冒険者を養成するための学校には、毎年多くの若者が入学する。
そのため、歴史の浅いパルタクス学園とて、全校生徒数はかなりの数に上る。故に、その全容を把握するのは不可能に近い。
そんな彼等の間では、しばしば恋愛の話が持ち上がる。そこに関してだけは、ここも通常の学校と何ら変わりはない。
命を預けるパーティの間で、寮や学食でのふとした出会いで、時には地下道でと、ありとあらゆる場所で出会いは訪れる。
彼等も、そんなふとした出会いによって親密になり、今では恋人と呼ばれる間柄になっていた。
「クラッズ、待たせたな」
「ヒューマン君、遅いよー」
「悪い悪い、探索が思ったより長引いちゃってさ」
むくれるクラッズに、ヒューマンは困った笑顔を向け、手を合わせる。
「まあ、いいけどさ。ちゃんと埋め合わせはしてよ?」
「わかったわかった。じゃあ今度チャクラムでも作ってやるから」
「ほんと?約束だよ?」
今までの不機嫌そうな顔が一転、喜びに満ちた笑顔に変わる。そんな彼女の顔を見るのが、ヒューマンの楽しみだった。
「それぐらいの余裕はあるしな。ただ、材料揃うまでちょっと待ってくれな」
「楽しみにしてるから、早めにお願いしまーす」
「はいはい」
それから、二人は揃って学食で食事をし、色々な話に花を咲かせる。クラッズはまだ新入生で、ろくに実戦経験もない。
そんな彼女に対し、ヒューマンの方はかなり熟練した冒険者で、今ではトハス地下道を主な探索場所にしている。なので、彼の話の
大部分は、彼女の理解を超えている。それでも、少なくとも傍目からは楽しそうに見えているし、実際二人は食事と会話を楽しんでいた。
喋りながらなので食べるペースは遅く、二人が食事を終える頃には、もう外はすっかり暗くなっていた。
「あらら、外真っ暗だね」
「あー、ほんとだ。だいぶ話してたからなあ」
ヒューマンはそこで言葉を切ると、少し声の調子を変えた。
「その……お前がよかったら、部屋で話の続きでもしないか?」
が、今度はクラッズが困った笑顔を向け、ヒューマンに手を合わせた。
「ごめんね〜、私明日早いから…」
「そうか〜……お前、いっつも予定合わないよなあ」
「ほんっと、ごめんね。私の方も、今度何か埋め合わせするから…」
「いいよいいよ、気にするな。冒険者は体が資本だしな、それなら早く寝た方がいい」
「そう?ほんと、悪いね。それじゃヒューマン君、またねー」
別れ際にキスをかわし、二人はそれぞれの部屋へと向かって歩き出す。その最中、クラッズはちらちらと後ろの様子を気にしていた。
ヒューマンが手を振ると、クラッズも手を振り返す。
やがて、ヒューマンの姿が見えなくなると、クラッズは不快そうに口元を腕で拭い、ペッと唾を吐き捨てた。
翌日、クラッズは昼も過ぎてから地下道に向かった。しかし、その出で立ちはどう見ても、探索に向かうそれではない。
地下道入り口に着くと、彼女は共用の倉庫から持ち出した飛竜召喚札を使う。クラッズが背中に飛び乗ると、飛竜は空高く飛び上がり、
一瞬のうちに姿を消した。
風のような速さで飛び続け、すぐに目的地が見え始める。冒険者養成学校の中では強豪と名高い、ランツレート学院だ。
飛竜が高度を下げ、速度を落としてゆっくりと近づく。そのど真ん中に下りる気にはなれず、地下道付近に下りてもらうことにする。
彼女が背中から飛び降りると、役目を果たした飛竜はかき消すように消えてしまった。だが、この方が彼女にとっても都合がいい。
まったくもって便利な乗り物だと、クラッズはしみじみ思った。
学校の敷地内に足を踏み入れると、青い制服の中で黒い制服はひどく目立つ。そんな彼女に向かって、一人のエルフが歩み寄った。
「やあ、クラッズ。久しぶりだね」
「あ、エルフ君!嬉しいな、待っててくれたの?」
「もちろん。君がわざわざ来てくれるんだから、これぐらいは当然さ」
親しげに話す二人。その姿は誰がどう見ても、恋人同士にしか見えない。
そして実際、二人の関係はそうであった。
昨夜ヒューマンとしていたように、クラッズはまた学食で食事をしつつ、エルフとお喋りをする。このエルフも相当な実力者で、最近は
空への門を基点としているらしい。もちろん、彼女にはそれがどんなところだか想像も付かないのだが、話を聞く限りでは面白そうな
場所である。今度飛竜でこっそり行ってみようと、彼女は思っていた。
「それにしても、ここまで来るのは大変じゃないかい?」
「大丈夫だよー、いっつも強い人達に連れてきてもらってるから」
「でも、結構距離あるだろう?」
「それがそうでもないんだよー。みんなマジックキー開けてるから、ここまでは案外すぐなんだよね」
「ああ、なるほど。道理で、ここまで旅をしてる割には、いつまで経っても初々しいと思った」
「ひどーい!これでも少しは頑張ってるのに!」
「ははは、ごめんごめん」
元々クラッズという種族に対して好感を抱くエルフは、彼女を信じきっている。その言葉に疑いを抱くなどということは、夢にも思わない。
「ところで、君の方はどうだい?少しはいい武器でも拾えた?」
「相変わらずこれ〜。全っ然だよ」
そう言って、クラッズは新品同様のダガーを見せる。
「……まっさらだね。一回も使ってないんじゃないかい?」
「だってぇー!私の活躍なんて、宝箱相手にしかないんだもん!戦闘じゃいっつも後ろだし…」
「ああ、なるほど。いや、ごめんごめん」
「チャクラムとかあったら、私でも少しは貢献できるんだろうけどさぁ…」
「確かに、あれはいい武器だね。もし欲しいなら、今度作ってあげようか?」
「ほんとに!?」
期待に目を輝かせるクラッズ。彼でなくとも、クラッズにそんな目をされて断れるエルフなどいないだろう。
「ああ。幸い、材料なら大体揃ってるし、今度会うときまでには作っておけるはずだよ」
「わーい!エルフ君、大好き!」
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気付けば外は夕焼けの色に染まっていた。
「あ、ごめん。私、そろそろ帰らなきゃ」
「ああ、もうそんな時間だったのか……なあ、クラッズ」
少し迷ってから、エルフは恥ずかしそうに口を開いた。
「もし、よかったら……今日は、泊まって行かないかい?」
「……ごめんね〜、そうしたいんだけど、他のみんなが待ってるから…」
クラッズが申し訳なさそうに言うと、エルフは少し不満げな溜め息をついた。
「付き合いだしてから、結構経つけど……君はつれないね」
「だって、学校が違うんだもん…。私だって……その…」
「……いや、悪かった。君にだって、色々事情があるだろうからね」
エルフが取り繕うような笑顔を浮かべると、クラッズは寂しそうな顔を向けた。
「そのうち、ゆっくり時間が取れるようにするからさ。ね?」
「ああ。楽しみにしてるよ」
二人は席を立つと、揃って地下道に向かった。入り口のすぐ近くにある魔法球に手をかざそうとして、クラッズは手を引っ込めた。
「ん、どうしたんだい?」
「お別れの挨拶、忘れてた」
ペロッと舌を出すと、クラッズは彼の服の裾を掴み、目を瞑ってグッと背伸びする。そんな彼女に、エルフは優しく口付けをした。
「それじゃまたね、エルフ君!」
「ああ、おやすみクラッズ」
今度こそ魔法球に手をかざし、クラッズはパルタクスへと戻る。が、地下道入り口に出た彼女は、すぐにまた地下道内へと引き返す。
そして再び魔法球に手をかざすと、その日地下道に捨てられたアイテムの物色を始めた。
「んーと……あ、飛竜の鱗だ、ラッキー。と、これは錆びた鎖。売れるかな?で……おー、鬼切だっ!」
これが、彼女の日課であった。実際のところ、彼女がこれまで自分の力でアイテムを手に入れたことは、一度もない。しかも、パーティを
組んで地下道探索をしたことすらないのだ。
金目の物と自分で使う物の物色を終えると、購買でいらないアイテムを売り捌いてから、クラッズは寮の部屋へと戻る。
「ただいまー」
「お帰りー。今日は遅かったね」
帰ってきたクラッズに、ルームメイトであるヒューマンの女子が声をかけた。
「ランツレート行って来たからさー。あーあ、面倒くさい」
クラッズはいかにも大儀そうに伸びをすると、ドカッと椅子に腰掛けた。
「あっちの相手はエルフだっけ?ほんと、気をつけなよ〜?」
「大丈夫だってば。そもそも学校が違って、おまけにヒューマンとエルフだよ?接点なんか、あるわけないじゃん」
「それでも、意外な縁っていうのもあるんだから。最近じゃ、あっちとこっちの生徒がパーティ組む事だってあるんだよ」
「だから大丈夫なんだってば。あっちもこっちも、もうすっかり定着したパーティに入ってるんだから。バレるなんてないない」
そう言ってずるそうに笑うクラッズ。そんな彼女に、ヒューマンは少し呆れた声をかける。
「まあ、いいけどさ。ほんと、学校跨いだ二股なんて、よくやるわ」
「いいじゃん、この方がずっと楽に稼げるんだし。危険な目にも遭わないし、まともに地下道行くより、ずっと賢いでしょ」
「そう言われちゃうと、ちょっと傷つくなぁ」
「ヒュマちゃんもやればいいのに。どうせ男なんて、ヤることしか考えてないんだし、ちょっとそれっぽい素振り見せたら一発よ」
それを聞くと、ヒューマンはおかしそうに笑った。
「でも、二人には気の毒な話だよね。散々気を持たされた挙句、最後はポイ、でしょ?」
「同情する必要なんてないって。女は買う、男は貢ぐ。これ常識」
「ま、否定はしないけど〜」
そうヒューマンが笑うと、クラッズも笑顔を見せる。
「わかってくれるから、ヒュマちゃん好きだよ」
「私も性格は悪い方だって言われてるし〜。でも、君ほどじゃないなぁ」
「そう?」
「君、心はお金で簡単に売るけど、体は死んでも売らないってタイプでしょ。ある意味、いっちばん嫌なタイプだと思うよ、私は」
「あんなのに初めてやる気なんてないし。そう言うヒュマちゃんだって、似たようなもんでしょ?似たようなって言うか、逆だっけ?」
「ううん、逆じゃないよ」
「どんなんだっけ?」
クラッズが尋ねると、ヒューマンは楽しそうに笑い、選手宣誓でもするかのように、勢いよく手を上げた。
「私、お金になるなら心も体も売っちゃいまーす!」
「それは人としてどうなのよ」
周りからすればちっとも笑えない内容であったが、二人は実に楽しそうに笑った。このヒューマンの前でだけは、クラッズも本性を
丸出しにして会話できる。そのため、クラッズにとって、彼女は唯一の、気の置けない友人であった。
「ま、男なんてちょっと気を持たしてやれば、あとは簡単だけどさ。でも、血の気の多い奴ばっかりなんだし、バレたら危ないからね?」
「だぁ〜から大丈夫だってば。心配してくれるのは嬉しいけど、痛くもない腹を探られるのは嫌なものだよ?」
「わかったよ〜、もう言わない。何にしろ、うまくやりなね?」
「任せてよ。利用価値がなくなるまでは、思いっきり使ってやるつもりだからさ」
そう言って笑うクラッズの顔は、とても無邪気なものに見えた。こんな顔を見たら、自分が男だったら即座に騙されてしまうだろうと、
彼女はぼんやりと思っていた。
それからもクラッズは、二人の男との関係を続けた。もちろん、体を許すことはなく、それでいて常に気を持たせ、うまい具合に高価な
アイテムをせしめていた。男を手玉に取ることなど、彼女にとっては造作のないことであった。
しかし、その関係をずっと続けるには、ほんの少し運がなかった。
ある日、ヒューマンは探索を終えると仲間と別れ、一人で購買を覗いていた。何かめぼしい武器でも入っていないかと見ていると、
一つのチャクラムが目に止まる。
「……?」
何だか見覚えがある。どれもこれも同じような武器の中で、これだけが異様に存在感を放っている。
考えたくはなかった。しかし、それしか考え付かなかった。どうしても確かめてみたくなり、それを手に取り、裏返してみた。
「……先生、ちょっといいですか?」
「おう、そいつが気に入ったのか?」
「ああ、いや、そうじゃなくって……その、このチャクラム売った人のこと、覚えてませんか?」
そう尋ねられると、ニャオミンは顎に手を当て、考える仕草をした。
「さぁてなあ。何しろ、色んな奴が来るから、誰が売ったかなんて、いちいち覚えてねえなあ」
「そうですか……でも、何とか思い出せませんか?」
言いながら、ヒューマンは懐に手を入れ、無造作に金の束を掴むと、そっとカウンターに差し出した。それをさりげなく受け取ると、
ニャオミンはふと何かを思い出したように言った。
「あ〜、そういやクラッズの女子の奴が、それ持ってきたような気がするな。ありゃ新入生だったんじゃねえかな」
まず、間違いないだろう。クラッズにあげたチャクラムには、意図したわけではないが、目印が付いていた。
実は、これを彼女に渡す前に、一度落として傷をつけてしまったのだ。幸い刃の側面だったので使用に差し支えはないだろうと、
そのまま渡したのだ。恐らく、ニャオミン先生も同じような判断を下し、そのまま置いてあるのだろう。
「そうでしたか、ありがとうございます」
「で、そいつは買うのかい?あるいは、他に聞きてえことでもありゃ、聞くだけ聞くぜ」
「いえ、十分です……あ、やっぱり焼きそばパン一つください」
部屋で焼きそばパンを食べながら、ヒューマンはあのチャクラムについてずっと考えていた。
彼女は、チャクラムを持っていた。自分があげたのは、あの一つだけである。となると、あれは彼女が自分で手に入れたものだろうか。
が、そう考えるにはいくつか問題がある。一つは、彼女があれの素材を手に入れるだけの力量がないこと。もちろん、武器そのものを
手に入れられる可能性も、ないに等しい。そして何よりの問題は、そのチャクラムを自分があげた物だと言っていたことである。
今この目で見た以上、それは嘘だろう。ではなぜ嘘を言う必要があるのか。
答えは決まっている。知られたくない秘密があるのだ。となると、事態はより考えたくない方向に進む。
彼女が今持っているチャクラムも、誰かにもらった物。その相手を、彼女は知られたくない。となると、恐らくは自分と同じ立場の男。
おおかた、二人から同じ物をせしめ、片方は金にし、もう片方をいかにも大事にしてるというように見せているのだろう。
だが、彼女と他の男が付き合っているという話は聞いたことがない。あまり考えたくないが、その問題も解決する方法もなくはない。
焼きそばパンを食べ終えたヒューマンは、しばらく部屋でぼんやりしていた。が、やがて部屋を飛び出し、仲間の部屋を回ってしばらく
休むということを伝えると、倉庫から飛竜召喚札を取り出し、どこかへと飛び去って行った。
ヒューマンが急にどこかへ行ってしまったという話を聞き、クラッズは少し焦った。しかし、三日ほど経っても、特に何か動きが
あるわけでもなく、心配は杞憂だろうと思うことにし、いつものようにランツレートヘとお邪魔していた。
「どうかしたの?今日は何だか浮かない顔だね?」
「え?ああ……仲間の一人がさ、しばらく休むっていうから、何かあったのかなって、ちょっと不安でね…」
「そうだったのか。それじゃ、チャクラムを試す暇もなさそうだね」
一瞬焦ったクラッズだったが、逆にいい言い訳の材料ができたことに、彼女はホッとしていた。まだまだまっさらなチャクラムを
どう言い訳するか、それも彼女の懸念の一つだったのだ。
何かと世話を焼いてくれるエルフは、恰好のカモである。どちらかというと、ヒューマンよりも扱いやすい。
「今日は、ちょっと早めに帰らないといけないんだけど……ごめんね、なかなか予定合わなくって」
「いや、気にしないでいいよ。そのうち余裕ができたときに、ゆっくり遊びに来てくれ」
「エルフ君のそういうところ、大好きだよ!」
そう言ってじゃれつくクラッズに、エルフは幸せそうな笑顔で応える。少なくともエルフとしては、二人でいる時間は他のどんな時より
幸せだった。
やがて、いつも通りにクラッズが魔法球で帰り、エルフも彼女を見送ってから地下道を出た。と、その入り口に、一人のヒューマンが
佇んでいる。顔に見覚えはなく、無視して通り過ぎようとしたが、ヒューマンが口を開いた。
「今の子は、お前の彼女か?」
「……いきなり何なんだい?それに答える義理は、僕にはないよ」
彼に構わず帰ろうとしたが、ヒューマンは腕を掴んできた。
「ところが、そうでもないんだ」
「……君が何者で、どういうつもりかは知らない。だけど、これ以上しつこく付きまとうなら…」
そこまで言ったところで、ヒューマンがスッと生徒手帳を差し出してきた。それはここの物ではなく、パルタクスの生徒手帳だった。
「君はパルタクスの…?それがどうして、うちの制服を着てるんだい?」
「答えを知りたきゃ、一週間後に、パルタクスの寮の屋上に来てくれ。ただし、こっそりな。俺みたいに、絶対見つからないように」
それだけ言うと、ヒューマンは飛竜召喚札を使い、呼び出した飛竜に乗ってたちまち飛び去ってしまった。残されたエルフは、怪訝そうな
顔で、飛び去る飛竜を見つめていた。
間もなく、ヒューマンは何事もなかったかのように、学園に戻っていた。当然、パーティの仲間からは何をしていたのか聞かれたが、
個人的な用事だとしか答えなかった。彼が戻ったことでクラッズも、ホッと息をついていた。
それから少し経って、その日はヒューマンの方からデートに誘ってきた。クラッズは断る理由もなく、気軽にそれを受ける。
ヒューマンは機嫌がいいのか、妙に愛想がよかった。昼食もデザート付きでごちそうしてくれたし、いつもよりずっと口数が多い。
クラッズとしても、彼の機嫌がいいのは結構なことだった。ダメ元でせがんだデザートもおごってもらえたし、食事自体も高価な物を
ただで食べられた。それを餌に関係を迫ってくるかと一瞬警戒したが、それはヒューマン自身が『明日は早いから』と言ったことで、
心配する必要もなくなった。
少し日が傾き始めた頃、ヒューマンはクラッズを寮の屋上に誘った。少し疲れてはいたものの、何かと気分がよかったため、クラッズは
サービスのつもりで誘いを受けることにした。
屋上に出ると、ヒューマンは大きく伸びをした。確かに、ここは開放的な気分になるし、見晴らしがよくてなかなかいいところである。
「なあ、クラッズ」
「ん、なーに?」
「俺のあげたチャクラム、使ってみたか?」
一瞬、クラッズは焦った。しかし、そんな様子はおくびにも出さずに答える。
「みたよー。でも……その、扱い慣れなくって、外してばっかり…」
「ははは、そりゃそうだろうな。少し練習が必要らしいし。んでー、その、なんだ。もう一個聞きたいんだけど…」
ヒューマンの歯切れの悪さに、クラッズは少し警戒した。が、彼の口から出た言葉は、特にその必要もない言葉だった。
「お前さ、すっごく愛想いいし、可愛いし、他の奴から告られたり、付き合ったりとかしてねえ?」
「そんなわけないでしょー!私が好きなのは、ヒューマン君だけなんだから!」
そう言って少し怒って見せると、ヒューマンはホッとしたように笑った。よくよく、ちょろい男だと、クラッズは心の中で嘲笑する。
「そっか、そう言ってくれると嬉しいよ。……でも、ほんとにそうか?俺よりいい奴なんて、いっぱいいないか?」
「そんなことないよー。ヒューマン君が一番だって…」
その瞬間、入り口の陰からズサッと音が聞こえ、二人は飛び上がった。しかし振り返っても、誰も出てくる気配はない。
「……先客、いたのかな?」
ヒューマンが、気まずそうに笑う。
「そ、そうかもね〜。あはは……降りよっか?」
「そうだな、邪魔しちゃ悪いしな、ははは…」
二人はそこから逃げるように、階段を降りて行った。何だかそれで興を殺がれてしまい、二人はそのまま別れると、それぞれの部屋に
戻った。が、ヒューマンはクラッズがいなくなったのを確認すると、足音を忍ばせつつ屋上へと戻った。
屋上に出ると、ふう、と溜め息をつく。そして、視線を上に向けたまま、声をかけた。
「……こういうわけだ。わかってもらえたか?」
「……ああ、よくわかったよ…」
入り口の陰から、声だけが返ってくる。エルフらしい、静かなよく通るその声には、抑え切れない怒りが篭っていた。
「ははは、それにしても、うまいことやられたよなあ、俺等。普通、こんなん気付かねえもんなあ」
「気付かなければ、いっそどれほどよかったか…!いや、それもないか。そうだったら、僕達は利用され、捨てられるだけだった」
二人の溜め息が重なる。同時に、二人ともその目に暗い情念を宿す。
「お互い、あいつに貸しはだいぶあるよな?」
「まとめて、払ってもらうとするか」
「道具扱いされた挙句、散々焦らされてんだ。そっちも一括払いでいいよな?」
「いいんじゃないか。君が混じるのが残念だが、僕はそのつもりだ」
「へん、そりゃ俺の台詞だ」
二人の男は笑った。その笑顔には、ひどくどす黒い怒りの炎が見え隠れしていた。
翌日、クラッズはまたもヒューマンからの誘いを受けた。二日連続というのも珍しいが、何でもぜひ見せたいものがあるのだという。
そんなわけで、面倒くさく思いながらも出かける準備をしていると、同室のヒューマンが声をかけた。
「またデートのお誘い?」
「そうだよ。なんか知らないけど、見せたいのがあるんだってさ」
それを聞くと、ヒューマンは少し不安そうな表情を見せた。
「ねえ、なんかおかしいと思わない?だって、そんなの昨日のうちに済ませればいい話じゃない。なのに、二日連続で誘われて、しかも
二日目にそんなこと言うなんて…」
だが、クラッズは自信たっぷりに笑った。
「もー、ヒュマちゃんは心配性だなあ。あの馬鹿に、何がわかるって言うのよ?」
「もし何か企んでるとしたら……君、危ないよ?」
「だーいじょうぶだってば。私だって足は速いんだし、いざとなったらすぐ逃げるもん」
「……まあ、いいや。とにかく、気をつけてね」
「はいはい。どうせ大したことじゃないだろうし、さっさと済ませてきちゃうよ」
軽い足取りで部屋を出るクラッズ。その背中を、彼女は不安げな顔で見送っていた。
寮を出て、約束の地下道入り口に着くと、既にヒューマンが待っていた。手を振ると、彼の方も手を振り返す。
「何?見せたいものって地下道の中なの?」
「ああ、まあな。本当は中で待っててもよかったんだけど、一緒に行った方が安心だろ?」
「そうだね、その方が私も嬉しいよ」
いざとなれば、地下道の方が逃げやすいだろう。そう考え、クラッズは特に警戒もしなかった。
トレーン地下道に入ると、ヒューマンはフロトルを唱えた。突然体が浮かび上がり、クラッズは一瞬慌てたが、すぐにその不思議な感覚を
楽しみだす。
「うわぁ、体浮いてる〜!面白〜い!」
「お前、パーティでフロトル使ったことないのか?」
訝しむように言われ、クラッズは初めて、この魔法がかなりの初級魔法なのだということを知った。
「あ……あ、いやね、私達はほら、まだ魔力もそんなにないし…」
「あんまり使ってもらえねえってことか。ま、そうやって節約するのもありかもな」
どうでもよさそうな感じで言うと、ヒューマンは先に立って歩き出した。足が着かない感覚に少し戸惑いつつも、クラッズはすぐに
その後を追う。
道すがら、何度かモンスターとの戦闘があった。さすがにヒューマンは強く、どんな群れであろうと傷一つ受けることなく、手にした杖で
次々に打ち倒していく。クラッズもチャクラムで攻撃を仕掛けるのだが、実戦経験のない彼女の攻撃は、相手に掠りすらしなかった。
そんな彼女を見て、ヒューマンが笑う。
「確かに、そんな動きじゃあ当てようがないな。新品同様のわけがわかったぜ」
「あ、あははは…」
情けない姿を見せたものの、図らずも、昨日の嘘が立証できたようで、クラッズはなんとなくホッとしていた。
そうこうしているうちに、二人はトレーン地下道の中央までやってきた。ヒューマンは当たり前のように、その中心部へ向かっていく。
「うわ、ここの下、ディープゾーンだよ?」
「ああ。落ちたら死ぬな」
「こ、この魔法、いきなり切れたりしないよねえ?」
「アンチスペルゾーンでもなきゃ、切れやしねえって。そんなのここにはないし、安心しろ」
ディープゾーンに囲まれた中心部に着くと、ヒューマンは立ち止まった。クラッズもその隣に並ぶが、特に何かあるようには見えない。
一応周囲を見回してみるが、やはり何もない。
ヒューマンを見てみる。しかし、彼が動く気配はなく、クラッズはだんだんと不安になってくる。
「ね、ねえ。見せたいのって、ここのこと?」
「いや、そうじゃねえ」
そう答えるヒューマンの横顔は、ひどく冷たいものに感じられた。心なしか、声にも表情が感じられない。
「じゃあ……その、何なのよ?こんなとこでじっとしてたって…」
「……そうだな。そろそろいいかもな」
ピィーッと、甲高い指笛の音が響き渡る。その音は静寂に包まれた地下道の中で、異様に大きく聞こえた。
やがて、こだましていた音が地下道の壁に吸い込まれていく。ヒューマンの動きはない。しかし、クラッズは不意に何かの気配を感じた。
モンスターでも来たのかと思い、慌てて振り返った彼女は、そのまま魔法でもかけられたかのように、まったく動けなくなってしまった。
「う……嘘でしょ…!?」
「……やあ、クラッズ」
いつの間にか、後ろにエルフがいた。紛れもなく、ランツレートの彼だ。慌ててヒューマンを見上げると、彼は無表情な目でクラッズを
見下ろしていた。背筋に、冷たいものが走る。
「ま、こういうこった。どうだい、びっくりしただろ?」
「あ……あ…!」
「昨日の屋上での会話、全部聞かせてもらったよ。僕にも彼にも、同じ言葉を吐くなんて……君は嘘つきだねえ」
笑いかけるエルフの顔は、ゾッとするほど冷たいものだった。
考えるより早く体が動いた。すぐさま身を翻し、その場から逃げようとする。が、いかに身軽なクラッズとはいえ、実戦で鍛え上げられた
二人にはかなわなかった。
「無駄だ、インバリル!」
「きゃあ!?」
突然、浮かんでいた体が地面に落ち、彼女は危うくディープゾーンに落ちる直前で踏みとどまった。一瞬逃げ場を探して首を巡らせた瞬間、
エルフが思いもよらぬ速さで接近し、クラッズの首を掴む。
「い、痛いっ!」
「逃がしはしないよ。もっとも、逃げ場もないけどね」
エルフの言う通り、ここはディープゾーンに囲まれた、狭い足場である。空中浮遊ができなければ、脱出は不可能だった。
「や、やめて!放してよ!」
ついいつもの調子で言って、クラッズはゾッとした。二人とも、その目はまるで狩りの獲物を見るような目だった。
「ね……ねえ、悪かったよ……あ、謝るからさ、許してよ、ね?ね?」
取り繕うように笑いかけても、二人は笑いもしなかった。それどころか、より怒りを込めた目でクラッズを睨みつける。
「どうせ、この状況でも軽く考えてるんだろうね。だけど、君みたいな子を許せるほど、僕の心は広くない」
「まあ、お前にやっちまったもんを返せとは言わねえけどよ。でもな、その分お前からは何ももらってねえよな?」
喋りながら、ヒューマンはクラッズの後ろに回りこんだ。そして彼女の制服に手をかけると、思い切り引き裂いた。
「きゃあぁぁ!?」
「本当なら、君には甘い言葉の一つでも囁いてあげたかったところだけど……もう、そんな気も失せた」
そこでようやく、クラッズはこれから何をされるのかを悟った。
「や……やだよ、やめてよ!そんなのやだ!大体っ、ふ、二人とも少しぐらい、いい思いしたでしょ!?それに、二人とも強いんだし、
使った金額だって大したことないでしょ!?だ、だからっ、そのっ……やめてよ!」
怯えきった表情でまくし立てるも、それはますます相手の神経を逆撫でしてしまう。
「違うんだよ、金額の多寡じゃねえんだよ……てめえは、俺等をただの道具としか見てなかった。そのために、騙した。それが、
許せねえんだよっ!」
ヒューマンがスカートを剥ぎ取ると同時に、エルフはクラッズの体を突き飛ばした。クラッズはよろめいて倒れ、ともかくも解放された
腕で、恥ずかしそうに胸を隠す。
「い、痛い…!」
「ふん、同情でも引きたいのかい?生憎だけど、僕はもう君に対して、そんな感情は持ち合わせていない」
「まああれだ、次のために覚えておけよ。変に焦らすと、ろくなことにならねえってな」
一瞬、二人は目配せを交わした。ヒューマンが『お先にどうぞ』とでも言うように肩をすくめ、エルフがゆっくりとクラッズに近づく。
「や……やだ、こないで!」
立ち上がろうとしたクラッズを、エルフは素早く押さえつけた。両腕を捻り上げ、後ろ手にして押さえ込むと、まだ未熟な体に
手を這わせる。恥ずかしさと恐怖から、クラッズの体がビクリと震えた。
「い、痛いよっ!やめて!放してぇ!」
「この体、何度この腕に抱きたいと思ったことか。でも今は……ふん、むしろ、憎らしくてたまらないな!」
エルフの手が、クラッズの乳首を思い切り摘んだ。
「きゃああぁぁ!!!い、痛い痛い痛い!!!やめてぇ!!!千切れちゃうよぉ!!!」
「それがどうした。そんなの、僕の知ったことじゃない!」
「いっ……痛いいぃぃっ!!!!」
そのまま、エルフは力任せに乳首を引っ張った。本当に引きちぎられそうな痛みが走り、クラッズは涙を流して悲鳴を上げる。
「おいおい、いきなり飛ばすなよ。せめて俺の分は残しとけ」
笑いながらヒューマンが近づく。クラッズは助けを求めるように彼を見上げたが、ヒューマンはクラッズの髪を乱暴に掴んだ。
「い、痛っ!」
「俺はてめえの体になんて興味ねえ。ま、楽しませてもらうぜ」
ゆっくりとジッパーを下げ、ヒューマンは自身のモノを取り出した。初めて見るそれに、クラッズの顔が恐怖に引きつる。
「ひっ!?」
「嫌そうだな?いいか、歯立てんなよ」
「な、何するつも……うぐぅっ!?」
クラッズの口内に、ヒューマンは強引に突き入れた。驚きと気持ち悪さと、喉の奥に当たる感触に、クラッズはひどい吐き気を催す。
「ぅえ……お、おえぇっ!」
「おいおい、歯ぁ立てんなよ?もし噛みやがったら…」
突然、ヒューマンの手からクラッズの足元に炎が撃ち込まれる。炎は石造りの床を溶かし、ぽっかりと大きな穴を作っていた。
「う……あ、ああぁぁぁ…!」
それを見た瞬間、クラッズはガタガタと震えだし、必死に口を開けていようとする。が、エルフがその手をそっと滑らせ、彼女の
秘裂に触れた。
「んぐっ!うぅっ!」
「おいおい、あんま変なことして、噛ませようとするなよ?」
「君と同じように、やりたいようにやってるだけだ」
「はは、そうかよ。んじゃ、危なそうだし、さっさと終わらせるか」
言い終えると同時に、ヒューマンはクラッズの髪を掴み、乱暴に頭を揺さぶり始めた。
「んんっ!?んぐっ……ゲホッ!!あがっ……がはっ!や、やめ……んぐぅ!!」
腕を突っ張ろうにも、両手はエルフに封じられ、抵抗することもできない。何度も何度も喉の奥まで突き入れられ、口内を蹂躙される。
それを続けるうち、ヒューマンのモノは大きく硬くなり、息苦しさはどんどん増していく。
エルフはエルフで、クラッズの幼く見える秘裂を執拗なまでに触っている。が、それは愛撫などというものとは程遠い、ただ自分の
欲望を満たすためだけの動きであり、クラッズにとっては痛みしかない。
「うぅ……うえっ…………がふっ!」
下手に呻き声を上げ、歯を立ててしまえば殺される。そうでなくとも、男二人に体をいいように弄ばれ、口には触りたくもない物を
突っ込まれている。恐怖と不快感に、クラッズの全身はすっかり強張っており、その秘部も異物の侵入を固く拒んでいる。
「ふーん、とても濡らしたりできそうにないな、これは」
「どうせそうだと思った。ほらよ」
ヒューマンはクラッズの頭を掴んで揺さぶったまま、ポケットから小瓶を取り出してエルフに投げた。
「何だい、これは」
「食用油。それつけときゃいいだろ」
「用意がいいことだね」
「どうせ濡れねえのはわかりきってるんだ。こいつの都合になんて、合わせてらんねえ」
エルフは栓を抜くと、中身をたっぷりと指に絡めた。そして再び秘裂に指を這わせると、一気に突き入れた。
「ふぐぅっ!!」
「痛って!ちっ、噛むなっつっただろっ!」
ヒューマンはクラッズの頭を掴むと、強引に自分の腰へと押し付ける。
「がっ……う……ぐふっ……ううぅぅぅっ…!」
「ああ、暖かくて気持ちいいなこれも。ははは」
ヒューマンのモノが喉を塞ぎ、クラッズは窒息の苦しみに身悶える。それでもなおヒューマンは許さず、やがてクラッズの意識が
遠のき始めた瞬間、見計らったように腕を放した。だが、ようやく許された呼吸を始める間もなく、ヒューマンは今までより乱暴に
クラッズの口内を犯し始めた。
「くっ……やべ、出る!」
その言葉の意味を理解する前に、クラッズの口の中に熱くて生臭い液体が放たれた。思わず吐き出そうとするが、直後ヒューマンは
またもクラッズの喉の奥まで突き立てる。
「んぐぁ……うぐ、げ……ぐぶぅっ!ごぼっ!」
食道に直接精液を注ぎ込まれ、ひどく喉に絡むその液体を否応なく飲まされる。えずいた瞬間に、その一部が気管に入りかけ、クラッズは
思い切りむせ返った。だが口は塞がれており、精液が出る箇所など一つしかない。
「うわ、きったねえな。こいつ鼻から出しやがった」
そう言いつつも、ひどく満足げな表情のヒューマン。最後の一滴までクラッズの口内に注ぎ込むと、ようやく押さえていた頭を放す。
途端に、クラッズは激しく咳き込み、嘔吐した。無理矢理飲まされた精液を吐き出し、鼻にまで回ったそれを腕で拭うと、涙に濡れた目で
二人を見つめる。
「うぅぅ……お願い、だから……もう許して…」
「音を上げるのが早いね。まだ僕の方は、ろくに何もしてないんだけど?」
危ないところでクラッズの吐いた物をかわしたエルフが、彼女の中に突き入れた指を激しく動かした。
「痛いっ!やだぁ!ごめんなさい、ごめんなさいっ!!お願いだから、もう許してよおぉ!!」
「今更謝ったって、それが何になる」
冷たく言い放つと、エルフもズボンを下ろした。クラッズの顔が、恐怖に引きつる。
「ご……ごめんなさい…………ごめんなさい…!」
エルフはクラッズの中から指を抜くと、自身のモノにも油を塗りたくり、それをゆっくりとクラッズの小さな割れ目に押し当てた。
「い、嫌だぁ!!お願いだからそれだけはやめてぇ!!私、初めてなのぉ!!!お願いだから許してぇ!!!」
その途端に、クラッズは今までにないほど暴れだした。エルフの腕を跳ね除け、代わりに掴まれた足をばたつかせ、地下道の床を
激しく引っ掻き、何とかしてその手から逃れようとする。
「だから、言っただろう。今更、君の言うことなど、聞くつもりはない!」
そんな彼女をいとも簡単に押さえつけると無理矢理足を開かせ、エルフは今度こそ狙いを定めた。
「やだやだやだやだ!!!お願いだからああぁぁ!!!やめっ…」
必死に哀願するその言葉が終わる前に、エルフは思い切り腰を突き出した。
「ひっ、ぎゃああぁぁぁ!!!ああああやだやだ痛い痛い痛いいいぃぃぃ!!!!」
脳天まで突き抜けるような、凄まじい激痛がクラッズを襲う。あまりの痛みに遠のく意識すら、その痛みが引き戻してしまう。
「抜いてぇっ!!!お願いだから抜いてえぇぇ!!!」
「うるさいな。まだ全部入ったわけじゃないってのに」
「もうやだやだやだぁぁ!!お願いしますやめてくださいいぃぃ!!!お願いだから許してくださいいいぃぃ!!」
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、クラッズは必死に叫ぶ。ただでさえ処女だったのが、遥かに体格の違う男に、しかも無理矢理
突き入れられたのだ。秘裂からは、破瓜だけではない血がとめどなく滴り落ち、その激痛は想像を絶するものだった。
「痛いのぉ!!!本当に痛いのぉ!!!お願いだからもうやめてえぇぇ!!!」
クラッズの言葉も、今の二人にはただの興奮剤にしかならなかった。自分達を欺き、利用していた相手が泣き叫ぶ姿は、二人に心地良い
征服感をもたらすと同時に、えもいわれぬ暗い悦びを呼び起こす。
エルフが、乱暴に腰を突き動かす。途端にクラッズの体はガクガクと揺さぶられ、泣き声も一層激しくなる。
「あ゙あ゙あ゙あ゙!!!いだいいだいいいぃぃ!!!やめてくださいいぃぃ!!!許してくださいいぃぃ!!!」
「ここまできて、途中でやめられると思ってるのかい?……君がもっと誠実な子だったら、それもできたかもしれないけど」
初めて、クラッズは自分の行いを後悔した。激しい痛みと後悔が入り混じり、クラッズはひたすら泣き叫ぶ。
エルフが突き上げる度、クラッズは内臓を潰されるような圧迫感に呼吸を止められ、引き抜けば傷を擦られる激痛に泣き喚き、何度も
何度も許しを請う。
しばらく、ヒューマンはそんな二人の姿を眺めていた。が、やがて我慢できなくなったのか、エルフに声をかける。
「なあ、おい」
「ん、何だよ。途中で代われとか言うんじゃないだろうね?」
「終わるまで待つつもりだったけど、もういいや。ケツの方空いてるだろ?」
「さすが、ヒューマンは見境ないな」
だが、そう言うエルフの顔は笑っていた。一瞬遅れて言葉の意味に気づき、今まで泣きじゃくっていたクラッズの顔が恐怖に歪む。
「やだっ、やだぁっ!!!そんなの無理だよぉ!!死んじゃう!!!本当に死んじゃうよおぉ!!!」
今更そんな言葉が聞き入れられるはずもなく、エルフは体勢を入れ替え、クラッズの体を抱き締めるように押さえつけた。ヒューマンは
残った油を自身のモノに擦り付けると、クラッズのきつく閉じられた穴に押し当てた。
「お願いだからもうやめてええぇぇ!!!助けて!!!お願い誰かぁ!!!助けて!!!助けて!!!助け…!」
ぎちぎちと穴をこじ開け、ヒューマンのモノの先端がクラッズの中に入り込んだ。
「あっ!!がっっっ!!!い、痛いいいぃぃ!!!もうやだ!!!痛いのもうやだああぁぁ!!!」
「そう言うなよ。こっちは気ぃ使って、ゆっくり入れてやってるんだぜ?」
実はそうでないことは、ヒューマンの冷酷な笑みが物語っていた。少しずつ、しかし確実にクラッズの肛門は押し広げられ、それは
彼女にひどい苦痛をもたらしていた。
「痛い!!痛い!!痛いぃぃ!!裂けちゃう!!お、お尻がああぁぁ!!もう入れないでぇ!!裂ける!!本当に裂けちゃうぅぅ!!」
「まだまだ先端しか入ってねえぞ?こんなとこで音ぇ上げてんじゃねえよ」
「うあ゙あ゙あ゙!!やめ……でぇ!!!いだいぃぃ!!!お尻がっ……あぎぃっ!!もう無理!!!もう無理ぃぃ!!!」
その瞬間、無理矢理押し広げられる痛みとは違う、鋭い痛みが走った。その痛みは瞬時に広がり、一気に苦痛が跳ね上がる。
「ひぃっ、ぎゃああぁぁ!!!!さ、裂けたぁ!!!絶対切れちゃったからあぁぁ!!!もうやめてええぇぇ!!!」
「あー、血ぃ出てるな。はは、その分滑りがよくなっただろ?それにこんだけきついと、結構気持ちいいぜ」
「痛いのもうやだあぁぁ!!!お尻壊れるからもうやめてえぇぇ!!!許してくださいお願いしますからあぁぁ!!!」
ヒューマンは構わず、さらに腰を突き出していく。やがて、すっかりクラッズの中に納まってしまうと、気の狂いそうな痛みに加え、
体を内側から突き破られるような、ひどい圧迫感が襲ってくる。
「がっ……あ、ぐっ……おなか…………がぁっ…!!」
「うっ……急に、すごくきつく…!」
「ああ、こいつの腹ん中でぶつかってるのか……よく考えると気分悪りいな、きつくて気持ちはいいけど」
クラッズはそれどころではなかった。体内を二本の肉棒で掻き回され、それが腹の中でゴリゴリと擦れているのだ。その苦痛は耐え難く、
ついには呼吸をする余裕さえも奪われていく。
「うぅ……がはっ!!お……ねが…………ぬ、抜いてぇ…!!」
しかし、二人の方もクラッズの声を聞く余裕などなくなってきていた。だんだんとその動きは性急なものとなり、呼吸もそれに比例して
荒くなっている。
「くっ……そろそろ、限界だ…!」
「やだっ、やだ……ぁ…!お願……い…!出さない、でぇ…!!中には出さないでぇ…!!」
クラッズは泣きながら、必死に首を振る。しかしその嫌がる姿がまた、二人には心地良く映る。
「ダメだ、もう出る!」
直後、エルフのモノがビクンと震え、クラッズの体内に熱い液体が流し込まれた。
「やぁっ!!熱い!!!痛い!!!嫌だ嫌だ!!お願いだからもう出さないでえぇぇ!!」
泣き喚くクラッズの中に、一滴残らず出し切ってから、エルフはモノを引き抜いた。クラッズの秘所から、出されたばかりの精液と
血とが、ドロッと溢れ出る。
「お前が抜いたおかげで動きやすくなった。俺もぼちぼち、限界だ」
そう言うなり、ヒューマンはクラッズの腸内を荒々しく犯し始めた。急に激しくなった苦痛に、クラッズは再び泣き叫ぶ。
「痛い痛い痛い!!!お願いだからもう乱暴にしないでえぇぇ!!!許してくださいいぃぃ!!!」
「もう出そうだ……くっ!」
最後に一際強く腰を打ち付けると、ヒューマンはクラッズの腸内に精液をぶちまけた。さらに強く腰を押し付けつつ、精液を彼女の
体内深くに注ぎ込むと、一度根元まで彼女の体内に突き入れてから、ゆっくりと引き抜いた。
完全に引き抜かれ、ヒューマンが支えていた手を放すと、クラッズは力尽きたように倒れこんだ。
「うぅ……ぐすっ……ひっく…………う、うえぇぇん…!」
犯された。中に出された。汚された。そんな思いが頭を満たし、クラッズはまた泣き出した。まだ秘所から溢れる血と精液が、
今起こったことが全て現実なのだと、否が応でも認識させる。
そんな彼女を、ヒューマンが引き起こした。
「ったく、中に出しやがって。お前、俺も使いてえんだから汚すなよな」
「え…!?」
クラッズは耳を疑った。やっと終わったと思ったのに、この男はまだするというのだろうか。
「君だって同じことしてるじゃないか」
「へえ、つまりお前もケツでしたいって?」
「……一回じゃ足りないからね。どうせ前は君が使うんだろうし、しょうがないだろう」
「嘘でしょ!?ねえ、もう終わりだよね!?もう終わったんだよねえ!?」
二人の顔を見回したクラッズは、絶望のどん底に突き落とされた。この男達は、まだ続けるつもりなのだ。これだけ痛い思いをしたのに、
それがまた始まるというのだ。
「誰が終わったなんて言ったんだよ。まだ、足りねえっての」
「そんな……そんなぁ!!もうやだぁ!!もうやめてぇ!!お願いだからぁ!!」
「うるせえ奴だな。いい加減、諦めろ」
「やだっ!!やだっ!!やだぁっ!!もう、やめっ…!」
ヒューマンはクラッズを抱えあげると、何の遠慮もなしに一気に秘裂を貫いた。
「い゙っっっ!!!あがっ……がはっ…!!」
再び襲ってくる激痛と圧迫感。見開いた目からは涙がぼろぼろと零れ、口からは切れ切れの呼吸と共に、悲痛な悲鳴が漏れる。
後ろにエルフが回りこんだ。それに気付いた瞬間、彼はクラッズの肛門に、一気に根元まで突き入れた。
「ひぎっ!!!いっ……ああぁぁ…!!」
気が狂いそうな激痛。裂けた痛みと、体の奥深くを突き上げられる疼痛と圧迫感。クラッズの口はだらしなく開かれ、突き出された
舌から唾液が糸を引き、浅い呼吸がその苦しみを物語る。
もう、泣き喚く力も残っていなかった。クラッズはただただ涙を流し、襲い来る苦痛をひたすらに耐えるしかなかった。
「痛い……よぉ…!あそこが……お尻がぁ…………壊れちゃうよぉ…!」
か細い声で、クラッズは泣き続けた。それでも、二人はただ欲望のままにクラッズの体を味わい、何の気遣いも見せない。それどころか、
ヒューマンは明らかに物足りなそうな顔をしていた。やがて、その顔が酷薄そうに歪む。
「静かなのもいいけどな、もうちょっと泣いてくれた方が、こっちの気も晴れるんだがな!」
いきなり、ヒューマンはクラッズの小さな乳首を思い切りつねった。
「いっ、痛いいいぃぃ!!!」
たまらず、クラッズは叫んだ。そして一度叫んだことにより、半ば壊れかけていたクラッズの精神は、また現実に引き戻された。
「も、もうやだぁ!!お願いだから、二人とも許してええぇぇ!!お願いしますっ、お願いしますぅ!!!」
「そうそう、そうやって叫んでくれた方が、よっぽど楽しいぜ」
「やあぁっ、痛い!!!お尻乱暴にしないでえぇぇ!!!他の事なら何でもしますからぁ!!!謝りますから許してくださいぃぃ!!!」
「他の事なんて、僕達が今更求めると思うのか。それに、許されるなんて都合のいい話、あるわけもない」
「痛い痛い痛い!!!あっ、がっ!!!ひぐっ……がふっ!!助けて……お願い誰かぁ!!!助けてええぇぇ!!!」
二人のペースが、徐々に速くなってくる。その分クラッズの苦痛も増し、必死の叫び声も少しずつ途切れ途切れになっていく。
「いっ……痛っ、あっ!!!や……もう、やめっ……おなか……がぁ!ぐちゃぐちゃにぃ……あっ、がはぁっ!!!」
体内で肉棒が激しく擦れ、また体内を掻き回し、その度にクラッズは悲鳴をあげて涙をこぼす。内臓をめちゃくちゃにされそうな激痛が、
彼女の体力を奪い去り、皮肉にもそれが苦痛を和らげる。
やがて、ヒューマンが呻き声を上げ、またクラッズの膣内に熱い液体が注ぎ込まれた。が、それに気付いた瞬間、クラッズは最後の力を
振り絞り、全力で体を揺すった。
「嫌!!嫌ぁ!!!お願い中に出さないでえぇぇ!!!赤ちゃんなんか欲しくないぃぃ!!!」
ヒューマンは繁殖力が強い。そのため、どんな種族であろうと、相手がヒューマンだと妊娠してしまう可能性があるのだ。
「うるっせえな、てめえの都合なんか知るか」
「お願い!!抜いてぇ!!!もう中に出さないでぇ!!!もう熱いのやだぁぁ!!!やだああぁぁ!!!!」
不意に、クラッズは後ろから暴れる体を押さえつけられた。何とか抜こうとしていたヒューマンのモノが、体内の一番深いところまで
入り込み、よりにもよってそこで精液を吐き出される。
「あ……ああぁぁ…!」
「くっ……僕も、出る!」
体を押さえつけていたエルフも、思い切り腰を打ちつけ、クラッズの中に精を放った。体内を同時に汚され、クラッズの頬に新たな
涙が伝う。
二人とも、最後の一滴までクラッズの体内に注ぎ込むと、ゆっくりと引き抜いた。もう、クラッズは叫ぶことも泣くこともできず、
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を覆うこともせず、放心したように転がった。
「ふ〜、さすがに、もう出ねえや。少しは気も晴れたし」
ヒューマンが、言葉通り晴れやかな顔で言った。
「んじゃ、俺はもう帰る」
「僕も、もうしようっていう気は起こらない。早く体も洗いたいし」
二人とも、まるでクラッズがその場にいたのを忘れたかのように、のんびりとした声を出している。
「ところで、この子はどうするんだ?」
「いいよいいよ、このまま捨てとけ。運がありゃ、生きて帰れるだろ」
二人の目は、それこそ捨てられた汚物でも見るような、冷たい視線だった。だが、もうクラッズには、それをなじる元気も、そしてそれに
気付く気力もない。
「君は、魔術師だろう?できれば魔法球まで送ってくれ」
「ああ、はいはい。お前はランツレートだもんな。じゃあ魔法球まで飛ぶぞ」
「よろしく」
二人の姿が消えても、クラッズは体を起こすことすらできなかった。もう、疲れ果てていた。何もかもが嘘であって欲しかった。
そう思うと、またクラッズの目から涙が溢れた。身動き一つできないまま、クラッズはぽろぽろと涙を流す。
と、誰かがすぐ横に現れた。どっちかが戻ってきたのかと思ったが、すぐにそれは違うとわかった。
「やっぱり……だから、気をつけてって言ったのに」
「うぅ……ヒュマ……ちゃん…?」
そっと視線を上げると、そこには確かに、同室のヒューマンがいた。心配そうな顔で自分を覗き込む彼女の顔を見ると、クラッズの胸に
何とも言えない思いが溢れる。
「ヒュマちゃん……う、うえぇぇ…!」
「とにかく、体洗お。ひどいことになってるよ」
ヒューマンは、クラッズの体をひょいと抱き上げた。この細い腕のどこにそんな力があるのだろうと不思議になるほど、軽々と
抱き上げている。
「ちょっと冷たいけど、我慢してね。あと、痛いのも我慢して」
すぐ近くの浅瀬に来ると、ヒューマンはクラッズを下ろした。そして、体に付いた体液を洗い流し、次にクラッズを座らせると、秘裂に
指を突き入れた。
「いっ、痛っ!」
「ごめんね、でも我慢して。中の、全部出しちゃわないと」
そう言い、ヒューマンは長い時間をかけて、クラッズの中に出された精液を、指で全部掻き出した。同じように、腸内に残る精液も
すべて掻き出すと、ずたずたに破かれた服を練成して元に戻し、着せてやる。彼女が錬金術師だと知ったのは、この時が初めてだった。
さらに、どうやら様々な学科を経験したらしい彼女は、クラッズにメタヒールを唱えた。柔らかな光がクラッズを包み、同時に今まで
残っていた疲労や痛みが、嘘のように消えていく。
「ふ〜……よかった、ついてきて。じゃないと、手遅れになるところだったよ?」
優しげな顔を向けるヒューマン。その顔に、クラッズの心に張り詰めていた糸が、一気に切れた。
「うわぁぁ〜〜〜〜ん!!ヒュマちゃん……ヒュマちゃん〜〜〜!!!」
「まったく、こんな目に遭わされちゃって。でも、大丈夫。全部、元通りにしてあげたから」
「うわぁ〜〜〜ん!!!うああぁぁ〜〜〜〜ん!!!」
胸に縋り付いて泣くクラッズを、ヒューマンは優しく撫でてやった。
「ほんと、ついてきてよかった。じゃないとさ…」
ふぅ、と、ヒューマンは安堵の息をついた。
「処女の子ってことで売ったのに、嘘になっちゃうもんねえ」
「……え…?」
泣いていたクラッズは、その一言で途端に泣き止んだ。
「ヒュマ……ちゃん…?」
「治ってからじゃ、いくら魔法使ったって戻せないもんねえ。まあ経験済みにはなっちゃったけど、処女には違いないし、大丈夫でしょ」
「ヒュマちゃん……ヒュマちゃん!?ねえ、何言ってるの!?ヒュマちゃん何言ってるの!?」
怯えたように叫ぶクラッズを、ヒューマンは優しく抱き締めた。しかし、その力は異常なほど強く、クラッズの自由は完全に奪われた。
「知ってる?君みたいな子って、結構人気あるんだよ。ああ、まあ、人気って言うと語弊があるかもしれないけど」
相変わらず、ヒューマンはどこか楽しそうな口調で喋り続ける。
「男なんてただの道具。利用するだけの物。男は貢いで当たり前。そんな風に考えてる女の子ってね、やっぱり男の子は嫌いでしょ?
でねえ、男の子は、多少なりともSっ気があるからさ、そういう子を無理矢理犯せるって言ったら、そりゃもうすっごく食いつきいいの」
「うそ……だよねえ…!?ヒュマちゃん嘘だよねえ!?私達、友達だよねえ!?」
「あ〜ん、もおっ!ほんと、君ってすっごくかわい〜〜〜い!!!」
そう言い、ヒューマンはクラッズの頬といわず、額といわず、所構わずキスをする。それはまるで、愛玩動物に対する愛情表現のような、
無邪気極まりないものだった。
「だってさ、何の根拠もないくせに、『自分は特別だ、自分だけは違う』って思い込んじゃってるんでしょ?ま、こんな学校に来る子
なんて、誰しも少しぐらいそんなとこがあるんだけどさ。そんなのが、当たり前だと思っちゃってる君、すごく可愛いよぉ〜!」
「嘘だよね!?ねえ、嘘だって言って!!私達、友達…」
「そこが、可愛いんだよぉ〜!ほんと、私が男の子だったら、力づくでも自分の物にしたいぐらい!だってさ…」
ヒューマンは、にっこりと笑った。その顔は、あまりにも無邪気だった。
「私、お金のためなら、心も体も売っちゃうんだよ?そんな人間が『友達は売らない!』なんて、言うと思った?」
「やだ!!!もうあんなのやだあぁぁ!!!痛いんだよぉ!!!ほんとにすっごく痛いんだよぉぉ!!!ほんとだよぉぉ!!!」
「私にとっては、君だって『ただの』友達なのに、君にとっては違ったんだよねぇ〜?ああんもお、可愛いなあ!ほ〜んと、
食べちゃいたいぐらい可愛い!君って、なんでこんなに可愛いんだろっ!」
どこからか、複数の足音が聞こえてきた。それに気付くと、ヒューマンはさっと立ち上がった。
「ま、とにかく!君、結構高値で売れたからさ、せいぜい頑張ってよ。えっと、確か一人頭十万で、それで二の四の……うん、十人までは
いかないけど、パーティ一つぐらい?」
聞くまでもなく、それは嫌でもわかった。今、クラッズを囲み始めている男達は、ざっと見てそれぐらいだ。
「おい。こいつが、お前の言ってた奴か?」
男の一人が言うと、ヒューマンが無邪気な笑顔で答える。
「そうそう、その子。好きにして構わないけど、ちゃんと部屋には届けてね」
「わかってる」
「それじゃ、頑張ってね!ああそうそう、一応君のおかげでもあるんだし、帰ってきたら売り上げの1パーセントくらいはあげるね!
そうしたら、そのお金が、君が初めて自分で稼いだお金って事になるよ!あははっ!」
「やだ……やだぁ…!」
「それじゃあね〜!」
とびきりの笑顔を残し、ヒューマンは去って行った。あとに残ったのは、見るからに凶悪そうな男達と、恐怖に震えるクラッズ一人。
「へーぇ、結構可愛いじゃん。可愛い顔して、やることはえぐいみたいだけど」
「しかもクラッズときてるからな。やべえ、たまんねえ」
口々に勝手なことを言う男達。クラッズは思わず後ずさりした。が、すぐ後ろにディープゾーンが広がっている。
一瞬、クラッズは思った。その中に飛び込んでしまえば、もうそれ以上苦しい思いはしなくて済む。あるいは、ここで舌を噛めば、
もうそれでこの悪夢は終わる。
だが、どちらも出来なかった。冒険者として死の覚悟をしたことすらない彼女には、例え唯一の逃げ道であっても、死はとてつもない、
どんな事があっても選べないほどの恐怖だった。
「いやだぁ……こ、こないでぇ…!」
クラッズは目に涙を浮かべ、哀願する。しゃあぁ、と微かな水音が響き、へたり込んだクラッズの股間から、黄色みを帯びた液体が
広がっていく。
「あーあ、お漏らししちゃったよこいつ」
「これはこれで可愛いな。二股かけてたくせに、案外度胸はないみたいだし」
「ほんと、気兼ねなく痛めつけられるし、いい奴紹介してくれたよなあ」
もう、誰も助けてくれる者はいない。あの彼女にすら、裏切られた。
後悔が、後から後から押し寄せてくる。彼女を信じなければ、あんなことをしなければ、こんなところに来なければ―――
だが、もう遅かった。誰も助けてくれる者はおらず、逃げることも出来ない。
「おね……がい、します…!助けて……くだ、さいぃ…!」
泣きながら、叶わぬとわかりきった希望を込めて、クラッズは哀願した。
「ほんと、いい奴紹介してくれたな。これはまた、いじめ甲斐がありそうだ」
男の手が、クラッズの体に向かって伸びる。
「ゆる……許してぇ…!助けてぇ…!」
「諦めろ。呪うんだったら、今までの自分の行いでも呪ってな」
何度悲鳴をあげようと、どんな泣き声をあげようと、哀願しようと、絶叫しようと。
助ける者は、いない。冒険者ですらない彼女には、仲間などいない。
どう足掻いても、もう逃げることは出来ない。助かりもしない。
これから自分を陵辱する者達を見上げ、クラッズは涙を流した。もう、認めざるを得なかった。
今、立場は逆転した。今度は自分が、彼等から奪われる側になったのだ。そして今、彼等に全てを奪われるのだ。
男の腕が、ゆっくりと、震えるクラッズの体を捕らえた。