男女混合のパーティがいいのか、それとも男女のみのパーティがいいのか。
それは、単に好みの問題なのだが、その好みが大きく士気を左右してしまう以上、無視もできない厄介な問題である。
下手に色恋沙汰が起きてしまえば、あぶれた面子はいい思いはしないし、三角関係ともなれば目も当てられない。
とはいえ、男女どちらかでも問題は起こる。変化がない分、また別の問題も起きやすいとも言われる。
彼女達の場合、男女混合での問題点を重視し、女性のみのパーティを組んでいた。だが、些細な意見の衝突から一部が不仲になり、
結果としてそのうちの一人が脱退してしまった。後悔したものの、時既に遅く、彼女はもう別のパーティに所属してしまっていた。
「それで、抜けたクラッズの穴埋めをしなきゃいけないということだけど。」
フェルパーの少女が、暗い顔の面子を見回す。
「選考は私に一任させてもらっていいのね?」
「いいよー、それで。」
「異議はありませんわ。」
「ええ。わたくしもそれでいいと思います。」
「……バハムーン、あなたもそれでいいのね?」
バハムーンは不機嫌そうな顔でチラッと一瞥すると、面白くなさそうに頷いた。
「あなたのせいでこうなったのに、その態度はないんじゃないのー?」
フェアリーが、ムッとした顔で食って掛かる。が、すぐにセレスティアがその間に入った。
「もう、その話はいいじゃないですか。もうやめましょう、ね?」
「まったく。フェアリーも、いつまでも根に持っているのは感心しませんわ。」
「うるさいなー。エルフだって…。」
「もうやめてくださいってば。これ以上、仲間同士で喧嘩するのなんて、見たくないです…。」
セレスティアが泣きそうな顔になると、さすがにフェアリーも口を閉じた。
「……で、完全に私の独断で選ぶと思うけど、本当に異存ないのね?」
フェルパーがもう一度確認すると、全員が頷いた。
「それじゃ、今日は仲間探すから、みんなは自由にしてて。できれば今日中に探すから。」
それから、フェルパーは一日中学食や寮の入り口を廻り、仲間にできそうな人材を探した。しかし、探索に必須とも言えるような盗賊系
学科の人気は高く、見つけたとしても他のパーティに所属していたり、あるいはまだまだ経験不足で、ろくについて来られないような
生徒ばかりだった。朝から始まった仲間探しは昼を回り、やがて夕焼けが辺りを赤く染める頃になっても続いた。
そろそろ仲間探しにも疲れ、休憩も兼ねて、フェルパーは学食へ向かった。どちらかというと肉派の彼女はステーキを取り、それに
いくつか単品の料理を加え、席を探す。だが、こんな時に限って学食は混んでおり、なかなか席が見つからない。そのついでによさそうな
生徒も探しているのだが、こちらもまた見つからない。
いい加減諦めて、外で立ち食いでもしようかと思い始めた時。学食の隅の窓際に、妙な生徒を見つけた。
その周りだけ、人がいないのもともかく、少なめの料理を一つずつじっくりと味わうように、ゆっくりと食べている。その動作も
さることながら、時折コーヒーを飲むさまが、異様に絵になっている。
しかも、である。彼は時折、窓の外に顔を出す。何をしているのかと思えば、ゴエモンのキセルを使って本当に煙草を吸っているのだ。
呆れ半分興味半分で、フェルパーは彼に近づいた。それにゴエモンのキセルを持っているのなら、盗賊系学科である可能性が高い。
「ここ、いいかしら?」
「ん?」
近くで見ると、さらに彼の異様さが際立つ。種族はヒューマンであるらしいが、その髪は真っ白だ。元々そういう色にしては、妙に
艶がない。顔は確かに若いのだが、彼の纏う雰囲気には若々しさが微塵も感じられない。
「……俺の顔が、何か?」
「……あっ、いえ!ごめんなさい。えっと……席、空いてないので、ご一緒しても?」
「ああ、もちろん。俺としても、君みたいなお嬢さんとご一緒できるのは嬉しいね。」
軽い性格らしく、そんなことを言ってのけるヒューマン。ただ、なぜか『お嬢さん』と呼ばれたのに、不思議と違和感がない。
フェルパーは席に着くと、まじまじと男を見つめた。
やはり、どこか異様である。若いはずなのに若さが感じられず、その仕草はいちいち落ち着いている。煙草を吸う仕草すら、彼がやると
違和感がない。
「煙草は、校則で禁止のはずよ?」
「なぁに。気にしなさんな。……っと、食事の邪魔になるってんなら、すぐ消すが?」
「あ、そうね。できれば、お願い。」
「悪かったな、気がつかなくて。」
カン!とキセルを窓枠に叩きつけ、灰を落とすヒューマン。あまり行儀がいいようには見えないが、やはりなぜか怒る気になれない。
「ところで、キセルを持ってるって事は、あなた、盗賊系学科?」
「ん?ああ、狩人さ。」
そう言って、ヒューマンは弓を見せた。妙に使い込まれている、年季の入った弓だった。
「失礼だけど、腕の方に自信はある?」
「それなりに、な。そうさな、ここらの駆け出しには負けない自信ぐらいはある。罠の解除には、期待しないでもらいたいがね。」
いまいち、解釈に困る物言いだった。しかし、この使い込まれた弓を見る限りでは、少なくとも戦闘の実力はありそうだ。
「いきなりで失礼だけど……あ、食べながらでいいわ。」
「いやぁ。食べながら話を聞くなんざ、失礼にも程があるさ。」
父親みたいな事を言う奴だな、と、フェルパーは心の中で苦笑いした。そもそもが、喋り方が爺臭い。
「そう、それじゃ手短に話すけど、あなたパーティに所属してる?」
「いいや。一人だ。」
「そう。それで相談なんだけど、あなた私達のパーティに入る気はない?」
「ほう。俺が、君のねえ。」
呟くように言うと、ヒューマンはコーヒーを一口飲んだ。コトッと小さな音を立て、カップが置かれる。
「もちろん、無理にとは言わないけれど。」
「本当かぁ?」
ヒューマンは意味ありげに笑った。
「ど、どういう意味よ。」
「いや、気を悪くしたんなら、謝るよ。だがね、俺はてっきり、こんな時間まで仲間を探しても見つからないから、俺なんぞに声を
かけてきたんだと、そう、思ったがね。」
図星だったので、フェルパーは返答に困ってしまう。その気配を察したのか、ヒューマンは穏やかに笑った。
「まあ、理由なんざぁ、どうでもいいわな。俺が必要ってんなら、喜んで入らせてもらうよ。」
「本当に!?よかった。実は、あなたの言うこと、図星だったのよ。」
「はっはっは、そうだろうと思った。それじゃ、よろしくな、お嬢さん。」
パチッとウィンクしてみせるヒューマン。その仕草すら、あまり気障な感じがしないことを、フェルパーは不思議に思っていた。