そこは神殿に似ていた、そして学び舎にも似ていた。  
だが決定的にそれらと違うのは、そこがまるで激しい戦いでもあったかのように無残に破壊しつくされていることだった。  
ひび割れた柱、砕けて落ちた石の天井。  
そんな崩れた建物をローブを纏ったフェアリーの少年が歩く。  
「…どこだ…」  
奇妙な方向に曲がってしまった右足を引きずりながら、彼はそう呟きながら崩れた建物を何かを探すように見渡す。  
その背に生えた羽根は半ばちぎれ、元の形を保っていない。  
ずりずりと足を引きずりながら少年はひたすらに何かを探して歩き続ける。  
 
そして広場であっただろう場所の中心にたどり着くと彼はようやく目的のものを見つけ出したかのようにボロボロの羽根を使いその中心に向かって羽ばたく。  
その軌道はふらふらと頼り無いものであったが、彼はそれでも前を見据えて歩き続ける。  
そして、そんな彼に気付いたようにそれが彼を見つけて笑った。  
「…おや、無事ですか?」  
それはセレスティアの青年だった。  
ふざけたような口調だが、その声はどこかかすれていて弱弱しい。  
「幸い…君のおかげで生きてはいるようだ…。もっとも、さすがにアレと戦うだけの力も魔力もこれっぽっちも残ってないがね」  
「そうか…それはよかったよ、彼を止める事は出来なかったが…君を助ける事が出来たんだから」  
そうフェアリーに応えるセレスティアの青年の白い服は、もともとの色を覆い隠すように赤黒い染みが広がり不吉な模様を描き出していく。  
 
青年の姿に苦しそうな表情をしながら少年は静かに両手を開いて彼に向ける  
「今、治療しよう…」  
そう、うめきながら治癒の呪文を少年が唱え始めると青年は彼の手を掴んで無言で首を振った。  
「無駄です…、私の怪我は治癒を使ったところで治らない…。そもそもそれで治せるのなら自分で何とかしていますよ…、あなたも魔力は残り少ないのでしょう?それは自分に使ってください」  
血の気を失いかけた青白い顔で青年が笑う。  
「だが…このままでは君は…」  
それでも続けようとした少年に、青年は静かにこう言った。  
「どの道、私はもう助かりません…ですから、私のことを思ってくれるなら、あなたは必ず生き残って、このことを後世に伝えてください。  
あの男…アガシオンの企みを…防ぐために…」  
 
まるでいつもと変わらない笑顔に少年は静かに縦に首を振った。  
服の染みはどんどん広がり、青年の体を覆っていく。  
そんな彼を見ながらフェアリーは静かにうなづいた。  
「ああ…約束しよう…他でもない君の頼みならば」  
涙を流しながら、私は友の手を掴む。  
「ありがとう、親友…あなたが私の友で…よか…った」  
最後にもう一度だけ笑って、青年はそのまま静かに目を閉じる。  
「馬鹿者が…子供がまだ生まれたばかりなのだろう?悲劇でしかないのに、  
そのことを私の口から君の家族に伝えろと言うのか?私は悲劇が嫌いだと言っただろう」  
嗚咽交じりの声で少年は呟きながら青年を見る。  
青年はもはや答えない。  
そこに彼の肉体はあれど、彼の魂は存在していない。  
青年は、もう息耐えていた。  
 
どこか満足げな青年の顔を見ながら少年は静かに呟いた。  
「君の望みは、君の願いは…私が受け継いで…私の手で完遂させる。  
たとえ、この身が呪われようとも、君の成せなかったことを、私が完遂して見せる」  
青年の亡骸に残された魔力を吸い上げながら、少年は静かに呪文を唱える。  
「ゆえに友よ…安らかに眠れ…」  
彼の言葉と呼応するように地面に広がった魔法陣が遺跡に残った魔力すらも吸い上げながらどこか怪しい光を放つ。  
少年はその広がる魔法陣の中心で触媒たる魔石を握りしめる。  
「本当は、どうしても、奴を倒せないときにこの命と引き換えに使うつもりだったのに…。  
まさか、この命を終わらせないようにするために使うことになるとはね…」  
自嘲気味に少年は呟く。  
 
「私は…終わりを拒絶する…、私は永遠を望む…」  
最後に少年が呟くと、それに合わせて魔石が砕け、魔法陣から溢れる光が彼を包み込んだ。  
 
それは遥か昔の事、のちに光のセレスティアと呼ばれた青年の最後の真実の姿だった。  
 
 
ドラッケン学園、数々の冒険者を生み出してきたその学園で、最近ひときわ目立つパーティがいた。  
 
「邪魔だどけぇぇ!!」  
行く手をさえぎる獣の群れを拳と爪で引き裂きながらフェルパーの少女が疾走する。  
その少女を見ながらバハムーンの少年は両手で握りしめた剣を手に背後の仲間に命令を出す。  
「クラッズ!フェルパーを援護しろ、後衛の防衛は俺が引き受ける。  
そして、フェアリーはキルシュトルテ達、ディアボロスはジーク達の援護を行え!  
セレスティアは全体を把握し回復に専念しろ!」  
「了解…!本気で行くよ!!」  
リーダーたる少年の言葉に応えながらクラッズは自らを狐の仮面で覆い、先行するフェルパーの背後を狙う魔獣を銃で撃ち落としていく。  
 
「今!ジーク私達も合流するよ!」  
「お、おう!!」  
ヒューマンの少女ベルタが叫び、バハムーンの少年ジークがそれに応え、彼女に続いて走り出す。  
「ちょ!二人とも待ってってば!」  
それに遅れてノームの少年、フォルクスもあわてて走り出す。  
彼らが駆けだしたのを確認するとディアボロスは小さく笑って呟いた。  
「さぁ、万華鏡をまわしましょう」  
ギシリ…  
何かが歪むような音が響き、走り出した彼らの行く手をさえぎる魔獣たちの中心で無数の斬光が走りまわる。  
そして、その体がスライドするように崩れ落ち、もしくは石となって倒れていく。  
 
合流した3つのチームは取り囲まれた状態になりながらもどこか楽しそうに笑っていた。  
 
「なかなかやるのう、ノイズメーカーと呼ばれておるゆえ、うるさいだけかと思っておったが…」  
「あながち間違ってはいない、うるさいというのはそれだけやる気があるということだからな」  
キルシュトルテの言葉にバハムーンはそう言って楽しそうに笑う。  
 
ノイズメーカー、どこか自分勝手で喧しい。  
彼らはそんな名前で呼ばれていた。  
 
「妙じゃな」  
ようやく片付いた魔獣の群れを見ながら、キルシュトルテがそう呟いた。  
「うむ、確かに奇妙だね…」  
ほとんどのものが首をかしげる中、ただ一人、フェアリーさんだけがそれに賛同する。  
「何が妙なんですか?」  
フェルパーさんの傷を治しながら私が呟くと、彼はいつもの笑いを浮かべながら呟いた。  
 
「あまりにも、干渉が少なすぎるのだよ…。我々の持つ秘宝を狙っているはずなのに我々を襲っているのはあくまでこの迷宮にもともと生息している魔獣のみだ…」  
「言われてみれば…確かにそうだな…」  
フェアリーさんの言葉にリーダさんがそう言ってうなづく。  
確かに、彼の言うとおりだった。  
闇の生徒会…もともとは私達と同じく冒険者を目指しながら、何らかの理由で学園をやめ、今まで何度か私達の前に立ちふさがってきた相手。  
彼らの目的は分からないが、私達が運ぶ秘宝、それを彼らは狙っているハズだった。  
それなのに、なぜか彼らは未だに姿を見せない。  
いままでは気付いていなかったが、確かに何か奇妙だった。  
「俺達に恐れをなしてるんだろ?」  
「阿呆、んなわけあるか、ちょっとは考えろジーク」  
 
まるでなにも分かっていないかのように明るく答えたジークさんを呆れた目で見ながらフェルパーさんが呟く。  
「確か、前もこんなのあったね…」  
膝の上に座ったクラッズさんを抱きしめながらディアボロスが呟いた。  
明らかにイチャついているようにしか見えないが、それを注意しようとする者はいない。  
それだけ、皆疲れているから、それぐらいは自由にしてあげたいと皆が思っているのだろう。  
そんな配慮を知ってか知らずかクラッズさんは真面目な顔で呟いた。  
「…そうだね、前にボクとディアボロス達が襲撃された時に似てる」  
「つまり…罠を用意してるということですね」  
「まぁ可能性はあるね」  
「また、前回と同じミスをするわけにもいかん、交代で見張りをしながら休憩しよう」  
 
リーダーの言葉に皆が答えて野営の用意を始めるのだった。  
夜、皆が寝静まったのを確認しそっと私はだれにもばれないようにテントから抜けだす。  
とはいっても、本来一緒のテントであるはずのフェルパーさんとディアボロスは居なくなっていたので抜けだすのは簡単だった。  
だから、私は一人、ただ一人静かな場所を探して歩く。  
 
私達は今、あるクエストを受け、迷宮を進んでいた。  
それは、ドラッケン学園に伝わる秘宝を大陸の中心の禁断の地へと運ぶ。  
それも学園の代表として…。  
 
「はぁ…」  
魔力の溢れる神秘的な泉の前で、誰もいないのを確認してから私は隠れてため息をついた。  
「眠れませんね…」  
 
どれだけ普段通りで居ようと思っても、どうしても緊張してしまう。  
他語っている時もそのせいかいつも通りの自分をうまく演じられず、どうも落ち着かなくて眠れない。  
緊張とストレスで胃がキリキリと痛んだ。  
「いたいよぅ…くるしいよぉ…」  
痛むお腹を押さえ思わず地面に座り込む。  
―弱いなぁ…私―  
他の皆だって、きっと緊張していないわけが無いのに、私はその緊張に完全に負けてしまっていた。  
―怖い…―  
痛む胃を押さえながら私はカタカタと体を震わせる。  
戦っている間は感じていなかった恐怖が今頃になって自分を襲っていた。  
明らかに敵は強くなっている。  
いくらフェルパーさん達が強いからと言って絶対に大丈夫かどうかなんてわからない。  
もし彼女達が死んでしまったらどうしよう、そんな不安が胸を覆う。  
 
怖い…怖くて仕方が無い…  
いつもの私ならきっと笑っていられるのに、いつもの私が思い出せない。  
彼女達に、こんな弱い姿は見られたくない。  
自分が本当はこんなに臆病だなんてきっと彼女達は知らないから。  
だから、私はいつものように隠れて一人で震えていた。  
だけど…。  
「ずいぶんと遅い散歩だね、セレスティア」  
そんな私の名前を誰かが呼んだ。  
「フェアリーさん…?」  
聞きなれた声に顔をあげ振り返るとカンテラを手に見慣れた彼が近づいて来る。  
「どうかしたのかね?」  
いつものようにまるでおとぎ話の魔術師のようなローブで身を包み、ふわふわとどこか頼りなく漂いながら彼は私のそばまでやってくる。  
「ちょっと、眠れなくて…」  
あわてて自分を取り繕いお腹の痛みをこらえながら私はそう言った。  
 
「なるほど…」  
そう言って彼が私からちょっとだけ離れて座る。  
「確かに、眠れない夜もあることだろう…」  
「…ええ」  
―…見られてませんよね…―  
心の中の動揺をひた隠しながら私はそう言って彼に応える。  
「フェアリーさんも眠れないんですか?」  
「まぁ…そんなところだ」  
私の言葉に彼が頷いた。  
それだけ言うと彼はそのままゆらゆらと揺らめくカンテラの炎を見ながらただじっと何かを待つように座っていた。  
「セレスティア…」  
しばらく黙っていた彼がようやく口を開いて私の名を呼んだ。  
「はい?なんでしょうフェアリーさん」  
そのころには少しだけ心も落ち着いて来ていてある程度普段の自分を演じられるだけの余裕が戻ってきていた。  
だからまた私はいつもの自分を演じて彼に応える。  
 
「君にとって…私はどんな人間だろうか?」  
「…面白くて、楽しい人ですね」  
突然何を言うかと思ったが、私は正直に彼にそう告げた。  
「おやおや、君にほめてもらえるとは嬉しいね…」  
「それと、嘘つきです」  
「…なるほど、ぬか喜びをありがとう、わが女神」  
私の言葉に彼が苦笑した。  
「ふふっ…」  
そんな彼の表情が可笑しくて思わず私は笑ってしまう。  
そんな私を見た彼はどこか満足そうに笑った。  
「やっと、笑ってくれたね…」  
「…え?」  
思いもしなかった彼の言葉に私は思わず聞き返してしまった。  
あっけにとられた私の頬を彼が優しく撫でた。  
「やはり君は、笑っていた方が美しいよ」  
「フェアリーさん?」  
ようやく私は、彼が私を元気づけるためにあんなことを言ったのだと察した。  
「気づいてたんですか…?」  
 
私の言葉に、彼は小さく頷いた。  
「これでもずっと君のことを見てきたからね  
いつも誰かをからかっているけど、本当は君が臆病なことを…私は知っているよ」  
私の頭を撫でながら彼は優しい声色でそう告げる。  
「無理をしなくて良い…辛いだろう?」  
「…ええ」  
彼の言葉に私は頷く。  
もともと彼はお芝居が好きだった。  
もしかしたら彼はずっと前から気付いていたのかもしれない。  
だから、こうして今、私を慰めに来てくれたんだろうと、思う。  
「私の前で、演技などしなくて良いんだよ…。少しは肩の力を抜きたまえ、  
真面目なのは君の良いところだが、それで君が笑えなくなってしまっては意味が無いよ?」  
優しく諭すようにそういいながら私の頭を彼が撫でる。  
 
「私では、君に頼られるには力不足かい?」  
「ううん…力不足なんかじゃないです…」  
「そうかい…」  
「ホントに甘えても良いんですか?迷惑じゃないですか?」  
「迷惑なわけなどあるまいよ、君に甘えられるなど、私にとっては夢のようなことだからね」  
そんな優しい彼の言葉に耐えきれず、私はそのまま彼の胸に飛び込んだ。  
「怖いよ…怖いよフェアリー!私、死にたくない…皆にだって死んでほしくないよぉ…」  
押さえていた感情が決壊し涙が勝手に溢れだす。  
泣きじゃくる私を抱きしめながら、彼が優しく私の背中をなでた。  
「大丈夫だよ…セレスティア…君は死なないさ…皆も死なない…」  
「分かってるけど、でも…怖いんだもん!」  
彼が私をそう言って慰めてくれるけど、私の不安は収まらない。  
 
「…学校のためなんかで、私戦えないよ…。私自分勝手なんだもん…」  
泣き続ける私がそう言うと私の背中を撫でながら彼が静かに口を開いた。  
「では…約束をしようセレスティア…」  
「え…?」  
彼の言葉に私は思わず顔を上げる。  
どういうことか分からない私を見ながら彼がほほ笑む。  
「この戦いが終わったら…私が君の願いを一つ叶えよう…」  
「…なんでも?」  
「ああ…なんでも叶えてやる…何が良い?」  
いつもの芝居じみた口調じゃなくて、どこか大人びた口調で彼が私を見る。  
「急にいわれても…分からないよ」  
「そうか…じゃあ、この戦いが終わるまでに、考えてくれたまえ…」  
もしかしたら、こっちが本当の彼なのかもしれない。  
私みたいに彼も何かを演じているのかもしれない。  
 
「うん分かった…」  
彼にそう答えながら、私は彼の顔を見つめる。  
「では、それで決まりだ、これでは君が戦う理由になれないだろうか?」  
彼が何かをまた演じながらそう告げる。  
だから、私もいつもの自分を演じながら、彼の言葉に応える。  
「ふふ…十分です、ご褒美…楽しみに考えておきますね?」  
「お手柔らかに頼むよ…」  
そう言って彼が立ち上がる。  
「まって…」  
立ち上がった彼のローブの裾を掴んで私は彼を引きとめる。  
「どうかしたかね?」  
「…ちょっとかがんで」  
私がそう告げると彼が不思議そうに首をかしげながら静かにかがむ。  
「これで良いのかね?」  
「…うん、そのまま」  
彼にそう答えて、彼を引き寄せる。  
そして引かれるままに彼の唇と私の唇が重なり合う。  
 
温かい彼の唇の感触が私の唇を伝わって、驚いた表情をした彼の顔が私の目の前にあった。  
「…セレスティア」  
ゆっくりと彼の体から離れると彼が驚いたような表情のまま、小さく呟く。  
「元気にさせてくれたお礼…ちなみに、ファーストキスだよ…」  
恥ずかしさをこらえてそう言うと彼が笑った。  
「…光栄だ、私などに捧げてくれるとはね」  
「フェアリーさんだから…あげたんだよ」  
私の告白を聞いた彼が静かに私の再び私の肩を抱いて抱きしめる。  
「ありがとう…セレスティア…」  
泉から溢れる魔力の小さな光が、私達のことを照らしていた…。  
 
彼女のことを見送りながら、私は彼女が触れた自分の唇を撫でる。  
そこにはまだ彼女に触れた感触と温もりが残っていて、彼女が自分にだけ見せてくれた弱さに、ほんの少しだけ心が高鳴る。  
「…私にも、人間らしい心が残っていたのだね…」  
彼女が私を愛しているかは分からない。  
それでも、一時であれ、彼女の心の支えになれたのであれば、こんなに嬉しいことは無いだろう。  
彼女と一緒に居ただけで、こんなにも心は高鳴るものだとは思わなかった。  
あの時、自分で時を止め、数々の別れを繰り返す中で、自分の心などとうに凍ってしまったのだと思い込んでいた。  
否、きっと凍っていたのだ。  
彼女がそれを溶かしてくれたのだろう。  
 
愛するものを太陽に例える事ほど、くだらない考えはないと思っていた。  
人は太陽の恩恵を浴びるだけで、太陽に何も返せない。  
一方的に受け取るだけなど、愛する者への例えには相応しくない。  
だが、それでも、私にとって彼女は太陽だった。  
凍りついていた心を溶かし、暗く染まった私の世界に光を与えてくれた。  
だからこそ、彼女と言う太陽を失うことなど…私には考えられない。  
―彼の時と同じことをするわけにはいかない…―  
「否、させるわけにはいかない…」  
そのために、私は時を止め、ただひたすらに力を求めてきたのだから。  
「彼女には怒られるかもしれないね…」  
―だが…それでも良い…―  
それで彼女を守れるなら…。  
 
だから私はたった一人、まだ皆が眠る中、一人静かに歩き出す。  
 
目指す場所など決まっている。  
「友よ…長らく待たせてしまったね…あとほんの少しだけ…待っていてくれたまえ…」  
もう、どこにも居ない最初の友人に、私は静かに呟く。  
もはや道化を演じる必要はない、昔の自分を取り戻し、友との約束を果たすため、私はただひたすらに歩みを進める。  
 
「聞いてんだろ?アガシオン」  
昔の口調でしゃべりながら俺はそう言って遠くに見える建物を睨む。  
「ようやくお前に追いついた、覚悟しろよ?」  
遠くの建物を睨んだまま俺はそう言って中指を立てる。  
「あとちょっとだ、それまでは好き勝手、お山の大将気取ってろ」  
古びたローブを翻しながら俺は再び歩み始める。  
心の中で、最後に彼女に謝罪の言葉を述べながら…。  
 
古びた建物の中心で、その男は水晶玉を見ながらどこか楽しそうに口をゆがめた。  
「…ふふ、あの時のフェアリーか…どうやってこの長い時を生き続けたのかはわからんが…。実に面白い…」  
男は心底楽しそうに笑いながら、自らの意思を伝える為、魔石を掴む。  
「皆の者に次ぐ…これからやってくるフェアリーの妨害はせずに、私のところまで通せ」  
『どういうことです?校長?』  
彼の言葉に魔石越しに戸惑った声が聞こえてくるが、彼は笑うだけで何も答えない。  
「くどいぞ…二度は言わせるな…」  
威厳ある男の声に反発の声がやむ。  
「その代わり、他の者が来た場合にはお前たちの好きにするがいい…力はそのために与えたのだ…」  
男の声に、魔石越しに笑い声が響く。  
 
どこか楽しそうで歪んだ笑い声を聞きながら、男は実に楽しそうに笑った。  
「楽しみにしているぞ…フェアリー…」  
男の呟きは闇にとけ静かに消えていった。  
 
「おはようございます皆さん」  
「…おう、おはようさんセレスティア…」  
どこか眠そうに顔をこするフェルパーさんの首にはあいかわらずのキスマークが無数に刻まれている。  
「…決戦前にお盛んですね」  
「ばっ、違!私は嫌だったのにバハムーンが無理やり…押し倒してきたからつい…」  
私の視線に気づき、彼女はあわてたようにずり落ちたマフラーを結び直す。  
「…だから眠そうなんですか?」  
「…バハムーンが寝かせてくれないから…って違う、ヤッてない!!  
お腹一杯になんか注がれてなんかないからな!!」  
 
私の言葉に顔を真っ赤に染めながらフェルパーさんがブンブンと手を振って顔を隠す。  
毎度思うけど本当にこの人は隠す気があるんだろうか?  
言ってもいないことを否定されると、明らかにしたのだと分かってしまうこと学習してほしい、さすがにこうも予想どおりだと、むしろわざとやっているんじゃないかとさえ思ってしまう。  
ちなみに件のバハムーンさんはいつになっても起きてこないフェアリーさんを迎えに行ってしまってこの場には居なせいでその確認はできなかった。  
「…つか、私よかあの二人に言えよ…あいつらめっちゃ声響いてたんだぞ?」  
不満げな顔でフェルパーさんが見つめる先には今日もいちゃいちゃしているクラッズさんとディアボロスさんがいた。  
 
「昨日もありがとうクラッズ…とっても気持ちよかった」  
「どういたしまして、ディアボロス、ボクもすごく気持ちよかったよ」  
ハートマークを飛び散らせながらイチャつく二人はほかのチームの前だと言うのに、もう一戦始めそうな気配を漂わせている。  
「…あの二人はからかっても面白くないですもん」  
「よし、セレスティア、一回殴らせろ、出来る限り手加減してやる」  
私の言葉にフェルパーさんがそう言って拳を握った。  
「やです、痛いの嫌いですもん」  
「てめぇ…」  
怒ったように彼女がフルフルと体を震わせながら手を振り上げる。  
だが、それが振り下ろされるよりも早く、どこかあわてた様子のリーダーさんが走ってきた。  
「今すぐ出発するぞ!」  
 
彼の突然の言葉に皆が驚いたような表情をする。  
だが、同時に、私は彼のすぐそばにフェアリーさんが居ないことに気付いて、最悪の考えが思いつく。  
―嘘だよね…フェアリー?―  
「どうしたよ、彼氏様」  
問いかけたフェルパーさんの言葉にリーダーさんが静かに口を開く。  
「これを見ろ…」  
たった一枚のうすい紙に見覚えのある文字が記されている。  
―嘘だ…―  
自分の予想通りの展開に、私は心の中でそう叫ぶ。  
バハムーンさんからその紙を受け取って読んだフェルパーさんの顔が怒りを抑えるようなものに変わる。  
「何で…そんな顔するんです?フェアリーさん、フェアリーさんはどこですか?」  
リーダーさんはそれに応えない。  
「あのクソ馬鹿が…!死ぬ気かよ!!」  
 
彼女の気配に、ディアボロスさんとクラッズさんがあわてて彼女に駆け寄る。  
―そんなはず無いですよね?フェアリーさん…―  
ここには居ない彼に心の中でそう問いただすが、当然何も返ってこない。  
その紙には、見知った彼の筆跡で記されていた。  
――――――――――――――――――――  
まず、初めに皆には黙って言ってすまないと言っておこう…  
謝って済むレベルではないかもしれないがね?  
 
私は、あの親玉…アガシオンと呼ばれる魔術師と因縁がある。  
だから、その因縁を果たすため、あえて一人で行かせてもらう。  
私の手で…全てを終わらせてしまいたいから…  
 
P.S  
 セレスティア、君の言うとおり私は嘘つきだ。  
もし、私が生きて帰れた時には、いくらでも文句を聞こう。  
だから…許してくれ…  
――――――――――――――――――――  
 
「…急ぐぞ、まだ間に合うかもしれん」  
リーダーの言葉に皆が頷く。  
私も手紙を握りしめながらなんとか頷いた。  
 
用意を終えた皆を連れて私達は走り出す。  
「馬鹿…フェアリーさんの馬鹿!」  
ここには居ない彼を追って走りながら私は叫ぶ。  
 
だが、そんな私達をさえぎるかのように、うすら笑いを浮かべた少年が私達の前に立ちふさがる。  
「おっと…ここから先は行かせないよ?」  
「スティクス!空気読めないのはいい加減にしろって前も言ったよね?」  
「うるさい…!こんどこそ、より強くなった僕の闇の精霊で…」  
 
いらだったクラッズさんの言葉にスティクスがそう言って杖を構える。  
だが、私はそれすら待たずに鎌を引き抜いて振り下ろす。  
「どいてよ…」  
どこかおびえた様子で私をみるスティクスを睨みながら私は再び鎌を構える。  
「私の邪魔をしないで!!!」  
恐怖なんか感じない…他の事等どうでもいい…。  
ただ、私は、彼が無事であることを祈りながらそう叫んで精霊の群れに飛び込んだ。  
 
 
 

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