ここは学生寮の個室。二人がテーブルを挟んで座っている。
一人は少し暗い雰囲気を持つ魔族の男。
一人は笑顔が似合う人間の女の子。
そしてテーブルにはホットケーキやハニートーストが美味しそうな香りを出している。
「さ、一緒に食べよ!」
「…ああ。頂きます」
「いっただきまーす」
二人同時にホットケーキを一口食べる。
「ん〜、どうかな?おいしい?」
「…悪くないな」
「えへへ、よかった」
微妙な評価に聞こえるが、コレは彼なりのほめ言葉である。
「うんうん、頑張って手作りしたかいがあったよ」
嬉しそうに微笑むヒュム子につられて、ディア男も口の端を少し上げる。
「…ご馳走様」
「お粗末様でした」
テーブルには皿とナイフ、フォークだけが残る。
「さ、片付けますか」
ヒュム子が皿を重ね洗い場に向かう。
「…手伝おう」
「あ、いいよ。これくらい」
「せめてもの礼だ」
「だーめ。お客様はゆっくりしてて」
顔だけをこちらに向けて留めようとしたのがいけなかったのか。
「きゃあ!」
ガシャン!
ヒュム子はそのまま洗い場にぶつかってしまった。
「おい!大丈夫か!」
食器が派手な音を立てたが、それを無視してヒュム子に駆け寄る。
「う、うん。大丈…あ」
[大丈夫]のジェスチャーをしようとした左手の小指が少し切れていた。
「えへへ、失敗しちゃった」
ぺろっ、と舌を出して照れ笑いをするヒュム子。対するディア男の顔は険しい。
「…血が出てる」
そう言って左手をそっと掴む。
「だ、大丈夫!舐めれば直るから」
ディア男の手を振り払い、顔を赤くして小指をチロリと舐める。
しかし、まだ血は滲み出ている。
「…貸せ」
もう一度ヒュム子の左手を掴み、小指を口に含む。
「キャ、ディア男君!?」
さらに顔を赤くし、払おうとするがディア男の視線に動きを止める。
「は、恥ずかしいよ…」
ディア男の舌が傷口を優しく舐める。
(…や。何だか、ゾクゾクする)
ただ指を、傷口を舐められてるだけなのに。
「あ、あの…もう大丈夫…だから」
「ん、ああ」
ディア男が小指から口を離す。
すっかり血は止まり、代わりにディア男の唾液が小指を怪しく照らす。
「…あむっ」
「!」
突然ヒュム子がその小指を口にくわえた。コレにはさすがのディア男も驚いた。
「ん…ちゅ…んふ」
一心不乱に小指をくわえ、舐める。
「お、おい…」
ヒュム子の肩を掴み止めさせようとするが、指を離さない。
「ちゅ…はぁ…ディア男君の、せいだよ」
指を離し、トロンとした表情で話しかけてくる。
「ディア男君…」
その場でディア男を押し倒し、唇を重ねた。
「!!」
ディア男の理性が警鐘を鳴らす。
「…ディア男君。…しよ?」
が、あっさり警鐘は壊れた。
上から覆い被さるヒュム子の少し乱れた制服の胸元から大きな二つの果実が覗く。
「…いいんだな?」
「…うん、好きにして」
下からヒュム子の胸を両手で掴む。
「ふあ…あ、ふっ」
ディア男の手の動きにあわせて、ふにふにと形を変える。その柔らかさはうまく表現できない。ただ、気持ちよかった。
「や、あん…ふうっ、ん」
ヒュム子も想い人に触られてる、ということが感度を高める。
「…ディア男君」
と、ヒュム子が膝立ちになり、スカートを両手で摘む。
「コッチも…触って?」
そう言ってスカートを掴み上げる。水色と白のシマシマが眩しい。
「ああ…」
ヒュム子の下半身に手が伸びる。
もう、二人を止めるものはない。
筈だった。
「ファイア」
ズドーーーン!
突然の轟音とともに扉が吹き飛んだ。
「うわぁっ!」
「きゃあっ!」
予想外のことに驚く二人。
もうもうと舞う煙の中から現れたのはノム子だった。
「何やら大きな音がしましたが、大丈夫で…す……」
ノム子の時が止まった。
何せ目に入った光景は男女が抱き合っていたのだから。
ボンッ。
そんな音が聞こえたと錯覚するほどに、ノム子の顔が真っ赤になる。
「あ…し、しししつれれいしししました」
180度回れ右をして立ち去るノム子。同じ方の手と足が前に出ている。
暫く目が点な二人だったが、我に返るとバッと離れる。
二人ともお互いをまともに見れない。
「………」
「…ディア男君」
「!な、何だ?」
ディア男の手にそっとヒュム子の手が重なる。
「ま、またおやつ作りに来るね」
「…ああ」
「それと…」
ちゅ。と、ディア男の頬にキスをする。
「今度は、…私も食べてねっ」
タタタッ…
そう言って恥ずかしそうに去っていった。
一人残されたディア男は考える。
破壊された扉の修理代と、仲間達への言い訳、そして。
ヒュム子との甘い約束を。