求める事が罪ならば、私は咎人なのだろう。
偽ることが罪ならば、この身は咎そのものだろう
されど、この気持ちは本物だと、私は自信を持って言える。
貴方に甘えていいですか?
貴方のやさしさに甘えていいですか?
貴方を好きで良いですか?
下から突き上げられる感覚に私は打ち震える。
「出すぞ、ノーム!」
「来て…」
私の奥深くまで突き刺さった彼のものが震えて、温かい熱が私の中に放たれる。
「ん…」
自分の中が満たされるこの感覚が私はとても好きだった。
虚ろな私が確かにここにいると感じられるから。
「…大丈夫か?ノーム」
「うん、バハムーンでおなか一杯、満足」
私の言葉に、彼が笑って頭をなでた。
「んちゅっ…はむ…」
性を放って汚れてしまった彼のものを私はなめてきれいにする。
彼の匂い…彼の味…麻薬のように私を興奮させる。
「あはっ…」
こらえられない笑みが勝手にこぼれる。
「ありがとう、ノーム」
「…うん」
そんな私を彼は温かい目で抱きしめてくれる。
こんな人形のような私を、彼は愛してくれる。
それがとてもうれしい…
感情をうまく表せない私の気持ちに、彼はすぐ気付いてくれる。
だから、私は彼が大好きだった。
フェルパーは私が彼の好きなようにされていると言っていたけど事実はちがう。
求めているのは私、求められているのは彼。
彼の全てを奪いたくて、ただひたすらに彼を求める。
欲望に忠実な浅ましい女、それが私だった。
タカチホ義塾食堂
最近は静かになったそこで、私はフェルパーと話をしていた。
「最近、ディアが私と一緒に稽古してくれるんだけど、やっぱりディアは凄いよ、でも、私だって負けない、この間ようやくディアから一本取ってやったし」
煙草を手に嬉しそうに笑うフェルパーはディアボロスと付き合いだしてからだいぶ変わったと思う。
雰囲気は柔らかくなったし、前はあんなに嫌っていたディアボロスのことをいつも嬉しそうに語る。
煙草を吸うようになったし、前は「あいつ」と呼んでいたのに今は親しげに「ディア」と彼を呼ぶ、そして何より、女性らしくなった。
どこが、と言われても私にはわからないけど、その変化は良いものなのだと私は感じる。
なにも、変わったのはフェルパーだけじゃない。
ディアボロスも変わったと思う、くだらねぇが口癖で、稽古などろくにしている所を見たことなかった彼が、最近は毎日フェルパーと共に朝早く稽古しているのを私は知っている。
昔彼女が嫌いだった笑みは変わらないし、口ぶりもほとんど変わらない。
なのに、それでも変わっている。
「…うらやましい」
「そう?私はノームのこともうらやましいと思うけど?」
「?なぜ?」
私の言葉にフェルパーが煙草の火を消して答える。
「ノームとバハムーン、ホントに息ぴったりだしね、私とディアなんてまだまだ」
「私とバハムーンはラブラブ…」
頬に手を当てて恥ずかしいという気持ちをアピールしてみるけど、フェルパーは苦笑いで返す。
やっぱり、彼以外に感情を読み取ってもらうのは難しい。
「ノーム」
ふと、声をかけられて、私はその声の主の姿を探す。
「バハムーン」
ふわふわと漂いながら彼の胸に飛び込む、私の行動を予想していたように彼は私を抱きしめてくれる。
「フェルパーと何を話していたんだ?」
「彼氏自慢、いえ〜い」
「そんなに恥ずかしがるくらいなら無理して言わなくて良い」
「ばれた…」
そんな私達のやり取りをフェルパーが新しい煙草に火をつけながらじっと見ていた。
「?どうしたフェルパー」
彼がその視線に気づいたのか彼女を見る。
「いや…、バハムーンはよくノームの感情が分かるな〜って感心してた」
「ふむ、ずっと見てきた俺からするとかなりノームは感情豊かなのだが…周りから見るとそういうものか」
彼が納得したように首を振る。
フェルパーの言うとおりだと私も思う、自分が感情を表に出すのは苦手だということは知っている、そういう意味で彼は特別だった。
「お〜い、フェルパーいるか〜?」
がらりと、食堂の扉を開けてディアボロスが入ってくる。
「あ、ディア、どうしたの?」
「いや、煙草切れちまった一箱くれ」
「…自分で買いに行きなさいよ」
「いや、そんな下らねぇことのためにわざわざ買いに行くのは面倒だろ、お前なら買いだめしてるんだろうし」
「まったく…」
やれやれ、といった表情をしながらフェルパーが懐から封を開けていない煙草をディアボロスに放る。
それを受け取ると彼女の隣にディアボロス自然に座って煙草に火をつけた。
やっぱり、なんだかんだ二人はよく似合っていた。
ヒューマンはこの二人をロクデナシとクソマジメの正反対カップルと言っていたけど、私は似たもの同士なんじゃないかと最近思っている。
「どうした?ノームあいつらがうらやましいのか?」
「それなりに…」
互いが互いを信頼し合ってる、その関係がうらやましい、私はただ、彼のやさしさに依存しているだけだから…
「気にするな、お前には俺がいる」
「ありがと、バハムーン」
彼が頭をなでてくれる、彼は本当にやさしかった。
だけど、彼のやさしさに触れるたびに私は思う。
もし彼を失うことがあったら、私はどうなってしまうのだろうと…
「っ!?」
目を覚まし辺りを見回す、そこは見覚えのある自分の部屋、隣のベッドを見るとルームメイトのフェアリーがすやすやと心地よさそうに眠っていた。
「…バハムーン…バハムーン」
居るはずのない彼の姿を探す、自分の部屋なのだから彼がいるはずがない、それは事実のはずなのに、私の胸を締め付ける。
怖かった…彼が隣にいないことが…。
私は寝巻のままベッドから起きると、そっと部屋を抜け出しバハムーンの部屋に向かった。
夜が怖い…彼が隣にいないことが怖い。
彼のぬくもりを感じていないと、全ては私が見ている夢で、本当は彼などいないのではという錯覚にとらわれる。
だから、私は今日も彼の部屋に行く。
足音をたてないように廊下を浮遊して気配を消して誰にも見つからないように。
コンコン
「ノームか?」
「うん…」
扉越しに聞こえてきた声に、私は安堵に包まれる。
扉が開き彼の姿がみえると、私は彼の胸に飛び込んだ。
「また、夢を見たのか」
「…うん」
最近、よく見るようになった夢だった。
ノームである私は本来睡眠など必要としない、なのに最近は気付くと眠りにおち、夢を見るようになっていた。
私の隣に彼がいない、そんな夢。
「大丈夫だ、俺はちゃんとお前のそばにいる」
「うん…」
彼が私の顎を掴んで唇を重ねる。
彼の舌に私の舌を絡めると、ようやく心が落ち着いてくる。
それでも、まだ足りない。
「バハムーン、ごめんなさい…今日も抱いてほしい…」
「分かった」
浅ましい…そう思う、夢を見るたび彼のことがどうしてもほしくなる。
夢の見る回数はだんだん多くなってきて最近はほぼ毎日のように彼に抱かれていた。
彼が私を抱きかかえ、扉を閉め、ベッドに向かう。
少し乱暴にベッドに下ろされ、彼の手が手早く私の服をはぎ取る。
彼の手がブラを押し上げ、胸を揉む、乱暴な手つきに私の胸が激しく形を変える。
「はぁ…はぁ…」
私は彼に少し乱暴に愛されるのが好きだった。
痛みを感じるぐらいの力で胸が揉まれ、ちぎるように胸の中心をねじられる。
彼の歯が私の胸を噛みちぎるように突き立てられる
「ああ…あはっ…」
ほとんど濡れていない私の中に彼の指が力強く突き込まれる。
他の人間が見たらきっとバハムーンが私のことを犯しているように見える事だろう。
「感じてるな、ノーム」
耳元で彼が囁く。
「ええ…でも足りないの…もっと…バハムーン…もっと、壊れるくらいに…」
壊れたい…彼に壊されてしまいたい、不安など感じられないぐらいめちゃくちゃにしてほしい。
彼の乱暴な愛撫がたまらない、どうしようもないほど感じてしまう。
痛いのが好きなわけじゃない、それでも、痛みは自分と彼、その両方がちゃんと存在しているのだということをおしえてくれる。
じっとりと私のそこが濡れていくのが分かる。
突き立てられた彼の指が、私の中をえぐるような力で抜き差しを繰り返す。
びくびくと体が震える。
「気持ちいい…気持ちいいよバハムーン」
快楽で何も考えられなくなる。
彼の頭が私の両足の間に潜り、敏感な突起を見つけ、歯を突き立てる。
「ふぅぅぅ!?」
訪れる絶頂を私は抵抗することなく受け入れる。
荒い呼吸を繰り返し、筋肉が収縮する、彼の指を私の膣が締め上げる。
「イったか?」
絶頂に震える私を見ながら彼が呟く、それに首を縦に振ってこたえ、私は膨らんだ彼のズボンに頬を寄せる。
「悪いな…ノーム」
彼が申し訳なさそうな目で私を見つめる、そんな目で見なくて良いのに。
「いつも気持ちよくしてもらってるお礼…」
ジッパーを下ろし、飛び出してきた彼のものを、私は自分の胸で挟み込む。
両手で自分の胸を抑え、彼を挟んだまま上下にこする。
胸の間から姿を見せている彼のものを私は舌でなめて口に咥える。
「ああ…良いぞノーム」
「はむっ…んちゅ…あむ…」
彼の先端の割れ目に舌を差し入れ、中を刺激する、彼の腰が跳ね上がるように震え、びくびくと痙攣を繰り返す。
「ねぇ…気持ちいい?バハムーン」
「ああ、腰がとろけそうなほど気持ちいいぞ、ノーム」
快感をこらえる彼の顔が愛おしい。
「うれしい…から続ける…」
彼の裏筋をなめあげ、胸で挟んだまま彼の袋のようになっている部分を揉む。
「っく!出すぞノーム」
彼が私の頭を掴んでしっかりと固定する。
そして、ビクビクと彼自身が大きく震え、私の口の中に白く濁ったものが吐き出される。
「んぐっ、んぐっ」
私はそれを一滴たりとも逃さないようにごく、ごく、と喉を動かして粘りを帯びたその液体を嚥下する。
そして、口の端から漏れたそれを舌でぺろりとなめ、彼のものの中に残った精液を吸い上げて全て飲み干す。
「ふぅ…ごちそうさま」
青臭くて、独特の苦味がして、でもその味が私は好きだった。
「おかわりはいるか?」
びくびくと、すぐに力を取り戻したそれを私に見せつけて彼が囁く。
「うん、今度はここに頂戴…」
手と足をついて腰を高く上げ、十分に濡れたそこを自分の指で彼に見せつけるように広げる。
分かった…そう彼が呟いて、彼のものが押しあてられる。
「行くぞ…」
「ん…」
彼のものは何の抵抗もなく私の中を突き進み、一番深い場所を叩いてとまった。
「動くぞ…」
彼は短く呟いて、私の腰をしっかりとつかむ。
彼のものが入口まで引き抜かれ、私を突き破るような力強さで根元までたたき込まれる。
ガンガンと激しく腰がたたきつけられる、そこには普段のやさしい彼からは想像できないほどいっさいの遠慮や手加減がない突きあげ、獣のような体勢で私はまるで獣のように犯される。
「バハムーン、バハムーン…」
狂ったように私は彼を求める、彼の与えてくれる快感を抗うことなく受け入れる。
「行くぞ…ノーム」
「来て…バハムーン」
獣のような咆哮と共に彼が欲望を解き放つ、体の中が満たされていく満足感に私は静かに震える。
「悪い…ノーム、また乱暴にしてしまった」
行為が終わると、彼が私の体を拭きながらそう謝ってくる、もう、何度も繰り返された光景だ。
「乱暴にされるのは嫌いじゃない」
むしろ乱暴にされる方が感じるのだから乱暴にしてもらった方が私はうれしい。
「私は貴方の物」
誇らしげに私の体に刻まれた歯型を見せつける。
「ああ…」
そんな私を彼が抱きしめる。
そのまま、私は彼に抱きしめられたまま眠る。
私は彼が好きだった。
溺れることが許されるなら、私は彼に溺れたい。
彼の優しさに溺れて死ねるなら、それは本望だと私はいえる。
貴方に溺れていいですか?
貴方のやさしさに付け込んでいいですか?
私は貴方が好きなんです。
その日、目を覚ました私は自分が熱っぽいことに気付いた。
「…体が重い」
彼との行為で感じるのとは異なった倦怠感、そして体になにか違和感を感じる。
彼はまだ眠っていた。
いつものように先に起きてる、と書置きを残し、食堂に向かう。
だが、そこに向かう途中も自分の体の違和感は取れない。
―なんか…気持ち悪い―
いつものように浮遊しているだけなのに、いいようもない嘔吐感がこみ上げてくる。
普通に歩けばマシになるかと思って歩き出すと今度は息がすぐ上がる。
ついに耐えられなくなって私はそのまま廊下に座り込む。
頭が重い。
「…ノーム?」
「フェル…パー?」
朝の稽古をしてきたのだろう、ディアボロスと一緒に歩いてきた彼女が私を見つける。
「ちょうどよかった」
最近、彼女がドクターとしての勉強を始めたのは知っている。
「保健室…連れてって」
私の言葉に彼女があわてて駆け寄ってくる。
「これはまさか…ディア!職員室にウヅメ先生呼びに行って!」
「お、おう!」
フェルパーが私の目を見つめ、抱き上げる。
「ノーム、貴方…」
「ははは…」
まいったな…
「舌噛まないように、気をつけてね」
「…うん」
彼女の言葉に私は静かにうなづく、彼女の表情で、私はなんとなく自分の不調の原因を悟った。
「…バハムーンには内緒でお願い」
「…それは確認が終わってからね、まだ勉強し始めの私じゃ、なんとも言えない」
その割に彼女は何かを確信しているようだった。
「これは…困ったわねぇ…」
保健室のベッドに寝かされた私をどこか楽しそうな目をしたウヅメ先生が見下ろしていた。
「…あのウヅメ先生……」
ここに私を運んできてくれたフェルパーが確認を終えたウヅメ先生に話しかける。
ディアボロスは保健室の外いるらしい。
「フェルパーさんの考えているとおりよ」
「やっぱり…」
「よくわかったわね…」
「そりゃ、私も女ですし…一応、医学勉強してますしね」
ゆっくりと私は体を起こす。
「バハムーンには言わないで…」
「そうもいかないでしょう?どうするの?」
私の言葉にウヅメ先生が真剣な表情で私を見つめる。
「お願い…します」
私の言葉にウヅメ先生はやれやれ、といった首を振った。
「しばらく、迷宮探索には出ちゃダメよ?」
「はい…」
先生の言葉に私はうなづく。
「それじゃね、後は任せたわ、フェルパーさん」
「…はい」
去っていくウヅメ先生をフェルパーが見つめる。
彼女がいなくなると、私はこらえ切れなくなってフェルパーに泣きついた。
「どうしよう…フェルパー…」
「どうしようも…いつまでも隠せるわけないわ、いつか彼も気づくはず…」
椅子に座った彼女が、いつものように煙草に火をつけようとして…やめる。
「でも、怖い…バハムーンに嫌われたくない」
怖い、このことを知った彼がどうなってしまうのかが…
彼のことが好きだから、彼の重荷になりたくない
「認めないといけない、ノーム今、貴方はね…」
「…うん」
「妊娠しているの」
はっきりとそう言われると認めざるを得なくなる。
「父親は…バハムーン以外いないか…」
「当然…彼以外が私を愛してくれるわけがない」
だからこそ、怖い、彼に嫌われてしまったらどうしよう、あの夢が現実になってしまったらどうしよう、と…
「幸い、私の種族の子供なら成長してもおなかは大きくならない…」
私達ノームは半霊体だ、妊娠によって生まれる子供も当然半霊体で、親が子供のアストラルボディを用意し、生まれた子供がそれに宿ることによって初めてノームの子供になる。
「でもそれ、なんの解決にもなってないよ」
「そんなのはわかってる…でも少し時間がほしい、私がこの子をどうするか考える時間が…」
「時間があれば…いいのか?」
がらりと保健室のドアを開いてディアボロスが入ってくる。
「ディア…」
「わりぃな、さすがに聞こえちまった」
「別に…気にしない」
もともと、ディアボロスは私を見つけた時点で気が付いていた節がある。
そうでなければ、保健室の外で待っていた理由がない。
「このままでいても、どうせ気付かれるぜ、あのトカゲ、あれでいてカンが良いからな」
「…知ってる」
保健室に沈黙が満ちる。
そして、堪え切れなくなったようにディアボロスが呟いた。
「1日、1日だけ俺が考える為の時間を用意しよう」
「…え?」
予想外の提案に少し驚く。
「できるの?ディア」
「これでもあいつの幼馴染だからな、理由をつけて1日だけあいつを学園から引き離す、
ただ、あいつもカンが良い俺が学園からあいつを引き離したがってることに気づけばすぐにでも学園に帰ろうとするだろう、
それに時間に余裕があれば決心が揺らぐ、だから1日だけ俺が時間を用意してやるよ」
つまり1日やるからその間に考えろ、ということなのだろう。
「…分かった、今日の間に考えて、どうするか決める」
「…それじゃフェルパー、一日だけ出かけてくるわ」
「…うん、行ってらっしゃい」
私の目の前でフェルパーとディアボロスが口づけを交わす。
「さて、ディアが頑張ってくれるらしいからバハムーンはこれで大丈夫」
フェルパーの声には彼への信頼がこもっていた。
「…あとは、私がどうするか」
「そういうこと、ま、私や彼、そしてバハムーン以外にも貴方には仲間はいるんだしね、みんなで一緒に考えましょう」
フェルパーがそう言って手を差し伸べてくる。
私はその手を取って静かに立ち上がった。
タカチホ義塾、会議室、本来は複数のパーティで何かを行う際の作戦会議などに使われる部屋だが、今ここに集まっていたのはディアボロスとバハムーンを除いた、私達のチームのメンバー4人だけだった。
「なるほどね…なかなか難しい問題だ」
わけを聞いたリーダーのヒューマンが静かに考え込む。
普段は銃を使った説得が得意な彼だが、今までにも何度もチームの問題を解決してきただけあって、頼れる存在だった。
時折考えをまとめるようにして、紙に筆を走らせる。
しばらくそれを繰り返すと不意にヒューマンが顔をあげた。
「確認したいことが3つほどある」
ヒューマンが静かに手を挙げる。
「…なに?」
「一つ目はフェルパーに確認、君とウヅメ先生の診断結果としては今のノームは母子ともに安定しているということでいいのかな?体調不良に襲われていたとのことだけど」
「うん、その点に関しては問題ない、
ノームの妊娠プロセス的には母体に発生する一種の“揺らぎ”が子供の半霊体を形成している証拠、
今朝の不調の原因は簡単に言うと、つわりのようなものだと思ってくれれば良い」
ドクターとしての知識を発揮するフェルパーの姿はまさに医師そのものであった。
「なるほど、それでは2つ目の確認事項だけど、これもフェルパーに聞きたい、出産を行う場合予定日はいつになる?」
「私達とはそもそもの妊娠のプロセスが違うから、予定日という概念は無い
子供にある程度の半霊体が形成されれば、あとはアストラルボディを用意するだけ
今現在のノームのお腹の子供は、アストラルボディを作るだけ、子供の半霊体の形成はほとんど終わってる
今まで気付かなかったのが、おかしいレベルではある」
なるほど、とフェルパーの言葉にヒューマンがまたうなづく。
「3つ目、ノーム自身の意志としてはどうなんだ?産みたいのか、産みたくないのか、バハムーンに伝える伝えない以前にまずそれをはっきりするべきだ」
ヒューマンの目が私をまっすぐ見据える。
私の意志、私自身の気持ち…言われてみれば、彼のことばかりで、言われるまで自分自身の気持ちなど考えていなかった。
私自身はどうしたいのだろうと考えると、答えは意外と簡単に浮かんできた。
「…産みたい」
そう、私は産みたい彼の子供を、でも彼の重荷になってしまうのではないか、彼がいなくなってしまうのではないか、とそれが怖い。
「なるほど、確認したかったのは以上だ」
そう言ってヒューマンはまた考え始める。
「何か私にはノームが難しく考えすぎてる感じがするね」
それまで静かに座っていたフェアリーがぽつりとつぶやいた。
「…考えすぎてる?」
うん、と私の言葉にフェアリーがうなづく。
「産みたいという意志はあるのに、バハムーンに関しての問題では彼に否定されることが前提になっているように私は感じる、ねぇ、ノーム貴方の知る彼はそれほど信頼に欠ける人物なの?」
「…そんなわけない、それでも私は彼の重荷になりたくない」
「ふむ、なるほどこれはバハムーンというよりやはりノーム自身の問題だな」
私の言葉にヒューマンが納得した表情でそうフェアリーに告げる。
「でしょ?」
私自身の問題?
「心のどこかで彼を疑ってる、そう言いたいんじゃない二人は」
フェアリーとヒューマンを見ながらフェルパーがそう告げる。
「おおむね、そう言うことだね」
そんなはずない、と言いたいのになぜかそれが言葉にならない。
私は彼を疑っている?
「疑ってなんかない…」
絞り出すように私はそう言う、私が彼を疑うはずがない。
「言い方を変えようか、ノーム、君はバハムーンに好かれているという自信がないんだろう」
「それは…」
ヒューマンの言葉に私は何も言い返すことができなかった。
確かに私は彼のことを愛している、でも…
「だって…愛してるなんて、好きだなんて…私、一度もバハムーンから言われたことない…」
「なるほどね…」
ようやく私の態度に納得いったというようにフェルパーが呟いた。
彼女は懐から煙草を取り出して咥える。
そして窓辺に座って火をつけると、静かにその煙を吐き出した。
「ノームが不安がるのもわかるけど…くだらねぇ、あいつならきっとそう言うかな」
「ディアボロスなら確かにそういいそうだね」
フェルパーの言葉にフェアリーが笑う。
やれやれ、といった顔でヒューマンが首をすくめた。
「…どういうこと?」
みんなは分かっているようだけど、私だけが分からない。
「あのね?ノーム、バハムーンが何で貴方の感情を感じ取れるか考えたことないの?」
まるでヒントを与えるかのようにフェアリーが私をみてそう言った。
「え?」
バハムーンが私の感情を読み取れる…理由?
そんなこと考えたこともなかった。
「…なんで、だろう」
「好きだから…でしょ?」
私が悩んでいると、フェアリーが私の頭をなでながらそう言う。
「え?」
「好きだから、貴方のことを知りたくて、ずっと貴方を見てきたから、彼には貴方の感情がわかるんじゃない?違う?」
「あ」
ふと、私は彼の言葉を思い出す。
―ふむ、ずっと見てきた俺からするとかなりノームは感情豊かなのだが…周りから見るとそういうものか―
ずっと見てきた、私のことを…こんな人形のような私を彼はずっと見てきてくれた。
彼と初めて会った時、彼はただよろしくと手を差し出した。
初めて彼に抱かれた時、彼は俺を選んでくれてありがとう、と言ってくれた。
夢を恐れて彼の部屋に逃げるたび、彼は私を抱いてくれた。
こんな欲望に忠実な私を見てきてくれた。
ずっとそばにいてくれた。
言葉で伝えられたことは無いけれど、彼はきっと私を思ってくれていた。
「みんな、ありがと、決心ついた」
もう、心に迷いなんてなかった。
明日、彼に伝えよう、彼のことを信じているから。
この子が許されるならば、私は望んで罰を受けよう。
貴方を信じていいですか?貴方が祝福してくれると
貴方は許してくれますか?私がこの子を産むことを
私は望んで良いですか?この子と貴方と歩むことを
私の願いはただ一つ…ただ、この子に祝福を…
タカチホ義塾、学生寮
その中のある一室の前に私はいた。
コンコンとドアをノックする。
そう言えばこんな時間に彼の部屋に来るのは初めてだった。
「どうしたノーム?」
「ん、話したいことがある」
私が緊張している、ということに気づいてくれたのか彼は静かに部屋の中に招き入れてくれる。
「それで…話というのは…」
「うん…私…妊娠した…らしい」
言ってしまった、恐る恐る彼を見る。
彼はすこしおどろいたようだけど、いつものやさしい表情で私を見る。
「なるほど、いつ生まれる?」
「あの…ある程度私の中ではっきり半霊体ができないといけないから…ひと月くらい、あとアストラルボディもつくってあげないといけない…」
「ひと月ほどで生まれるのか…なるほど」
彼の言葉を私はひたすら待つ。
「…すまないノーム…」
ぎゅっと、手を握る。
やはり、許してくれないのだろうか?
「男なのか女なのか分からないと、名前のつけようがない」
「え??」
予想の斜め上をいく答えが返ってきた。
「ん?あとひと月だから急いで名前を考えろ、ということじゃないのか?…そうか、両方を考えれば良いのか?いや…しかし…どうしたノーム?」
何か自分がすごく無駄なことで悩んでいたようで体から力が抜ける。
みんなの言うとおり、私は難しく考えすぎていたのかも知れない。
心配そうに私を見る彼に、あんしんして、と呟いた。
「女の子の名前、それだけ考えてくれれば良い」
「そうか、なら二人でこれから考えよう、それと…ノーム」
ん?と顔を上げると、彼が私の唇を奪う。
「ありがとう、俺の子供を授かってくれて…それと…今まで恥ずかしくて伝えられなかったが、愛している」
「っ!」
我慢しきれなくなって私は彼に抱きついた。
外には少し時期の早い雪が舞っていた。
それから3カ月後
本格的な冬を迎えたタカチホ義塾の食堂、そこはざわざわとした気配が包んでいた。
向かい合って食事を続けるバハムーンとノーム、そしてそのノームの膝の上にはクラッズと見間違えるような小柄な少女が座っていた。
短い尻尾を足に巻きつけた、幼いバハムーンにも見えるし、ノームのようにも見える白い髪をした小さな少女。
その少女をバハムーンとノームはやさしい目で見つめていた。
「ぱぱ、ぜりー、ぜりー」
「駄目だ、まず皿の隅によけたピーマンをちゃんと食べろ、食べたらパパのゼリーをやろう」
「や〜!まま食べて!」
「…パパの言うこと聞かなきゃだめだよ、スノウ」
「ぶ〜」
スノウと呼ばれたその少女は膨れながらも皿の端によけたその野菜を口にする。
母親とは違って一目でわかるほど苦そうに顔をゆがめた彼女の姿に、親になった二人が破顔する。
そんな彼らの光景に食堂にまた噂が伝播する。
今、間違いなくパパっていったよな、知らないの?あいつら結婚したんだよ?
マジで!?ホントホント何で知らないの?俺この3カ月学園にいなかったしそんな会話が交わされて、にわかに食堂が騒がしくなる。
そんな食堂の扉が勢いよくあけ放たれ、拳銃を両手に構えたヒューマンが姿を現す。
「オイ、テメェら…俺は前に食事ぐらい静かにしろっつたよな」
「サー!申し訳ありません、サー!」
彼の言葉に騒いでいた食堂の全員が背筋を伸ばし、現れたヒューマンに敬礼する。
そして、ただひらすらにもくもくと食事を再開する。
「ひゅーにゃん〜かっこいい〜」
キャッキャと、スノウが笑う。
「ヒューマンだ…いい加減覚えろスノウ、トカゲ!ガキに俺の名前をちゃんと覚えさせろ!」
「無茶言うな、そもそもスノウはまだ2カ月だぞ、意志疎通できるだけ奇跡と思え、それにそもそもお前はマシな方だ、フェルパーとディアボロスはそれぞれ、にゃーにゃー、ともーもーだぞ…それと言っとくが…もし娘に手を出したら…コロス」
「出すか阿呆」
そう答えるバハムーンの顔はすでに立派な父親としての威厳に満ちている。
「…スノウ、パパが目を離してるうちにパパのお皿にピーマン移すのはだめよ」
「む〜」
母親となったノームは、愛するわが子の頭をなでてそうつぶやく、その顔には確かに慈愛の感情が満ちていた。
恋人から夫婦、新たな関係を歩みだした二人。
そんな二人を見つめながらフェアリーは小さく呟いた。
「彼らに神のご加護がありますように…」
タカチホ義塾は今日も平和だった。