見慣れた風景。見慣れた光景。見慣れた記憶。  
「自分がされて嫌なことは、人にやっちゃダメだよ」  
わけがわからない。人が自分にするのに、なぜ自分がするのはダメなんだろう。  
見慣れた言葉。見慣れた人物。見慣れた私。  
記憶と寸分違いのない、かつての光景。  
「自分がされて嫌なことは、人にやっちゃダメだよ」  
嘘ばかり。自分がされるってことは、他人はしてるってこと。他人がよくて、自分がダメな理由はない。  
うちの近くに住む、嫌いな子。これから何十年も顔を突き合わせ、付き合って行くのかと思うとぞっとする。  
大騒ぎする大人。泣き叫ぶ子供。倒れる子供。それをただ眺める私。  
「どうしてこんなことを」「早く医者を」「そいつを捕まえろ」  
あ、捕まるのは嫌。でもこのままじゃ捕まる。じゃ、どうするかなんて、答えは簡単。  
降ってきた血は体毛に染み込み、肌に触れる頃にはひんやり冷たい。  
赤い。赤い。髪の毛まで赤く染まる。倒れる子供。倒れる大人。  
「こいつは危ない」「どうするんだ」「殺せ」  
ほら、見たことか。自分がされて嫌なことを、みんなする。しない方が馬鹿を見る。  
来るなら何人でも、排除する。私の人生の邪魔になる奴は、全部排除する。  
私は私の、やりたいようにする。  
 
 
眠っていたドワーフの耳が、ピクンと動いた。一瞬の間を置き、さらにパタパタと何度か動くと、その目がゆっくりと開かれる。  
隣に目を移し、セレスティアとそのペットが寝ていることを確認すると、ドワーフはベッドから降り、窓から外を見つめた。  
彼女達の部屋は三階に位置している。そのため、見下ろせばかなりの範囲を見渡せるのだが、探すまでもなく、ドワーフは自分を  
起こした原因を見つけ出していた。  
寮の裏手、木立の辺りに人影が見える。その影は三つあり、それぞれディアボロスの女子、ヒューマンとバハムーンの男子のようだった。  
一瞬、自身の仲間のバハムーンかと思ったが、それにしては髪色が違うため、別人らしい。  
ディアボロスは、二人に組み敷かれていた。近くには元スカートと思われるぼろきれが落ちており、ヒューマンが彼女の両腕を拘束し、  
さらにもう片方の手で口を押さえている。バハムーンの方は彼女の足を広げ、その間に体を割り込ませている。  
くぐもった悲鳴と、男二人の小声で怒鳴っているとでも言うような声。それが、ドワーフを起こしたものの正体だった。  
何をされているのかは、一目瞭然である。しかし、ドワーフはそれを助けようという気など微塵も起きず、むしろこの先どうなるのかと、  
ただ黙って興味深げに成り行きを見守っていた。  
まだ挿入には至っていないようで、ディアボロスは泣き叫び、足をばたつかせ、体を捻り、何とか彼等から逃れようとしている。  
しかし力がないのか、男二人は大して苦労する様子もなく、彼女を容易く押さえつけてしまう。  
抵抗の動きが小さくなり、バハムーンが股間の辺りに手をやり、もぞもぞと動かす。途端に、ディアボロスの顔は恐怖に歪み、抵抗は  
激しさを増した。だが、やはりそれは押さえこまれ、バハムーンが半歩前に体を動かす。  
その時だった。ヒューマンが顔を上げたかと思うと、表情が一変する。そして何事かバハムーンに話し、ドワーフの方を指差して  
数えるように指を振りだした。  
「あ、やば」  
直後の彼女の行動は、誰もが予想しえないものだった。  
 
窓を開け放ち、ドワーフは三階の部屋から外へと飛び出していた。防御の姿勢を取るように両腕を上げ、膝を横に曲げた姿勢を崩さず、  
その体は急速に地面へと近づく。  
足が地面に着く。その勢いに逆らわず膝をつき、腰をつき、さらにそこから受け身を取るように転がり、足を跳ね上げ、立ち上がった時には、  
彼女の手の中でナイフが鈍い光を放っていた。  
「なっ!?おいっ…!」  
素早く走り寄り、真っ先にバハムーンの腹に突き刺す。手首を返してから引き抜き、慌てて立ち上がったヒューマンを刺す。  
「ぐっ……があっ…!」  
今度は手首を返さず、代わりにさらに深く刺し込んでから、ようやく引き抜く。そして彼女の目は、ディアボロスへと向けられた。  
「ぐす……ひっく…!あ、ありがとう、ござ…」  
言いかけたディアボロスの目が、驚きに見開かれる。  
「……え?」  
表情一つ変えず、ドワーフは彼女に向けてナイフを振りかざしていた。それが何を意味するのか、ディアボロスが理解する間もなく、  
ドワーフはナイフを振り下ろそうとした。  
「ひぃ!?」  
「ストォーップ!!」  
その瞬間、ばさりと羽音が響き、同時にドワーフの舌打ちが聞こえた。  
「セレスティア、放して」  
「ダメですよ!何考えてるんですか!?」  
「こいつに刺すところ見られた。殺さなきゃ」  
「ダメです!ダメですってば!殺しちゃダメです!」  
「……お前、私に退学になれって言うつもり?」  
「違います!ですが、殺したら退学じゃ済まないですよ!そこまでにしてください!彼女はダメです!」  
「え…?え…?」  
無表情のまま、殺すなどという物騒な台詞を吐くドワーフに、それを必死で止めるセレスティア。ディアボロスは訳が分からず、  
二人の顔を交互に眺めている。  
「……ちっ!」  
「まあ、彼女に限らず、こちらも殺してはいけないんですが…」  
言いながら、セレスティアは腹を押さえて呻き声をあげる男二人にヒールを唱えた。  
その瞬間、セレスティアの首筋にナイフの刃が押し当てられた。  
「……何考えてるの」  
「ドワーフさん、彼等にも死なれては困るのです。あなたのこれまでの素行から考えて、死者を出せば無事では済みませんよ」  
「この場で全員殺して逃げれば、何も問題ない」  
「モミジ先生という、ドがつくほど優秀な校医がいますし、ソフィアール校長先生もいます。逃げ切るのは難しいですよ」  
「………」  
「わたくしは、あなたを退学にしたいわけではありません。どうか、信じてはいただけませんか?」  
ドワーフはしばらくナイフを突き付けていたが、やがてゆっくりと手を引いた。それを確認すると、セレスティアはディアボロスの方に  
向き直った。  
「ふぅ……怖がらせてしまって、申し訳ありませんでした。彼女は……あ、ドワーフさん。そちらのお二人、絞め落としておいてください」  
「ほい」  
「ちょ、ちょ、絞め落……ぐえっ!」  
さすがに狂戦士学科を専攻するだけあり、彼女は両腕で二人を同時に締め、一瞬にして失神させた。  
 
「少々、彼女は警戒心が強すぎるきらいがあるので、あなたを怖がらせてしまいましたが、もう大丈夫ですよ。まったく、災難でしたね」  
そう言い、セレスティアが優しげな笑みを浮かべると、ディアボロスの目にじわりと涙が浮かんだ。  
「う……うぅ〜…!わ、わた、し……信じて、たのにぃ…!な、仲間って……仲間ってぇ…!うああぁぁーん!!」  
「仲間……ですか。まったく、災難ですね」  
ともかくも、泣かれては話もできない。セレスティアは彼女が落ち着くのを待って、少しずつ話を聞いた。  
要約すれば、彼女はなかなかパーティに入れず、ようやく入れたと思ったら体を求められ、それを断ると態度が豹変し、無理矢理に  
迫られたということらしい。さほど頻繁にあるわけではないが、血の気の多い生徒が多いため、こういった事件はたまに起こるらしい。  
「そうだったのですか、辛い目に遭ってしまいましたね。ですが、あなたには酷なのですが、本来第三者であるわたくし達が関わって  
しまった以上、先生方に報告しないわけにはいかないでしょう。申し訳ありませんが……その話を、もう一度していただけませんか?」  
「……それは、その……いいんです、けど…」  
ディアボロスはドワーフが気になるらしく、ちらちらと彼女の様子を窺っていた。  
「まあ、その、脅かされはしましたが、あなたを助けたのは彼女ですよね?そこは是非、強調してあげてください」  
「……はい」  
夜遅くではあったが、人目が多い時間帯になってはディアボロスが辛いだろうと考え、彼等は事の経緯を報告しに校長の部屋へと向かった。  
そこでは主にディアボロスとセレスティアが経緯の説明を行い、ドワーフはほとんど話さなかったが、彼女を助けた理由に関して  
聞かれると、ちゃっかり『同じ女として許せなかった』と答えていた。  
結果、ヒューマンとバハムーンは停学処分。ドワーフは辛うじて処分を免れたが、嘘を見抜かれていたのか、『次はありませんよ』という  
柔らかくも断固とした宣告を受けることとなった。  
それが気に入らなかったらしく、ドワーフは無事に済んだといえ不機嫌そうだった。  
「私はまた寝る」  
「あ、部屋の鍵はメアに開けさせますよ。わたくしは窓でも開いていれば帰れますので、鍵は掛けてくださっても結構です」  
途中から主人に合流したペットに、セレスティアは通信魔法を使って指示を出し、背中をポンと叩く。すると、ペットはすぐさま彼の  
頭から離れ、ドワーフの後ろをパタパタと飛んで付いて行った。  
「さて……あなたはこれから、どうします?どこか、当てはありますか?」  
「………」  
ディアボロスは俯いたまま喋らない。恐らく、当てなどないのだろう。そんな様子を察し、セレスティアは軽く息をついた。  
「そうですか……わたくし達のパーティは無理ですが、一つだけわたくしに当てがありますよ。あなたがよろしければ、どうです?」  
「ほ……本当、ですか?」  
「わたくしは嘘は言いませんよ。もっとも、受け入れられるか、また人数が埋まっているかどうかは不明ですが。それでもいいなら、  
明日の昼頃に寮の入り口でお会いしましょう。わたくしも、先方に確認を取る必要がありますので」  
「わ、私のために……ありがとう……ぐすっ……ご、ございます…!」  
「ああ、泣かないでください。困った時はお互い様ですよ」  
セレスティアは何とか彼女を宥め、部屋へと送って行く。それが済むと、いつも持ち歩いている小さなノートのページをちぎり、  
そこに何事かを書き込むと、とある部屋の前へ行き、ドアの下から室内へと滑り込ませた。  
用事をすべて終え、セレスティアは自室に戻るとドアノブを回す。しかしやはりというか、しっかりと鍵がかかっていたため、仕方なく  
寮の外へ出ると、窓へと飛び上がる。そこから室内に侵入すると、今更ながらドアに向かっていたペットが、慌ててセレスティアの方へと  
飛んできた。  
「ちょっと遅かったですねえ、メア。では、今度こそ寝るとしましょうか」  
言いながら、ちらりとドワーフを見る。彼女は寝ているように見えたが、無防備な寝息は全く聞こえてこない。  
「それでは、お休みなさい」  
独り言のように言うと、セレスティアはベッドに入り、目を瞑った。程なく、彼とペットの寝息が聞こえ始めると、その数分後にようやく  
ドワーフの寝息が混じるのだった。  
 
翌日、セレスティアは寮の入り口付近のテーブルにいた。その前には、一人のヒューマンが座っている。  
「それで、一体どういうわけ?まさかとは思うけど、また私達のとこに入りたいとは言わないよね?」  
「いえ、そうは言いませんよ。わたくし自身、今は別のパーティに所属していますから」  
「……ま、正直なところ、君を放出してからかなり苦戦するようになってたし、惜しく思うことはあったよ。ただ、後悔はないけどね」  
「結構なことです」  
彼女は、セレスティアが初めて組んだパーティのリーダーだった。彼が顔色一つ変えずに兎を殺し、捌いたことが理由で追放を決めた  
張本人だとも言える。  
「今日は、あなたに紹介したい方がいるのです」  
「紹介って……君、私達のパーティの状況、知ってるの?」  
「いえ、まったく」  
おどけるように、セレスティアは大袈裟に肩をすくめた。  
「よくもそれでまあ…」  
「頼れる方が、あなたしか思い当たらなかったのですよ。そろそろ、その相手も来る頃なのですが…」  
ちょうどその時、寮の扉が開き、ディアボロスの女子生徒が駆け込んできた。彼女はセレスティアを目にするなり、ぺこりと頭を下げた。  
「す、すみません!授業が長引いちゃって…!」  
「いえ、ちょうどいいタイミングですよ。ヒューマンさん、彼女があなたに紹介したい方です」  
ヒューマンはじっと、ディアボロスを品定めするかのように見つめている。その視線にたじろぎ、ディアボロスは少し体を固くしている。  
「ふーん、後衛系学科かな……簡単に自己紹介、お願いできる?」  
「あ、はいっ!あの、えと、サブは……じゃない!えっと、メインは白まじゅちゅ……まじゅ、つし、学科です!で、あの、サブは、  
い……妹、学科…」  
響きが恥ずかしかったのか、ディアボロスの声はどんどん小さくなり、最後の方はよく聞き取れないほどになっていた。  
「なるほどねー。道理で、守ってあげたいオーラがすごいわけだ。あと、別に焦らなくていいよ。急いで噛み噛みの紹介されるよりは、  
ゆっくりはっきり言ってもらった方がわかりやすいし」  
「ご……ごめんなさい…」  
「あ、責めてるわけじゃないから。気になったらごめんね。なるほど、白魔術師ね…」  
そう呟くと、ヒューマンは考え込むような仕草で黙り込んでしまった。  
「……ダメ……でしょうか…?」  
「ん〜。見た感じ、まだ経験浅そうだよね」  
「は、はい……すみません…」  
「使える魔法は?」  
「ヒールなら使えます!でも、他は……その…」  
「今後の学科の予定は?転科とかするつもり?」  
「え、えっと、えっと……まだ、その、そういうつもりは、ない……です…」  
畳みかけるようなヒューマンの言葉に、ディアボロスはすっかり委縮してしまっている。そんな彼女を、ヒューマンは表情を変えずに  
見つめていたが、やがて深い溜め息をついた。  
「はぁ……この子を、私に預かれってね」  
「………」  
ヒューマンのお眼鏡には適わなかったのかと、ディアボロスは今にも泣きそうな表情になった。  
 
が、そこでヒューマンが言葉を続けた。  
「現在の実力はともかくとして、真面目そうだね。気弱だけど、答えるべきことはちゃんと答えてる。そして、ここが一番重要」  
ディアボロスからセレスティアに視線を移すと、ヒューマンはニヤリと笑った。  
「今のうちのチームには、後衛が不足で絶賛募集中。偶然にしろ、助かるよ」  
「では、彼女は…」  
「ただまあ、うちは入れ変わり激しいからね。ずっと一緒かはその子次第だけど、少なくとも当面はうちにいてもらうよ」  
そう言うと、ヒューマンは再びディアボロスに視線を戻した。  
「そういうわけで、ディアボロスちゃん。今日からうちのパーティの仲間ね。あとで他の仲間にも紹介するから、授業終わったら  
またここ来て」  
「ほ……ほんとですか…?私、仲間にしてくれるんですか…?」  
「後衛なんて、こっちからお願いしたいくらい。そういうわけで、よろしくねー」  
軽い調子で言うと、ヒューマンは席を立ち、肩越しに手を振りながら去って行った。それを見えなくなるまで見送ってから、ディアボロスは  
セレスティアに向き直り、勢いよく頭を下げた。  
「あ、ありがとうございますっ!私なんかに、こ、こんなにしてくださってっ…!」  
「いえ、いいんですよ。彼女は切る時はばっさり切り捨てますから、決して楽な道ではありませんが……あなたなら、大丈夫でしょう」  
静かに言って、セレスティアも席を立った。  
「では、わたくしはこれからお昼を食べますので、これで。いつかどこかの迷宮で、お会いしましょう」  
「はい!はい!必ず、どこかで!」  
涙さえ浮かべながら、そう答えるディアボロス。そんな彼女に優しく微笑みかけ、セレスティアは去って行った。  
学食に着くと、真っ先に目に飛び込んできたのは、両手にトレイを抱えたドワーフの姿だった。相変わらず、その小さな体のどこに  
納まるのかというほどに、食事の量は多い。  
「ドワーフさん。相変わらずですね」  
「あの女のところ?」  
「ええ。これで全て、事後処理は済んだことになりますね」  
一つ持とうかとセレスティアが手を差し出すと、ドワーフは唇を僅かに持ち上げて牙を見せた。本気で噛まれかねないため、  
セレスティアは大人しく手を引っ込める。  
「それにしても、あなたはなぜあの時、あんなことを?三階から飛び降りるなんて、フォルティ先生なら死んでますよ」  
「見てたのがバレて、私の部屋特定されそうになった」  
「……なるほど」  
別に、彼等はドワーフの部屋を探し出そうとしたのではなく、単に目撃者がいる部屋を指し示そうとしただけなのだろう。その意味では、  
彼等もよくよく災難だったなと、セレスティアは心の中で思った。  
「……なんで、あそこまでするのかな」  
ドワーフが、ぼそりと呟いた。  
「え?何です?」  
「………」  
しかしセレスティアの質問には答えず、ドワーフは席に着くとすぐに食事を始めてしまった。その直後にバハムーンやエルフ達も合流し、  
結局彼女の呟きは謎のままだった。  
 
始原の森での探索を終え、夕食を終える頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。例によって、ドワーフは食事を終えるとさっさと部屋に  
帰ろうとしたため、都合上セレスティアもその後についていく。フェアリーはエルフやバハムーンをからかうのが楽しいらしく、  
彼等と一緒に学食に残っている。  
他の大多数の者に対してと同じく、ドワーフは同室のセレスティアにも気を使うことはなく、自身のやりたいようにしか動かない。  
「お風呂」  
「あ、先に入りますか。では、わたくしはあとでシャワーで済ませましょう」  
セレスティアは既に上を半分脱いでいたのだが、大人しくドワーフに従う。彼女の後は浴槽が毛だらけで、その大半がセレスティアの翼に  
絡んでしまうため、彼女が先に入った場合、彼は時間を掛けて浴槽の掃除をするか、シャワーで済ませるかの二択を迫られることになる。  
もちろん、ドワーフが浴槽の掃除をするということはない。  
たっぷり一時間ほどかけ、ようやくドワーフが風呂から出ると、セレスティアは体を洗うついでにペットもわしゃわしゃと洗ってやる。  
汗を洗い流し、一日の汚れをしっかりと落として浴室を出る。ペットの定位置は彼の頭の上だが、さすがにこの時ばかりは彼の隣に  
パタパタと飛んでいる。  
いつものように、ドワーフはベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井を眺めていた。まだ湿っているらしく、ベッドにじんわりと染みが  
広がっているが、彼女は特に気にしていないらしい。  
二人の間に、あまり会話はない。ドワーフは気が乗らなければ決して話しかけもせず、また返事もしない。セレスティアはそんな彼女の  
気質を理解しており、自身も沈黙を苦痛と感じることはないため、あまり気にしていないのだ。  
そのまま消灯時間目前となり、セレスティアがそろそろ寝ようかと思った時、不意にドワーフが口を開いた。  
「ねえ、セレスティア」  
「はい、何でしょう?」  
彼女から話しかけるのは珍しいなと思いつつ、セレスティアは普通に返事をする。  
しかしやはりと言うべきか、珍しい事態であるからには、続く言葉が普通であるわけがなかった。  
「昨日の奴等みたいにさ、セックスって無理矢理したいほど気持ちいいことなの?」  
「は?え?いや……そ、そうですねえ……わたくしは経験ありませんので、実際どうだかはわかりませんが、そういう方がいる以上、  
そうなのでしょうね」  
「セレスティアだって一人でする時はあるんでしょ?」  
「や、まあ…」  
「気持ちいいんだよね?」  
「ええ、まあ、はい」  
「でも、女から無理矢理することって聞かないけど、女も気持ちいいって言うよね」  
「……まあ、そう聞きますね」  
ここまで来ると、セレスティアは彼女が何を言いたいのか、何となく理解できてしまった。  
そして予想通り、ドワーフはむくりと体を起こすと、セレスティアを正面から見つめて言った。  
「試してみたい。セレスティア気持ちよくして」  
「ほ、本気……なんでしょうねえ…」  
「不服?」  
「いえ、そんなことはありません。心の準備ができていなかったので、少々驚いてはいますが」  
言いながら、セレスティアはペットに魔法で話しかけ、クローゼットの中で寝てもらうことにする。ふかふかのベッドがないことで少し  
反抗されたものの、クッション代わりに枕を提供することで話が付いた。  
枕を引きずり、ペットがクローゼットの中に消えると、セレスティアはベッドから降りようとした。しかしその前に、既にドワーフが  
ベッドから降り、こちらに移ってきていた。  
 
ぼふっと、セレスティアの隣に腰を下ろす。唐突な上に経験もないため、セレスティアはそんな彼女に手を出しあぐねていた。  
何の感情も読み取れない目で、ドワーフはセレスティアをじっと見つめている。どうしようか迷った挙句、セレスティアはドワーフを  
そっと抱き寄せてみた。だが、身動きが取れなくなることを警戒したのか、ドワーフは胸を押し返してきた。  
さほど豊富ではない知識を掻き集め、ならばと耳に手を伸ばす。毛並みに沿うようにゆっくりと撫でてやると、ドワーフはパタパタと  
耳を動かす。  
「これはどうです?」  
「ん、ちょっとくすぐったい」  
「気持ちよくはないですか?」  
「……どうだろ。変な感じするけど、よくわかんない」  
とは言うものの、単にその感覚を快感と捉えられないだけらしく、ドワーフの呼吸は僅かながらも荒くなり、触れている耳も少しずつ  
熱くなってきている。  
別の場所も試そうと、セレスティアはそのまま手を滑らせ、ドワーフの胸に触れようとした。  
直後、ドワーフは彼の手を打ち払い、ナイフを突き付けていた。セレスティアは動かず、手を上げて抵抗の意思はないことを示す。  
「何のつもり」  
「ただ胸を触ろうとしただけですよ。驚かせてしまいましたか?」  
「じゃあ一言言ってよ。お前、私がナイフ持ってるの知ってるんでしょ」  
「確かに知ってますが、まさかこんな時に奪うような真似はしませんよ。第一、わたくしはあなたに危害を加えるつもりもありませんし」  
「……わかった。じゃあセレスティア、全部脱いで」  
本当にわかってくれたのかと、セレスティアは思わず問い質そうとしたが、あまり苛つかせるのも得策ではないと思い直し、大人しく  
上着を脱ぎにかかる。ドワーフはそれが終わるまで、ナイフを放さずにじっと見守っていた。  
見つめられていると、さすがに恥ずかしいものがあり、セレスティアは翼で体を隠しつつ何とか下着まで脱ぎ終えた。  
それを確認すると、ドワーフはようやくナイフを放し、彼の視線などまるで気にせず、着ている物を一気に脱ぎ捨てた。  
「ご、豪快ですねえ」  
「どうせ最後は裸になるでしょ」  
「まあ、そうですね。では、胸の方を触ってもいいですか?」  
「ん」  
そっと、胸に手を伸ばす。毛に埋もれてよくは見えないが、触れてみれば意外と柔らかい感触がある。同時に、ドワーフが少し息を吐く。  
少し押してみると、硬い筋肉の感触。その表面についた柔らかい部分を捏ねるように手を動かすと、ドワーフの耳と尻尾がピクンと動いた。  
「んっ……んっ!」  
「あ、ドワーフさん大丈夫ですか?」  
「く、くすぐったい……けど、なんか、悪くない感じ…」  
「ああ、痛いわけじゃないんですね、よかったです。では、もう少し続けてみますか」  
ゆっくりと円を描くように動かし、時折掴むように刺激する。その一つ一つに、ドワーフは尻尾と耳と吐息で反応し、時には身を捩るように  
全身が反応する。そんな彼女の姿に、セレスティアもだんだんと行為に力が入るようになっていく。  
その時、つい力が入りすぎ、指が滑って彼女の乳首を撫でた。途端に、ドワーフの体がビクッと震えた。  
「んあっ!?」  
「あっ……すみません、大丈夫ですか?」  
 
慌ててセレスティアが謝ると、ドワーフは震える呼吸を何とか整えつつ、熱っぽい目で彼を見つめた。  
「い、今の、ちょっとよかった……そっちもして」  
「あ、そうですか?では…」  
一度胸を撫で、毛に埋もれた乳首の位置を確認すると、それを指でそっと撫でる。  
「んくっ!ん、んんんっ…!」  
気持ちいいからか、それともくすぐったいからか、ドワーフは身を捩りそうなのを必死に堪え、腕も半端に上がった格好で固まっている。  
初めのうちこそぎこちない手つきだったセレスティアも、自身の行為でドワーフがしっかりと反応するため、少しずつ固さがとれていく。  
つんと尖り始めた乳首の先端を、くすぐるように指の腹で撫でる。瞬間、ドワーフの手がセレスティアの腕を捕えた。  
「くっ、く、くすぐったいっ…!」  
「あら、気持ちよくはなかったですか?」  
「……さっきから、その、気持ちいいって感じはないけど……でもやめないで」  
「そうですか。なら、もう少し色々試しますか?」  
そう言うと、セレスティアはそっと顔を近づけ、ドワーフの首を抱いた。が、ドワーフはその頬に手を押し当て、グッと押し返した。  
「……キスは嫌ですか」  
「ん」  
視界が奪われることと、拘束されることを好まなかったのだろう。相変わらずの警戒心に、セレスティアは内心呆れていた。  
「では、こちらを試しますか」  
ならばと、手で胸の毛を掻き分け、小さな乳首を探し出すと、セレスティアはそれに吸いついた。ビクンとドワーフの体が震え、同時に  
首筋に熱い吐息が降ってきた。  
「はうっ…!く、あっ……そ、それ変な感じっ……はっ、はふっ…!」  
やはり快感とは認識できていないらしいが、それでも本能的に求めるのだろう。ドワーフはセレスティアの頭を抱き、ぎゅうっと胸に  
押し付けている。  
それを不快とも思わず、セレスティアは口での愛撫を続ける。乳首を吸い上げ、それによって尖った周囲をゆっくりと舌でなぞる。  
力が入らなくなってきたのか、いつしかドワーフは後ろに片手をつき、セレスティアは彼女にのしかかるような体勢になっている。  
ふと見ると、ドワーフは太股を擦り合わせ、もじもじと体を動かしている。それに気付くと、セレスティアは片手を腹からそっと滑らせる。  
「やうっ……そ、それもくすぐった……んんっ!」  
太股から内股を通り、宥めるように何度かそこを撫でると、股間へと滑りこませる。  
「うあっ!?やっ、なんか、ダメっ!」  
途端に、ドワーフは太股をぎゅっと閉じ、セレスティアの手を挟みこんでしまった。  
その手に感じる、べっとりと濡れた毛の感触。微かに自由の利く指を動かせば、じっとりと熱い裂け目に指が触れる。  
「あっ!ちょっ……指、ダメっ…!それ、すごく変っ…!」  
「ドワーフさん。股間、大変なことになってるんですが」  
「え…?」  
言われて初めて気づいたらしく、ドワーフはセレスティアの手を解放すると、自分でそこに触れてみた。  
「……べちょべちょ。何だろ、これ。こんなの初めて」  
自身の指に付いた愛液を、ドワーフは物珍しげに眺めている。指を開けばねっとりと糸を引き、擦り合わせればくちくちと音を立てる  
それを、自分が溢れさせているとは信じられないらしい。  
 
そんな光景を、セレスティアは黙って見つめていたが、彼の方も準備はすっかり整っていた。体毛に覆われてよく見えないとはいえ、  
ドワーフは裸に違いなく、しかも自身の行為によって股間を濡らしているのだ。むしろ興奮するなと言う方が無理な話だろう。  
「その、ドワーフさん。見たところ、準備もできているようですし、もう入れても…?」  
「ん、入れるの。うん……それ、入れるの?」  
ドワーフはセレスティアのモノをじっと見つめ、続いて自分の股間を見下ろし、再び視線を戻す。  
「入るのかな、それ……でも、大きい方が気持ちいいんだっけ?痛くないのかな……痛くしないでよ?」  
恐らくは不安なのだろう。珍しく口数の多いドワーフを、セレスティアは優しく撫でてやる。  
「最初は痛いと聞きますので、まったく痛くないようには難しいと思います。ですが、なるべく痛くないようには努力しますよ」  
「ん、そうして。じゃあ……うん、いいよ」  
さりげなくナイフの位置を確認してから、ドワーフは仰向けに寝転び、僅かに足を開いた。その間に体を割り込ませると、セレスティアは  
はやる心を押さえつつ、慎重に彼女の秘部へとあてがう。  
「では、い……いきますよ…」  
「ん」  
セレスティアが腰を突き出し、先端がドワーフの中に入り込む。同時に、ドワーフはピクンと体を震わせ、僅かに眉を寄せる。  
その間にもセレスティアはゆっくりと腰を進めていく。それに従い、ドワーフの手には力が入り、今ではシーツをぎゅっと握りしめている。  
やがて半分ほど入った時、セレスティアは引っかかりのようなものを感じた。だがドワーフを見る限り、問題はなさそうだと判断し、  
半ば強引に突き入れる。  
「いぃぃったたたたたっ!!!痛い痛い痛いやめて無理もう入れないでっ!!!」  
途端に、セレスティアのモノに肉を押し分けるような感触が伝わり、同時にドワーフが大声で叫んだ。  
「す、すみません大丈夫ですか!?」  
「うるさい大丈夫じゃない!!痛い!!抜いて!!抜けっ!!」  
ドワーフはセレスティアの胸を押し返し、しかし足ではがっちりとセレスティアを捕えている。それでもあまりの痛がりように、  
セレスティアが何とか腰を引くと、ドワーフは再び悲鳴を上げた。  
「痛ああぁぁい!!!痛い馬鹿やめて動くなぁー!!!」  
「えっ……ど、どうしろと…!?」  
「いい!!やっぱり抜かなくていい!!だから動かないで、痛いんだからぁ!!」  
セレスティアが動きを止めると、ドワーフは苦痛に顔を歪めつつ、何とか呼吸を整えようとする。荒く浅かった呼吸が、少しずつ深く  
落ち着いたものになっていき、やがていつもより少し荒い程度にまでなると、ドワーフは涙ぐんだ目でセレスティアをキッと睨みつけた。  
「……ナイフで刺された時より痛い!!」  
「そ、そう言われましても…」  
「痛くしないでって言ったでしょ!?全然気持ちよくないし、すごく痛いんだけど!?」  
「す、すみません。ですが、わたくしも初めてなもので……え〜っと、胸とかは気持ちよかったんですよね?」  
無理矢理に話を変えると、ドワーフの表情は少しだけ和らいだ。  
「気持ちいいって感じはなかったけど、今よりはよっぽどよかった」  
「でしたら、痛みが治まるまでそちらの続きをしましょうか」  
「治まるまでって…!んっ……ん、うっ…!」  
反抗される前にドワーフの胸に手を伸ばし、優しく揉みしだく。その手を押さえようとしていたドワーフの腕が止まり、耳がビクッと動く。  
 
「どうです?少しは良くなりましたか?」  
「っ……ま、まだ痛い、けど……悪く、ない…!」  
快感で気が紛れたのか、ドワーフの声から怒りの色が抜けていく。セレスティアとしては腰を動かしたいのだが、下手をすれば殺される  
危険もあるため、その衝動をグッと堪える。  
乳首の反応が良かったことを思い出し、胸を捏ねつつ指先でくすぐってみる。途端にドワーフの体が仰け反り、セレスティアのモノが  
僅かに深く入り込む。  
「はうっ…!いたたっ……あ、ダメ、やめないで…!」  
「気に入ってもらえたようですね」  
痛みにも少し慣れてきたのか、ドワーフは体が動いてしまうにもかかわらず、胸への愛撫をねだる。セレスティアとしても、彼女の  
不規則な動きや、痛みか快感のいずれかによる不意の締め付けは非常に気持ちよく、その言葉に大人しく従う。  
しばらくの間、セレスティアはドワーフの胸を優しく愛撫し続けていた。やがて、ドワーフがそれを止めるようにセレスティアの胸を押す。  
「も、もうだいぶ痛くなくなった。だから、もう抜いて」  
「あ、そうですか?ですけど…」  
歯切れの悪いセレスティアに、ドワーフの表情が僅かながらも険しくなった。  
「何」  
「あの、既に根元まで入ってしまってるんですが」  
「え?」  
言われて、ドワーフは視線を落とした。どうやら無意識に体を動かしているうち、少しずつ奥へと入っていたようで、今ではすっかり  
お互いの腰が密着している。体を起して結合部を見れば、セレスティアのモノが入っているのがはっきりと見て取れる。  
「……刺さってる」  
それを見ながら、ドワーフがぽつんと呟く。しかし、そこに感慨などといった人間らしい表情を読み取ることはできなかった。  
「いつの間に入ったんだろ」  
「わたくしもあまり、覚えてないのですが……気持ちよければ、痛みは割とないみたいですね」  
「……ん」  
「動いてみても、いいですか?」  
「ダメ、痛い」  
挿入時の痛みの印象が強いらしく、ドワーフはにべもなく断る。  
「はぁ……そうですか」  
「んっ!?」  
セレスティアが嘆息した瞬間、ドワーフが小さな声を上げた。少し動いてしまったかとセレスティアは焦ったが、ドワーフは意外にも  
期待するような目で見上げてきた。  
 
「い、今、奥の方ぐぅってきたの、ちょっとよかった。奥、もうちょっとぐりぐりして」  
「え?えっと……こう、ですか?」  
セレスティアは強く腰を押し付け、自身のモノをドワーフの子宮口に押しつけるように腰を動かす。  
「あっ!そ、それっ……それ、いい…!もっと、もっとしてっ…!」  
あまり強くは動けないものの、経験のないセレスティアにとってはそれでも十分な刺激を伴っていた。  
ドワーフと腰を強く密着させ、軽く前後に揺すれば、ぬるぬるになった膣内の感触がはっきりと感じられ、左右に動かせば鈴口付近に  
子宮口が当たり、同時にドワーフが熱い吐息を吐く。それに伴い、中がぎゅっと締め付けられ、彼女の体温をより強く感じられる。  
それをじっくりと楽しむ余裕もなく、数分もしないうちにセレスティアが苦しげな声を上げた。  
「くっ……ド、ドワーフさんっ、もう出そうです…!」  
「出る…?あ、出すんだ……じゃあ、出して。そのまま中で」  
「ドワーフさんっ…!く、ああぁ!!」  
一際強く腰を押し付け、セレスティアはドワーフの一番深いところで精を放った。精液が流れ込む度に、ドワーフの膣内がきゅっと  
締まり、それはまるで精液を絞り取ろうとするかのような動きだった。  
「あっ、じわってきた…!こ、これいい……これ、すごくいい…!」  
ドワーフもその感覚が気に入ったらしく、また初めてはっきりとした快感を覚えたようだった。射精が終わり、やがてセレスティアが  
大きく息をつくと、ドワーフは期待に満ちた目で彼を見上げた。  
「今の、よかった。もう一回して」  
「え、いや……すぐには出ませんよ、さすがに」  
「いいから出してよ」  
「どうしてもと言うなら、努力しますが……ですが、今度はたぶん、大きく腰動かさないと出ませんよ?」  
そう言うと、ドワーフの表情が変わった。  
「ん、そうなの……じゃあ、いいや。痛いのはやだ」  
「そんなに気持ちよかったんですか?」  
「ん〜。ぐりぐりするのと、最後のは気持ちよかった。他は……くすぐったかった」  
「そうですか……あ、抜いても大丈夫ですか?」  
「うん……抜いて」  
あまり痛がらせないように、セレスティアはゆっくりと腰を引く。しかし、ドワーフは特に痛がりもせず、抜け出ていく彼のモノを  
興味深げに眺めていた。  
完全に抜け出ると、愛液と精液の混じった液体がドロッと溢れた。少し出血もしたらしく、ところどころ赤味が混じっている。  
それをじっと見ていたドワーフだが、セレスティアが声をかけようとすると先に口を開いた。  
「じゃ、体洗ってくる」  
「え?あ、はい」  
自然な動作でナイフを回収し、ドワーフはひょいと立ちあがるとシャワーへ向かう。しかし痛みがないわけでもないらしく、その途中で  
少し足元がふらついていた。  
 
汚れた部分を洗っただけなのか、ドワーフは思いのほか早くシャワーを浴び終えた。そしてセレスティアに構うことなく、服を回収すると  
自分のベッドに戻る。  
「痛かったけど、初めては特に痛いんだっけ?」  
「あ、ええ。そう聞きますね」  
「じゃ、一週間くらいして傷治ったら、またして。おやすみ」  
まだ体毛は湿っていると思われるのだが、ドワーフは構うことなくベッドに寝転がった。それを半ば呆れて見つめつつ、セレスティアも  
シャワーを浴びることにする。余韻などは、もはやほとんど消え失せていた。  
体を拭き、服を着直し、ベッドに戻る。例によって、ドワーフの寝息は聞こえていない。  
「それでは、おやすみなさい」  
これまたいつも通りに、独り言のように言って横になる。さすがに疲れているせいか、セレスティアの意識はあっという間に落ちていく。  
そして、彼の寝息が聞こえ始めると、僅か一分も経たないうちに部屋の寝息は二つに増えているのだった。  
 
初めてドワーフと関わった者は、ほとんどが怒りや恐れ、苛立ちや驚きを覚える。それは常識がまったく通用しないということから、  
どう彼女と接していいのかわからないというのが一因である。  
そんな相手に、無理に常識を通そうとすれば、それは彼女からの不信や怒りを買い、結果として事件にも発展しかねないのだが、  
彼等にとって幸運だったのは、彼女の扱いをセレスティアに丸投げするという、やや薄情ながらも最も賢い手段がとれたことだった。  
「ドワーフさん、お疲れ様です。ですが、いくら邪魔だからと言って仲間を巻き込むような攻撃をしてはいけませんよ」  
「巻き込まれる方が悪い」  
「そうとも言えますが、周囲がそう思わなかった場合、結果としてあなたがドがつくほど不利な立場に追い込まれてしまいますよ。  
それを防ぐためにも、今後はもう少し、巻き込まないような攻撃を心がけてくれませんか」  
「……損になるのは嫌だから、考えておく」  
「えー、いいじゃん殺しちゃってもー。巻き込まれる方が悪いんだしさ、ひひひ!」  
「お嬢ちゃんなあ……後衛と前衛は、事情が違うんだからな?」  
「そんなの知らないよ。フェアは前衛じゃないもんねーだ」  
最近の彼等の感想としては、セレスティアという優秀なお目付役の付いているドワーフよりも、ドワーフほど重大ではないものの、  
小さく人を苛つかせるフェアリーの方が厄介な人物だというように変わってきている。  
「まったく……ドワーフより君の方が、よっぽど聞き分けない気がするよ…」  
「エル達の言うこと聞かなきゃいけない理由なんてないもーんだ。フェアのこと、無理矢理止めれるなら止めてもいいんだよー?」  
「それは最終手段だろう……大人しく言ってるうちにやめてくれよ、頼むから」  
「ひひ、そんな度胸もないだけでしょー?言い訳なんかしなくていいからねー?」  
「……ぼくの『友達』に止めてもらう前には、ほんとやめてくれよ?」  
「エルフ、相手にしない方がいい。こっちがイラつくだけだ」  
フェルパーの言葉に、エルフは大人しく従うことにする。すると今度は、フェアリーの標的がフェルパーへと移っていく。  
終わることのないやりとりを見ながら、バハムーンは溜め息混じりにセレスティアへ話しかけた。  
「お前、あいつとドワーフとに囲まれて、よく平気でいられたよな…」  
その言葉に、セレスティアは笑って答える。  
 
「どちらも、神がお許しになっていますから。であれば、わたくしが彼女達の行為を、無理に止める権利もないでしょう?」  
「……そうか」  
神が許している、の一言で全てを許してしまえるセレスティアの考え方が、この時ばかりはバハムーンには羨ましかった。  
「俺は正直、神に祈りてえよ。この先も、平穏無事でいられますようにってな」  
「はは……そこはまあ、わたくし達自身でも、努力していきましょう」  
細かい部分では異常な点が目立つとはいえ、やはりセレスティアは常識のある人物であり、また穏やかな言動をするため、彼等にとって  
貴重な相談役となっていた。  
何とか無事にその日も過ごし、夕食を取って部屋に帰る。そして消灯間近になった頃、ドワーフが隣のセレスティアに声を掛けた。  
「セレスティアさん?まさか、まだ寝てないよね?」  
「ええ……ふぁ……寝るところでしたが、何でしょう…?」  
「忘れたの。あれから今日で一週間だけど」  
言いながら、ドワーフは服を脱ぎ、セレスティアのベッドにのそりと乗ってくる。しかしやはり、ナイフはきちんと携帯している。  
「あ、ああ……そうでしたね。ということは、つまり、その…?」  
「今日こそいっぱい、気持ちよくして」  
ドワーフの身勝手な行動にも、セレスティアはしっかりと応え、彼女を気遣うことを忘れない。それを知っているからこそ、彼女は  
彼の言うことをある程度素直に聞き入れ、また自由に振る舞う。普通の形とは違うが、二人の間には信頼関係がしっかりと生まれていた。  
いわゆる『信頼』と比べれば、それはあまりにささやか過ぎるような、小さなものだろう。しかし、本来生まれるはずのない者に芽生えた  
それは、どんな信頼にも勝るほど大切なものだった。  
最も手に入れにくいものを、実は始まりと共に手に入れていたことを彼等が知るのは、まだまだ先の話である。  
 
 

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