「うう〜〜。悔しいのだ。恨めしいのだ。う〜〜、うう〜〜」  
「いや、俺に言われてもな」  
 
 ドラッケンに災いをもたらす(かっこわらい)魔女、ザッハトルテの文字通り移動する拠点を俺が見つけたのはただの偶然だった。  
 仲間とはぐれ半ば遭難して、小川で獲った魚を炙っている所に『美味しそうなのじゃ』とふらふらと家ごと寄ってきたのを偶然というのならば、だが。  
 
 おなかが減った→いい匂いがする→エンカウント。この理屈、気まぐれで悪意に満ちた神様の仕業としか考えられない。  
 すわ俺もここまでか申し訳ありません御館様クシナ様の留学に合わせて学びそして我が車輪となれとの御命令果たせそうもありませんかくなる上は……とか覚悟を決めたのになぜか懐かれていた。  
 眼前でよだれを垂らして邪気のないきらきらした目で見つめられれば、そこはそれ、武士の情けというやつだ。……きょうび幼児でももう少し邪気があるものなのだけどなぁ。  
 
「そもそも、だ。何故お前は呪いを掛けた後、わざわざ俺たちの前に現れた」  
「ふっふ〜ん、それはこの私の偉大さをみなに幅広く知らしめるためなのじゃ」  
「そのまま隠れてればいいだろう? 謎の奇病と思われてそれで終わりだ」  
「そ、それでは私の存在が誰にも気づかれないではないか! お主は鬼か、悪魔か!?」  
 
 怒られた。理不尽だ。  
 それを言えば俺とザッハトルテとの間柄も謎だ。初めて出会ってから小競り合いの絶えない関係のはずなのだが、それが――当然俺たちの勝利で――終わるたびに、こうして宿での秘密の反省会を繰り返している。  
 そしてこの気まぐれ魔女の行動も俺の理解の範疇にない。『座り心地が良さそうだから』とベッドに腰掛けた俺の上に鎮座し、『私は寒がりなのだ』と駄々をこねては抱きしめさせる。  
 そしてそれ以上に訳が分からないのが、俺自身がこの時間を手放したくないと思っているその事だ。  
 
 
 
「なんぞ難しい顔をしておるな」  
「……御館様に忠義を尽くす為、かの名高い災いの魔女殿の呪いをご教授願うにはどうすればいいか考えてたところだ」  
 
 心を見通されたような感触を誤魔化すためとはいえ、我ながら何と慇懃無礼な。……そこで嬉しそうな表情にならない。そんなんだからアホの子って言われるんだぞ。  
 
「そうかそうか。お主も改めてこの私の恐ろしさに感動と旋律を覚えたということか」  
「そういうことにしておいてくれ。そうだな……不作の災いをかけるにはどうすればいい?」  
「何のためにそんな呪いを知りたいのだ?」  
「御館様の敵を弱らせるために、そこの領地を不作にする」  
「そ、そんなことをしたら皆が飢えて苦しむではないか!? ダメだ! そんなのは絶対にダメなのだ!!」  
「……じゃあ大雨の呪いを教えてくれ」  
「それで、どうするつもりなのだ?」  
「御館様の敵の運河を氾濫させる」  
「それじゃお百姓さんだけでなく魚を取る人や旅行者も難儀してしまうではないか!? 絶対に教えないのだ!」  
「ならば日照りの呪いを……」  
「お主はなぜ皆が困って恐ろしい目に会うような呪いばかり選ぼうとするのだ!? この私の目の黒いうちは絶対にお主にそんな事はさせんからな!」  
 
 ……まったくもって。呪いだの災いだの大層な渾名で呼ばれているけれど。ここまで根っこが一般人過ぎるのもどうかと思う。こいつは絶対に悪の要素は持ってない。俺のほうがよっぽど悪人じゃないか。  
 
 
 
「何を笑ってるのだ?」  
「笑ってる? ……ああ、なるほど。いや、そうだな……ザッハが教えてくれないんじゃ仕方ない。……俺も一つ呪いを知ってるんだが、試してみようかな?」  
「む、それは私にと言う事か? ふふん。ならば好きにやってみるがよい。この私に呪いをかけようなど百年早い。えーと、馬の耳に念仏というやつなのだ」  
「それは釈迦に説法だ。一応確認しておこう。この呪いは死ぬまで消えない呪いになるだろうが……本当にいいんだな?」  
「お主の呪いなどへっちゃらへーの余裕のよっちゃんなのだ。ほれほれ〜〜。一生懸命必死になって精々頑張るがよいぞ」  
 
 じゃあ、遠慮なく。俺の膝の上に座ってるザッハを持ち上げ、正面から向き合う。座らせているときから思うのだが、重さなんて全然感じない。  
 俺の腕の中のわるいまじょは突然の行動にちょっとだけびっくりしたようだったが、すぐに自信満々余裕綽々の表情で俺を見つめ返してきた。  
 暖かくて柔らかい、滑らかな頬を両手で挟み――何も言わせずにその唇を塞いだ。  
 
「……!? っ、……! ……っ、ぁ……っ!」  
 
 左手を頭に右手を腰に。反射的に逃れようとする身体を拘束し上唇から下唇へ。わずかに濡れた艶かしい唇を味わい強く吸い、抵抗が弱まった瞬間に口腔に舌を潜り込ませ思うままに蹂躙する。  
 
「っぁっ! や……ぁ、んっ」  
 
 時計の針が半周する頃には既にザッハの身体からは力が抜け、痙攣するように時折動くだけ。不埒な侵入者を押し返そうとする小さな舌を絡めとる度に吐息が漏れる。  
 開放はきっかり一分後。短いはずの時間がやけに遅く感じられた。  
 
 
 
「……っ、あ! っ! ……お、お、おぬっ、おぬっ! おおお主……っ!」  
「唾液で橋ができて……滅茶苦茶エロいぜ?」  
「〜〜〜〜〜っ!!」  
 
 おでこから顎の先まで真っ赤に染めて改造制服の袖で口元を一生懸命ごしごし拭う。そんな仕草が凶悪なまでに可愛らしい。  
 肩を優しく押すと抵抗もなくザッハの身体がベッドに沈んだ。ぎしと小さく軋み音。  
 
「……ぁ」  
「俺のかける呪いはね――」  
 
 
 
 ――俺のことが頭から離れなくなる呪い  
 
 
 
 季節は秋深く。長い夜は始まったばかり。  
 

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