果てしない闇の中。前に伸ばした腕すら見えない、漆黒の闇。響くのは男と女の息遣い。
女のそれは、悲鳴に近い。あるいは、哀願。
男のそれは、笑いのようだった。下卑た、嘲笑。
涙で滲んだ視界に映るのは、その闇の如く黒い肌。男の顔。
押し止めようと手を伸ばしても、その手は何も掴まない。ただただ、欲望のはけ口として、蹂躙される。
女はその男を知っている。誰よりもよく、知っている。
白に近い金の髪。そこから覗く、黒い角。悪魔の如きその姿。
誰よりも恐ろしく、誰よりも強い。
悲鳴を上げても、その声は出ない。そして男はまた笑う。男とよく似た姿の女を見下ろし、笑う。
知らないはずがない。忘れようもない、その顔。
男は、女の、恋人だった。
悲鳴と共に飛び起きると、少女は慌てて周囲を見回す。
椅子とテーブル。ベッド。あまり上等とはいえない部屋の壁。
小さな窓からは新月が覗く。そのか弱い光が、部屋を完全な闇から辛うじて守っている。
「また、悪夢か?」
隣で眠っていた少女が体を起こす。その体は雪のように白く、新月の光ですらもその全身を浮かび上がらせる。
「すまない、大丈夫だ…。」
そう答え、大きく安堵の息をつく少女。隣の少女とは正反対の、浅黒い肌を持つ少女。
その姿は闇があるべき安住の地であるかのように、その中に溶け込んでいる。
ディアボロスの少女はベッドから立ち上がり、テーブルの水を飲む。乾燥して張り付いた喉が、少しずつ剥がれていく。
「まだ気になるのか。」
セレスティアの問いに、ディアボロスは無言で返す。
「お前の悪い癖だ。話したくないことは無言で押し通そうとする。」
凛とした、気高い声。柔和なイメージのあるセレスティアだが、神女として前線で戦う彼女は、
さながら張り詰められた絹の糸のようだ。
「……すまない。」
「いや、いい。話したくないことを、無理に話す必要はない。ただ、それで楽になるのなら、いつでも聞こう。」
そう言って、再び横になるセレスティア。ディアボロスはまた、大きな安堵の息をついた。
夢の中に見た男。その男の影に、彼女はどれだけ悩まされただろう。
確かに、恋人だった。しかし、ある意味では最もディアボロスらしい彼を、彼女は恐れた。
強い男だった。特待生と呼ばれる存在の中でも、飛びぬけた素質を持っていた。
彼女は、彼の陰にいるだけでよかった。その彼から離れて、初めて彼女は自分の無力さを悟った。
戦いに傷つき、逃亡に疲れ、苦痛より死を望み始めたその時、彼女はセレスティアに出会った。
初め、セレスティアは彼女を無視しようとした。当然だ、セレスティアとディアボロスは、互いに相容れない存在なのだから。
だが、全身傷つき、今まさに死を迎えんとしている少女を、彼女は放っておけなかった。
彼女に救われ、寄る辺のないディアボロスは、そのまま彼女と共に旅をすることになった。
ずっと男の陰で育った彼女は、初めはまったくの無能だった。
だが、厳しい旅を乗り越え、その中で己を鍛え上げる。全ては、恩人であるセレスティアに報いるために。
そうして少しずつ、しかし着実に力をつけ、今ではもう彼女の最も信頼できるパートナーとなっている。
セレスティアにしては、彼女は変わっている。
初めこそディアボロスを不審の目で見ていたものの、どちらかといえば彼女の方が先にディアボロスに慣れてしまった。
また、初めて悪夢を見て飛び起きた時。
セレスティアは錯乱するディアボロスの肩を掴むと、いきなり服をはだけ、驚くディアボロスをその胸元に抱き締めた。
安らぎよりも驚きによって、ともかくもその錯乱は治まった。
あとでなぜあんなことをしたのか聞くと、こともなげに「それが一番落ち着くと思ったからだ」と言ってのけた。
今まで会った人物の中で、最も気高く、優しく、信頼できる存在。それが、彼女にとってのセレスティアだ。
しかし、だからこそ恐れている事態がある。
「敵だ。気を抜くな。」
「わかっている。」
セレスティアの傍らで、鬼切を抜き放つディアボロス。その鬼切は、あの男から逃げるときに奪ってきたものだ。
それを抜く度、あるはずのない彼の残り香を感じる。そして、もしも彼がここに来たら、という思いに襲われる。
彼は以前、こう漏らしたことがあった。
『もしお前がどこかに消えても、俺は絶対に探し出す』
彼なら本当にやりかねない。そうなったら恐らく、セレスティアを無事では済まさない。そして、彼には勝てない。
その恐ろしい考えが、当たってしまわないように。
ディアボロスである彼女が神に祈ることがあるとすれば、恐らくそれだけだろう。
だが、全ての願いを叶えてくれるほど、神も暇ではない。
そして、災いは忘れた頃に突然やってくるものだ。
モンスターの群れを蹴散らし、鬼切を納めた瞬間。首筋に伝わる、激しい衝撃。
「ぐあっ!?」
「何っ!?」
驚くセレスティアの顔。それもすぐにぼやけ、視界が一瞬赤く染まる。そして赤が黒になり、彼女の意識は闇に消えた。
突然の襲撃者。セレスティアは用心深く剣と盾を構える。
「何者だ!?なぜそのような真似をする!?」
「おいおいおいおい。こいつと一緒にいるってのに、そんな質問するかよ?」
アロンダイトを持ち、自分が叩き伏せたディアボロスを見つめる男。その男もまた、ディアボロスだ。
制服は自分達と違うが、その姿は彼女と非常によく似ている。
「ったくよぉ。俺から逃げてどっかでくたばったかと思やぁ、まさか……はっはっは、セレスティアなんぞとつるんでるとはな。」
「お前から逃げて、だと?」
その瞬間、セレスティアの脳裏に、悪夢に飛び起きるディアボロスの姿が浮かんだ。
「なるほど、彼女の悪夢とは、お前か。」
「悪夢ぅ?クッハハハハ!あんないい思いをしておいて悪夢とはな!都合のいい女だぜ!」
「善意であろうが好意であろうが、押し付けられれば不快なものだ。」
「……言うじゃねえか、くそアマ。」
口調とは裏腹に、ディアボロスの目が冷酷な笑みに歪む。
「だが、よく見りゃ上玉だ。……キッヒヒヒヒ!悪くねえかもなあ!」
「やはり、ディアボロスは好かんな。お前を見ていると反吐が出そうだ。」
「ああ、吐いてもらおうかい。まずは血反吐をよお!」
狂気を含んだ声で叫び、さらに剣を抜くディアボロス。さすがに、セレスティアの顔に驚愕の色が浮かぶ。
彼が持つ剣は、アロンダイトにベルセルクの剣。両方とも、生半可な腕で扱える代物ではない。
まして、両手でも扱いづらいそれを、彼は両方の手に一つずつ構えているのだ。
「真・二刀龍……厄介な。」
「行くぜ、神女様よぉ?」
そう言いながらも、なぜか仕掛けないディアボロス。
だが、何か意識を集中している事に気付いた瞬間、セレスティアの体に激しい衝撃が走った。
「ぐぅっ!?」
詠唱した気配はなかった。恐らくは念力。ならば超術士かという考えが頭を掠めるが、あの武器は戦士でなければ扱えない。
「やってくれる…!」
「遅せえよ。」
反撃に出ようとした瞬間、ディアボロスは一瞬で距離を詰めてきた。そして、片手で掴まれた両手剣は、彼女の片手剣よりも速かった。
一瞬の差。攻撃を捨て、剣も盾も防御に使ったおかげで、何とかセレスティアは命を落とさずに済んだ。
しかし直撃を免れたというだけで、両手剣の一撃はその衝撃だけでも彼女に十分なダメージを与える。
「く……不覚…!」
「つまんねえな、てめえ。もういい、死に掛けとやるのは面白くねえ。」
剣を納め、何かを詠唱するディアボロス。途端に、セレスティアの体が言うことを聞かなくなっていく。
「ばかな……パラ…………ライズ……!?」
「キヒヒヒヒ!楽しませてもらうぜ、神女様よお。」
立っていることも出来なくなり、その場に倒れこむセレスティア。
ディアボロスはその体を担ぎ上げ、闇の中へ消えていった。
地下道中央にたどり着くと、セレスティアを乱暴に投げ出すディアボロス。
麻痺している彼女は受身も取れず、まともにその衝撃を受ける。
「うっ!」
「ふん……悪かあねえな。」
品定めするように、じっくりとその体を眺めるディアボロス。そしておもむろに手を伸ばすと、彼女が着ている服を引き裂いた。
「や……めろ…!」
「指図するんじゃ、ねえよっ!」
言うなり、腹を思い切り蹴り上げる。
「ぐっ……ぶ、おえぇ…!」
弛緩した腹に直撃を受け、セレスティアはたまらず嘔吐してしまう。
「はっ!てめえで言ってて実際やってりゃ、世話ねえやな。ヒャッハハハ!」
下卑た笑い声を上げ、さらに服を引き裂く。やがて、その白い裸体を完全に晒すと、ふと真顔になった。
「……どうして、てめえなんだ。」
「ぐぅ……。……?」
まだ呼吸が満足に出来ず、聞き返すこともできないセレスティア。その顔を見て、怒りの表情を浮かべるディアボロス。
「他の奴なら、まだわかる…!だが、どうしてあいつが、てめえみてえなセレスティアなんぞと!おまけに、女だと!?
はんっ!笑っちまう……いや、笑えねえぜ!くそがっ……腹の立つ…!」
だが、不意にその表情が、元の冷酷な笑いに戻る。
「……いや、悪くねえ。てめえがずたずたになりゃ……あいつはどう思うだろうな?キヒヒヒヒ!」
セレスティアに手をかざすディアボロス。殺されるかと覚悟を決めたが、意外にも体の麻痺が抜けていく。
「何の……つもりだ?」
「マグロとヤッても、面白くねえんでなあ。」
その意味を理解した瞬間、セレスティアは再び戦闘の構えを取った。
だが、武器も防具も奪われた彼女に、抵抗する力など残ってはいない。かといって、逃げることも出来ない。
「いいぜえ、そうやって思いっきり抵抗してくれよ。そうじゃねえと、こっちも楽しみがねえからな。」
「くっ…!シャイガン!」
ただ一つ、彼女に残された牙。詠唱と同時に巨大な光が現れ、一直線にディアボロス目掛けて襲い掛かる。
彼はそれを受けた。確かに、直撃だった。
「な……何だと…!?」
「いいぜ、いいぜえ。その絶望の顔よぉ。おまけにセレスティアだなんてな。やりがいがありそうだ!」
彼は怯みすら、しなかった。魔法の直撃を受け、なおも平然としているディアボロス。
冷酷な笑みを浮かべるその姿は、まさに悪魔そのものだった。
「や、やめろ!来るなぁ!」
初めて覚えた、恐怖という感情。怯えながら後ずさるセレスティアの姿は、彼の嗜虐心を心地よくくすぐる。
「安心しろ。すぐには殺さねえ。てめえが、死にたがってもなあ!ヒャッハハハハハ!!」
飛んで逃げようとするセレスティアの翼を、素早く捻り上げるディアボロス。
「うっ……ぐっ!」
「変な真似するんじゃねえよ。このままへし折るぞ?」
言いながら、さらに翼を捻る。羽根が数枚抜け落ち、翼の根元がメリメリと音を立てる。
「う……うああぁぁ!!!」
「っと、まだ飛ばすには早えな。ま、どうせすぐだけどよぉ。」
翼から手を離し、代わりに腕をねじ上げる。左手一本でセレスティアの両腕を封じ、右手を彼女の胸に伸ばす。
「や……やめ…!」
「ああ?」
「う…!」
「そうそう。そうやって大人しくしてろ。」
小ぶりながら、形の良い胸。しばし眺めてから、いきなりそれを鷲掴みにする。
「ぐぅっ!」
「ふーん。あいつよりゃでけえのか。しかし、なまっちろい肌だな。気に入らねえ。」
揉む、というよりは握り潰す、の方が近い。ただ自分の思うままに、その胸の感触を楽しむディアボロス。
セレスティアには、ただ胸を潰される痛みしかない。
だが、それはすぐに終わりを告げる。ホッとしたのも束の間。ディアボロスはセレスティアを強引に押し倒し、足を掴んだ。
「前戯はなしだ。いい反応しろよ?」
「え!?や、やめろぉ!私はまだっ…!」
その言葉は最後まで言えなかった。ディアボロスは何の遠慮もなく、セレスティアの穢れを知らない花唇に突き立てた。
「あっ!!!ぐっ!!!」
「へぇー、処女だったかよ。さすがは天使の神女様。キヒヒヒヒヒ!」
今まで何も受け入れたことのないそこに、何の前戯もなしに男のモノを突き入れられる苦痛。
だが皮肉にも、溢れる血がその痛みを少しだけ和らげる。
「うぐっ!!!!ふっ……ぐうぅー!!!」
抑えようとしても、悲鳴は歯の隙間から漏れていき、ディアボロスの嗜虐心を刺激する。
「叫ぶのもいいが、そうしてるのも悪くねえ。けどよ、もう少し声聞かせろよ!」
さらに激しさを増す動き。
「うあっ!うああぁぁ!!!」
「ハハッ!いい声じゃねえか!もっと鳴けぇ!」
溢れる鮮血が、二人の間に赤い血溜りを作っていく。セレスティアの苦痛に比例して、ディアボロスの快感は高まっていく。
「へっ……こんだけきついと、さすがに限界だな…!」
その意味を理解するまで、一瞬の間が空いた。
そして理解した瞬間、セレスティアは自由にならない体を必死に動かし、何とか逃れようと暴れだす。
「や、やめろ!!出すなぁ!!せめて外でぇ!!」
「ヒャッハハハ!そう言われちゃあ……中で出したくなるよなぁ!」
無情にもそう言い放ち、一際強く腰を打ち付ける。その瞬間、彼女の体内に感じたことのない熱さが広がった。
「い……いやああぁぁ!!!ああ……あ…!ディアボロス……なんかにぃ…。」
つうっと、彼女の頬に涙が伝った。それは、悔しさと、悲しみと、絶望。その結晶に他ならない。
「ふ〜っ。さすがに俺もちっと痛かったが、なかなか良かったぜ?キヒヒヒ!」
ディアボロスが、真っ赤に染まったモノを抜き出す。それと共に、血と混じってピンク色になった精液が滴り落ちた。
セレスティアはどこか呆けたような顔でそれを見ていたが、やがてその目に力が戻る。
「……くぅ…!」
「お?」
痛みを堪え、体を起こすセレスティア。そして一瞬躊躇った後、指を自らの秘所に突っ込んだ。
「うっく…!」
痛みに顔をしかめつつ、中の精液を必死に掻き出すセレスティア。当のディアボロスはつまらなそうにそれを見ていたが、
やがて不快そうに顔を歪めた。
「へえ、そうかよ。俺の子種はそんなに気に食わねえか。だったらよぉ!」
セレスティアの腕を押さえ込み、道具袋から砕けて柄だけになったメイスを取り出す。
「俺が取ってやろうじゃねえかよ!!」
怒りを込めた声で叫ぶと、柄の丸みを帯びた末端を向け、思い切りセレスティアの秘所に突き入れる。
「がっ!?あああっ……ぁ…!!」
丸みを帯びているとはいえ、傷ついた膣内にそんな物を突き入れられれば、その苦しみは尋常ではない。
まして、ディアボロスは何の気遣いもなしに、思い切り突き入れたのだ。
子宮の中まで突き破られそうな痛みに、セレスティアの意識は一瞬遠のく。
「嫌なんだろ?俺の精液がよぉ。」
冷酷な笑みを浮かべ、すっと何かを載せるように手を開くディアボロス。
そして何かを詠唱すると、そこにバチバチと激しい音を立てる雷球が現れた。
それを見た瞬間、セレスティアの顔がサッと青ざめた。
「や……やめろ…!」
「安心しろ、ちゃんと避妊してやるからよ。ま、この先ガキなんか産めなくなるかもしれねえけどな!」
「やめろ!やめっ…!」
雷球を掌に作り出したまま、ディアボロスはメイスの柄を掴んだ。
「っぎゃあああぁぁぁ!!!ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ヒャアッハハハハハ!!いい様だなあ、天使様よぉ!!!」
「あがっがが!!!あああぁぁ!!!!がっ……アァ…!」
激しく痙攣するセレスティアの体。その体が限界になる直前に、ディアボロスは手を離した。
同時に、辺りに血と精液の焼け焦げる嫌な臭いが漂う。
まさに死の直前まで追い込まれ、力なく横たわるセレスティア。だがその体を、ディアボロスは無理矢理引き起こす。
「まだ逝くんじゃねえぞ?ま、死んだって生き返らせてやるけどな。キヒヒヒ!」
「も……もう……やめ…。」
「ふん、半分意識飛んでんじゃねえかよ。にしても、さすがにちぃっと無茶しちまったな。これじゃあもう、こっちは使えねえか。」
だが、その顔はさらなる責め苦を与えられる喜びに、歪んだ笑みを浮かべていた。
「んで、俺のガキは嫌だってんだろ?なら、使う場所は一つだよなあ?」
メイスを引き抜くとセレスティアの腰を持ち上げ、その後ろの穴にあてがうディアボロス。
その感触に、セレスティアの意識は一気に引き戻される。
「ど……どこを…!?」
「こっちなら、中に出そうが関係ねえだろ?」
「よ、よせ!もうやめろ!やめてくれ!」
「指図するなっつった、だろっ!」
「やっ…!ひぎゃああぁぁ!!!」
「へっ、すげえ悲鳴だな、天使様よぉ?さっきまでのお上品な姿はどうしたあ?」
「い……痛い……痛いっ…!こんな……こんなの…!う……うえぇ…!」
今まで、何の穢れもなかったセレスティアの体。
それが今では処女を散らされ、のみならず入れるべきではない場所までを犯されている。
神女たるセレスティアには、とても耐えられることではなかった。気丈な心もついには折れ、目からはただ涙がこぼれ落ちる。
「ハッハハハハ!とうとう泣き出したかよ!お前、いいぜえ!あいつに感謝しねえとなあ!」
ディアボロスが突く度に、ピリッとした痛みが走る。こちらも裂けてしまったことは、確認するまでもない。
「やめろぉ…!どうして、私が…!うぅぅ…!」
「どうして、だと?」
ディアボロスの声が、低く変わった。その声は地獄のそこから響くような、おぞましいものだった。
「俺からあいつを奪っておいて、どうしてだと!?」
「う……奪ってなんか、いない…!あの子は、自分の意思で…!」
「うるせええぇぇ!!!!」
セレスティアの髪を掴み、思い切り引っ張るディアボロス。
「い、痛っ!」
「気に食わねえ!ああ気に食わねえな!今すぐにでも殺してやりてえ!
……ああ、でもそれも惜しいな。こんだけ具合いいしな、ハハハ!」
言いながら、どんどん動きを強めるディアボロス。
「うあぁ……痛い…!痛いっ…!」
「なら、もっと締めろよ…!少しはイクのが、早まるぜ…!くっ!」
思い切り奥に突き入れ、セレスティアの腸内に精を放つ。
さっきとは違って熱さは感じないものの、ディアボロスの動きで再び体内に射精されたのだということは察しがついた。
「うぅぅ……もう、嫌だぁ…。」
「もう音ぇ上げたのかよ?だらしねえ。あいつなら、もうちょっと頑張ったもんだけどなあ。」
ディアボロスは冷酷な笑みを浮かべ、セレスティアに手をかざす。
「だが、悪くねえ。楽しみ甲斐があるぜぇ。」
その手から、優しい光が溢れ出す。その光がセレスティアの体に染み込むように消えると、
今まで感じていた耐え難いほどの疲労や苦痛がきれいに消えていた。
「こ……これは…!?」
「メタヒールぐらい、てめえも使えんだろ?気分はどうだあ?」
最悪だった。彼が回復を施したのは、決して彼女を気遣ったからではない。
全身の痛みは消えていた。もちろん、先程散々に蹂躙された場所も痛みはなく、出血も止まっている。
だが、それが意味するもの。それは彼女にとって、最悪の答えだった。
「や、やめろ!もうあんなのは嫌だ!!いっそ殺せぇ!!」
「ヒャーッハハハハハハ!いいぜいいぜえ!!そうやって、もっともっともっともっともっと泣き叫んでくれよお!!!」
「嫌だあああぁぁぁ!!!」
ズキンと、頭が痛んだ。倒れた拍子に、かなり強打してしまったらしい。
ふらつく頭を押さえ、何とか立ち上がる。
「……っ!?」
セレスティアがいない。慌てて見回しても、その姿はどこにもなかった。
だが、ディアボロスの鋭敏な嗅覚は、一つの匂いを感じた。その微かに残った匂いに、表情が変わった。
「これは……あいつの…!?」
間違いない。あの、かつて彼の腕の中で嗅いだ匂いと同じだ。そして、姿の見えないセレスティア。
事態は最悪。そして絶望的。
しかし、同時に彼女の中で、ある覚悟も固まっていった。震えていた腕が止まり、やがて固く拳を握る。
「終わらない悪夢なら……終わらせてやる!」
匂いを辿り、走り出すディアボロス。ゲートに飛び込み、群がるモンスターを打ち払い、ひたすらに走った。
やがてその匂いが強くなり、血や汗や精液の臭いが混じりだし、そしてとうとう見つけた。
「貴様ぁ!!!」
地下道中央。そこに、二人はいた。
息も絶え絶えになり、虚ろな目を向けるセレスティア。そして冷酷な笑みを浮かべ、こちらを見つめるディアボロスの男。
「案外早かったじゃねえか。まだ四週目だぜ。」
その意味を察し、怒りに目を細める。
「相変わらずだな…!」
「いい顔するようになったじゃねえか。大したもんだ。こいつの……おかげか?」
足元のセレスティアを見つめる男。その顔に、笑いとも怒りとも取れない表情が浮かんだ。
「そうなんだろうなあ、くそが。ほんっと……ほんっとに、あったま来るぜぇ!!」
そう叫ぶと、いきなりアロンダイトを抜き放ち、セレスティアに向かって振り上げた。
「やめろおおぉぉっ!!!」
悲痛な悲鳴が、地下道に吸い込まれていく。彼女の目の前で、セレスティアはその剣によって地面に縫い付けられた。
「ぐぅ…!あっ…!」
「貴様っ…!」
「そう心配するな。急所は外した。んだが、早く助けねえと、出血で死ぬな。キヒヒヒ!
……おおっと、抜こうなんて思うなよ。出血がひどくなるぜ。」
睨み合う二人。
「てめえが選べる道は、そんなに多くねえ。俺のとこに帰ってくるってんなら、そいつもてめえも助けてやる。どうだ?」
「答えなければわからないというほど、浅い付き合いでもなかろう。」
「だろうな。なら、残りは二つだ。このまま、てめえもこいつも殺されるか…。」
喋りながら、ベルセルクの剣を抜く。
「あるいは、俺を殺して、こいつを助けるか。」
「愚問だな。」
鬼切をゆっくりと抜き放つ。
「勝てるつもりか?」
「そればかりは、試してみなければな。」
目を細め、剣を脇に構える男。それによく似た構えを取り、マフラーを口元まで引き上げる。
「しかし、少し見ねえ間に、きれいになった。」
「だからどうしたと言うのだ。」
それだけで十分だった。一瞬、どこか諦めたような笑顔を浮かべると、男は猛然と打ちかかった。
地下道に、激しい撃剣の音が響き渡る。
一打ちごとに火花が散り、両者の顔を白く染める。お互い一歩も引かず、何度も何度も打ち合う。
一合。二合。三合。四合。かつて彼の陰に隠れていただけの少女は、今や彼と互角に渡り合えるまでに成長していた。
が、さすがに片手でも剣を扱える男の方が優勢だった。徐々に押され始め、それでも何とか刀を振り下ろそうとした瞬間。
男の剣が、刀を押さえ込む。そのまま鍔を合わせてグルンと巻き落とし、男の剣が彼女の喉元を狙った。
剣が振り上げられる瞬間、その剣を切り上げるように刀を振り上げる。動きをいなされ、がら空きになる腹部。
だが、その隙を狙った刀を、男は剣の柄で受け止めた。
「なっ!?」
「惜しかったなあ、キヒヒ!」
一転、男が剣を振るう。しかし、これまでに鍛え上げられた彼女の体は素早く反応する。
その場を飛びのき、同時にマフラーを引き下げる。
「燃えろ!」
口から地獄の炎の如きブレスを吐き出す。
「うおっ!?」
追撃に来ていた男は避けきれず、その直撃を食らう。だが、その目にはまだ余裕が浮かんでいる。
「使い方もうまくなったし、強くなったなあ。が、まだまだぬるいぜ!」
男がブレスを吐き返して来る。その炎は、彼女のものより数段大きい。
「くっ!」
あれを食らってはひとたまりもない。素早く身を投げ出した彼女だったが、そこにはさらなる炎が飛んで来ていた。
それはさすがに避けきれず、彼女の体を炎が包む。
「ぐっ!うわああぁぁ!!!」
「忘れたのかぁ?俺は魔法も使えるんだぜぇ?」
地面を転がり、何とか炎を消し止める。しかし顔を上げると、そこに新たな魔法が飛んでくる。
彼女の目の前に集まる光線。それが集まり、これ以上ないほどに輝きだす。
「食らいな!ビッグバム!」
掛け声と共に光が弾け、凄まじい衝撃波が彼女を襲う。辛うじて意識はあったが、もう戦う力などほとんど残ってはいない。
「もう一度聞こう。俺のところに、戻る気はないんだな?」
それには答えず、鬼切を杖にして立ち上がる。その目は、まだ闘志を燃やし続けている。
「ふん、俺からパクッた鬼切か。俺のこと、忘れちゃいねえんだろ?何たって、夢に出るぐらいだもんなあ?」
「……貴様から受けた仕打ち……忘れようはずもない…!」
「そりゃあ光栄だ。けどな、俺だっててめえが忘れられねえんだよ。」
目を細め、薄ら笑いを浮かべる男。
「今まで、そりゃあずいぶんの女とヤッたよ。ヒューマン、エルフ、フェルパー……クラッズにフェアリーもな。
ま、さすがにそいつらは、ヤッた後死んじまったけどな!ハハッ!」
「外道が…!」
「だが、忘れられねえのはてめえだけだ。他の女共なんて、もはや顔も名前も覚えてねえのによ。」
「貴様の心に私が残っているかと思うと……ゾッとする…。記憶共々、切り捨ててやる…!」
「……そうかい、そりゃ残念だ。じゃあ死ね。」
冷たく言い放ち、鬼神切りの構えを取る。ディアボロスの少女はその顔を悲痛に歪め、鬼切を握る手に力を込めた。
―――異国の地獄に住むという、鬼。
「元の男として、せめてもの情けだ。」
―――それを切り払う力があるというのなら。
「せめて、苦しむ間もねえぐらいに」
―――頼む。今だけ力を貸してくれ。
「即行で殺してやるよ。」
―――地獄の魔物が鬼というなら。
「あばよぉ!!」」
―――あの鬼を、打ち倒す力を私に!
鬼神切りを繰り出す瞬間。最後の力を振り絞り、鬼切を構え、思い切り走った。
「うおおおおおおおおああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「はっ…!?」
裂帛の気合。ドン!と、鈍い衝撃。体を貫く、確かな手応え。驚きに目を見開く男の目を、まっすぐに見据える。
「貴様に教わったことだ。」
突き刺した刀を、グッと回す。
「ぐおあっ!?……がはっ!」
素早く手を離し、間合いを取る。が、さすがに致命傷となったらしく、男に反撃の気配はなかった。
「ぐ……キ、ヒヒヒ…!大した……もんだ…。」
「貴様、まさか、わざと…?」
「ふざけたこと抜かすな…。少し……てめえを、甘く……見ちまったのさ…。」
鬼切に貫かれたまま、その場に座り込む男。
「あ〜あ……どうでもいいものは、いくらでも手に入ったのによぉ……一番欲しかったもんだけが、離れてっちまった…。」
「私を物としてしか見られない貴様には、私は永遠になびかん。」
「ケヒヒヒ……がはっ……力ずくでも……モノには、できなかったしな…。」
大量の血を吐き、うつむく男。それ以上構うのをやめにし、セレスティアに駆け寄る。
「大丈夫か!?動けるか!?」
「何……とか…。」
その声はか弱く、その手は冷たい。ともかくも肩を貸そうと腕を取った瞬間、聞くことのないと思った笑い声が再び響いた。
「キヒヒヒ……せっかく勝ったってのに……そんなチンタラしてたんじゃ、死んじまうぜ…。」
止めでも刺してやろうかと思った瞬間、男は懐から帰還札を取り出し、投げてよこした。
「使えよ……俺にはもう……必要ねえ…。」
帰還札を拾い、男を見つめる。既に呼吸は荒く、もう先は長くないだろう。
「……礼は、言わんぞ。」
「構やしねえ…。さっさと……帰んな…。」
「………。」
男に背を向け、少し躊躇う。が、帰還札を持つ手に力を込めると、彼女はもう一度振り返った。
「……さらばだ。」
そう言い残し、セレスティアの体を抱くと帰還札を使う。二人の姿は一瞬にして光に包まれ、消えた。
二人の姿が消えると、男は小さく笑いを浮かべた。
「おっかしいぜ…。一番近くに置いときたかったもんが消えたってのに……惜しくもねえ…。」
再び、大量の吐血をする男。近くでモンスターの唸り声が聞こえる。
だが、怖いとは思わなかった。不思議と心は安らかで、死ぬ恐怖など微塵もない。
「それにしても……あのセレスティアといた時のあいつ……いい顔、してたなあ…。
もっと、早く……気付いてりゃ……な…。ヒャハハ…!」
床に付いた腕が、ずるずると滑り出す。
「考えても……みなかったな…。優しく、して……やるなんて…。」
地面に横たわり、虚ろな目を宙に向ける。その目はもはや、何も見えてはいない。
ただその脳裏には、かつて恋人同士であった頃の、二人の姿が浮かんでいた。
「そうすりゃあ……俺にも、あんな笑顔……もらえたの……かなぁ…。」
男の目が、静かに閉じられた。
モンスターの唸り声は、すぐ側にまで迫っていた。
岬の先端に立つ、ディアボロスの少女。その前には、手作りの墓が立てられている。
二本の両手剣が墓標代わりの、風変わりで質素な墓だった。
「墓参りか。」
「……もう、いいのか?」
振り返りもせずに尋ねる。
「ああ。確かに言ったとおり、急所は外されていた。傷自体は、そうひどいものではなかったしな。」
「そうか。」
あの後、彼女はセレスティアを治療所に預け、彼を探しに行っていた。
だが、たどり着いたときには彼の姿はなく、ただ鬼切とベルセルクの剣だけが転がっていた。
「私にとってそいつは、消えない傷をつけられ、殺されそうにまでなった、憎い相手だ。」
「………。」
「だが、お前にとっては、そうではないのだろう?詳しいことは知らん。しかし、悼む気持ちがあるのなら、止めはしない。」
「……すまない。」
「構わん。だが、私は祈らんぞ。」
「それでいい。あいつに手向けの祈りを捧げる者など、私一人で十分だ。」
手を合わせ、じっと目を瞑るディアボロス。その姿は、ある種滑稽でもあり、痛ましくもあった。
岬に、風が吹き抜ける。風はディアボロスのマフラーと、セレスティアの翼を揺らし、海の彼方へ飛んでいった。
「さあ、そろそろ行くぞ。いつまでも、こんなところで油を売っているつもりはない。」
「ああ。私とて、いつまでも祈りを捧げるつもりはない。」
墓に背を向け、歩き出そうとしてから、ディアボロスはふと振り返った。そして、腰につけた鬼切を外す。
「……元々、お前のものだ。いつまでも、お前の物を使う気はない。遅くなったが、お前に返そう。」
鞘に納めたまま、剣の墓標に寄り添うように立てかける。
「それに……少しは、私の残り香があるだろう?せめてもの……手向けだ。」
一瞬、目に涙が浮かぶ。しかしすぐにそれを振り払い、セレスティアの後を追う。
「武器はどうした?」
「あんなもの、もう使えるか。」
「確か、忍の刀とやらが交易所にあった。買って来てはどうだ?」
「……金を、貸してはもらえないか?」
「仕方ない、ダガーで我慢しろ。」
「むごいな。」
取りとめのない会話を交わし、再び旅に出る二人。その行き先は、二人にしかわからない。
小さくなっていく、二人の背中。その背中を、岬の墓標だけが静かに見送っていた。