ジェデロ砂漠にザスキア氷河、ドゥケット岬にヤムハス大森林と様々な場所を巡る一行。
迷宮を抜けると気温も気候も大違いなどというのはもはや当たり前で、それが原因で体調を崩す生徒も少なくはない。
ただ、体調だけではなく態度もおかしくなる生徒も、極めて稀にいたりする。その原因を知る者は、本人達と一握りの生徒のみ。
一行の前衛を担うフェルパーにドワーフ。前衛同士としても男女としても気の合う二人のはずが、ここ最近は妙によそよそしい。
「ふ〜、今のはきつかったなー!」
「お疲れ様ー。フェルパーが吹っ飛ばされたときはどうしようかと思ったよお、あはは!」
「大丈夫だって。俺、こう見えて丈夫だからさ。」
「……あまり…心配させるな。」
ドワーフが、どことなく不機嫌そうに声をかける。すると、フェルパーも不意に笑いを収めた。
「ああ……ごめん。」
本人達はどうだか知らないが、周りの者としては非常に気まずい。とはいえ、原因がまったくわからないので変に声もかけられない。
ただ一人を除いては。
「あのさー、あんたらこの間っから何なの?見ててすんごく不愉快なんだけど?」
思ったことをずばずば言うフェアリー。パーティ屈指の厄介者である彼女も、こういう時には非常に助かる。
「何って…言われてもなあ。」
「別に、どうでもないよ。」
「ないわけないでしょ〜?この間までベッタベタしてたのに、今は何それ?何なの?倦怠期?それとも浮気でもしてんの?」
「そ、そんなことするかよっ!」
フェルパーがムキになって否定する。ドワーフは困り顔のまま、斧を握る手に力を込めた。
「まあまあ、そう喧嘩しないでください。二人にだって、何か事情があるんですよ。」
「はーいはい、事なかれ主義の天使ちゃんは考えるの放棄するのが好きねえ。」
「そ、そんなことっ!」
「でもさあ、あんたも思ってんじゃないの?訳もわからないまま気まずい空気にされてさ、はっきり迷惑だって…」
「フェアリー、もうやめなってばあ。君の言ってること間違ってはいないけど、やってることは同じじゃない。」
「でもっ…あたしはただ……みんなが思ってること、代弁してやっただけじゃない…!」
さすがにちょっとショックだったらしく、フェアリーの声がわずかに震える。
「あう…ごめん、フェアリー。ちょっと言い過ぎた…。」
「皆さん、ずっと戦い詰めで疲れています。疲れていては、どうしても気分が荒みがちです。一度戻って休みましょう。」
その案に、誰も反対するものはいない。
「そうだな…悪かったよ、俺のせいで…。」
「あんただけでもない…私も謝る、ごめん。」
「そうだよ!あんた達のせいであたしが…!」
「テレポル。」
傍から見る限り、ドワーフとフェルパーは決して仲が悪いというわけではない。
むしろ、お互いにかばいあう場面もあるなど、喧嘩しているというわけではないらしいのだ。
だが、顔を付き合わせれば非常にギクシャクした態度。だからこそ、他のメンバーも声をかけにくい。
そして、二人が一緒にいない限りは、二人ともそれぞれまったくの普段通りなのだ。それゆえ、自然と男女に分かれることが多くなる。
「マートさん、カレー一つ〜!」
ランツレートの学食に着くなり、ドワーフは真っ先にご飯を取りに行った。
セレスティアとフェアリーは窓際の席を確保し、男子一行はそこから僅かに離れた場所に席を取る。
「今日も元気だねえ。」
「お腹減らした方が、ご飯がおいしいもん!」
「それじゃ、いっぱい食べるといいよ!大盛り?特盛り?それとも山盛り?」
「そりゃもう!大盛りの特盛りの山盛りで!」
「はいはい。大盛りの特盛りの山盛りって言うと…これぐらいかな?」
「わーい!ありがとうマートさん!」
優に7人分はありそうなカレー。周りにいる他の生徒は、明らかに引いている。
「…何、あれ?30分で食べきったら100Gでももらえるの?」
フェアリーが呆れきった声を出す。それに、セレスティアは笑って答える。
「そんな企画出したら、ここの学食すぐに潰れちゃいますよ。」
「…あんた、たまにさらっと毒吐くよね。」
「そんなことありませんよ。あ、フェルパーさんもカレーですか?」
「うん。やっぱここ、カレーが一番だからね。」
満面の笑みをたたえたドワーフが席に向かってから、フェルパーもカレーを取りに行く。
「おや、あんたも今ぐらいいるかい?」
「い、いやいや。俺はあれ無理。特盛ぐらいで…。」
「はいよ、特盛カレー。」
「ありがと…って、特盛りも多いな!?」
「あんた達若いんだから、それぐらい食べなきゃね!」
「…これは何かのカリキュラムか…?」
ぶつぶつ言いつつ、フェルパーも席に向かう。席では既にノームが水を人数分用意している。
「お、水ありがとな。」
「ずいぶん多いですね。ドワーフさんならまだしも、あなたがそんなに食べるのは初めて見ます。」
「いやー、俺もこんなに食うのは初めてだよ…。マートさん、いい人ではあるんだけどな〜。」
「わーい、ボクもこんなにもらったよー。」
そこに、クラッズもカレーを持って現れる。量自体はフェルパーの半分もないが、それでもクラッズの規格なら優に2人前はある。
「マートさんって、普通盛りってものを知らないのかな…。」
「まあいいじゃない。足りないよりは、多いほうが嬉しいもんね。」
「ところで、この後ちょっと話をしたいのですが。」
珍しく、ノームが話を振ってくる。
「あとで、寮のロビーに集まってもらえませんか。」
「お、珍しいな。俺はいいよ。」
「ボクもいいよー。あ、女の子達は?」
「あとで僕の方から声をかけます。それでは、食事が終わったらお願いします。」
「はいよ。んじゃ、さっさと食べ…」
「マートさーん!カレーお代わりー!」
特大の皿を持ったドワーフが、再びマートさんの方に走っていく。
「……化け物か…?」
「あれ、ボクなら一週間分だよ。あははは。」
「どうぞ、ゆっくり食べてください。たぶん彼女が食べ終わるのと、あなた達が食べ終わるのが同じくらいでしょうから。」
食事を終えると、6人は寮のロビーに集まった。特に何を食べていたわけでもないノームは、一足先に到着している。
「わざわざ集まってもらってすみません。」
「珍しいよね、あんたが話あるとかさ…あー、食べてすぐだとお腹重い。」
大儀そうに言うと、フェアリーはすっと地面に降りた。
「で、話って何?」
「いえ、ちょっとしたわがままなのですが、少し休みをもらえないかと。」
「……休み、ですか?」
「ええ。ここ最近、ずっと地下道で戦い詰めでしたので、さすがに疲れがたまってしまったのです。」
「へー、あんたでも疲れとかあるんだ?」
「そりゃ、ノームだって機械じゃないもんね〜。」
「それに、依代の調子も少し悪いようなので。」
言いながら腕を動かすノーム。確かに、少しギリギリと変な音が鳴っている。
「無理することはありませんよ。それでしたら、ゆっくり休んでください。」
「それじゃさ、せっかくだしボク達も休もっか?たまにはのんびりしたいしね。」
「それもそうだね。私達だって、疲れ溜まってるかもしれないし。」
「あんたはあれだけカレー食べてりゃ、疲れも何もないでしょ。」
「お腹が空くのと疲れるのは別問題だ!」
「…そうか…?」
ともかくも、特に反対することもなかったので、二日ほどは地下道探索を休むことになった。
話がまとまったところで、一行はそれぞれ自分の部屋に向かう。
「あ、フェルパーさん。」
「お?どうした?」
同じく部屋に行こうとしていたフェルパーを、ノームが呼び止める。
「大変申し訳ないのですが、良ければ部屋を変わってもらえないかと。」
「え、別にいいけど…なんで?」
「…隣の方がディアボロスの方なのですが、性格が合わない方なので…。この二日だけは、少しゆっくり休みたいのです。」
なるほど、ノームはどんな種族とでも相性がいいとは言うものの、ディアボロスとは仲違いをしないというだけだ。
性格が合わないとなれば、その相性は一気に最悪となる。
「あ〜、そりゃしょうがない。いいよ、俺がそっち行く。」
「すみません。」
「いいっていいって。じゃ、鍵パス。」
お互いの鍵を交換すると、二人もそれぞれの部屋へと向かう。鍵についた番号を見ながら向かうと、不意にドワーフの姿が見えた。
「あれ…ドワーフ?」
呼ばれたドワーフは、ビクッと体を震わせた。
「な…なんであんたがここにいるの?」
「いや、ノームが部屋変わってくれって言うから…お前…は、そこ?」
「…うん…。」
「そっか…角部屋、いいな…。」
「うん…まあ。」
しばらく、どことなく気まずい空気が流れた。が、やがてその雰囲気にわずかな変化が訪れる。
「あんたの部屋…上だっけ?」
「そう。」
「セレスティアは?」
「あいつは下だったっけな。クラッズとフェアリーは…」
「一番上だよ。仲良く隣同士。」
「…そっか。」
「なあ、フェルパー…。」
ドワーフが何か言いかけるのを、フェルパーは手で制した。
「あとで、部屋行っていいか?」
「………。」
もじもじしながらこくんと頷き、ドワーフは恥ずかしそうに部屋に引っ込んだ。フェルパーはそれを見届けてから、無表情に部屋に入る。
が、その手は小さくガッツポーズしていた。
それからいくらも経たず、ドワーフの部屋がノックされる。癖のあるノックの仕方で、すぐにフェルパーだとわかる。
「鍵…開いてるから。」
ガチャン、とドアが開き、フェルパーが部屋に入る。そのまま一言も喋らず、ドワーフの隣に座る。
フェルパーの呼吸は荒い。そして何かに耐えるように、時折ひどく苦しげな顔をする。
その尻尾も、どこか苛立たしげにパタンパタンとベッドを叩いている。
だが、それはドワーフも同じだった。こちらは苦しそうとまではいかないが、やはり何かに耐えるような表情で、その目は潤んでいる。
「……すっげえ我慢した。」
フェルパーが呟く。
「うん…。」
「もう無理だ。」
「…私も。」
フェルパーはドワーフの顔を上げさせると、激しいキスを交わした。
ドワーフもまったく嫌がらず、それどころか必死に舌を絡めようとする。
ザラッとしたフェルパーの舌。気をつけねばその舌で自分の舌を傷つける恐れもあるのだが、
今のドワーフはそんなことお構いなしに舌を絡める。そしてフェルパーも、その気遣いなど忘れ去っている。
「ふっ…んっ…!」
「んぅ……ぷはっ!」
唇を離すと、二人の間につぅっと唾液が糸を引く。とろんとした、蕩けるようなドワーフの目。
男勝りの彼女が見せる雌の顔に、フェルパーの理性など簡単に吹っ飛ぶ。
「ドワーフ!」
「あっ!」
ドワーフを突き飛ばすように押し倒し、その腰を持ち上げる。
当然、体を洗う暇もなかったのだろう。スカートの下に穿くスパッツからは、汗の蒸れた匂いと強い体臭がする。
そして、その中に混じる、獣人種族でなければわからないような匂い。
フェルパーはその匂いをしばし楽しんでから、スパッツの上からドワーフの秘所を舐め上げる。
「うあっ!ああっ!」
激しく身悶えるドワーフ。だが衣服を通して伝わるその感触は、今の彼女にとってはあまりに弱く、もどかしい。
「ね…ねえ、フェルパー……もっと強くぅ…!」
「はぁ…はぁ……ああ…!」
フェルパーはスパッツとスカートを鷲掴みにすると、裂けんばかりの勢いで引き剥がす。
そのついでとばかりに上着も脱がすと、フェルパー自身も服を脱ぎ捨てた。
特に前戯らしい前戯をしたわけでもないのに、既にドワーフのそこはじっとりと濡れていた。
それに気付いた瞬間、もう少し前戯を続けようかという考えは一瞬にして消え去った。
「悪い、もうこれ以上待てねえ…!」
「もう、久しぶりなのに、せっかちだなぁ…でも、いいよ。」
蕩けるような目で妖艶に笑うと、ドワーフは四つん這いになって尻尾を上げた。
「フェルパー、来て。」
「ドワーフ!」
フェルパーはドワーフの腰をがっちり掴み、自分のものをあてがうと一気に突き入れた。
「うあぁっ!い…いきなり、深いっ…!」
だが、フェルパーはお構いなしに激しくドワーフを攻め立てる。狭い部屋に、湿った音とお互いの腰がぶつかる音が大きく響く。
「あっ!!あうっ!!んっ!!フェル…パー!もっと…もっと、激しくぅ!!」
最初こそ多少の痛みがあったものの、今ではドワーフ自身も、フェルパーの動きにあわせて腰を動かしている。
それでもなお、さらなる刺激を求めるドワーフ。
フェルパーは腰から手を離すと、ドワーフの腕を掴んだ。
「ひゃっ!?フェル…あうっ!」
両腕を掴み、それを思い切り引き付けながら腰を叩きつけるフェルパー。
今までよりもさらに奥深くに突き入れられ、ドワーフは苦しげな息をつく。
「んあっ!あっ…!!フェルパ…!ちょっと…あんっ!激し…すぎるぅ…!」
「でもまだ…足りねえ…だろっ…!」
言うなり、ドワーフの腕を強くひきつけると同時に、思い切り強く腰を打ち付けるフェルパー。
「うあっ!?ひぐっ…!い…いいよぉ…!」
閉じきらない口から涎を垂らしつつ、ドワーフは恍惚とした表情を浮かべる。
もはやお腹の奥に感じる疼痛すら、快感としか受け取れなくなっている。
ふと、フェルパーがドワーフの腕を持ち直し、ベッドに押さえ付ける。
そして、ドワーフに覆い被さるようになると、いきなり首根っこに噛み付いた。
「あうっ!!……フェルパー、もっと強くぅ…!」
その言葉に応えるように、今までよりさらに激しく腰を打ち付けるフェルパー。
ドワーフは力ずくで組み伏せられながらも、その獣そのもののような行為に甘い被虐心を感じていた。
「フー!フー!…ドワーフ……もうっ…!」
首筋に噛み付いたまま、フェルパーは切羽詰った声を出す。そしてドワーフがそれに答える前に、ドワーフの体内に思い切り精を放った。
「んあぁっ!…あ…ぁ……おなか…じわってするぅ…!」
しばし、その余韻を楽しむフェルパーとドワーフ。しかし、まだこの程度で満足できる二人ではなかった。
フェルパーは首を押さえていた口を離すと、ドワーフの右足を持ち上げた。
「きゃん!?フェルパー、待っ…ああう!!」
足を大きく広げさせ、激しく突き上げるフェルパー。今までとはまた違った角度で擦られ、ドワーフの快感は一気に跳ね上がる。
「あっ!あっ!!あっ!!!フェルパーっ!私っ…私、もうっ…ダメっ!イクっ!イッちゃうよぉっ!」
シーツをぎゅっと掴み、必死にその快感に耐えようとするも、あまりに激しい攻めの前に、その抵抗はまったく意味を為さない。
「ダメっ!もうっ!イっ…うあああぁぁぁ!!!」
ドワーフの体がビクビクと震え、同時に膣内が激しく収縮する。
「うあっ…ドワーフ、すっげえ締まる…!」
「ハァ…ハァ…!フェル…きゃあっ!?」
一瞬動きを止めたフェルパーだったが、再びそれまで以上の勢いで突き上げる。
「ちょっ…ひっ!あっ!待って待って待ってぇ!!!うあっ!私っ、今イッたっ!イッたからっ!!まだ動かないでぇ!!!」
しかしそんな訴えが届くはずもなく、フェルパーはより深くドワーフの中を抉る。
「そんなっ!されたら…あぁっ!あっ!またっ…イクっ!やだっ!まだダメぇっ!!やっ…あああぁぁ!!!」
立て続けに達してしまい、飛びそうな意識を必死で繋ぎとめるドワーフ。
だが、ドワーフが達するたびに強く締め上げられたフェルパーも、そう長くはもたなかった。
「うっく…!ドワーフ…また…!」
抜けそうなほどに自身のモノを抜き出し、勢いよく突き入れる。突かれる度に、ドワーフの体内に激しい痛みと快感が伝わる。
「んあっ!フェルっ…パーっ!もっとっ…もっと、強くぅっ!」
「ぐぅ…!ドワーフ……もう、イク!」
搾り出すように言うと、フェルパーは一際強く腰を打ちつけた。
しかし、あまりに勢いよく引き抜いたため、不測の事態が起こってしまった。
「うあっ!?」
「きゃんっ!?」
最後に思い切り突き上げようとした時、フェルパーのモノが完全に抜けてしまった。
突き入れようとしたそれは虚しく滑り、ふかふかのお腹に射精してしまった。
「…もう、中に欲しかったのにぃ…。」
「ご、ごめん。」
「あとで体洗わないと、カピカピになっちゃうよ。も〜。」
そう言いながら、お腹についた精液を指で掬い、その指をしゃぶるドワーフ。その行為に、再び燃え上がるフェルパー。
「ドワーフー!」
「わあ!?」
今度は正面から押し倒し、今ドワーフが何をしたかも気にせず、唇を奪うフェルパー。
「んっ…ふぁ…!ちょ、ちょっとフェルパー!私今…!」
「うるさい!どうでもいい!」
「どうでもって…んっ…ふぅ…!」
フェルパーは激しくキスをしつつ、ドワーフの体を抱きしめる。今までよりさらに強く感じる雄の匂いに、ドワーフの体も再び熱くなる。
さっき失敗した分を取り戻そうとするかのように、フェルパーが激しく突き入れる。
それまでとまた違った角度からの刺激に、ドワーフの体がピクンと跳ねた。
「んんっ!あっ!お…お腹の方、あう!擦られるの、いいよぉ!」
「ハァ…ハァ…!こう…か?」
「ふあぁっ!?そ…そう、それぇ!もっと、してぇ!」
浅い角度で擦られ、さらに激しく突き上げられるドワーフ。その嬌声も耳に心地いいが、フェルパーはあえてその口をキスで塞ぐ。
「ふっ…んんん…!ふぅっ!うっ!…んん〜っ!」
嬌声を堪えつつ、必死にそれに応えるドワーフの姿は、何とも愛らしい。
狂おしいほどの愛おしさに、フェルパーはドワーフの体をぎゅっと抱きしめる。
不意に、フェルパーの動きが弱まる。急に物足りなくなったドワーフはおねだりの意味を込めて腰を押し付けてみるが、動きは変わらない。
ふと、ドワーフの内股に何かが当たった。何かがしなやかな動きで、内股をなぞるように上がってくる。
まるで何かを探すような、ゆっくりとしたその動き。
すぐにそれが何か気付き、ドワーフは少しだけ腰を浮かせると尻尾でフェルパーの内股を叩く。
ようやく探し物を見つけたフェルパーの尻尾は、その尻尾にするっと巻きついた。
恥ずかしそうな笑顔。そして、再び始まる獣のような激しい動き。
「あっ!あっ!あんっ!ね…ねえ、フェルパー…!今度は…あっ!今度は、一緒にぃ…!」
甘ったるい声。それに応えるように、フェルパーの動きはさらに激しさを増す。
「うぅっ!あああぁぁ!!フェルパ…フェルパー!!」
「ドワーフ…!もうちょっと…!もうちょっとだからっ…!」
「んうぅ…!ううぅぅっ!」
耐え切れなくなったのか、ドワーフはフェルパーにしがみつくと、その肩にいきなり噛み付いた。だが、その肩の痛みと、そこにかかる荒
い呼吸の刺激すら、今のフェルパーには快感でしかない。
「ドワーフっ!もう……俺も、イク…!」
「フーッ!フーッ!今度は、中でぇ…!」
肩に噛み付き、背中にはがっちり爪を立て、さらには足でもフェルパーを挟みこむドワーフ。
フェルパーはドワーフの一番奥まで突き入れ、それでもなお子宮の中に出そうかとするように、さらに強く押し付ける。
「ドワーフ…!出る…!うああっ!」
「私…もぉっ!あぅぅ…うあああぁぁぁ!!!」
嬌声と共に、同時に達する二人。弓なりに反ったドワーフの体が落ちると、二人はしばらくの間その余韻に浸っていた。
さすがに、立て続けに三回もやると多少の余裕が出来る。フェルパーはようやく、まともな感覚を取り戻してきた。
「……背中、痛て。」
「あ…ごめん…。血、出ちゃった…?」
さっき達した瞬間、ドワーフは思いっきりフェルパーの背中に爪を立ててしまっていた。
見えないまでも、出血しているらしいことはすぐにわかる。
「どっちかって言うと、肩の方が重傷。」
「ご、ごめん…痛い?」
「すっげえ痛い。」
しかし、その顔は笑っている。言うほど気にしているわけではないらしい。
「ごめんね。…ん。」
ドワーフは噛んでしまった肩に優しく触れると、その傷を舐め始めた。フェルパーは慌てて離れる。
「いや、ちょっと待って。そんなんされたら、またやりたくなっちゃうよ。」
「……嫌?」
「いやあ、嫌じゃないけどさ、さすがにちょっと疲れたから、少し休憩、な?」
「…うん、わかった。」
ドワーフの体から離れると、あらかた小さくなったモノを抜き出すフェルパー。
完全に抜き取られると、今まで繋がっていた部分から精液と愛液の入り混じったものが滴り落ちる。
「……フェルパー?」
小さくなっていたモノが、再び大きさを取り戻していく。その目は、完全に獣に戻っている。
「うおおぉぉ!!ドワーフーーー!!!」
「きゃあ!?ちょ、ちょっとあんた今自分で休憩って!」
「そんなん見て我慢できるか!!」
「そんな勝手な…!きゃうっ!んああ!!フェ、フェルパーってばぁ!!」
翌日、久しぶりに一行は盛大に寝坊し、昼過ぎになってから遅い朝食兼昼食を取りに学食へ来ていた。
既に人影は少なく、隅の方にいる一行の会話は誰にも聞こえない。
「発情期ぃ〜!?」
「ちょ、ちょっとフェアリー、声大きいってば!」
慌ててクラッズが声をかけるも、周りに気づかれた様子はない。
「ええ。あの表情や行動から察するに、まず間違いないと思われます。」
「やっぱり、そうだったんですか…。」
「やっぱりって…セレスティア、あんたも気付いてたわけ?」
「あ、いえ!わたくしは、その…もしかしたらそうかな〜ってくらいで…。」
「でもさあ、それだけであんな風になっちゃうものなの?それに二人ともおかしかったし。」
クラッズが言うと、ノームが相変わらずの無表情で答える。
「恐らく、普通に訪れたものであれば、さしたる問題もなかったでしょう。しかし、彼等のそれは明らかに時期を外していますからね。」
「て、いうと?」
「僕達は氷河や砂漠など、気候のまったく違う地域を旅してきました。
それによって、体内のリズムが狂ってしまい、季節外れの発情期が訪れてしまったのでしょう。」
「心の準備がなかったってことね、つまりは。で、今も来てないってことは…つまり、まだヤッてるってわけね?」
「恐らくはそうでしょう。まして、彼等は前衛を務める立場にあり、体力は有り余っているでしょうからね。」
昨日の夕飯の量を思い出し、一同は妙に納得した。
「だけどさあ、フェルパーとドワーフって種族違うでしょ?発情期は一緒なの?」
「いえ。しかし、犬にしろ猫にしろ、雄は雌の発情を以って発情が促されます。
種族こそ違いますが、恐らくはフェルパーさんもドワーフさんのフェロモンの匂いを感じてしまい、発情期に至ったのでしょう。
そしてフェルパーさんからもフェロモンが出され、ドワーフさんの発情が悪化し、あとは悪循環ですね。」
「なんであんた、そんなに詳しいの…?」
「司祭学科を学ぶ際、各種族の特徴などについて学びましたから。僧侶学科でも習うかと思います。」
「……習い…ます……よ…。」
顔を真っ赤にしたセレスティアが、うつむきながら肯定する。
「う〜ん。でも、だからってあんなに態度おかしくなるぐらい、辛いものなのかなあ?」
「例えば、クラッズさんがフェアリーさんから誘いを受けたとして…」
「ちょっと、勝手に人のこと使わないでよ。」
「あなたはその誘いを断る自信がありますか。」
「…ん〜…色んな意味で無理かなあ。」
「まして、彼等の場合は嗅覚に訴えてくるそうです。その感覚は僕にはわかりませんが、かなり直接的な刺激であるとは聞いています。」
「嗅覚…ねえ。」
それぞれの頭に、行為の最中の様子が思い浮かぶ。
「……わかるような、わからないような。」
「てか、もしかしてあんた、それのために休み欲しいって言ったの?」
「ええ。」
「まさかとは思うけど、疲れたとかって嘘?」
「申し訳ありませんが、その通りです。」
「え、でも体の調子おかしいって言うのは?変な音鳴ってたよね?」
「あれも嘘です。あれはこのようにして。」
ノームは腕をまくると、肘の部分に砂を噛ませた。その状態で腕を動かすと、砂が潰れてギリギリと音を立てる。
「少し細工をした結果です。」
「…はぁ〜、なるほどね。あんた、ちょっと見直しちゃった。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、二人ともご飯食べないで平気かなあ?」
「夕飯にも姿を見せなかったら、その時考えましょう。」
ドワーフの部屋の中は、異様な熱気が漂っていた。
シーツや布団はとっくの昔に皺くちゃになり、ベッドからずり落ちて、脱ぎ捨てられた服と一緒に丸まっている。
枕だけは何かと使われていたため、辛うじてベッドの上に留まっている。
「んっ!んっ!フェルパー、気持ち…いい?」
仰向けに寝たフェルパーに跨り、腰を振るドワーフ。
さすがに攻め続けのフェルパーの体力が持たず、かといって疼きも治まらず、結局攻守交替の妥協案に落ち着いていた。
「ああ…すげえ、いいよ。」
「えへへ、よかった。それじゃ、こんなのとかどうかな?」
ドワーフは腰をグリグリとグラインドさせつつ、尻尾で袋の部分を撫で上げる。
「うあっ!?それ、効く…!」
「あは、フェルパー可愛い。」
「く…この、お返しだ!」
フェルパーはドワーフの腰を押さえつけると、背中から尻尾を回した。そしてドワーフの敏感な突起をくすぐるように撫で始める。
「うああっ!?フェ…フェルパー、あんっ!ダメぇ!!」
ドワーフの体がビクンと跳ね上がる。が、フェルパーがさらに追撃しようとすると、ドワーフはがっちりと尻尾を握ってしまった。
「痛て。おいおい、お前は良くて俺はダメなのか?」
「そ、そうじゃなくてぇ…。」
潤んだ瞳で、ちょっと非難がましく見つめるドワーフ。
「その…また、一緒にイキたいのぉ…。」
「ああ…そういうこと。」
「それされたら、すぐイッちゃうからダメ。」
「わかったよ。でも、俺そろそろイキそうなんだけど…。」
「私もだから、ダメ!」
そう言い、フェルパーの尻尾を握ったままで再び動き出すドワーフ。
「んっ!はぁっ!!あっ!あっ!!」
その動きが徐々に激しくなり、二人の呼吸も荒くなる。どちらからともなく、お互いの手を握り合う二人。
「フェルパー!お願い…!一緒にっ、一緒にぃっ!」
「ドワーフっ…!イク…!出る!」
ドワーフがのけぞり、激しく体を震わせる。フェルパーも同時に達し、ドワーフの中にもはや何度目かもわからない射精をする。
「あああぁぁ…ぁぅ…おなか……あったかぁい…。」
「はぁ…はぁ……ドワーフ…。」
やがて、ドワーフは力尽きたように、ぐったりとフェルパーに体を預ける。その体を、フェルパーは優しく抱きとめる。
「大丈夫か?」
「ん…。平気…。」
「そろそろ、飯でも食う?」
「もう行くの?」
既に、この会話も何度目だかわからない。そして、この後の流れも何度目かわからない。
「でも、その前にもう一回だけ、しない?」
「お前…もう一回が何回あるんだよ?」
「お願いお願い!もう一回だけ、ね?」
「じゃ、今度こそあと一回だけな?」
「やったぁ、フェルパー大好き!」
夕飯の後、4人はノームの部屋に集まっていた。もちろん、例の2人は夕飯にも姿を見せていない。
「それで、結局あのバカ二人は来なかったわけだけど。」
もうすっかり、フェアリーは呆れ顔になっている。とはいえ、それはフェアリーだけではなく、クラッズもセレスティアも同じだった。
「猿じゃあるまいし、腹上死なんてオチはないとは思うけどさ。…いや、でもやりかねないか。」
その言葉に違和感がない辺り、かなり問題がある雰囲気である。
「とりあえず明日までは休みです。が、明後日まで響いては困りますからね。場合によっては、強制的にでも止めなければなりません。」
「強制的に…ねえ。少なくとも、セレスティアには絶対任せらんない仕事だね。」
「ボクもさすがに、ちょっと…。食事中の獣に手え出すと噛まれるって言うし、怖いなあ。」
「でも、何とか穏便に済ませたいですよね…。何かいい考えはないでしょうか。」
ふと、フェアリーが動きを止めて何かを考え出した。
「……穏便に…。食事中の獣…。………うーん。」
「フェアリー、どうしたの?何か思いついた?」
クラッズが尋ねると、フェアリーは顔を上げた。その顔は、何かいたずらを考えたときの悪魔的な笑みが浮かんでいた。
「あのさ〜、あんた達に聞くけど、あいつらにかなり迷惑かけられたよねえ?」
「え?いえ、そんな迷惑だなんて言っては…。」
「も〜、これだから天使ちゃんは。あいつらいないんだから、はっきり言ってよ。
発情期だか何だか知らないけど、全っ然誰にもそんな状況教えないでさ。
一言何か言うだけでも済むことなのにそれもしないで、変にパーティの雰囲気悪くしたり。
それで迷惑じゃなかったなんてこと、ないでしょ?」
言われてみればその通りであり、セレスティアもかばいきれるものではなかった。
「そう…だねえ。はっきり言うと、ちょっと感じ悪くなって嫌なことあったかなー。」
「でしょ?だ・か・ら〜、こっちもちょ〜っと仕返ししてあげようかなってさ。」
「そんな、仕返しなんて…!」
「何よ〜。いい子ちゃんぶる必要ないでしょー?あんだけ勝手に迷惑かけておいて何もなしなんて、世の中そんなに甘くないっての。」
「そうですね、それもいいかもしれません。」
「ちょっと、ノームさんまでっ!」
「フェアリーさんの考えることです。そう極端に悪意に満ちたものではないでしょう。
それにセレスティア、正当な理由があれば、怒っていけないなんてことはありませんよ。」
そう言われてしまっては、セレスティアは反論のしようもない。
「さっすがノーム、話がわかるね。」
「で、何、何?どうするの?」
もうすっかりクラッズは乗り気だ。賛同者が出たことで、フェアリーの目は生き生きとどす黒く輝きだす。
「えっとね〜、基本コンセプトはありがた迷惑ってとこかな〜。まあちょっと聞いてよ…。」
一体何度交わったのか。それこそ一日中交わり続けた二人もさすがに疲れ果て、今はベッドの上で大人しく寝ていた。
腋に感じる、ドワーフのひんやりと冷たい鼻。くすぐるような吐息。ふさふさの体毛に暖かい体温。
その全てに、フェルパーは幸せを感じていた。
ドワーフも同じく、こうして腕を貸してくれて、でも恥ずかしさに顔は背けているけど、
実は尻尾で体を抱き寄せてくれている人がいることにこの上ない幸せを感じていた。
しかし、今二人がそれと同じか、それ以上に強く感じていることがあった。
「……さすがに…腹減った…。」
「…私も…。」
さすがに飲まず食わずでやっていたため、もう体力は限界を突破しつつあった。
指一本動かすのすら、今の二人にはだるくてしょうがない。かといって、このままでは餓死しかねないほどに空腹を感じる。
「もう、学食も終わっちゃってるよねえ…。」
「ま、購買はやってるだろ…。俺、何か買って来るよ。」
「ごめんね、私も行きたいんだけど……その…腰が抜けちゃって…。」
「大丈夫だよ、ゆっくり寝てて。」
名残惜しいものの、フェルパーはドワーフから離れて体を起こすと、皺くちゃになった制服を身に付ける。
最後に財布をポケットに突っ込むと、部屋のドアを開けた。と、ドアが何かにぶつかる。
「…ん?」
見ると、部屋の外に二つの道具袋が置いてあり、それに貼られた紙にはそれぞれ『フェルパーへ』『ドワーフへ』と書いてある。
「あいつら…か?」
それ以外ありえないだろう。とりあえず二つとも回収し、部屋の中に戻る。
「あれ、どうしたの?」
「いや、こんなのが外にあってさ。」
再びベッドに戻ると、フェルパーはドワーフの隣に座り、名前が書かれた方を渡した。
「…何だろう?」
「開けてみるか。」
中を見ると、まず目に入ったのは大きな箱だった。
取り出してみると、ランツレート名物マートさんの特製弁当で、一緒に何やら手紙が同封されている。
封を切ってみると、きれいな字が並んでいる。
『夕飯にも来ないので心配しました。ご飯はしっかり食べないと、体に毒ですよ。 セレスティア』
「…あ〜、セレスティアか。気使わせちゃって、悪かったな〜。」
ドワーフの方も同じような手紙が入っているらしい。手紙を見て、少し気まずそうにポリポリと頬を掻いている。
「他のは何だろ?」
袋の中にはまだ何やら入っている。次に出てきたのは袋詰めになったおにぎりや焼きそばパンで、やはり手紙が同封されている。
開封すると、堅苦しいまでに整った形の字が連なっている。
『発情期とはいえ、何も食べずに続けるのは問題があります。』
フェルパーは思わず顔を上げ、ドワーフの方を見た。ドワーフも、ものすごく困った顔でフェルパーを見ていた。
『手軽に食べられるものを選んでおきました。行為の合間にでもどうぞ。 ノーム』
「は…ははは、バレてたんだな〜…。しかしあの野郎…妙な気の使い方を…。」
袋の中身はあと二つ。大体予想はつくが、見るのが非常に怖い。とはいえ、好意で贈ってくれたものを見ないわけにもいかない。
今度もまた色々なものの袋詰めで、こっちはフレンチトーストや極寒バナナなど甘いものの詰め合わせだった。
そしてやはり同封された手紙を開けると、少し丸みがかった可愛らしい文字が書き連ねてある。
『やりすぎると疲れるよ。どうせまだやると思うけど、甘いの食べておくと体力持つよ〜。 クラッズ』
「………。」
もはや言葉もない。果たして本当に気を使ってくれたのか、それともただの嫌がらせなのか、判断に困るものがある。
そして、最後に残った袋。差出人が確定している分、開けるのが恐ろしい。
しかし気を使ってくれているのだと悪いので、フェルパーは5分ほど悩んでからそれを開けた。
「…あれ?何もないや。」
中は空っぽだった。だがよく見ると、袋の底に小さいメモ用紙みたいな手紙だけが置かれている。
そこには非常にさっぱりした筆跡で、ただ一言だけ書いてあった。
『← デザート』
ドワーフとフェルパーは同時に読み終わり、同時に顔を見合わせた。
二人とも、もはやその顔に表情はない。しかし、目だけは狩りの前の猛獣の目になっていた。
「……とりあえず、腹ごしらえだな…。」
「食べたらフェアリーからやるぞ…。」
話がまとまり、二人は差し入れ品を猛然と食べ始める。結構な量だったにもかかわらず、5分とかけずにその全てが二人の腹に納まる。
慌しい食事を終え、フェルパーは愛用の二刀を腰につけ、ドワーフは皺くちゃになった服を身に着け始める。
「あれ〜、靴下どこ?」
「シーツの下。そこの…そうそれ。」
「ありがと。…スパッツは?」
「手ぇかかる奴だな〜。それはここ。」
言いながら、フェルパーはグシャグシャの布団の中からスパッツを掴み出し、ドワーフに手渡す。
「悪いね、ありがと。」
お礼を言ってそれを受け取ろうとするが、なぜかフェルパーはがっちり握って離さない。
「…フェルパー?」
二人とも、すっかり忘れていた。それは発情期真っ盛りの間に、ずっと穿いたまま動き回っていたことを。
その為ドワーフの、それこそありとあらゆる匂いが染み付いていたことを。
フェルパーの目は獣の目だ。しかし、それは狩りをする猛獣の目から、雌を前にした雄の目になっていた。
「ちょ、ちょっとフェルパー、さすがにダメだよ?せめてフェアリー殴ってから…。」
「いや、そんなのもうどうでもいい。」
腰につけた二刀を、ガッシャンガッシャン放り投げるフェルパー。
「どうでもよくない!ていうか、むざむざフェアリーの言葉通りにする気!?」
「ああ、一向に悪くないな。むしろ大歓迎だ。」
パタンパタンと振られる尻尾が、フェルパーの限界を何よりも語っている。
「待て、待て!大体せっかく服着たのに、即行で脱がす奴が…!」
「もう着たままでいい!!!ドワーフーーー!!!」
「や、やめろやめろ!!私はまだその気じゃ…!ちょ、パンツずらすなぁ!!やめ…きゃあんっ!!」
「……絶対ぶち切れてくると思ったんだけどなぁ〜…。」
もう驚きも呆れも通り越したのか、無表情な声で呟くフェアリー。
「発情期って、すごいんだねぇ〜…。」
「あはは。でも、危険な目に遭わないで済んだじゃない。」
「おかげで強制的にでも止める、という目的は失敗してしまいましたが。」
ノームは差し入れに入りきらなかった食料品を皿に盛り付け、人数分のお茶をテーブルに置く。
「でも、食べ物の差し入れはしましたし、無理にわたくし達が何かしなくても大丈夫…じゃ、ないですか?」
「はっきり近づきたくないって言えば?」
「そ、そんな!わたくしはただ…!」
「いや、私だって近づきたくないもん。盛ってる獣に近づくなんて…あーやだやだ。」
黄金桃を頬張るフェアリー。それを見てクラッズも、ハニートーストに手をつける。
「もういいよあいつら、ほっとこほっとこ。どうせ二日もヤリまくれば、すっきりしてんでしょ。」
もう4人とも、それでいいと思い始めていた。というより、これ以上2人に関わるのが阿呆らしくなったという方が近い。
「あ、セレスティアこれあげる。」
「あ、どうもありが…」
フェアリーが投げたそれは、どう見てもタレのついた焼き鳥だった。
それを素手で取るのは是非とも遠慮したかったが、避けると部屋が汚れてしまうし、食べ物を無駄にしてしまう。
一瞬の躊躇いの後、セレスティアはそれをしっかりと受け取った。
「ナイスキャッチ。」
「あり……が…とうっ…!」
「セレスティア、正当な理由があれば怒ってもいいんですよ。」
「そうだ。ねえクラッズ、あとでヤろ。」
いきなりのストレートな誘いに、お茶を飲んでいたクラッズはむせ返る。
「ゲホッゲホッ!い、いきなり何!?」
「だってさあ、あいつらだけ楽しんでてあたし達は無駄に頭悩ませてるとか、バカらしいじゃん。
せっかく休みなんだし、あたし達も楽しまなきゃ。」
「だ…だからって、セレスティアもノームもいるのに…!」
「いいでしょ別に。あたし部屋で待ってるから、後で来てね。あ、ノーム、お茶ごちそうさま。」
言うだけ言って、フェアリーはさっさと飛び去ってしまった。
「クラッズさん、大変ですね。」
セレスティアの声は、心の底からの同情に満ちていた。
「あはは〜、もう慣れちゃったよ。…うう、でも絶対また変なことされるんだろうなあ…。」
慣れているのかいないのか、クラッズの表情はころころ変わる。
「でもまあ、フェアリーの言うことももっともだよね。セレスティアとノームも、せっかく休みなんだから楽しまなきゃ損だよ〜。」
「そうですね。」
「それじゃ、ボクはこの辺で。お茶ありがとうねー。」
「どういたしまして。」
部屋に二人になると、セレスティアは小さくため息をついた。そのため息には、まさに万感の思いが込められている。
「セレスティア、あなたはどうしますか。」
「えっ!?ど、どうって…!」
「いえ、別に他意はありません。彼等の言っていた事とは無関係に、どうしますか。」
「あ…ああ、ごめんなさい。つい、その…。あの…お話だけでも、構いませんか?」
「もちろん。あなたと過ごせるのは、僕も楽しいです。」
それからさらに一日が経過した。さすがに二日間交わり続けただけあって、ドワーフもフェルパーも体の疼きはすっかり消えていた。
その代わり、今では凄まじい疲労感と倦怠感に襲われている。
「ドワーフー…動けるー…?」
「無理ー…。」
ベッドに伸びたまま、間延びした口調で話す二人。もう今日は地下道探索を再開する予定のはずだが、これではそれどころではない。
「やっぱり、あの時フェアリー殴りに行くべきだったなー…。」
「もう遅いよ…。どーしよっか…。」
「せめて、みんなが来るまで寝てよう…。ああ、だりぃ…。」
目を瞑るフェルパー。そこに、ドワーフが擦り寄ってくる。
「…おい、まさか…。」
「違うってば…。さすがに私も、もう体力なんてないよ…。」
ドワーフはフェルパーの体を抱きしめ、顔を見上げる。
「フェルパーって、恥ずかしがりで、人見知りで、普段すっごく頼りないのに。」
「お前…地味に来るぞ、その言葉…。」
「でもさ、発情期のときはすごかったよね。私だって、力には結構自信あるのに、簡単に組み伏せられちゃったもんなあ。」
「ああ…あれは、その…。」
「しかも、私がダメって言ってるのに、無理矢理とか…。」
「わ、悪かったよ…。」
「ううん、そうじゃなくってさ。」
ドワーフはニコッと笑い、フェルパーの鼻を指でつんと突付いた。
「ちょっと、惚れ直しちゃったかな〜ってさ。」
「………体力あったら、またぶり返してるところだ。」
「あっはは、だから今言ったんだよ。今なら襲われる心配ないもんね。」
「もっと早く言って欲しかったな、畜生。」
笑いながら言って、ドワーフの体を抱き寄せるフェルパー。
そしてお互いの尻尾を絡めると、今までとは違った、口づけだけの軽いキスを交わす。
「毎回惚れ直されるんなら、発情期も悪くないな。」
「でも毎回こんなんなるんじゃ、やっぱりロクでもないよね。」
「次はもっと体力付けとくよ。」
笑顔を交わし、目を瞑る二人。獣そのもののようなそれまでの交わりとは打って変わって、その姿はただの若い恋人同士でしかない。
外はもう薄明るく、あと数時間もすれば、また戦いと探索の旅が始まる。
例え残り僅かな時間であっても、今はただこの幸せを感じていたかった。
時期外れの体調変化がもたらしたもの。それはほんのちょっとの諍いと、二人の隠された一面。
そして、さらに固く繋がれた、二人の強い強い絆。
獣と人の両面を併せ持つドワーフとフェルパー。その両面で繋がれた二人の絆は、これからもずっと切れることはないだろう。
幸せそうな笑みを浮かべ、腕と尻尾で繋がったまま眠る二人が、離れることがないように。