「君、何で地下道行かないの?」
ある日、春の暖かい日差しが窓から差す中、図書館で読者をしているとヒューマンが話しかけてきた。
「何でヒューマンにそれを言わなくてはいけない?」
私は質問する。
「お、質問に質問で返すとテストでは0点だぞ? まぁどうでもいいか。言いたくないなら答えなくていいよ。いつ見てもここにいるから気になっただけだし」
ヒューマンはそう言うと向かい側の椅子に座った。
「‥‥パーティーに入ってない」
私は最初の質問に答える。ヒューマンが望むであろう答えで。
「おや、それは珍しい。頼りになるから無条件で人気者になれる種族のバハムーンが誰の誘いも受けなかったとは」
ヒューマンはわざとらしい程に驚いて言う。
「‥‥」
私は応えず本へと視線を戻す。私だってここ――ランツレートへ入ったからには冒険者として地下道に行きたい。でも私は運がなかった。特待生ということもあり、バハムーンにありがちなこのやや傲慢な性格が上級生の反感を買い、イジメの標的となったのだ。
そして私とパーティーを組んでくれる人など無く、一人ザスキアなど近いとこまで行っては戻り、趣味の読者をしている毎日。最近では誰かと会話することすらなくなった。
「用はそれだけ?」
私はキツく当たる。
「あぁそれだけだ」
「え‥‥?」
私はその返答に何故か泣きたくなった。キツく当たったはずなのにどこかで私はヒューマンに何らかの期待を抱いていたのかもしれない。下等種族だとして見下していたヒューマンに。
「すまないな、読書の邪魔をして。では」
ヒューマンはそう言って立ち上がる。
「あ‥‥ま、待て!」
「え? ちょっ、危なっ! ぐはっ!」
気が付いたら私はヒューマンを押し倒していた。
「いててて‥‥何だ? 俺が何かしたか?」
「え? あ、あぁ‥‥あの、その‥‥」
私はヒューマンの質問に何も答えられなかった。当然だ。反射的にやってしまったのだから。口からでるのはいつもの素っ気ない返答ではなく、えぇとか、あのとかいう曖昧な言葉しか言えない。何とかして切り抜けなくては‥‥。
「‥‥お前さ」
「な! な、何だ?」
あれこれ考え事をしていると急にヒューマンに呼ばれ、ビックリしてしまう。ヒューマンのクセに私を驚かすとは‥‥。少しイラッとする。
「暇か?」
「は?」
暇か? って何だ? 私を馬鹿にしているのだろうか。この男は。
「は、じゃなくて暇なのか暇じゃないのかどっちだ?」
「それは‥‥暇、だがお前には関係無――」
「よし、冒険に行こう」
「は?」
何だ? 一体何がどうなってそうなった!?
「よい、しょ!」
「え!? あ、ちょっ、ちょっと!?」
「何だ? 肩で担ぐのが嫌か? それならそうと‥‥」
「違う! 何で私がヒューマンと一緒に行かなくてはいけない!」
「いやさ〜実はメンバー探しをするために遠くバルタスクから来たんだけど、み〜んな忙しそうで暇そうな人を探していたんだ。
いやはや、諦めていた所に良い人材に巡り会えるとは‥‥八百万の神々に感謝感激、っと」
「少しは私の話を聞けっ!」
「いやだって君、暇なんだろ?」
「そりゃあ‥‥暇だが‥‥ってそれとこれとは違う!」
「暇なら行こう! 目指せ全地下道制覇! さぁ、出発だ!」
「ちょ、離せ! 離せぇええ!」
こうして、孤独なバハムーンの最初の仲間は相性最悪のヒューマンとなった。
彼女は後悔した。こんなのに期待を抱いてしまった事に。そして彼女は少し嬉しかった。初めての仲間が出来たことに。
【序言・終/続く】