彼はただ一人、部屋で頭を抱えていた。
ついさっきまでは、和気藹々と戦利品を仕分けしていた。しかし、今ではセレスティアらしい優しい笑顔も消え、その顔には
ディアボロス以上に暗い影が差している。
どうしても、あの時のみんなの目が脳裏に焼きついて離れない。
司祭学科に所属し、様々なアイテムの専門知識を習った。それを活かし、未知のアイテムを鑑定する役割を任された。
だが、あのアイテムだけはわからなかった。どこをどう見ても、まったくの未知のアイテムだったのだ。
『わからない。』その一言を口にした瞬間の、あの目。蔑むような、あるいはなじるような、その顔。
皆、口にこそ出さないものの、彼を責めているようだった。ただでさえ戦闘ではさしたる活躍も出来ず、魔法の覚えも悪い。
魔法の威力は強烈だが、僧侶と違って自分で魔力の回復はできない。なので長期戦になれば、いずれ役立たずに成り下がる。
その上使える装備も限られているため、戦力としては常に足を引っ張っているも同然だった。
にもかかわらず、彼がここにいる理由。それはすなわち、アイテムの鑑定ができるために他ならない。
その彼が、鑑定できないと言ったのだ。
あの、凍った空気。自分を責める顔。軽蔑しきったような目。その全てが、彼が最も恐れる言葉を突きつけていた。
そしてその場の雰囲気に耐え切れず、彼は部屋に逃げ込んだ。今頃皆は何を言っているのか、想像するだけで恐ろしい。
もう、彼の居場所はあのパーティにないかもしれない。それは彼にとって、ある意味死よりも恐ろしいことだった。
想像ばかりが膨らんでいき、叫びだしたいほどまで恐怖が膨れ上がったとき。
突如、部屋の中にノックの音が飛び込んできた。
「だ……誰、ですか?」
想像は止められたものの、これはこれで別の恐怖が頭をもたげてくる。
たぶん、仲間であるとは思う。しかし、尋ねてくる理由は何なのか。もしも、それがパーティからの追放の通告であったりしたら…。
そう考えるだけで、全身が震えだしそうなほどの恐怖に苛まれる。
「わたくしですわ。入ってもよろしくて?」
その声は、いつも彼の隣にいるエルフのものだった。同じ後衛として仲はそれなりにいいが、こういうときに来るとなると悪い想像しか
浮かばない。
セレスティアが返事に迷っている間に、エルフはさっさと部屋の中に入ってきた。
「まったく。いきなり逃げ出すなんて、男らしくありませんわよ。」
口調こそ、いつものように高飛車な感じのする言い方だが、その声は優しかった。
「すみません…。あの……わざわざ、それを言いに?」
「あら。わたくしがそんな風に見られてたなんて、心外ですわ。」
そう言って口を尖らせるエルフ。ただ本気で怒っているというわけではなく、そうやって見せているだけのようだった。
「ただ、あの逃げる直前のあなたの顔。まるで、狩人に追われる兎のようでしたわ。それが気になったから、来てみたのです。」
喋りながらセレスティアの隣に座ると、エルフはその顔を覗き込んだ。
「ほら、やっぱりそんな顔をして。風一つない湖の水面よりも澄んだ、あの笑顔はどこに置いてきたのですか?」
「相変わらず変わった表現をしますね。ですが、どうかお気を使わずに。わたくしはもう…。」
「お待ちになって。今のあなたは、灯火に飛び込む羽虫のようなものですわ。」
「それは……どういう…?」
「自分で自分を追い詰めている、ということですわ。だって、これぐらいも理解できないくらいですもの。」
エルフはその目に呆れたような笑みを浮かべる。が、今のセレスティアの目にはそれすらも、軽蔑の眼差しに映ってしまう。
「申し訳ありません…。いえ、でも、もういいんです…。鑑定すらできないわたくしが…。」
「朝の小鳥のさえずりは、とても気持ちのいいものですわ。でも、同じ翼ある者であっても、あなたの小言は聞くに堪えませんわ。」
「……そう、ですか…。」
「また、悪い方に取ってらっしゃるのね。わたくしが聞くに堪えないと言ったわけは…。」
エルフはそっと、セレスティアにしなだれかかると、その背中に抱きついた。
「ちょっ…!?」
「それを聞いているわたくしも、辛いということですわ。」
背中に当たる、柔らかい感触。それが何であるのかは、容易に想像がつく。そのおかげで、セレスティアは別な意味で平静を失う。
「あ、あの、エルフさん!そ、そ、その……む、胸が…!」
「あら、構いませんことよ?どうぞ、お気になさらず。」
気になさらないなんて出来るわけがない。が、それを振りほどこうとすれば、それはそれで失礼に当たる。
逃げることも出来ず、かといって安らぐことも出来ず、二人はしばらくそうしていた。
エルフの鼓動が、優しくセレスティアの背中に伝わる。その優しい音色と、エルフの体の暖かさ。知らず知らずのうちに、セレスティアの
緊張が解れていく。
「どう?少しは落ち着きまして?」
「え……ええ。ありがとう。」
「でも、まだ不十分ですわね。」
「え?」
エルフの手が少しずつ下がり、ズボンに触れる。セレスティアは慌ててその手を押さえた。
「い、いけません!こんなこと!」
「そんなことありませんわ。流れる血を止めたところで、傷が治っていなければ意味がありません。そうでしょう?」
「だ、だからそれはどういう意味が…!」
「あなたの心を癒すのに、上辺だけの付き合いでそれが為せまして?あなたのこと、わたくしはもっと知りたいのです。」
エルフの細い指が、そっとズボンを下ろしていく。そしてパンツの上から、セレスティアのモノに触れる。
「うっ!」
「ふふ。もうこんなになってますわ。やはり、あなたも殿方、ですわね。」
するりと、エルフの指がパンツの中に入り込み、セレスティアのそれに直接触れる。
「うああっ!」
「熱くて……硬い、ですわ。わたくしの手で、こんなになってくれるなんて…。」
白く、細い指が絡みつき、ゆっくりと、いとおしむ様に扱き始める。
「ま、待ってくださ…!くうっ!」
初めての感覚に身悶えるセレスティア。エルフの手が動くたび、セレスティアの体に激しい快感が走る。その姿を、エルフはうっとりした
ような顔で見ている。
「ああ……そんなに感じてくれて、嬉しいですわ。でも、あなたにもわたくしのこと、もっと知って欲しいですわ。」
不意に、エルフの手が離れた。いきなり快感が途切れたことに、セレスティアは半分ホッとし、また半分では残念に思っていた。
が、エルフは彼の前に立つと、制服をはだけ、ブラジャーを外した。
「エ……エルフさん…!」
「お願いですわ、目を背けないで。どんなに美しく咲き誇る花も、見るものがいなければ悲しいだけですわ。」
着衣では小ぶりに見えていたが、意外にその胸は大きい。乳首がツンと上向きなのが、エルフらしいといえばエルフらしく見える。
「……花、より…。彫刻、とでも言った方が、近いと思います。」
少し余裕ができたのか、そんなことを言うセレスティア。すると、エルフは意地悪そうに笑った。
「あら。そんな作り物みたいに見えまして?」
「あ、いえ…!そういうわけでは…!」
「それなら、直接確かめてくださればいいですわ。」
言うなり、セレスティアの頭を胸に抱き寄せる。いきなり胸に顔を挟まれたセレスティアの体は、それこそ彫刻のように固まってしまう。
ふわっと、甘い匂いが鼻をくすぐる。何か香水でもつけているのか、あるいはエルフ自身の匂いなのかはわからない。
しかし、その匂いを嗅ぐと、どこか心が落ち着いていく。
「うふふ。どうです?」
「や……柔らかい、です。」
「気に入っていただけて、何よりですわ。では、仕上げに入りますわよ。」
「仕上げ…?うわっ!?」
エルフはセレスティアの体を優しく突き放し、パンツを引き下げた。そしてセレスティアのモノを、その胸の間に挟みこむ。
「ま、待って…うああ!?」
セレスティアの言葉を無視し、その胸で彼のそれを扱き始めるエルフ。
手でされるのとは違い、全体を柔らかく包み込まれるその感触。エルフの胸が、自分のモノを挟み込んでいるという事実。
どれ一つとっても、セレスティアには激しすぎる刺激だった。
それを始めていくらと経たない内に、セレスティアは限界に達してしまう。
「や、やめてください、エルフさん…!も、もう……その…!」
「あら、もう限界でして?いいですわよ、全部受け止めてあげますわ。」
「そ、そんなこと…!うぅっ!エ……エルフさんっ…!」
切羽詰った声。同時に限界に達してしまい、セレスティアはエルフの胸に思い切り射精してしまう。
「きゃっ!?」
さすがに若いだけあり、その勢いはエルフの胸だけに留まらず、顔にまで達してしまう。さすがにそれは驚いたらしく、エルフは
思わずセレスティアから離れてしまう。
「あぁ……すごい匂い。栗の花のよう、と聞いていましたが、本当にその通りなのですね。」
どこかうっとり顔で言うと、エルフは自分の胸にかかった精液を指で掬った。
「それに、とっても熱いですわ…。火傷してしまうかと思ったぐらいですわ。」
「はぁ……はぁ……す、すみません。どうぞ、これを…。」
まだ激しい快感の余韻にボーっとする頭を抱えつつ、セレスティアはハンカチを差し出した。それを受け取ると、エルフはにっこり
微笑んだ。
「優しいんですのね。その優しさ、殿方なら是非にでも持っていてもらいたいものですわ。」
「は……はぁ。」
そもそも、なぜこうなったのかと思い返して、セレスティアは口を開いた。
「ええと、その……結局なぜ、このようなことを…?」
「あら、おわかりにならなかったんですの?ちょっと減点ですわ。」
「す、すみません。ですが、その……あまりに脈絡がなさ過ぎて…。」
体についた精液を拭き取って、エルフはセレスティアに微笑みかけた。
「大切な仲間が落ち込んでいるのに、気にかけない方がいると思いまして?」
「仲間……ですか。」
「そうですわ。落ち込んだ殿方には、こうするのが一番だと聞きましたわ。」
そんなことを吹き込んだのはどこのどいつだと思いつつ、セレスティアは少し呆れたような笑顔を浮かべた。
「では……その、もし他の方が、わたくしと同じように落ち込んでいたら…。」
「もう、野暮なこと言いますのね。女性に恥をかかせては、どんなに素敵な方でも紳士とは言えませんわよ。」
「そ、それはすみません。」
「まあ、いいですわ。この際ですから、はっきり言いましょう。あなただから、ここまでしたんですわ。」
その言葉に、セレスティアは固まってしまう。言葉の意味はわかっても、その本来の意味が体に染み込むまで時間がかかった。
だが、固まったその姿を勘違いしたのか、エルフは頬を膨らませた。
「もう!なら、これなら信じてくれますわよね!?」
言うなり、エルフはセレスティアの頭を抱え込むと、その唇を奪った。固まっていたセレスティアの体が、さらに固まる。
長い口付けの後、エルフは怒ったような、それでいてどこか恥ずかしそうな目でセレスティアを見つめた。
「……例え、パーティの全員があなたを不要としても……花には、水辺が必要ですわ。」
顔を赤らめ、目を伏せるエルフ。そんな彼女に、セレスティアはいつものような笑顔を向けた。
「なら、花を萎れさせるような真似は、できませんね。」
「そ、そうですわ。だから、あまり変なことは考えてはいけませんわ。よろしくって?」
「ええ。ありがとうございます。」
「それじゃ、また鑑定お願いしますわ。まだいくつか、鑑定してないものがありますもの。」
「もちろん。今度は逃げたりしませんよ。」
さっきまでの恐怖などすっかり消え、堂々と歩き出すセレスティア。
だが、もしまた失敗して、恐怖してしまったらどうなるのだろうと、心の隅で考える。
もしも、再びエルフにああして慰めてもらえるのなら、鑑定失敗も悪くないなあ、などと考えてしまうセレスティアだった。