悪戯した。怒られた。  
悪戯した。怒られた。  
悪戯した。怒られなかった。  
「もういいよ、言ってもどうせ聞かないんだろう?」  
後はずっと怒られなかった。悪戯し放題だった。  
面白いけど、ちょっとなあ。フェアが求めてるのは、ちょっと違うんだけどなあ。  
だけどやっぱり、悪戯は楽しい。怒らせるのも楽しい。  
でもでも、やっぱりこれじゃない。あ、でも今度は期待できそう?  
うん、期待できそう。ああ、夢じゃないといいんだけどなぁ……夢、かなあ。  
 
 
冒険者養成学校の学食は、どこであっても人気の場所の一つである。常に緊張を強いられ、生命の危機すら日常であるこの学校では、  
食事の楽しみというものは何よりも重要なものである。ここ、タカチホ義塾の学食も当然人気の場所だが、そこにいる一人、  
モーディアル学園の校章をつけたエルフは、僅かに表情を曇らせていた。  
「いや……文化の違いっていうのは、尊重されるべきだと思うんだけどね」  
極端に文化の違うこの学校では、出てくる料理も他校とは一線を画す。また、食器も多少異なっており、彼女の隣ではセレスティアが  
箸の扱いに四苦八苦しており、さらに隣のドワーフは寿司を手掴みでひょいひょいと口の中に放り込んでいる。  
「何か許せねえことでもあったのか?」  
「ん〜、手掴みとかはいいけど……その、ねえ。どうしても一つだけ慣れないのがあって」  
そう語る彼女の近くでは、数人の生徒がそばやうどんを食べており、その全員が豪快に音を立てつつ麺を啜っている。  
「ぼくとしてはさ、麺類を音立てて啜るのだけは、どうにも我慢できなくってね…」  
すると、カレーうどんを食べていたフェアリーが、ちらりとエルフの顔を見た。彼女も麺を啜るのは慣れないらしく、フォークに巻き付けて  
食べていたのだが、その顔ににんまりとした笑みが浮かぶ。  
直後、フェアリーは大きく息を吐くと、ずるずるずるっと大きな音を立てて麺を啜り上げた。途端に、エルフはその長い耳を両手で覆う。  
「おぉあああぁぁぁ!!??くっ……フェアリー、何するんだよ!?」  
彼女の言葉に、フェアリーは意地悪そうな笑みで答える。  
「んっく……ん〜?だって、ここだとフェアみたいな食べ方が普通でしょー?」  
「そりゃ、そうだけどっ……今、ぼくそれだけは慣れないって言ったばっかり…!」  
「だからなぁにぃー?フェアだけにやめろって言うのー?やめなかったらお仕置きでもするのー?」  
そう言われると、エルフは言葉に詰まった。明らかに悪戯目的ではあるのだが、周囲では麺を啜って食べている生徒が多く、  
フェアリーだけにやめろと言うのも公平ではない気がしてしまう。  
「……控えてくれると助かるんだけどね」  
「やだよーだ。音立てて食べれるなんて、ここでしかできないもんねー」  
「やめといた方がいいぞ、お嬢ちゃん」  
そこで不意に、バハムーンが口を開いた。  
「なんでー?他に同じことしてる人いっぱいいるけどー?」  
「そうじゃなくてだな、その食い方だとスープが飛びまくりだぜ。せっかくの可愛い顔を汚したかぁねえだろ?」  
バハムーンの言葉に、フェアリーは自身の胸元へ視線を落とす。  
「……あ、ほんとだ。うわぁ、匂いまでついちゃってるよぉー!」  
 
「ほれ、使いなお嬢ちゃん」  
ハンカチを差し出すと、フェアリーはそれを受け取り、ごしごしと制服を擦り始める。多少はマシになったものの、色と匂いはしっかりと  
生地に染み込んでしまっていた。  
「う〜……カレー臭いよぉ」  
「ぼくがお仕置きなんかするまでもなく、罰が当たったみたいだね」  
ニヤニヤしながら言うエルフに、フェアリーはムッとした顔を向けた。それに加え『罰』という言葉に反応したセレスティアも、横目で  
エルフを見つめている。  
「……ペッ!」  
「うわああぁぁ!?唾吐くとか何考えてるんだよ君はっ!?本気で喧嘩売ってるのかい!?」  
「あ〜あ〜……賑やかな食事は楽しいなぁ〜…」  
棒読みで呟くバハムーン。その後、彼とセレスティアは本気で喧嘩に発展しかけたエルフとフェアリーを、それぞれ必死に押さえる羽目に  
なるのだった。  
 
とにかく悪戯を好むフェアリーは、特にエルフとフェルパーを標的として数々の諍いを引き起こしている。  
言っても聞かないのはわかっているので、なるべく二人とも無視するようになっているのだが、そうなると今度は無視できないほどの悪戯を  
仕掛ける始末であり、ここ最近はその手口もかなりエスカレートしてきている。  
その仲裁は主にバハムーンとセレスティアの仕事だが、バハムーンの場合は標的が移るのみ、セレスティアの場合は比較的大人しく  
言うことを聞いている。  
どうやら悪戯をするにもちゃんと基準はあるらしく、たとえばセレスティアに関しては、彼が全ての行為を許してしまうため、逆に悪戯を  
仕掛けないらしい。とはいっても反応がないのがつまらないからではなく、普通なら絶対許さないような行為すら、本気で許してくれる  
彼には一種の尊敬に近い念を抱いているらしかった。  
またドワーフ相手には、さすがのフェアリーも絶対に仕掛けない。本人曰く『命がけの悪戯は楽しいけど、死ぬとわかってやる悪戯は  
したくない』とのことだった。  
とはいえ、単に恐れているだけかというと、そういうわけでもない。  
「仲間が最高の宝?そんなの、宝を手に入れられない弱者の負け犬の遠吠え。仲間なんていうのは、自身の足りない技能を補うための  
存在でしかないでしょ。迷宮で手に入れた宝を、財産を、分けなきゃいけない相手が宝?寝言も大概にしてよ。たとえばお前が莫大な  
金を見つけて、それを一人占めしたくないって思うわけ?仲間と分けなきゃってのは欲求じゃなくて義務でしょ?」  
「そんなこと…!」  
「人ってね、図星突かれると否定したがるもんだよ。お前はほんとにそんなことないって、自信持って言える?一人で迷宮潜って手に入れた  
宝を、帰ってきて他の生徒に分けたいって思うわけ?私はそうは思わない。全部私だけのものにしたい。だから本当なら、お前達全員  
殺して宝だけもらいたい。でも、お前達殺すと代わりがいないんだよね。一人はさすがに限界あるし、そういう意味では仲間が宝って  
いうのは頷ける話かもね」  
いつもの如く、立て板に水を流すどころか立て板を滝に放り込んだような、怒涛の反駁をするドワーフ。常識から考えるとありえない、  
非常に殺伐とした理論ではあるが、それをこのドワーフは本心で述べている。  
そんな彼女を、フェアリーはうっとりした目つきで眺めていた。  
「ドワってかっこいいよねー」  
「そ、そうか?」  
「フェア、あそこまではっきりは言いきれないよー。すごいなぁ、ほんとにー」  
「あれはちょっと異常だと思うけどな……普通、仲間殺して宝一人占めとか、考えてもやりはしねえぞ。あいつこそ、いつか罰当たりそうな  
もんだがなあ」  
「ですが、彼女はずっとああしてきていますが、神はお許しになられていますよ。であれば、彼女の言うことは、きっと間違って  
いないのでしょうね。わたくし達からすれば、ドがつくほど不穏な内容ではありますけど」  
 
こんな話になったわけは、迷宮で宝箱を見付けたときに、エルフが何気なく『仲間が一番の宝だ』と言ったことに端を発する。  
たったその一言が気に入らなかったらしく、こうしてドワーフの饒舌を引き出してしまう結果となったのだ。普段あまり喋らない彼女だが、  
一度喋り出すとバハムーンすら霞んで見えるほどに喋り続け、言葉を叩きつけてくるため、非常に厄介な現象の一つである。  
「さて……堕天使のきまぐれだな。セレスティア、もしもの場合は頼むぞ」  
「ええ、お任せを」  
ドワーフとエルフ、そしてエルフに加勢しようとして巻き込まれたフェルパーを置いて、バハムーンは宝箱の解錠に掛かっていた。以前は  
フェアリーが担当していたが、今では晴れて盗賊力検定に合格した彼が解錠を担当することが多い。  
幸い、罠の解除は無事に成功し、バハムーンは戦利品を引っ張りだした。  
まず目に入ったのは、槍に剣と革を張り付けたような、武器とも防具とも言えない装備品だった。  
「これは…?」  
「おお、こりゃアダーガだな!」  
途端に、バハムーンの目が活き活きと輝きだす。  
「こいつは盾の一種なんだが、どっちかというと武器の性格が強えんだ」  
「なるほど、確かに盾のようにも見えますね。槍に盾が付いたような印象ですが…」  
「現実的に考えりゃ、レザーシールドが金属製の盾に勝てるわけはねえが、こいつは魔法的な強化が施されてる。その分、防御も  
なかなかだし、魔法攻撃も強化される。攻撃には、遠距離の相手に槍、近寄られたら剣での攻撃と使い分けられる、武器と防具の  
融合品としては相当な性能だ。こりゃいいもん拾ったぜ。おーい、そこの三人!誰かこれ使いてえ奴いねえか!?」  
バハムーンが声を掛けたことで、ドワーフ達三人の話はようやく終わりを見せた。  
「僕はマイク持ってなきゃいけないし、いらない」  
「うーん、ぼくも魔法の盾使ってるし、魔法攻撃頼みだしなあ…」  
「斧か剣の方がいい。いらない」  
「そうか……フェアリー、は、弓だしな。セレスティア、使うか?」  
「そうですね。両手武器も、今では片手で使えますし、練習がてら使ってみましょう」  
言いながら、セレスティアはアダーガを受け取り、左手に装着する。その間に、バハムーンは箱の中からさらにアイテムを取り出す。  
「イエローインナー……んー、こりゃ微妙だな。生地が悪い。んでもう一つは……お?」  
ひょいっとつまみ上げたそれは、一見してぼろきれのようにも見えた。しかしすぐに、その正体に気付く。  
「……レオタード?」  
「うわ、それ生地薄すぎないかい?正直、着ない方がマシな印象…」  
明らかに防具としては三流の外見に、他の仲間はすぐ興味を失ったようだったが、バハムーンは食い入るようにそれを見つめている。  
「バハ、何してんのー?あ〜、セクハラ野郎だからそういうのも大好きなわけー?きひひ!」  
「いや……お前等、これ相当な逸品だぞ!」  
彼の顔は明らかに普段と異なる真剣な目つきで、口調も熱を帯びていた。  
「確かに、身を守る防具としてはクズだ。生地は薄いわ、痛みも何もかも、感覚を増加させる魔法までかかってやがる。けどな、その魔法は  
身体強化魔法の副作用だ!これ着るだけで、着た奴の身体能力は半年分以上の鍛錬を積んだのと同じぐらいに跳ね上がるぞ!そこらで  
目にする強化魔法なんて目じゃねえ!特定の一部じゃなくて、身体能力全てを強化する魔法の最上級がかかってやがる!」  
言われて注意してみると、確かにそのレオタードは尋常ならざるオーラを纏い、しかもそれは呪いのような禍々しいものではなく、一種の  
神々しさを帯びた、一見して強化魔法とわかるようなものだった。  
「うーん……確かに、逸品ではあるけど…」  
「……見た目が、ね」  
エルフの言葉は、バハムーンも含めて全員の心情を代弁していた。防具としてはもちろん、服としても着ていない方がマシに見えるような  
逸品である。こんなものを着て出歩くなど、相当な覚悟が必要だろう。  
 
「じゃあとりあえず、道具袋にしまっとくか。いやあしかし、こんなとこでひと財産築けるような逸品が手に入るとはな。ははは、今日の  
俺達はついてるなー」  
楽しげに言うバハムーン。彼の言葉に、ドワーフはしばらく道具袋を見つめていたが、割とすぐに興味を失ったようだった。  
その後の探索でも、彼等は多くのアイテムを入手し、中には優れた武器も散見された。その度に、バハムーンは水を得た魚の如く  
それらの解説を始める。  
「おお、魔法で軽量化されたチェーンソーだな!こんだけ軽けりゃ、一撃ぐらいおまけで叩きこめるな。刃のチップはほとんど  
なくなっちまってるが、これは錬金で直せば問題ねえ。ドワーフ、せっかくだからどうだ?」  
「ん、もらう」  
ビュイン、と軽くエンジンを吹かし、ドワーフは珍しく嬉しそうな笑みを浮かべた。ただし大半の仲間にとって、その笑顔は不穏な  
ものにしか見えなかったが。  
「んでこれは……ジュエルソードか!見ろ、この宝剣みたいな外観!そして油を塗られた刀身!重心は手元に来るようになってるし、  
これはいい物だ……実にいいものだ。なあ、フェルパー?」  
同じく剣を使うフェルパーに、バハムーンは何か言いたげな笑顔を向けた。それに対し、彼は溜め息混じりに返事をする。  
「……僕は、破邪の剣でいい。それは君が使えば」  
「ぃよおっし!他にあるのは……教師の鞭か。これは誰も使わなそうだし、あとで売りだな」  
本来の目的はタカチホ義塾の校章の入手だが、彼等は踏み入れた迷宮を余すところなく歩いて回り、ついでに戦闘訓練とアイテム探索を  
行っていた。その分、同期の者達より彼等の力量は高く、装備に関しても上等な物を多く持っていた。  
ただし、当然のことながら攻略は遅い。この日も結局は最奥まで到達できず、道半ばにしてタカチホ義塾へと引き返すこととなった。  
学校に着く頃には、既に辺りは薄暗くなっていた。一行は早めの夕食を取るため、すぐに学食へと向かう。  
朝の一件があるため、席は向かい合ったセレスティアとバハムーンを中心に、それぞれエルフとフェルパー、フェアリーとドワーフという  
座り方に落ち着いた。  
「ドワーフさん、何ですそれ?」  
「てんぷらだって。きのこと……なんか葉っぱ。セレスティアも取ってくれば?」  
「おいしそうですね……ん、メアも食べたいですか?では、ちょっと取ってきましょうか」  
頭の上のペットにせがまれ、セレスティアは追加の料理を取りに席を立つ。  
「あ、悪りいセレスティア!ついでに水頼めねえか!?」  
「ええ、構いませんよ。他に必要な方はいますか?」  
「じゃあセレスティアさん、私も追加」  
「ドワーフさんとバハムーンさん、で以上ですかね?では、少々お待ちを」  
セレスティアが行って少し経つと、今度はフェアリーがバハムーンの食べている物を覗き始めた。  
「……バハは何食べてんのー?」  
「ん?餅入りそば。結構うまいぞこれ」  
「ふーん」  
気のない返事をするフェアリーだが、その目はじっと丼の中を見つめている。やがて、バハムーンが一瞬目を逸らした隙に、  
驚くべき速さで中の餅を奪い取ってしまった。  
「あっ、おい!」  
「むぐっ……ふーう、もう食べちゃったもんねーだ、ひひ!」  
「よく喉に詰めなかったな、あの粘っこいもんを…」  
小さく溜め息をつくと、バハムーンはフェアリーの顔を見つめる。その表情は、どこか相手を観察するようなものにも見えた。  
「にしてもお嬢ちゃん、あんまり悪戯ばっかするなよな。いくら可愛らしいお嬢ちゃんっつったって、ものには限度ってもんがあるからな」  
するとフェアリーも、バハムーンの顔色を窺うかのような視線を送る。  
 
「ふ〜ん、じゃあ限度越えたらどうするのー?」  
「怒る」  
「ひひ!セクハラ野郎が怒ったって、全然怖くないもんねー。それに、怒る怒るって言って、怒るつもりなんか全然ないんでしょー?」  
「そりゃあ、できるなら怒りたかぁねえさ」  
「じゃ、怒らなければいいでしょー。どうせ怒る気もないくせにさー」  
だんだんいつもの表情に戻り、煽るような台詞を吐くフェアリーに対し、バハムーンは呆れたような表情を浮かべて視線を逸らした。  
「……ま、とにかくほどほどにしてくれよ?」  
「はーい。じゃあほどほどの悪戯ならいいんだよねー?えい!」  
「いや、そう……おいっ!何しやがっ…!」  
バハムーンが止める間もなく、フェアリーは彼が大切にしているシャドーバレルを奪い取ると、銃身に醤油を注ぎ込んだ。  
「きっひひ!ほどほどならいいんでしょー?こんなの洗えばすぐ落ちるし、全然大したこと…」  
彼女の台詞は、最後まで言えなかった。というのも、バハムーンが彼女の服の襟を掴み、席を立ったからだ。  
「ぐえっ!?ちょ……ちょっと、何するのー!?フェアのこと殺す気ー!?」  
「……フェルパー、それ洗っといてくれ。水洗いだけしてくれりゃ、後の手入れは俺がやる」  
感情を一切感じさせない声で、バハムーンが言う。それに対し、長い付き合いのあるフェルパーも頷くことしかできなかった。  
「お嬢ちゃん。ものには限度があるって、言ったばっかだよな?」  
「だ、だから何だって言うのー!?そんなの、洗えば落ちるでしょー!?」  
彼の行動は周囲の生徒の注目を浴びていたが、異様な迫力に誰一人声を掛けることができない。  
「ヒールすりゃ治せるから、お嬢ちゃんの腕をへし折ってもいいのか?」  
「ふざけないでよ、セクハラ野郎ー!フェアの手とただの物は全然違うでしょー!?」  
「ちっ……お前が言ってもわからねえ奴だってのはよくわかった。悪りいみんな、先部屋戻らせてもらうぜ」  
そう言うと、バハムーンはフェアリーを引きずって歩きだした。  
「ちょっ……やめてよ!なんでフェアまで行かなきゃいけないの!?一人で帰ればいいでしょ!?放して、放してってばぁ!!」  
それに激しく抵抗しつつも、フェアリーは減らず口を叩き続けている。そんな彼女に構うことなく、バハムーンはそのまま  
フェアリーと共に学食を出ていった。  
「……バハムーンさん、帰ってしまいましたね」  
そこへ入れ違いになる形で、天ぷらの乗った皿と水入りの湯飲みを二つ持ったセレスティアが戻ってきた。  
「ああ、セレスティア……フェアリー、あれはいくら何でもやりすぎだよねえ……バハムーン、止めに行った方がいいかなあ?」  
エルフの言葉に、セレスティアはいかにも不思議そうに首を傾げた。  
「いえ、必要ないと思いますよ?」  
「で、でも、あんなに怒ったの初めて見て…!」  
「フェルパーさん、彼の観察眼は、あなたが一番よく知っているのではありませんか?それに、彼はいわゆる女好きですしね。  
一時の感情で女性との関係を壊すような真似はしませんよ、きっと」  
言いながら、セレスティアはペットに天ぷらを食べさせている。ドワーフは彼が持ってきた水を二つとも、当たり前のように  
自分の物にしている。  
「僕も付き合い長いけど……あいつ、たまによくわからない」  
「いざとなれば、保健室の先生方を頼ればいい話です。神がお許しになるならば、彼女が死ぬようなことはありませんよ」  
穏やかに物騒な台詞を吐きながら、セレスティアはのんびりと食事を再開した。ドワーフは元々気にするつもりもないらしく、  
ここまでの事態に一切の反応を示さず食事を続けている。  
そんな薄情な二人とは別に、エルフとフェルパーは揃ってバハムーンの消えた方へ不安げな視線を送るのだった。  
 
バハムーンはフェアリーの首根っこを掴み、引きずるようにして自室へと行くと、ドアを開けるなり彼女を部屋へと放り込んだ。  
「きゃ!?ちょっと、このセクハラ野郎!いきなり何よー!」  
後ろ手に鍵をかけつつ、バハムーンは表情のない目でフェアリーを見つめる。  
「お前、舐めてんだろ?人がいつまでも大人しくしてると思うなよ?」  
視線に気圧されたのか、フェアリーは若干たじろいだようだったが、すぐにいつもの表情に戻る。  
「ふ、ふん!じゃあ何するって言うのー?お尻叩いたりでもするのー?どうせできもしない癖にさー!」  
「言うと思ったぜ。お前はほんとに、言ってもわからねえ奴なんだな」  
「あっ、ちょっ…!」  
大股で歩み寄るバハムーン。フェアリーは慌てて逃げようとしたが一瞬遅く、再び襟を掴まれていた。片手でフェアリーを捕まえつつ、  
他校生用の椅子を引っ張り出すと、バハムーンはそこに座り、膝の上にフェアリーの上半身を横たえ、両腕を後ろ手に捻り上げた。  
「い、痛っ!やめてよ、腕折れちゃうでしょー!バハの馬鹿ー!痛いってばー!」  
もはや返事もせず、バハムーンは彼女の下着ごとスカートを掴むと、一気にそれを引きずり下ろした。  
「きゃーっ!?ふ、ふざけるなセクハラ野郎ー!あとで絶対仕返ししてやるー!」  
騒ぎ続けるフェアリーを無視し、バハムーンはゆっくりと手を振り上げた。  
「バカー!アホー!ほんとのセクハラ野郎だって、みんなに言いふらし…!」  
パァン!と乾いた音が部屋中に響き渡り、フェアリーの声が途絶える。非常に小柄なフェアリーに対し、かなりの大柄なバハムーンの手は、  
彼女の両方の尻たぶを同時に打ち据えていた。  
「いっ……いたぁ…!こ、このセクハラ男ー!ほんとにお尻ぶつとか信じれないんだけどー!バハの変態!変態ー!」  
「言ってもわかんねえんだろ?じゃあ実際やってやるしかねえじゃねえかよ」  
「だからってほんとにや……ひぐっ!?」  
再び、乾いた音が部屋に響き渡り、フェアリーの短い悲鳴が上がる。  
「い、痛い!痛い!やめてよ!ほんとに痛いってばぁ!」  
「痛くなきゃあ仕置きにならねえだろ」  
「ふざけ……あぐうっ!」  
三回、四回と叩かれ、フェアリーの尻はたちまち赤く染まり、熱を持ち始める。そこをさらに容赦なく叩かれ、フェアリーの苦痛は  
どんどん強くなっていく。  
「ひっ!ぐっ!うあっ!や、やめて!痛いってば!やめて!やめろっ!」  
「どうしてこんな目に遭ってるのか、それすらわかってねえみてえだ、な!」  
「あぐっ……あ、洗えば落ちるでしょあんなのー!」  
「人が大切にしてるもんを、ぶっ壊すような真似したのがいけねえってんだよ!」  
「いたぁい!!こ、壊れてないんだからいいでしょー!ていうか、何回ぶつつもりよ、この変態野郎ー!」  
必死に体を捩り、逃げようとするフェアリーを押さえつけながら、バハムーンは一瞬手を止めた。  
「……そうだな、百回も叩けばわかるか」  
「ふえぇ!?う、嘘でしょ!?もうお尻痛すぎ……うあっ!?」  
もがけばもがくほど、バハムーンはより強くフェアリーを押さえつけ、尻を打ちすえる手にも力が入る。  
「ぐっ!あっ!や、やめっ……いっ!?ふざけ……あうっ!痛いぃー!」  
何度も何度も乾いた音が響き、そこにフェアリーの悲鳴が混じる。彼女がいくら叫ぼうと、バハムーンは一向に聞く耳を持たず、  
むしろより強く掌を叩きつける。  
 
二十回目辺りまでは、フェアリーは激しく暴れ、大声で悲鳴を上げ、その合間に罵倒の言葉が混じっていた。それはバハムーンを苛立たせ、  
彼女の苦痛を跳ね上げる結果にしかならなかった。  
「ぐ……うっ…!痛いっ……あつっ…!」  
三十回目を超えた辺りでは、フェアリーはもはや叫ぶ元気も失い、微かに苦痛を訴えるのみになった。あれほど激しかった抵抗もなくなり、  
ただ全身を強張らせるのみで、あとは僅かに身を捩る程度となっていた。  
そして、四十回目を数えた頃だった。  
「うぅ…!くっ、んうっ…!あふっ…!」  
フェアリーの悲鳴は食いしばった歯の隙間から漏れるような声に変わり、動きも打たれる度に体がピクンと震える程度になっていた。  
そこに、バハムーンは容赦なく手を振り下ろす。  
「ふぐぅっ…!」  
パァン!と乾いた音に混じり、微かにくちゅ、と水音が聞こえた。  
「………」  
フェアリーの尻に手を置いたまま、バハムーンは黙って掌に意識を集中する。  
小指側の端の辺りに、生温かい感触があった。僅かに手を動かしてみると、それはぬるぬるとした粘性を帯びている。それが何であるかは、  
状況さえ考慮しなければ簡単に答えが出る。  
フェアリーの呼吸は荒く、全身は赤くなっている。おまけに、太股に感じる彼女の体は、じっとりと汗ばんできていた。  
再び手を振り上げ、容赦なく彼女の尻を叩く。  
「ひうっ!」  
一瞬間隔が狂ったためか、フェアリーは甲高い悲鳴を上げ、体がピクンと跳ねる。そして再び、乾いた音の合間に湿った音が響く。  
注意して見れば、フェアリーは足をぴっちりと閉じ、僅かながらも太股を擦り合わせるように動かしていた。  
―――ああ、やっぱりな。  
特に何の驚きもなくそう思いつつ、バハムーンは続けざまに尻を打つ。  
「ひっ!?ぐっ、うっ!うあっ!」  
ちょうど五十回目で、バハムーンは手を止めた。フェアリーは小さく体を震わせ、もはや抵抗の意思すら示さない。  
そんな彼女に、バハムーンは声を掛けた。  
「お前な、実は全っ然反省してねえだろ?」  
その声に反応し、フェアリーが顔を上げた。呆けたような表情を浮かべていた彼女だったが、バハムーンを見るや否や、たちまち元の  
反抗的な表情に変わった。  
「だ、誰がそんなこと…!絶対、ぜぇったい仕返ししてやるんだからー!」  
「やれやれ……言ってもわからねえ、叩かれてもわからねえ。んなら、もっときついお仕置きが必要だな」  
お仕置き、と言った瞬間、フェアリーの体がかあっと熱くなるのを感じた。しかしあえてそれには触れず、バハムーンは探索で得た武器を  
入れている袋を引き寄せ、中から教師の鞭を取り出した。  
「ひっ!?ちょ、ちょっと、な、何するつもり!?」  
さすがに、フェアリーの表情が強張った。しかし表情や言葉とは裏腹に、彼女の胸はより大きく高鳴った。  
「使い道なんて、一つだろ」  
「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなので叩かれたらっ…!」  
ヒュッ、と空気を切る音が鳴り、直後にパシィン!と大きな音が鳴った。  
「い、痛あぁい!!」  
ただでさえ真っ赤になった臀部に、さらに赤いミミズ腫れが浮かび上がる。  
 
「これで51。これで……52!」  
「ひぎっ!?痛い!痛い痛い痛い!!痛いよ、痛いってば!もうやだ!お尻叩くのやめてぇ!」  
さすがに痛みが強すぎるのか、フェアリーは再び暴れ出した。腕を押さえられているため、足を曲げて必死に尻を庇おうとする。  
「おい、足どけろ。邪魔だ」  
「やだやだ!もうぶたないでよぉ!」  
「邪魔だっつってんだろうが!」  
強い口調で言うと、バハムーンはその足に容赦なく鞭を振り下ろした。  
「痛ぁ!!」  
左足を打たれ、さすがにそっちは下ろしたものの、右足はまだ庇い続けている。しかしそちらもすぐに鞭を浴び、フェアリーは悲鳴と共に  
両足を下ろす羽目になった。  
「ったく、最初からそうしてろ。53!」  
「うああっ!」  
足の痛みすら引かないうちに打たれ、フェアリーの目にじわりと涙が浮かぶ。同時に、そこに怯えの色が浮かんだ。  
「な、なんでぇ!?今二回ぶたれ…!」  
「足が邪魔だからどけただけだ。今のはカウントしねえよ」  
「そ、そんなっ…!」  
「54!」  
「あぐうぅぅ!!」  
バハムーンが鞭を振り下ろす度、フェアリーの尻に赤い線が浮かんでいく。数が増えるにつれ、その線は交差し、重なり、線としての姿を  
失っていく。  
「ひぐっ……う、うえぇ……痛いよ、痛いよぉ…!」  
いつしか、フェアリーは泣きだしていた。だが、バハムーンはそんな彼女を気遣うことなく、変わらず打擲を続ける。  
「お、お尻がぁ……いぎっ!お尻、熱い……破けちゃうよぉ……うあっ!」  
必死に痛みを訴え、涙を流すフェアリー。それだけ見れば、恐らくバハムーンもその手を止めていただろう。  
しかし、彼女の太股には透明な雫が伝っていた。それは鞭を振るうほど、尻を強く叩くほどに量を増し、今やバハムーンのズボンにまで  
染み込んでいくほどになっている。  
叩いた数が80を数えた頃、バハムーンが口を開いた。  
「お前、少しは懲りたかよ?」  
「うぅ……ぐすっ…!」  
「聞いてんだから返事くらいしろ!」  
パシィ!と高い音が鳴り、フェアリーの体がビクンと跳ねた。  
「い、痛いぃ!!聞いてる!聞いてるよぉ!」  
「なら、返事をしろっつってんだ、よ!」  
再び強く打ちすえられ、フェアリーが甲高い悲鳴を上げる。  
「やぁぁ!!もうわかったからやめてぇ!やめてよぉ!」  
「何がわかったんだ?懲りたかって聞いてんだよ」  
「うぅ…!」  
フェアリーは答えない。バハムーンは黙ったまま、彼女の尻を強く叩く。  
「ひぐっ!!い、いちいち叩かないでよぉ、ばかぁ…!」  
「ここまできて、まだそんな口きくのか。お前もよくよく、自分の立場が分からねえ奴だな!」  
大きく腕を振り上げ、今度は手首のスナップを利かせて思い切り振り下ろす。  
 
パァァン!と、これまでとは比較にならないほどの音が鳴り、フェアリーの体が仰け反った。  
「ぎっ!?あ、がっ……く、あぁぁ…!」  
もはやどこを叩かれたかわからないほど真っ赤になった臀部に、明らかにそことわかるミミズ腫れが浮かぶ。あまりの衝撃に、フェアリーは  
言葉も出せず、ただぶるぶると震えながら痛みに耐えている。  
そこへ追い打ちをかけるように鞭が振り下ろされ、バハムーンが口を開く。  
「いいか、少々の悪戯は構わねえ。けどな、度が過ぎたもんとか、相手が本気で嫌がることはやめろ」  
「……くぅぅ…」  
鞭の音が鳴り、乾いた音が部屋に響く。  
「あぐっ!」  
「普段の悪戯程度なら、仕置きもこれぐらいにしてやる。けどな、次また今日みてえな真似しやがったら、次は海賊流の拷問にかけるぞ。  
わかったか?」  
「………」  
フェアリーは答えない。バハムーンはフェアリーの腰を乗せた右膝を軽く上げ、鞭を彼女の尻の割れ目に沿うように構え直した。  
「わかったか!?」  
尻たぶではなく、その間を狙って鞭が思い切り振り下ろされた。  
「ひぎゃああぁぁぁ!!!」  
湿った皮膚を叩いたような音と共に、フェアリーの絶叫が部屋に響く。続いて微かに、ちょろちょろという水音が聞こえた。  
「……漏らしやがったな、お前…」  
「あうぅ……ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ…!」  
バハムーンのズボンが、黒く湿っていく。初めて謝罪の言葉を口にしたフェアリーだったが、バハムーンは容赦なく鞭を振り下ろす。  
「あぐっ!?」  
「まったく、さすがにちょっとびっくりしたぞ。で……今ので何回目だったかなぁ?びっくりしたんで忘れちまったぜ」  
その言葉に、フェアリーは怯えと驚きのこもった目でバハムーンを見つめた。  
「は、88回だよぉ!嘘じゃないよぉ!あと12回だけだよぅ!」  
「そうだったかぁ?ま……俺の膝の上で漏らしやがった分もあるし、50回目から数え直しだ」  
「そ、そんな!そんなぁ!やだやだ!これ以上はフェア死んじゃ……いぎぃぃ!!」  
鞭が振り下ろされ、フェアリーが悲鳴を上げる。苦痛と恐怖に泣き喚きながら、フェアリーは必死に口を開いた。  
「うあああ!いだいぃぃ!!お、お願いもう許してくださいぃ!!何でもします!!何でもしますぅ!!」  
その言葉に、バハムーンの手が止まった。  
「ほーお、何でも……ね」  
その言葉を反芻し、膝の上のフェアリーをじっと見つめる。  
恐らく、訴えている苦痛も恐怖も本物だろう。本物だからこそ、彼女にとって『価値』がある。彼女の普段の挑発的な態度や悪戯は、  
すべてこのためだけに行われている。  
彼女は、生粋のマゾヒストなのだ。これまでの流れですら、彼女にとっては垂涎もののシチュエーションであり、性的興奮を得るに  
十分すぎるほどの状況だったのだ。  
そんな彼女を見て、何の反応もしないということは不可能に近かった。自身の境遇に酔っているフェアリーは気付かなかったが、  
彼のモノは既にズボンの中ではち切れそうなほどに充血している。  
「それじゃあ…」  
この命令を出した時に、フェアリーが嫌がらないという確証は持てない。しかし、これまでの状況を見る限りでは、可能性は十分にある。  
答えが出たところで、バハムーンはズボンのベルトを外した。そしてチャックを下げると、すっかり大きくなったモノをフェアリーの  
眼前に突き付ける。  
 
「ひっ!?」  
「俺を満足させろ。そうすりゃやめてやる」  
相当に無茶な要求だとは思ったが、フェアリーは必死に頷いた。  
「あ、あぁ……や、やりますぅ!やらせてくださいぃ!だから……だから、もうお尻ぶたないでぇ!」  
泣き声混じりの口調や言葉の内容とは裏腹に、哀願の台詞を吐くほどに新たな愛液が滴り落ちる。おまけにその表情は、どこかうっとりと  
したような、恍惚とした表情すら浮かんでいた。  
バハムーンは押さえつけていた手を緩め、右手だけ解放してやる。これまでに実物を見たことはないらしく、フェアリーは手を出しあぐねて  
いるようだった。  
それでもおずおずと手を伸ばし、そっと彼のモノに触れる。一応の知識はあるらしく、優しくそれを掴むと、ゆっくりと上下に扱き始めた。  
反応を探るように、恐る恐るといった感じで扱くフェアリー。そんな彼女の姿を愛らしく思いつつ、バハムーンは鞭を振り上げた。  
何度も聞いた、鞭が空を切る音が鳴り、続いてパァンという音が響く。  
「いたぁっ!な、なんでぇ!?フェア、ちゃんとやって…!」  
「俺は『満足させたら』やめてやるって言ったんだ。その間、叩かねえとは一言も言ってねえぞ」  
「そんな、そんなのっ…!」  
「ほら、さっさと続けろよ。じゃねえとずっと終わらねえぞ」  
言うが早いか、バハムーンは立て続けに三回鞭を振り下ろした。  
「痛いっ!やっ!あぎぃっ!!や、やめてぇ!ちゃんとするからっ、ちゃんとするからぁ!!んむぅ!」  
必死に叫ぶと、フェアリーは大きく口を開け、バハムーンのモノを口に含んだ。しかし体格が違いすぎるため、先端部分しか入らない。  
それでも、痛みから逃れるため、というよりは逃れようとする自分を演出するためか、フェアリーは必死に舌を使い、先端を飴でも  
しゃぶるかのように舐め始める。  
温かい口内で小さな舌が必死に動き、とにかく快感を与えようと頑張っている。そんな彼女は可愛らしく、また拙い舌使いが何とも  
気持ちよく感じられ、ともすればすぐに果ててしまいそうだったが、バハムーンはその衝動を懸命に堪える。  
「んん、んっ……ひぐっ!?んうー!」  
時折、思い出したように鞭を振るう。その度に、フェアリーはビクンと体を震わせ、奉仕にも力が入る。そんな姿もまた倒錯的な  
魅力があり、バハムーンが耐えるのを難しくしている。  
「んく……んっ、んう!ふぁぁ…!」  
鈴口を舌先でつつき、全体を撫で回すようにねっとりと舐める。右手ではしっかりと扱きつつ、フェアリーは口での愛撫を続ける。  
どうやら顎が疲れてきたらしく、フェアリーは口に含んでいたモノを出し、それをぺろぺろと舐め始めた。  
そこへ、気まぐれに鞭を落とす。途端にフェアリーは小さな悲鳴を上げ、慌てて舐めていたモノを再び口に含んだ。  
ちゅうっと、フェアリーが先端を強く吸い上げる。突然変化した刺激に、とうとうバハムーンの我慢も限界に来た。  
「くっ……限界だ、出る!」  
「ん、んむっ!?んうう……うえぇっ、けほっ!」  
ビクンとバハムーンのモノが跳ね、フェアリーの口内にどろりとしたものが流れ込む。フェアリーはそれを口で受け止め、何とか飲もうと  
したのだが、あまりの生臭さと勢いに、ついむせてしまった。  
唇を中心に、顔全体に精液がかかり、喉の辺りまでがバハムーンの精液で白く染まる。その状況に、フェアリーは半ば放心しているよう  
だった。  
射精の快感と倦怠感、それに加えて女の子を精液で汚すという背徳的な快感の余韻に浸りつつ、バハムーンは声をかけようとした。  
 
その瞬間、フェアリーはハッといたように口を開いた。  
「ああ、こぼしちゃったぁ…!ごめんなさいぃ、すぐきれいにしますぅ!」  
「え?あ、おい…」  
バハムーンの声など聞こえていないらしく、フェアリーは両手で顔を拭うようにして精液を掌に集めると、それを躊躇いなく口で吸う。  
さらにバハムーンの腹に顔を近づけ、零れた精液を丁寧に舌で舐め取ると、目を瞑ってごくんと飲み込んだ。  
「んっく……はぁっ……きれいに、しましたぁ…!ちゃんと、全部飲みましたぁ…!」  
陶然と呟き、軽く口を開けて舌を出して見せるフェアリー。そんな彼女に、バハムーンはぽつんと呟いた。  
「いや……誰もそこまでしろとは言ってねえんだが」  
「えっ…」  
その瞬間、フェアリーは驚いたように目を見開き、まるで怒られでもしたかのように泣きそうな顔になった。  
バハムーンは即座に気配の変化を感じ取り、彼女の腕を解放すると、頭にポンと手を乗せた。  
「けど、よくやった。えらいな」  
「……えへへ」  
本当に嬉しそうに、フェアリーは笑顔を浮かべた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔ではあるが、とても可愛らしい顔だった。  
「んじゃ、約束通りこれでおしまいだ。お前、立てるか?」  
「え?えっと……ちょっと痛い…」  
「だろうな。しょうがねえ、今日はここ泊まってけ。一緒に寝ることになるが、そんぐらい構わねえだろ?」  
「うん、フェアはいいよ。お尻痛いし、あまり動きたくないもん」  
それで話はまとまり、二人は濡れタオルで軽く体を拭くと、床に布団を敷いて横になった。相当に痛むらしく、フェアリーは掛け布団すら  
かからないようにバハムーンに密着し、うつ伏せで寝ている。  
「眠れそうか?」  
「んー、寝れなくはないよー。じんじんするけど」  
「そうか。まあそれぐらいで仕置きにはちょうどいいだろうけどな」  
「………」  
やはり『仕置き』という言葉には格別の思い入れがあるらしく、フェアリーの顔が僅かに赤くなった。  
が、直後にその顔は真っ青に変わることになる。  
「んで、お前結局、一度も謝ってねえよな、俺の銃に醤油ぶっかけたことに関して」  
「ええっ!?え、えっと、その、フェアは、そのっ…!」  
不意打ちの質問にしどろもどろになっていると、バハムーンはさらに言葉を続けた。  
「あれはさすがに本気で許せねえんだよなあ。んで、謝罪の一つもねえってなると、別のお仕置きが必要だよなあ」  
「あ、あの……ごめんなさ…」  
「今更遅えよ。そうだなあ」  
バハムーンはフェアリーをじっと見つめると、その服に手を掛けた。  
「ええっ!?ま、待って待ってぇ!!それはダメ!それはダメなのぉ!」  
「何勘違いしてるか大体想像はつくが、残念ながら違うぞ。まあ裸に剥くのは変わらねえけどな」  
「やだやだやだぁ!このセクハラ野郎ー!やめてよぉー!」  
「また言いやがったなそれ。あったま来た、もう泣こうが喚こうが絶対許さねえ」  
「いやあああぁぁぁ!!!」  
夜の学生寮に、フェアリーの悲鳴が響き渡った。  
 
「あううぅぅ……ううぅぅ〜…」  
もののふの荒ぶる社に、フェアリーの呻くような声が響く。しかし、前を歩く四人は誰一人振り返らず、隣のエルフもあまり見ようとは  
しない。ただ少しは気になるのか、たまにちらりと様子を窺ってはいるようだった。  
「……もうやだぁー!こんな恰好やだよぉー!」  
とうとう、フェアリーが顔を真っ赤にしながら叫んだ。それに対し、前を歩くバハムーンが肩越しに振り返った。  
「黙れ。それにその装備、お前にはちょうどいい代物だろ」  
「効果なんかどうでもいいのー!だってこれぇ…!」  
必死に叫ぶフェアリーの服装は、上に制服すら身に着けない、非常に薄手のレオタード一枚きりだった。  
その布地は異常に薄く、よく見れば素肌が透けているのがわかる。その上、着用者の行動を妨げないためにか、異常なほどぴっちりとした  
作りになっている。そのせいで、フェアリーは下着すら身に着けられなかったのだ。  
胸を見れば小さな乳首がちょこんと浮かび、後ろから見ればお尻などほとんど隠れていない。しかも食いこみがやたらに強くなっており、  
正面から見れば小さな割れ目にレオタードが食い込んでいるのがはっきりと見て取れる。冒険者養成学校の生徒でなかったとしたら、  
警備兵に連行されても文句は言えないところである。  
「お尻丸見えー!おっぱいも見えてるー!あそこなんかっ……く、食いこんでっ…!こんなのやだよぉー!代わってぇー!  
誰か代わってぇー!ドワ助けてよぉー!」  
そんな乙女の叫びにも、ドワーフは冷たく言い返す。  
「やだ。私もそんなの恥ずかしい。それにそんなの着てたら、前にいると死ぬ」  
「うあーん!エルでもいいからー!セレぇー!」  
「ぼ、ぼくも嫌だよそんなの」  
「わたくしも、ぜひ遠慮させてください。それに、わたくしがその格好をした場合、あなたとはまた違う意味で大問題ですので」  
恐らく男連中が着た場合、冒険者養成学校の生徒であっても警備兵に連行されるだろう。  
「うぅ〜、やだよこれぇ…!食いこんでるし……こ、擦れるし…」  
まだぶつぶつと言っているフェアリーに、バハムーンが口を開いた。  
「まあいいじゃねえか。その分、戦闘力に関してはかなり上がっただろ?」  
「そ、それはそうだけどさぁー!」  
実際、そのレオタードは予想以上の効果をもたらしていた。体が思った通り動く、などというものではなく、思った以上の動きを  
することができる。ここ最近、一気に速くなったセレスティアを余裕で抜き去り、弓の弦もまったく苦にならず、そこから放たれる矢は  
敵に突き刺さるどころか貫いた。魔法の詠唱もすらすらとできるようになり、精神集中も容易くできるようになり、出がけには校門で  
3ゴールド拾った。  
「で、でも……び、敏感になりすぎっ…」  
欠点としては、敵の攻撃がそれまで以上に辛くなったことだった。軽い一撃が当たるだけでも、飛び上がるような痛みに変わるのだ。  
おまけに、食い込んだ部分と擦れる部分から受ける刺激も、それまでの倍以上に高まっている。動けば当然その刺激は強まり、実質  
普段の行動が、全て拷問に変わっているようなものだった。  
それでも、フェアリーは羽で飛ぶことができ、回避行動も得意であり、武器も弓矢を用いるため、そういった面からみればこの防具は  
まさにフェアリーのためにあるようなものだった。  
「昨日のありゃあ度が過ぎてたからな。ま、戦力的にも充実したし、諦めろ」  
「うぅ〜……いつか絶対仕返ししてやるぅ…!」  
そうした戦力の充実もあり、彼等はようやく最奥に到達すると、そこにあった異次元の扉から現れたモンスターを容易く降し、  
絵馬の奉納を済ませて学校へと戻った。  
 
さすがに学校内でこの露出はあまりに哀れということで、フェアリーはエルフのお古であるマントをもらい、それを身に付けた。  
それでも正面から見れば、男子生徒と一部の女子生徒の目の保養になりそうな状態ではあったが、今までと比べれば随分とマシである。  
とりあえずの課題も終わったため、一行は学食でのんびりと夕食を取っていた。  
セレスティアは箸を扱うことを諦めたらしく、トンカツをナイフとフォークを使って食べている。隣では昨日に引き続き、ドワーフが  
天ぷらを頬張っている。フェアリーはなぜか、椅子の上に行儀よく正座して食べている。  
「あとは、校章ができるの待つだけだよね」  
「ああ。合間に何か一つぐらい、課題出されそうな気もするけどな、はは」  
「うわー、ありそうでやだなあ、それ。あるにしても、できればそんなに大変じゃない奴…」  
その時、セレスティアのカツを切る手につい力が入りすぎ、下の皿を切りつけてキィッと高い音が鳴った。途端に、エルフとセレスティアの  
体がビクッと震える。  
「し、失礼。筋が硬かったもので…」  
「あ、ああ……わざとじゃなきゃいいよ。ていうか、君もこの音苦手なんだ」  
「少なくとも、愉快なものではないですねえ」  
そんな会話をする二人を、フェアリーは横目で見つめていた。彼女もナイフとフォークを使っており、エルフがその視線に気づいた瞬間、  
フェアリーは視線を戻した。  
そのまま、大人しく食事を続けるフェアリー。絶対に何かすると思っていたエルフは、些か拍子抜けしたようだった。  
「……フェアリー、今日はずいぶん大人しいね?」  
思わずそう言うと、フェアリーは意外に刺々しさのない口調で答える。  
「何か鳴らした方がよかったー?」  
「え?いや、鳴らさない方がありがたいけど」  
「悪戯ばっかりでも飽きるしねー」  
およそフェアリーらしくない台詞に、エルフは思わず耳を疑った。それはフェルパーも同じだったらしく、肘で軽くバハムーンをつつく。  
「バハムーン、昨日あの後何した?」  
「何って、こってり叱ってやっただけだよ。叱るべき時にちゃんと叱ってやるのは、子供も動物も一緒だろ?」  
「そ……そうか」  
フェアリーは子供扱いなのか動物扱いなのか、一瞬気にはなったが、恐らく前者だろうと思い直し、フェルパーはそれ以上聞かなかった。  
その時、フェアリーの表情が不意にいつもの笑顔になった。  
「あ、もしかしてエル……悪戯ないと寂しいー?」  
「なっ、ちょっ、誰もそんなこと言ってないだろ!?」  
「いいよー、遠慮しなくてもー。キーって鳴らしてあげようかー?きひひ!」  
またいつもの言い合いが始まりそうなところで、バハムーンが横から口を挟んだ。  
「やめとけ、お嬢ちゃん。昨日の今日でんな真似したら、お仕置きじゃ済まねえぞ」  
すると、その意味するところを察し、フェアリーは言葉に詰まった。  
 
「う……も、もう、うるさいなあ、このセクハラ野郎ー」  
「ま、俺に恨みがあるのはわかるからな。その程度は許してやる。けどな、他の奴にあんまり迷惑かけるようなら、こっちも容赦しねえぞ」  
「じゃあ、バハになら迷惑かけてもいいわけー?ひひ!」  
「昨日みてえなことしやがったら拷問にかける。直接なんかして来やがったらそれ着たままで昨日みてえな目に遭わせる。それが嫌なら、  
口で言う程度に留めときな」  
「……あっ」  
普段は短絡的に物事を考えるフェアリーだが、レオタードにかかった強化魔法のおかげで、彼女は彼の言わんとすることを理解した。  
「ふ、ふん!いつか仕返ししてやるんだからねー!……今日はもういいけどー」  
「そうかい。捕まる覚悟があるならいつでも仕掛けてきな」  
「べーだ!今度は捕まってやんないからねー!」  
仲良さそうに喧嘩する二人を見つめ、フェルパーは再び口を開いた。  
「バハムーン。君、ほんと昨日何した?」  
「さっき言っただろ」  
「それにしちゃ、懐いてない?」  
「気のせいだ」  
とてつもなく面倒な性癖を持つフェアリー。しかしバハムーンはそれを見抜き、しっかりと手懐けてしまった。それでも周囲には、以前と  
変わっていないように振る舞うのも、ひとえにフェアリーの性癖ゆえである。  
とはいえ、フェアリーは望みの相手を見つけることができ、バハムーンも手のかかる、しかし面白い相手を見つけることができたと  
思っている。もちろん、口に出すわけはないのだが。  
この日以来、フェアリーの悪戯の頻度はほんの少し減った。それに加えてエスカレートしつつあった行為も、少し苛つく程度に戻りだした。  
また、妙に機嫌のいい日が増え、そういった日はあまり悪戯を起こさないようになってきたのだが、他の仲間達にとって、その原因は  
未だに謎のままなのだった。  
 

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