はじまりは、他愛もない会話だった。冗談混じりに交わした密約は、いつしかひとつの取り決めをもった習慣と化していた。
そもそもが不純な動機であったために、それは悪事を共有するが如く彼らに深い根を下ろす。故に彼らは、今宵も剣と踊るのだ。
銀色の月が空を走り、今日が昨日に過ぎ去る時分。セレスティアは音を立てないように寮を抜け出し、地下道への入り口がある森まで歩く。その腰には、剣と盾を携えていた。
本来の道から少し外れ、奥へ進んだ場所。用無く立ち入る者のないはずのそこには、彼を待つ人影がひとつ。
それは、彼と同じパーティーで錬金術士をつとめるエルフの娘だった。二人は軽く言葉を交わし、おもむろに武器を構える。
セレスティアが間合いをつめて剣を横に払うと、エルフが後ろに跳んでそれをかわす。追撃するように突きを繰り出したセレスティア、身を捻りそれを流しながら大きく踏み込んで矢を振るうエルフ。
大振りな矢の斬撃をセレスティアは盾で難なく弾き、更に踏み込んで押し返す。予期していなかった動きに、エルフが大きくバランスを崩した。尻餅をついたエルフにセレスティアが斬りかかる。
エルフが手を高くかざし、目映い光を放った。刹那、周囲は昼間のように明るくなり、光の直撃を受けたセレスティアは目を押さえてうめく。
暗闇に慣れた目を突き刺す痛みに仰け反ったセレスティアの喉を狙い、素早く距離をとり立ち上がったエルフが矢を射る。
見えないはずのそれに気付いたのか、セレスティアは背中の翼で大きく羽ばたき風を起こした。正面からの強風に軌道がぶれ、矢はセレスティアの肩口をかすって過ぎていく。
「……危ないなぁ。死んだらどうするのさ」
「ちゃんと蘇生してあげますから、ご心配なく」
本気とも冗談ともつかぬ軽口を叩き合い、視線を交わす。エルフの放った矢が風を切り、セレスティアを狙う。
剣を振るいそれを叩き落としたセレスティアは、不意に大きく横に飛んだ。すると、今まで彼のいた場所に、地面に転がっていた大きな石が凄まじい速さを以て飛来した。
重い音を立てて転がった凶悪なそれを見て、セレスティアが顔を青くする。
「え、ちょっと待ってよ。僕、何か君に恨まれるようなことしたっけ?」
「いえ、今日こそは貴方に勝ちたいので。それに、手加減なんかしたら、勝負にならないじゃないですか」
氷のように冷たい笑顔が月に照らされる。セレスティアは背中に冷たい汗が流れるのを感じて、剣を握る手に力を入れた。
「じゃあ、僕も手加減しないからね」
「挑むところです!」
セレスティアは剣、エルフは弓矢と魔法。近付ければセレスティアの勝ちで、近付けなければエルフの勝ちだ。
エルフは連続で矢を放ち、それを追い掛けるようにいくつもの炎を打ち出した。
セレスティアはエルフに向かって駆けながら、それらを剣や盾で弾く。セレスティアが最後の炎を剣で振り払うと、エルフは一際強く魔力を込めた雷を放った。
今までと同じようにそれを盾で受けたセレスティアが、苦悶の声を上げて盾を取り落とす。地に落ちた盾は魔力の電気を帯びて、ぱりぱりと音を立てていた。
盾を握っていた腕が思うように動かず、セレスティアが小さく舌打ちをする。
「……これ、パラライズ?」
「ええ。サンダガンだと思いました?」
「うん、騙された」
「それは何よりです」
欲を言えばこのまま終わってくれれば良かったんですけどね。言って、エルフは困ったように笑う。
幸いにも、すぐに手を離したおかげで麻痺はひどくないようだ。動かない片腕をだらりとさせたまま、セレスティアがエルフに斬りかかる。
間合いを詰められ守りに転じたエルフは、流れるような斬撃を紙一重で避けるのが精一杯だ。だがセレスティアもまた、動かざる片腕が枷となり思うようにエルフをとらえられない。
セレスティアが剣を大きくなぎ払った拍子に、エルフの体が深く沈んだ。がら空きになった腹に矢を振るわんとしたエルフを、セレスティアが強く蹴り上げる。
「うえっ……げほ、げほっ!」
「あああああ! ごめん! ごめんね、大丈夫?」
のたうつように地面を転がり、エルフはそのまま激しく咳き込んだ。無意識に力を込めて蹴りつけてしまったセレスティアが、血の気の引いた顔で謝り倒す。
エルフは荒い息をしながら立ち上がり、悔しそうに顔を歪ませた。体を支えるように木にもたれ掛かり、そして諦めたように笑う。
「……また、私の負けです。今日は惜しかったのに」
「そうだね、ちょっと危なかった」
「次は絶対に私が勝ちますからね」
「うん。出来るものなら、ね」
セレスティアはエルフの腕をとり、木に軽く押さえ付けた。
エルフの柔らかい唇を奪い、舌を絡ませる。口の中を荒々しく蹂躙し、舌を吸い上げ、或いは唇を啄む。激しい口付けに、エルフの吐息に熱がこもる。
セレスティアは空いている手でエルフの着ている制服に手をかけようとし、片腕が動かないことを思い出した。
顔を離しリパラライを唱えると、エルフもまたメタヒーラスで互いの傷を癒す。セレスティアはエルフの頭を優しく撫でて、今度は両手で彼女の服を脱がせる作業に取りかかった。
真剣勝負をして、勝った方が負けた方を好きなように出来る。
あれは確か、ジョルー先生のところからくすねてきた米のジュースで楽しくなっていたときのことだ。言い出したのがどちらだったか、もう覚えていない。
ただ、酔いに任せて体を重ねて以来、二人はこの奇妙な関係を持ち続けている。
入学当初から戦術学科で剣を握っていたセレスティアに、術士学科を転々としていたエルフが敵うはずがない。今まで何度も勝負をしてきたが、エルフが勝ったことは一度もなかった。
そもそも二人の間に恋愛感情があったのかどうかさえ、今ではもうわからない。
制服の前をはだけ、ささやかな乳房を覆う下着を取り払う。普段服の上から見えている膨らみの大半が布でできていることは、セレスティアだけが知っている。
「揉むと大きくなるっていうけど、あれは嘘だね」
「うるさい。明日の朝ごはん、巨大な手羽先の唐揚げにしますよ」
売り言葉に買い言葉で悪態をつくエルフも、胸の先の小さな突起を摘まんでやれば甘い吐息をこぼす。すくい集め、形を確かめるように揉むと、眉を寄せた。どうやら、小さい方が感度が良い、という話は信憑性がありそうだ。
汗にべたつく首筋を舐め上げ、エルフの長く尖った耳をかじる。彼女は耳への刺激に特に弱い。
「……ぁ、…うぅん…」
震える耳の先をかじり、柔らかい耳朶を吸う。わざと大袈裟に音を立てて舐めれば、切なそうに喘ぐ。少し強く乳首をつねると、びくりと大きく体が跳ねた。
エルフは無意識にセレスティアに足を絡ませ、誘うように腰を揺らしている。セレスティアもまた、込み上げてくる情欲の熱が抑えられなかった。
再び唇を重ねて、今度は優しく舌を絡める。そうして手は短いスカートに潜り込み、下着を引き下ろした。すでに濡れそぼっているそこに、揃えた指を二本差し込む。
さすがに痛かったのか、エルフが顔を歪めた。熱に潤んだ瞳で睨み、甘ったるい声でとがめる。
「んぅっ! …もうっ……乱暴にしたら…嫌ですよぉ…」
「ん、ごめん」
口先だけで謝ってはいるが、差し入れた指は容赦無く蠢きエルフを攻め立てる。親指の腹で陰核をこねると、甲高い声が響いた。
エルフは甘えるようにセレスティアの首に腕を回し、セレスティアの短く尖った耳をねぶる。吐息まじりのその感触がくすぐったくて、セレスティアは頭の羽を震わせた。
エルフの胎内から指を抜き、片足を持ち上げて下着を抜き取る。自身もズボンの前を開け、赤黒く脈打つ陰茎を引きずり出す。
赤く綻んだ花弁に先走りの滴る陰茎の先を押し付けると、エルフの体が大きく震えた。
「行くよ…」
エルフが小さく頷くのを確認すると、彼女の腰を引き寄せ、抱え込むように体を支える。下から突き上げるように挿入すると、エルフが背を反らせた。
「あ……ぁあ! …深い……あぁ、んっ!」
上に揺らすように腰を動かすと、エルフの喘ぐ声も跳ねる。捲れ上がった黒いスカートがひらひらと揺れている。
エルフは首筋を這うセレスティアの舌から逃れるように頭を振っているが、溢れる甘い喘ぎは隠せない。硬く腫れ上がった陰核を爪を立てて摘まむと、上擦った悲鳴をあげる。
「どうしたの、気持ち良い?」
「…ち……ちが……ぁ、…やめ…っ!」
爪先でくすぐるように弄んでいたセレスティアの腕を制するように掴んだ。嫌がるような素振りだが、セレスティアをくわえ込んだ陰唇からは淫靡な雫が止めどなく溢れている。
強すぎる刺激にエルフの足から力が抜け、膝ががくがくと震えはじめる。立っているのもつらそうに、きつく抱き付くようにセレスティアにすがる。
セレスティアはエルフの腰と背中を抱き、彼女を持ち上げた。突然体が浮いたエルフは小さく悲鳴をあげて、セレスティアに強くしがみつく。
「…やだぁっ……ぇ、なんですかっ」
彼女が突然手を離して後ろに倒れることがないよう、エルフの背中を木にもたれ掛ける。そこでようやく自分の取らされた格好が理解できたようで、エルフは顔を上げてセレスティアにキスをした。
セレスティアは支えた手でエルフの体を揺らし、自身もそれに合わせるように腰を突き出す。何となく不安定に見える体勢だが、セレスティアがエルフをしっかり支えているので彼女の体が大きく傾ぐことはない。
動きが激しくなるにつれ、セレスティアの息は荒く、エルフの喘ぎは高くなる。
「はぁ、はっ…っは、は…っ!」
「っあ、あっあぁ…ぅあっ、あ、あああっ!」
エルフが顔をしかめ、体をびくりと震わせた。胎内は脈打つように蠢き、緩急を以てセレスティアを締め上げる。
軽く達したエルフは全身の力が抜けてひきつったような浅い呼吸を繰り返しているが、セレスティアは腰の動きを緩めない。
「あ、あっ…まって…やだ、また……んああ!」
二度、三度、がくがくと体を痙攣させて、エルフが再び気を遣った。だがセレスティアはエルフの様子など意に介さず、ただ獣のような呻きをあげてエルフをむさぼり続ける。
セレスティアが力強くエルフを突き上げる度に、エルフはセレスティアを締め上げる。跳ねる体が落下する勢いに、セレスティアはエルフの最奥を無遠慮に叩く。
単調に見える上下運動のさなか、セレスティアは内壁を抉るように擦り上げ、エルフが最も弱い箇所を執拗に攻めていた。同時にエルフの首筋や耳に歯を立てて、白い肌に残る赤の痕に自らの興奮を煽る。
「…っい……ぁ…はっ……ぁ…あぁ…!」
終わりの見えない快楽の波に溺れ、耳を震わせ涙を流して喘ぐエルフ。自慢の長い髪を振り乱して、もはやまともに声も出せない。不規則に肌を走る鋭い痛みさえ、今の彼女には激しい快感となる。
低い唸りのように荒々しく喘いでいたセレスティアが、不意に体を震わせた。一際強く陰茎を突き入れ、大量の精をエルフの子宮に注ぐ。
「…くぁっ…、は……うあっ!」
「……ひっ、あぁぁ…!」
胎内で弾けた夥しい量の熱に、エルフがかすれた声でか細く喘いで達する。セレスティアの射精はしばらく続き、エルフの胎内はそれを吸い上げるように艶かしく脈動していた。
すべてが終わると、セレスティアはぐったりと呆けているエルフを降ろし、崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
しばらく激しい情事の余韻に耽っていると、徐々に空の端が白んできた。もう少しすると気の早い冒険者たちがやってくるのだろう。
二人はふらふらと立ち上がると、何でもなかったように乱れた着衣をなおし、放り出していた武器を拾う。互いの姿を点検して、肩を並べて学生寮の方へ歩き出した。
爽やかな早朝の空気が気だるい体に鬱陶しい。二人は決して、互いの顔を見ようとはしなかった。
いつもなら無言のはずの帰り道、エルフはおもむろに口を開く。
「あの……ひとつ、訊いても良いですか?」
「なに?」
「私たち、どんな関係なんでしょうね」
「……さあ? 爛れた関係?」
「馬鹿。……恋人、には、なれませんか。いまから」
セレスティアは彼女の言葉を噛み締めるようにひとつ瞬きをしたあと、声をあげて笑った。隣を歩くエルフの肩を抱き寄せる。
「心外だなあ。僕はもとより、そのつもりだったのに」
「……ばーか」