パーティを組むとき、何を重視するかは大きく分かれる。  
大抵は、ある程度の相性を考慮し、それぞれ違う学科の生徒をバランスよく組み込んで作っていく。  
しかし、中には戦闘力に劣る盗賊系学科を省き、徹底的に戦闘力を求めたパーティを組んだり、逆に僧侶や司祭などの回復魔法を使える  
生徒を多く入れ、極力安全なパーティを組む者達もいる。あるいは、どのパーティからもあぶれてしまい、仕方なく残った者同士で  
組むこともある。いずれにしろ、そういったパーティの場合は、あまり相性を考慮しないことも多い。  
彼等もまた、そんなパーティの一つだった。ヒューマン、フェアリー、クラッズ、エルフ。ここまでなら、相性は比較的いい方である。  
しかし残りの二人は、よりにもよって、バハムーンにディアボロス。  
彼等は余った者同士で組まれたパーティであり、組んだばかりの頃は学科も滅茶苦茶、相性も最悪という状態であった。それでも何とか  
折り合いをつけ、幾人かは転科をし、辛うじてパーティとしての実力も安定してきたところである。  
とはいえ、相性ばかりはなかなか溝が埋まらない。特にディアボロスとバハムーンは、仲間のほとんどに嫌われている有様である。  
クラッズとエルフは特にディアボロスを嫌い、フェアリーとヒューマンはバハムーンを嫌う。バハムーン自身はヒューマンとフェアリーを  
筆頭に、他の仲間を見下しているし、ディアボロスは自分から距離を取ってしまい、なかなか仲間との連携が取れない。  
そんな彼等の間では、常に口喧嘩が絶えなかった。寮で、学食で、地下道で、時と場所を問わず、いつも誰かしらが口論をする。  
この時も、彼等は戦闘中だというのに、口喧嘩の真っ最中だった。  
「おい、チビ二人。貴様らは下がっていろ」  
「うるさいな、お前は!とろいくせに、えらそうな口利くな!」  
「フェアリー君、落ち着いて。あんな奴の言うことなんて、いちいち聞かなくていいよ」  
クラッズも、あまりバハムーンを好きではない。そのため、どうしてもフェアリーの擁護に回ることが多い。  
「ふん。ろくに攻撃を耐えられもしないくせに、口だけは一人前だな」  
「バハムーン、いい加減にしろよ。少しは黙って戦えっての」  
「下等生物のくせに、俺に指図するな」  
「やれやれ、本当に傲慢な方だ。戦いは、一人でするものではないよ」  
「傲慢、か。だがエルフ、それを貴様に言われるのは、些か心外だな」  
全員、手よりも口がよく動いている。その内容からはあまり緊張感を読み取れないが、実際の戦況は決して楽観できる状況ではなかった。  
敵との実力はほぼ拮抗しており、これまで戦い詰めだった一行の余力では、その戦闘はかなり厳しいものとなっている。それでも何とか  
赤目の巨人を打ち倒し、今度は残る敵の殲滅である。しかし、それを易々とさせてくれるほど、生易しい地下道ではない。  
エビルベビーの攻撃で、味方が吹っ飛ぶ。だが、それは味方とはいっても、既に全身腐った姿のゾンビである。そのゾンビが崩れ去り、  
地下道の床に消えると、ディアボロスは軽く舌打ちをして魔法の詠唱を始めた。  
「……出ておいで、骨戦士」  
詠唱が終わると同時に、今度は骨ばかりの姿になったアンデッドが現れた。その禍々しい姿に、仲間全員が嫌そうな顔をする。  
「……頼りにはなるけど、私あの子苦手だなぁ…。召喚するのも、アンデッド多いしさ」  
クラッズが呟くと、エルフも苦々しい表情でディアボロスを見つめる。  
「まったく……何だって、僕達があんな魔族なんかと…!」  
「黙れ、下等種族共。俺から見れば、貴様らもあいつも、さして変わらん」  
「一緒にするなっ!」  
吐き捨てるように言ってから、エルフは素早くメタヒーラスを詠唱する。司祭である彼の魔力は、もう限界が近い。  
 
「あとはあいつらだけなんだ!一気にいくぞ!」  
フェアリーは意識を集中し、ファイガンを放つ。しかし、ここまで来ると敵の抵抗力も高く、彼の魔法は相手を僅かに傷つけたに  
過ぎなかった。それを見て、バハムーンが鼻で笑う。  
「ふん。なんだ、その火遊びは?それで攻撃のつもりなのか?」  
「くっ……うるさいな!これでもちゃんとした魔法だ!」  
「まあ、貴様のようなチビには、お似合いの玩具だ。だがな、炎と言うものは……こう使うんだ!」  
言うなり、バハムーンは猛烈な火炎を吐き出した。ブレスの威力は凄まじく、半数以上のエビルベビーが消し炭へと変えられた。しかし、  
それでも二匹のエビルベビーが耐え抜いた。  
「いい炎だ。しかし、まだ甘い」  
今度はディアボロスが、薄笑いを浮かべて口を開く。  
「何だと?」  
「お前の炎は、まだぬるい。それでは、通用する相手も知れていると言うもの」  
鞭を手元に納めると、ディアボロスは大きく息を吸った。  
「見せてやる。本当の火炎というものをな」  
直後、辺りに凄まじい熱気が放たれ、真っ白な炎が敵を包んだ。一瞬後、エビルベビー達は一握りの灰となって、地面に落ちていた。  
「いかなドラゴンのブレスと言えど、地獄の業火には、かなうまいよ」  
そう言って、ディアボロスはバハムーンに笑いかける。  
「……ちっ!」  
さすがに、これだけの差を見せられると言い返すことは出来ない。バハムーンは舌打ちをして、視線を外した。  
「ふう、辛勝ってとこだな。なあエルフ、そろそろ戻った方がいいんじゃないか。お前の魔力だって、あまり残ってないだろ?」  
ヒューマンの言葉に、フェアリーとクラッズも賛成の意を示す。  
「そうだね。今日はこのぐらいにしておこうか」  
「ふ……呼び出しはしたものの、骨戦士の出番は、なさそうだな」  
ディアボロスはそう言って笑うが、誰も笑わない。それ以前に、ほとんどの者はあまり関わりたくないとすら思っている。  
「ふん。わざわざ手下なんぞ呼ぶ奴は、何かと面倒だな。たまには、手下抜きで戦ってみたらどうなんだ」  
唯一、バハムーンが声をかける。それに対し、ディアボロスは相変わらずの薄笑いで答える。  
「召喚師は、使役を召喚してこそ。わざわざ自分の手を、汚すつもりはないねえ」  
「そうかよ。ふん、本当に陰気な女だ、貴様は」  
「褒め言葉として、受け取っておこう」  
「褒めてねえ」  
「そりゃ残念」  
冗談なんだか本気なんだかわからない会話を交わす二人を、他の四人は少し引いた目で見ている。  
「……とりあえず、バックドアル使おうか」  
「お願いしまーす」  
「とにかく、さっさと帰ろう。今日はもう帰って寝たいよ」  
「それじゃあ帰る前に。みんな、お疲れ様」  
そして、エルフがバックドアルを詠唱する。一行は光に包まれると、一瞬のうちにその姿を消していた。  
 
探索を終えると、バハムーンとディアボロス以外の四人は学食へ向かった。二人は特に何か話すでもなく、揃って寮へと歩き出す。  
建物の中に入り、階段を上り始めたところで、おもむろにディアボロスが口を開いた。  
「暇だな」  
「だからなんだ」  
「お前の部屋に行ってもいいか?」  
「断る」  
「残念」  
それからまた、二人は黙って階段を上る。が、少し歩いてから、今度はバハムーンが口を開く。  
「どうして、俺のところなんだ」  
「お前以外、誰の部屋に行けと?」  
「む……お、俺が知るか!」  
「それで?結局、ダメなのか?」  
「………」  
バハムーンはしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。  
「長居しなければ、構わん」  
「少し話したいだけさ。そう長居をするつもりはないよ」  
いつもと変わらない、表情の読めない声で言うと、ディアボロスは薄笑いを浮かべた。その顔も、表情をあまり読み取れない。  
ともあれ、二人は揃ってバハムーンの部屋に向かった。部屋の中は、案外きちんと整理されている。  
「へえ。意外と几帳面じゃないか」  
「それぐらい当然だ」  
「こういうのを見ると、少し散らかしてやりたくなるね」  
「ふざけるな。ぶん殴るぞ」  
「冗談さ。そんなことはしない」  
まるで自分の部屋のように、ディアボロスは椅子にドカッと座り込んだ。バハムーンは一瞬、力尽くでどかそうかと考えたが、辛うじて  
思いとどまり、仕方なくベッドに腰を下ろす。  
「で、何を話すつもりだ?」  
「特に、考えてたわけじゃあない。……そうだね。お前、これ外せるかい?」  
「ん?」  
ディアボロスが放った物を取ると、何やら複雑な形をした金属が絡み合っている。  
「……?」  
バハムーンは真剣な顔で、それを矯めつ眇めつ眺めている。その姿に、ディアボロスは笑いを堪えるのに必死だ。  
「どうだ?外せまい?」  
「……黙れ」  
やがて、だんだんと額に皺が寄り、眉がじりじりと吊り上がる。そして顔が赤くなってきたと思った瞬間、彼はそれをがっしり掴んだ。  
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」  
ペキッと軽い音がし、知恵の輪は見事二つに分断された。  
「ちょっ……おまっ…!」  
「はぁ、はぁ……どうだ、外れたぞ」  
「お前……それは知恵の輪と言ってだな、少し頭を使えば、誰でも簡単に取れるものなんだぞ」  
「知恵だと?そんなもの必要ない!ああ、ないとも!そんなものを必要とするのは、貴様らのような下等な種族だけだ!」  
「……ふ、そうか。あ〜あ、見事に壊しやがって」  
投げ返された知恵の輪を眺め、呆れたように笑うディアボロス。  
 
「まあ、確かにこれほどの力があれば、知恵なんぞなくたって、外せるわな」  
「で、それがどうかしたのか?」  
「いやぁ…」  
ディアボロスはクックッと、実に楽しそうに含み笑いをする。  
「何がおかしい?」  
「おかしいってよりは……そうだな、嬉しい……が、妥当か」  
「嬉しい?何がだ?」  
「お前が、思ったとおりの奴だから、さ」  
「……?よくわからんな。わかるように言え」  
「ふふふ…」  
また、ディアボロスは笑う。その顔は本当に楽しげで、今まで見たこともないような表情だった。  
「お前は、平等だ」  
「は?」  
「ヒューマンもエルフもドワーフもクラッズも、そしてディアボロスも、すべて等しく……見下している。ククク…」  
「……??」  
バハムーンは彼女の胸の内をわかりかね、ただ首を傾げる。一体何がおかしいのか、理解できない。  
「実に、傲慢。それでいて、最も平等。皮肉なものよな」  
「えっと…?ん…?」  
「はは、これ以上は長居になるな。続きは、また今度にしようか」  
そう言い、席を立つディアボロス。よくわからないことを一方的に言われたバハムーンは、慌ててその肩を掴む。  
「おい、待て!ちゃんと俺にもわかるように説明…!」  
「だから、言っただろう?続きは、また今度だ。もう来るなと言うなら、もう来ないが。どうする?」  
「貴様、俺を馬鹿にしているのか!?」  
「まさか。だが、お前が言ったはずだがな?長居をするな、と」  
「それは言ったが……な、なら今もう一つ追加する!ちゃんと、俺にもわかるように話せ!」  
「男に二言は、ないものだろう?後から付け足すのは、少しみっともないんじゃないか?」  
「ぐっ…!」  
プライドという、最も大切で危険なものに刃を突きつけられ、バハムーンは呻いた。その手から力が抜けると同時に、ディアボロスは  
するりとそこから抜け出す。  
「また、近いうちに邪魔させてもらおうか?」  
『答えは聞かなくてもわかっている』と言わんばかりの表情。その思い通りに動くのは実に癪ではあったが、彼の答えは必然的に一つに  
絞られていた。  
「……ああ!近いうちにな!くそっ!」  
「ははは、楽しみにしてるよ」  
実に楽しそうな表情を浮かべたまま、部屋を出ていくディアボロス。その姿を見送ってから、バハムーンは忌々しげに壁を殴りつけた。  
 
その日以来、ディアボロスはちょくちょくバハムーンの部屋へ行くようになった。  
パーティのことを話したり、ここ最近の気候の話をしたり、話題はその日によって色々だったが、最初にした話に関してだけは、  
ディアボロスはいつものらりくらりと逃げてしまい、まったく進展がなかった。何度聞いても、絶対に話さないディアボロスに対して、  
最初のうちは腹立たしさが募った。何より、バハムーンにとっては自分の思い通りにならないということが、何より腹立たしかった。  
この時も、ディアボロスは肝心の話をしないまま席を立った。いい加減限界に来ていたバハムーンは、その肩をしっかりと捕まえる。  
「おい、貴様。いつも言ってるだろう。あの時言ったことの意味を、俺にもわかるように教えろ!」  
「さぁて、ねえ?もうちょっと、自分の頭で考えたらどうだ?」  
「貴様…!」  
バハムーンの顔が怒りに歪み、直後、彼は彼女の胸倉を掴んでいた。  
「いい加減にしろ!さっさと話せ!」  
「……乱暴な男だ。でも、それも悪くはない」  
「聞いているのか!?」  
「お前はきっと、誰にでもこうするのだろうな。ヒューマンでも、エルフでも、ノームでも……な」  
言いながら、ディアボロスはバハムーンの顔をすうっと撫でた。それに驚き、バハムーンが思わず手を放すと、彼女は笑った。  
「はは。力だけで何でもできると思うな。お前の力なぞ、こうして撫でてやるだけで押さえつけられるものだ」  
「ぐ……い、いや、違うぞ!今のは貴様がやったわけじゃない!俺が、自分の意思で放したんだ!」  
「でも、撫でなきゃ放さなかった。違うかい?」  
「うぐぐ…!」  
「はっはっは。わかったろ?ちょっと工夫してやれば、相手が自ら、自分の都合のために動いてくれるもんさ。だから、お前も  
そうしてみたら、どうだ?もしかしたら、自分から話したくなるかもしれないな?」  
そうは言われても、元々対人関係が非常にまずいバハムーンである。そんな手段など思いつくはずもなく、彼はその日の間中、ずっと  
頭を抱える羽目になってしまった。  
悩み悩んで次の日、彼は部屋に来た彼女に対し、お菓子を出してみた。  
「あのな……餌で釣ろうって魂胆が見え見えだ」  
「べ、別に釣ろうとしたわけじゃ…!」  
「でも、昨日言われて考えた結果が、これだろ?だとしたら、それは餌で釣ろうってことじゃないのか」  
「そ……そうか。いや、違うっ!貴様みたいな下等種族になど、本来気を使う必要なんかないんだぞ!それをわざわざ、こうして  
出してやったのに、それを…!」  
「そうやって相手を貶すと、どんどん口が硬くなるってのを知らないのか?嫌いな相手に対しては、何も話したくなくなるものだ」  
「……むぅ…」  
根は素直な男である。生粋の武人肌とも言える気性で、傲慢ではあるが、その一方で非常に純粋な面もある。ちょっとうまいことを  
言われると、すぐ丸め込まれてしまうのだが、本人はその事に気付いていない。  
そんな様子がおかしくて、ディアボロスは顔にこそ出さなかったが、心の中で爆笑していた。  
「さりとて、これを食わないという気にも、ならないがね。ありがたくいただくよ」  
クッキーを頬張る彼女を見て、バハムーンは大きなため息をついた。  
それからも、バハムーンの努力は続いた。必死に自分から話題を探したり、一緒に食事をしてみたり、思いつくことは何でも実践した。  
だんだん手段が目的になってきた感はあるものの、それでもバハムーンは頑張り続けた。  
気付けば、いつしかディアボロスが部屋に来るのが楽しみになっていた。今日はうまくいくだろうか、明日はうまくできるだろうかという  
思案も、だんだんと心地良いものに感じられるようになった。  
それに従い、バハムーンの態度も少しずつ変わっていった。今までは相手を見下していたのが、いつしか自分と同等の相手に接するように  
なっている。とはいえ、元が傲慢なので基本的には自分が上という態度なのだが、今までの彼からすれば大きな変化である。  
他の仲間とは、相変わらずほとんど付き合いもない。仲も悪いままである。しかし、この嫌われ者同士の二人は、いつしか友人と呼べる  
間柄になっていた。  
 
やがて、探索後に揃ってバハムーンの部屋で過ごすのが日課となった頃。珍しくディアボロスは長居をしており、気付けば既に日は沈み、  
窓の外はすっかり暗くなっていた。  
「ん、ずいぶん話していたようだな。もう真っ暗だ」  
「そのようだ。まあ、たまにはいいだろう?」  
ディアボロスがチョコレートを齧りながら答える。彼女は甘いものが好きらしく、お菓子系統には食いつきがいい。  
「ふん。たまにはな」  
「お前と話していると、退屈しない。いわんや、こうして二人でいると、な」  
最初は軽く聞き流したバハムーンだったが、その言葉に含まれる意味深な響きに、ふと顔を上げた。その目の前に、奇妙な形をした物が  
放り投げられる。  
細長いO字形の輪の中に、星のような形をした物が挟まっている、奇妙な物体だった。カタカタ振ってみても、とても外れそうには  
見えない代物である。  
「……また、知恵の輪とやらか」  
「そうだ。中のそれを、取れるか?」  
今度の知恵の輪は、ずいぶんと太い鉄製だった。さすがに引きちぎろうという気は起こらず、バハムーンはしばらく真剣な顔で知恵の輪と  
向き合った。が、やはり解けるわけもなく、だんだんと表情が険しくなっていく。  
「今度の物は、いかなお前とて、外せまい?」  
その一言が、バハムーンの癇に障った。一瞬の間を置いて、彼は知恵の輪をしっかりと掴む。  
「おおおぉぉぉうりゃあああぁぁぁ!!!!」  
メリメリと輪が悲鳴をあげ、やがてガキンという音とともに、O字形だった輪はCの字にされてしまった。  
「こらぁーっ!」  
「ぜぇ、ぜぇ……どうだ、外してやったぞ!」  
してやったりと言う顔のバハムーン。一方のディアボロスは、悲しそうな、それでいて呆れつつ、嬉しそうという複雑極まりない表情を  
している。  
「あ〜あ、それはお気に入りだったんだが……仕方ないな」  
「俺にやらせるからそうなるんだ」  
「自慢げに言うな、馬鹿者」  
とはいえ、彼女も本気で怒っているわけではなさそうだった。投げ返された知恵の輪を見て、何ともいえない苦笑いを浮かべている。  
「……お前は、やはり公平だ」  
感慨深げに呟くディアボロス。その言葉に、バハムーンはようやく当初の目標を思い出した。しかし、それを敢えて尋ねるまでもなく、  
彼女は自分から話しだした。  
「どんな知恵の輪とて、破壊されてはどれも同じ。それと同じように、お前にとってはどんな種族も、自分より下等という点において、  
同じものだ」  
「……それがどうした」  
「お前には、わかるまいよ。せっかくだ、少し恨み節を吐かせてもらおうか」  
壊れた知恵の輪をしまい、ディアボロスは溜め息をついた。  
「祖先が、魔族。ただそれだけで、我等は嫌われる。例え祖先は魔族であろうと、今の我等は魔族とは違うというに…」  
初めて見せる、悲しそうな表情。それを、バハムーンは黙って見つめている。  
「自分の生まれを、何度呪ったことか。また、他の種族を、何度恨んだことか。それがまた、他の種族を遠ざけると、わかっていてもな」  
背もたれに腕を預け、ディアボロスは椅子に座り直す。その伝法な仕草も、今の言葉の後では一種の強がりにしか見えない。  
「だが、お前だけは違った。見下しはしているが、お前はどんな種族にも、平等だ。お前は、魔族だからという理由で嫌いはしなかった」  
「いや……少し待て」  
バハムーンが慌てて口を挟む。ディアボロスは大人しく、一度言葉を切った。  
「平等とは言うが、俺はフェアリーとヒューマンが特に嫌いだ。あいつらからすれば、他の種族はまだマシだ」  
「ははは。それでも、見下していると言う事実には、違いあるまいよ」  
「……まあ、それはな」  
どうやら、ディアボロスからすれば、それは些細な違いに過ぎないらしかった。バハムーンからすると、比較的大きな違いであるのだが。  
 
「そうやって、我等を他の種族と同等に扱ってくれる奴は、今までいなかった。だから、嬉しかった」  
今まで傲慢だとなじられたことは数多いが、それに感謝されたのは初めてである。まして、自分が当然のことと思ってしていたことが、  
これほどまで彼女に大きな影響を与えていたことに、彼は驚きを隠せない。  
「ふ……だが、確かに我等は魔族なのだろうな。どいつもこいつも、性格は少し悪い」  
「そう、か?お前は善人にも悪人にも見えないがな?」  
「そのどちらか、と言われれば、どちらとも言えないだろうよ。そうだな、性格と言うよりは、意地が悪い、か」  
「どう違うんだ?」  
「ふふ……例えば、わざと答えを先延ばしにして、それを聞きたがる相手の部屋に、足繁く通う、とかな」  
「……ああ、なるほど。納得した」  
二人は同時に笑った。その笑いは何の衒いもない、腹の底からの笑いだった。そこまで純粋に笑ったのは、二人ともこの学園に  
来てからは初めてである。  
一頻り笑ってから、ディアボロスはチョコレートに手を伸ばした。  
「だがな、そんなことをするには、理由がある」  
「理由?」  
「当たり前だ。よしんば、パーティの仲間だとしても、女が男の部屋へ、気軽に行くと思うか?」  
「……?……っ!」  
一瞬置いて、その意味に気づくバハムーン。すると、ディアボロスはその浅黒い肌でもはっきりわかるほどに、顔を赤らめた。  
「傲慢で、鼻持ちならない男だった。されど、他の種族と変わらない扱いをしてくれた男でもある。そして、お前は純粋で……気付けば、  
いつもお前を見ていた。話せば話すほど、お前が強く心に居ついた……先の言葉は、必要ないな?」  
そう言い、ディアボロスはチョコレートを小さく割ると、口に咥えた。そのまま立ち上がり、そっとバハムーンに近づく。  
「お前次第だ……強制は、しない…」  
優しく首に腕を回し、咥えたチョコレートをくっと突き出すディアボロス。それの意味するところは、鈍いバハムーンにもすぐわかった。  
「……口では強制しなくとも、これは強制ではないのか?」  
言いながら、バハムーンもディアボロスの首に手を回した。そして、相手の顔を引き寄せる。  
やり方は強引な割に、優しく唇を重ねる。邪魔なチョコレートを半分噛み割り、それを口移しするかのように舌を入れる。  
ディアボロスもそれに応え、彼の舌に付いたチョコレートを味わうかのように、じっくりと舐めるように舌を絡める。負けじと、  
バハムーンもさらに彼女の首を抱き寄せ、もっと奥まで舌を入れようとする。  
その舌を、ディアボロスは優しく噛んだ。痛みはないとは言え、舌を噛まれるとさすがに少し怖いものがある。ちらりと顔を見ると、  
彼女はいたずらに微笑んだ。なんとなくムッとし、バハムーンは強引に喉の奥まで舌を突き入れる。さすがにその動きは予想外で、  
ディアボロスは驚いて舌で押し返す。  
しばしその攻防を楽しんでから、バハムーンは抱き寄せる力を緩めた。ディアボロスはすぐに唇を離し、コホンと咳払いをする。  
「すぐムキになるな、お前は」  
「変ないたずらをするからだ」  
ディアボロスは静かに笑い、軽く舌なめずりをした。  
「ふふ、甘い」  
「そりゃあそうだろうよ」  
「お前との口付けも、思ったよりいいものだ。癖になる味だな」  
目を細め、艶かしい笑みを浮かべるディアボロス。そして今度は、バハムーンの腕を撫で、その手を取る。  
「他の部分は、どうだろうな?」  
そっと、指先を口に含む。そこに感じる柔らかい舌の感触に、バハムーンの胸がドキンと高鳴る。  
チュプ、ジュプっと音を立て、ディアボロスは指を丹念にしゃぶる。軽く吸い、舌でこねるように舐め、意味ありげにバハムーンを見る。  
「お、おい…!」  
「ふふ……もっと違う部分を、ご所望か?」  
何とも意味深な言葉に、バハムーンは思わず言葉に詰まる。それを見て、ディアボロスはおかしそうに笑った。  
「まあ、聞くまでもない。お前の答えの如何に関わらず、勝手にするつもりだ」  
 
ディアボロスの手が、バハムーンのズボンに触れる。上から全体をそっと撫で回し、ジッパーに手を掛ける。  
バハムーンを焦らすように、ゆっくりと引き下げ、彼のモノを優しく掴み出す。それを見て、ディアボロスは軽く目を見張った。  
「おぅ……さすが、その体に見合うだけの逸物だ」  
「そうか」  
「他の種族と比べるな、とでも言いたげだな?ふふ、しかし悪い気はしまい?」  
「まあ…」  
「もっとも、こういう事をするのは初めてだからな。比べようもないが」  
愛おしむようにそれを一撫ですると、ディアボロスはその前に跪く。  
そっと顔を近づけ、ほうっと息を漏らす。熱い吐息がかかり、バハムーンは思わず呻いた。それを見て、ディアボロスは口元だけで  
笑うと、ゆっくりと口を開けた。  
先端を唇で挟み込み、亀頭をこねるように舐め回す。軽く吸い上げ、雁首を舌でなぞる。  
「うっ……くっ!」  
初めての刺激に、バハムーンは歯を食いしばって声を抑えている。そんな様子が気分良く、ディアボロスはさらに刺激を強める。  
喉の奥まで咥えこみ、裏の筋を舌全体で舐め上げる。少し苦しくなると、先の部分を甘噛みしつつ丁寧に舐りながら手で扱く。  
刺激を受けるたび、バハムーンの食いしばった歯の間から呻きが漏れ、時折体全体が震える。  
彼女の柔らかな唇が、自分のモノを優しく咥え、さらに舌で愛おしげに舐める。その姿はたまらなく淫靡で、受け続ける刺激と相まって  
彼を一瞬のうちに限界へと追い込んでいく。  
「おいっ……ぐ、もうよせ…!」  
たまらずそう言うと、ディアボロスはモノを口に含んだまま艶やかに笑い、ジュプジュプとさらに激しい音を立てて吸い始めた。  
唇で扱きつつ、舌では丁寧に全体を舐め、さらには思い切り吸い上げる。  
「ダメだっ、出るっ…!」  
そんな刺激を受けて耐えられるはずもなく、バハムーンは切羽詰った声を上げると、彼女の口の中へ思い切り精液をぶちまけた。  
口の中でドクドクと脈打ち、熱い液体が流れ込む度、例えようもない生臭い臭いが感じられる。しかし、ディアボロスはしっかりと  
それを咥え、一滴残らず受け止めようとする。  
だが、それは際限なく流し込まれ、どんどん彼女の口の中を満たしていく。最初は余裕のあった彼女の顔も、だんだんと苦しげな  
表情になり、深く咥えていたモノも、少しずつ引き抜いていく。もう溢れる直前という頃になって、ようやくバハムーンのそれは  
精液を吐き出すのを止めた。  
「……おい、大丈夫か?」  
最後に先端を吸い、まだ少し残っていた精液も口の中に収めると、ディアボロスは目を瞑る。そして思い切り顔をしかめつつ、  
喉を鳴らしながらそれを飲み下した。  
「ん……ぐ……ぷぁ、すごい量だな。ふふ、さすが、というべきか」  
一度出したにも拘らず、バハムーンのモノはまだ十分な硬さと大きさを保っており、鼓動に合わせてビクンビクンと震えている。  
「何とも言えん味だ。苦いと聞いていたが、苦味は感じなかったな」  
「そうなのか」  
「それにしても、元気だな。禁欲でもしていたのか?」  
「余計な体力を使いたくなかったからな」  
「ほんとにしてたんだ…。ふ、なら今日は、思いっきり楽しめばいい」  
ディアボロスは、ベッドに座るバハムーンの腰を、膝で挟むように乗りかかる。そこで、ふと思いついたように口を開いた。  
「だが、するだけでは少し不公平だな。お前も、してくれないか」  
「む……舐めろと?」  
「そこまでは望まない。どうだ、触ってみたくないか?」  
そう言い、ディアボロスは自分の胸を両腕で持ち上げてみせ、上目遣いにバハムーンを見つめる。もちろん、彼としては  
触りたくないわけがない。  
 
胸に手を伸ばし、それをグニッと握り潰す。途端に、ディアボロスは苦痛に顔をしかめた。  
「い、痛い!も、もっと優しくしてくれ!」  
「む……さ、最初に言え!俺は、その……そんなの知らん!」  
そうは言いつつ、今度は慎重すぎるほどに優しく触れる。大きな手で全体を包み、少しずつ探るように揉みしだく。それはそれで  
気持ちいいのだが、少し物足りない感じもする。  
「んん……もう少し、強くてもいいぞ…!」  
「そ、そうか?」  
言われて、彼は刺激を強める。どうも加減というものをよく知らないらしく、今度はまたずいぶんと荒々しい揉み方になっている。  
しかし、ディアボロスとしては、それもそれなりの快感として受け取れる。  
「んく……あっ…!ずいぶん、激しいのが好き……あんっ……なんだな…!」  
「………」  
どうも胸の感触に夢中らしく、バハムーンは答えない。そんな彼が可愛らしく見え、ディアボロスは思わず笑みを漏らす。  
バハムーンの手は大きく、ディアボロスの豊満な乳房をすっぽりと包み込んでいる。そうして全体を揉み解される感触は、少なくとも  
彼以外の種族相手ではとても味わえない快感である。  
何だかいつまでも揉んでいそうな気配を感じ、ディアボロスは彼の顔に手を触れた。突然の感触に、バハムーンはハッとして顔を上げる。  
「そろそろ、次に移りたいんだが」  
「あ、ああ。そうか。え、次……とは?」  
「次といえば、次しかないだろう。余興が終わって、本番だ」  
肩に手を掛け、ディアボロスは膝立ちで少し体を寄せる。彼のモノが下に来るようにすると、ちらりとそれを見直す。  
「それにしても、大きいな」  
「その、大丈夫なのか?」  
珍しく心配そうな声を出すバハムーンに、ディアボロスは笑って答えた。  
「ああ、処女ではないからな。多分大丈夫だろう」  
そう言って腰を落とそうとすると、バハムーンがその体をがっちりと掴む。  
「ちょっと待て。処女ではないだと?」  
「ああ、そうだが」  
「こういうのは初めてだと言っていなかったか?あれは嘘か」  
「いや、初めてだ」  
「じゃあなぜだ」  
問い詰められると、ディアボロスは顔を赤らめ、視線を外した。  
「それは、その……ひ、一人で、していた時に……つい、うっかり…」  
「……お前は馬鹿だ」  
「う、うるさいっ!黙っていろっ!してやらんぞっ!」  
「……それは困る」  
バハムーンが手を放すと、ディアボロスは膨れっ面になりつつ、再び位置を調整する。そして慎重に、ゆっくりと腰を落とし始める。  
秘裂にバハムーンのモノが当たり、少し動きが止まる。やがて、花唇が少しずつ開かれ、彼のモノをゆっくりと飲み込んでいく。  
「うっ……あぁ…!」  
ディアボロスの顔が歪む。さすがに大きすぎるため、かなり苦しいらしい。しかし、それでも彼女は動きを止めはしない。  
にち、にちゃ、と湿った音が部屋に響き、同時に二人の荒い呼吸が聞こえる。時間をかけ、ゆっくりと腰を沈めていた彼女は、  
半分ほど飲み込んだところで動きを止めた。  
「はぁっ……はぁっ……さすがに、大きい…!いつも使っていた玩具とは、比べ物にならんな…!」  
苦しげな顔で呟くが、当のバハムーンはさらに大変そうだった。  
「うぅ……くっ…!」  
ただでさえ禁欲を続けていたところに、この刺激である。その手はシーツを固く握り締め、きつく食いしばった歯の隙間から  
抑えきれない声が漏れている。  
 
「……大丈夫か?」  
「お……俺の、うっ!せ……台詞……だ…!」  
そんな強がりも、この状況では説得力などまるでない。ディアボロスは呆れた笑いを浮かべ、その顔を撫でる。  
「では、また動くぞ。いいな」  
答えを待たず、再び腰を落とし始める。体内を無理矢理押し広げられる、苦痛と紙一重の快感に、ディアボロスは顔を歪めつつも、  
どこか陶然とした表情を浮かべている。彼のモノを深く飲み込めば飲み込むほどに、その感覚は強まっていく。  
ついに、彼のすべてを体内に納めると、ディアボロスは彼の胸に体を預けた。  
「はぁ……ぁ…!すごい、な……少し、苦しいくらい……だ…」  
「ん……ぐ…!」  
もはや喋る余裕すらなくなったらしく、必死に声を抑えているバハムーン。それでも、何とか体を動かし、ディアボロスの体を  
抱き締めてやった。  
「ふふ……どうだ?初めての女の中は?」  
「……う、う…!」  
喋っている間にも、彼のモノに熱い粘液が絡みつき、ディアボロスの肉壷が蠢動するように絞り上げる。そこに感じる熱さは、  
それ自体が直接、快感となり、おまけに熱くぬめった粘膜が締め上げてくる。気を抜けば、いつ達してしまってもおかしくはない。  
その、快感を必死に堪える姿を見て、ディアボロスはクスリと笑った。  
「可愛いな、お前は」  
思わず口走った一言が、彼のプライドに障った。バハムーンはキッと顔を上げ、ディアボロスの顔を睨みつける。  
「お…?一体どうし……きゃああぁぁ!?」  
突然、バハムーンはディアボロスの両足を抱え込むと、勢い良く立ち上がった。全体重が結合部にかかり、ディアボロスの体内に  
彼のモノがより一層深く食い込んだ。  
「や、やめろ!痛っ!お願いだ、やめてくれぇ!」  
必死に懇願するも、バハムーンはやめる気配を見せない。それどころか、乱暴に彼女の体を揺すり始め、快感よりも強い苦痛と圧迫感が  
彼女を襲う。抵抗しようにも、体を持ち上げられては何も出来ない。  
「く、苦しっ…!うあぁっ!い、息があぁ…!」  
とうとう耐えられなくなり、ディアボロスはバハムーンの首に手を回し、腰に足を絡めると、思い切り抱きついた。さすがにそうなると、  
動かしようがなくなってしまい、バハムーンはようやく動きを止めた。  
「はぁー、はぁー……こ、殺す気かぁ、馬鹿者ぉ…!」  
涙を滲ませ、ディアボロスが泣き声でなじる。  
「お前が馬鹿にするからだ」  
「それぐらいで怒るな…!男だったら、もっと大きく構えろ…!」  
「……むぅ」  
とりあえず、バハムーンの怒りは収まっていた。そうなると、こうして抱きつかれているのがなかなか悪くなかった。彼女の体温が  
全身に感じられ、大きな胸が押し付けられているのも気持ちいい。  
「しばらくこうしててもいいか」  
「いいわけあるかぁ!苦しいのだぞぉ!せめて、元通りに座ってくれ!」  
「……わかった」  
再びベッドに腰を下ろすと、ディアボロスがホッと息をつく。そしてクスンと鼻を鳴らし、バハムーンの顔を正面から見つめた。  
「処女ではないが、初めてなのだぞ……頼むから、優しくしてくれ…」  
その顔と言葉に、バハムーンの胸がドキッと高鳴る。  
「……悪かったな」  
「動いてやるから、お前はじっとしててくれ。でないと、お前のは大きすぎて、苦しいんだ…」  
そう言われると悪い気はしない。ディアボロスを掴んでいた手を放し、代わりに体を軽く抱いてやる。  
 
少しずつ、ディアボロスが腰を動かし始める。上下に動くと辛いらしく、腰を押し付けたままグリグリと前後左右に動くことが多い。  
それでも、バハムーンには十分すぎるほどの刺激である。じっとしていても出してしまいそうなのに、粘膜同士が擦れ合う刺激が  
加わっては、長く持つわけなどない。  
「おいっ…!く、もうっ…!」  
「イキそうか?ふふ、いいぞ。全部受け止めてやる」  
妖しい笑みを浮かべると、ディアボロスはバハムーンの上で跳ねるように腰を動かし始める。パン、パンと湿り気を帯びた音が  
響き、ベッドが激しく軋む。彼女の体が跳ねるたび、熱い粘膜が彼のモノを強く締め付け、扱き上げる。  
食いしばった歯がギリッと鳴り、バハムーンの手がディアボロスの体を強く抱き締めた。  
「もう、限界だっ…!」  
抱き締めた腕が、その体をありったけの力で引き付ける。そして自身も腰を突き出した瞬間、ディアボロスの体内に熱いものが放たれた。  
「ああっぁ…!熱……すごいぃ…!」  
思い切り奥まで突き入れられ、まるで子宮に直接流し込まれるように、精液が注ぎ込まれる。それはディアボロスの体内を満たしても  
なお勢いが止まらず、二人の繋がる隙間から漏れ出してくる。  
しばらくの間、ディアボロスは放心しつつ、体内で拍動しながら精液を吐き出すモノの感覚を楽しんでいた。が、突然バハムーンが腰を  
突き上げる。  
「うあっ!?な、何を…!?」  
「……もっと、したい」  
「そ、それは勘弁してくれ。さすがに、二度も連続でされては、身が持たない」  
「減るもんじゃないし、いいだろう!?」  
「話を聞け、馬鹿者!もう疲れたと言っているんだ!無理にしようとするなら、お前の頭を消し炭にするぞ!?」  
そう言い、ディアボロスは小さな炎を吐いてみせる。さすがにそうも明確に脅されると、それ以上しようという気にはなれない。  
「……仕方ないな…」  
「……そんなに、良かったのか?」  
妖艶な笑みを浮かべつつ尋ねるディアボロス。バハムーンは無言で、こくりと頷いた。  
「ふふ、そうがっつくな。また明日にでも、来てやるさ」  
「楽しみにしている」  
口ではそう言いつつ、バハムーンは名残惜しげにディアボロスの中から自身のモノを引き抜き始める。それにつれ、彼女の体内に  
残っていた精液がドロドロと零れる。  
「んあっ!ああっ……は、はらわたが引きずり出されるみたいだ…!」  
彼のモノが抜け出ていく感覚に、ディアボロスの膣内もそれを引き止めるかのように震え、自身の体もピクリと跳ねる。やがてすべてが  
抜かれると、彼女は一際大きく、ビクンと身を震わせた。  
「はぁ……はぁ……本当に、バハムーンとは大した種族だな…」  
彼の胸に体を預け、ディアボロスが呟く。その体を抱き締めると、バハムーンはベッドに寝転がった。  
「おう、お前の腕枕も、なかなか気持ちいいものだ」  
「………」  
バハムーンは無言で、ディアボロスの体を抱き寄せる。大きな胸が彼の体に当たり、くにゃっと形を崩す。  
「そんなに気に入ったのか?」  
「……ああ」  
「ふふ、光栄だ」  
ついっと顔を上げると、バハムーンは何も言わずにその頭を抱き寄せ、キスを交わす。そして小動物でも撫でるように、艶やかな髪を  
ゆっくりと髪を撫で付けてやる。ディアボロスは目を細め、嬉しそうな笑みでそれに応えた。  
「それにしても、疲れた……明日は、腐戦士に任せるか…」  
「手下がいる奴は、楽でいいな」  
「お前ほどの体力があれば、手下など必要なかろうよ」  
「そうだな」  
そんな話をするうちに、いつしかディアボロスは眠りに落ち、やがてバハムーンも、静かな眠りへと落ちていくのだった。  
 
その日以来、二人は毎日のように逢瀬を重ねた。探索から戻ると、すぐにバハムーンの部屋へ行き、場合によっては一日に二度、三度と  
愛し合っていた。二人の距離は急速に縮まり、今では一度体を重ねた後に、色々と話をするのが日課となっている。  
「別に、アンデッドが好きなわけじゃない。ただ、奴等は一度死んだ身だ。他の奴は、違う。そんなのが死ぬのを見るのは、忍びない」  
腕枕されたディアボロスが、静かな声で答える。バハムーンは右手を彼女に貸しつつ、左手では彼女の胸をまさぐっている。  
「そうだったのか。しかし、俺だけでなく全員、お前が魔族だから、アンデッドを好むものだと思っているぞ」  
「お前さえ知ってくれれば、それでいい」  
「その誤解が、余計仲間を遠ざけているのにか?」  
「ふふ……それはそれ、さ」  
完全に、バハムーンは彼女の体に溺れていた。禁欲していた反動もあるのだろうが、それにしても意外なほどあっさりと堕ちてしまった。  
「まあ、いい……ディアボロス」  
のそりと、バハムーンが体を起こした。  
「なんだ?またしたいのか?」  
「……ああ」  
「ふふふ、いいぞ。どうせ明日は休みだ、今日は存分に相手をしてやる」  
そんな彼を見ながら、ディアボロスは目を細めて笑った。  
「……近々、他の奴等に、お前の口から、この関係を公言してもらいたいものだな」  
「別に必要ないだろう、そんなことは」  
バハムーンは特に気にも留めなかった。だが、彼は気付かなかった。そう呟いた時の彼女の顔は、冷たい計算を瞳の奥に忍ばせた、  
まさに魔族と呼ぶにふさわしいものだった。  
 
二人が関係を持ってから、約一月が経った。やはり、他の四人とは仲が悪いままだったが、バハムーンはまったく気にしていない。  
彼にとっては、ディアボロス一人いればよかった。今では、彼女は彼にとって、色々な意味でかけがえのない存在である。  
もちろん、他の四人とは探索以外で交友を持つことはない。が、この日、探索が休みであるにもかかわらず、エルフが彼の部屋を  
訪ねてきた。  
「バハムーン、ちょっといいかい?」  
「む、エルフか?一体どうしたというんだ?」  
「……大切な話がある。30分後に、下のロビーに来てくれ」  
一瞬断ろうかとも思ったが、その理由も特にない。結局、バハムーンは言われたとおり、寮のロビーに向かった。  
他の仲間は、既に全員揃っていた。そして、いつもはそんなものを気にしない彼にもわかるほど、場の空気というものが違っている。  
「それで?一体どんな用事だというんだ?」  
「パーティに関わる話さ。細かい話は、抜きにしようか」  
仲間を代表して、エルフが口を開く。  
「早い話が、再編成とでも言えばいいかな。これまではずっと、この面子で続けてきたけど……あまりに、気の合わない仲間が多すぎる」  
「……ふん、それで?」  
「あ〜……言い辛いけど、特に問題なのが、あなたと、ディアボロスだ。それで…」  
「なるほど。俺に、パーティを抜けろというんだな?」  
確信を持って尋ねたが、エルフは首を振った。  
「違う。それは、あなたではない」  
「すると……そいつか?」  
エルフは静かに頷いた。当のディアボロスは、涼しげな顔で椅子に座っている。  
「既に、全員話はついてる。あとはあなただけなんだ。彼女を外し、他の仲間を招く。それが、今回の話の内容だよ」  
バハムーンはじっと、ディアボロスの顔を見つめる。彼女も、バハムーンを見つめている。その目は、ある種の確信に満ちた笑いを  
浮かべていた。  
「……一つ聞きたい。それは、パーティの総意なのだな?」  
「ああ、そうだよ」  
恐らく、彼女はこの事態を読んでいたのだろう。どこまでが彼女の計算なのかは知らないが、少なくともこの展開を読み、  
その予防線として自分を利用したのだ。  
 
別に、その事に対しての怒りはなかった。しかし、彼のプライドが、微かな怒りを呼び起こしていた。  
ディアボロスが、バハムーンに笑みを向ける。  
――いつまでも、俺がお前の思い通りになると思うなよ。  
彼女に対し、バハムーンも不敵な笑みを返した。その顔に、ディアボロスの表情が僅かに変わる。  
「なら、仕方ないだろう。総意だというなら、俺が改めて意見するまでもない」  
「……っ!?」  
ディアボロスの顔に、はっきりと動揺の色が浮かんだ。  
「……そうか。なら、決まりだね」  
「ま、待て!その…!」  
「何?今更意見でもあるの?」  
クラッズの冷たい言葉に、ディアボロスの言葉は止められた。明らかにうろたえ、周りを見回す彼女の姿は哀れなものだった。  
「さっき聞いたよね?そしたら、あなた『別に構わない』って言ったよね。なのに、今更何か未練でもあるの?」  
「う……そ、その……そんな…!」  
「総意だったら、仕方ないだろう。諦めるんだな」  
「そんな……お、お前まで…!」  
頼みの綱であったバハムーンの冷たい一言。その一言で、ディアボロスは完全に打ちのめされてしまった。だが、誰も彼女を  
慰めようとはしない。  
「それじゃ、ディアボロス」  
エルフが、死刑宣告に等しい言葉を投げかけようとしていた。ディアボロスは絶望に打ちひしがれた顔で、それをじっと聞くしかない。  
「もう、あなたと僕達は、これより仲間ではなくな…」  
「おっと、少し待て」  
突然、バハムーンが言葉を遮った。いきなり割り込まれたエルフは不快そうな顔をしていたが、仕方なく言葉を切る。  
「俺は、いきなり招かれて、結果を聞かされただけだ。俺自身が、そいつの言葉を聞いていない」  
「……なら、もう一度聞けばいいでしょう。結果は変わらないと思うし、変わるんなら、それはそれで問題だけどね」  
一度仲間の顔を見回し、バハムーンは静かに口を開いた。  
「ディアボロス」  
完全に途絶えたと思った希望が繋がれ、ディアボロスの顔に僅かな喜びの色が広がる。  
「バハムーン…!お願いだ、どうか…!」  
「黙れ。お前の言うことは聞かん」  
「え…!?」  
一度厳しい目で睨みつけ、バハムーンは再び口を開く。  
「俺が、なぜ総意なら仕方ないと言ったか、わかるか?」  
「え……え…?」  
「……お前は、このパーティの、何のつもりだ?」  
バハムーンの口から謎かけのような言葉が発せられ、ディアボロスは言葉に詰まってしまう。  
「お前自身も、パーティの仲間ではないのか?だからこそ、『総意』であるなら仕方ないと言ったのだ。総意であるということは、  
その一員である、お前自身の意思でもあるのだからな」  
「あ…」  
「……なあ、ディアボロス」  
不意に、バハムーンは声の調子を和らげた。  
「いつだったか、お前は言ったな。召喚師は、自分の手を汚さず、手下にやらせてこそだと。だがな、こういう大切なときぐらい、  
自分で動くべきじゃあないのか?でなきゃ、いつまで経とうと、お前の意思は誰にも伝わらん。お前自身の口から、真意を語れ」  
「バ……バハムーン…!」  
「おい、おい。お二人さん。いきなり青春ミニドラマ始めないでくれないかなあ」  
フェアリーが、苦笑いを浮かべながら声をかける。  
「それで、結局何だって言うんだ?再編成はするの?しないの?」  
「さっきは、全員一致で再編成だったね。誰かが翻意でもしない限りは、ね」  
 
冷たく言うと、エルフはうんざりした感じで続ける。  
「もう一度だけ言うけど、結論は再編成ってことで…」  
「……やだ…」  
小さな声が聞こえ、エルフは言葉を切った。  
「……何か言ったかい、ディアボロス。あなただって、これには賛成…」  
「嫌だ……嫌だ!嫌だ!このパーティを抜けるなんて嫌だ!抜けたくない!」  
「さっき、『構わない』って言ったでしょ!?それがどうして今更…!」  
決まりかけた話を引っくり返され、クラッズが苛立った声を上げる。  
「嫌だ嫌だ!!あの時は、お前達に弱みを見せたくなかったんだぁ!でも、やっぱり嫌だ!お願いだから、追放しないでくれぇ!」  
普段寡黙なディアボロスが、ここまでなりふり構わず叫ぶのを見るのは、全員初めてだった。だが、それでもクラッズは怯まない。  
「弱みを見せたくなかった!?ふざけないでよ!そんなこと考えてる奴と、この先やっていけっての!?冗談じゃない!」  
「嫌だ…!悪かった……謝るよぉ…!ごめんなさい……ごめんなさい……ヒック…!お願いだから……仲間でいさせて…!」  
「話を聞く限り、あなたはこれまで、自分は仲間だと認識していなかったんじゃないのか?それが『仲間でいさせて』とは……何とも、  
都合のいい方だね、あなたは」  
「嫌だぁ……今更、どこに行けと言うんだぁ…!ヒック……グスッ……ディアボロスっていうだけで、みんな避けて……なのに、  
どうしろって……ふ、ふええぇぇ…!」  
とうとう、ディアボロスは泣き出してしまった。それでも、エルフはさらに言葉を続けようとしたが、急にバハムーンが立ち上がる。  
「……さて、これで総意ではなくなったな?それでも追放するというなら、それはそれで仕方ない。だがな…」  
バハムーンはディアボロスの隣に立つと、その頭をぐいっと抱き寄せた。  
「こいつを追い出すというなら、俺も一緒に抜けるぞ」  
「な、何を言い出すんだ!?あなたまで抜けたら…!」  
「何か不都合でもあるのか?俺自身、ヒューマンやフェアリーは気に食わんし、そいつらも俺が気に入らんだろう。むしろ、大歓迎  
じゃないのか?」  
「け、けどな!」  
当のヒューマンが、慌てて口を開く。  
「一気に二人も減ったら、さすがに戦力が…!」  
「だからどうした。俺は、こうまでして嫌がるこいつを、平気で追放するようなパーティには、一秒だっている気はない」  
しばらくの間、全員が口を開かなかった。重い沈黙が辺りを満たし、時折ディアボロスがしゃくりあげる声だけが響く。  
やがて、ヒューマンがぽつりと呟いた。  
「……確かに、全員一致でもなくなったし、な。なあ、しょうがないだろ?」  
「……バハムーンは嫌いだけど……その、女の子に泣かれると、ちょっとなぁ…」  
渋々と言った感じで、フェアリーもヒューマンに同調する。  
「泣いたからって、そんな…!でも……確かに、二人に抜けられても、困るよね…」  
「現状維持……かな。まあ代わりを探すのも大変だし、その代わりが別のディアボロスだと、もっと困るしね」  
全員が、どこか諦めの感じられる溜め息をついた。その瞬間だけ、妙に息が合っていた。  
「ちぇ、しょうがないか。じゃ、この話は、なしだね。当分、この編成で頑張ろう」  
4人はぞろぞろと立ち上がり、口々に愚痴を言いながら部屋へと戻って行った。それを見送ってから、バハムーンはようやく泣き止んだ  
ディアボロスの顔を見つめる。  
「これで、いいな?」  
「うっく……くすん…。ほ……本当に、見捨てられたと思ったんだぞぉ…!」  
「いや、見捨てるつもりだった。あのまま、何もしないならな。だが、まあ…」  
一瞬言葉に詰まり、バハムーンは不器用な笑顔を浮かべた。  
「そういう奴ではないと、信じていたがな」  
「……バハムーン…!」  
胸に縋り付くディアボロス。そんな彼女の頭を、バハムーンは優しく、誰よりも愛情の篭った手で、ずっと撫でてやっていた。  
 
パーティの再編話が出てから、また一月が経った。相変わらず、一行の仲は悪い。  
「バハムーン、ガリガリうっせえよ。少しは静かにできないのか?」  
「ほんとだよ。おまけにこっちまで場所とって……僕の迷惑も考えてくれ」  
「黙れ、下等生物共。これでもだいぶ譲ってやってるんだ。むしろ感謝して欲しいところだな」  
いつでもどこでも、喧嘩をする。それは今も、変わってはいない。  
「ディアボロス。あなたに一つ言いたいんだが、腐戦士出すのはもうやめてくれないか。腐臭が染み付いて、ひどく気分が悪い」  
「そうだよー、ほんと。あんなのにべちょーって庇われても嬉しくないし……今度から兎にしてよ、兎」  
「兎が死ぬところなど、見たくはないねえ。それに、腐戦士は優秀な盾だ。やめる気はない」  
「だからって、学食来るのがわかってるのに、出す奴があるかっ!」  
しかし、今では学食に来るのも、6人揃ってである。口喧嘩は相変わらずだが、その表情は以前より柔らかい。  
「兎だって、あなたが頑張って回復してあげればいいでしょー!ほんっと、性格悪いんだから!」  
「面倒くさいから断る。まあ、気が向いたら、な」  
喧嘩しつつの食事が終わり、一行は揃って寮へと歩き出す。そこで、バハムーンが声をかけた。  
「なあ、ディアボロス」  
「ん?」  
「あとで、その…」  
「……わかった、わかった。皆まで言うな」  
顔を赤らめて答えるディアボロス。その様子を見て、四人が一斉に溜め息をつく。  
「どうしてこの二人、こんなに仲いいんだ…」  
「なんかムカつくよな…。くそ、いつのまにこんな関係に…」  
「……エルフ君、悔しいから私達も付き合っちゃおっか?」  
「とっても嬉しい言葉だけど、他の二人の視線が怖い。遠慮せざるを得ない」  
「ふん。そういうところが下等生物共だというんだ。悔しいなら、真似でもしてみたらどうだ?」  
その一言で、一瞬時が止まった。そして、次の瞬間には一斉に動き出す。  
「うおおぉぉ!!ムカつくーーー!!」  
「やっぱこいつには出て行ってもらえばよかった!!童貞じゃない奴なんか死ねばいい!!」  
「ふん、童貞の下等生物共め。悔しかったら真似してみろ」  
「殺してやるーーー!!!」  
今にも殴り合いが始まりそうな男三人を尻目に、クラッズとエルフはディアボロスを眺める。  
「……スタイルはいいんだよねえ……胸、大っきー…」  
「だけど、ディアボロスだからな……僕には、一体どこがいいのか…」  
「ふん、一物も細そうなエルフになど、興味はない。お前はそこの、体も胸も小さな奴とお似合いじゃないか」  
たちまち、エルフとクラッズの顔が真っ赤に染まった。  
「い、言ったなぁ〜!小っちゃいの、気にしてるのにぃ〜!」  
「ぼ……僕だって男だ…!さすがに今の言葉はっ…!」  
「ああ……すまん。本当にすまん。本当の事を言っては、いけなかったな」  
「にやけ顔で言うなあぁぁ!!!殴ってやるーーー!!!」  
喧嘩は絶えない。しかしその喧嘩は、いつしか全員が同じ視線の、じゃれあいともいえる喧嘩になっていた。  
彼等の間にあった、深く大きい溝。その溝が完全に埋まるのも、そう遠い話ではないかもしれない。  
 

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