チリン…  
オーウェンと買い物に出かけた私は不意に聞き覚えのある音と、見覚えのある姿を見た気がした。  
「どうしたクラッズ?」  
「…なんでもない」  
こんなところに…彼女がいるはずがない…彼女はもう死んでしまったのだから…  
「誰かに似てるやつでもみたのか?」  
私の顔を見て、オーウェンがそう呟いた。  
「うん…死んじゃった…妹に似た人を見た気がするの…」  
私が家族を失ってもうそろそろで一年がたつ。  
「探すか?」  
彼がそう言って私の手をつかむ。  
「いや…いいよ、たぶん気のせい」  
「そうか…お前が良いなら何も言わないでおく」  
そう言って彼は私の手の荷物を取り上げる。  
「ん、ありがと、オーウェン」  
「気にすんな…それよりも喉渇いた、クラッズ」  
そう言って彼が私に抱き付いて首をなめた。  
「せめて家帰ってからにしてよ、こんな朝の街中とか絶対にやだ」  
一度受け入れたせいか血を吸われるのは気にならなくなっていた。  
それでも、なんか後ろめたい行為な気はしないでもない、だから私は二人きりの時だけ、彼にのませてあげる事に決めていた。  
「はいはい…んじゃ早く帰るか」  
私の言葉に本当に残念そうに彼がそう言って歩き出す。  
「うん」  
もう一度だけ振りかえって、見覚えのある影を探してみる。  
―気のせいだよね…―  
その思いを振り切るように、歩き出した彼の背中を追いかけた。  
 
 
歩き出した二人を追うように、ボロボロの布を身にまとった人影が路地の陰から躍り出る。  
「見つけた…見つけた…」  
ざりざりと背中に背負った何かを引きずりながら歩くそれは少女の声をしていた。  
「楽しそうにして…ゆるさない…」  
くすくすと、その人物は狂った笑いを浮かべながら、二人の背中をゆっくりとおっていた。  
 
 
「う…あ…は…」  
頭が解けそうなほどの快感に私は打ち震える。  
「おいしい?オーウェン…」  
「ああ、ただ飲みすぎるとクラッズに悪いから、これで今日はやめとく」  
ほんの二口ほどの血を飲むと、彼は私の首からそっと口を放した。  
いつもの絶頂を迎えることなく終わった行為に、私はお預けをくらったような印象を受ける。  
―本格的に、頭がおかしくなってきたかも知んない…―  
自分が血を吸われることを望んでいたことを知って、私は打ちひしがれた。  
初めは仕方ない、と思っていた、それなのに…今は私の方がその感覚を求めている。  
下手に気持ち良いせいで、体が勝手に求めてしまう。  
「どうした?クラッズ?」  
そんな私を、不思議そうに彼が見ていた。  
「…なんでもない」  
出逢ったころはまだどこかおかしかった彼の様子も、もはや普通の人間と何ら変わりない。  
「なんで、俺が血を吸うか分かったか?」  
血を吸われたせいで、少しダルさで椅子に座った私を見ながら、彼が料理を始める。  
「…オーウェンの特殊な性質で、血からその人の持ってる魔力を吸って自分のものにしてる…らしい」  
「…なんで、そんな性質を俺が持ってるんだ?」  
未だ、自らの正体を知らない彼が首をかしげた。  
「…さぁ?あの手記だと…オーウェンを育ててくれた人は、あなたのそれを治そうとしてたみたい…でも失敗して、オーウェンの体は今みたいになった…ってことらしいよ」  
彼のために用意した嘘を私は彼に言い聞かせる。  
「…そうなのか」  
私の作り話を真に受けて、彼が少しさみしそうに呟いた。  
その仕草や様子は、とても彼が造られた者だとは思えない。  
―自我と、心を持ったホムンクルス…―  
ありえないと思うけど、今それは現実のものとして私の目の前にある。  
 
「それより…今日は何の本を買ったの?」  
「小説を数冊と…」  
彼が料理しながら答える、私は彼が買ってきた本の袋を開けて中を見る。  
「あとエロ本」  
「え?」  
それを見つけて手が止まった。  
どう見てもいかがわしい表紙の本がある。  
「…オーウェン性欲あるんだ」  
「最近知った」  
どんなものに興味があるのか気になって、中を軽く見てみる。  
クラッズの少女が恥じらいながらヒューマンの少年のものを受け入れ、腰を振っていた。  
「…て、いろいろちょっと待った」  
「ん?どうした?」  
オーウェンが食事をテーブルに並べながら私を見る。  
「オーウェン…何でこの本えらんだの?」  
「クラッズと同じ種族が出てたからだ」  
さらりと、何事もないかのように彼がそう言う。  
「…ちょっと待って…もしかしてオーウェン私のこと…」  
「好きだが?」  
 
予想通りの言葉が彼の口から発せられた。  
「えーっと…」  
何と反応していいか分からない。  
むしろ今まで知らなかったとは言え、自分に好意を持っている男と同じ部屋で眠っていて…血を吸われるたびにあえぎ声をあげて…。  
「…顔が赤いぞ?クラッズ」  
「オーウェンのせいでしょうが…」  
自分がまだ処女なのが奇跡だと思えた。  
多分、彼の中で性欲と恋愛感情とつながりができていないからだと思う。  
「クラッズは俺のことどう思ってる?」  
「私は…」  
オーウェンのことどう思ってるんだろう。  
彼の正体がホムンクルスであるということを知っているのに、彼が傷つくのが怖くて未だに伝える事が出来ない。  
血を吸われるのが気持ち良くて、そのまま抱かれてしまいたいと思ったこともある。  
「私は…オーウェンのことが……」  
 
その瞬間、窓が割れて何かが飛び込んできた。  
 
「クラッズ!!」  
とっさにオーウェンが私をかばう。  
少し前まで私のいた場所に、真紅の鎌が突き刺さっていた。  
「一体…誰が…」  
窓の外を彼と睨む、すると…。  
「…あらあら…お邪魔だったかな?」  
くすくすと、フードを纏った少女の声が割れた窓を越え、床に突き刺さった真紅の鎌を引き抜いた。  
チリン…とどこかで聞いたことのある音色が響く。  
「何者だ…」  
オーウェンが私を背後にかばいながら、その人物を睨む。  
私は…その人物が誰なのか、分かっていた。  
くすくすと、フードの人物が笑う。  
「さて何者でしょう?貴方の後ろのクラッズは、私が誰なのか気づいてるみたいだけどね…」  
フードの人物が笑うたびにチリン、チリン、と鈴の音がなった。  
なぜ、彼女がここにいるんだろう?なぜ、彼女が私を襲うんだろう?  
 
「…クラッズ?」  
「生きてたのセレスティア…」  
私の言葉にフードの人物が笑って、フードをはずす。  
「久しぶりね…お姉ちゃん」  
死んだと思っていた妹がそこにいた。  
「無事だったんだ…よかった…」  
うれしくてぽろぽろと、涙がこぼれ落ちる、私は彼女が自分を殺そうとしたことも忘れてふらふらと近づいた。  
「クラッズ!やめろ!!」  
そんな私をオーウェンが突然引っ張った。  
瞬間、目の前を真紅の鎌が薙ぐ。  
「セレスティア…?」  
「無事なわけ…ないでしょう」  
片手で真紅の鎌を振りぬいて彼女が笑う。  
どこか壊れた歪な笑い。  
「右腕はお姉ちゃんがもってっちゃうし…必死で必死で逃げたのに…」  
笑いながらセレスティアが涙を流していた。  
「初めてだったのに…バケモノなんかにむちゃくちゃにされて…」  
体を覆っていたマントをセレスティアが脱ぎ棄てる。  
 
そこにあったのは、オーウェンと同じように漆黒に染まった翼。  
真っ白だった彼女の翼はどこにもない。  
「お前のせいだ…」  
翼と共に変わってしまった彼女が私を睨む。  
「セレスティア…私…私…」  
謝ろうと再びつかづこうとした私をオーウェンが手でさえぎった。  
「やめろクラッズ、あいつはお前を殺す気だ」  
「そんなことわかってるよ!でも…あの子がああなっちゃったのはああ、しちゃったのは私のせいなんだもん」  
本当はあのとき、気付いていた、彼女の気配が無くなっていることに、でも怖くて、怖くて、死にたくないから逃げ続けた。  
私は、妹を見捨てて逃げた、だからあの子はああなってしまった。  
彼女が壊してしまったなら、それは間違いなく私のせい。  
「じゃまだよ、どいて」  
「がっ!?」  
私に気を取られたオーウェンを、セレスティアが鎌の柄で殴り飛ばす。  
 
「オーウェン!!」  
「大丈夫だ…ぐ!」  
倒れたオーウェンのお腹をセレスティアが踏みつける。  
「ほんと…邪魔…先に殺してやろうか?」  
暗く濁った光をたたえたセレスティアがそう言いながらオーウェンを何度も何度も踏みつける。  
「ぐふっ!」  
苦しそうに彼が呻く。  
「やめて!セレスティア、オーウェンは関係ないでしょ、彼を傷つけないで!!」  
私の言葉を聞いたセレスティアがニヤリと顔をゆがませた。  
「苦しいの?お姉ちゃん、こいつが傷つけられるのが…」  
「…うん、だから…お願い…」  
「ダーメ…」  
歪な笑いを浮かべてセレスティアは鎌の柄をオーウェンのみぞおちに突き立てた。  
「が…!」  
「苦しめば良い、私が苦しんだようにお姉ちゃんも苦しめば良い!!」  
セレスティアが笑いながらオーウェンを何度も何度も蹴りつける。  
 
次第に、オーウェンの体がぐったりと力を失っていく。  
「やめて!お願いだから!オーウェンが…オーウェンが死んじゃう!!」  
「だめ!もっとお姉ちゃんは苦しむの!私が苦しかった分苦しむの!!」  
でも、セレスティアは壊れた笑いを繰り返すだけで、その行動をやめようとしない。  
「やめてぇ!!」  
彼を助けようと、私は椅子でセレスティアのことを殴りつけた。  
「きゃあ!」  
どさりと倒れた彼女からオーウェンを引きはがし、そのまま背負って家から逃げ出す。  
「クラ…ッズ…」  
「オーウェン!大丈夫、死なないでよ!!」  
背中で彼が苦しそうにうめいた。  
セレスティアから隠れる為に森に逃げ込み、木に彼の体を横たえる。  
「…ごめん…オーウェン…」  
ボロボロになった彼に、謝る。  
 
「…気にすんな…それより…クラッズ…俺のこと…好きか?」  
血を吐きながら彼がそういって私の頭を撫でた。  
こんなときに、何を言ってるのか…そんなことを思いながらも、私ははっきりと自分の思いを口にする。  
「大好きだよ…大好きだから…オーウェンに傷ついてほしくないよ…」  
今まで隠してきた思いを口にする。  
たまにふざける彼が好きだった。  
血を吸われ続けるたびに抱かれたいと思っていた。  
何より…私を大事にしてくれる彼が大好きだった。  
「…俺も…クラッズが傷つくのは嫌だ…」  
私の言葉に彼がそう呟いた。  
「え?」  
「クラッズを失いたくない…だから…俺にお前を守らせてくれ…」  
「そんなボロボロなのに…そんなオーウェンに何ができるのよ…」  
ボロボロになってるのに、まだ私にそう言ってくる彼のせいで、涙が止まらない。  
 
「あいつを…お前の妹を…止める…、血をくれれば…何とかなる」  
それが、どういう意味か、私は察する。  
彼女を止めるには一つしかない。  
「それは…」  
「クラッズ…俺はお前を失いたくない」  
彼が私の頭を引きよせて、唇を重ねる。  
「ずるいよ…オーウェン…そんなこと言われたら…私…」  
セレスティアが…私がおとなしく殺されても彼を見逃すようには思えなかった。  
彼には生きてほしい、私はどうなってもいいから…彼は助かってほしい。  
ガサリ…チリン…  
背後の茂みが音を立てセレスティアが姿を現す。  
「みーつけた…お別れはすんだ?お姉ちゃん?とりあえずヴァージンをそいつの前でぐちゃぐちゃにして、そいつが死ぬのをお姉ちゃんは見ないといけないの」  
チリン…と鈴を鳴らしながらセレスティアはくすくす笑っている。  
 
「ごめん…セレスティア…私は…ひどいお姉ちゃんだ…」  
私の決意を察して、木を支えにオーウェンが立ち上がる。  
「…何するつもり…」  
彼女が私達を睨む。  
―ごめんね…セレスティア…―  
また私は彼女を見捨てるんだ。  
生き残ってくれた最後の家族を失うんだ…。  
でもそれ以上に彼を失いたくないと、私の心が叫んでる。  
「私は死ねない…」  
セレスティアを強く睨みつける。  
「…へぇ?」  
そんな私をセレスティアは見下すような目で見ていた。  
「どうやって?」  
笑う彼女の目を見ながら私は背後の彼に言葉を告げる。  
「良いよ…オーウェン…好きなだけ…好きなだけ、私の血を吸って…」  
「ああ…クラッズ…俺がお前を必ず守る」  
私の言葉に応えるようにオーウェンが肩に噛みついた。  
 
「くはぁぁ…」  
ぶるぶると体が震える、頭がとけそうな快感で目の前が真っ白に染まる。  
私の体温が彼によって奪われる。  
私達の行為をセレスティアは驚いた眼で見ていた。  
たっぷりと血が彼に吸われて意識が少し遠のきそうになる。  
「…オーウェン…いける?」  
「…これだけもらえりゃ余裕だな」  
ぺろりと傷をいたわるように、彼が舌で肩の傷をなめてなめそう言った。  
「それじゃ…お願い…」  
快感で力が抜けてしまった私はぺたりと地面に座り込む。  
「なに今の?」  
セレスティアがそう呟くと、ボロボロだったはずのオーウェンが笑った。  
その体がものすごい速さで直っていく。  
「子供には早いな、教えてやらねぇ」  
力が満ちた表情で彼が笑う。  
「処女じゃない分お姉ちゃんよりは大人だけどね」  
彼の変化に気付いたセレスティアが鎌を構えようとする。  
だが…。  
 
「遅いんだよ!」  
ビーストのように変質させた腕でオーウェンがその鎌を弾き飛ばした。  
「チッ!」  
舌うちしながらセレスティアが鎌を拾おうと走り出す。  
「だから、おせぇ!!」  
言葉と共に、オーウェンがブレスを放つ。  
さすがに驚いたセレスティアがあわててそれをよける為転がった。  
「…あなた、人間?」  
立ち上がりながら、セレスティアがオーウェンを睨む。  
「さぁな…しらねぇよ、一つ言えんのは…」  
ちらりと彼が私を見た。  
「俺はあいつを傷つけさせない、たとえあいつの妹でも、あいつのことを殺そうとするなら…俺がお前を殺す…」  
オーウェンの言葉にセレスティアが笑った。  
「殺せるもんなら、殺してみなさいよ!!ファイガン!!」  
「ウンディーネ!あの炎を止めろ!」  
セレスティアの放った魔法の炎が彼の呼びだした水の精霊に受け止められる。  
 
「セレスティアかと思ったら…ブレスの次は精霊魔法…今度は何を使うつもり?」  
セレスティアの言葉にオーウェンが笑う。  
「さてな、何なら使えるか、俺にもよくわからないもんでね」  
言葉と共に、オーウェンの姿が掻き消える。  
「ちっ!」  
舌うちしてセレスティアが鎌を拾い上げる。  
「どうした?怖いのか?」  
「ぬかせバケモノ!!」  
セレスティアが狂ったように魔法を放つ。  
その全てをオーウェンの魔法がうちけしていく。  
雷には土の精霊が闇には光の精霊が、時折姿を現して交錯するたびにビーストと金属質な手でセレスティアの鎌を弾く。  
「死ねぇ!!」  
空間を薙ぐようなセレスティアの斬撃をオーウェンは身を低くして回避しながらビーストと化した腕を伸ばす。  
「死なねぇよ…俺はクラッズを守るって言ったんだからな」  
言葉と共にオーウェンが走り抜ける。  
 
「あ〜あ…残念」  
どこか嬉しそうにセレスティアが小さく呟いて、その胸をビーストと化したオーウェンの腕が貫いた。  
 
瀕死の彼女の手を取ると、セレスティアが小さく笑った。  
「…お姉ちゃん…無事だったんだ…」  
笑うセレスティアは昔の家族が一緒のときと同じ優しい顔をしている。  
「ごめん…セレスティア…」  
彼女の手をつかんだまま私は謝る。  
彼女を見捨てたばかりか、殺してしまうことになった彼女に…。  
だが、そんな私の頭をセレスティアは優しく撫でた。  
「気にしないで…お姉ちゃん…私、お姉ちゃんのこと、殺したくなんかなかった…でも、もう一人の私が、ずっとお姉ちゃんを…殺そうとするの、止められなかった」  
壊れてしまった彼女の中の闇、それがきっとさっきまでの彼女。  
「オーウェン…だっけ?」  
「…あんま好きな名前じゃないが、そう呼ばれてる」  
 
セレスティアの言葉にオーウェンが複雑な表情を浮かべる。  
「そっか…お姉ちゃんを守ってくれて…ありがとう」  
「…気にするな、俺が勝手にしたことだ」  
死にそうなのに、セレスティアは笑ってオーウェンにお礼を言った。  
「あの鎌、貴方にあげる…もともと私の羽根だったの…あんなふうになっちゃったけど…貴方が使ってくれれば…貴方なら…きっとお姉ちゃんを守るために使ってくれる…私を止めてくれた貴方に…私からの…プレゼント」  
「分かった…これからは一緒にクラッズを守っていこう…」  
オーウェンがそう言うとセレスティアが笑った。  
「お姉ちゃん…私、冒険者になりたかったんだ…」  
次第に力を失いながらも彼女が笑う。  
共に、目指そうと誓った道を彼女が思い出させてくれる。  
「うん…うん…」  
 
「私の代わりに…皆を助けられるような…そんな冒険者にお姉ちゃんはなってほしい」  
「約束する!絶対に絶対になるから…」  
「オーウェン…お姉ちゃん…大事にしてね…」  
「言われなくても…分かってる…」  
オーウェンも、泣いていた本当の人間のように…。  
「あはは…ごめんね…オーウェン…ホントに人間?とかバケモノとかいっちゃって…」  
「気にすんな…俺だって分からないんだから…」  
「ううん…」  
オーウェンの言葉をセレスティアが否定する。  
「人間だよ…お姉ちゃんを守って、私のことで泣いてくれてる…だからくだらないことを気にしないで…それでも気になるなら、オーウェンて名前が嫌いなら、私の名前を貸してあげるから…」  
「ありが…とう…」  
次第にセレスティアの目が光を失っていく。  
 
「…おねえちゃん…歌…聞かせてほしいな…」  
「分かった…」  
涙をこらえず私は彼女の手を取って、歌を歌う…彼女が好きだった歌を…  
「ありがと…おねえちゃん…ありがと…オーウェン…」  
「…セレスティア…」  
私の歌を聴きながらセレスティアが笑う。  
「二人とも大好き…だよ」  
最後にそう呟いて、彼女は静かに息を引き取った。  
 
彼女の形見の髪飾りを自分の髪につける。  
軽く頭を振るとチリン…と小さな音を立てた。  
「これからはずっと一緒だよ…セレスティア…」  
彼女の亡骸にそう告げる。  
死んだ彼女は幸せそうに眠っているように、私には見えた。  
「クラッズ…墓の用意ができた…」  
真紅の鎌を背に背負って、オーウェンがそう告げる。  
「ありがと…オーウェン…」  
彼が掘った穴に彼女の体を横たえる、土をかぶせ、墓標を添える。  
 
最後にオーウェンと二人で並んで彼女の墓に手を合わせる。  
 
彼女との思い出がよみがえる。  
「ふ…」  
二人で一緒に悪戯をして怒られた。  
二人で隠れてお酒を飲んだ。  
冒険者を目指す彼女にいろいろな勉強をおしえた。  
「お姉ちゃんは笑ってるのが一番良い…」  
そう言って笑っていた彼女を思い出す。  
なのに、今の私は泣いてばかりだ。  
笑わないといけないのに…。  
「クラッズ…無理をすんな、泣きたいなら好きなだけ泣けばいいんだ」  
オーウェンがそう言って私の肩を抱く。  
「オーウェン…ありがと…」  
彼の胸に抱きしめられながら私は声をあげて泣き続けた。  
―ごめんなさい…セレスティア…貴方を助けられなくて…ごめんなさい―  
オーウェンが私の頭を撫でる…。  
彼女の鈴が私のそんな私を慰めるようにチリン…と小さな音を立てた。  
 
 
「窓直さないとな」  
壊れたガラスを片付けながらオーウェンが呟いた。  
「そうだね」  
セレスティアが破壊した窓をとりあえずの応急処置で板を打ち付けてふさぐ。  
「なぁクラッズ…冒険者になるのか?」  
オーウェンが呟いた。  
「うん、なる約束したから…」  
「そうか…なら俺も冒険者になる…」  
私の言葉に彼がそう言って、立ち上がった。  
「いいの?」  
「良いんだよ、お前と一緒にいたいからな」  
オーウェンが少し恥ずかしそうに言った。  
そんな彼を見ながら、私は今までついていた嘘をやめる。  
「ホントはね…オーウェン、私貴方が何なのかもう分かってるの」  
「ああ、ホムンクルスなんだろう?」  
やっぱり彼は気付いていたんだ、セレスティアと彼が戦う時、血を吸わせてくれと言っていたから、まさかとは思っていた。  
 
「知ってたんだ…」  
「文字をクラッズが教えてくれたからな…あとは資料を読んでれば、なんとなくわかった」  
「そっか…そうだよね」  
それでも、彼は彼でいてくれた。  
「それよりクラッズ…ホントに俺が好きか?人間じゃないのに…」  
不安そうに見つめる彼の頭を私は軽くチョップでたたく。  
「セレスティアも言ってたでしょ、オーウェンは人間、ちょっと人と違うだけ」  
そう言って笑うと、鈴が小さな音を立てる。  
彼のことを笑うように小さく小さく音を立てる。  
「だがな…」  
「あー…めんどくさい、そんなに不安なら分からせてあげる」  
まだうだうだと何かを続ける彼の手を引っ張って寝室に向かう。  
「お…おいクラッズ?」  
戸惑う彼をベッドに押し倒す、そしてマウントポジションを取って彼に笑った。  
 
「いいからこのまま好きにされちゃってよ、そしたらそんなこと悩まなくなるから」  
恥ずかしさを必死で押さえながら私は彼のズボンを脱がす。  
そこは少しずつ固くなってきてはいたがまだまだ力強くはなっていなかった。  
「あ、かわいい…」  
そう言うと彼がピクリと震えた。  
「オイ…」  
「あ、ごめん、すぐするから待ってよ…」  
ベッドから降り自分の上着を脱いで胸を覆う布を脱ぎ棄て上半身裸になると、オーウェンがじっと私の胸を見ていた。  
「な、何?」  
少し恥ずかしくなって彼を見る。  
「何か…腰がムズムズするな」  
言われて彼のものを見ると、少し大きくなってきていた。  
興奮してくれている、不安だっただけに、嬉しくて、私はそのまま彼のものをつかんだ。  
軽く上下にしごいてみると、彼が少し苦しそうにうめく。  
「あ、ごめん痛い?」  
 
「いや、大丈夫だ、続けてくれ」  
「ん、ありがと」  
ベッドに腰をかけた彼の股間を直視するように私はベッドからおりて、ひざまづく。  
固くなり始めた彼のものを思いきって口でくわえると、彼の腰がわずかにはねた。  
上目づかいで彼を見ると気持よさそうな顔をしている。  
ぺろぺろと舌でなめると、口の中で彼がどんどん大きくなる。  
「んふ…はむ…」  
体が熱くなってきて、彼のものに奉仕を続けながら私はあいた手で自分を愛撫する。  
先ほど彼に血を吸われたせいか、下着はびしょびしょに濡れていた。  
―…なんか頭くらくらする…―  
血が足りていないのか、はたまた彼によったのか、一心不乱に私は彼のものをなめ続けた。  
大きくなった彼のものはものすごく熱くて固い、口に入りきらなくなって私は先っぽだけを口に含んで、彼の中を刺激するかのように舌をそこに差し込んだ。  
 
「うっ…クラッズ…マズイ…」  
「んむ…あむ…」  
彼がイキそうになっているのか腰を震わせ、私の頭を引き剥がそうとする。  
必死で私はそれに抗うように彼のものを強く吸った。  
「うあっ!」  
抵抗空しく彼からひきはがされる、だが同時に彼も絶頂を迎え私の顔と胸を彼の白濁液が汚す。  
「暖かい…」  
顔や胸に張り付いたそれをなめてみると、少し不思議な味がする。  
「どう?オーウェン、ちょっとは気にならなくなった?」  
そう私が笑うと、彼が私をみて不敵に笑っていた。  
―あれ?―  
「ここまでされたら…我慢できるか…男らしくしてやるよ」  
言葉と共にベッドの上に引き上げられ、今度は私が押し倒される。  
「あれ?オーウェン?もしかして…」  
「クラッズ…覚悟しろよ…」  
言葉と共に彼が下着を引きちぎった。  
 
精を吐き出したばかりのそれが力強くそそり立っている。  
「ちょ!タイムタイム!ヤッていいけど!ヴァージン何だから優しくしてよ!」  
「無理だ…人がどれだけ必死に耐えてきたと思ってる、人間じゃないからクラッズが嫌がると思って我慢してきたんだぞ?」  
そう告げる彼を私は不意におかしくなって笑う。  
「…ホムンクルスだって何だって良いじゃん…オーウェンはオーウェンだよ、男なんだし、私を食べたかったら…食べちゃえ、私が許可する」  
私が笑うと彼が少し驚いた顔をした、そしてすぐに笑う。  
「途中で後悔するなよ?」  
「絶対にしないね」  
私が笑うと、髪飾りの鈴が鳴った。  
「どうせならそんなこと考えられないくらい、むちゃくちゃにしちゃってよ」  
「ああ、楽しませてもらう」  
そう言ってオーウェンが私の胸をつかんだ。  
 
勢いの割に繊細なタッチで胸を揉まれると切ないようなくすぐったいような気分が膨らんでくる。  
「あ…はっ…声が…出ちゃう…」  
チリン、チリンと鈴が鳴る。  
「もっと出して良いんだぞ、どうせだれも来やしない」  
笑いながら彼が濡れた私の大事なところをなぞり挙げた。  
「ふひゃぁ!」  
突然の刺激に思わず声をあげる。  
「お…オーウェン…なんかうまいね…経験あるの?」  
「いや?ない、ないけど…」  
ぼそりとオーウェンが私の耳元で囁いた。  
「クラッズの感じるところはよく知ってる…」  
「ふえっ!」  
驚く私の小さな豆を彼が笑ってつまみあげた。  
「くひぃぃ!?」  
強すぎる刺激に思わず彼の体を強く抱く。  
「ここと、あと、首筋もよわい…」  
首筋を生温かい感触がくすぐると、血を吸われるときのことを思いだして快感で体が震える。  
 
「ちょ…なんで、しって…」  
「あとここも…」  
言葉と共に彼の指が私の中に入って手前の壁をくすぐった。  
「うひゃぁぁ!!何で…何で知ってんの!?」  
私の言葉に彼が笑う。  
「血を吸ったときに、なんか知らんがクラッズが一人でしてる時の光景が浮かんできた。胸の先をつまむのも好きなんだよな?」  
言葉と共に胸がつままれると、びりびりとした電流が背中を走る。  
「ちょっと…ちょっとまって…つまりオーウェン…私が一人でしてるのみたってこと?」  
「ああ」  
あっさり言われて顔が真っ赤になる。  
「あんなに深く指入れたら処女膜傷つくぞ」  
「!?な、な、なんのこと?」  
そんなことまで知られているなんて思わなくて顔が真っ赤にそまった。  
「これからは気にしなくて良いようになるけどな」  
 
言われて彼のものを見ると、パンパンに膨れたそれがいまかいまかと私に入るのを待ちわびて先走りの汁が垂れていた。  
「て、ちょっとまってオーウェン、さっきよりでかくなってるのは気のせい?」  
「さぁな」  
くすくすと彼が笑う。  
「意外と面白いな、ホムンクルスって」  
彼が私の首に噛みついて血を吸った。  
「ちょ、卑怯者!?あ、ああ…!血を吸いながら入れるな〜!!」  
同時に異様なサイズのそれが私の中に入ってくる。  
血を吸われているせいで痛みと快感を同時に味あわされる。  
「オーウェン、反則…血吸わないで…せめて初めての痛みだけは味あわせて…」  
半分ほど埋まった彼を見ながら、せめてもの願いとして彼に言う。  
「…分かった」  
「ありがと…」  
痛いと知っているから、彼はそれを和らげようとしてくれたのだろう、だけど、私はその痛みを彼のために味わいたい…。  
 
彼のものになる痛みだからしっかり覚えておきたい。  
「痛かったら我慢せずに言えよ?」  
オーウェンが私の腰をつかんだ。  
「血を吸われるので痛いのは慣れてるよ…だからオーウェン…私を散らして…」  
「ああ…」  
彼が腰を引き勢いよく私の腰を引きよせる、ブツリと私の中で何かがはじけて、彼が一番奥まで潜り込んだ。  
「くあ!…い…った」  
体を二つに割かれるような痛みに体が震える。  
「大丈夫か?」  
そう言って私を見た彼の唇を奪う。  
舌を絡ませ、彼を解放する。  
「結構痛い…」  
ひりひりした痛みが下半身に残っている。  
「俺はすごく気持ち良いんだがな…これがクラッズの中か…熱くてキツイな」  
「いちいち言わなくて良いよ…馬鹿…」  
自分の中がどういうふうになってるか言われ、恥ずかしくて顔を隠す。  
 
「そう言われてもな…」  
ポリポリと彼が頬を掻く。  
「どれだけ恥ずかしいか思い知らせてあげる…」  
そう言って、私は自分の中の彼に意識を集中させた。  
「うあ…オーウェンの…アツくて…固くて…おっきくて…ときどきピクって動いてる…」  
私の言葉にオーウェンのものが反応してまたお腹の中でピクリと動いた。  
「クラッズ…」  
オーウェンが赤い顔で私を見る。  
「優しくとか…無理」  
言葉と共に彼が動き出した。  
「うあっ!?逆効果!?ちょっと…バカ!オーウェン激しいって!!」  
ずぶずぶと彼が何度も私の中を出入りする。  
痛いのに…気持ち良いという感覚もある。  
「あんなことを言われて…手加減なんか無理だ」  
「うぁ!くふ!ふぁ!」  
髪飾りの鈴が彼の動きに合わせて鳴る。  
濡れた水音が寝室に響く。  
パンパンと腰がたたきつけられる音と共に小刻みな鈴の音が常に響く。  
 
妹にみられながらされているようで、背徳的な快感が頭をだんだん真っ白に染めていく。  
「オーウェン…駄目…もう限界…」  
激しい行為で自分がどこかに行ってしまいそうな不安な気持ちがどんどん強くなる。  
火花が絶え間なくはじけ続け、腰の痛みが溶けていく。  
「俺も…このまま…」  
「いいよ…だから早く…私の中に…」  
「ああ…行くぞクラッズ!」  
「うあぁぁぁぁ!!」  
彼が震えて私の中ではじけ、熱い液体を私の中に解き放つ。  
その熱さに中を焼かれながら私は初めての行為での絶頂へと上り詰めた。  
「大好き…オーウェン」  
「俺もだ…クラッズ」  
彼がそう言って顔を近づける。  
私はそっと目を閉じ思いを伝えるように口づけを交わした  
 
 
「…オーウェンに散らされた〜」  
行為の後の気だるい感覚に包まれながら私は彼の首に噛みつく。  
「最初に誘ってきたのはクラッズのほうだろ?」  
彼が笑って溢れてきた精液を私のそこからふき取る。  
「…そうだけどね、初めてなのにあれはひどいよ、ただでさえデカイのに、あんな風にされたら広がったままになっちゃうってば、てかまだ痛いし」  
まだ彼が入ってるような感覚に私は自分のお腹を撫でる。  
「むちゃくちゃにしていいって言うからしただけだ」  
けろりと、した顔で彼が答える。  
「…さて、思惑ではヴァージン散らされるつもりはなかったんだけど、まだ自分が人間かどうか悩んでる?」  
思い出したように私がそう言うと彼が笑った。  
「なんかどうでもよくなった、俺は俺だし、ホムンクルスならではの技で、クラッズを楽しませてやれそうだしな」  
 
そう言って彼がざらざらとした質感の舌で私の胸をなめた。  
「くふっ!?…ちょっと、何か舌の感触さっきと違くない?」  
私がそう言うと彼がニヤニヤと笑って私を見た。  
「手が変化させられるんだから、舌だってフェルパーみたく出来るよな…ブレスだって吐けるんだし」  
「あはは…何それ、そんなお得な機能付きなの?」  
私が笑って彼も笑う、鈴が小さな音を立てる。  
「病みつきになるだろ?」  
子供みたいに彼が笑う。  
「そんなのもう、とっくのとうになってるよ」  
今度は私が抱いてやる、そんなことを思いながら私は再び彼を押し倒す。  
まだ日も暮れていないのに私達は何度も何度も愛し合った。  
 
 
 
荒々しく扉がノックがされる音で私は目をさました。  
「ん〜オーウェン…起きて〜フェルパー来たみたい…」  
オーウェンのことをそう呼んでゆすると彼が静かに目をあける。  
「…おはようクラッズ、あとオーウェンじゃなくてセレスティアな」  
ぼーっとした目で私をみながら彼が頭を撫でる。  
あの子の形見の髪飾りがいつものように鈴の音を響かせる。  
とりあえず、脱ぎ棄てた服に身を包むと、扉が金属音と共に二つに分かれた。  
「おはよう、お二人さん、会議の時間は過ぎてるぜ?」  
いつも通りの燕尾服に身を包んだフェルパーが刀を服にしまいながら笑う。  
「ああ、いつも悪いなフェルパー、お嬢を満足させるために夜は忙しいのに、朝は俺らを起こしに来てくれて」  
 
「分かってるなら考えろ、というかお前らよく体力持つな、俺もバハムーンと毎日やってるが…2、3回が限度だよ」  
「初日のお前らと俺らよりもハードなエルフ達にはかなわんがな、俺とクラッズは最低6回はする」  
「危険日も全部中だからそろそろ私が妊娠しそうだけどね〜、そしたらさすがのセレスティアもできないでしょ?」  
「じゃあ妊婦になったら後ろだな」  
「うわ、変態、でも刺激的でいいかもね」  
鈴を鳴らして私が笑うと、オーウェンも楽しそうに笑った。  
「やれやれ…学生で子供産んだら、何言われるかわからんぞ」  
フェルパーがそう言って笑うと、オーウェンはにやにやと笑った。  
「いや、分からんぞ、タカチホのネームレスは子持ちが確かいるからな」  
「そういやそろそろ三学園交流戦だな」  
思い出したようにフェルパーが呟く。  
 
「去年、あっさり負けたな〜今年は勝てるといいけど…」  
不安になった私の頭をオーウェンが撫でる。  
「今年は勝てるさ、なんたって全員オトナだからな」  
愛用の真紅の鎌を背負い、オーウェンが笑う。  
「バーカ、あっちだってオトナでしょ?」  
私達の会話に呆れたようにフェルパーが笑う。  
アンノウン、それが私達のチーム。  
お嬢様のバハムーンと、その執事で恋人の暗器使いのフェルパー  
ネコ被りの妹ディアボロスと、その恋人のドMな精霊使いのエルフ  
そして私と、その恋人、人の心を持ったホムンクルス…  
どこかふざけた私達、それでも仲間になれたのだから、きっと仲良くやっていける。  
そして、いつか彼のことを本当の名前を皆に知ってもらいたいと、私はひそかに心の中で思う。  
―ねぇ、セレスティアどう思う?―  
髪飾りの鈴が、そんな私に応えるように小さく澄んだ音色を奏でた。  
 
 
 

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