空は既に山吹色に染まっていた。彼方に見える東の空にはまだ微かに青色が残っているが、西の空を振り返れば夕焼け色の去った後が黒くなりつつある。  
 眼下には山間の開けた平原が見渡せ、中央に一筋通った道以外はススキが覆い尽くしている。それらが肌に心地よい風に揺られてカーテンのごとく波打ち、大きいのに不思議とうるさく感じないざわめきを上げる。  
 やがて広々としたススキばかりの原の中に、屋敷と呼ぶには小さめな一軒の二階建ての和風家屋が見えてきた。飛竜はゆっくりと速度を落としながら高度を下げ、門の前に降り立った。竜の翼の立てる風圧を受け、周囲のススキがさわさわと騒ぐ。  
やがて竜が太い両足を落ち着けて翼をたたむと、その背中からマントを羽織った人物が飛び降りた。  
マントの人物がフードを退けると、まだあどけなさの残る丸みの強い顔が現れた。黒く短い髪に覆われた頭頂部には、同じく黒い毛に覆われた三角型の耳が二つ付いている。  
フェルパーは担いだ袋を前に置くと、その中から何かの肉の塊を一切れ取り出し、竜の眼前に差し出した。竜はそれを口で受け取って咀嚼し飲み込むと、仕事は終わったとばかりに再び翼を広げて飛び去っていった。  
それを見送ったフェルパーは再び荷物を持ち上げ、生垣に挟まれた門を押し開けて庭へと入っていく。  
庭といっても、種種雑多な花が入り口の左側の隅に植えられているのが唯一の飾り気で、その奥(入り口から見て左奥)にはろくに使われず埃にまみれた物置が侘しげにたたずんでいる。  
花の植えられた隅と縁側の間の空間には、何本かの物干し竿が刺股のような長い棒に掲げられ、ハンガーなどで竿から吊るされた洗濯物が一様に風になびいている。  
右側には馬小屋があり、中では数頭の馬が飼い葉を食んでいる。  
「ただいま、ウラク。オリベ、調子はどう?秋だからって、あんまり太っちゃ駄目よ」  
 フェルパーが居並ぶ馬の頭をなで、頬擦りしながら親しげに挨拶する。その口調と声から、このフェルパーは女性と分かる。  
 フェルパーは馬への挨拶をひとしきり済ませると、今度は馬小屋の隅へ歩を進めた。そこでは背中に刀を差した魔人の男が、木箱のようなものを椅子代わりにしてうつらうつらとしている。フェルパーはその肩を掴んで軽く揺すってやった。  
「真面目にやりなさいよ。用心棒でしょ」  
 顔を近づけて厳しさの感じられない口調で言葉をかけると、男は額に手を当ててから首を振り、次に首を回して伸びをした。  
そしてあくびをしながらフェルパーに目を向ける。すると呑気にまどろんだ赤い目に突如光が戻った。  
「フェルパー……?」  
 フェルパーは親しみを込めた笑顔を浮かべ、  
「ただいま」  
と再会の言葉をかけながら、馴染みの同僚の額を人差し指で軽く弾いた。  
 厩番兼用心棒の男は額をかきながら立ち上がると、やけに生き生きとした顔になって、  
「旦那様に報せてくる」  
と走り去っていった。  
 
 暫く後、涼しげに着物を着こなした中年のエルフの男と、クロスティーニ学園の制服を着込んだフェルパーの少女が縁側に並んで座っていた。ススキや洗濯物を揺らす風が程よい冷気を含んで肌に心地良い。  
 久方ぶりに帰ってきた家は、フェルパーにとって安らぎに満ちた場であった。ひしめく人の放つ淀んだ熱気も、混沌とした喧騒も、ここには全く感じられない。聞こえるのは台所の方から遠く聞こえる包丁の音と、風に揺れるススキの斉唱だけだ。  
「学校はどうだ?」  
 今吹いている柔らかな風のような優しく穏やかな声で、エルフの男がフェルパーに尋ねる。その顔からは愛娘に対するような慈愛を感じさせる。  
「手紙に書いてある通りでございます。とても、充実しております」  
 フェルパーは自分を見るエルフと目を合わせず、正面を向いて目を伏せたまま答えた。その声と表情からは、先の魔人に対していたときにはなかった照れのようなものが見える。心なしか頬に赤みが差しているようだ。  
 エルフはそんな彼女の態度を楽しむような笑みを浮かべながら、自分の左側に座る彼女の左肩に手をかけ、そっとその体を引き寄せた。  
「だ、旦那様……」  
 抱き寄せられた体がエルフの脇腹に密着する。細長い尻尾をほとんど反射的にエルフの背中に巻きつけるようにしてしまう。  
「随分、逞しくなったものだ。以前とは張りが違う」  
涼しい風に冷まされた体が急に体温で温められたことと、突然抱き寄せられた恥ずかしさから、フェルパーの肌は急激に熱を帯び始めた。  
「お、お戯れを……」  
 発せられた声が恥ずかしそうにかすれている。  
「いい友達が出来たようだね」  
 エルフはフェルパーの上腕をゆっくりと、繰り返し撫でさすりながら、そう言葉をかけた。子供を落ち着かせるようなその撫で方に気持ち良さそうに目を細めながら、フェルパーはエルフの肩に頭をもたれさせた。弛緩した耳が横に垂れている。  
「はい。全体的に卑怯で素っ気無いところはありますが、人を害するような人達ではありません。良いパーティーに入れました」  
 そう、クールに見えて気のいい人達だ。でも、ここにいる安らぎとは比べるべくもない。  
「ヒューマンのガンナーの子がいるのですが、その子、ジャパニーズの子孫だそうで、時々和食をご馳走してくれるんです」  
 エルフの落ち着いた目に、どこか少年めいた光が走った。  
「ほう、ニッポンの血を継ぐ子か。終末に故郷が消えようとも、その血と心を継ぐ者まで途絶えたわけではないのだな。会ってみたいものだ」  
「大げさですよ。旦那様が憧れるようなニッポン人とは程遠いですが、ある程度は風流の分かる、いわゆる文学少女ですから、旦那様のお気には召すかと」  
「興味深いな。次に帰省するときには、ぜひとも招待してくれ」  
「仰せのままに。でも……」  
 フェルパーは頭をエルフの方に持たせかけたまま顔を上に向け、上目遣いで彼の顔を見上げた。猫じみた黄色い目に微かながら不安げな揺らぎが見える。  
 エルフはその意味するところを読み取ると、慈しむように撫でていた彼女の肩を掴み、より強く抱き寄せた。  
「私がお前に嘘を付いたことがあるか?私の女は今やお前だけだ。私がお前を裏切ったなら、その時はお前の刃が私を貫くだろう」  
 そう言って、見上げるフェルパーの額に接吻する。彼女はくすぐったそうに顔を綻ばせ、上げた顔を下ろした。そして嬉しそうに喉を鳴らしながら、エルフの腕に頬を擦りつけた。  
「やめてください。私の剣は、旦那様を守るためのものです」  
「だが、誤った主君を正すのも臣下の勤めだ。耳を持たぬ正しようのない主ならば、臣や民のために誅するのもやむをえんだろう」  
「旦那様の民って、ススキと虫と蛙ですか?」  
「はっはっはっは、言うじゃないか」  
「ふふっ、だって……」  
 エルフは一本取られたとばかりに笑った。フェルパーもつられて控えめに笑ってしまう。  
 
「例の彼女に、豚汁の作り方を教えてもらったんです」  
「トンジル?味噌汁のようなものか?」  
「はい。豚肉を初めとしたいろんな具を入れた、具沢山の味噌汁です。彼女は小さく切った豚肉の他に、輪切りにした牛蒡やなめこを入れています。赤味噌と一緒に材料も持ってきましたので、明日バッツに仕込んでおきましょう」  
 エルフの顔から平静さが薄れ、深く上がった眉や口角が頬や目元に嬉しそうな皺を刻む。  
「赤味噌!ありがたい。こっちでは手に入りづらくてな。あの濃厚な味を知ってからでは、白味噌では物足りん。よくやったぞフェルパー」  
 フェルパーは照れくさそうな笑みを浮かべながら、両手をエルフの脇腹に添えて、全身を摺り寄せるようにした。言葉遣いこそ使用人のようではあるが、その振る舞いはどう見ても恋人のそれであった。  
「喜んでいただけるなら、……光栄の至りです」  
 うっとりとしたようなその声は、まるで褒められた嬉しさに酔いしれているかのようだった。  
 肩を労わるように撫でられ続けているせいか、その顔も徐々にとろんとしたものになっていき、全身の力も抜けていっているようだ。  
「眠いのか?」  
「……はい、……とっても、……気持ちよくて」  
 エルフはフェルパーの両肩をそっと掴むと、その体をゆっくりと横たえた。  
「旦那様……?」  
 下ろされた頭がエルフの膝の上に乗せられた。  
「今日は疲れただろう。夕飯ができるまで休んでいるといい。お前の好きな鮭を焼いている。楽しみにしていろ」  
 フェルパーは嬉しそうにごろごろと喉を鳴らしながら、エルフの膝に頬を擦りつけた。その動きが徐々に緩慢になり、やがて止まると安らかな寝息が聞こえてくる。  
 エルフは彼女を起こさないように、その頭を撫でてやっていた。その姿は幼い子を慈しむ優しい父親のようでもあり、純粋な愛情に満たされた恋人のようでもあった。  
 
 物心付いたときから、フェルパーは身寄りのない娼婦だった。そんな彼女にエルフが通うようになったのは随分前からのことだった。  
娼婦に対する客の態度など、大抵の場合は横柄なものだ。彼女の雇われていた店は、ある程度の規模の町になら必ずあるような安っぽい売春宿だったので、本来彼女の今の主人のような高貴な人間が来る場所ではなかったのだ。  
何故あんなうらぶれた通りの寂れた宿に慰みを求めたのか分からなかった。そう思うほどに、あの男はそれまでの客とは毛色が違っていた。  
フェルパーよりも美しい娘はいた。店の主人は当然のごとくその娘らを薦めた。にも拘らず、エルフはフェルパーを選んだ。迷った様子さえなかった。  
猫が好みだったのか。いや、彼女よりも美しい猫はいた。あるいは、よりあどけない猫が好きだったのか。  
エルフの態度は実に紳士的だった。これから体を好きにする小娘相手にも、店の主人に対するのと変わらない、……いや、ひょっとしたらさらに丁寧な態度で接してきた。後にも先にもこれほど感じのいい客は現れなかった。  
娼婦はいくらかの金と引き換えに一晩体を貸す商売……と認識されている。つまり金をもらったその晩は、娼婦の体は彼女自身のものではない。痛みしか感じないほどに荒々しく揉まれ、濡れる前から激しくされるなど言うに及ばない。  
暴力的なSMプレイ、窓から突如押しかけてきた仲間との輪姦(当然追加料金は踏み倒される)、果てには屋外で交渉して前金を払ってきたと思ったら、人目も憚らずその場で無理やりするような変態さえいた。  
こういったことにも慣れているフェルパーにとって、エルフ相手の商売はある種の後ろめたさを感じさせるものだった。今更淫行に背徳感を感じていたわけではない。問題はエルフとすることが“商売”と思えないことだった。  
 
 とうに外は月の時間となり、この山間の支配者たる蛙や鈴虫どもが遠慮なく歌い狂っている。多く集まればけたたましいその声を意にも介さず、わずかな使用人たちは寝静まっている。この静かで寂しい地では、たった数人の人間たちは間借り人でしかない。  
 外の喧騒と内の静寂。昼間とは逆だ。しかしだからといって、家の中が完全に静まっているわけではないようだ。  
二階の奥の家主の寝室の中、布団の上でエルフとフェルパーは互いの口を貪っていた。  
 いや、フェルパーはあまり積極的ではない。猫の名残であるざらついた舌を遠慮なく動かせば、主人の粘膜を傷つけかねないからだ。  
 口内を侵し侵されながら、口の隙間や鼻から熱っぽく甘ったるい息と声が漏れている。  
 エルフの舌はいつになく遠慮のない動きで少女の口の中を這い回っている。舌が唾液を舐め取るたびに、口内から耳にぴちゃくちゃと水音が伝わってくる。  
 その感触と音を聞くほどにフェルパーの心臓の鼓動は急激に激しくなり、口を塞がれて制限された呼吸が苦しくなってくる。  
 フェルパーはたまらず主人の胸を押して口を離した。うなだれて荒くなった呼吸を整える。  
 彼女が落ち着いてきたのを見て取るとエルフはその顔を上げさせ、寝間着である浴衣に包まれた体を正面から抱きしめた。回された右手は夕方に縁側でしたように彼女の背中を優しく撫でる。ゆっくりと、一定のリズムで。  
「許せよ、可愛い奴。こうしてお前を誘うのは半年振りだからな、年甲斐もなく取り乱してしまった」  
 いつもの優しげな声を保とうとしてはいるが、その声は興奮を誤魔化せていない。囁かれる声と共に出たやけに熱い吐息が、左肩に顔を預けたフェルパーの耳にかかる。フェルパーの両手がエルフの腰に触れ、滑るように動きながら背中へ回された。  
「はぁ……、旦那、様……、はぁ……、熱いです……、とっても……」  
 フェルパーの呼吸が再び乱れ始めた。  
「体が……、溶け、ちゃいそうで……」  
 エルフの背中に回された腕にはやけに力がこもり、主人の広い背中を貪欲に引き寄せようとしていた。密着した体の体温に、赤く火照った肌がさらに熱を帯びる。フェルパーの全身はじっとりと汗ばみ、浴衣はいつの間にか無視できないほどの水分を吸っていた。  
 エルフは首元と背中に回していた腕を放して少女の華奢な両肩に置いた。汗に濡れた肩を押すと、背中に回された細い腕が名残惜しそうに解けた。肩を離れた顔は少しうつむいており、暗い中でも微かな光を放つ黄色い目が上目遣いに見上げている。  
「随分濡れている。風邪をひいてはいけないな」  
 言いながら、濡れた浴衣の肩に置いた手をゆっくりと左右に開いていく。掴まれた浴衣が、普段日にさらされていない白い肌の上をゆっくりとすべり、覆われていた肩と胸元がゆっくりと露出していく。  
 顔や腕よりも白いその肌は、内側からの熱によって赤みが差す様がより鮮明だった。エルフがそこまで楽しんだところで、フェルパーは胸元を押さえて脱がすのを止めてしまった。  
「焦らさないで欲しいんだが」  
 エルフは少々嗜虐的な笑みを浮かべながら、軽めの口調で言った。  
「は、恥ずかしいです……」  
 切なげにそういうフェルパーの目は熱っぽく潤み、胸元で浴衣を押さえる手は微かに震えている。肩と胸が大きく上下し、切れ切れな息の間から辛うじて出る声はかすれている。  
 エルフの口元がニヤリと意地悪げにゆがんだ。横から届くランタンの光によって皺の周りに影ができ、夕方の穏やかさからは想像も付かない禍々しささえ感じさせる。  
 
「では恥ずかしがってもらおう」  
 エルフは二の腕の辺りまで滑らせた手を離して、胸元を押さえたフェルパーの手を掴むと、容赦ない勢いでその手を下に下ろさせた。  
「にゃっ!」  
 優しい主人の突然の荒々しい行いに、フェルパーは思わず身をすくませて甲高い悲鳴を上げてしまった。エルフはほくそえんだ。押さえていた手を無理やり下ろした反動で乳房がぶるんと大きく揺れながら飛び出し、そのまま浴衣は腰の辺りまで滑り落ちた。  
「また、綺麗になったな……」  
 ほとんど露わになった少女の上半身を眺めながら、エルフは鑑賞家のような恍惚を漂わせて呟いた。フェルパーは苦しそうな息をさらに荒くして、恥ずかしそうに身をよじった。  
「はぁ、はぁ、……ひどいです……ひどいですよ……」  
 責めるような涙声と、顔を背けながら横向きに主人を責める涙ぐんだ目。まっすぐ下に下ろされた両腕が乳房を内に寄せるように挟んでいる。  
寄せられた乳房は呼吸に合わせて上下に揺れ、手を引っ張られてやや猫背になっていることもあってやけに大きく見える。  
「旦那様ぁ、はぁ……、そ、そんな、はぁ……、見ないで……」  
 身をよじって顔をそらしながら、哀願するような横目を向けている。  
弱々しく下がった眉と耳からは、生意気な言い回しで主人を笑わせた威勢など感じられない。細長い尻尾も布団の上に力なく投げ出されて動かない。  
 全てが劣情を煽る火種にしかならなかった。しかし年甲斐もない興奮に身を任せるそんな自分に、エルフは心のどこかで苦笑していた。  
「こんないい胸を鑑賞せずにいられるか。大きさといい形といい。緩く垂れた肩、胸の張り出しとくびれた腰のコントラスト、そこから腰で一旦膨らみ、腿からだんだん閉まっていくライン。こんな体を愛せずにいられるものか」  
「んん……や、やめて……、はぁ……、」  
 恥ずかしさに耐え切れず、湧き出した涙が溢れ出した。胸筋が鍛えられたからか、以前より明らかに大きく見える乳房をいやらしく突き出すような姿勢と恥らう態度のミスマッチに、サディスティックなものを刺激される。  
娘同然のフェルパー相手にこんな気分になるのはあまりないことだが、それもこの娘なら本気で嫌がらないだろうからだ。  
「だが、そうだな。見るだけでは足りん」  
 エルフはフェルパーの手首を掴んだまま顔を近づけ、赤くなった乳首を舐め上げた。  
「はうぅっ!」  
 高く鋭い、しかし甘いものを含んだ叫び声と共に、フェルパーの全身がびくんと一瞬跳ねるように震えた。下がっていた耳がぴんと立ち、顎と背が弓なりに仰け反り、投げ出された尻尾が電気でも通ったように波打った。  
ただでさえ強調された胸がぷるんと揺れながらさらに突き出される。顔に柔らかなふくらみを押し付けられたエルフは、さらに口を大きく開いて、膨らみそのものにかぶりつくように揉み始めた。  
舌では乳首を転がすように弄び、空いた手はもう片方の乳房を弄る。柔らかさを楽しむように撫でながら、指を強く押し付けて硬くとがった乳首を蹂躙させるのも忘れない。  
「はんっ、あっ、あぁん!だ、だ、旦那、様ぁ、こんな……、ああっ!こんな、こんな、ひゃう!」  
 恥ずかしいところをいやらしく強調し好き放題にされる羞恥心に苛まれ、フェルパーは意味を成さない嬌声を上げ続けた。敏感なところを刺激されるたびに、それに反応して細身の体がびくんと仰け反り、汗にまみれた上半身をぶるぶると震わせていた。  
「お前も欲しかったのか?そんなにはしたなく乱れて、まるで盛りのついた猫だな」  
「あぁ、あっ、はぁぁん……あっ!あん!そ、そんな、言わ、ないで、ああっ!」  
 エビのように反らした体を震わせて天井を仰いだまま、フェルパーは狂ったように泣き叫んだ。  
 
 エルフの行いはそもそもの初めから娼婦に対するそれではなかった。脱がせもせず押し倒しもせず、服の上から弄ることもせずにまずは唇を重ねる。  
フェルパーにとっては慣れない行為だった。まっとうな性交を知らない彼女には、恋人同士の秘め事の手始めともいうべきそれは斬新なものだったのだ。  
 エルフの手つきはまるで割れ物を扱うようだった。壊れることのないようにそっと頬に触れ、質感を楽しむように丁寧に撫でた後、その顔を抱き寄せて唇を合わせ、暫くその表面を吸うようにする。  
その未知の行いに、フェルパーはどこか思考を溶かされるような快さを感じていた。  
 暫くして唇が離され、エルフは熱っぽく語りかけた。  
「これが貴女への冒涜になるというなら、どうか私を追い出してください。返金は要求しません。今夜一晩、私は貴女を、貴女でない別の女性として扱いたいのです。  
 その人は貴女と同じフェルパーで、私にとって何にも代えられない存在でした。しかし、あの人と私の道が交わることはもうありません。  
貴女は、私の失ったあの人を思わせます。貴女があの人でないことは百も承知ですが……、どうか今夜だけは、私の見苦しい追憶にお付き合いください。お願いします」  
無教養な彼女には分かりづらい話し方だったが、何であろうと問題ではなかった。妥当な金を払うなら同じことだ。  
とはいえ、ここに来る男たちは娼婦を特定の個人として見ていないはずだ。そういう意味では、この男はあまりに場違いな客だった。  
……などという思考をはっきりと巡らしていたわけではないが、違和感を拭えなかったことは確かだ。この人はあたしに何を求めているのか。  
そんな困惑を知ってか知らずか、エルフは彼女を優しく抱きすくめ、ゆっくりと押し倒した。耳元で彼女のものでない名前を呼びながら。  
 しかし悪い気はしなかった。呼ばれる名前こそ違っても、その声は今までフェルパーが受けた事のないような慈愛に満ちていた。  
 割れ物のように大事に扱われるその感覚は、慣れないながらも心地良いものだった。自分を損得抜きで大事にしてくれる人――家族?――の記憶など、もはや無きに等しかった。  
 その後の行為は到底仕事といえるようなものではなかった。エルフは彼女に何もさせようとはせず、彼女の体を隅々まで、ゆっくりと撫でたり舐めたり、口付けたりした。性急さがまるで感じられない。  
 フェルパーの頭の中は困惑で埋め尽くされた。これが性交か。あなたはあたしをどうしたいんですか。あたしの体で何をしたいんですか。そう聞きたいのを必死で堪えていた。  
 この人の要望は私を“あの人”として扱うことだ。なら私のしたいようにしてはいけない。  
 そう考えるといくらか気が楽になった。なんだ、いつもと同じだ。どうぞお好きに。投げやりにそう思いながら、肌の上を這い回る手や唇の感触に意識を向けた。初めはくすぐったい程度だったが、彼女の反応を見てその手つきもだんだんと変わっていった。  
 やがてフェルパーは、腹の中が温まっていくような感覚を覚え始めた。だがそれは熱とも違う。腹の内側から湧き上がり、新陳代謝が良くなるような快さを感じさせる、不可解な快感。性的なものとは少し違う。  
「あの……」  
 買われた身で頼みごとなどという気もしたが、もう暫くこの感覚を楽しみたかった。性的な意味で気持ちよくなる前に。  
「お腹、撫でて欲しいです」  
 エルフの目が向けられた。笑っている。何かをねだる子供に仕方ないな、と応じるように。彼は腹の横に頭が来る位置に寝そべると、老婆が孫にするような手つきで腹を撫で始めた。ゆっくりと、何度も、何度も、ひたすらに一定のリズムで。  
 撫でられるたびに、腹の奥から何かが溶けたような快楽がじんわりと湧き出してくる。その気持ちよさをもっと落ち着いて感じたくなり、フェルパーは大きく息を吸って吐いた。  
 するとそれに連動するように、腹に溜まり込んでいた暖かなものが全身に拡散していった。体全体がじんわりと温まっていく快楽に眠気すら感じ始める。許されるならこのまま眠ってしまいたかった。今眠ればとてもいい夢が見れそうだ。  
「眠いのか?」  
 労わるような優しい声が聞こえる。フェルパーはぼやけた意識の中ではいと答えた。  
「そんな良い顔をされては、駄目だとは言えないな。では、お休み。良い夢を」  
 そう言って布団までかけてくれた。彼の愛撫で温められた体が布団の柔らかさに包まれ、体の中の程よい熱は意識を現世につなぐ鎖を溶かし去った。  
 全身を包む心地良い暖かさの中で、彼女の意識は晴天の雲の中へ送り出されていった。  
 
 エルフの胸に持たれかかり、フェルパーは荒い息をついていた。浴衣の帯より上の前を完全にはだけたままで、汗ばんだ肩や胸を大きく上下させている。  
「我ながら、らしくないな」  
 エルフは少し疲れた様子で一つ深呼吸をした。  
「痛くなかったか?」  
 寄りかかる少女の頭をいつものように優しくなでさすりながら声をかける。  
「いいえ……。でも、はぁ……、今日は、どうしたんですか?」  
 荒れた息を整えながらフェルパーは答え、そして尋ねる。普段のエルフの、じわじわと温めるような行為とはまるで違う。  
「半年振りにお前を抱けるのが嬉しくて、つい、な……」  
 答えるエルフは少し気まずそうだった。自分でも柄でないと思っているのだろう。  
「いつも通りが良かったか?」  
 言いながら、エルフはフェルパーの背中を撫で始めた。例の手つきで。しかしフェルパーはそれを遠慮がちに跳ね除けた。  
「いえ、たまには、こういうのも……」  
 恥ずかしそうにくぐもった声。元娼婦の彼女も、主人の前ではまるで生娘だった。エルフは優しい旦那様の顔を再び意地悪くゆがめた。  
「ふ、好き者め。一眠りして疲れが飛んだか?臭いがきついぞ。本当に猫みたいだ」  
「にゃぁん」  
 フェルパーはふざけて猫の鳴き真似をしながら主人にしがみついた。  
「完璧な物真似だな、私の子猫ちゃん。物欲しそうなところなど猫そのものだ」  
 するりと衣擦れの音が聞こえた。いつの間にかフェルパーの帯が解かれていたのだ。  
 フェルパーがそれに気を取られている間にエルフは彼女の肩を掴んで、その体を布団の上に押し倒した。空いたほう手では彼女の浴衣の腰から下を開きながら。露わになった全身を堪能するのももどかしく、少女の細長い両足を左右に開いて持ち上げる。  
 少女のほっそりとした体がびくりと震え、尻尾がまた一つ波打った。失禁したかと思わせるほどに濡れそぼった秘所が彼女の羞恥心に反応してひくつき、どくんと液をこぼした。  
「旦那様ぁ……」  
 フェルパーの切なげにねだるような声に応じ、エルフも自分の帯を解いた。  
 
 あの後も大体三カ月おきに、エルフは彼女の元に通ってきた。フェルパーとしても、彼が常連になったのは素直に嬉しいことだった。  
金払いがいいし、何より他の客とは比べようもないほどに優しい。金を取って悪いと思わせるほどに大事に扱ってくれる。ゆっくり過ぎて多少焦らされる感じはあるが、いつも気持ちよくしてくれる。しかも中で出さない。  
 こういった魅力を思えば、自分でない誰かとして扱われるなど問題ではなかった。彼女には教養もプライドもなかった。自分が何者なのかなどどうでもいいことだった。いや、そのはずだった。  
 “あの人”はどうしてこの人を裏切ったんだろう。こんなに優しくて、大事にしてくれるのに。この人は自分を裏切った“あの人”をどうして憎まないのだろう。  
こんなに良くしたのに裏切られて、高貴な身分を奪われて、ただの行商人に成り下がって、こんな汚いところに通う程に落ちぶれて。  
 
――“あの人”って、奥様だったんですか?  
――そうなるはずだった。そうしたかったんだが……。  
――あたしはその人に似てるんですか?  
――よく似ている。顔立ちも体つきも。……だが、こうして体を重ねるごとに、違いがはっきりするばかりだ。貴女はあの人ではない。当然のことなのに。  
――じゃあ……、もう、来ないんですか?  
――気を悪くしたことをお許しください、可愛い人。……貴女は、気付いてくれましたか?二回ほど前から、私は貴女を、あの人の名で呼んでいません。あの人でなくとも、貴女は魅力的だ。だから、これからも、お願いしますよ。  
――至らないことがあったなら、何でも言って下さい。“あの人”になれって言うなら、なります。何でもエルフさんのいいようにしますから……。  
――……今日は、どうしたのですか?  
――どうしてそんなに優しくするんですか。あたしは“あの人”じゃないのに。エルフさんが優しすぎるから、他の男に抱かれるのが辛いんです。みんなみんな、ろくでなしの糞野郎ばっかり。  
あと何日たてばエルフさんが来るか、もしかしてもう来ないんじゃないか、毎日毎日そんなことばっかり。もしエルフさんが来なくなったら、もうこんな仕事続けられません。これ以外の生き方なんて知らないのに。  
――……  
――“あの人”ってどんな人だったんですか。教えてください!あたし、“あの人”になりますから!絶対に裏切らない“あの人”に!  
――……  
――それが駄目なら、せめてあたしにも“仕事”をさせてください。いっつも良くして貰ってばっかり……、お金貰ってるのに。お金は働いて貰うものじゃないんですか?あなた相手に働いた気なんてしません。あたしたち、娼婦と客なのに、こんなのおかしいです。  
あたしは物乞いじゃありません!あなたにとって、あたしは何なんですか?“あの人”でもない淫売に、どうしてそんなに優しくするんですか!  
――あの人が私の元に戻って来ることはもうない。いや、私が戻ることを許さないといったほうがいいか。何がいけなかったのか、今でも分からない。  
――“あの人”が悪巧みしてたからです。そうじゃないんですか?  
――……あの人を愚弄するな。  
――ひっ……  
――……許してください。確かに、あなたの言う通りかもしれないし、それを裏付ける証拠もいくつかあった。……だがそうだとしても、あの人を憎むことはできない。あの人が望んだなら、陥れられたのも悪くはない。それがあの人の幸せにつながったなら……  
――馬鹿です!  
――……  
――エルフさんみたいな優しい人、めったにいません。みんなみんな、自分のことしか考えてません。私だってそうです。みんな自分のことに精一杯で、他人なんてどうでもいいんです。そう思ってたから、続けてこれたのに……。  
こんな優しい人がいて、私なんかを大事にしてくれて、どうしてその人に酷いことができるんですか!“あの人”は馬鹿です!自分で幸せを捨てた、救いようのない馬鹿です!そんな人をまだ好きなあなたも大馬鹿野郎です!  
――……  
――エルフさんは、最初に来たとき言いましたよね。“あの人”の代わりになって欲しいって。私、エルフさんが大好きです。裏切るなんて考えたくもありません。エルフさんのためなら何だってします。殺されたって構いません。  
……もう、こんな所、嫌なんです!あたしをさらってください!あたしの体と心は、全てあなたのものです!エルフさんだけのものになりたいんです!“あの人”みたいにしてもらえるような……。  
迷惑なら殺してください!エルフさんと一緒にいられなかったら、もう生きていけません!  
 
「ああん!」  
 亀頭を秘唇にこすり付けただけで、フェルパーは甲高い声を上げて顎をのけ反らし、体をびくびくと震わせた。  
「よほど飢えていたと見える。あまり早く果てるなよ」  
「は、早くぅ!旦那様ぁ!」  
 あくまで余裕に構える主人に対して、フェルパーは息を切らしながら狂おしい声でねだっている。命乞いをするような必死な眼差しで見上げながら、腰をがくがくと主人のものに擦り付けてくる。  
「あまり急かさないでくれ。そう何度もできる歳じゃないんだ」  
 エルフは左手で少女の震える体をなだめるように押さえ、右手で自分のものを秘唇にあてがい、速くなり過ぎないように挿し込んでいった。  
 すると、左右に開かれたフェルパーの足が急に動いた。伸ばされた長い足はエルフの腰に引っ掛けられ、彼女の体を一気にエルフへ引き寄せた。それによってエルフのものは急速にフェルパーの奥へ突き入れられた。  
「うぐあっ……」  
「にゃぁっ!」  
 二人が同時に呻いた。主人は苦しげに。少女は嬉しげに。  
「はぁ、はぁ、すぅ……はぁ……。ああ、旦那様……」  
 フェルパーの顔と声は至福に満ちていた。望んで止まなかったものをようやく手に入れたといわんばかりに。  
 エルフは苦しげな息をついた。急に引き寄せられた彼の屹立は、膣壁とその襞に物欲しげに撫で上げられ、容赦なく締め付けられていた。  
「く……、フェルパー、あまり激しくするな。私は若くない。何度も出せん」  
「旦那様ぁ、いっぱい、はぁ……、いっぱい、してぇ……」  
 半開きになったままのフェルパーの目と口は、自身の体温で溶けたかのように締りがなくなっている。声からも人間らしい理性が感じられない。  
今の彼女は、強引にでも甘えてねだりむしり取る、貪欲な猫でしかなかった。  
「はぁ……、無茶をさせるな。身がもたんではないか」  
「ごめんなさいぃ……、はぁ……、おしおきしてぇ……、私の、いっぱい、ずぼずぼしてぇ……、はぁ……、ぐちゃぐちゃにしてぇ、壊してぇ……」  
 もう何も聞こえていないも同然のようだ。今夜は腹を括ろう。エルフは観念して、フェルパーの両腿を掴んで腰を前後させ始めた。  
 亀頭の根元のくびれがまとわりつく膣壁をこすり、少女の口から甘ったるい悦びの声が上がる。亀頭のくびれが抜けそうなところまで引き、再び押し込む。  
するとそれにタイミングを合わせるように、フェルパーが腰を挟みこんだ足を引き寄せた。互いに前進しあうことで亀頭の先端と膣の奥が強く衝突し、その衝撃が背骨を突き抜けて脳髄に強い刺激を与える。低い呻きと高い叫びがほとんど同時に上がった。  
 そんなことを繰り返す。その動きは徐々に速まっていく。  
「はうぅっ!……はぁ、旦那、様ぁ、ああっ……」  
「ぐっ、うう……、はぁ……。フ、フェルパー、はぁ……、き、気持ち、いいか?」  
「すごく、いいです……、ああんっ!だ、旦那様ぁ、もっとぉ、あっ!もっと、してぇ!」  
 エルフのものがフェルパーの中を擦るたびに、溢れ続ける体液がグチュッと音を立てる。結合部が普段なら到底耐えられないような温度に火照り、動くたびに二人の汗が飛び散る。  
 フェルパーは布団の両端を握り締めながら、エルフの腰を挟んだ足で自分の体を前後、というより上下に揺さぶるようにしている。奥と先端ががぶつかり合うと、甘い叫びと共に彼女の全身が大きく跳ね、汗に濡れて怪しい光沢を放つ乳房がぶるんと大きく揺れた。  
 突き入れられた屹立が引き返すと、まとわりついた粘っこい愛液がどろりとこぼれ落ちる。再び突き入れられて少女の体が跳ねると、汗や愛液で濡れた布団の上で尻尾が蛇のようにのたうった。  
 
――旦那様、どうして行商に連れてってくれないんですか。  
――何度も言っている。危険だからだ。  
――私の命はあの時旦那様に渡したも同然です。私が死んででも、旦那様には生きていて欲しいんです。私の見えないところで殺されたりなんてして欲しくありません。  
――だからそんな修練をしているのか。  
――はい。私が強くなれば、用心棒として連れていってくれますか。  
――お前が待っていてくれるから、私は余計な危険を冒さずに帰ってこようとするんだ。ここで家の面倒を見てくれているだけで、お前は私の命を救っているのだぞ。  
――私はそんな気になれません!もっと分かりやすい形で役に立ちたいんです!それに、こうして鍛えてれば良い体を長く保てると思いますけど?鍛え方によってはもっとやらしくなれるかもしれませんね。  
 
 エルフはフェルパーの足を離そうとした。が、腰をがっちりと挟みこんで体を揺さぶり続ける足は頑として離れようとしない。  
「く、フェルパー、あ、足を……」  
 エルフとしては中で出したくはなかった。今まで彼女の中に出したのは数えるほどだ。しかしそろそろ限界だ。  
「だめぇ!出してぇ!いっぱい、いっぱい、くださいぃ!」  
 フェルパーは足を離すどころか、エルフの腰に絡めてきた。さらに腹筋で急に起き上がり、エルフにひしと抱きついた。  
そして手足で主人の体を締め付けながら、上下運動を再開した。跳ね上げた腰が落ちるたびに、彼女の奥がグチュリと音を立てて深々と突き上げられる。  
「んぬうっ……、い、今、孕むのは、まずいだろう。んっ、か、仮にも、学生、なんだぞ」  
「あううっ!だ、大丈夫、今日は、大丈夫、ですからぁ、ふにゃぁっ!ああ、深いぃ……」  
 フェルパーの力は随分強い。引き剥がすのは無理そうだった。エルフは観念し、左手でフェルパーの背中を抱き寄せ、右手で尻尾の根元を掴んだ。  
「にゃうっ!」  
 彼女の体がびくりと震え、跳ねる動きが止まった。エルフはさらに、ぴんとたった彼女の耳を口にくわえた。  
「はん!だめぇ!あっ!そこは、だめなのぉ!」  
 エルフはフェルパーの悲鳴に近い嬌声にも構わず、尻尾の根元を五本の指で弄ぶように撫で始めた。  
「言うことを聞かない子には、おしおきだ」  
 指たちが尻尾をつまんで弄びながら、撫でるようにその先端へと動いていく。  
「ああっ、やだぁ!イっちゃうぅ!あっ、どうか、なっちゃうぅ!」  
 上下運動がなくなった代わりに、フェルパーの体は仰け反ってびくんびくんと痙攣したように震えていた。強く押し付けられた乳房の振動がエルフの胸にも直接伝わり、破裂しそうなほどの速さで脈打つ両者の心臓の音が混然となって脳に直接響いてくる。  
 断続的な振動はフェルパーの奥深くに突き刺さったものも刺激した。ただでさえ膣が貪欲に引き寄せ容赦なく圧迫するのに加えてである。いよいよ堪えきれず、膨張しきったと思われたものがさらに膨れ上がった。  
「逝ってしまえ……」  
 エルフは呻き、くわえた耳に歯を立てた。突き刺さり膨れ上がったペニスが少女の中でびくんと跳ねた。  
「あぁぁぁぁっ!あ、熱いぃぃっ!だ、旦那様!旦那様ぁ〜〜!」  
「ん、あ、あぁぁ……、フェルパー……、私のフェルパー……」  
 主人と使用人はあらん限りの力で身を寄せ合い、、意識を崩壊させんばかりの快楽に溺れきっていた。  
 
 鉛のような気だるい余韻に浸りながら、フェルパーは夢現の間をさまよっていた。  
そんな召使の汗にまみれた体を、主人は手早くタオルで拭いていた。いよいよ冷え込む秋の夜に汗だくなままで眠るのは危険だ。出来る限り早く拭くのは、この少女の猫じみた欲情を再燃させないためである。  
 体を拭き終えたら、用意しておいた別の浴衣を着せる。そしてあらかじめ敷いておいた濡れていない布団に寝かせる。濡れた布団のシーツをはがし、二着の濡れた浴衣同様畳んで置いておく。  
エルフ自身は既に汗を拭き取り、着替えも済ませてある。最後に残った布団は窓の外の金属製の柵に干しておく。こうして流れるように事後処理は終わった。  
 エルフは布団に入る前にフェルパーの顔を覗き込んだ。何者にも負けない力をつけて主人に騎士の誓いを立てると豪語した少女は、心地良さそうな憔悴をその顔に漂わせ、安らかな寝息を立てている。エルフはその額に軽く接吻し、起こさないように声をかけた。  
「よくお休み。私の可愛い騎士。良い夢をな」  
 
 

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