翌日、フェルパーは仲間を集め、昨日の彼を紹介することにした。既に簡単な情報は伝えてあり、その反応はそれぞれである。
「お前に一任するとは言ったが……どうして、よりにもよってヒューマンなんかを…。」
バハムーンはずっと不機嫌で、ぶちぶちと文句を言い続けている。
「しかも、殿方だそうね?殿方は入れない方がいいと言ってらしたのに、どういう心境の変化でして?」
エルフは男が入るということに不満があるらしく、こうして皮肉を言ってくる。
「お二人とも、選任は任せるって言ったじゃないですか。それにフェルパーさんが選んだ人ですから、きっといい方ですよ。」
セレスティアはずっと、こうして二人を宥めている。その中で唯一、フェアリーだけはテンションが違う。
「フェルパー!新しいの、ヒューマンだって!?ナイス勧誘!!」
もうずっと、彼女ははしゃぎ続けている。いつもよりさらに細かく飛び回り、鬱陶しいことこの上ない。
「ともかくも、もう決めてしまったから。もちろん、もし実力がなければ、丁重にお帰りいただくつもりだけど。」
フェアリーと気のないハイタッチを交わしつつ、フェルパーは静かに言う。
「ふん。まあ、人見知りのお前が勧誘したんだ。どんな結果であろうと、我慢するべきだろうな。」
「バハムーンさん!」
セレスティアが強い口調で咎め、バハムーンの顔を睨みつける。
「次そんな言い方したら、許しませんよ!」
「……わかったよ。」
さすがに、バハムーンもセレスティアには素直である。まだ何か言いたそうではあったが、そのまま引き下がる。
と、そこに昨日のヒューマンが現れた。
明るい日差しの下で見ると、彼の異様さはさらに際立つ。艶のない白い髪もそうだが、全体的に覇気がない。だが、なぜかどっしりと
落ち着いた、それこそファインマン校長のような大人の余裕が感じられる。咥えているキセルも、妙に合っている。
その姿に、最初は誰も声が出なかった。が、フェアリーが沈黙を破った。
「しっぶい…!」
確かに、その一言がぴったりである。その声にそれぞれ我に返り、フェルパーがヒューマンに歩み寄る。
「よく来てくれたわ。」
「こちらのお嬢さん方が、君の?」
「ええ。」
フェルパーが頷くと、ヒューマンはどこか鷹揚な笑顔を浮かべた。
「これはこれは。どんな殺伐としたところに連れて行かれるかと思ったら、こんな花園に連れてこられるとはね。」
その言葉に、バハムーンは顔をしかめ、エルフはちょっと眉をひそめ、セレスティアはほんのりと顔を赤らめ、フェアリーはうっとりした
表情を崩さない。
「こんなむさ苦しい男は似合わないかもしれんが、お手柔らかに頼むよ。」
「そんなことないよっ!私は大歓迎だよっ!」
フェアリーが真っ先に近づき、ヒューマンと視線を合わせるように滞空する。
「そうかい?そう言われると、俺も嬉しいよ。小さなお嬢さん。」
「ふふ。わたくしも、歓迎しますよ。」
セレスティアも柔らかい笑みを浮かべ、ヒューマンに歩み寄る。
「これまた美しいお嬢さんだ。握手をしたいところだが、触るのが躊躇われるね。」
「まあ。お上手ですね。」
まったくもってお上手ですね。と、バハムーンとエルフは心の中で思った。
「わたくしも、一応は歓迎しますわ。」
エルフが、少し不機嫌そうに話しかける。
「ですけれど、わたくし達の足を引っ張るようなことがあれば、その時はすぐに出て行ってもらいますわ。」
「はは、そちらのきれいなお嬢さんには、少し棘があるようだ。」
「ちゃんと聞いてまして!?」
「聞いてるさ。そんな鳥のさえずりの如き声を、聞きたくない男なんていない。」
「っ…!ふ、ふん!本当に調子のいい方ですわね!」
何だか、話していて調子が狂ってしまう。おまけに言い回しも、普通のヒューマンとは少し違う。
そこで、最大の問題であるバハムーンが口を開いた。
「はっ。口先だけはずいぶん達者な男だ。」
その棘のある言い方に、場の空気が凍りついた。
「だが、どうせ下等なヒューマン。貴様の力など、私は期待していない。」
「バハムーン!あんた…!」
激昂するフェアリーの肩を、ヒューマンは優しく押さえた。
「もちろん、俺だって君に勝てるとは思っていないさ、逞しいお嬢さん。だが、力を見せる前からそうやって決め付けられてしまっては、
少し悲しいな。」
あくまで柔らかい物腰で、ヒューマンは続ける。
「君のお眼鏡に適うかはわからない。だが、それなりには自信もあるつもりだ。どうか君自身の目で、俺の実力を見極めてくれないか?」
バハムーンも、そのような返事が来るとは予想もつかず、やはり調子を狂わされてしまう。
「……ふん!」
ぷいっとそっぽを向くバハムーン。なぜだか、お嬢さん呼ばわりにも怒る気になれなかった。
「と、とにかくそういうわけで、これから一緒に来てもらうことになったから。徐々にでいいから、みんな慣れてね。」
それから少し話をし、一行は早速地下道探索に出かけた。前々から空への門に行きたいと言っていたのだが、ちょうどその頃に始まった
パーティの不仲とクラッズ脱退のおかげで、結局今まで行った事がないのだ。そんなわけで、今回の目的地はそこである。
最初のホルデア登山道では、ヒューマンは悪い面ばかりが目立った。
「みんな〜、ちょっと待ってよ〜。」
フェアリーの声が響き、一行は足を止める。
「またか!ちっ、とんだ足手まといだ!」
バハムーンが苛ついたように言うが、それに対する擁護の声はない。セレスティアやフェルパーとしては庇いたいのだが、この状況では
さすがに無理がある。
「いや、すまんな。何しろ、ここに来るのは久しぶりでな…。」
登山道を歩くだけで参っているヒューマン。どれだけ体力がないんだと、フェアリーを除く一行は心の中で呆れていた。
が、不意にヒューマンの目つきが変わった。
「おっと、お客さんが来たようだぞ。」
素早く戦闘態勢を取る一行。ヒューマンも弓を取り出すが、サッとフェルパーが走った。
敵の群れに飛び込み、刀を一閃するフェルパー。それだけで、もう群れは壊滅していた。
「……はっはっは。強いな、お嬢さん。これじゃ、俺の出る幕はないな。」
実に楽しそうなヒューマン。フェルパーは褒められたのでまんざらでもなさそうだが、エルフとバハムーンは心の底から不快そうな
顔をしていた。
その後もヒューマンの活躍がないまま、途中何度か休憩を挟みつつ登山道を越えた。もっと早く抜けられるかと思っていたが、
ヒューマンのせいで思ったより時間を食っている。どうするか悩んだものの、一行は続いてフレイク地下道に向かった。
登山道ではない分、ヒューマンが遅れるようなことはない。しかし、それまでに見せた姿のせいで、一行の中ではもうほとんど、ただの
お荷物だという認識が出来上がってしまっていた。
戦闘でも相変わらずである。フェルパーが切り払ってしまうため、ほとんど活躍らしい活躍もなく、群れであっても同じ弓使いである
エルフが後衛を撃ち抜いてしまう。たまに順番が回ってきたと思えば、みょーんと気の抜けた矢を放ち、倒せるギリギリのダメージを
与える程度である。真面目に戦っていないのは一目瞭然で、それがさらに不興を買う。
だが、そんなイメージを払拭してしまうような出来事が起こった。
中央までたどり着いた時、一行はサーベルタイガーとムスペルの群れに囲まれた。しかも不意打ちを食らい、一行は一気に浮き足立った。
「ど、どうするの!?これじゃ危ないよ!?」
フェアリーが焦った声を出すが、どうにもできる状態ではない。そもそも、一行は冒険者としてようやく二流の仲間入りを果たした
ところである。こういう状況には、決して慣れていない。
「くっ……なら、私が隙を作るから、その間に…!」
「いや、それなら私の方が適任だろう?お前らは引けばいい。」
「そんなことできません!何とか……何とか、全員が助かる方法が…!」
そんな中、相変わらずのんびりした雰囲気のヒューマン。しばらく敵の群れを眺めていたが、やがて口を開いた。
「お嬢さん方、そう焦りなさんな。まともに戦えば、こいつら相手には負けない。そうだろう?」
その、落ち着き払った口調。心を静めるまでには至らないが、少なくとも意識を向けさせるだけの力はあった。
「状況がまともでないのだから、まともであれば、という仮定は役に立たんと思うがな!」
「まあそうイライラしなさんな。なら、まともな状況に持っていけばいいだけの話。」
キセルに火をつけ、ふぅっと煙を吐き出す。そして、ゆっくりと矢を番えた。
「逞しいお嬢さん、端正なお嬢さん。お二人には、そこの一角を担当してもらう。
そう言い、ヒューマンは包囲の薄い場所を指差した。
「そこが突破出来次第、みんなでそっちに向かい、改めて体勢を整える。」
「でも……それまでに後ろから襲われたら…!」
「そこは、俺と、このきれいなお嬢さんで何とかするさ。」
エルフは一瞬『えーっ!?』とでも言いたげな顔をしたが、否定するわけにもいかず、仕方なしに頷く。
「そこの小さいお嬢さんと、美しいお嬢さん。お二方は、包囲の突破を手伝ってくれ。余裕があれば、俺達の援護もよろしく。」
「は、はい!」
「でも、二人だけになんて任せられないよー!危ないよー!」
フェアリーが泣きそうな声で叫ぶと、ヒューマンは優しく笑った。
「そう心配しなさんな。一人ならできないことも、仲間と一緒なら、何とかなるさ。」
そう言って、ヒューマンはウィンクを送る。その時、敵が動いた。
「さあ、話はここまでだ。お嬢さん方、行くぞ!」
その言葉を合図に、全員が一斉に動いた。
フェルパーが囲みの中に突っ込み、刀を振るう。その背中を、バハムーンが両手剣を振り回して援護し、傷を負えばセレスティアが
回復する。その二人を狙うモンスターがいれば、フェアリーがパラライズを詠唱して二人を守った。
エルフは矢を番え、迫り来るムスペルに矢を放つ。だが、敵は次々に襲いかかり、また一撃程度では怯まない敵が多い。
だんだんと押され始めるエルフ。だが、サーベルタイガーが目の前まで迫ったとき、そのサーベルタイガーは突然悲鳴を上げて倒れた。
慌てて隣を見ると、ヒューマンがフッと笑いかける。何だか不快になり、サッと目を逸らして戦闘を再開する。しかし、妙に余裕が
あるのが気になり、横目でチラッとヒューマンの戦いぶりを見てみた。
エルフは目を疑った。弓を使い続けてきた自分ですら、二発の矢を立て続けに放つのが精一杯なのに、ヒューマンは四本の矢を持っている。
その連射速度が、また異常に速い。1秒も掛からないうちに、その4本を撃ち終えてしまい、しかもその射撃は正確無比である。
その上さらに、ヒューマンは時々後ろを向き、フェルパーとバハムーンの援護までこなしているのだ。本当に同じ生徒かと、エルフは
本気で疑った。
「みんな、囲みは解けた!こっちへ!」
フェルパーの声が聞こえた。すると、ヒューマンはエルフの前に進み出る。
「お嬢さん、先に下がってくれ。」
「な、何を…!?」
「これでも、男なんでね。女性を後回しにしたとあっちゃぁ、男の風上にも置けないだろう?」
「っ…!わ、わかりましたわ。でも、あなたも無理はなさらないで。」
「わかってるさ。女性に心配かけないのも、男としての務めさ。」
エルフが引くと、ヒューマンは追ってくるモンスターに矢を放ちつつ後退した。その時点で、もう敵の残りは3匹程度である。
「さぁて。止めは任せるが……撃ちにくそうだな。」
とにかく下がることだけに専念したため、エルフの射線はバハムーンとフェルパーの背中に遮られている。これでは撃ちようがない。
が、ヒューマンはフッと笑うと、大きくキセルを吸い、フッとスモークリングを作り出した。
「お嬢さん、その輪を通して撃ってくれ。」
「ど、どうしてそんなことを!?」
「いやぁ、なに。協力して、倒してみたくなってね。」
ギリッと、ヒューマンの弓がしなる。
「わかり……ましたわ。」
いざ構えてみると、その輪を通すと射線はフェルパーとバハムーンの間を通るが、敵に当たることはない。それでも、なぜかエルフは
この提案に従ってみようと思った。
「前のお二人さん、弓の音が合図だ。それで終わらせよう。」
「わかったわ!」
「ちっ、いちいちうるさい奴め…!」
エルフが弓を引き絞る。目を細め、そして弦を離した。
矢が唸りを上げ、煙の輪はぐしゃりと形を崩した。それとほぼ同時に、ヒューマンも矢を放った。
ヒューマンの矢が、エルフの矢にぶつかる。軌道を変えられたエルフの矢は、見事にサーベルタイガーを撃ち抜いた。
「こ、こんな事が!?」
「す……すごい…。」
「いやぁ。お嬢さんの腕がいいからさ。さて、あとは……と、さすがに援護もいらないか。」
矢を番えようとしていたヒューマンは、バハムーンとフェルパーが敵を倒したのを見届け、弓を下ろした。そして、実にうまそうに煙を
吐き出す。
「……助かったわ。あなた、相当な実力者なんじゃない。」
そう言い、フェルパーが笑いかける。
「そうだよー!あんな状況だったのにすっごい冷静だったし、かっこよかったよー!」
「いやいや。俺だって焦ったさ。お礼を言うなら、こっちのきれいなお嬢さんに言ってくれ。」
「え!?」
当のエルフは、その言葉に目を丸くしている。
「お嬢さんが隣にいたから、俺も安心して自分の事に集中できたんだ。あんな状況でも、ダガーのように神経を研ぎ澄ませて狙えるのは、
大した実力だよ。」
「い、いえっ!それ……は…!」
実際はそんな事ないというのは、エルフ自身がよく知っていた。確かに命中はしたが、なかなか急所は捉えられず、それどころか
ヒューマンに何度も助けられた。それでも、ヒューマンはこうして自分を持ち上げてくれている。
「ああ。もちろん全員、やるべき事を果たしたから、あの状況も切り抜けられたんだ。前衛のお二人さんも大変だったろうし、後衛の
お二人さんも神経使ったろう。ま、おかげで俺は楽できたがね。」
愉快そうに笑うヒューマン。だが、そこにバハムーンが食って掛かる。
「みんなが必死に戦っている中、貴様はサボっていたと。そういうことだな?」
「バハムーン!」
フェアリーが止めようとしたが、その前にエルフがキッと睨みつけた。
「あなた、あの混乱の中、ちゃんとわたくし達を見られたんですの?」
「エ、エルフ…!?」
「あなた方も、素晴らしい活躍をしたのは認めますわ。だけど…。」
「まあまあ。そう、喧嘩しなさんな。」
ヒューマンが穏やかな笑顔で、二人の間に割って入る。
「実際、楽させてもらったわけだし、あながちそっちのお嬢さんが言うことも、間違いじゃない。」
「そんな事はっ…!」
「いやいや。気を使いなさんな。それより、そろそろ先へ進まないかい?ここで話していると、また俺のせいで遅れた気分になって、
どうにも居心地が悪い。」
それぞれ言いたいことは山のようにあったが、そう言われると中断せざるを得ない。一行は再び、フレイク地下道を歩き出した。
その後はモンスターから不意打ちを食らうような失態もなく、ヒューマンは相変わらず気のない攻撃をするようになっていた。しかし、
今の一行はそれを責める気にはならない。よくよく考えれば、気の抜けた攻撃ではあっても、倒してはいるのだ。そう考えると、なおさら
責める気にはならない。
さらに、同じ弓使いであるエルフは、他の仲間よりも彼の実力をよくわかっていた。ヒューマンの攻撃は確かにやる気がない。だが、
必ず敵の急所を射抜いているのだ。あれだけ気の抜けた攻撃では、急所に当てるのは至難の業である。それを、この男は易々とやって
のけている。エルフは、自分の中に積み上げられた自信が崩れていくのを感じた。同時に、ヒューマンに対する尊敬の念が浮かび上がる。
何より、ヒューマンは喋る相手によって、微妙に喋り方を変えているのだ。セレスティアには紳士的に、フェルパーには仲間として、
フェアリーには友人のように、バハムーンにはやや相手を持ち上げつつ、比較的平易な物言いをする。
そして、自分に対しては。
「きれいなお嬢さん。少し顔色が優れないようだが、どうかしたかい?」
「え!?あ、いえ、別にどうということは…。」
「そうかい?野にある花の色が突然変われば、誰だって不思議に思うものだが。」
「それは、その……同じ花とて、いつまでも同じ色を誇り続けることは、ありませんわ。」
「それもそうか。悪かったな、余計な事を言って。」
あまりうまくはないものの、わざわざエルフのような言い回しをしている。普通なら不快に思うところなのだろうが、このヒューマンに
限っては、わざわざそうした努力をしてくれることを好ましく思った。
最初こそ、彼に対する印象はいいものではなかった。だがそれゆえに、ひとたび惹かれ始めると、余計に強く惹きつけられた。
フレイク地下道を抜けるまでの、僅かな時間。それまでに、エルフの心は決まっていた。
ヤムハス大森林の宿屋に入り、それぞれに部屋を取る一行。この日は激しい戦闘もあったため、皆疲労が激しく、特に何をするでもなく
早々に眠りにつく者が多かった。ヒューマンも当然、早々に横になっていたのだが、かといって眠ってはいなかった。
不意に、部屋のドアがノックされた。ヒューマンは特に驚くでもなく、どことなく疲れた目を向ける。
「誰だい?」
「わたくしですわ。よろしくて?」
鍵を開けてやると、エルフはいつも通りやや尊大な態度で部屋に入る。が、纏う雰囲気はいつもと違う。
「こんな夜中に、どうしたんだい?」
「……あら、それを言わせるつもりですの?」
そう言い、妖艶な笑みを浮かべるエルフ。
「そりゃあね。夜中に突然美しい花が咲けば、驚かない者はいない。」
「夜の帳に身を隠し、咲き誇る花も、あるということですわ。」
流し目で見つめるエルフ。ヒューマンはその目を真っ向から見つめ返す。
「そのわけは、殿方ならわかりますわね?」
「わからないほど野暮ではないつもりだ。……だがね。」
ヒューマンは、ふうっと息をついた。
「残念ながら、俺は君の期待には添えないだろう。」
「あら、なぜですの?」
「……心に残るものは、いつだって最も美しいものさ。時が経てば経つほど、その輝きは増していく。」
エルフは少し意外な思いでヒューマンを見つめた。同時に、エルフとしてのプライドが、さらに彼女の心を煽る。
「そう。けれど、少しひどいですわ。」
「何がだい?」
「見るだけでは、花の本当の価値は、わかりませんわ。」
言いながら、そっと制服を脱ぐエルフ。ヒューマンはその姿を、目を離さず見つめていた。やがて、エルフが一糸纏わぬ姿を晒すと、
フッと呆れたように笑った。
「女性に恥をかかせるわけには、いかないね。やれやれ……強引なものだ。」
「こうでもしなければ、あなたは試そうともしてくれませんわ。」
「君の期待には添えないかもしれない。それでも、いいんだね?」
「望むところですわ。試しもせずに、価値を決めるなと言ったのは、あなたじゃなくって?」
「それもそうだ。なら、その香り……この手に抱くとしようか。」
ヒューマンもそっと、制服を脱いでいく。そしてエルフと同じように裸体を晒すと、エルフは一歩近づいた。
「飾らぬ花も、いいものでしょう?」
「いや、服はなくとも、月の光を纏っている。だが、それもまた美しい。」
「ふふ。本当に、ヒューマンとは思えませんわ。」
エルフの体をそっと抱き締め、長い耳に唇を寄せる。
「だが、言葉も体も同じ。飾れば飾るほど、その姿を隠してしまう。だから、今は飾らぬ言葉で言おう。」
僅かに体を離し、二人は正面から見詰め合った。
「きれいだ。」
「あっ…。」
エルフが答える前に、ヒューマンはエルフをベッドに組み敷いた。月の光が、エルフの体を白く照らす。
ヒューマンがそっと唇を寄せ、エルフは目を閉じて応える。唇を吸い、舌を絡め、吐息が混ざる。
やがて二人の間に白い糸を引き、ヒューマンが離れる。
「最後に、もう一度聞こう。本当に、いいんだね?」
「怖気づいたんですの?わたくしも生娘ではありませんわ。それなりの覚悟はありましてよ。」
「だろうね。これで生娘だったら、君の将来が楽しみでたまらない。」
「ひどい言い草ですわ。」
なじるように口を尖らせるエルフ。しかし、眉は寄っているものの、顔には笑みが浮かんでいる。
もう一度、二人はキスを交わす。ヒューマンの手が胸に伸び、エルフはピクンと体を震わす。声を漏らそうにも、口はヒューマンの唇に
塞がれている。
声を出させないまま、ヒューマンはエルフの胸を揉みしだく。時に優しく、時に強く、全体をこねるように揉むかと思えば、乳首を
摘み上げ、軽い痛みと共に快感を与える。
ヒューマンの手は、常にエルフが求めるところを的確に責めてきた。しかも、単純な快感一辺倒ではなく、時には痛みがあったり、
焦らされたり、まるで女のすべてを知り尽くしているかのような、的確すぎるほどの責めだった。
「ああ……お願い、ですわ。もっと……もっと、強く…!」
「おやおや。これじゃ、お嬢さんには物足りないかい?」
「そんな……意地悪なこと、仰らないで…!」
「ふふ、悪いね。君は普段から素敵な声をしてるが、今の君の声は一層美しい。だからこそ、意地悪をしてでも聞きたくなってしまう。」
体を弄び、心をくすぐり、ヒューマンは確実にエルフを高みへと導いていく。秘唇を撫で、優しく開き、指を入れる。既にエルフの中は
熱く震え、中からはヒューマンを受け入れる蜜が溢れている。
と、その手が止まった。不意に快感が途切れ、エルフはヒューマンに戸惑いの視線を向ける。その顔を、ヒューマンは正面から見据える。
「花が愛でられるのは、その美しさだけではあるまい?君が野に咲くカスミソウというなら、話は別だがね。」
その言葉の意味を、エルフは瞬時に察した。同時に、顔が真っ赤に染まる。
「わ、わかってますわ!ただ、その……ええと……あ、あなたがずっと、続けていたからですわ!」
「そうかい。なら、よろしく頼むよ。」
改めてヒューマンのモノを見てみれば、全然反応していない。それを見た途端、エルフは少しムッとすると同時に、エルフとしての
プライドが頭をもたげてくる。
ヒューマンを座らせ、その前に跪くエルフ。そして全然反応していないモノをそっと撫でると、優しく口に含む。
口に含んだまま先端部分を舌でこね、鈴口を舌先で突付く。その状態で軽く手で扱き、次に全体を口の中に収め、キュッと吸い上げる。
その奉仕に、少しずつヒューマンのモノも硬くなり始め、時折気持ちよさそうな吐息も漏れる。
「くっ、なかなか、うまいね。」
「あなただから、ここまでするんですわ。」
褒められれば悪い気はしない。エルフはさらに丁寧に、じっくりと舐め始める。男のモノを愛おしむように、恍惚とした表情で舌を
這わせるエルフの顔は、この上もなく妖艶な魅力があった。
やがて、ヒューマンがエルフの頭に手を当てる。
「もう、十分だ。それ以上されたら、俺が参ってしまう。」
「ふふ。満足できまして?」
「ああ。十分にね。」
エルフの体を優しく抱き締め、再び押し倒す。エルフの目は期待に満ち、男の心をくすぐるような光を湛えている。
そっと、エルフの秘唇に押し当てる。エルフはピクッと体を震わせ、そして続きをねだるように、ヒューマンの首へ腕を回した。
「あっ!あぁ!」
ゆっくりと、ヒューマンのものがエルフの中に沈んでいく。今までよりもさらに大きな快感に、エルフは激しく身を震わせる。
亀頭を飲み込み、それをさらに深く咥え込み、やがて腰と腰がぶつかる。エルフは上気した顔でヒューマンを見つめ、嬉しそうに笑った。
ヒューマンが動き始める。だが、その動きは単純な抜き差しではなく、奥深くに入れたまま押し付けるように動かしたり、あるいは
入り口付近を何度も亀頭が出入りするという、エルフからすればかなり変則的な動きだった。しかし単調ではない分、快感は大きい。
「あっ、んっ!も、もっと!あっ!強くっ!」
ヒューマンの首に腕を回したまま、ぎゅっと腰を押し付けるエルフ。その行為自体が快感を呼び、エルフの膣内が強く収斂する。
それに合わせ、ヒューマンの動きが徐々に激しくなっていく。体内を激しく突き上げ、それこそ子宮を叩くような動きとなり、
エルフの体は激しく揺すられる。そんな荒々しい動きも、今のエルフには興奮剤でしかない。
「も、もうわたくしっ…!もうっ……もうっ!」
「くっ……俺ももう、出そうだ…!」
切羽詰った声を上げ、なお一層激しく突き上げるヒューマン。その刺激に、エルフも一気に上り詰めた。
「うあっ……ああぁぁ!!!」
「くぅっ……はあっ!」
達する直前、ヒューマンは強く息を吐くと、エルフの中から自身のモノを引き抜いた。快感に体をのけぞらせ、激しく震えるエルフの腹に、
白濁した液体が降りかかっていく。
しばらくの間、二人は快感の余韻に浸っていた。やがて、エルフがふぅっと息を吐き、少し間延びした声で話しかけた。
「……悔しいですわ。」
「………。」
「直前で抜かれるなんて……わたくしでは、あなたの冷静さを奪うまでには、至りませんでしたのね…。」
「それだけ、俺の記憶にあるものが強いってことだ。それに、ヒューマンの身としては、おいそれと中に出すわけにも行かないだろう?」
鷹揚な笑みを浮かべ、ヒューマンはキセルに火をつける。
「俺達は、繁殖力だけは強いからな。相手が誰であろうと、妊娠させちまうのぁ、厄介なもんさ。」
笑いながら言い、フーッと煙を吐き出す。そんなヒューマンの横顔を見つめ、エルフはその背中にそっともたれかかった。
「本当に……悔しいですわ…。あなたとなら、それでもわたくしは、構いませんでしたのに…。」
「俺よりいい男なんざぁ、ゴロゴロしてるさ。今はそんなのがいなくたって、そのうち相手の方が放っておかなくなる。」
正面を見たまま、ヒューマンは笑う。その顔をそっと自分の方に向けさせ、エルフは煙の残る唇に唇を重ねた。
「……この味、覚えておきますわ…。」
その目には、涙が溜まっていた。そんなエルフに、ヒューマンは優しく微笑みかける。
「そうだな……いつか、その味を忘れさせる相手が、出てくるまで……な。」
そう言い、エルフの肩を抱く。その腕に抱かれ、エルフは声もなく泣き続けた。