ランツレートに、影で名物と呼ばれる生徒がいた。  
女だてらに鎧を着こなし、小さな体で前線を張る。鋭い目つきは宝ではなく、常に敵へと向けられる。  
身長よりも巨大な金槌。それを一振り携えて、誰より速く敵を狩る。  
種族はクラッズ。学科は戦士。会えば誰もが振り返る。  
そんな、ちょっとした名物だった。  
 
この日も、彼女は精霊の鎚を背負い、寮へと歩いていた。その異様な光景に、何人もの生徒が振り返っている。が、彼女にとっては  
至って普通の光景なので、それを気にかける事はない。むしろ、そうした好奇と驚きの視線は、彼女にとって心地良くすらあった。  
寮に入ると、既に仲間は全員集まっていた。彼女に気付いたフェアリーが、早く来いと手招きする。  
「ごめーん、ちょっと遅れちゃったかな?」  
「いや、時間ぴったり」  
「お前はいっつも時間に正確だよな。遅くも来ないが、早くも来ない」  
そう言って笑うバハムーン。その彼を、フェアリーがちょっと嫌そうに見つめる。  
「君なんか、今日は奇跡だよね。寝坊はするわ、時間忘れるわ、挙句に時計読み間違えたとか…」  
「よし、わかった。俺が悪かった、やめてくれ」  
その二人のやり取りを聞いて、ヒューマンが声を抑えて笑っている。  
「そろそろ、本題に入りませんか。仲間も揃ったことですし」  
「もう、ノーちゃんはせっかちだなー」  
「せっかちなのではなく、あくまで状況に即した発言をしたつもりですが」  
「まあ間違ってはいないけどねー。だけど、もうちょっと二人のコント聞いてても…」  
「そこの女子二人、喧嘩しない。あと、僕とバハムーンのはコントじゃない」  
フェアリーに言われて、ヒューマンとノームは口を閉じた。  
「でも、ノームの言うことも、もっともだね。それじゃ、本題に入ろうか」  
話とは、現在5人であるパーティの話である。以前仲間が脱退して以来、ずっと5人でやってきたのだが、この先もずっと5人というのは  
少し心許ない。そのため新しい仲間を入れたいということで、どういう仲間を入れるかという会議だった。  
個人的な要望を述べるヒューマンやバハムーンを無視し、フェアリーは主にクラッズに意見を求める。サブリーダーである彼女は、  
ある意味でリーダーである彼よりも尊敬されていた。  
その結果、フェアリーが前線にいる現状、回復を司祭であるヒューマンに頼りきっていることなどから、僧侶魔法を使えて、なおかつ  
前線でも戦える人物という話にまとまった。フェアリーは既に何人か目星をつけており、条件的にはヒューマンの僧侶かドワーフの  
君主がいるということだったが、バハムーンの強硬な反対のため、ドワーフに声をかけることに決まった。  
「でも、後輩なんだっけ?」  
「だけど、戦士学科、僧侶学科、君主学科とやってるから、実力はあると思うよ」  
「まあ、トンボ君が目をつけたんなら、間違いはないかな」  
「その呼び方、やめてくれないんだね……んじゃ、とりあえず明日辺り声かけてみるよ。そういうことで、今日はここで解散かな」  
「はーい。それじゃ、みんなお疲れ様ー」  
「おっつかれー」  
会議が終わり、それぞれ思い思いの場所へと向かう。クラッズは仲間と別れ、少し弾んだ足取りで寮の階段を駆け上がっていく。  
途中で自分の部屋に寄り、装備品を放り込む。身一つになると、その足取りはさらに軽くなり、目的の部屋まであっという間に辿り着く。  
「おーい、エルフくーん。私ー」  
そう呼びかけると、部屋のドアが静かに開いた。  
「やあ、今日は遅かったね」  
「ごめんねー。パーティの話し合いがあったからさ」  
「なるほど。それじゃ、しょうがないか。とりあえず、入るかい?」  
「うん!」  
嬉しそうに部屋の中へ入るクラッズ。地下道に入れば戦士である彼女も、学園に戻ればただの少女である。パーティこそ違うものの、  
エルフとクラッズはれっきとした恋人同士であった。  
他愛のない話をし、一緒に食事をし、夜になればその腕に抱かれる。彼と一緒にいるときが、クラッズにとって一番幸せな時間だった。  
ずっとずっと、こんな生活が続けばいいと、クラッズはいつも思っていた。そして実際続くものだと、彼女は信じていた。  
 
翌日、クラッズは他の仲間と共に寮のロビーにいた。例によってバハムーンは寝坊しているらしく、まだ来ていない。  
「んで、トカゲ君はともかくとして、新入り君はちゃんと来るかな?」  
「彼には少し遅い時間を伝えておいた。一応、こっちも迎える者の礼儀として、早めに来ておいてやろうと思ってね」  
「……バハムー君には、意味なかったみたいだけど…」  
ヒューマンが呟くと、ノームも静かに頷いた。と、奥の方から何やらドタドタと走る音が聞こえてきた。あの重量級の足音は、  
彼以外にありえない。  
「やっときたか。ギリッギリだよ、まったく」  
「……あれ?足音二つない?」  
言われてみると、確かに二つの足音が聞こえている。その音はだんだんと大きくなり、やがてロビーに二つの人影が飛び込んできた。  
「悪りっ!寝坊した!」  
「すいません!遅れました!」  
一つはバハムーンだが、もう一つはドワーフだ。彼が新入りの仲間なのは、疑いようもない。  
「いやー、うっかり二度寝しちまってさー、ははは」  
「5分前には来るつもりでしたが、少し遅れました!申し訳ないッス!」  
一行は二人の違いに、ただ呆れるしかなかった。ドワーフの方は予定より早く来ており、責められるいわれはまったくない。  
が、バハムーンは責められるいわれしかない。  
「いや、3分前でも十分だよ。そう硬くならずに」  
「そうそう。遅れなければいいんだって。遅れなければ」  
「あなたが新入りの方ですね。歓迎します」  
「よろしくね、新入り君!」  
バハムーンを完全に無視し、みんなそれぞれドワーフに挨拶する。  
「あの……俺、無視…?」  
「これからお世話になります!俺、戦士学科、僧侶学科と習って、今は君主学科を学んでいます!皆さん、よろしくお願いします!」  
顔に似合わず体育会系らしいドワーフは、自己紹介を終えるとビシッと頭を下げた。面白い人だなあと、クラッズは心の中で思った。  
和気藹々と話す5人を、バハムーンが悲しそうな顔で見つめる。と、ドワーフはクルっと振り返り、バハムーンに頭を下げた。  
「バハムーンさんも、よろしくお願いします!」  
「お……おお…!お前、いい奴だな!ほんといい奴だな!うんうん、頑張ろうな!」  
ドワーフの手を握り、ぶんぶんと振るバハムーン。かなりの身長差があるため、その度にドワーフの体が揺れている。  
「んじゃ、挨拶も済んだところで、軽くポストからラーク辺り抜けてみようか。後輩君、行けるかい?」  
「あ、行ったことはないッスけど、頑張ります!先輩方、ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願いします!」  
最後にもう一度頭を下げるドワーフ。見た目も性格も暑苦しい奴だというのが、全員の印象だった。  
ともかくも、実力が無ければ話にならない。まずはポスト地下道で戦うが、ドワーフは問題なく戦えている。  
「ねえ、モフモフ君。その武器、何?」  
「モフモフ…?あ、えっと、ドリルブレイドッス」  
「なっつかしいの使ってるね。アロンダイトとか、そういうのは使わないの?」  
「あー、俺、まだ真・二刀龍使えないんで、両手剣はダメなんスよ」  
「盾、そんなに必要?」  
「君主ッスから」  
クラッズはあまり君主という学科に対する知識が無く、その言葉に首を捻った。すると、後ろからヒューマンが囁きかける。  
「君主はね、戦うだけじゃなくって庇うのも仕事の一つなんだよー。だから、盾は重要なんだと思う」  
「でも……今、必要ないよね?」  
「そのうち助かるかもしれないよ〜?」  
 
とはいえ、群れで現れた敵すら一瞬で殲滅してしまうこのパーティは、庇う必要性などありはしない。ラーク地下道に入っても、それは  
変わらなかった。そもそも、防御が必要なときにはノームが魔法壁を張ってしまうため、ドワーフが庇うような場面はまったくない。  
それでも、ドワーフは盾を手放さなかった。どんなに勧められようと、それだけは一貫して固辞した。  
クラッズから見ると、最初は単に頭の固い奴という印象だった。しかし、よくよく考えてみれば、自分だって似たようなものである。  
盗賊系学科に進むという、ありふれた、なおかつ最も妥当だと思われる選択肢を放棄し、戦士として戦い続け、いくら他の学科を  
勧められようと決して変えはしなかった。それに気付くと、クラッズは無理に両手武器を薦めることをやめた。  
ドワーフはなかなか筋がよく、ラークですら問題なく戦えていた。なので一行は予定を変更し、いつものハイントへ行く事に決めた。  
意気込むドワーフだったが、さすがに現実はそうそう甘くない。敵はそれまでとは桁違いに強く、ドワーフの攻撃はなかなか当たらない。  
おまけに、明らかに見て弱そうだとわかるため、ドワーフは集中的に狙われた。それでも、持ち前の体力と重装備に物を言わせ、何とか  
ついて行くことができた。仲間よりも自分の身を守るために、彼の盾は大活躍だった。  
マップナンバー61番を一回りすると、一行はようやく学園へと戻った。ドワーフは文字通り精も根も尽き果てたという状態で、  
見ていて心配になるぐらい疲れている。  
「モフモフ君、大丈夫?」  
「だ……大丈夫……ッス…」  
「正直、ついて来られると思ってなかった。よく頑張ったね」  
フェアリーの言葉に、ドワーフは疲れ切った顔に嬉しそうな笑顔を浮かべた。  
「それじゃ、これからは毎日あそこに通って、力つけないとね!」  
クラッズの言葉に、ドワーフの笑顔は凍りついた。  
 
それから一ヶ月ほど、一行はほぼ毎日ハイントに通った。そのおかげでドワーフはめきめきと力をつけ、また装備も見る間に  
良くなっていった。今ではバハムーンやクラッズよりも硬い重装備を身に纏い、ようやく覚えた真・二刀龍のおかげで精霊の剣も  
使えるようになった。そのため防御だけではなく、今では戦力としても既に一級品である。  
そんなある日。例の如くハイントから戻ると、クラッズにドワーフが話しかけた。  
「クラッズさん、今日もお疲れ様っした!」  
「うん、お疲れ様ー。モフモフ君、だいぶ強くなったよねー。そろそろ、ハイントも卒業かな?」  
「先輩方のおかげッス!ありがとうございました!」  
「またまたー、うまいんだから」  
「いえ、本心ッスよ。ほんとに、先輩方には感謝してます!」  
一度頭を下げてから、ドワーフはふと真面目な顔になった。  
「あの……クラッズさん」  
「ん?どうしたの?」  
「その〜、いつでもいいんスけど、少し時間取れないッスか?」  
その言葉に、クラッズは首を傾げた。  
「取れなくもないけど、どうしたの?」  
「いえ、ちょっと話したいことがあるんで…」  
「ん〜、わかった。んじゃ、夕飯食べた後なら空いてるから、それでいい?」  
「すみません、お手数かけます!じゃ、夕飯の後、寮の屋上でいいッスか?」  
「いいよー。それじゃ、またあとでね」  
クラッズはその足で学食に向かい、好奇の眼差しを全身に受けつつ食事を済ませる。いつもより少し早めに夕飯を食べ終えると、今度は  
一直線に寮の屋上を目指す。  
 
屋上についてみると、既にドワーフは来ていた。手すりに寄りかかり、遠くの景色を見るともなしに眺めている。  
「早いね、待たせちゃったかな?」  
「え!?あ、いや、俺が早く来すぎただけなんで、全然大丈夫ッス!」  
声をかけると、ドワーフは慌てて振り返った。クラッズはその隣に並び、同じように手すりに寄りかかる。  
「それで、話って何?」  
「あ、はい。えーっと……その…」  
言葉がなかなか出ないらしく、ドワーフの尻尾はもどかしげに振られている。痺れを切らしたクラッズが口を開こうとした瞬間。  
「あの、クラッズさんっ!!!」  
「は、はいっ!?」  
突然の大声に、クラッズはビクリと身を震わせた。  
「その、いきなりで失礼なんスけど……よかったら、俺と付き合ってもらえないでしょうか!?」  
「え…!?あ、え〜〜〜っとね…」  
さっきの大声と同じような不意打ちに、クラッズは一瞬言葉に詰まる。だが、すぐに言うべき言葉を探し出す。  
「悪いけど、それは無理なんだ」  
「……どうしてもッスか?」  
「うん。私、このパーティじゃないけど、エルフと付き合ってるからさ。だから、君の期待には添えられないよ」  
「エルフかぁ…」  
相手が悪すぎるというように、ドワーフはがっくりと肩を落とした。さすがに気の毒になったものの、こういう時にかける言葉はないと  
いうことを、クラッズはよく知っていた。というのも、クラッズに交際を申し込んできた相手は、もう両手に余る数だったからだ。  
エルフと付き合うまでにも数人。それ以降も十数人。詰まるところ、ドワーフもそういった者の一人でしかない。  
ドワーフは不意に顔を上げた。その顔は、意外にすっきりしている。  
「わかりました。無理な事言って、申し訳なかったッス!」  
「え?ああ、いや、そんな……こっちこそ、先に言っておかないでごめんね」  
「いえ、聞いておかなかった俺が悪かったッス!でも、これですっぱり諦め……られないと思いますけど!クラッズさん、可愛いし!」  
「……それは、どうも」  
妙なところでも正直だなあと、クラッズは心の中で笑った。  
「でも、すっきりしました!」  
結局、ドワーフはその後も至って普通に振舞い続けた。パーティを脱退するわけでもなく、クラッズに対して根に持つわけでもなく、  
ただ普通の生活に戻っただけだった。この一件以来、クラッズのドワーフに対する評価は、ちょっとだけ変わっていた。  
 
それからさらに時が経ち、いよいよ一行は新しい場所を開拓してみようという話になった。既にハイント程度では役不足で、ドワーフも  
十分に強くなっている。そんなわけで、一行はトハス地下迷宮を目指すことにした。  
「トカゲ君、ご先祖様相手になるらしいけど、大丈夫?」  
「大丈夫、俺の方が強い」  
「いや、そういう意味じゃなくって、彼女は一応気を使ったんじゃないのか?」  
「え?そうなのか?」  
「……力はどうだか知らないけど、頭は先祖の方が強いかもね」  
「おい、それはどういう意味だ!?」  
いつも通りに、フェアリーとバハムーンがコントのような掛け合いを繰り広げ、後ろでヒューマンが笑う。  
「聞くところによると、ここは全地下迷宮の中でも、1・2を争うほどの強さだそうです。少し、気を引き締めた方がいいでしょう」  
「さすがに少し怖いッスね。なんで、今日は装備多めッス」  
そう言うドワーフの背中には、いつも使う退魔の盾の他に、もう一つ同じものが括りつけられている。ホーリークロスにホーリーガード、  
それにホーリーヘルムまで被ってまだ防具を強化するのかと、クラッズは内心呆れ返った。  
「大丈夫だって!ノムちゃんの魔法壁もあるし、私達だって弱くないしね!」  
実際、いざ戦ってみると、思ったほどの苦戦はしなかった。ドラッチやサウンドワーム程度では大した被害も受けず、ドラコンや水竜の  
幼虫が群れても極端に強いとは感じられなかった。最初は念のため、ということで入り口付近で戦うことになったが、徐々に奥の方へと  
進んでいく一行。しかし、今の一行にあるものは、自信ではなく、過信だった。  
歩いていたドワーフが、不意に足を止めた。それを見て、他の仲間も足を止める。  
「ん?どうしたの?」  
「いや……何か、変な音聞こえないッスか?」  
言われてみると、何か小さな音がする。  
「この音……なんだ?」  
「油断するな!みんな、戦闘態勢を!」  
フェアリーに言われ、身構える一行。だが、音の正体はわからず、聞こえてくる方向もわからない。  
音は急速に大きくなり、どうやらそれは空気を切り裂く音らしいとわかった。  
「くそ、何なんだ!?どこからだ!?」  
「相手の位置がわからないことには、対処のしようもありません」  
その瞬間、ドワーフが叫んだ。  
「みんな、逃げろぉ!!!!上、上だっ!!!!」  
「え!?」  
クラッズが振り返った瞬間、視界いっぱいに真っ黒い爪が広がった。  
「うああぁぁーーーっ!!!」  
顔が焼けるように熱くなり、何かが次々に顔を伝って落ちていくのがわかる。飛びそうな意識を何とか繋ぎ止め、ふらつく足を押さえる。  
口の中に風を感じる。前歯が異常なぐらつき方をしている。鼻が折れたのもわかる。だが、クラッズはそれらを意識の外に追いやった。  
激痛を堪えて何とか目を開けると、足元にノームが転がっていた。その体は無残に壊れ、目からは既に光が失せている。  
「ノムちゃん……ヒュムちゃんは!?」  
ノームのすぐ横に、ヒューマンは倒れている。動く気配は無く、体から異常な量の血が流れ出している。到底、生きてはいないだろう。  
襲撃者はダークドラゴンだった。よりにもよって、不意打ちで急降下を食らってしまったのだ。これでは、勝てる望みは薄い。  
「くっ…!大丈夫ッスか!?」  
「くそぉ!油断した!」  
盾で身を守ったドワーフと、誰よりも早く反応したフェアリーは無事なようだった。  
「二人とも、大丈夫!?」  
「俺は無事で……って、クラッズさん!?その顔!!」  
「顔なんか今はどうでもいいよ!今はここをどうにかするのが先!!」  
衝撃は凄まじかったが、自分もドワーフも耐えているのだ。恐らくは、バハムーンも耐えているだろう。  
 
「トカゲ君!煙玉持ってたよね!?すぐに使って!」  
ダークドラゴンから目を話さず、クラッズは叫んだ。しかし、返事はない。  
「トカゲ君!聞いてな…!」  
振り返ったクラッズの口は、それ以上動かなかった。すぐ近くに、バハムーンの下半身が転がっている。だが、そこから先はなかった。  
「うっ…!」  
あまりに無残な光景に、クラッズは思わず顔を背けた。  
「ダメだ、さすがに状況がやばすぎる!とにかくここは…!」  
何か言おうとしたフェアリーの後ろに、巨大な影が現れた。  
「トンボ君!逃げてぇ!!」  
「……え?」  
振り返ろうとした瞬間、龍番長はそれこそ虫でも殺すかのように、その首をもぎ取った。体が血を噴いて地面に落ち、投げ捨てられた首が  
コロコロとクラッズの足元に転がった。  
「く……くっそぉ…!」  
クラッズの顔が怒りに歪む。だが、それなりに冷静な判断までは失っていない。  
「……モフモフ君、聞こえるよね!?私が引き付けるから、今すぐみんなを連れて逃げて!」  
だが、ドワーフはクラッズに駆け寄ると、ぴったりと背中をくっつけた。  
「聞いてないの!?これは先輩としての命令だよ!」  
「いや……できれば、そうしたかったんスけどね…!」  
言いながら、ドワーフはそっと体をずらす。どうやら後ろを見ろということらしい。お互い背中を合わせながら、そっと向きを変えてみる。  
退路には、クロミミズが二匹。獲物が逃げてくるのを期待するかのように、待ち構えていた。  
「モフモフ君、バックドアル使える?」  
「覚えておけばよかったって、後悔してるッス」  
「……退路もなし、か…」  
「敵は四体、こっちは二人。きついッスね」  
「地獄って、こういうこと言うのかな」  
「これと比べたら、死後の地獄なんか天国じゃないッスかね」  
乾いた笑いを浮かべると、ドワーフはフッと息をついた。  
「……クラッズさん、申し訳ないッスけど、回復魔法を詠唱する暇はないッス。隙を見せたら、殺されますから」  
「うん、わかるよ」  
「それから、生き残るには、相手を倒すしかないッスね。でも、二人で掛かっても、たぶん勝てないッス」  
「わかりたくないけど、わかる」  
「ですから、俺、悔しいッスけど、クラッズさんに任せます」  
「わか……え!?」  
「俺、クラッズさんみたいには戦えないッス。でも、クラッズさんより、ずっとタフッスから」  
言いながら、ドワーフは精霊の剣を鞘に戻し、退魔の盾を両手に構えた。  
「クラッズさん、俺、絶対に守ります。俺ができるのは、これしかないッスから。俺が死ぬまで、クラッズさんを守りきります」  
「……ずいぶん大口叩くね」  
言いながら、クラッズは血が目に入らないように、バンダナを眉の辺りに巻き直した。  
「でも、今はその口車に乗ってみたいかな」  
「恐縮ッス」  
「モフモフ君、私の背中、預けたよ!!」  
絶望的な戦いが始まった。クラッズが武器となり、敵と戦う。襲い掛かる敵に対しては、ドワーフが盾となり、クラッズの身を守る。  
鍛え抜かれた精霊の鎚は、確実に敵を殴り倒していく。しかし、長引けばドワーフの身が持たない。ドワーフが倒れれば、クラッズも  
生きては帰れない。それでもクラッズは、相手を一匹ずつ仕留めていく。  
 
やがて、とうとうドワーフが倒れた。龍番長の体当たりで吹っ飛ばされたのだ。が、残る敵はそれだけであり、それは最大の好機でも  
あった。地面に近い今なら、龍番長を仕留めるのは容易い。  
龍番長は危険を感じ、再び空中に飛び立とうとした。が、クラッズはその種族らしい速さで接近し、思い切り鎚を振り回した。  
「でえぇーーーい!!!」  
顔を横殴りにした瞬間、ゴキッと確かな手応えが伝わる。龍番長は急速に力を失い、地面に落下した。それを見届けると、クラッズは  
ドワーフに駆け寄った。  
「モフモフ君、生きてる!?返事して!」  
「う……クラッズさん……敵は…?」  
「大丈夫、全部倒した!しっかりして!」  
「さすが……ッスね…。それじゃ、俺も……最後に、一仕事ッスね…」  
ドワーフはフラフラと立ち上がると、いきなり大量の血を吐いた。見れば、鎧が爪の形に凹んでいる。それが刺さっているのだろう。  
「それよりも、自分の傷治した方が…」  
「いえ……みんなを生き返らせれば、あとは何とかなりますから…」  
クラッズが死体を集め、ドワーフがリバイブルを唱える。幸い、誰もロストすることなく、全員を蘇生することができた。  
「う……あれ、私…?」  
「驚いたな……二人とも、無事だったのかい…?」  
ホッとクラッズは息をついた。それと同時に、ドワーフががっくりと膝をつく。  
「モフモフ君!だいじょ……ぶ……あれ…?」  
駆け寄ろうとしたクラッズの視界が、ぐにゃりと歪んだ。そのままクラッズは意識を失い、倒れた。  
その体を、膝をついたドワーフがしっかりと支える。だが、クラッズの体を横たえた直後、ドワーフ自身も意識を失い、倒れてしまった。  
 
目を開けると、木造の天井が見えた。クラッズは慎重に体を起こす。  
「あれ……ここ、どこ…?」  
「よかった、気がついたかい?」  
側では、フェアリーとバハムーンが心配そうな顔で覗き込んでいた。  
「ここはポストハスの宿屋。君とドワーフのおかげで、何とか生きて戻れたよ」  
「そう……モフモフ君は?無事?」  
「うん。相当な重傷だったけど、ヒューマンがついてるしね。ただ、まだ目は覚めてないみたい」  
「そう。でも、よかった」  
無意識のうちに顔に手をやり、クラッズはそこが包帯でぐるぐる巻きにされているのに気付いた。魔法で治したのなら、これは  
必要ないはずだ。  
「……どうして、包帯が?」  
その質問に、フェアリーは答えられなかった。それを見ると、クラッズにも薄々予想はついた。  
「……ねえ、鏡、ある?」  
「クラッズ…!」  
「大丈夫だよ。だって、いつかは見る事になるでしょ?それが早いか遅いかの違いだけだもん」  
「……バハムーン、そこの鏡取ってくれ」  
「おい、フェアリー…!」  
さすがにバハムーンはうろたえた。だが、フェアリーは厳しい目でバハムーンを睨みつける。  
「クラッズがどれだけの勇気を振り絞ったか、君にわかるか?それに、君も男だろ。女の子に恥かかすもんじゃない」  
「う……わ、わかったよ。けど、知らねえぞ俺は…」  
鏡を受け取ると、クラッズは自分で包帯を解いた。包帯がすべて落ちると一度目を瞑り、深呼吸してから鏡を覗いた。  
凄まじい傷跡だった。顔全体の左から右にかけて3本の線が走り、傷跡が醜く隆起している。奇跡的に目を避けて通っているため、  
日常生活に支障はないが、およそ女性としては致命的な傷だった。  
「……ひどいね、これ」  
「もう少し早く治せれば、傷跡なんか残さないで済んだ。ごめん、僕達のせいで…」  
「いいよ、気にしないで。戦士に必要なのは、顔じゃないでしょ?」  
 
明るく言いながら、クラッズは笑った。  
「そうかい。とりあえず、今日はゆっくり休んでくれ。僕達も、そうするつもりだし」  
「わかった。それじゃ、また明日ね」  
部屋を出ると、フェアリーとバハムーンは大きなため息をついた。  
「あいつ、思ったより気にしなくてよかったな」  
「……なるほど。やっぱり君は鈍いな」  
「え?」  
フェアリーはもう一度大きなため息をつくと、悲しそうに首を振った。  
「クラッズ、言ってただろ?『戦士に必要なのは顔じゃない』って」  
「ん、ああ。言ってたな」  
「……あのな。確かにその通りなんだよ。『戦士に』必要なのは、顔じゃない…。でもさ、女の子としてはどうなんだよ」  
「ん〜……顔、大切だよな」  
「つまりな、もうあいつ『女の子としては絶望的だな』って、自分でそう言ってたんだよ。まだまだ、これからが楽しい時期なのにさ、  
それなのに、あんなのって……あんまり、可哀想じゃないか…」  
フェアリーの目に、涙が滲む。パーティとしての付き合いは長いが、フェアリーが涙を見せたのはこれが初めてだった。  
「っと、みっともないところ見せたな。まして君なんかに」  
「………」  
「それでもあいつ、強くあろうとしてるんだ。仲間である僕達が、支えてやらないとな」  
「そう……だな。俺達も、頑張るか」  
二人はぎこちない笑顔を交わすと、お互いに拳をぶつけあった。  
 
その翌日、ドワーフも無事目を覚ましたことで、一行は学園に戻った。クラッズは一人部屋に戻り、ボーっとベッドに寝転がっていた。  
と、ドアがノックされる。クラッズは気だるそうに視線を動かし、ドアを見つめる。  
「誰?」  
「僕だよ、開けてくれるかい?」  
「ああ、エルフ君!」  
ドアに向かい、手を伸ばす。だが、開ける直前で躊躇い、顔に軽く包帯を巻きつけた。その状態でドアを開けると、エルフは怪訝そうな  
顔をした。  
「……大丈夫かい?」  
「ん、まあね」  
「全滅しそうになったって聞いて、心配になってね…。で、その包帯……は?」  
どう答えるべきか迷い、クラッズは顔を伏せたまま、しばらく口を開かなかった。が、やがて無表情にエルフを見上げる。  
「……見たい?」  
「え?……あ……ああ、そうだね…」  
クラッズはそっと、包帯を外していく。とうとう包帯がすべて解かれると、エルフの表情は変わった。  
「……クラッズ…!」  
クラッズも鈍くはない。それが何を意味するのかすぐに悟った。同時に、微かな失望を覚えた。  
「……ひどいでしょ?」  
エルフは何も答えられなかった。言葉もなく、ただその変わり果てた顔を見つめるしかなかった。  
 
それから、また元の生活が始まった。しかし、何もかもが元通りというわけにはいかなかった。  
あれ以来、エルフとクラッズは明らかに距離を置くようになっていた。そしてクラッズも、以前よりずっと口数が減っていた。  
表面的には、いつものように振舞っている。しかし、時折どこか遠くを見つめ、物憂げなため息をつくことが多くなった。そのせいで  
余計に周りが話しかけ辛くなり、そのため余計に口数が減るという悪循環である。  
そんなある日、探索から戻ったクラッズが学食に向かうと、後ろからエルフが声をかけてきた。  
「エルフ君……どうしたの?」  
「少し、話したいことがあって…。食事が終わったら、寮の屋上にでも来てくれないかい?」  
「……わかった」  
ゆっくりと食事を終え、部屋に荷物を置いてから屋上へ向かおうとすると、廊下でドワーフに出会った。  
「あ、クラッズさん!お疲れ様ッス!」  
「ああ、モフモフ君。相変わらず元気そうだね」  
ドワーフだけは、以前とまったく態度が変わらない。いつも変わらぬ暑苦しさである。  
「……クラッズさんは、元気なさそうッスね。大丈夫ッスか?」  
「うん……まあね。気にされるほどじゃないよ」  
「でも、そんな顔してると、可愛い顔が台無しッスよ」  
その言葉に、クラッズの顔が険しくなる。  
「お世辞なんていらないよ」  
「お世辞だなんて……俺、そんなつもりじゃ…」  
「そう?それは悪かったね」  
棘のある口調で言うと、クラッズは皮肉っぽい笑顔を浮かべた。  
「何しろ、そんなこと言われたの初めてだからさ」  
ドワーフはすっかり困った顔で、必死に言葉を探した。だが、クラッズは既に歩き出している。  
「……クラッズさん!」  
後ろから声をかけられ、クラッズは立ち止まった。  
「俺……大して力になれないかも知れないッスけど、何かあったら言ってください!俺、できる限り力になります!」  
クラッズは何も答えず、再び歩き出した。その後ろ姿を、ドワーフはずっと見送っていた。  
屋上に着くと、エルフが社交辞令的な笑顔で迎えた。クラッズも同じように、よそ行きの笑顔で応える。  
「来てくれたか」  
「呼ばれたからね」  
「それもそうだね。それで、話だけど…」  
クラッズは何も言わず、相手の言葉を待った。  
「……いや、はっきり言うしかないな。僕にとって、君は今まで夜空を彩る星のような輝きを放つ存在だった。でも今は、もう君に  
その輝きを感じることはできないんだ。だから……今まで付き合っては来たけれど、終わりにして欲しい」  
しばらく、二人とも口を開かなかった。が、不意にクラッズが明るい声を出した。  
「……やっぱり、そうかー。ま、何となくわかってたよ」  
「クラッズ…?」  
「そりゃ、こんな顔だもん。こんなになってまで、君と付き合っていけるなんて思ってないよ。強制する権利だってあるわけじゃないし。  
エルフ君が気にする必要はないよ」  
「そう……なのかい?」  
「そうだってば。ま、エルフ君ならすぐに次の相手も見つかるだろうし、私のことなんかさっさと忘れちゃってよ。私は戦士だし、  
恋より戦いの方があってるもん。それでも、短い間でも恋人同士になれたのは、嬉しかったよ」  
「………」  
「じゃ、そういうことで。幸せになってねー」  
エルフは声をかけようとしたが、クラッズはさっさと部屋に帰ってしまった。エルフはなす術も無く、ただその後ろ姿を見送っていた。  
 
その日以来、エルフとクラッズの交流は完全に途絶えた。それ以来クラッズも、何か物思いに沈むことが多くなった。そのおかげで、  
パーティの仲間であっても、非常に声がかけ辛い雰囲気になってしまった。  
彼女にとって、周りからの好奇の視線は、今では苦痛でしかなかった。それ故、その心と同じように、彼女は自室に篭る事が多くなった。  
そんなある日、一行は久しぶりに探索を休み、それぞれ思い思いの休日を過ごしていた。たまには外に出ようとクラッズがぶらぶらして  
いると、不意にドワーフが姿を見せた。  
「あれ、クラッズさん。暇そうッスね」  
「休みったって、する事ないしね」  
そう答えるクラッズの顔には、物憂げな表情しかなかった。いつも明るい笑顔を振りまいていた彼女からすれば、考えられないことだ。  
「クラッズさん。その……元気、出してください」  
「……何の話よ?」  
少し不愉快そうに、クラッズは聞き返した。  
「あの……彼氏さんと、別れたんスよね?」  
「まあねえ〜。こんな顔だし、しょうがないよね〜」  
そう言ってクラッズは笑う。だが、ドワーフは真面目な顔のままだ。  
「そんなこと言わないでください。クラッズさん、今でも十分可愛いッスよ」  
途端に、クラッズの眉が吊り上がった。  
「前にも言ったよね。見え透いたお世辞なんていらないんだけど」  
「クラッズさん…!」  
「君だって、本心では醜い顔だって思ってるんでしょ?当たり前だよね、私だってそう思うんだから。なのに、そんな見え透いたお世辞  
なんか言って、馬鹿らしいにも程があるよ」  
堰を切ったように、クラッズの口から次々に言葉があふれ出る。  
「そんなすぐばれるような、馬鹿げた嘘なんかつかれて、私が喜ぶとでも…!」  
「クラッズさん、申し訳ないッス!」  
パンッと高い音が響き、クラッズの言葉が止まった。クラッズは頬を押さえ、驚いた顔でドワーフを見つめる。  
「な…!いきなり何す…!?」  
「どうしてそんな事言うんスか!?」  
ドワーフが叫んだ。その剣幕に、クラッズは圧倒されてしまう。  
「俺がいつ嘘なんかついたんスか!?いつお世辞なんか言ったんスか!?俺は……俺は、いつも本心から言ってたんスよ!?それが  
そんな風に取られてたなんて、心外ッスよ!大体何スか、最近のクラッズさん!人の言う事にいちいち突っかかって、かと思ったら  
ぼんやりして、全然クラッズさんらしくないッスよ!俺、言ったじゃないッスか!何かあったら言って下さいって!それも上っ面だけの  
言葉だと思ってたんスか!?」  
そこまで一気にまくし立てると、ドワーフは荒い息をついた。  
「俺……悔しいッスよ。確かに、俺はクラッズさんより年下だし、経験だって浅いッスよ。でも、それでもクラッズさんの力に  
なりたいって…!それとも、やっぱり俺が頼りなさすぎるんスか?どうなんスか?」  
クラッズはしばらく呆然としていたが、やがて重い口を開いた。  
「……ごめん…」  
「謝ってくれなくていいッス。どうなんスか?結局、俺はクラッズさんの力にはなれないんスか?」  
「いや、違う……違うんだよ…。ただ……これは私の問題だから…。誰かに頼るなんて、できないんだよ…」  
「……クラッズさん…」  
今までとは打って変わって、ドワーフは静かな声で言った。  
 
「クラッズさんが強いのは、俺だってよく知ってますよ。でも、強がりすぎじゃないッスか?そんな怪我して、消えない痕がついて、  
しかもそれで捨てられたんじゃ、誰だって凹みますよ。俺、そんなクラッズさん見てるの、辛いッスよ」  
「………」  
「クラッズさん。俺に、何かできることあったら言って下さい。何もできないかもしれないッスけど、できる限りのことはしますから」  
クラッズはしばらくうつむいていたが、不意にドワーフの胸に顔を埋めた。  
「え……クラッズさん…!?」  
「……できることは、するんでしょ…?」  
さすがにドワーフは慌てたが、クラッズは低い声で言った。  
「先輩として、命令。しばらく、このままでいなさい」  
その肩は、小刻みに震えていた。ドワーフは何も答えられなかった。  
「嫌だなんて……言わせないから…」  
クラッズはそのまま、声を押し殺して泣き始めた。ドワーフはその肩を抱いてやることもできず、ただただ立ち尽くした。  
本当は、別れたくなんてなかった。こんな顔になっても、それでもいいと言って欲しかった。それは一つとして言葉にならず、すべて  
涙となってドワーフの胸にこぼれて消えた。  
「……っく…!……うぅ〜…!」  
押し殺した声で泣くクラッズ。黙ってその涙を受けるドワーフ。二人は人目も憚らず、しばらくそうしていた。  
やがて、泣くだけ泣いたクラッズが顔を上げた。その目は真っ赤だが、もう涙はほとんど出ていない。  
「ぐす……ごめん、君の服びしょびしょ」  
「いえ、いいッスよ。これぐらい、気にしません」  
最後に涙を拭うと、クラッズはドワーフから離れた。  
「……ねえ、モフモフ君」  
「あ、何スか?」  
「もう少し、私に付き合ってくれる?」  
「ええ、いいッスよ」  
すると、クラッズは今までとは打って変わって、いきなり怒ったような顔になった。  
「よし!じゃあ部屋行くよ、部屋!」  
強引に腕を掴まれ、引っ張られていくドワーフ。  
「え、部屋!?ちょっ……何するつもりッスか!?」  
「飲むよっ!酒っ!君だって飲めるでしょっ!?」  
「いや、それはその……てか、酒はちょっとまずいんじゃ…!?」  
「いいのっ!自棄酒ぐらい飲まなきゃ、やってられないってのよっ!ほら、さっさと来るっ!」  
部屋に入ると、クラッズは大量の想星恋慕を取り出した。どうやら探索で手に入れた物を、こっそり保管していたらしい。  
「これ、滅茶苦茶甘いとか聞いたんスけど…」  
「あ〜、そりゃもう甘いよ。うんざりするぐらい甘いよ。名前が気に入らないけど、味は好きなんだよね」  
そう言いながら、クラッズはドワーフと自分の前に一つずつ瓶を置く。  
「……一瓶単位…?」  
「それじゃ、かんぱーーーい!!!」  
自棄気味に叫ぶと、クラッズは思い切り瓶を打ちつけた。  
 
それからのペースは凄まじかった。二人の前に、瞬く間に空き瓶が積み上げられていく。時計の長針が半周するまでに、既に空き瓶は  
10本を超えている。しかも、ドワーフもそれなりに強い方ではあるのだが、そのドワーフを抜く勢いでクラッズは飲み続けている。  
「クラッズさん……さすがに、ちょっと控えた方が…」  
「あぁ〜!?うるせぇ〜!」  
クラッズの顔は、既に真っ赤に染まっている。そのおかげで傷跡もくっきりと浮かび上がり、一種異様な迫力がある。  
「へっ!えるふのばかやろ〜め!ヒック!」  
「……クラッズさん、もうやめた方がいいッスよ」  
「うるせ〜、せんぱいにさしずすんなぁ〜!」  
これには、ドワーフも閉口した。とにかく、酒癖が悪すぎる。自棄酒というのも理由の一端ではあろうが、それにしてもひどい。  
「あ〜あ、どうせわたしは、みにくいかおですよ〜だ!」  
「クラッズさん……またその話ッスか?」  
ドワーフがうんざりしたように口を開く。  
「あぁ!?だって、ほんとのことだろ〜!?」  
「そりゃ……確かにひどい傷跡ッスけど、その、それでも十分可愛いッスよ」  
「あはははははは!!!」  
突然、けたたましく笑い出すクラッズ。  
「な、何スか?」  
「そーかー。じゃ、きみ、こんなかおのおんなのこと、きすできる〜?」  
「な、何言い出すんスか…!?お、お、俺は、その……できますよ…!」  
「へー、そう?それはすごいなー。あははは!!」  
クラッズは再び笑い出す。そして、今度は意地悪な笑みが浮かんだ。  
「じゃ、きみ、わたしのこと、だける〜?」  
「いや、その……な、何言ってるんスか、もう…!」  
さすがに、ドワーフはすっかり参ってしまう。  
「どぉ〜?さすがにむりでしょ〜」  
「いや……俺は…!」  
「まーそーだろーねー。それとも、なぁにぃ?できるっていうのぉ?だったら、いいけどぉ?いくらでも、きみのすきにすれば…」  
クラッズが言い終える前に、ドワーフは酒瓶を捨て、クラッズを押し倒した。  
「……え…?」  
「俺、できますよ」  
「え……あの……マジ…?え?」  
「俺、クラッズさんなら、抱けますよ」  
その目は本気だった。クラッズの酔いが、一瞬のうちに醒めていく。  
「あ、いや……冗談だよ?ほ、本気にした?」  
「クラッズさん、やっぱり俺のこと信じてないんスね。だから、証拠見せますよ」  
「いや、その…!あの、冗談だってば…!お酒入ってたからさ、それでつい…!」  
「だからこそッス。誰でも、酒が入れば本心出ますからね」  
赤かったクラッズの顔は、今では心持ち青ざめている。  
ドワーフがクラッズの制服に手を掛ける。クラッズはその手を押さえようとするが、逆に押さえ込まれてしまう。  
「や、やだ!やめてよ!さっきのは取り消し!やめなさい!わ、私は先輩だよ!?」  
「知らないッスよ、そんなの。俺だって散々コケにされて、いい加減限界ッス」  
クラッズにとって災難だったのは、ドワーフにもしっかり酒が入っていたことである。もはや先輩後輩といった立場の違いなど考慮せず、  
ただ一人の男としての怒りをぶつけてきている。  
腕を押さえつけられ、服を無理矢理脱がされるクラッズ。体をよじり、足をばたつかせ、必死に抵抗を試みるが、そんなものは何の  
役にも立たない。  
 
「やだよ!やめてよぉ!ひどいことしないでぇ!」  
「ひどいこと?」  
パンツに手を掛けながら、ドワーフが不機嫌そうな顔で聞き返す。  
「俺のこと散々疑いまくって、言うこと全部嘘扱いしたクラッズさんと、どっちがひどいんスかね?」  
吐き捨てるように言い、クラッズのパンツを剥ぎ取る。ついにすべての服を剥ぎ取られた恥ずかしさと、悔しさと、その言葉の重さに、  
とうとうクラッズは自棄になって叫んだ。  
「じゃあいいよっ!私のこと抱くなり何なり、どうとでも君の好きにすればいいよ!」  
涙を浮かべた顔を見られないように、クラッズはプイッと横を向いた。しかし、ドワーフはそれ以上何もしてこない。  
不思議に思い、おずおずと顔を元に戻す。すると、ドワーフはクラッズを押さえつけていた手を放し、その頭を優しく撫でた。  
「ごめんなさい、クラッズさん」  
「な……何が?」  
「つい、ムカついてここまでしましたけど……俺、クラッズさんを傷つけるつもりなんてなかったッス」  
「やる気満々だったじゃん…」  
「でも、その……今更遅いッスけど、俺、クラッズさんに嫌われたくないッス」  
そっとクラッズの顔を撫で、ドワーフは続けた。  
「前も言いましたけど……俺、クラッズさん好きッスから」  
ビクッと、クラッズの体が震えた。  
「……嘘……だよね?」  
「まだ、疑うんスか?」  
「当たり前だよっ!だって……だって、この顔、君だって見えるでしょ!?この傷!!こんな顔……なのに、そんな事言われたって…!」  
「だから何スか。俺、クラッズさんの顔が好きなんじゃなくって、クラッズさんが好きなんスよ」  
「……嘘だよ。絶対……絶対嘘だぁ…!」  
この顔のせいで、エルフには捨てられた。だからこそ、ドワーフのその言葉が信じられなかった。信じるのが怖かった。  
そんなクラッズの体を抱き起こすと、ドワーフはそっと口付けを交わした。  
「んうっ…!?」  
ドワーフの舌が、クラッズの口に入り込む。最初は怯えたように縮こまっていたクラッズの舌も、やがて少しずつそれに応え始める。  
すると、ドワーフはついっと口を離し、クラッズに微笑みかけた。  
「ほら、キスはできたッス」  
「……うん…」  
いつもと変わらない笑顔で、自分を抱き締めてくれるドワーフ。クラッズの中で、何かが吹っ切れた。  
「でも……さ、まだちょっと、信じられない」  
「じゃあ、どうしたら信じてくれるんスか」  
ドワーフが口を尖らせる。そんな彼に、クラッズはいたずらな笑顔を見せた。  
「本当に、続き……できる?」  
「え…」  
明らかに、ドワーフはうろたえた。その様子に、今度はクラッズが口を尖らせる。  
「なぁに、まさか嘘だって…!」  
「あ、いや、違うんスよ。ただ、その……実は、えっと……俺、大口叩きましたけど、初めてなんで…」  
なぁんだ、と、クラッズは笑った。  
「ちょっとびっくりしたじゃない、もぉ〜。大丈夫、そんなに難しく考えないで、ね?」  
言いながら、そっとドワーフの手を取り、自分の胸に当てる。ドワーフはビクッとして手を引っ込めかけたが、クラッズはしっかりと  
押さえつける。やがてその意図を汲み、ドワーフは慣れない手つきでその平たい胸を揉み始める。  
「んんっ!」  
「あ、大丈夫ッスか?」  
「ん、気にしないでいいの。気持ちいいんだから」  
「あ、そうなんスか?申し訳ないッス…」  
 
単調になると良くないことは知っていたので、今度は小さな乳首を軽く摘んでみる。途端に、クラッズの体がビクンと跳ねた。  
「あんっ!やっ……そこは、弱いからダメぇ…!」  
「申し訳……あ、でも、気持ちいいんスよね…?」  
「ん……ま、そういうことだね。えへ」  
明らかに年上のはずなのだが、いたずらっ子のような笑顔を浮かべる彼女は、とてもそう見えない。そこはかとなく背徳的な気分に  
なるものの、ドワーフは自分に犯罪ではないと言い聞かせる。  
乳首を口に含み、舌先で転がしつつ吸い上げる。クラッズはドワーフの頭を抱きかかえ、細かく荒い息をつく。既にクラッズの肌は上気し、  
微かに汗の匂いと、女としての匂いが混じり始めている。  
それを感じ取ると、ドワーフはクラッズの秘唇に手を伸ばした。指で触れると、微かな水音と共に熱い液体が貼り付く。  
「あぅっ!も、もうそこ?」  
「え、あ……ま、まずかったッスか…!?」  
「ん〜、いいよ。でも入れるのは、もうちょっと濡れてからで、ね?」  
「お、オス」  
愛液の染み出す秘裂の周りを、じっくりと撫でる。クラッズは目を瞑り、ひたすらその快感に身を任せている。  
やがてドワーフの指全体に愛液がまとわり付くと、慎重に秘裂の中へと指を入れていく。  
「んんっ……う……んんん…!」  
クラッズの呼吸に合わせ、中はドワーフの指を締め付ける。その感覚に、ドワーフの我慢も一気に限界を超えた。  
「その……クラッズさん、俺…!」  
「んっ……はぁ…。もう、入れたい?」  
ドワーフはこくんと頷く。  
「わかった。それじゃ、ね」  
クラッズはドワーフから一度離れると、ベッドに上半身を預けて腰を突き出した。  
「ああ……その、そっちから…?」  
「モフモフ君だと、前からよりこっちの方がしやすいかなって思ってさ」  
ひどい偏見だ、と思ったが、口には出さないでおいた。それに、入れる場所が見える分、確かにしやすいとも言える。  
ズボンを下ろし、ドワーフのモノが露になった瞬間、クラッズは少し怯えたような表情になった。  
「うわ、えっと……モフモフ君?」  
「あ、はい、何スか?」  
「え〜っとね……私、そんな太いの入れたことないから…」  
ドワーフのそれは、エルフのモノより二回りほど大きかった。エルフのそれですら少しきつかったのに、あれが入れられるかと言うと  
若干の不安がある。  
「だから、優しく……優しく、ね?」  
「わ、わかりました。えっと……それじゃ、いきますよ…?」  
「うん、きて」  
クラッズの腰を抱き、自身のモノをあてがうドワーフ。入り口に何度か先端を擦りつけ、自身のモノを濡らすと、グッと腰を突き出す。  
だが、まだ経験のないドワーフはうまく入れることができず、なかなか入ってくれない。  
「ん……あれ…?くそ…!」  
「ちょ、ちょっとモフモフ君、あんまり強く押し付けな…!」  
だんだん焦って乱暴になるドワーフの行為を抑えようとした瞬間、先端が僅かに入り込んだ。  
その瞬間、ドワーフは思い切り腰を突き出した。  
「うあああぁぁっ!!!」  
「うぅっ…!」  
二人が同時に叫ぶ。だが、ドワーフの声は快感によるものだが、クラッズのそれはいきなり太いモノを体内に突き入れられる、  
痛みと苦しみによるものだった。  
 
一気に奥まで突き込んでしまうと、ドワーフはしばらくクラッズの腰を抱え、じっとしていた。クラッズの方も疼痛とはまた別の、  
初めて経験したときと同じような痛みと、内側から体内を押し広げられる圧迫感に荒い息をついていた。  
「あっ……ぐ…!かはっ…!」  
「クラッズさん……動き、ますよ?」  
「ま、待って!まだ…!」  
返事を聞く前に、ドワーフは既に動き始めていた。しかも、その動きは何の遠慮もない、ひどく激しいものだった。  
「い、痛っ!や……待っ…!まだダメだってばぁ!」  
涙声で抗議するが、ドワーフの耳には届いていないらしかった。クラッズの体内を容赦なく突き上げ、その度にクラッズは耐え難い  
苦痛に涙を流す。子宮を叩かれ、僅かに裂けたらしい傷を擦られ、中全体を荒々しく押し広げられる苦しみは尋常ではない。  
ついにクラッズは耐え切れなくなり、自分の腰を掴むドワーフの腕の毛を掴み、思いっきり引っ張った。  
「痛って!?な、何するん…!?」  
途中まで言いかけて、ドワーフは肩越しに振り返ったクラッズの目に気付いた。その目は涙に濡れ、若干怒りの色が浮かんでいる。  
「はぁ……はぁ……や、優しくって言ったのにぃ!」  
「あっ!も、申し訳ないッス!つい…!」  
「焦っちゃ、ダメ。くすん……いい…?もう絶対ひどくしないでよ…?」  
「申し訳なかったッス。大丈夫ッス」  
今度こそ、ゆっくりと腰を動かすドワーフ。それでも痛いものは痛いが、その中にも幾分かの快感がある。  
ふと、ドワーフが腰から手を放し、代わりにクラッズの乳首を摘んだ。新しい刺激に、クラッズの体がピクンと跳ねる。  
「あっ!それ、好きぃ…!んん……もうちょっと、そこ強くぅ…!」  
ようやく快感が痛みを上回り、クラッズは甘い声で更なる快感をねだる。ドワーフの手が乳首を転がすように撫で、摘んで引っ張り、  
その度にクラッズは嬌声を上げる。  
ぎちぎちにきつかった膣内も少しずつ慣れ、クラッズの嬌声に合わせてドワーフのモノをキュッと締め付けている。  
ふと、ドワーフはクラッズの体を引き起こした。  
「えっ?うわ!?」  
ベッドに乗り、クラッズの体を抱き上げるドワーフ。その体をそっと横たえると、今度はクラッズの足を掴み、向きを仰向けに直す。  
ドワーフの目が、真っ直ぐにクラッズの顔を見下ろす。  
反射的に、クラッズは顔を手で覆った。だが、ドワーフはその手を掴み、無理矢理押さえつける。  
「い、嫌だよ、放して!」  
「嫌ッス」  
「やだってば!やめてよ!見ないでよ!!こんな顔見ないでぇ!」  
こんな時に、この傷ついた顔を見られるなんて、クラッズには耐えられなかった。しかし、それでもドワーフは手を放さない。  
「お願いだから放してぇ!!もうこんな顔見ないでぇ!!」  
半狂乱になり、叫ぶクラッズ。だが、それに負けない大声でドワーフが怒鳴った。  
「絶対放さないッス!」  
突然の大声に、クラッズはビクッと身を竦めた。しかし、声の割にドワーフの顔は優しい。  
「絶対、放さないッス!何があっても、絶対!……クラッズさんが、辛いのはわかります。でも、逃げないでください!自分から、  
人から、逃げないでください!俺、絶対一緒にいますから!俺は、逃げません!だから、クラッズさん……俺を、受け入れてください!」  
クラッズは涙に濡れた目で、ドワーフを見上げていた。が、やがてポツリと呟く。  
「……放すの意味が違うよ、ばかぁ…」  
そう言いつつも、暴れていたクラッズの手から、徐々に力が抜けていった。  
「クラッズさん、可愛いッスよ」  
ドワーフはそっと、クラッズの傷跡を舐めた。  
「……ばか…」  
その体に、ぎゅっとしがみつくクラッズ。そのおかげで、またドワーフの心に火がつく。  
 
猛然と突き上げるドワーフ。あまりの激しさに、クラッズの体はガクガクと揺さぶられている。  
「うあっ!?あっく!い、いきなり……激しいよっ…!」  
ドワーフの体から流れる汗が、突き上げる度にクラッズに落ちる。獣のような匂いと行為が、クラッズに今まで味わったことのない  
快感を与える。激しい痛みと苦しみすら、今のクラッズには快感の一種としてしか捉えられない。  
「ぐうぅぅ…!クラッズさん…!俺……俺、もうっ!」  
もう限界が近いらしく、ドワーフは切羽詰った声を出す。  
「ああっ!うっ!あっ!ま、まだダメぇ!!もっと突いてぇ!!」  
「すんません!でも、ほんとっ…!くっ……あっ…!」  
クラッズの訴えも虚しく、ドワーフはクラッズの中に精を吐き出した。腹の奥に勢いよく当たるその感覚も、クラッズに激しい快感を  
もたらすが、やはり少し足りなかった。  
最後の一滴までクラッズの中に注ぎ込むと、ドワーフは深く息をついてクラッズの隣に倒れた。  
「もう……私ももうちょっとだったのにぃ…」  
「も……申し訳ないッス…」  
「いきなり痛くするし、自分だけイッちゃうし……女の子に優しくできないと、嫌われるよ?」  
「……申し訳ないッス…」  
本気で凹んでいるドワーフの顔を、クラッズは優しく撫でた。  
「でも、こういうの初めて。私のこと守るなんて言った人、君が初めてだよ」  
「はぁ…」  
「それに、すっごい激しいの。ほんとに獣に犯されてるみたいで、ちょっと興奮したかな?あはは」  
「お……俺は獣ッスか…」  
「あ、やだな。冗談だよ。半分」  
軽く息をつき、クラッズはドワーフの顔を見つめた。  
「……ほんとに、こんな顔なのに抱かれちゃったね」  
「今でも、十分可愛いッス」  
「そう言ってくれるのなんて、たぶん君だけだよ」  
愛しそうに毛を撫でつけ、クラッズはドワーフの目を見つめる。  
「モフモフ君。私さ、こんな顔になったし、もうずっと戦士として、一人で生きて行こうと思った。男にも、他の種族にも負けない、  
強い戦士になろうって……それ自体はずっと思ってたけど、今回は心の底からそう思ってた。でも……君のせいで、ちょっと無理に  
なりそうだよ」  
少し不安そうな笑顔を浮かべ、クラッズは確認するように尋ねた。  
「私の背中……ずっと、守っててくれる?」  
ドワーフは恥ずかしそうに笑い、クラッズの体を抱き寄せた。  
「死んでも、守り抜きますよ」  
 
「嬉し……痛っ!」  
不意に顔をしかめるクラッズ。よくよく見ると、二人はまだ繋がったままである。  
「あ、申し訳ないッス!すぐ…!」  
「ちょっ、痛い痛い!待って、動かないで!抜かないで!……う〜、血、出ちゃってるでしょ…?」  
「え?あ、ほんとだ!だ、大丈夫ッスか!?すみません、俺のせいで…」  
「ほんとだよ、まったくぅ……だいじょぶだけどさ」  
ちょっとすねたように言うと、クラッズはドワーフの首に手を回した。  
「抜くの痛いから、小さくなってからにしてね」  
「お……オス…」  
「それとさ、言い損ねたけど」  
「な、何スか?」  
「……私の背中、君に預けるよ」  
「……はい」  
二人はお互いを見つめあい、恥ずかしそうに笑った。  
「それじゃ、モフモフ……ううん、ドワーフ君。これから、よろしく」  
ドワーフの鼻にキスをするクラッズ。そんなクラッズを、ドワーフは優しく抱き締めた。  
 
ランツレートに、影で名物と呼ばれる生徒がいる。  
巨大な鎚と小さな体。顔には大きな三本の傷。  
彼女は小さな女の子。しかし、傷すら誇示するように、堂々と前を向いている。  
彼女は決して振り返らない。背中は彼が守るから。  
背中を守る、一人の君主。常に彼女の影となり、危険はその身で引き受ける。  
その目は彼女の背中を守り、尻尾は彼女を抱き寄せる。  
戦士の彼女と、君主の彼と。例えるならば、剣と盾。  
彼を見て、彼女を見て、周りはみんな、こう漏らす。  
「あいつには、かなわないな」と。  
そんな、ちょっとした名物コンビである。  
 

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