ようやく、目的地である空への門にたどり着いた一行は、しばらくの間そこに滞在していた。足より下に見える雲や、そのために
年間通して晴れである気候などが珍しく、完全にバカンスの様相を呈している。とはいえ、決して探索も忘れたわけではなく、
宿屋にいた他の生徒からハイント地下道がいいということを聞き、そのうちそこに行ってみようという話になっていた。
だが、ここまでたどり着いたとはいえ、まだまだ実力不足である。その準備として、一行はたまにラーク地下道の浅場に潜り、戦闘の
修練を積んでいた。地下道から戻っても、エルフは暇さえあればヒューマンに弓を習っていたし、フェアリーとセレスティアは普段なら
読まないような、分厚い魔法の本をしっかりと読んでいる。バハムーンは主に剣の素振りなど、一人でできる修練に熱意を燃やしている。
その中で、リーダーであるフェルパーはいつも他の誰かの修練に付き合っていた。エルフと一緒に弓を射たり、フェアリーや
セレスティア達と魔法の勉強をしてみたり、バハムーンと即席で作った木剣で掛かり稽古をしたりと、仲間に力をつけさせるのに
余念がない。それはリーダーとしての責任感ゆえであり、彼女がリーダーになった理由の一つもそこにある。
この時も、フェルパーはヒューマンに弓を習うエルフの隣に立ち、一緒に弓を習っていた。
「ゆっくりと、息を吐いて狙うんだ。そうすれば、腕がぶれることはない。」
「息を止めては、いけませんの?」
「息を止めれば、鼓動が強くなる。鼓動が強くなれば、狙いもぶれる。」
「なかなか、弓というのも難しいものね。でも精神統一の練習には、いい武器。」
フェルパーが手を放す。放たれた矢が風を切って飛んでいき、的の中心からやや逸れたところに突き刺さる。
「なかなかいい腕だ。お嬢さんも、弓を使ったらどうだい?」
「私も、弓は学校で習ったから、ね。でも、あなた達には負けるわ。」
「それはそうですわ。ずっとこれを使い続けているのに、学校で習っただけのあなたに負けては、立つ瀬がありませんわ。」
エルフの矢が、唸りを上げて飛んでいく。一瞬後には、見事に的の中心を射抜いていた。
「さすがだな。では、俺も少し射させてもらうか。」
そう言うと、ヒューマンはゆっくりと矢を番え、スッと目を細めた。
「さて、一本だけ刺せるかどうか。」
「え?」
ヒューマンが手を放した瞬間、弦が空気を震わせ、その矢は野獣の咆哮に似た音を立てて飛んだ。四回の咆哮の後、的の中心には一本の
矢が刺さっていた。ただし、その周囲にはエルフが放った矢と、その後ヒューマンが先に放った三本の矢が真っ二つに貫かれ、落ちている。
「ダメね。彼の射的を見ると、自信なくすわ。」
フェルパーが呆れたように笑う。エルフも、困ったような笑顔を浮かべていた。
「そりゃあ、俺はそのきれいなお嬢さん以上に、弓に親しんでる。お嬢さんの弓は相棒だろうが、俺の弓は肉体の一部さ。」
「そこまでの高みに上り詰めるには、あと数十年は必要そうですわ。」
「いやぁ、そうでもないさ。俺より、お嬢さんがたの方が、弓を射るには適した体をしてる。すぐに、抜かれるわな。」
「私は諦めるわね。その代わり、刀の扱いなら負けないけど。」
「そっちは勘弁してくれ。俺は直接戦闘は苦手なんだ。」
そんな三人の姿を、バハムーンが少し離れたところで見るともなしに見ている。だが声をかけるわけでもなく、誰かと目が合えばすぐに
素振りを再開している。
「それにしても、それなりにみんな力をつけてきたようだ。どうだい、端正なお嬢さん?そろそろ、ハイントとやらに行ってみても
いいんじゃないかい?」
最近では、もはやヒューマンがパーティのリーダーとなりつつある。だが、ヒューマン自身はそれを良しとしないらしく、必ず
フェルパーの意見を聞くことにしていた。だが、フェルパーも既に、ヒューマンをリーダーと認めている。その提案を拒否する訳がない。
「そうね。そろそろ、ここも大体見て回ったし、潮時かもしれないわね。」
「とうとう、行くんですのね?わたくし、楽しみですわ。」
フェルパーの言葉に、エルフが顔を輝かせる。
「明日……じゃ、さすがに急すぎるわね。明後日、でいいかしら?」
「ああ、それがいいだろう。さてさて、ここともついにおさらばか。」
ヒューマンが呟くと、不意に大きな声が響いた。
「私は明日でも構わんぞー!」
見ると、バハムーンが素振りをしつつもこっちを見ている。どうやら、話も聞いていたらしい。
「……ふふ、あの子も楽しみみたいね。」
「でも、明日は急ですわね。準備もあることですしね。」
「はは、そういうわけだ、お嬢さん。腕が鳴るだろうが、もう少し我慢だな。」
「……ふんっ!」
つまらなそうに鼻を鳴らし、バハムーンはまた黙々と素振りに励んだ。
二日後、一行は空への門最後の思い出として、ハイント地下道に来ていた。さすがに敵も強く、仕掛けも手の込んだものが多いが、
一行も十分に強くなっている。強敵とも対等に渡り合い、さらに時折手に入る装備品が、一行の力をさらに引き上げる。
「ん、剣が出たな。よし、鑑定してみよう。」
「バハムーン、あなたが使えるものだといいわね。」
当のバハムーンは、期待と不安の入り混じった顔で、じっと剣を見ている。
「……これは、なかなか。魔剣オルナ、だ。」
「オルナーっ!」
思わず叫んで、バハムーンはハッと口を塞いだ。全員、笑いを堪えるのに必死である。フェアリーに至っては、もう堪えるという選択肢が
ないらしく、文字通り笑い転げている。
「……よかったな、お嬢さん。」
「う、うるさいっ!嬉しくなんかないっ!」
ヒューマンから剣を引ったくるバハムーン。だが言葉の割に、それをじっと眺めてみたり、ぶんぶんと振ったりしてご満悦である。
「よかったわね、バハムーン。」
「ああ……ん、いや……こ、これよりいい物を期待したんだがなっ!ふんっ!」
その後も、いくつかの装備品が手に入った。中央に近づくにつれ、いい装備品が手に入り、もはやヒューマンを除く全員が、来た時とは
全身の装備が変わっている。
「……闇夜の石、だな。」
「んー、精霊の石の方が、強いみたいですね。」
「じゃ、これはもらってもいいか?」
「ええ、いいですよ。でも、弓の方が強いんじゃないですか?」
「まあな。だが、金になりそうだ。」
「貴様、さっきもそう言って裁きの石をくすねていたな?」
バハムーンの言葉に、フェアリーが猛然と言い返す。
「ヒューマンは鑑定してるんだから、少しぐらいあげたっていいでしょーっ!大体、ヒューマンは全然装備もらってないんだからっ!」
言われてみればその通りなので、バハムーンも黙らざるをえなかった。
その後も快進撃を続ける一行。だが、さすがに中央付近まで来ると敵の強さは尋常ではなく、かなりの苦戦を強いられるようになっていた。
そんな中、フェルパーの活躍が目立つ。誰よりも早く動き、敵前列を一気に切り払う彼女は、時にそれによってパーティの危機を未然に
防いでいた。もちろん、他の前衛や後衛二人も素晴らしい活躍を見せてはいるが、この日のフェルパーは特に気合が入っていた。
鉄の剣の戦士の連撃をやすやすとかわし、一瞬の隙を逃さずに距離を詰める。相手の体勢が整う前に、フェルパーは腰を落とした。
直後、相手の顔面にハイキックが叩き込まれた。相手はよろめき、フェルパーはそのまま回転すると、その勢いを利用して一刀の元に
相手を切り捨てる。
「やるな、お嬢さん。」
「でもさー、スカートなのに、そんなに足ガバガバ上げちゃっていいの?」
フェアリーの質問に、フェルパーは笑った。
「だって、どうせ死んじゃう相手じゃない。」
「お前……結構怖いこと言うな。」
「いいの。言うなれば、あれよ。冥土の土産っていうか、死出の旅路の餞ね。」
「……フェルパーって、怖い。」
「はっはっは。だが、言う通りではあるな。」
そんなフェルパーの活躍のおかげで、これまでに本格的な危機に直面してはいない。しかし、長引く探索が徐々に一行を追い詰め始める。
一行は地図を持っておらず、もっぱらフェアリーのマプルに頼っていた。だが、予想以上に探索が長く、またアンチスペルゾーンも多数
存在していたため、その魔力は既に尽きかかっている。セレスティアの方も、回復魔法をかなり使うおかげで、消費に回復が追いつかず、
徐々に魔力が減り始めていた。
「う〜、あとマプル一回しか使えないよぉ…。」
不安そうなフェアリーの声。ここはまだハイントの中央を越えた辺りでしかなく、ようやく折り返し地点というところだ。なのに、
もう地図に頼れない状況なのだ。さすがに、一行の間に焦りが見え始める。が、フェルパーとヒューマンだけは落ち着いていた。
「大丈夫よ。とにかく、もっと浅いところまで行けば、地図なんかなくたって問題ないでしょう?」
「それは、そうだけど…。」
「それに、マプルを使わなくても、歩いた場所を覚えることはできるわ。最後の一回は、本当に迷った時のために、とっておきましょう。」
「さすがはリーダー、だな。こんな状況でも落ち着いていられるとは、大したお嬢さんだ。」
そう言うヒューマン自身、呑気に煙草を吸っている。一番落ち着いてるのはお前だ、と誰もが思ったが、声には出さなかった。
「と、分かれ道か。お嬢さん、どっちだと思う?」
「うーん……迷ったときは左って言いたいところだけど、これまで全部裏目に出てるのよね…。ヒューマン、あなたはどう?」
「そうさな。ここは、お嬢さんの言葉に従ってみるか。そろそろ、ツケを返してもらえる頃だろう?」
時々、二人はこうして分かれ道を選ぶ。だが、ヒューマンは盗賊の勘がなせる業か、彼の選んだ道は確実に出口へと向かう道だった。
それ以外でも、彼の勘は異常に冴えていた。床が危険と見れば電流が流れていたり、そろそろアンチスペルゾーンが来そうだと言えば、
数歩先にそれがあったり、もはや地図を持っているとしか思えないような正確さだった。
「ねえ、ヒューマン……もしかして、地図隠し持ってない?」
「いやぁ、地図は持っちゃいないが、俺は狩人だからな。俺ならここに配置するってところが、全部ドンピシャだったってわけさ。」
「なるほど……狩人だから、罠を仕掛けるのは得意なんですね?」
「はっはっは、外すのは苦手だがな。」
その甲斐あって、一行は何とか危険な場所を突破し、徐々に浅場へと進んでいった。ようやく出口が見えたとき、既にフェアリーも
セレスティアも魔力が尽きており、また全員が激しい戦闘によって傷ついていた。そんな状況で出口が見えたときの安堵感は、
口では言い表せないほどである。
「やったぁ!あれ、出口だよね!?」
「信じられません!わたくし達、ここ一周できたんですね!」
「さすがに、きつかった。よくもまあ、みんな無事で回れたもんだ。」
「これで……わたくし達も、一流と呼ばれる冒険者になれたと、思っていいんですのね?」
思い思いの感想を口にし、ゲートを潜る一行。途端に、赤い光が目に差した。全員が顔を手で多い、指の間からその先を眺める。
「……きれいな夕日…。」
そこには、今まさに沈もうとする夕日があった。雲の上から見下ろす夕日は美しく、一瞬誰もが言葉を忘れてそれに見入った。
やがて、フェルパーがスッとヒューマンの方に向き直った。
「……ありがとう。」
「ん?いきなりどうしたんだい?」
「あなたのおかげで、ここまで来られた。それに、危ない時はいつも……今日だって、あなたのおかげで助かった。だから、ありがとう。」
「ははは、やめてくれ。お嬢さんが落ち着いて対処したから、俺だって落ち着いて対処できたんだ。俺の方こそ、いいリーダーに出会えた。
だから、むしろ君にお礼が言いたい。ありがとう。」
「そういうところも、あなたのいいところ。すごい力を持ってるのに、それを見せびらかすこともなく、笠に着ることもなく、
会ったばかりの私達の仲間として、頑張ってくれた。あなたには、感謝してもしきれないわ。」
「それなら、俺の方こそ感謝してる。俺一人なら、こんなところには来られなかった。おかげさまで、なかなかいい物もらえたしな。」
「ふふ、本当にいい人。できることなら、ずっとこのままいて欲しいところだけど…。」
「それは…。」
一瞬、ヒューマンの顔が曇った。だがすぐに、いつもの柔和な笑顔を浮かべる。
「……残念だが、無理な話だな。確かに楽しかったが、俺は留まる事はできない。」
「……そう。本当に、残念。でも、仕方ないわね。」
再び、二人は夕日を見つめる。もう、夕日も完全に地平線へ消えようとしている。
「さあ、て。明日からは、パルタクスへの帰路ね。どうやって帰ろうか?」
フェルパーの言葉に、全員が振り向いた。
「魔法球で帰るんでいいんじゃない?」
「そんなの、味気ないですよ。せっかくなら、もうちょっと何かしませんか?」
「じゃ、じゃあランツレートに寄らないか?」
「カレー目当て、ですわね?ふふ、でも、それもいいかもしれませんわ。」
フェルパーは笑顔を浮かべ、チラッとヒューマンを見た。
「それで、いい?」
「もちろん。ただ、その……そのルートだと、ホルデア登山道が…。」
「じゃ、カレー食べたら魔法球で帰る?」
「はは、すまんな。何なら、帰るのは俺一人でもいいが。」
「いいよー、気にしないで。私も、そろそろ学生寮恋しいしねっ!」
その言葉には、全員同意見だった。僅か二週間ちょっと前のはずなのに、もう何年も離れているような気がする。
「それじゃ、明日からの帰路、頑張りましょう。今日はみんな、ゆっくり休んでね。」
和気藹々と宿屋に向かう一行。もはや、その中にいても違和感のないほどに馴染んだヒューマン。その姿を、フェルパーは後ろでじっと
見つめていた。
リーダーとしての自覚。責任感。それらが、今まで彼女を押し止めていた。しかし、目的を達成した今、少しぐらい羽目を外しても
いいかな、と、彼女は思っていた。
そして静かに目を瞑り、疲れてる彼には悪いけど、と、一人笑っていた。
その夜は特に静かだった。前に駐留していた生徒達もだいぶ数が減っており、今では一行を入れなければ宿屋の客は二桁にも達しない。
一行にしても、ハイント地下道を抜けるまでにすっかり疲れ切っており、全員夕飯を食べるとすぐに寝てしまった。
ヒューマンも例外ではなく、この日はすぐに布団に入っていた。だが早く寝すぎたのか、変な時間に目が覚めてしまい、そのまま眠れずに
ベッドでゴロゴロしていた。それでも眠れず、煙草でも吸うかとベッドから這い出した瞬間、ドアがノックされた。
「ん?誰だい?」
「私よ。入ってもいいかしら?」
「ああ、お嬢さんか。構わないよ。」
火をつけようとしていたキセルを置き、鍵を開けるヒューマン。ドアを開けると、明らかにいつもと様子の異なるフェルパーがいた。
「……どうか、したのかい?」
「ええ。そろそろ、夜が寂しいんじゃないかと思って……ね?」
流し目を送り、妖艶に笑いかけるフェルパー。
「最近は、他の子も来てないんでしょう?」
「はは、ばれてたのか。」
「そりゃ、私はリーダーだもの。仲間のことは、ちゃんと把握しておかないと。それに、後輩の面倒を見るのも、先輩の務めでしょう?」
フェルパーは自分の胸を抱くように左手を当て、右手は頬に当てつつ顔を僅かに逸らす。しかし、目はじっとヒューマンを見つめている。
「といっても、あの子達と一つしか違わないけど、ね。」
「なるほど。道理で君だけ、ずいぶん大人っぽいと思った。」
「ふふ、ありがとう。それで、どう?」
相変わらずの妖艶な笑み。それに対して、ヒューマンはいつもの笑みを返す。
「気持ちはありがたいが、わざわざ俺なんかのために、そんなことを?」
「意地悪な人。もちろん、それを出汁にして来たに、決まってるじゃない。」
「ああ、そうだったのか。いや、てっきりすごいリーダーだなと…。」
「あら、本当にそう思ってたの?うふふ、結構純粋なところ、あるのね。」
おかしそうに笑って、フェルパーは少女のような笑顔を浮かべた。
「それに、ね。あなたみたいな人、初めてなの。同種族でもない、深い付き合いがあったわけでもないのに……こんなに頼りにできて、
こんなに大胆になれて、こんなに……心ときめく人。」
「……俺のことが、好きだと?」
「ん、そうね。それは確かにそうだけど……あ、でも勘違いしないでね?」
再び妖艶な笑みに戻り、フェルパーはヒューマンの顔をすうっと撫でる。
「愛して欲しいなんて言わない。ただ、あなたに抱かれたい。私が来た理由は、それだけ。」
「つまり、遊びっていうわけかい?」
「そうね。その方が後腐れもないし、いいでしょう?」
「案外ドライなんだな。意外だったよ。」
ヒューマンが笑うと、フェルパーも釣られて笑う。笑顔のまま、フェルパーはゆっくりとヒューマンの横をすり抜ける。
「私達の種族じゃ、案外珍しくもないのよ?何ていったって、発情期があるんだもの。」
フェルパーの手がヒューマンの体を撫で、尻尾がしなやかにまとわりつく。
「でも、体を許せる男はいても、抱いて欲しいと思った雄は、初めて。だから、ね?あなたが嫌じゃなければ…。」
するりと体の向きを変え、ヒューマンの首を抱くフェルパー。普通の男ならとっくの昔に落ちているのに、この男はいつもとまったく
変わらない。その余裕に、フェルパーは密かに焦っていた。
不意に、体を撫でる尻尾を、ヒューマンがそっと撫で返した。驚いたように、尻尾がピクンと跳ねる。
「そういうことなら、俺も歓迎さ。ある意味では、君が一番抱きやすいかもしれないな。」
恥ずかしそうな笑顔を浮かべ、フェルパーはヒューマンを見つめる。ヒューマンも、正面から彼女を見つめる。
「でも、本当に意外だったよ。君がこういう子だったとは。」
「発情期が来ても、私達のパーティは女の子だけ。男が欲しくてたまらなくなっても、我慢しなきゃいけないのよ。というより、
そのために女の子だけなんだけど。だから今日ぐらい、思いっきり乱れたって……ね?」
自分からキスを仕掛けるフェルパー。ヒューマンもそれに応えつつ、そっとフェルパーの制服を脱がせていく。
ザラついた舌が相手を傷つけないように、フェルパーは主に舌の裏側を使って相手の舌と絡める。ヒューマンも経験があるのか、
その動きに当たり前のように対応している。
上を脱がされたところで、フェルパーはついっと唇を離した。
「……今は、発情期なのかい?」
「少し、ね。でも、もう終わり際。ここまで耐えるの、結構大変だったんだから。」
今度はフェルパーが、ヒューマンのズボンに手を掛ける。ベルトを外し、身を屈めてジッパーを口で咥えると、ゆっくりと降ろしていく。
そのまま股間に顔を近づけ、少し大きく息を吸い込む。
「男の人の匂い……いい、匂い。」
うっとりした表情で言うと、尻尾をゆらゆら動かしつつ、さらにパンツを引き下げる。そして現れたモノを愛おしそうに一撫ですると、
跪いたままそれを口に咥える。
フェルパーは手馴れていた。唾液をたっぷり含ませてそれを舐め、唇で締め付け、喉の奥まで咥え込んだかと思うと強く吸い上げる。
ザラついた舌を持っていることが嘘のように、うまい具合に舌先を駆使し、下手な他種族よりもずっと強い快感を与えてくる。
また、舌を出すときには棘が立たないことをよく知っているらしく、どちらかというと押し出すような舐め方を多用している。それがまた、
普通とは違う刺激を生み出し、ヒューマンに強い快感を与える。
「くっ……ずいぶん、うまいね…。」
「んっ……んっ……ふふ。結構自信はあるのよ。あ、お返しは結構よ。最後に、一まとめにして返してもらうから、ね。」
ヒューマンのモノを舐めながら、フェルパーは空いた手と尻尾を使って自分の秘所を刺激している。既にパンツはぐっしょりと濡れており、
いつでもヒューマンのモノを受け入れる準備ができている。
「だが、一ついいかい、お嬢さん?」
「ん、なぁに?」
扱く手は止めず、フェルパーはヒューマンの顔を見上げる。
「今、発情期なんだとしたら、俺とするのはまずくないか?その時は、妊娠しやすいんだろう?」
「あ〜、言い忘れてたわね。確かに経験はあるの。でも、私まだ処女なのよ。」
「え?」
「だって、ね?そりゃ疼きは止めてもらいたいけど、その人との子供が欲しいと思うような相手じゃないと、もらってほしくないもの。
あなたは、まあそんな相手ではあるけど……あなたの方が、それはお断りって感じだし、ね。」
「はは、すまんな。」
「だから、ね?」
フェルパーは赤く染めた頬を緩め、何とも妖艶な笑みを浮かべた。
「お尻の方、試してみない?」
「大丈夫なのかい?」
「言ったでしょ?処女ではあるけど、経験はあるの。するときは、いつもこっち。それにお尻なら、あなたも気兼ねなく、
中に出せるでしょう?」
「それは何とも夢のある話だ。」
「ちゃんと、中きれいにしてきたし、ね?あなたの、この熱いの……これで、私の中、思いっきりかき回して。」
言いながら、フェルパーは溢れる愛液を指に絡め、自分で後ろの穴をいじっている。
「そうか。ともあれ、君が辛くないのなら構わないさ。」
ヒューマンはフェルパーを立たせて体を抱くと、そっと後ろを向けさせた。フェルパーは尻尾を上げ、自分からその穴を広げる。
「遠慮しないでいいから、奥まで一気に…。」
「それじゃあ、そうさせてもらおうか。」
自分のモノをあてがうと、少し入り口を擦るヒューマン。やがて狙いを定めると、何の遠慮もなしに一気に突き入れた。
「うああぁっ!す、すごいぃ…!」
フェルパーの体がビクンと跳ね、腸内がぎゅうっとヒューマンの根元を締め付ける。
「大丈夫かい?」
「い、いいのぉ…。お、お願いぃ……激しくしてぇ…!」
「やれやれ、お返しはずいぶんと骨が折れそうだ。」
そう言いつつ、激しく腰を打ちつけるヒューマン。抜けそうなほどにモノを抜き出し、再び一気に腸内へ突き入れる。時には本当に
抜けてしまうこともあるが、その度にすぐさま入れ直す。閉じかけた肛門を無理矢理押し広げられる感覚は、フェルパーに強い苦痛と
快感をもたらす。
「も、もっとぉ!もっと突いてぇ!子宮に響くぐらい、もっと強くぅ!」
普段からは想像もできないような顔で、更なる刺激をねだるフェルパー。それに応え、ヒューマンはさらに深く腸内を抉る。彼女は
彼女で、自分の指で秘所を刺激し、快感を貪っている。
ヒューマンのモノが引き抜かれれば、一緒に肉が捲れ上がり、突き入れられるとそれも同時に押し込まれる。それに合わせ、フェルパーも
彼のモノをぎゅうぎゅうと締め付けている。
突然、それまで腰を抱えていたヒューマンが、フェルパーの腕を後ろ手に捻り上げる。
「にゃっ!?」
両腕を封じられ、テーブルに押さえつけられるフェルパー。さらにヒューマンは、もう片方の手で尻尾の根元をぎゅっと握りこんだ。
「うああっ!!だ、ダメっ!それはダメぇっ!」
フェルパーの声を無視し、激しく突き入れるヒューマン。動きを封じられ、無理矢理に激しく犯される感覚が、フェルパーの被虐心に
火をつける。
「や、やめてぇ!こんなの……こんなのダメぇ!!もう許してぇ!!」
そんなフェルパーをあざ笑うかのように、さらに強く突き入れるヒューマン。あまりに深く突き入れられ、フェルパーは凄まじい圧迫感と
疼痛に涙を流す。空気を求めて喘ぐ口からは、だらしなく涎が糸を引いている。
「うあっ!あぁっ!にゃぅっ!お、お願いっ!尻尾はやめてえぇぇ!!」
だんだん本気になるフェルパーの哀願も、ヒューマンが聞き入れる気配はない。それどころか、もはやお返しなどというものとは
まったく違う、ただ単に自分の快感のためだけに腰を打ちつける、乱暴極まりない動きになっている。その動きは快感よりも、
どちらかというと激しい苦痛をフェルパーにもたらす。だが、発情期という時期と被虐心が、その苦痛を快感に変えてしまう。
「あ、熱いのぉ!お尻が、お尻が焼けちゃうぅ!!お願いだから、もう許してえぇぇ!!!」
ボロボロと涙を流し、必死に哀願するフェルパー。だが、それは苦痛のためだけではなく、自身の中に膨れ上がる快感のためでもあった。
これまでは何とか耐えていたものの、あまりに荒々しいその行為に、もう限界はすぐそこまで迫っていた。
「あぁっ!も、もう限界ぃ…!あ、あなたも、出してぇ…!」
「言われなくとも……もう、俺も限界でな…!」
ヒューマンもかなり耐えていたらしく、その声はかなり切迫している。だがそれ以上に、フェルパーは限界が近かった。
「にゃあぁ…!は、早く、出してぇ!お腹いっぱいにしてえぇぇ!!お尻に、あなたの精液飲ませてえぇ!!!」
普段なら口にしない言葉を、平然と言ってのけるフェルパー。その言葉にも、ヒューマンの限界がさらに近づく。
「やれやれ、わがままなお嬢さんだ…。くっ、だがもう、限界だっ…!」
「わたっ、私もっ!!もうっ!!くっ……ああ!も、もうやめっ……許しっ……あ……あ……ああぁぁぁ!!!!!」
一際大きな声をあげ、体をのけぞらせるフェルパー。それと同時に、ヒューマンもフェルパーの腸内に思い切り精液を吐き出す。
ビクビクと震えていたフェルパーの体が、クタッとテーブルに落ちる。それを見てから、ヒューマンは押さえていた手を放した。
「はぁ……はぁ……すごかったぁ…。」
今までとは打って変わって、うっとりした声で呟くフェルパー。その顔も、例の妖艶な笑みに戻っている。
「こんなに、荒々しくて乱暴なの、初めて…。」
「ふぅ……少し、やりすぎてしまったかな?」
ヒューマンの言葉に、フェルパーは笑って首を振る。
「ううん。すごく、よかったわ…。何だか、本気で惚れてしまいそう…。」
フェルパーが体を起こそうとすると、ヒューマンはフェルパーの中から自身のモノを抜き出した。
「んっ!……いっぱい、出されちゃった。」
今にも精液が溢れ出そうな感覚に、フェルパーは必死に括約筋を緊張させる。しかし、あまりに乱暴に犯されたため、なかなか力が
入らない。それでも何とか落ち着かせると、フェルパーは大きなため息をついた。
「ほんとに……最初に、ただの遊びって言っちゃったの、後悔したくなるわ。あなたほど野性的で、強引な人、初めてよ。」
「はは、物は言い様、だな。俺はただの、乱暴者さ。」
キセルを咥え、火をつけようとして、ヒューマンは手を止めた。
「そういえば、煙草は苦手だったっけな?」
「そうね。できれば、お願い。」
初めて会った時と同じ言葉を投げかけ、フェルパーは笑った。
「あ〜あ。本当に、あなたが同種族だったらよかったのに。そうすれば、発情期の間に無理矢理、子供作ってしまえたのに。」
「はっはっは、恐ろしい事を言うお嬢さんだ。俺は今ほど、自分がヒューマンで良かったと思ったことはないぞ。」
フェルパーの体を抱き締めると、彼女はその腕にそっと手を添えた。
「愛して欲しいとは言わないけれど……今晩だけは、こうしてても、いい?」
「ああ。リーダーだって、それぐらいする権利はある。俺には、女の子にやさしくする義務がある。」
「うふふ、面白い人。でも、そんなところが、好き……なのよ。」
寂しそうな笑顔で言うと、フェルパーは目を瞑った。その体を抱き締めたまま、ヒューマンはベッドに寝転がる。
明日の朝には、こんなことがあったなどと想像もつかないぐらい、普通に振舞うのだろう。だが、それまでにはまだ時間がある。
その間だけ、フェルパーはパーティのリーダーなどではなく、ただの一人の少女でいたかった。
そして、叶わぬことではあるけれど、一夜限りだけでもいい。ただひと時、彼の恋人でいたかった。