彼は友達が居なかった。  
 
いや、正確には作らなかった。  
通常新入生は入学後に食堂などでパーティを作るところから始める。  
彼は魔術師という需要が高い学科だった。当然色々なものから誘われたが、それらに対して一言も返事をしないで無視した。  
彼はそのまま地下通路へと向かい一人で戦った。  
一人だと当然戦うのは大変だ。最初のうちは一戦戦っては帰り、一線戦っては帰りの繰り返しだった。  
しかしそのうちレベルが上がってくるとすこし遠くまでいけるようになった。その間もパーティに誘われたりもしたが彼はその全てを無視した。  
そのせいで、いまだに彼がしゃべっているのを見かけたものは居ない。  
そしてついに彼は最初の通路を制覇した。しかし同時期に入学したものは既に2,3の通路を制覇していて、地下迷宮に行ったものまで居た。  
周りは彼を見下して中傷したりもしたが、彼はやはりその全てを無視し続けていた。  
しかしある時彼が転科したことで、周りのものは逆に彼を畏怖するようになった。  
僧侶に転科したので、ダンジョンに居続けられるようになったからだ。  
レベルの上昇率は急勾配へとなり、彼を見下していたものまでを抜き去った。  
いつしか彼は、たった一人で学園双頭の一角という地位を手にしていた。  
 
 
彼女は人気者だった。  
 
もともと友好的な種族であったし、性格は善だった。そして同種族の中でも一際綺麗だった。  
だがしかし、本人の人当たりのよさのせいか、他の女子からねたまれる事も無く、善悪種族男女関係なく皆彼女の虜だった。  
僧侶だった彼女はパーティへの需要も高かったので、色々な人から誘われた。  
しかし親友であるエルフと、元々組む予定だったので彼女の作ったパーティへと入ることになった。  
皆仲が良く、連携率も高いパーティだった。他のパーティよりも速くレベルが上がり遠くまでいけた。  
初めて迷宮へと潜ったのも彼女たちのパーティだった。依頼も数多くこなして、学園内での人気も高いパーティとなった。  
後輩の子達に昼食を誘われたりもしたが、彼女はパーティの皆と食べるのが好きだったのでそれを断った。  
彼女たちは学園の発展に最も貢献し、先生たちからの信頼も高かった。  
いつしか彼女たちは、名実共に学園双頭の一角という地位を手にしていた。  
 
 
この話は、とある日の夕食の食堂から始まる。  
 
 
その日の探索を終えて一旦みんなと別れたセレスティアは待ち合わせの食堂へと急いでいた。  
回りの皆が声をかけてきたりするのに対し、柔らかい口調で丁寧に対応していたので少し遅れてしまっていたのだ。  
そして食堂に付き入り口付近できょろきょろと辺りを見回すと既に皆が集まっているのが見えた。  
「ごめんなさい、遅れました」  
ぺこりと頭を下げて謝った。  
「おそいっ!!けどかわいいから許す」  
エルフにそういわれてホッとした。まずありえないことだがこんなことでエルフの機嫌を悪くしたくないのだ。  
トレーに食事を載せて、今日の反省などを話しながら席を探した。  
6人で座れるような席は一つしか空いていなかった。そこだけやけに空間が広く感じる。  
周りの者は明らかにその一角を避けている。  
なぜだろう、と思ったその疑問はすぐに答えが見つかった。  
一度学園を出たら一月ほどは帰ってこない彼が、そこに座っていたからだ。  
周りの席は全て空席だった。それどころか彼の傍を誰も通らない。まさにそれは、彼が孤独の王である事を表している。  
とりあえずそこしか座れなかったのでそこへと向かう事にした。エルフを促しその一角へと足を向ける。  
だんだんと大きくなっていくその背中は、一般的なディアボロスよりも少し小さく見えた。  
「ここに座ってもよろしいでしょうか?」  
そう尋ねたが、彼はこちらに一瞥もくれずに淡々と食事を続けた。  
少し困って仲間のほうを向くと肩をすくめたり、首を横に振ったりしていた。  
その中でエルフはその態度が気に入らなかったらしくトレーをテーブルに荒っぽく置くと、彼の肩に手をかけ顔をこちらへ強引に向けた。  
長めの髪の毛が左目を隠しており、唯一見える右目は深い青色をしていた。しかしその目からは何の感情も覗けない。  
「あんた返事もできないの!?」  
おそらく彼に対して怒鳴り飛ばせるのはこの学園で彼女だけだろう。げんに他のメンバーや周りの生徒は少しおびえた目をしていた。  
 
実際自分も若干の恐怖を感じている。彼は学園内で売られた喧嘩に対し再起不能まで追い込むのが常だと知っていたからだ。  
しかし彼は何の言葉も返さずに、自分のトレーを持ち上げると返却口へと向かっていった。  
さながらモーゼの海のように彼の前の生徒たちが端によけた。  
エルフはまだ言いたいことがあるようだったがメンバーのフェアリーに抑えられて仕方なく席へと座った。  
少し雰囲気が悪かったが、エルフは気持ちをすっぱりと切り替えたらしく何時もの明るい姿へと戻っていた。  
しかしメンバーの一人、ヒューマンの少年はさっきのディアボロスの態度が気になるらしい。  
基本は無視の彼でも、掴み掛かったりすればそいつを半殺しにしてしまうのだと言う。  
ふと周りの生徒の会話を聞くと皆もその話しをしているようだった。  
学園トップの戦いを避けたのではないか?単に調子が悪いだけなのでは?  
色々な憶測で話が飛びかっている。  
しまいにはエルフの事が好きだから手が出せなかったと言うものまで居る。  
パーティメンバーも同じ事を考えていたらしく皆表情が変だ。  
「あんなのに好かれていると思うとゾッとするね」  
エルフの言葉におもわず笑ってしまう。冗談めかして言っているが、本当に不快だといった表情だ。  
「私は好かれる事を嫌だとは思いませんけど」  
「物好きだねー。私はあんなのお断りだよ」  
 
「どんな獣も愛を知れば飼いならせる」  
 
そう言って割り込んできたのはパーティの司祭を勤めるノームの少女だ。  
普段は無口だがその知識は幅広く、彼女が居なければ私たちがここまで強くなる事も不可能だっただろう。  
「ノーム、あんたまであいつの肩を持つのか?」  
「私たちが唯一彼らを理解できる種族。それに私と彼は昔からの知り合いだった」  
「へぇ、じゃああいつが何で私に手を出さなかったが分かるのかい?」  
 
その質問に対しノームが首を縦に振ったところで気がついた。食堂中の生徒が自分たちの会話に注目している。  
ノームの前から知っていた宣言もびっくりしたが、それよりも彼の心が分かると言うほうが驚きだ。  
「あなたがエルフであり女だから」  
「え?」  
「彼は本当はやさしい存在。普段の姿は偽りの存在」  
その回答に対して食堂中の生徒は一瞬ぽかんとなった。  
悪魔、鬼神、修羅……彼に付いた二つ名は数知れなかったがその中にやさしいと結びつく言葉は無かった。  
それはつまり普段の行動にやさしさに含まれる行動が無いということを表している。  
「これから先の話は大々的には話せない、付いてきて」  
ノームはいまだに頭が混乱している生徒たちを残して自室へと帰っていった。  
とりあえず話を聞いてみようと思いエルフと共にもう見えない背中を追っかける。  
部屋の位置は知っているのでそんなに急ぐことは無いが好奇心が強かったので足は自然と速くなった。  
 
「入って」  
ノックの後に声をかけると扉が開いて彼女が出てきた。  
一人部屋だったのでイスが一つしかなかったがベッドに据わるよう言われたので私はふちに腰掛けた。  
エルフは下の部屋の住人の事を考えずにベッドにダイブした。注意しておこう。  
「それでさっきの続き聞かせてくれるかな?」  
ノームは一度首を立てに振り昔の話を始めた。  
その内容は小さいころに一緒に遊んだ話だとか、二人で作ったケーキがおいしかったとか、  
その全てがほほえましい内容のもので、とてもじゃないけど今の彼からは想像できないようなものだ。  
「だけど……彼はある時から変わった」  
急に真剣な表情になり、少し楽しそうだったノームの声も引き締まったものへと変わった。  
「ある日私の家に着た彼はぼーぜんとした顔で言った」  
『おれ、とんでもない事をしてしまった』  
 
「彼には兄が居る。あるとき彼はその兄に連れられとある地下通路へと行った、  
そこでは一人のエルフの少女が犯されていた。」  
ちっ、と小さく舌打ちをしたのはエルフだった。元々容姿が美しい種族であるのでそうゆう目でしょっちゅう見られるからだ。  
彼女も何度か危ない目にあっているがうちのパーティのレベルに追いつけるものは居なかったので大事には至っていない。  
「彼は兄に男になれと言われてその少女を犯した。でも彼はそれを後悔している」  
『泣いて…たのに……嫌だって……叫んでたのに……俺は…なんで……あんな事を……』  
「自殺しようともした。私はそれを止めて罪滅ぼしのために生きれば良いと進言した」  
『そう……だな…俺も…もっと力を…そして何かできる事を』  
「彼が皆と距離を置くのは自分の暴走が怖いから」  
『お前も、俺なんかとは関わらないほうが良い。もう過ちを犯したくない』  
「そして不良に対して容赦が無いのは悪を憎んでいるから」  
『俺が死ぬのは世界の悪が全て無くなった時だよ』  
「それでいて自分が絶対の悪だと思い込んでいる」  
『もし、次になんか起こしたら……お前が俺を殺してくれ』  
「だから彼はいまだに苦しんでいる」  
部屋が沈黙に包まれた。  
彼の人格形成の根元はたった一つの事件。被害者ではなく加害者だからこそ罪悪感という苦しみに襲われる。  
自殺まで考えたというのだからかなり思いつめているのだろう。  
「だから、二人に彼を救って欲しい」  
沈黙を破ったのはノームだった。  
「誰かが彼を許してあげないと、一生苦しんだまま。今でもたまに……」  
最後まで言う前にドンドンッと強く扉が叩かれた。ノームは扉をじっと見つめた後、私たち二人を立たせてクローゼットの中へと押し込めた。  
 
少し狭かったが、小柄な二人なので何とか収まった。ノームはそれを確認すると部屋の扉を開けて誰かを招き入れた。  
ノームに連れられ、フラフラと入ってきたのは彼だった。ベッドに腰掛けた彼は頭を抱えて震えだした。  
「今日……お前のパーティのエルフに睨まれた時、死にたくなった」  
初めて聞いた彼の声は普段の姿からは想像できないほどに弱弱しかった。  
「今まで…罪滅ぼし…の為に生きてたけど……さっきので……心が、折れて…ぐちゃぐちゃに」  
そして後は聞き取れないぐらい小さく、殺してくれと呟いた。  
 
 
続く  
 

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