ、トカゲとクラッズって、需要と供給は見事にマッチしてるんだねー。クラッズはでっかい胸が好きで、トカゲは  
小さいのが好きでさ。その辺は幸せだよねー」  
その言葉に、バハムーンは首を傾げた。  
「別に私は、クラッズが小さくなくたって好きだぞー?」  
「……ふーん」  
ドワーフとノームは顔を見合わせ、フッと笑う。  
「ほんっと、幸せだねー」  
それは皮肉などといった意図は微塵もない、純粋な二人の言葉だった。  
 
それから数分後、ディアボロス鼻血事件のおかげであっさり風呂を上がれるようになった男三人は、脱衣所で着替えをしていた。  
「あ〜、びっくりした。色んな意味でびっくりした」  
「ディアボロス、大丈夫か?もう一回ヒールしとくか?」  
「………」  
何も言わず、ディアボロスはこっくりと頷く。鼻血まで出したのが恥ずかしかったらしく、風呂を上がった後もディアボロスの顔は  
赤いままだった。  
「いやぁしかし、人の趣味って色々なんだな。その辺ではクラッズ、お前はずいぶん幸せだよな」  
「ん、何が?」  
「お前の趣味って、バハムーンにばっちり合ってるだろ?だから幸せな奴だなーってさ」  
すると、クラッズは笑った。  
「ははは、やだなあ。そこが幸せなのは否定しないけど、それだから幸せってものじゃないよ。バハムーンの胸が平たくったって、  
僕はバハムーンが好きだよ」  
フェルパーとディアボロスは顔を見合わせ、クラッズにわからないように笑みを交わした。  
「そうかそうか。そこまではっきり言えるぐらいになったか。なおさら、幸せな奴だな」  
「何だよー?君だってノームといい関係でしょー?」  
策略によって築かれた関係。しかしそれとは関係なしに、今やクラッズとバハムーンはお互いを大切な存在だと思うようになっていた。  
これまでは、恋人のような、兄妹のような、しかしそのどちらでもないという微妙な関係だった。  
それが今では、恋人のような、兄妹のような、そのどちらとも言える大切な仲間となっている。  
それを祝福する仲間は、策略が成功したからという理由ではない。  
ただ純粋に、仲間が大切なものを手に入れたということに対する祝福。  
仲間達もまた、二人の関係を、策略とは関係なしに大切なものだと思うようになっているのだった。  
 
 

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