一口に冒険者と言っても、その目的は様々だ。  
強さを求める者、富を求める者、名誉を求める者、好奇心を満たすために地下道へ潜る者。  
それ以外にも色々いる。中には学生生活に憧れて、などという者もいるが、それでも冒険者には違いない。  
その志を共にし、学生達はパーティを組み、地下道へ行く。ある者は力をつけ、一流の冒険者となり、ある者は死んで朽ち果て、  
またある者は僅かな探索で満足し、いつまで経っても二流のままであったりする。  
 
彼の所属するパーティもまた、そんな永遠の二流を地で行くものだった。  
特にこれと言って高望みするわけでもなく、決して無理をすることなく、言い換えれば冒険することのない一行。  
浅場で確実に勝てる相手と戦い、そこそこの戦利品で満足し、探求心などというものとはおよそ無縁だった。  
最初はそれでよかった。決して無理をせず、僅かな戦利品にも喜び、戦いが終われば仲間の無事を喜び合った。  
しかし、ある程度の力をつけた今、彼はだんだん意識の違いというものを感じるようになっていた。  
もっと強い敵と戦いたい。もっと良い物を手に入れたい。新しい地下道に入ってみたい。  
そう思うようになった彼と、パーティの意思とは決して相容れないものだった。  
だがそれも、当然といえば当然の結果。  
確かに、彼は結成当初からこのパーティと共にいる。しかし、その面子は既に大半が入れ替わってた。  
ロスト。それはただの死よりも、遥かに恐ろしい死。  
味方を庇ったバハムーン。脆弱であるがために目を付けられたフェアリー。わが身を犠牲にして敵を道連れにしたフェルパー。  
誰一人、忘れることなど出来ない。そしてパーティの大半は、その恐怖から冒険を嫌うようになっていた。  
だが、彼だけは違った。結成当初のように、まだ見ぬ地下道に思いを馳せ、その先にある世界に憧れていた。  
その思いを、他の仲間に打ち明けたことはない。しかし、その思いはもはや隠しきれないほどに大きくなっていた。  
「敵だ。気を抜くなよ。」  
彼の言葉に、全員が一斉に身構える。だが、これほど熟練した面子であれば、むしろ努力しなければ負けることなどできない相手だ。  
物足りない。その一言が全て。相手の強さも、その戦利品も、そして戦いを越えた先の世界も、何もかもが物足りず、退屈だ。  
その満ち足りない思いは、目の前の不幸なモンスターに向けられた。  
キラーバットを一撃で切り倒し、デブガエルに鬼神切りを繰り出し、プランクトルには剣すら使わず、素手で殴り倒す。  
戦闘が終わり、一息つく一行。その彼を隣で見ていたディアボロスが、スッと彼に近寄る。  
「何か、不満があるのか?」  
「……よくわかるね。」  
彼女は、彼以外では唯一となる結成当時のメンバーだ。嫌われがちな彼女だが、ずっと一緒にいた彼とだけはさすがに仲がいい。  
「付き合いは長いからな。それに、理由もわからないではない。」  
「そりゃどうも。でも、無理な話かな。」  
「私はもう、誰も失いたくない。あんな思いは、もうたくさんだ。」  
その顔はあまり表情を出さないが、目を見れば何を考えているかぐらい、すぐにわかる。  
付き合いの長い彼女の言葉は、彼にも重くのしかかる。それ故に、彼は思いを殺したままで、ただただ物足りない日々を送っていた。  
 
だが、ある日の夜。学食で遅い夕飯を取っていると、ふと一人の生徒が彼に近づいた。  
「少し、いいかな?」  
そう声をかけてきたのは、小さな体のフェアリーだ。少なくともこれまでに面識はない。  
「何の用?」  
「君さ、今日ホルデア登山道にいなかった?」  
「ああ、いたけど。それが何か?」  
「やっぱり。いやね、僕も今日あそこにいたんだけどさ。君、滅茶苦茶強いよね。」  
「それはありがとう。」  
「いや、別にただ褒めにきたんじゃなくって。あのさ、どうしてあんなに強いのに、あんな弱い所でちまちまやってるのかな?」  
その質問に、彼はすぐには答えられない。  
「何かしら理由はあるんだと思うけどね。でも、こう言っちゃなんだけど、もったいないよ。」  
「もったいない……か。」  
「あ、いや、気を悪くしたんなら謝るよ。だけどさ、君ぐらいの強さだったら、ポストハス辺りでも通用するはずだよ。」  
そこで、フェアリーは心を落ち着けるように、大きく息を吸った。  
「それで、ここからが本題なんだけどね。僕達のパーティ、欠員が出ちゃってさ。」  
「ロスト……か?」  
「まあ、そういうこと。でも、冒険者なんだから、それぐらいは覚悟の上だし、そんなに気にしてはいないけど。」  
同じ冒険者でもこうまで違うのかと、彼は内心驚いていた。  
ロストの恐怖から、冒険することをやめた自分達。仲間をロストしてなお、先に進もうとする彼等。  
どちらがいい悪いということはないにしろ、感覚が違いすぎる。だが、どこかでそんな考えをする彼等に惹かれてもいた。  
「それでね、欠員っていうのは前衛なんだ。だけど、なかなか腕のいい前衛っていなくってさ。その点君なら、十分僕達とやっていけると  
思うんだ。ヒューマンだから、苦手って人もいないだろうしさ。」  
「それで、今の仲間を捨てろって、そういうわけかい?」  
「う……そんな、僕が悪者みたいな言い方しないでくれよ。僕はただ、君があれほどの力持ってて埋もれてるのが、  
勿体無いと思ったから…。」  
「いや、確かに意地悪な言い方だった、ごめん。だけど……ちょっと、考えさせてくれないかな?こっちにも、心の準備とかあるしさ。」  
そう言うと、フェアリーはホッとした笑顔を浮かべた。  
「それはもちろん。僕だって、無理矢理連れて行こうとは思わないからさ。僕達、一週間は滞在する予定だから、またそれぐらいしたら  
返事よろしく!いい返事、期待してるよ!」  
弾んだ声で言うと、仲間と思われるグループのいるテーブルに飛び去るフェアリー。その後ろ姿を見送りながら、彼は深い溜息をついた。  
彼の力を認め、仲間に誘ってくれるのは嬉しい。しかし、彼等と共に行くには、今の仲間と別れなければならない。  
例え大部分の面子が変わってはいても、入学当初から共に戦ってきたパーティなのだ。そう簡単に別れられるものではない。  
猶予は一週間。それまでに、答えを出さなければいけない。  
 
最初の三日は、それを言い出すことすら出来なかった。ただ、いつものように勝つのが当然の戦いをし、物足りない収穫を得、寮に戻る  
生活だった。だが、さすがにこのまま言わないということはできない。  
その日の夜、彼はディアボロスの部屋を訪ねた。他に仲のいい仲間はいたが、やはり結成当初からの仲間である彼女へ  
最初に知らせるべきだと思ったからだ。  
「それで、話というのは?」  
そう尋ねる彼女の顔は、既に何かしらの予想は出来ているといった感じだった。  
「ああ。実は、この間他のパーティから勧誘受けてさ…。」  
彼が事の仔細を伝えると、彼女はさして驚いた様子も見せず、ふぅ、と息をついた。  
「それで、お前自身はどうしたいと思っている?」  
「え?俺?」  
「当たり前だ。例えここで私が止めたとして、お前がそっちに行きたいと思っているのであれば、引き止めることは無粋というものだ。  
もしこのまま留まりたいと思っているなら、さっさと断りに行くべきだ。」  
「むう……それはそうなんだけど…。」  
「その前に、一つ聞こうか。」  
ディアボロスは、ヒューマンの目を真っ直ぐに見つめた。その強い視線に、彼は視線を逸らすことも出来なくなる。  
「いいか、本心で答えろ。」  
「あ、ああ。」  
「もう既に、お前の心は決まっているんじゃないか?」  
まるで短刀で胸を抉るような、鋭い一言だった。その目、その言葉、その雰囲気が、口先だけの言葉は許さないと語っている。  
改めて、自分の胸の内に問いかける。考えれば考えるほど、彼女の言葉が強く胸に突き刺さっていく。  
やがて、彼は目を伏せ、重い口を開いた。  
「ああ……その通りだな。」  
一度深呼吸をし、目を開く。そして、彼女の目を正面から見つめ返す。  
「今まで……世話になった。」  
その言葉を受けても、彼女は視線を外さなかった。ただ無言で、彼の目を見つめている。  
彼もまた、視線を逸らさなかった。お互い意地でも外さないというように、そのまましばらくお互いを見詰め合った。  
が、やがてディアボロスがフッと笑い、視線を外した。  
「やはり、な。前々から、いつかはこうなるだろうと思っていた。」  
「ディア…。」  
「ああ、言うな。言えば未練が湧く。未練が湧けば、いかに固い決心も鈍る。」  
まるで全てわかっていたような、驚きも悲しみもないその顔。むしろ、一人の仲間が新しい道を選んだことを祝福するような、  
そんな笑顔すら浮かべていた。  
「明日、その話をみんなに伝えよう。お前がいなくなるとなれば、何かとしなければならないことも多い。それに、喧嘩も予想される。」  
「そうか……そうだな。ごめん、俺のわがままに…。」  
「いいさ。お前はこんなところで燻っているべき人間じゃない。受け入れる器が見つかったのなら、そちらに移るべきだ。」  
引き止めるでもなく、ただ自分の気持ちを汲んでくれるディアボロス。その彼女に、彼は心の中で感謝した。  
 
翌日、彼は他の仲間にも彼の決定を告げた。  
反応は様々だった。怒る者もいれば泣く者もいたし、怒りこそしないものの、なじる様な言葉をかける者もいた。  
が、その度にディアボロスが彼を庇ってくれた。元々嫌われ者の種族であるため、その度に怒りの矛先は彼女に向かった。  
「お前、なんで知ってるんだ?知ってて言わなかったのか?」  
「あなた達は付き合い長いから、言葉がなくとも通じるのでしょうけれど。わたくし達には、声なき声は聞こえませんわ。」  
「これだからディアボロスは…。性格悪いんだよな、元々が。」  
それらの悪態にも、彼女は何も言わずに耐えた。彼が何か言おうとすれば、目でそれを押し止めた。  
それでも彼女を庇おうとすると、他の仲間に聞こえない低い声で言った。  
「喧嘩別れは最悪だ。だが私が悪者である限り、お前が悪者になることはない。」  
「でも…!」  
「黙って任せろ。今だけは、私は自分が嫌われ者であることを嬉しく思っている。」  
恐らく、彼女は彼女なりに覚悟を決めていたのだろう。その覚悟を邪魔することなど、彼には出来なかった。  
結局、いつしか彼ではなく彼女が悪者にされた。彼にはとても納得できなかったが、ディアボロスは笑っていた。  
「これでいい。彼等とて、いつまでもこんな調子ではない。ただ、お前はもう姿を見せるな。今日を限りに、向こうへ行くんだ。」  
「お、おいおい。それは急すぎ…!」  
「言っただろう?未練が残れば決心も鈍る。それはお前だけではない。彼等とて同じだ。このままズルズルと留まれば、別れ際に未練を  
残す者が必ず出るぞ。」  
彼にとっても辛いが、それは確かに当たっていた。  
「それに、急なのはみんな同じだ。お前自身にも責任はある。それを自覚するなら、耐えろ。」  
「そうだな……その通りだ。」  
寂しくないわけがない。ずっと一緒だったのだから。しかし、自分が選んだ道だ。ならば、辛くとも耐えなければならない。  
「君とも、これでお別れか。」  
「言ってくれるな。私も寂しくなる。」  
「おっと、ごめん。……いつか、また会える日も来るかな?」  
「さあな。来るかもしれないし、来ないかもしれない。願わくば、来ることを神に祈るか。」  
冗談めかして言っているものの、その目は寂しそうだった。その目に、彼の決心も鈍りかける。  
「さ、もう部屋に戻れ。もう、お前と私は命を預ける仲間ではない。」  
「そう……だっけな。わかった。それじゃあ、またいつか。」  
笑顔で言うと席を立ち、部屋を出る。彼女の視線を背中に感じながら、彼はそのまま部屋を出た。  
そして部屋のドアが閉まった瞬間、二人は同時に顔を伏せていた。  
 
パーティ加入の意思を伝えると、フェアリーは実に嬉しそうだった。  
ただ、周りの反応を見る限りでは、どうも彼の一存で引っ張り込まれたという気がしないでもない。  
それでも、彼等は揃って新しい加入者であるヒューマンを歓迎してくれた。  
そして親睦会も兼ねて向かったパルタクス地下道。そこで見た彼の力量は、全員が改めて歓迎の意を表すほどだった。  
その彼等も負けず劣らず、全員が相当な実力者だった。ある意味では全員がライバルであり、それが実に心地いい刺激になる。  
加入していくらも経っていないのに、彼は既に居心地のいい場所だと思い始めていた。そしてこれならば、  
元パーティだった彼等のことも、すぐに忘れられそうだとも思っていた。  
加入すればすぐ旅立つのかと思っていたが、彼等にとっては久々のパルタクスらしく、加入の意思を伝えたところで  
出発日は変わらなかった。  
そんなわけで、彼は残りの数日をダラダラと過ごしていた。とはいえ、これから長旅になるだろうし、  
その準備だけは着々と進めていたが。しかし、元の仲間に会うのは気まずいので、外出はできるだけ避けていた。  
 
一日経ち、二日経ち、そして最終日の三日目。  
早めに夕食を取り、準備の最終確認を終え、あとは寝るだけというところまで準備を進めたものの、これからの期待と不安になかなか  
寝付けないでいた。既に時計は日付が変わったことを告げているが、一向に眠くならない。  
こんなに目が冴えてしまったのはどれぐらいぶりだろうと思いつつベッドでゴロゴロしていると、不意に部屋のドアがノックされた。  
「ん?誰だい?」  
尋ねても返事はない。そもそも、こんな時間に用事がある奴なんていたかと訝しみつつ、念のためにとダガーを構えて鍵を外す。  
慎重にドアを開けると、そこに立っていたのは紛れもない、あのディアボロスだった。  
「え…!?どうして今更…!?」  
「すまない、こんな時間に。」  
静かな声。つい三日前まで聞いていたはずの声なのに、なぜか懐かしく感じる。  
ともかくも部屋に入れると、ディアボロスは椅子にも座らず、立ったままでヒューマンを見つめている。  
「一体どうしたんだ?会わない方がいいって…。」  
その質問にすぐには答えず、彼女はすっと視線を外した。  
「そうだな。確かにそう言った。」  
呆れたような声で言うと、再び視線を合わせる。  
「だが、散々偉そうなことを言っておいて恥ずかしいが…。」  
「……が?」  
「すまない。未練を残していたのは、私の方だ。」  
「それで……最後の挨拶に?」  
「そんなところだ。」  
ディアボロスは、ふぅ、と消え入りそうな溜息をついた。  
「覚えているか?初めて私達が会った時、お前も含めてみんなが私を避けていた。」  
「あ……ああ、まあね。」  
「だが、あのバハムーンをロストし、フェアリーも消え、フェルパーも失い、エルフすらいなくなり……その度に、新しい仲間を  
迎えたな。」  
「……懐かしいな。あまり、思い出したくはない出来事だけど。」  
「そして仲間を迎える度。」  
ディアボロスはヒューマンの言葉に構わず続ける。  
「私は、いつも避けられた。しかし、いつもお前が私とそいつの間に入って、その仲を取り持ってくれた。」  
「………。」  
「本当に、言葉にできないぐらい嬉しかった。お前となら、どんなことでも乗り越えられると思っていた。  
だが、今度はそのお前がいなくなってしまう。」  
寂しげに笑うと、ディアボロスはまた視線を逸らした。ヒューマンもまた、顔を合わせられなかった。  
今になってそんなことを言われても、もう戻れない。もし、それを先に言ってくれれば…。  
そこまで考えて、彼は気づいた。  
彼女は、わざと言わなかったのだ。言ってしまえば、その言葉が彼を縛るのが目に見えていたから。  
「ただ、な。その前に、一つだけ頼みがあるのだ。」  
「なん……だい?」  
ディアボロスは目を逸らしたまま、自分の制服に手を掛けた。  
「もし、お前が私のことを少しでも想ってくれるのなら。」  
「っ…!」  
その手が動くたび、ゆっくりと制服が剥ぎ取られてゆく。  
上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、ブラジャーを外し、そして一糸纏わぬ姿を晒してから、ディアボロスは顔を赤らめつつ、視線を合わせた。  
「私を、抱いてくれないか。」  
 
一瞬、彼は迷いを感じた。このまま彼女を抱いてしまえば、恐らく自分も未練を残すのではないかと。  
だが、それは彼女の言葉を打ち払う理由たり得なかった。たった今聞いた、彼女の気持ち。そして覚悟。  
ヒューマンはそっと、彼女の体を抱いた。  
「いいのかい…?俺なんかで…?」  
「お前だから、だ。」  
そこまで聞くと、もはや迷いなどなかった。  
自分とほとんど変わらない背丈の彼女の顔を、正面から見つめる。その顔には、強がりと恥じらいが入り混じった表情が浮かんでいる。  
そっと顔を近づける。ディアボロスは目を閉じて応える。  
柔らかく、暖かい唇。こんなに暖かかったのかと、今更ながらに驚く。  
不慣れな感じで舌を絡める。最初はおずおずと。やがて、少しずつ大胆に。そしていつしか、お互い貪るように激しいキスとなる。  
フッと、ヒューマンは後ろに体重をかけた。  
「あっ…!」  
倒れ際、器用に体勢を入れ替え、ディアボロスをベッドに組み敷く。彼を見上げる瞳は扇情的で、この上なく美しく感じた。  
そっと、ふくよかな胸に手を触れる。  
「んっ!」  
ディアボロスの体が、ピクンと震えた。  
「ごめん、驚かしちゃったかな。」  
「だ、大丈夫だ。」  
優しく、その胸を揉みしだく。声を上げるのが恥ずかしいのか、ディアボロスは顔を真っ赤にしつつ、  
目をぎゅっと瞑ってそれに耐えている。時折漏れる声が、何とも愛らしい。  
ふと、ディアボロスが目を開けた。  
「あ、あの…。」  
「ん?」  
「その……私、も……お前に…。」  
「あ、ああ。」  
胸から手を離すと、ディアボロスはヒューマンの制服に手を掛けた。どことなくぎこちない動作で、ゆっくりとそのボタンを外していく。  
やがて、ヒューマンも生まれたままの姿となり、つい気恥ずかしさから視線を落とす。  
「その、あまり詳しくないのだが…。て、手ですればいいのか?」  
「そ、そう……だね。いきなり口とかはいいから。」  
そっと、ヒューマンのモノに手を伸ばすディアボロス。既に硬くなったそれを握ると、ピクンと跳ねた。  
「あ……熱いな。」  
独り言のように言うと、そっとそれを扱き始める。初めて他人から受けるその感覚に、ヒューマンは思わず呻き声を上げる。  
「だ、大丈夫か?」  
「ああ、いや。気持ちよかっただけだ。」  
「そ、そうなのか。」  
痛がったわけではないと分かり、ディアボロスはまたそれを扱き始める。彼女の手が、自分のそれを握っているというだけでも、  
ヒューマンにとってはかなりの刺激だった。だが、それどころか扱かれているのだ。長く耐えるのは、さすがに無理な話だ。  
 
「ディアボロス…、ちょっと待ってくれるかい…?」  
「ん、どうした?」  
「その、俺もしてもらうだけじゃ何だし、さ。」  
「そ、そうか。で、その……どうすればいい?」  
「俺の上に、乗るような感じで。そう……いや、違う。逆、逆。お尻、こっちに向けて。」  
ベッドの上に寝転がり、いわゆるシックスナインの体勢に持ち込む。さすがに、ディアボロスは恥ずかしそうに身をよじった。  
「こんな格好……恥ずかしい、ぞ…!」  
「俺もだから、それでお相子だろ。」  
言いながら、ディアボロスの秘所に指を這わす。  
「んんっ!」  
腰がピクッと跳ねる。その反応を楽しみつつ、ヒューマンはそこをそっと広げた。  
浅黒い肌。しかし、その中はきれいなピンク色に染まっている。初めて見たそこに少しドギマギしつつ、そこに舌を這わせる。  
「んああ!あっ!あっ!」  
初めての感触に、激しく反応するディアボロス。だが、やがてその目に反抗的な光が浮かぶ。  
「く…!私だって……んっ!」  
「うあ!?」  
負けじと、ヒューマンのそれを口に含むディアボロス。いきなりの反撃に、思わずヒューマンの動きが止まる。  
だが、すぐに気を取り直し、再び舌での攻撃を再開する。  
ヒューマンのそれを口に含み、舌を絡めるように舐め、また吸い上げるディアボロス。ディアボロスの秘唇を舌でなぞり、時には小さな  
突起を突付くように舐めるヒューマン。  
部屋の中に、お互いの秘所を舐めあう淫靡な音が響く。  
しかし、お互いにそろそろ限界だった。  
「お、おい。その……もう、そろそろ…。」  
「ああ、俺も、もうこれ以上は無理だ。」  
ベッドの上に座り、ディアボロスを正面から抱きかかえる。ディアボロスは不安そうな目をしているものの、  
もうそれなりの覚悟はできているらしい。  
「いいか、いくよ。」  
「ああ…。」  
少しずつ、ディアボロスの中に侵入していく。ディアボロスはぎゅっと目を瞑り、その痛みに耐える。  
ふと、何か引っかかりを感じた。それが邪魔して、それ以上奥には入れない。  
「え……お前、もしかして…!?」  
「いいんだ…!頼む、そのまま…!」  
さすがに躊躇いはあった。しかし、もうこの先彼女と会うことは、恐らくない。そして彼女も、それを望んでいた。  
ディアボロスの体を、強く抱き締める。そして、その体をグッと沈めると同時に、腰を強く突き出した。  
「ぐうぅっ!」  
何かを引き裂くような感触。ディアボロスはぎゅっと閉じた目尻から涙を溢れさせる。  
「くっ……大丈夫かい?」  
「……ああ……大丈夫、だ…!」  
「でも、血が…。」  
「気にするな…!これぐらい……何でも、ない…!」  
かなり辛そうな声。さすがに動く気にはなれず、少し抱く力を弱めた。そして、頭に浮かんでいた考えを口にする。  
「……なあ。お前も、俺と一緒に行かないか?そうすれば…。」  
「誘いを受けたのは、お前だけだ…。それに、言った……だろう?私は……もう、仲間を失いたく……ない。  
その私が……仲間を失っても、歩き続ける者達と……行けると、思うか…?」  
弱々しくも、固い意志を感じさせるその声。それは、続く言葉を押し止めるのに十分な迫力があった。  
「例えひと時でも……お前と、同じ道を歩けたのだ…。それだけで……もう、十分だ…。」  
「……そうか。」  
それ以上、かける言葉はなかった。  
 
「動いても……いいかい?」  
「ああ…。もう、大丈夫だ…。」  
負担にならないよう、ゆっくりと腰を動かす。初めて感じる彼女の中は熱く、下手をするとすぐにでも達してしまいそうになる。  
だが、これが終われば、もう会うことはなくなる。ヒューマンの中に、思い切り動きたい気持ちと、このままでいたい気持ちが交錯する。  
「はっ…くぅ…!もう、少し……強く、動いて、いいぞ…!」  
「はぁ……はぁ……あ、ああ。」  
少しずつ、ディアボロスの痛みも消えていく。そして、ヒューマンもだんだんと欲望に逆らえなくなり、その動きは激しくなっていく。  
それでも、やはり躊躇いはある。ヒューマンは欲望のままになるのを、今一歩のところで抑えていた。  
その時、不意にディアボロスが強く抱きついてきた。今まで顔を合わせるようにしていたのが、頬と頬をくっつけるようになる。  
「あっ!うっ!い……いいか…!?今から言うことは……んっ!……一時の、気の迷いから出た……独り言だ…!  
決して……心に、留めるな…!」  
「……?」  
一体何を言い出すのかと、ヒューマンは少し動きを弱めた。  
ディアボロスはヒューマンの体を痛いほどに抱き締めた。  
「……く…!ひっく…!離れたく……なかった…!ずっと、一緒にいたかったよぉ…!」  
肩に、パタパタと熱いものが当たり、背中を伝って流れていく。  
ヒューマンは唇を血が出るほどに噛み締め、その目をぎゅっと瞑った。  
「うああああぁぁぁぁ!!!」  
迷いを振り払うように叫び、ディアボロスを押し倒すと、欲望のままに思い切り腰を打ち付ける。  
「うああ!!そ……そうだ、もっと強く!私を、壊してくれ!全部、忘れて……忘れさせてくれえ!!!」  
お互いの顔をすれ違わせ、自棄になったように叫ぶ二人。何も聞きたくなかった。何も考えたくなかった。  
心と裏腹に快感は高まり、やがてヒューマンは限界に達する。  
「もう、出る!」  
「こ……このまま、中に…!」  
「でも…!」  
「いいんだ!私の中に、思い切り出してくれ!お前のものを、中にぃ!」  
「ほんと、もうダメだ…!うぅ!!」  
最後に思い切りディアボロスの中に突き入れ、その体内に熱い精を放つ。  
一時の高揚。そして、射精が終わったあとの虚脱感。疲労感。  
二人は荒い息をつきながら、しばらくベッドに突っ伏していた。特に、動きの激しかったヒューマンの疲労は凄まじい。  
飛びかける意識を辛うじて掴み、彼女にどう声をかけようかと考えていたが、その言葉は思いつかない。  
しばらくそうしていると、ふと、彼女が身を起こした。そして、ヒューマンの頭にそっと手を触れる。  
寝ていると思ったのだろう。ディアボロスはベッドから降り、静かに制服を着始めた。  
声をかけようかと思ったが、やめた。もう、寝たふりをしているしかなかった。  
やがて元のように制服を身に着けると、彼女は足音を忍ばせてドアに向かった。そして部屋の中ほどで振り返ると、静かな声で言った。  
「……さようなら。」  
静かにドアを開け、そこからするりと抜け出す。  
後ろ手にドアを閉めると、ディアボロスは天井を仰いだ。やがて、その目を固く閉じ、顔を落とす。  
ズルズルと、ドアに寄りかかった背中が落ちる音がする。ヒューマンの目から、堪えきれずに涙がこぼれた。  
「ああ……さようなら…。」  
部屋の中で一人呟く。  
ドアを背に、うずくまるディアボロス。ベッドの中、枕に顔を押し付けるヒューマン。  
二人はただ、声も上げずに泣いた。  
 
 
翌朝。彼は新しい仲間と共にパルタクスを発った。  
地下道入り口まで来ると、彼は学生寮を振り返った。  
「やっぱり、名残惜しいものがあるかい?」  
フェアリーが、そっと彼に近寄る。  
「まあね。長い間、一緒にやってきた仲間だから。でも、いいさ。別れは済ませたから。」  
「何なら、もうちょっといてもいいけど?」  
「いや、いいよ。長くいれば未練が残る。そうすれば、もっと離れがたくなる。」  
そう言って自嘲気味の笑顔を浮かべる。そんな彼の顔を見て、フェアリーは優しい笑顔を浮かべた。  
「強いね、君は。」  
「そんなことないよ。さ、行こうか。新参者の癖に、遅れてるわけにはいかないや。」  
「はは、そう気負わなくていいよ。新参者だって、もう仲間なんだから。」  
再び歩き出そうとして、ヒューマンは思い出したように足を止める。そして、もう一度学生寮を振り返った。  
「……俺より、いい男見つけろよ。」  
静かに、優しい声で呟く。そして今度こそ、彼は振り返らなかった。  
 
恐らく、もう帰ることはない。だが、後悔はなかった。やっと、自分の進むべき道を歩き始めたのだから。  
そのために失ったものは大きい。かつての仲間達。一から一緒に育ったパーティ。そして、彼女。  
それでも、もう歩くのをやめることは出来ない。もう、失うことを恐れることはないと決めたから。  
いつか、彼女が彼を忘れるときが来るかもしれない。彼が彼女を忘れるときが来るかもしれない。でも、それはそれでいい。  
それまでは、同じ思い出を持つ二人の心が切れる事はない。  
そしてその思い出をロストしたときは、恐らくその思い出より、大切なものを手に入れたときだから。  
彼はきっと、彼女を忘れることはない。しかし、彼女にはその日が来ることを、彼は心の中で祈っていた。  
 
 

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