「ねぇ…あんた何してるの?」  
紫色の髪をしたバハムーンの少女がボロボロの服を着たフェルパーの少年に話しかける。  
「別に…どれぐらいやったら壊れるのか、試してただけ…」  
へこんでもはや元がどんなものであったか分からない金属のそれをフェルパーの少年はただ力をかけてつぶしていく。  
「珍しいね…しっぽ2つ」  
バハムーンの少女は楽しそうに彼の二股に分かれた尻尾をさして笑っている。  
「先祖がえりだからね…」  
異様に伸びた爪、二股に分かれた尻尾、尋常ではない力、フェルパーという人でありながら獣の性質をもってしまったビーストと呼ばれる存在。  
「先祖がえり、何それ?」  
バハムーンの少女はよくわからないといった顔で少年を見る。  
「…人間なのに、僕たちフェルパーが人間になる少し前に戻っちゃたやつをそう言うんだって」  
だから、人間じゃない…  
幼いころに自分を捨てた親はそう言った。  
「ふ〜ん、すごいね」  
多分まったく理解していないのだろう、無邪気な顔で少女はそう言う。  
「すごくなんかない…だって僕は人間じゃないんだもん…」  
二股の尻尾がしょんぼりと下を向く。  
「なんで?」  
「人になる前に戻っちゃったんだから…僕は人じゃないんだよ…」  
悲しい、きっとこれはそう言う感情なのだと僕は知っている。  
人じゃないのなら何で僕には感情があるんだろう?  
「私のパパはすごい冒険者だから私しってるよ、人と人は話し合える、話し合えるから人何だって」  
胸を張って彼女は言う。  
「だからあんた人でしょ?だって私を話してるじゃない、だからあんたは人」  
「はぁ?」  
少女はさも当然かのようにそう告げる。  
「それよりも…もうこんなに遅いのにこんなところで遊んでちゃパパとママが心配するよ?」  
何も知らない少女はそう言って僕を見る。  
「…パパとママなんか居ない」  
 
僕は捨てられたんだから。  
だから僕に居場所なんてない。  
「そっか…同じだね」  
少女がそう言う。  
「え?」  
「だって私のパパとママもいつもおうちにいないの冒険者だから、いつも私は一人ぼっち」  
さびしいんだろう、だからきっと僕なんかに声をかけたんだ。  
「僕の場合はホントに居ないから君とは違うよ」  
「ほとんど同じでしょ?」  
「それでも、おうちはあるじゃん、僕はおうちすらないんだよ?」  
そんな僕の言葉に彼女は何かを思いついたようだった。  
「じゃあ、私のおうちに来なよ!!」  
そう言って僕の腕をつかむ。  
「痛いよ…それになんで僕が君のおうちに行かなきゃいけないのさ」  
動物でも拾ったつもりなのだろうか?  
馬鹿馬鹿しい。  
「だって、私も一人であんたも一人、でも一緒なら二人でしょ?」  
「はぁ?」  
何が言いたいのか全く分からない。  
嫌がる僕を無理やり連れて行こうとする。  
「なんできてくれないのよ!!」  
「なんできみと行かなきゃいけないのさ!!」  
イライラとした気分が高まってきて、彼女に向かってそう叫ぶ。  
「だってお友達になってほしいんだもん!!」  
そんな僕に、涙を浮かべながら彼女がそう叫んだ。  
「は?」  
お友達?何でまた。  
そんなことを思っていると目の前の彼女はわんわん泣きだす。  
「だって…だれも私と遊んでくれないんだもん!パパとママもいないし、みんな私とお話してくれないんだもん!!」  
「だから何で僕が…」  
「だって…あんたはお話ししてくれるじゃない…」  
泣き続ける彼女が嫌になって仕方なく僕は呟いた。  
「分かった…行けばいいんでしょ、お友達になれば良いんでしょ」  
僕の言葉に彼女がようやく泣きやむ。  
「ホント?」  
「うん」  
「やったーー!!」  
本当にうれしそうに彼女が飛び跳ねる。  
「人じゃないから友達とは言えないけどね…」  
自嘲するような僕の言葉に彼女が頭をたたく。  
「いたっ!?なにするのさ!」  
「私が人だって言ってるんだからあんたは人なの!!覚えておきなさい!!」  
ホントにコロコロと表情が変わるやつだと思う。  
「はいはい…」  
「そうだ…あんた名前は?」  
そう言って差し出された手を取って彼女が笑う。  
「僕は…フェルパー」  
「そっか、私はバハムーン、みんなお嬢様とか呼ぶけど、フェルパーはお友達だからお嬢って呼んで良いよ」  
ほとんど変わってないようだが、彼女の中ではきっと違うんだろう。  
「よろしくね!フェルパー!!」  
うれしそうに彼女が笑う。  
「よろしく…お嬢」  
やれやれと思いながらも、初めて自分が必要とされた気がして初めて僕はうれしいという気持ちを知ったのだった。  
 
 
「ん?」  
不意に窓から差し込む朝日に気づいて俺は目を覚ます。  
「夢か…またずいぶんと昔の夢だな…」  
 
大きく伸びをして体をほぐす。  
お嬢と俺が初めてあったころの夢とはずいぶんと昔のことを思い出させてくれる。  
「懐かしいもんだな」  
案内された家を見て、俺はかなり驚いたことを今でも覚えている。  
バカでかい門にバカでかい屋敷、彼女をお嬢様と迎える執事とメイド。  
たまたまいた彼女の両親は、彼女が今日からここで俺を済ませてほしいというと素姓も分からぬ俺をみて、ただ一つの質問をした。  
「君、家族は?」  
「…いません」  
「なら今日からうちの息子だ」  
それだけ言って温かく迎えてくれた。  
それからは驚きの連続だった、初めてまともな服を着て、初めてまともな食事をした。  
冒険者である彼女の両親は確かに家にいる事は少なかった、周りには多くの人間がいたが、そのなかに彼女と同じような年の人間がいるわけもない。  
だから俺達は二人で遊んだ。  
イタズラをして二人でメイド長に怒られた。  
姉弟のように育ち、成長していく中で俺は彼女から受けた恩を返す執事として彼女に仕える為の勉強をした。  
立ち振る舞い、知識、心得、そして何より、彼女を守るために戦う技。  
そうして、冒険者を目指す彼女と共にあるために、共に冒険者を目指し、このプリシアナ学院で過ごすようになった。  
「お嬢がいなけりゃ今の俺はいないな」  
笑いながら、いつものように鏡の前にたっていつものように髪を手入れし、もはや普段着となった燕尾服に袖を通し意識を引き締める。  
そろそろお嬢を起こす時間だ、彼女を寝坊させるわけにはいかない。  
「良し!」  
どうせ彼女を起こした後は他の色ボケ4人を起こさなければいけない、めんどくさくて仕方ないが、それも俺の仕事のうちだ。  
「それでは旦那様、奥様、行ってまいります…」  
彼女の両親は、息子が娘の執事になるとはおかしなことだと笑ってくれた。  
俺を本当の息子のように可愛がってくれた彼女の両親の写真に礼をする。  
こんなことをしていたらまだ生きてるのに縁起でもないときっと笑うだろう。  
だから部屋を出る前にもう一度、振り返って俺は言う。  
「んじゃあ、父さん母さんいってくるわ」  
彼らの息子として、いつもの日課を終えた俺は自分の仕事をするために静かに部屋の扉を閉めた。  
 
 
「遅い…」  
俺の主人でもあるバハムーンの少女が紫色の髪を弄びながら、明らかにいらついた声で呟いた。  
「…またいつも通りか」  
懐かしい夢を見て上機嫌だったが予想通りの展開に俺は思わず呆れたように呟いた。  
チームで集まる約束だったはずの会議室には約束の時間をすぎても俺とお嬢の二人しかいない。  
「そう思うなら、フェルパー、貴方が何とかしなさいよ」  
俺の呟きに、ギロリとお嬢が苛立ちを隠さずにそう言い放つ。  
「そう言われても、俺にだって無理なことはあるさ」  
俺が執事となって長い、もはやいつものお嬢の無理難題をさらりと受け流す。  
「それでも、なんとかしなさいよ、最近はエルフとディアボロスまで寝坊してるんだし、何か理由とか分からないの?」  
普段、みんなの前とは少し違う口調でお嬢が話す。  
「…知らなくはないが、お嬢にはまだ早いよ」  
俺は数カ月ほど前までは同じようにとある馬鹿たちを待って座っていた彼女たちの席を見て呟く。  
理由を知らないわけじゃない、だがそれをお嬢に知らせるのはどうかと思う。  
「いつもフェルパーはそう言うけど、一体何が早いっていうのよ!!」  
いつも通りのやり取りに彼女がイライラした声で叫ぶ。  
「いつかはお嬢も分かる、それまでは知らなくて良いんだよ」  
見た目とは違って、彼女はいろいろと幼かった、だから俺はいつものように返す。  
「そうやっていつもいつも…」  
「あ〜、怒んなよ、お嬢、今起してくるから少し待っててくれよ」  
本格的に怒りだしそうな彼女から逃げるように俺は席から立ち上がる。  
「フェルパー…」  
まだ彼女が何か言ってくる。  
「何だお嬢?」  
「…なんでもない、早く起こしてきなさい」  
明らかに彼女は何か言おうとしていたはずなのにそれをやめてそう告げる。  
「はいはい」  
彼女に促されるまま、俺は会議室を後にするのだった。  
 
パタンと小さな音を立て、フェルパーが会議室を去っていく。  
その背中が見えなくなると私は大きくため息を吐いた。  
「ああ〜もう!折角二人っきりだったのに何してんのよ!!」  
また彼にあたってしまった。  
わがままな女だと思われていないか心配になる。  
「あ〜もう、なんで素直になれないかな私は…!」  
ホントは折角の二人きり何だから昔のように話をしたい。  
彼と笑いあいたい、いくら彼がいつもそばにいてくれても、他のみんなには秘密で話したいことだっていっぱいある。  
「あ〜むしゃくしゃする〜、なんで他のみんながいるときは普通にできるのに何で二人っきりだとまともに話せないんだろ?」  
姉弟のように育ってきたのに、なぜか、最近彼と話しづらい。  
二人きりだと胸がドキドキして苦しくなるし、何かを考えるとすぐ彼の顔が頭に浮かぶ、  
落ち着かなくなって、結果としていつも辛くあたってしまう。  
―病気かなんかなのかな?―  
「は〜…なんか原因が分かればマシなんだけど…」  
―いっそ他のみんな相談してみようかな?―  
幸い、うちのチームには私以外に3人も女性がいる、同じ女性ならもしかしたらこの原因が分かるかもしれない。  
「う〜、何でだろ気になるな〜?」  
この原因が分からないといつまでたっても彼に辛く当ってしまいそうで嫌になる。  
「ほんと、よくわかんない…」  
とりあえず、今は彼が他のみんなを呼んでくれるのを、私は一人でただ待つだけだった。  
 
いつも通り俺はセレスティアとクラッズを引きずって会議室を目指す。  
「お前らもいい加減に学習しろ、同じバカップルでもエルフたちはまだ自分で歩く」  
このバカ二人には今頃会議室でお嬢の相手をしてくれてるはずの彼女達ぐらいの考えを持ってほしくてそう背後の二人に告げる。  
「無理だな…あいつらとはそもそもの回数が違うからな、一晩で両手で数えられる程度しかしないやつらと比較されても困る」  
だが、それを聞いたセレスティアは俺に引きずられながらもいつもの調子で話す。  
「まったく、お前は…、お嬢の前では少しは自嘲しろ、今度は本気でお前を狙うぞ」  
そう言って袖を揺らすと、その中に隠したナイフがぶつかり合ってジャラジャラと金属質な音を立てる。  
「まぁ、落ち着いてって、フェルパー、それよりさ、お嬢が大切なのは分かるけど、いつまでも大人になったら分かるって言うのもやめた方が良いと思うよ?」  
ようやく自分で歩き出したクラッズが不意にそんなことを口にする。  
―お嬢が無垢なことの一体、何が悪いというのか―  
そんな俺の心の内を見透かすように鈴の音を響かせながらクラッズが呟く。  
「お嬢だって年頃だしね、近い将来、そう言う知識が必要になるかもしれないじゃん、悪いやつに騙されないためにも必要だとおもうよ?無垢と無知は全然別物だし」  
チリン…と鈴を鳴らしながらクラッズが歩く。  
お嬢が、いつか誰かのものになる、そんな想像が嫌になる。  
苛立ちと独占欲が俺を包んで覆おうとしてくる。  
「少し黙ってくれ、クラッズ」  
だから、そんな思いを振り切るように、ほぼ八つ当たりぎみに彼女にそう告げて黙らせる。  
ビクリと彼女が震えて鈴が奇妙な音を立てた。  
 
そんな俺を見たセレスティアが自分で立って俺を厳しい目つきで睨みつける。  
「おい、フェルパー、人の女に当たんな…殺すぞ」  
ゾクリと背中を刺すような殺意が俺に向けるセレスティアの目。  
「……悪い」  
「俺に謝ってどうする…クラッズに謝れよ」  
普段の飄々とした態度からは想像もできない強い口調でセレスティアが告げ、俺の腕をつかむ。  
一般的なセレスティアという種族からは考えられない強さで腕が握られギリギリと音をたてた。  
「…すまなかった、クラッズ」  
「ん、別に良いよ、セレスティアも怒んないでよ、まったく…」  
「これでもお前を愛してるからな」  
クラッズの言葉に軽口で返しながらセレスティアはようやく手を離す。  
「あはは…」  
少し照れたようにクラッズが笑うと、それに合わせて鈴が澄んだ音を立てる。  
素直に、愛情を伝えられるセレスティアとクラッズがうらやましかった。  
お嬢に対して、自分が主従や長年連れ添ってきた姉弟以上の感情を持っているのは気付いている。  
だが、自分を救ってくれた彼女に、そんな思いを抱いてしまって良いのかという思いが俺を縛っている。  
姉弟のように育ってきたのに、そう思ってしまう。  
―…俺はお前らがうらやましいよ……―  
心の中で一人呟く、そしてよぎった思いを振り切るようにセレスティア達に向かって言った。  
「それより、早く会議室に行くぞ、お嬢をこれ以上待たせたら俺の沽券にかかわる」  
「おいこらやめろ、いま良いところなんだ」  
「あー制服が伸びる〜」  
文句を言い続ける彼らを引きずって俺は会議室に急ぐのだった。  
 
襲いかかるモンスターの群れを蹴散らして、私達はひたすら進む。  
今私達は、届け物を持ってタカチホ義塾を目指している途中だった。  
「…あつい、フェルパー飲み物…」  
見つけた洞窟の冷たい床に腰をおろしながら私は自分の従者にいった。  
「はいよ、お嬢…」  
私の言葉に、フェルパーがそう言って冷えたお茶を差し出してくれる。  
それを飲んで体を冷やしながら、熱いだろうに燕尾服を脱がないフェルパーには少し驚く。  
「エルフ…おんぶして…疲れちゃった」  
「はい!もう喜んで!……じゃなかった、仕方ないわね…ディアボロスは…」  
最近、妙にディアボロスと妙に仲の良いエルフが何かあわてながら疲れたのかへたり込んだディアボロスを背負う。  
「…さすがに熱いな…炎熱櫓は…」  
「…鈴が熱い…」  
言葉の割に苦しそうではないセレスティアと対照的に疲れ切ったクラッズは冷えた洞窟の床に寝そべりながら呟く。  
「予想外に消耗が激しいな…フェルパー状況的にどう思う?」  
床に寝そべったままセレスティアがそう言うと、額の汗をぬぐいながらフェルパーが全員の状態を確認する。  
「お嬢はどうだ?」  
「…見れば分かるでしょ」  
熱さで応えるのも億劫になってつい苛立ちを彼にぶつけてしまう。  
「悪かった、一応、病人とかはいないみたいだが…」  
「…ああ、熱すぎて苦しくてゾクゾクする……」  
他のみんなの様子を確認してセレスティアにフェルパーが何かを言おうとした瞬間、ぽつりとエルフがどことなく嬉しそうに呟いた。  
―なんで苦しいとゾクゾクするんだろう?―  
熱いせいで彼女も少しおかしくなってるのかも知れない。  
背負われたディアボロスが心配そうに彼女を見ていた。  
「…セレスティア、どうやら一人重症者がいるようだ、末期になる前に休ませる必要がある」  
エルフを軽く見てフェルパーがセレスティアにそう告げた。  
「…しかたないな」  
やれやれ、といった感じで立ち上がる。  
「フェルパーはまだいけるか?」  
「俺はな」  
「そうか俺もだ」  
セレスティアの言葉にフェルパーはそれだけつぶやいた。  
「決まりだな、全員聞け、あとエルフは帰ってこい」  
バサリと黒い翼をはばたかせてセレスティアがチームのメンバー全員を見る。  
「大丈夫…ご…ディアボロスの柔らかさのおかげでちょっと正気に戻れた」  
「それはなによりだが末期レベルは上昇してるぞ、それでだが、このままだと辛いだろうから、取り合えず女性陣はここでそのまま待機、俺とフェルパーでトコヨ目指して、後で迎えにくる」  
「え?それ大丈夫?」  
セレスティアの言葉にクラッズが不安そうに言う。  
 
「このままお前らに無茶させる方がマズイだろ特にディアボロス、お前実はかなり限界にきてるな?」  
セレスティアがそう言ってエルフの背におぶさっているディアボロスを見る。  
「…そうなん…そうなの?ご…ディアボロス?」  
「…エルフと少し二人っきりにさせてくれれば回復するわよ、これくらい……」  
いつもの弱弱しい雰囲気ではなく、どこか大人びた口調でそんな風に応えるディアボロスだがその声には確かに疲弊の色が混じっている。  
「アホか、倒れてエルフに心配かけたいのか?」  
セレスティアに言われ、エルフを見た彼女はため息を吐いた。  
「…分かったわよ」  
「そう言うわけだ、お嬢、少しの間フェルパー借りるぜ?」  
「…仕方ないわね、フェルパー、早く迎えに来なさいよ?」  
「分かってるさ、お嬢」  
私の言葉にフェルパーが笑う。  
本当は2人だけで行かせるなんて心配だけど、私も疲れているから彼の足を引っ張ってしまうかもしれない。  
生まれながらのビーストの彼と、他のセレスティアはどこか異なったセレスティアこの二人だからこそ、なれないこの環境でも耐えられるのだろう。  
仕方なく、その言葉にうなづくと、フェルパーとセレスティアが洞窟から出ていく。  
「フェルパー…」  
―ケガしないでね―  
「ん?なんだお嬢?」  
「…何でもないわ、早く行きなさい…」  
言いかけた言葉を飲み込んでごまかすと、やれやれと、彼が苦笑してセレスティアと共に出ていった。  
 
彼の姿が見えなくなると、他のみんながいるにも限らず私は大きなため息を吐いてしまった。  
「何やってんだろ私…」  
気をつけて、それが言いたかったはずなのに結局言えなかった。  
どうしても彼を見るとへんな感じになってしまう。  
後悔の念が私を襲う。  
「どうかしたのお嬢?」  
そんな私をみたクラッズが声をかけてきた。  
不意に、今朝私は彼女たちに相談しようと思っていたことを思い出す。  
ちょうど、今は私達女性4人だけだった。  
「…すこし、悩みがあるんだけど、聞いてくれないからしら?あと、できればエルフとディアボロスにも聞いてほしいの…」  
「うんいいよ、ディアボロスちょっと動かすね」  
「…うん」  
私の話を聞くために、エルフが少し近くによって床に座り、ディアボロスの頭を膝に乗せて横にならせる。  
クラッズも私のそばに座った。  
 
「んで、聞いてほしい悩みって?」  
クラッズがそう言って私に話を促す。  
「うん…なんか最近私、どうも変なの…フェルパーを見てると胸がドキドキして苦しくなって。  
昔は普通に話せたのに、最近はどうしてもわがままとか文句ばっかり言っちゃって…」  
私の話を3人は真剣に聞いてくれる、彼女たちなら何か分かってくれるかもと私はその悩みを打ち明けた。  
 
「…なんか私、病気なのかな?」  
そう言って私が締めくくると、クラッズが何かおかしなものでも見るように私を見ていた。  
「…いやまぁ、ある意味病気かもしれないけどさ…これは言っても良いものだと思うかな?エルフ」  
「…さすがに、フェルパーだって許してくれるでしょ、何よりお嬢の悩みなんだし…無垢と無知はちがうんだし、教えてもいいと思う」  
ひそひそと彼女たちが顔を合わせながら会話する。  
なんなんだろうと、不安になりながら私は彼女たちが何か言ってくれるのを待つ。  
しばらくひそひそとした会話が続いていたが、耐えられなくなったようにディアボロスが呟いた。  
「…別に普通よ、お嬢だって女なんだから恋愛感情だってもつでしょうが」  
「あ」  
「言っちゃったよ…」  
ディアボロスの発言にひそひそと話しあっていた二人がおもいおもいの言葉を口にした。  
とうの私は予想外の答えに驚いて明らかに普段と様子の違うディアボロスへの違和感を忘れる。  
「恋愛感情…って、え?」  
―フェルパーみてるともやもやして、恋愛感情?―  
言葉の意味を理解できず困惑する私を見ながらディアボロスがエルフの膝から体を起こす。  
そして、その首に手をまわした。  
 
―恋愛感情ってつまり…―  
「言葉だけじゃ分かんないでしょ…見せてあげるわよ」  
くすくすとディアボロスが笑う。  
「ちょっ!ディアボロスそれはマズイでしょ!?お嬢!お嬢が見てるって!!」  
クラッズがディアボロスのしようとしていることに気付いたのかあわてて止めようとする。  
だが、それよりも早く、ディアボロスがエルフの唇を私の目の前で奪った。  
「ふむっ!?駄目、ご主人様!みんなが見てる!!」  
あわててエルフがディアボロスから離れてそう言うがその首を再びディアボロスが抱き寄せる。  
「はっ…!しった事じゃないわね、良い機会だからみんなに貴方が誰のものか教えてあげなさい」  
「はむっ!?」  
ぬちゃぬちゃと二人が目の前でキスをしていた、ただ昔読んだ絵本で王子様がお姫様にしていたのとは全く違う、まるでディアボロスがエルフのことを食べているかのような絡み合うキスに私は何が起きているか分からない。  
なぜか胸がドキドキして、目をそむけた方が良いのだろうかと、そんなことを考える  
その間にもディアボロスの行為はどんどんエスカレートしてエルフの制服の隙間から手をその中に滑り込ませていく、エルフの制服の中でディアボロスの手が動きまわっているのが分かる。  
「ふぁっ!ご主人様そんなとこつかんじゃ…ふぁ、入ってる入ってる!!」  
「熱くてイライラしてたのよね…エルフも欲しいでしょ?」  
ディアボロスがエルフのことを押し倒し、ごそごそと動くたびにエルフが悲鳴をあげる。  
「ふえっ!?どういうことどういうこと!?恋愛感情でどうしてそうなるの!?」  
「ストーップ!落ち着いてお嬢、ちゃんと話すから落ち着いて、というかむしろ目をとじなさい!あとディアボロス、それ以上続けてお嬢に見せたら本気でフェルパーに殺されるから!!エルフも喘いでないで抵抗しなさい!!!」  
クラッズがあわてて場の混乱を収めようと叫ぶとあわてる彼女の心を表すかのように鈴の音色が洞窟に響くのだった。  
 
「あはっ…残念」  
叫ぶクラッズを見て、くすくすと笑いながらディアボロスがエルフを解放して座った。  
そして手に付いた何かをペロペロとなめる。  
「とりあえずこれで我慢してあげる、おいしかったわよ、エルフ」  
「…最後まで食べてもらいたかった……」  
残念そうにエルフが呟いて、乱れた制服とスカートを直しながらディアボロスの隣に座る。  
「ど、どういうこと?」  
まだ少し混乱している私の肩をクラッズがつかんだ。  
「いいから落ち着きなさい、ちゃんと教えてあげるから」  
真剣な彼女の顔に私はただうなづいて大きく深呼吸を繰り返す、呼吸が整ってきたのを見るとクラッズが再び座った。  
「いや〜焦った、ディアボロス、マジでお嬢の前でヤるつもりだったでしょ」  
苦笑いしながら場を混乱させた張本人をクラッズが見る。  
「ただでさえ熱いのに更に暑苦しくさせるような話聞いたらいっそ見せつけてやろうかって思うじゃない」  
「…その、私は別にご主人様が望むならそのまましていただいてもよかったんですが…」  
普段とは全く異なった口調でしゃべるディアボロスに横に座ったエルフが頬を染めながらもじもじと体を揺らせた。  
「せめて夜にしなよ、私だって野外でヤったりするけど夜みんなが寝てからしてるんだし」  
彼女達は一体何の話をしてるんだろうか?おいてけぼりにされた私はぽつんと彼女たちを見ながら座っていた。  
「あ、ごめん話戻すねお嬢、さっきの話だけど、ディアボロスの言うとおり別に普通だよ、病気とかじゃないから安心して」  
「…そうなの…良かった、でもじゃあなんで?」  
病気ではないと聞かされようやく私はすこし安心する。  
そんな私をみて、クラッズは言葉を選ぶように何か考えながら口を開いた。  
「あのさ、お嬢、お嬢がフェルパーに感じてるのはね、私がセレスティアに対して感じてるのと同じものなんだけど…分かる」  
「…クラッズがセレスティアに感じてるのと同じ?」  
―クラッズがセレスティアと一緒にいるのは恋人だからよね?それで、そのクラッズがセレスティアに感じてる感情ってことは…―  
「え?まさか…」  
ようやく、私はその意味を理解してそう呟いた。  
「ちなみに私がエルフに対して持ってる感情とも一緒ね」  
くすくすと、大人びた表情でディアボロスが笑う。  
 
「…もしかして、私、フェルパーのことが好きなの?」  
自分で口にして、一気に恥ずかしくなって顔が熱くなる。  
言われてみれば、本で読んだことのある主人公が確か私と同じ様なことを言っていた気がする、何でそんなことに気付かなかったんだろう、しかも、他のみんなに相談までしてしまった。  
「…いや、どう考えてもお嬢フェルパーのこと好きでしょ、フェルパーのこと考えると胸がドキドキするとか二人っきりだとわがままを言うとか…」  
「言わないで!!さっきの話は忘れて!!」  
クラッズがにやにや笑いながらさっき私が口にしたことを口にする。  
恥ずかしすぎて死んでしまいたい。  
「…まぁ、お嬢のことだからなんとなくそうだとは思ってたけどね」  
エルフがそう言って私を見る。  
「私…どうしたらいいの?」  
「はぁ?普通に告白すればいいじゃない」  
何をいまさらとばかりにディアボロスがそう言って足を組む。  
なんとなく、今のディアボロスは普段を知ってるだけに怖かった。  
「で、でも…フェルパーにいつもわがまま言っちゃってるし、そもそも姉弟みたい育ってきたから…私のことなんて…」  
自分の気持ちを知ると今まで彼にしてきたことへの後悔の念がやってくる。  
―私なんか…好きになってくれるわけないよね―  
悲しくて、涙が出そうになる。  
「…別に私はそんなこと気にしなくていいと思うけどね」  
そんな私にふとエルフがそう言った。  
「え?」  
「お嬢は不器用だって、きっとフェルパーは分かってるんじゃない?だってずっと一緒に育ってきたんでしょ?貴方が嫌いだったら、貴方のために執事なんかになろうと思わないじゃない」  
やさしく姉のようにエルフはそう言って笑った。  
「うん、私もエルフとおんなじ意見かな、お嬢のことずっとみてたならそんなこと気にしないでしょ」  
クラッズはそう言って鈴の音を鳴らす。  
チリン…と優しい音色が辺りに響いた。  
「…大丈夫でしょ、私なんか告白する前にエルフの初めて散らしたし」  
さらりとディアボロスがそんなことを口にする。  
 
「…初めてってなに?」  
さっきからたまによくわからない言葉が混じる。  
「んー…まぁ、お嬢も好きな人がいるってわけだし、必要な知識だから教えておいた方がいいかな?」  
クラッズがディアボロスの言葉を聞きながらエルフを見る。  
「うーん、いっそお嬢に聞こうか?」  
「お〜名案だね、私達も良いわけできるし」  
エルフの言葉にクラッズが賛同する。  
「えっと?」  
困惑する私に向かってクラッズが向き直った。  
「あのさ、お嬢、実際にフェルパーと恋人になった時のために、他の恋人たちの経験談聞かない?」  
なんとなく、不安を感じながらも私はそれにうなづいた。  
 
 
「遅れてすまない…」  
何とか宿まで辿り着いた上でセレスティアの魔法を使ってお嬢たちが待っている洞窟まで戻ってくる、結局1時間近くかかってしまったお嬢に叱られる覚悟でそう言って洞窟に入った。  
だが、反応は予想外のものだった。  
「…おかえりなさい」  
なぜか頬を少し染めてお嬢がただ小さくそう告げる。  
「…あ、ああ、大丈夫かお嬢」  
「う、うん!大丈夫、フェルパー達のおかげでだいぶ休めたよ」  
―オカシイ―  
普段なら絶対言いそうにもないセリフを彼女が口にする  
何かあったのかと思いながら他の3人をみると何やらニヤニヤした顔で俺とお嬢を見ていた。  
「何があったお嬢…」  
「う、ううんみんなと話してただけだよ」  
明らかに嘘をついてる感じだった。  
 
やっぱりお嬢を置いていったのは失敗だったかもしれない。  
どんな話をしたのか聞きだそうと服の中に隠していた刀を取り出し…  
「ストップ、フェルパー話の続きは宿についてからだ、重病人が2人に増えてる」  
その刀をセレスティアが抑えてそう言った。  
「なに?」  
セレスティアに言われるままにみわたすとエルフとディアボロスがぐったりとした表情で二人は洞窟の床に寝そべってる。  
「宿、取ってきたんでしょう、それならさっさと行こうじゃない」  
ディアボロスが髪を掻きあげ立ち上がる。  
「…宿、温泉、オシオキ……」  
そしてエルフはそのディアボロスに寄り掛かるようにして言葉少なく立ち上がる。  
「…たしかにその通りだな」  
いくら部屋は別でも同じチームである以上、話はいつでも聞くことができる。  
「んじゃ、セレスティアお願いね〜」  
チリンと鈴を鳴らしながらクラッズがセレスティアと手を絡める。  
お嬢がそれをうらやましそうな目で見ているのを見ながら、セレスティアの魔法によって俺達はその洞窟を後にするのだった。  
 
 
「あ〜生き返る〜」  
トコヨにつき、宿の広間に用意された扇風機にあたって冷たい飲み物を飲みながらクラッズが呟いた。  
エルフとディアボロスは宿に着くなりセレスティアから鍵を奪って真っ直ぐ部屋に向かっていった。  
その結果、残ったのは俺とお嬢とセレスティア、そして今涼んでいるクラッズの4人だった。  
 
「で、お嬢に何きかせた?」  
「何だっていいじゃん、女の子同士のお話、お嬢もいろいろと悩んでて誰かに相談したかったんだってさ、ね?お嬢」  
アイスを咥えてクラッズがお嬢にそういう。  
「ええ、悩みを聞いてもらってスッキリしたわ」  
先ほどまでおかしかったお嬢の様子も今は一応もとに戻っている。  
「…お嬢がそう言うなら俺は何も言わん」  
「それでいいんだよフェルパー、男が男同士でしか話せない話があるように女だってそう言う話をしたい時もあるもんだ」  
セレスティアはクラッズのように冷たい飲み物を飲みながら、羽を動かしてクラッズのことをあおいでいる。  
「ところで、フェルパーなんでも今日は祭りがあるそうだ、どうせ夕食までは時間もある、お嬢と一緒に行ってこいよ」  
「なんで俺とお嬢が…」  
「…フェルパーは私とは行きたくないの?」  
からかうようなセレスティアの口ぶりに、断ろうとすると、お嬢がそう言って俺を見た。  
やっぱり、何かがおかしい…。  
「いや…だよね…やっぱり、私みたいなわがままな女なんか」  
「…お嬢?」  
なぜ彼女は泣きそうになんだろう?  
誰が彼女を悲しませている?  
「ごめんなさいフェルパー…」  
―泣くなよ…お嬢…―  
もし、彼女が俺を想ってくれているなら…  
俺は悩むことなど無いんじゃないか?  
気付いた時には彼女の手を掴んでいた。  
「…フェルパー?」  
何で自分がそんなことをしているのか分からない。  
ただ、俺が言うべき言葉は何なのかそれだけは分かる。  
「行くんだろお嬢…だったら制服よりかはもっと良い服着て行こうぜ?」  
「あ…、うん!!」  
俺の言葉にお嬢が本当にうれしそうに笑った。  
まるで、彼女とはじめてあったときのように…  
―…悪い、父さん母さん、俺にはやっぱ無理だった―  
主としてなんか見れない、姉としてなんか見れない。  
もしかしたら、俺の勘違いで彼女はただ祭りに行きたいだけかもしれないけど。  
それでも良いから自分の気持ちを彼女に伝えたい。  
そのためにはこの格好では行けない。  
「おい、セレスティアにクラッズ、お嬢に良い服を用意してやってくれ」  
それだけ言って俺は広間をあとにする。  
「おい、フェルパー?」  
セレスティアとお嬢が俺に心配そうな声をかける。  
「心配すんな、着替えるだけだ、折角お嬢に誘ってもらったんだしな、たまには燕尾服以外にしないとな」  
そう言って俺は広間を後にした。  
 
「あいつ…燕尾服以外の服持ってたんだな…」  
「それはそうでしょうよ、それよりお嬢の服考えないと…」  
「…えっと?」  
「はーいお嬢!これはもう勝負下着着けて試合に行くしかない!服は浴衣、もし勝負下着がないなら下着はつけるな!!」  
「ふえっ!?勝負下着って!わかんないよそんなの!でも下着なしはイヤ!!」  
「なら私についてくる!!」  
クラッズとお嬢は何やら忙しそうに出ていく。  
「…置いて行かれたがまぁいいだろう、にしてもフェルパーにしては珍しいな」  
そんなことを考えているうちに俺はあることに気付いた。  
「…なるほどね、なかなか面白い考えだ」  
―だが、それで良いフェルパー―  
ちゃんと向き合う気になったアイツを少しだけほほえましく思うのだった。  
 
 
「フェルパー…だよな?」  
しばらくして着替えを終え戻ってきた俺をみてセレスティアは失礼なことにそう言った。  
「他の誰に見える」  
証明するかのように二股に分かれた自分の尻尾を見せつける。  
「お前が燕尾服以外を着てるところ見たことがなかったもんでね、それにしても結構にあってんな」  
「執事になる前は奥様が服を選んでくれたんだがな、もともとタカチホの人間だったらしくてこういう服ばっか俺に着せるんだよ」  
そう言う俺の恰好は、燕尾服の次に着なれた男物の着物だった。  
「お嬢は、もう少しかかるか?」  
「…いや?多分すぐ終わるとは思うぜ、今ごろ帯をつけてるだろ、にしても…お前思い切ったな」  
「ああ、少しな…にしても、着物は武器を隠すところがなくて困る、結局全部置いてきた」  
「…そういやあの燕尾服の中ってどうなってるんだ?」  
「…今なら俺の部屋にあるけどみてくるか?」  
「…いや、やめとく、知りたくもねぇ」  
セレスティアがそう言うと、広間の扉が開いた。  
「はいはいお待たせ〜お、フェルパーも着物か、ベストマッチだね」  
鈴の音とともにクラッズがまず顔を出し笑った。  
「お、お待たせ…」  
そしてそれに遅れて薄い緑の浴衣を着たお嬢が少し恥ずかしそうに現れた。  
普段は肩ほどまで伸びたストレートの紫髪は頭の後ろで結われ、いつもとは全く違った印象を受ける。  
どこか恥じらう雰囲気も合わさって今の彼女はいつも以上にかわいらしい。  
「おお、似合ってるなお嬢」  
セレスティアがそう言って手をたたく、俺も素直に関心した。  
「に、にあってるかな?フェルパー…」  
心配そうに俺を見るお嬢に俺は笑いかける。  
「ああ、よく似合ってる」  
「あ、ありがと、それとフェルパーの着物姿久々だね」  
「ああ、まぁな…」  
なんとなく気恥ずかしくなって頭を掻く。  
お嬢は昔、姉弟のように育った時のころの口調でしゃべっていた。  
まずは昔のように、俺の思惑はうまくいっているようだ。  
ただセレスティアやクラッズがそんな俺達をにやにや見てるのがむかつく。  
「行こうぜ、お嬢」  
「うん…」  
恥ずかしさを隠すように彼女が俺の手を取ると俺は彼女とともに宿を後にするのだった。  
 
祭りの音が響いてる、人の数はそれほど多くはなかったが小さな出店を二人で回る。  
「楽しいか?お嬢」  
「うん!」  
綿あめをなめながらお嬢が俺に本当にうれしそうに笑っているのを見て、俺はあの時断らなくてよかったと心から思う。  
「…ありがとね、フェルパー…」  
「…気にするな、お嬢」  
彼女と店を回りながらただ歩く、それなのになぜか俺はこの時間が長く続いてほしいと思うようになっていた。  
「…フェルパー、燕尾服かと思ってたけど着物着てきたから…以外だった」  
「昔は俺の燕尾服見て、似合わないって言っていたお嬢のセリフとは思えんな」  
俺の言葉にお嬢が笑う。  
こんなに彼女の笑顔を見たのはいつ振りだろう。  
「なんで…燕尾服じゃなくて着物にしようと思ったの?」  
彼女の言葉に、俺は一瞬言おうか迷ったが、口にする。  
「…今の俺は…お嬢の執事じゃない」  
「え?」  
俺の言葉にお嬢が首をかしげた、いつもと違う髪形のせいで、白いうなじがあらわになって少し動揺する。  
「こんな時だからな…お嬢の執事じゃなくて、ただ俺自身として一緒に居たかった…そんなところだな」  
俺の言葉にお嬢が少し驚いた眼で俺をみた。  
「…ありがと」  
 
しばらく二人で店をみて回る。  
もうそろそろ、宿に戻らなくてはいけないのに、なんとなく宿に戻りたくないと思ってしまう。  
俺と同じ気持ちになってくれているのか、お嬢がふと立ち止まった。  
「ねぇ…フェルパー…好きな人…いる?」  
「…ああ」  
「そっか…」  
俺の言葉に少しさびしそうにお嬢が笑った。  
「…どんな人なの?」  
彼女の眼が俺を見つめる。  
 
「…秘密だ」  
「…何それ」  
俺の言葉にお嬢が笑う。  
「お嬢は…好きな人はいるのか?」  
「…うん、いるよ」  
「…そうか」  
なんとなく察していた、きっと彼女がクラッズ達としたという悩みの話とはそういうことなのだろう。  
今度は何気ない話や昔話をして歩く。  
気付くと宿とは反対の神社に来ていた。  
人影も少なく、静かな気配と虫の鳴き声だけが辺りに響いている。  
「ねぇ…フェルパー」  
「何だお嬢…」  
不意に彼女は俺の着物の裾をつかんだ。  
「私の好きな人はね…私のわがままを聞いてくれるの」  
「そうか…」  
「ずっと、一緒に育って…姉弟みたいに育って…」  
彼女は体を何かに脅えるように震えていた。  
「わがままな私の…私のずっとそばに…」  
彼女の言葉を聞きながら俺は彼女の肩を抱く。  
意地っ張りな彼女がした精一杯の努力に俺は応えなければならない。  
「…俺の好きな人はな…わがままで…いつもイライラしてるんだ」  
俺の言葉にお嬢が、え?と顔をあげる。  
「…初めて俺を人と呼んでくれたんだ…姉弟みたいに育ってきたんだ…」  
「フェルパー…それって…」  
「なぁお嬢…今までずっと子供扱いしてすまなかった…俺はさ、お嬢に知ってほしくなかったんだ、お嬢がそれを知ってしまったら俺の方が気持ちを抑えられなくなってしまうんじゃないかって…」  
俺の言葉を聞きながらそっとお嬢が体をはがす。  
「フェルパー…弟失格だね」  
「…もともとだよ、執事になったのも君を姉貴っていつか呼んでしまうのが怖くて、お嬢って呼び続けて、それが自然に見えるようにするためだったんだ…」  
俺の言葉にお嬢が笑う。  
「フェルパー…私は、貴方が好きです…だから弟じゃなくて、執事じゃなくて…恋人として私の家族になってくれませんか?」  
さらさらと、風に揺られて葉がすれる音が辺りに響く。  
月明かりに照らされる彼女は幻想的なものに見えて、だが俺はそんな彼女に誠意をもって応える。  
「ああ、俺からも頼む…お…バハムーン」  
初めて、彼女を名前で呼んだ。  
お嬢という名は彼女が決めた、友達が彼女を呼ぶための名前、彼女は友達なんかじゃない…もっと大切で大事な存在だから俺が彼女を呼ぶとしたら、彼女の父と母が呼ぶように彼女の名前で呼ぶべきだとそう思った。  
「あ…名前…」  
ぽろぽろと彼女が涙を流しながら俺に抱きつく。  
「駄目だったか?」  
「ううん、友達じゃなくて…恋人になるんだから…その方がうれしい…」  
そのまま泣きじゃくる彼女を胸に抱く。  
俺は彼女が泣きやむまでただ待ち続けるのだった。  
 
 
「おう、お帰り、お二人さん、祭りは楽しかったか?」  
帰ってきた俺達を見たセレスティアがそう言って俺らを見る。  
「ええ、フェルパーと一緒に見て回れたから、楽しかったわよ、貴方もクラッズと行けば良かったじゃない」  
くすくすと笑ったバハムーンにセレスティアが驚いた顔で彼女と俺を見比べた。  
「どうしたセレスティア、バハムーンにからかわれるなんて思ってもみなかったか?」  
お嬢ではなく、バハムーンと彼女を呼んだ俺を見て、セレスティアが笑った。  
「いや、まさかお嬢にそんなふうに言われる日が来るとは思ってなかったからな、とりあえずおめでとう、と言ってやる」  
「あら、ありがとう、貴方に祝福される日が来る何て思ってなかったわ」  
「お、言うようになったなお嬢…!」  
二人のやり取りが面白くて思わず俺は笑ってしまう。  
そんなやり取りをしていると宿に着いてから姿を見せていなかったエルフとディアボロスが食事のためか、のろのろとこちらに歩いてくる。  
「ディアボロスとエルフ、ようやく部屋から出られるようになったんだな」  
俺がそう言って笑うと、ディアボロスが楽しそうに笑った。  
「ええ、おかげさまで…たっぷりとエルフを味わったわ」  
「…一杯オシオキしてもらっちゃった、美味しかったって言われちゃった」  
ホクホクと、嬉しそうな顔でエルフが応える。  
「なになにみんな集まってどうしたの?」  
聞き覚えのある鈴の音と共にクラッズがやってくる。  
「おーいお前ら、こいつらの話はまたあとでな今は飯を食べに行くぞ」  
セレスティアの言葉にみんなが応えてついていく。  
いつもの光景をみながら俺とバハムーンは手をつないでその後に続くのだった。  
 
みんなで食事をとり、俺とバハムーンへの聞き込みが終わると、セレスティアを議長に明日の予定を考える為に話し合いが始まった。  
うちのチームでの会議は、リーダーであるセレスティアが議長、クラッズが進行役を行い、サブリーダーの俺が議事録をつける。  
そしてチームで意見を出し合い、翌日の行動を決定するという形をとっていた。  
大まかには多数決制で決まることが多いが、3:3に分かれた場合などは主にリーダーであるセレスティアが最終的な決断を行う、というのが通例だった。  
「まぁ、明日の集合予定時間はいつもどおりなら9時ごろだな、もし意見のあるものがいれば挙手をしてくれ」  
そうセレスティアが言うと、不意にバハムーンが手を挙げる。  
「ん?お嬢何か意見ある?」  
「ええ」  
クラッズが進行役としてバハムーンにそう言うと彼女は立ち上がって応えた。  
「その時間だと私は明日寝坊するから12時ごろにしてほしいの」  
「は?」  
思わず俺が声をあげた。  
「バハムーン意味分かってるか?」  
「だって恋人になったらみんなするんでしょ?私もフェルパーとしたいもの」  
顔を赤く染めながら彼女が言う。  
「はいはい、進めるよ〜みんなはどうかな?」  
俺とバハムーンを無視してクラッズが他の皆に意見を聞く。  
「…私は異論ないわ、その分エルフで楽しむから」  
「ご主人さまがそう言ってるので私も賛成です」  
バハムーンの意見にエルフとディアボロスは開き直って賛同。  
もはや俺はとめはしない。  
 
「ん〜、セレスティアは?」  
クラッズが議長を務めるセレスティアを見る。  
「異論ない、全員が寝坊するんだったらそんな時間に設定する意味はない、ゆえに俺はお嬢の意見に賛同する反対意見のあるもの等は手を挙げてくれ」  
彼女がみんなの前でそう宣言するとは思わなかったが、それならそれで俺にも考えがある。  
静かに俺は手を挙げた。  
「はい、フェルパー」  
俺が手を挙げるとバハムーンが不安げに俺を見た。  
そんな彼女に笑いかけ俺はその意見を告げる。  
「休みだ」  
「は?」  
俺の意見にセレスティアが何を言い出したのかと俺を見る。  
「挑発されたから…俺は今日バハムーンを寝かせるつもりはない、ゆえに明日は休みにしてくれ」  
おお〜と周りから歓声が上がりバハムーンが「ふえっ!?」と声をあげ顔が真っ赤に染まる。  
そんな俺を見てセレスティアはにやにや笑った。  
「おやおや、こまったな俺もそっちの意見に賛同したくなってしまった、よってお嬢の意見は3、フェルパーの意見を2とするクラッズ、お前はどうする?」  
「私の意見はフェルパーに賛同、3:3になったこの場合はリーダーとサブリーダーが話し合って意見をまとめ、セレスティアの決定が最終判断になるけど…既に意見に賛同を表明してるからその必要もないでしょ、がんばってね、お嬢」  
「え?ええ!が、がんばるわよ?」  
意味がわかっているのか分かっていないのか、バハムーンは疑問形で応える。  
そんな彼女をみんなが笑っていた。  
「では最終決定を下す、我々は明日、迷宮探索を行わず、休息とし、その間何するかは各人の判断にゆだねる事とする、修練のため迷宮に出る事を望む場合はその意を俺に伝え2名以上で探索に出る事、以上を持って本日の会議は終了とする、解散!」  
 
セレスティアがそう言うと真っ赤になったバハムーンが俺に詰め寄る。  
「ちょっとフェルパー!どういう意味よ!」  
「そもそもバハムーンが言い出したんだ、そこまで言われたら俺は拒絶しない、むしろ望むところだ、忘れてるかもしれないが俺はビーストだぞ?もしバハムーンとそうなった時、どれくらい君を求めるか分からない、だから休みにしてくれといったんだ」  
俺の言葉にバハムーンはパクパクと口を動かす。  
「部屋で待っている、覚悟ができたら部屋に来てくれ」  
そう言って俺は会議に使っていた部屋を後にして、自分の部屋に向かうのだった。  
 
彼がそう言ってさっていくと頭の中が緊張でぐるぐるする、もとは自分から言い出したのに何をどうすればいいかわからなかった。  
「お嬢、初めて頑張ってね」  
そんな私にクラッズがそう言って声をかける。  
「ク、クラッズ!」  
「ん?なに?」  
私に呼びとめられたクラッズが鈴の音を鳴らして振りかえった。  
「その…初めてって…どんなかんじなの?」  
「…お嬢知りもしないのにあんなこと言ってフェルパー挑発したの?」  
「だって…寝かさないなんて言われるなんて思ってなかったから…」  
こんなことならあの洞窟でエルフとディアボロスがし始めた時しっかり見ておくべきだったかもしれない、いまさらながらそんなことを思う。  
「まぁ大丈夫、初めは痛いけど多分すぐ気持ちよくなるから」  
「痛いのすごく痛いの!?」  
少し怖くなる。  
「大丈夫だよ…お嬢」  
不安がる私の肩をエルフがたたいた。  
「エルフ…」  
「痛いけどね…きっと嬉しさの方が一杯になるから、だって初めてをあげるってその人のものになるってことでしょ?」  
大人びた笑顔で笑うエルフを見る。  
「ドMがいっても説得力無いわよエルフ」  
ディアボロスが笑いながらエルフの胸をつかんだ。  
「あ…ご主人様…こんなところで…ああでも見られたら…それはそれで…」  
今日分かったけどエルフってかなり変だと思う。  
「ま、でも大丈夫よお嬢、女は大体一度は経験するもの私だって耐えられたんだから貴方もきっと大丈夫よ…」  
くすくす笑いながらディアボロスが私の肩をたたいた。  
「みんなありがとう、私頑張る!頑張ってフェルパーのものになってくる」  
「お〜、頑張れ〜」  
クラッズがそう言って手をたたくと鈴の音がシャンシャンと鳴り響く。  
「ああ、そう言えばお嬢、これあげる」  
立ちあがって彼の部屋に向かおうとした私にクラッズがそう言って小瓶に入った薬を渡してくる。  
「…何これ?」  
あまりみたことのない薬だった。  
「ん?避妊薬、初体験で出来ちゃったらヤバいでしょ、一応学生なんだし、それとも飲まない?朝までなんかしたら安全日とか関係なく妊娠しそうだけど」  
「…あ、ありがと、一応のんどく」  
そう言って覚悟を決めて彼の部屋に向かうのだった。  
 
「…クラッズ、あの避妊薬副作用あったわよね?」  
お嬢がいなくなったあとディアボロスが何かを思い出したかのように呟く。  
「…私、前にご主人様に飲まされて大変なことになった気がする」  
苦笑いを浮かべながらエルフがぽつりとつぶやいた。  
「ん?大丈夫でしょ、ちょっと普通より気持ちよくなっちゃうだけだし、朝までするなら早めに気持ちよくなったほうが良いじゃん、経験者からのちょっとした贈り物だよ」  
イタズラに成功した子供のようにクラッズが笑うと、彼女の首の鈴が小さな音を立てた。  
 
 
彼の部屋の前に立ちなんども深呼吸をする、体に汚れは残ってないだろうか?  
クラッズにもらった薬も飲んだし、体は隅々まで洗った、大丈夫、心の中で呟いて、彼の部屋のドアをノックする。  
「はい?」  
扉越しに彼の声が聞こえた。  
ドキドキと心臓の音が高まっていく、なんか妙に体が熱い気がする。  
「私よフェルパー」  
そう言うと、少しして扉が開いた。  
相変わらずの着物姿の彼が私を出迎える。  
「まぁ…中に入ってくれ」  
「う、うん!」  
私も何を着ていこうか悩んだ結果、結局浴衣を着てきた。  
これからすることを考え、彼が脱がせやすいように…。  
 
私は緊張しながら彼のベッドの上に正座の姿勢で座った。  
「バハムーン?」  
「フェルパー…私初めてだから痛くて泣いちゃうかもしれない…でもね…それでも絶対最後までしてほしいの」  
3つ指をついて彼に懇願する。  
「私を…フェルパーにもらってほしい…」  
私の言葉に彼が笑った。  
「緊張しすぎだよバハムーン、俺だって初めてなんだから、二人で慣れていこう」  
彼の優しい笑顔に胸がときめく。  
これが私が彼を愛しているという気持ちなんだろう。  
「ええ、そうね」  
私も彼に合わせて笑う。  
小さく音がなって電気が消える、彼が隣に座って私の肩を抱いた。  
「バハムーン…」  
「うん」  
顎をつかまれ、彼の方を向けさせられる。  
それに私は抗わず、静かに目を閉じた、遅れて温かい感触が唇に触れる。  
触れるだけの子供っぽいキス  
「キスしちゃったね…」  
「ああ…」  
私の少しまだ濡れた頭を彼がなでた。  
「…もう一回…今度は大人のキス…」  
今度は私から彼の首に手をまわして、唇を重ねる、そしてあの洞窟で、エルフとディアボロスがしていたように、彼と唇を合わせたまま、おずおずと舌を伸ばす、するとその舌先が何かに当たる。  
―あ…これって―  
目を細めると、彼の舌が私の舌をからめ捕るかのように伸ばされる。  
舌と舌が触れ合うたびに弱い電流を流されたみたいな感覚がピリピリと感じられる。  
―気持ち良いなぁ…―  
まだキスをしているだけなのに、体が勝手にぽかぽかと熱くなる。  
何度も何度も、彼と舌を絡めながらキスをする。  
フェルパーの手が不意に私の浴衣の帯にかかった。  
「ぬがしてもいいか?」  
「…うん」  
うなづくと、シュルリと彼が帯を緩める、帯が解かれ彼の手が浴衣を剥がす。  
下着だけの私の姿が彼の眼にさらされていると思うと心臓の鼓動は更に高くなった。  
 
「黒レースとは扇情的だな…」  
「だ、駄目だった?」  
彼が鼻を押さえながら少し恥ずかしそうに顔をそむけた。  
「いや…肌がホントに真っ白だから…よく似合ってる」  
言葉と共に下着の上から彼が私の胸に触る、くすぐったい様なもどかしい奇妙な感覚が伝わってくる。  
「バハムーンって着やせするタイプなんだな…」  
「そ、そうかな?」  
彼が楽しそうに私の胸を触っている。  
「直接触りたいんだが…いいか?」  
「…うん」  
うなづくと、彼の手が私の背中に回ってくる、私も体を少しうかせてその手伝いをする。  
パチンと小さな音がなってブラの拘束が緩み、空気が直接胸に触れた。  
あらわになった私の胸に彼の温かい手が触れる。  
「すごいドキドキしてる」  
「うん…」  
そっと私も彼の着物に手を差し込み、その胸に手をあてる。  
彼の心臓も強く脈打っていた。  
―フェルパーも…ドキドキしてる…―  
彼とおんなじ気持ちなのだと思うと、もっともっと一緒になりたいと、そんな思いがわいてくる。  
「フェルパー…触って良いよ…優しくね」  
「ああ…」  
言葉と共に、彼が私の胸に両手をあて、やわやわと揉み始めた。  
彼の手に合わせて私の胸が形を変えていく。  
そのたびに今まで感じた事のない感覚が私の背中を走って頭に届いてくる。  
「なんか、変な感覚…」  
「いやか?」  
「ううん…気持ち良い…」  
「そうか…なら…」  
言葉と共に、彼が私の胸に顔をうずめる。  
「ひゃん!?」  
生温かいざらざらした感触が胸に触れて思わず私は声をあげた。  
―何これ…指と全然違う…―  
彼の舌が私の胸を円を描くようになめて、舌先で中心の部分を押しつぶすようにいじられる感触に頭がとろけてしまいそうになる。  
「フェルパー…それ良い…気持ち良い…もっと…もっとして!」  
彼の頭を掴んで私の胸に押し付ける。  
私の言葉に応えるように彼の舌が何度も私の中心を刺激する。  
「くふぅぅ…ふはぁぁ…」  
ピリピリと電流が走るような感触がなんども何度も私を襲い、そのたびにどんどん体が熱くなる。  
気持良すぎて、なんだかお腹がむずむずする。  
胸の刺激に夢中になっていると、もう片方の膨らんだ突起を彼が手でつまみあげた。  
「ぴっ!きゅぅぅぅ!!」  
予想もしていなかった感触に私の中で何かがはじける。  
ふわふわと体が浮くような感覚がやってきて、思わず私は彼の体を強く抱きしめた。  
「なにこれなにこれ!!」  
体が勝手にぴくぴく震える、頭が真っ白になって何も考えられない。  
 
初めて感じるその感覚に私はただただ震えるだけだった。  
次第にその感覚が落ち着いてくると、少し体がつかれたような、倦怠感のようなものがやってくるが、なぜか心が満たされたような感覚がある。  
荒い息を吐きながら彼の体の拘束をとくと彼が私の顔を覗き込んで笑った。  
「フェルパー…今の何…?」  
「イッたんだな…バハムーン…可愛かったよ」  
彼がそう言って額にキスすると、体がピクンと勝手に震えた。  
「イクって…なに?」  
「気持ちよくなって、ふわふわしたみたいになったんだろ?」  
そう言いながら彼が胸を揉むと、さっきよりも強い快感が私の背中に走る。  
「うん…すごく気持ちよくなって…壊れちゃったかと思った…」  
「それがイクってこと」  
これがイクってことなんだ…。  
あんなに気持ち良いことならもっともっとしてほしい。  
彼に気持ち良くしてもらうだけじゃなくて…彼と一緒に気持ち良くなりたい。  
「フェルパー…もっと気持ちよくして…それでフェルパーも気持ち良くなって…」  
私がそう言うと、少し驚いたように彼が私を見た。  
「分かった…下着…最後の脱がすよ?」  
「…うん」  
腰を浮かせると、彼の手が私を覆う最後の布をはずしていく。  
外の空気に触れたそこはキラキラと何かでぬれていた  
「フェルパー…ごめんなさい…私もしかして…おもらししちゃったのかも…」  
私の言葉にフェルパーが笑う。  
「大丈夫、これは…気持ちよくなると、勝手に出るものだから気にしなくて良い俺だってなってるさ」  
「ホントに?」  
「本当だよ…」  
彼はそう言ってくれるけど…私はあまり知識がないから信じられない。  
「気持ちよくなると出るなら…フェルパーもそうなってるなら見せて」  
「は?」  
私の言葉に彼が驚いた顔をする。  
「やっぱり…嘘なの?私…おもらししちゃったの?」  
泣きそうになると彼が仕方ないといった顔で自分の着物の帯をほどいた。  
「…バハムーン、後悔するなよ?」  
そう言って彼が着物を脱ぎ棄てる、膨れ上がった何か下着を押し上げていた。  
彼が自分の下着を脱ぐと、跳ね上げるように彼のものが飛び出してくる。  
その先端は私と同じように液体で濡れていた。  
「ほら…濡れてるだろ?」  
「う…うん」  
彼のそれはパンパンに膨れ上がりビクビクと震えていた。  
「あの…触ってもいい?」  
「あ、ああ…」  
恐る恐る触れると、それはとても熱くて固い。  
そして何より…。  
「おっきい…」  
思わず唾を飲み込む、これが男の人のもので、これが私の中に入るのかと思うと少し怖い。  
つい、自分のものと見比べてしまった。  
 
「バハムーン…」  
あまりにじっと見過ぎてしまっていたのか彼が恥ずかしそうにしながら私を見る。  
「ご、ごめん!」  
「い、いや、いいんだが…このまま続けても良いか?」  
彼の表情も気になるけど、彼のそれもすごく気になる。  
「う…うん、でもフェルパーのすごく苦しそう…」  
どうしても目が離せない。  
私が困っていると、彼がふと口を開いた。  
「よし…バハムーン、俺はこれから君のものをするから、君には俺のそれを…その、なめてほしい」  
「わ…わかった!」  
そう言って再びベッドに横になる。  
彼が私の大事な部分に顔を寄せ、私の眼の前に彼がある。  
私達は互いにそれを刺激する。  
「ふひゃ!?」  
先ほどまで胸を刺激していた彼の舌が私の大事なところをなめる。  
今までとは違って直接お腹に響くような快感に勝手に声が出てしまう。  
あわてて私は彼のものを口に含んだ。  
「うわっ!?」  
彼が突然大きな声をあげたので私は思わず彼を話す。  
「ご、ごめん痛かった!?」  
「い、いや大丈夫だ、突然気持ちよくなったからびっくりしただけだ続けてくれ」  
「う、うん!」  
気持ちよくなってもらえた、それがうれしくて私は再び彼のものを咥えてぺろぺろとそれをなめる。  
彼が私をなめるのに私は夢中になって彼をなめる。  
不意に彼が何かを見つけ、カリッとそれを噛んだ。  
「ふむぅぅぅ!!」  
彼のものを咥えたまま私は叫ぶ、またあの感覚が私を襲う。  
思わず彼のものを噛んでしまいそうになり私はあわてて彼を掴んで引き抜いた。  
「うぁ!?」  
同時に彼も悲鳴を上げた。  
彼のものがびくびく震え、白く濁った液体が私の顔と胸に降り注ぐ。  
「ふぁ!?あっつ!」  
その液体はとても熱くて、思わず声が上がる。  
胸についたそれを手でのばしてみると、ねばねばした感触があった。  
「…これが、赤ちゃんのもと?」  
「ああ、俺の精液だな…」  
彼に聞くと静かに彼がうなづいた。  
なめてみたけどおいしくはなかった、苦くて変なにおいがする。  
荒い呼吸が落ち着いてくると、彼が私の大切なところに再び触れた。  
体がまたピクンと震える。  
「バハムーン、そろそろいいか?」  
彼の言葉に私はついにその時が来たことを知る。  
私のところは洪水のように濡れていて、ふにゃふにゃにとろけていた。  
「う…うん、入れるんだよね、フェルパーを…」  
太ももに巻きつけていた尻尾を自分でほどいて、脚をそこを彼に見せるように開く。  
「ああ」  
開いた私の脚の間に彼が腰を下ろす。  
 
先ほどまで私がなめていたそれがパンパンになってそそり立っていた。  
覚悟はできていた。  
「うん、ください…フェルパーを…私を貴方のものにしてください…」  
私の言葉に、彼が私の脚を肩にかけて頷く。  
「ああ、痛いかもしれないが…我慢してくれ」  
閉じたそこに彼が押しあてられる。  
「うん、我慢する…だから私を…私を…大人の女にしてください!」  
彼の背中に手を回す。  
「行くぞ!」  
「来て!」  
言葉と共に、私を引き裂くように彼のものが私の中に入ってきた。  
瞼の裏が真っ赤に染まる、肺の空気が押し出されるような圧迫感がどんどん迫ってくる。  
びりびりと、強烈な痛みが私の背中をかける。  
「いっ!痛っ…くぅっ!」  
体が引き裂かれるような痛みが強くなってくる。  
我慢できず、私は彼の背中に爪を立てた。  
―痛い痛い痛い!!―  
痛みしか感じられない、さっきまでの気持ち良い感触がない。  
ポロポロ涙があふれるが、まだ彼のものは半分ぐらいしか入っていない。  
何かが…彼を拒んでいた。  
「バハムーン、力を抜いてくれ…」  
彼も痛いんだろう苦しそうに顔をゆがめながらそれだけ告げる。  
力を抜きたいのに体が言うことを聞いてくれない。  
「フェルパー!キスして、キスしてくれればきっと…!」  
私の叫びに彼が私と唇を重ねる、のばされた彼の舌に自分の舌を絡めて必死でその感触を味わう。  
次の瞬間、ブツリと私の中で何かがはじける音がした。  
「きひぃぃぃ!」  
抵抗がなくなり勢いよく彼のものが私の中に入ってくる。  
最後の強い痛みが私の背中をかけた。  
 
「フェ…、フェルパー……」  
そっと彼と私の繋がった部分に目を見やる。  
「ああ…全部入ったよ」  
大きく広がった私のそこが彼を根元までのみこんでいた。  
彼を伝わって、私が初めてを失った証が流れていく。  
―もう処女じゃないんだ…―  
その瞬間に今までの思い出が湧き上がって、涙があふれてくる。  
「バハムーン…痛いのか!?」  
彼が心配そうに私を覗き込む。  
その瞬間、エルフやディアボロスが言っていたことを私は理解した。  
「痛い…痛いのに…うれしくて…貴方に初めてをあげられたことがうれしくて…」  
ずっと姉弟みたいに育って…彼に素直になれなくて、ずっとわがままを言って…。  
そんな私を彼が愛してくれて…ついに私は彼のものになったのだと…うれしくて涙が止まらない…。  
「フェルパー…名前を呼んで…」  
「ああ、愛してる…大好きだ、バハムーン」  
「私も愛してる…私も大好きだよ、フェルパー」  
私の心が満たされる…、私が彼で満たされている。  
感じた事のない幸福感が私のことを包んでいた。  
 
繋がったまましばらく抱き合っていると、少し痛みがマシになって、代わりに私の中の彼の輪郭がはっきりしてくる。  
「…すごく…大きい」  
お腹を撫でてみると、彼のものが私の中で震えた。  
「ん…」  
「あ、悪い…勝手に震えて…」  
「だ…大丈夫」  
お腹に少し力を入れてみると、彼のものがピクリと震える。  
「うぁ…」  
気持ち良さそうに彼が震えた。  
「ふぇ…フェルパー、私の中…気持ち良い?」  
私の言葉に彼が何かをこらえるようにうなづく。  
「ヤバいくらい、気持ち良い…俺のがぎゅうぎゅうに締め付けられて、あったかくて、バハムーンの中が俺のことをゾワゾワするぐらい撫でてくるんだ…」  
「よかった…でも…そのままじゃ…苦しいよね…動いて良いよ…」  
「良いのか?痛いだろ?今動いたら、バハムーンが痛がっても俺は続けてしまうかも知れないぞ?」  
心配そうに彼が私を見る。  
「いいよ…少しくらい痛いのなんか平気…それに…今日は私を寝かせないんでしょ?だったら…早く私が気持よくなれるように…ならしてほしい」  
私の言葉に彼が笑った。  
「分かった、最初はなるべくゆっくり動くぞ」  
「うん」  
言葉と共に彼が動き始める。  
「ふぁぁ…」  
ゆっくり彼が抜けていくと、体にぽっかりと穴があいたように寂しさがやってくる。  
だが再びつき込まれるとすぐにそれが満たされた感覚で胸が溢れる。  
繰り返しの運動で、次第に痛みが失われ、ゾクゾクした感覚へと置き換わっていく。  
「フェルパー…気持ち良い…」  
彼を本当の意味で受け入れられた気がした。  
「俺も…気持ち良いよバハムーン…」  
次第に彼の動きが早くなって、体がぶるぶると震える。  
「初めては…痛いって…痛いって言ってたのに…ディアボロスの…うそつき…」  
痛みなんかほとんどない…それ以上に彼にお腹の中を掻きまわされるのがうそみたいに気持ち良い。  
腰の動きが早くなると、私の中がかきまぜられ先ほどとは比べられないほどの電流が背中をかけていった。  
もやもやが膨らんでまたあの感覚がやってくる、イク、彼が教えてくれた感覚がまた私を包んでいく。  
 
「フェルパー…フェルパー…」  
何も考えられなくなってただひたすらに彼を呼ぶ。  
「バハムーン…バハムーン…」  
彼も私の名前を呼びながら何度も腰を打ちつける。  
ビリビリと感覚が集まって膨れ上がる。  
「あ…ああ…あああ…フェルパー…私!」  
「俺も…このまま…!」  
「いいよフェルパー膣内に…私の中に…そのまま!」  
深い深い一撃が私を貫く。  
その瞬間にそれが音を立ててはじけた。  
「ふぁぁぁ!!」  
「くぅぅぅ!!」  
ビクビクと体が震えて、彼を強く締め上げた、その瞬間に彼も私の中ではじけ、熱いそれを解き放つ。  
「ふきゃぁぁぁ!!」  
また頭が真っ白になる、ふわふわした感覚が私を包む…。  
背中がそりかえり、尻尾がピンと張り、彼の尻尾が私の尻尾に絡みつく。  
お腹の中で火傷しそうなほどの熱が壁を叩きながら広がっていく。  
―暖かい…なんか幸せ…―  
ぐったりと、ベッドに倒れ込みながら彼と口づけを交わす。  
共に荒い息を吐きながら何度も何度もキスをする。  
そのたびに入りきらなかった彼の精液が、私の初めての証と一緒に繋がった部分からこぼれだしていた。  
 
 
 
「…エッチしちゃったね」  
彼に抱きしめられながら私は呟く。  
「ああ…痛かっただろ?」  
耳元で彼が優しく呟く。  
「うん、痛かったけど…最後は気持ちよかった」  
「そうか…よかった」  
彼がそう言って笑うと私もうれしくなった。  
まだ彼の入っていたところは少しだけ痛いけど…そこまで気にはならないくらいだった。  
そもそも、最初初めてが散った時以外はそれほど痛くなかった、というのもある。  
「まだフェルパーが私の中に入ってるみたい…」  
「そうか…」  
「うん…」  
ふと、私はある事を思い出す。  
「パパとママ…なんて言うかな?」  
その言葉にフェルパーが凍りついた。  
「…旦那様と奥様のこと忘れてた……一人娘を嫁入り前に俺は傷モノにしたんだな…」  
あわてる彼が楽しくて、思わず笑いが漏れる。  
「大丈夫だよ…きっとパパとママなら、フェルパーがホントの家族になるって喜んでくれるよ…」  
「…確かに…奥様なんか孫はいつ?とか言いそうだ」  
彼がそう言って笑う。  
「だね」  
私もそれにつられて笑った。  
「それよりフェルパー…またしよう…今日は私を寝かせないんでしょう?」  
今度は負けないと、クスリと笑って、彼の胸をくすぐり挑発する。  
「いったな、バハムーン…ビーストの体力なめるなよ…」  
彼がそう笑って、胸をつかんだ。  
「フェルパーも私をなめないでよ…フェルパーがこれ以上無理って言うまで寝かせないんだから…」  
私も笑う。  
夜はまだ長い…再び彼に押し倒されながら、私達は互いを求めあうのだった。  
 
 
「くふぅぅぅ!」  
慣れ切ってしまった体がまた震える、もはや何度目かすら覚えていなかった。  
「はぁ…はぁ…はぁ…」  
彼にまたがったまま私は疲れてそのまま胸に倒れ込んだ。  
「ごめん、フェルパー…もう限界……」  
「…俺もだ…」  
夢中になって気がつかなかったがいつの間にか日が昇っている。  
「…何回…したっけ?」  
「…13…いや16かな…」  
ぐったりと繋がったままベッドに寝そべる。  
「…ホントに朝までしちゃったね……」  
「ああ…ごめん…バハムーン…」  
そう言って彼が頭をなでる。  
「いいの…それよりエッチって気持ち良いんだね……昨日まで…知らなかったのに…体がもう覚えちゃった…」  
昨日までは汚れなど知らない身だったとは自分でも信じられない。  
体が快感になれてしまって、本来残っているはずの痛みはどこかへ消えてしまった。  
ひどくエッチな子になってしまった気がする。  
「…フェルパーが私に教えたくなかったの分かった気がする…」  
「…うん?」  
「だって…もう、フェルパーとエッチしないことなんか考えられなくなっちゃったんだもん」  
今は十二分に満たされているが、明日になればまたしたくなってしまうのが自分で分かる。  
それぐらい、彼の体になじんでしまった。  
「…責任とるよ」  
「ありがと…フェルパー…」  
幸せな気持ちと共に睡魔が訪れる。  
「フェルパー…大好き」  
「俺も大好きだよ…バハムーン」  
同じく眠そうな彼の声を聞きながら私達は抱き合って睡魔に身をゆだねる。  
大好きな彼と一緒に、幸せな気分で満たされたまま、私は眠りにおちていった。  
 
 
 
夢の中で、紫色の髪をしたバハムーンの女の人が小さな子供を抱えていた。  
私と同じ紫の髪をしたフェルパーの女の子。  
そんな女性の隣には胸に彼と同じ黒い髪バハムーンの男の子を抱いた、燕尾服を着た黒髪のフェルパーの男の人が立っている。  
にゃー、にゃー…  
みゃー、みゃー…  
二人の腕の中で子供達が泣き声を上げる。  
二人は自らの手の中で泣く子供たちをあやしながら、幸せそうに笑っていた。  
 
それはただの夢だったけど…あの二人のようになれたら良いなと私は心の中で思うのだった。  
 
夢の中で、燕尾服をきた黒髪のフェルパーの男が小さな子供を抱いている。  
俺と同じ黒髪のバハムーンの男の子。  
そんな彼の隣には胸に彼女と同じ紫色のフェルパーの女の子を抱いた、白いドレスのバハムーンの女性が座っていた。  
みゃー、みゃー…  
にゃー、にゃー…  
二人の腕の中で子供たちが泣き声を上げる。  
二人は自らの手の中で泣く子供たちをあやしながら、幸せそうに笑っていた  
 
それはただの夢だけど…あの二人のようになれたら良いなと俺は心の中でそう思った。  
 
 
「結局、ホントにあいつら起きてこないな」  
朝食を食べながらセレスティアは呟いた。  
広間に用意された食事の場には彼とクラッズの二人しかいない。  
「ま、そんなもんでしょ、フェルパーがお嬢のこと思ってたのって多分1年2年じゃないだろうし、両方とも体力あるしね」  
味噌汁を飲みながらクラッズはそう呟く。  
「子供出来たらどうするつもりだろうな、避妊薬のんでてもさすがに関係ないくらいやってると思うが…」  
ポリポリと漬物を食べながらセレスティアは何気なくそうクラッズに告げる。  
「そんなこと言ったら私なんかいつ妊娠してもおかしくないけどね、いくら薬のんでても私が危険日なのにセレスティア平気で膣内に出すし」  
さらりと、今日の天気を語るようにクラッズが口にするがセレスティアは別段気にした様子もなく食事を続ける。  
「まぁ、多分妊娠しないから大丈夫だろ」  
そんな言葉をセレスティアは当然のように受け流す。  
「分かんないよ?だってほとんどのベースはセレスティアなんでしょ?」  
セレスティアの言葉にクラッズが応えると、袖口についた鈴が小さく鳴った。  
「どうだかな、つくったやつにでも聞いてくれ」  
「まぁ、最近は薬もらえなくなってきたし、少しは遠慮してほしいかな」  
そう言ってクラッズが笑う。  
意味深な二人の会話は鈴の音と共に静かに消えていった。  
 
 
 

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