「さあ、次にいこう!」  
そう言って相手の腕にバハ子が抱きつく。「ハハ…」  
相手のヒュム男が押され気味に笑う。  
 
今日はこの二人のデートの日。ランツレート学府より幾らか離れた繁華街に来ている。  
「す…少し休憩しないか?」  
「何を言う、まだまだこれからだぞ」  
不満そうにバハ子が答える。  
「うん、まだこれからだから、さ」  
ヒュム男がすまなそうに答える。  
「…仕方がないな、ならそこで休もうか」  
二人は公園に向かい、ベンチに腰掛ける。「飲み物、買ってくるよ」  
「うん、ありがとう」  
ヒュム男は店へ入っていった。  
「ヤレヤレ、侍のくせに情けない奴だな」  
口ではこう言ってるがバハ子の表情は優しかった。  
 
一方その頃…ランツレート学府寮。  
「デートぉ!?」  
「ええ、そう聴きましたわ」  
「バハ子ずるーい!」  
「いつの間に…」  
それぞれ種族の違う女生徒たちの叫びが轟く。  
彼女達はヒュム男、バハ子と同じパーティーであり、ヒュム男を愛してやまない者達でもある。  
「デートかぁ…どんなことしてるんだろ」  
クラ子が椅子にもたれて呟く。  
「きっと周りが羨むようなことをしているのでしょうね…」  
セレ子が頬に手を当て溜め息をつく。  
「いいなーいいなー」  
羽と足をパタパタさせるフェア子。  
「……」  
耳をペタンと倒して落ち込むフェル子。  
しかし次には四人の視線が合い…  
「「「「邪魔しちゃおう!」」」」  
そして四人は寮を飛び出していた。  
 
場所は戻って…。  
公園で一人待つバハ子に、災難が訪れていた。  
「なあ、今ヒマ?」  
「よかったら、俺たちとお茶しねェ?」  
「退屈させないからさぁ」  
三人のバハムーンの男達にナンパされているのだ。  
「要らない、必要ない」  
目を合わせることもせずに軽くあしらうバハ子だが、三人はしつこくつきまとう。  
「いいじゃんか、お茶ぐらいさぁ」  
「そのワンピース可愛いねぇ」  
「(胸でけぇ、後ろから掴みてぇ)」  
三人は遠慮なくバハ子の全身を嘗めるように見る。  
「(コイツら…素人でなければ叩き伏せたものを)」  
そう。ランツレート生の戦士なので倒すのは簡単なのだが、素人相手では力に差がありすぎる。  
 
プライドの高いバハムーンとしては、弱者に手を出すのは避けたい。  
そんな困り果ててるときだった。  
「バハ子!」  
「ヒュム男!」  
ヒュム男が駆けつけて来た。  
ほっとしたのも束の間、三人のバハ男が間に入りヒュム男を取り囲む。  
「あ?なんだよあんた」  
「うーわ、ヒューマンじゃねぇか」  
「マジかよ、気分悪いなぁ」  
元々ヒューマンとバハムーンの相性はよくない。バハムーンにとってはフェアリーと並ぶ下等種族である。  
この状況に危険を察知したヒュム男は武器を取ろうとするが、その手は空を掴む。  
「(しまった、私服だった…)」  
そんなヒュム男の姿を見て、三人が鼻で笑う。  
 
「お?やる気かよ下等種族」  
「無駄無駄、バハムーンに勝てるかよ」  
「ボッコボコにしてやんよ」  
にやつく三人にバハ子が食いつく。  
「…ヒュム男に手を出してみろ、私が許さんぞ」  
凄むバハ子に気圧されつつも、三人は言葉を止めない。  
「え?まさか付き合ってんのお二人さん」  
「まさか、相手はヒューマンだぜ?」  
「そーそー、繁殖しか脳がないヒューマンだぜ?」  
とヒュム男を卑下た目で見る三人。  
ピクッ!  
バハ子の額に青筋が浮かぶ。  
「しかもひ弱で」  
ピクッ!  
「顔も特別良くもないし」  
ピクッ!  
「こんなナヨナヨした奴のどこがいいんだか」  
ピクピクッ!  
「貴様等…」  
バハ子は限界をあっさり振り切った!  
「ロストする覚悟はできたな!」  
 
バハ子はさっきまで座っていたベンチを片手で軽々と振り上げる。  
コレにはさすがにバハムーン三人組も驚いた。  
「ゲ!おい、冗談だろ!」  
「冗談ではないっ!」  
ガツンッ!  
「うひゃあ!」  
振り降ろされたベンチを辛うじて避ける三人。  
「まずい、バハ子を止めないと」  
ヒュム男が後ろに回り込んでバハ子を押さえ込もうと抱きつく。  
「やめるんだバハ子!」  
「いやだ!ヒュム男をここまでバカにした奴はロストが妥当だ!」  
ヒュム男を振り解いて半壊したベンチを両手で振り上げる。  
バハムーン三人組はその場にへたり込んでしまっている。  
「覚悟っ!」  
「やめてくれバハ子!」  
ヒュム男が再度バハ子を抱きつき押さえこむ。  
 
「アクアガーン!」  
どこからか声がしたと思えば、二人の目の前に大量の水が流れる。  
「「「ぎゃあぁぁぁ…!」」」  
そう、目の前にいた三人が流されていったのだ。  
何が起きたか理解できない二人。バハ子の手にあったベンチが前にゴトリと落ちた。「あぶなかったね〜」  
そう言って横の茂みから出てきたフェア子。そう、ヒュム男パーティーの一員である。  
「いけない方達ですわね、全く」  
「ヒュム男をバカにした罰だよーだ」  
「…あれくらい当然だな」  
更に他の三人(セレ子、クラ子、フェル子)もぞろぞろと出てきた。  
「…みんな、いつの間に?」  
問うバハ子に振り向く四人の動きが止まる。  
 
「な、なんて破廉恥なことを!」  
そう叫び頬を染めるセレ子。  
「ちょ、何してるのよヒュム男!」  
「うわ〜やわらかそ〜」  
「…ひ、昼間からなんてことを」  
四人の言葉が理解できないヒュム男。突然バハ子から「キャ」と声が聞こえる。  
「ひ、ヒュム男。その、り、両手…」  
そう言われて未だバハ子を抱き止めている両手を動かす。  
ムニュムニュ。と、柔らかい感触が心地いい。  
「うあっ、ん…」  
「!」  
バハ子のこの反応でさすがに理解したヒュム男がバハ子から手を離す。  
あろうことかバハ子の両胸を掴んでいたのだ。  
「わあ、ゴ、ゴメン!」  
「………」  
必死で謝るも、両腕で胸を隠し真っ赤な顔を逸らすバハ子は答えてくれない。  
 
「ヒュム男〜?」  
クラ子の目が怖い。  
「破廉恥です!」  
人差し指をたてて注意するセレ子。  
「わたしのもさわる?」  
フェア子が薄い胸を突きだしてくる。  
「…ヒュム男は、胸が大きいのが好きなのか?」  
顔を伏せるフェル子。  
「………エッチ」  
真っ赤な顔で呟くバハ子。  
明らかに事故なのだがそれを言っても聞いてくれそうにない。  
更に周りの人達の視線も痛い。  
「誰か…助けてくれ…」  
この四角い状況を丸く収められる人がいるならば、手に入れたばかりの鬼徹を報酬にしてもいいと思うヒュム男だった。  
 
…それから数日、ヒュム男はしばらくニンニク臭かった。  
「どうすればあんなにやつれるんだろうねぇ」  
と、寮母は話したと言う…。  
 

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