天使のような姿に、やはり天使のような微笑み。背中には白い翼を持ち、柔らかな声で優しく語り掛ける。
しかし、敵と見なしたものには躊躇せず刃を振るい、毅然とした振る舞いを見せる。実際には敵でなくとも、ディアボロス相手にはつい
そんな態度を取ってしまう。
優しさと強さ、柔らかさと堅苦しさの同居する種族、セレスティア。彼女は、そうしたセレスティアの一人だった。
彼女は少し変わっていた。普通、セレスティアといえば僧侶学科や司祭学科など、後衛系の学科を選ぶものが多い。しかし、彼女は神女
学科を選び、バハムーンやフェルパーといった種族と共に、常に前線で戦い続けていた。
柔らかい物腰に、戦いのときに見せる凛とした佇まい。当然、誰もが彼女と仲間になりたがり、事実、彼女は様々なパーティに所属した。
が、やはり彼女は変わっていた。そのパーティが成長し、やがて十分な実力をつけたと見ると、そのパーティを抜けてしまうのだ。
そしてまた、新たな若いパーティを見つけ、所属し、成長するとまた抜ける。
そんなことを繰り返しても、彼女はやはり人気者だった。種族柄、大抵の者から好かれると言うのもあるが、やはり彼女には華があった。
かなりの実力を持ち、しかしそれを鼻にかけず、かといって善人というわけでもなく、だからといって悪人でもない。ちょっとした冗談
などもよく口にしたし、時には仲間をからかって見せたり、逆にからかわれて怒って見せたり、独特の存在感があった。
当然、友達は多かった。元のパーティの仲間だけで、軽く二桁の後半まで届いたし、そうでなくとも知り合いは多い。
そんな中でも、特に親友と呼べる存在がいる。この時彼女の前にいたのは、その親友の中でも一番の親友と言える、ヒューマンの
女の子だった。彼女は入学が一緒で、また初めて組んだパーティの仲間でもある。そんな相手に会って、セレスティアは嬉しそうな、
それこそ満面の笑顔を浮かべた。
「ヒューマンさん!久しぶりですね!」
「ハーイ、セレちゃん。相変わらず元気そうね」
「いつ、こちらに戻ってたんですか!?噂では、ヤムハス大森林にいると聞いていましたが…」
「つい先日ね。さすがに、長く遠征してるとね、み〜んなホームシックってやつ」
軽い調子で話すヒューマンは、実際のところ相当な実力者であり、学園でも彼女を知らないものはほとんどいない。そんな二人が
話していれば、自然と人が集まってくる。
「っとと、こんなとこで立ち話もなんだし、一緒に食事でもどお?お昼ぐらいおごるけど?」
「あ、いいんですか?それじゃ、ごちそうになっちゃいます」
「あはは、そういうちゃっかりしたとこ、変わってないねえ〜」
学食に入ると、二人は色々な話をした。お互いの近況から始まり、あちこちの地下道の話やモンスターの話、ちょっとした笑い話や
悲しい話。とにかく、これまでのお互いの空白を埋めるかのように、ありとあらゆる話をした。
話は尽きることがなく、やがて昼食を食べ終わり、デザートを片付け、おやつを平らげ、そして今はそのまま夕飯にもつれこんでいる。
その夕飯も、女子二人とは思えないペースで食べ終わる頃。ヒューマンが、ふと思いついたように口を開いた。
「あ、そうだ。ねえセレちゃん、今はパーティ、組んでるの?」
すると、セレスティアは笑いながら首を振った。
「いえ。実は一昨日抜けたばかりで、今は誰とも。少しお休みということにして、羽を伸ばしています」
「ああ、だから羽根がきれいなのね……っと冗談は置いといて」
こほんと咳払いをし、ヒューマンはセレスティアの目をまっすぐに見つめながら言った。
「あのさ、私のとこのパーティ、来る気ない?」
「え、ヒューマンさんの、ですか?」
「あ〜、セレちゃんが新しいパーティ渡り歩いてるのは知ってるよ。でも……その…」
言い淀むヒューマンの額には、はっきりと苦悩の皺が刻まれていた。どうやら、何か事情があるらしい。
「どうしたんですか?」
「えっと……たぶん、セレちゃんならやっていけると思うんだ。あ、いや、やっていけるはず……ううん!セレちゃんじゃないと無理!」
急に強い口調で言うと、ヒューマンはセレスティアの手を両手で握りこんだ。
「ど、どうしたって言うんですか?」
「何人もね、仲間には迎えたんだ。でも……ダメなの、誰もかれも長続きしないの!」
「え、ええと……事情を、聞かせてもらってもいいですか?」
一瞬、ヒューマンはうろたえた。しかし、すぐに仕方ないと言うように溜め息をつくと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「え〜、まあ実情はその目で見てもらわないと、把握不能だと思うけど……簡単に言うとね、うちのパーティに男子が三人いるんだけど、
どいつもこいつもアクが強いっていうか、なんて言うか…」
セレスティアの頭の中には、わがまま言い放題の男三人の姿が浮かんでいた。
「わがまま、なんですか?」
「ああいや、そういうんじゃないんだ。その……個性的って言えばいいのかな。でも、個性的過ぎて、いたたまれないとでも言うのか…」
わがままな男三人が消え、代わりに珍妙な格好をした男三人が思い浮かぶ。
―――きっと、天女の衣とか着て、プリンセスシリーズとか着て、人によってはインナーとパンツとか…
「……ぷっ…!」
「何想像してんのよ」
「あっ、ごめんなさい。えっと、その、それで?」
「ん〜、まあ、とにかくそういうわけでさ、なかなか居つけないってことなの。もう一人、女の子もいるんだけどさ、その子は幸い
馴染んでくれてるんだけど……もう一人が、どうしてもねえ」
どうやら本気で困っているらしく、ヒューマンの顔には疲れが見て取れた。さすがに、無二の親友がそんな顔をしていては、彼女が
断れるはずもない。
「だからね、よかったら試しに一回、うちに来てもらえないかな〜って思うんだけど。できれば永住で」
「う〜ん、永住……までは了承しかねますけど、しばらくだったら行っても構いませんよ」
「ほんとー!?」
セレスティアがそう言うと、ヒューマンは文字通り飛び上がって喜んだ。セレスティアの手を握ったままだったため、彼女の体まで
跳ね上がり、テーブルの上にあった食器の数々が落ちて割れた。
「ほんと、よかったぁ〜!断られたらどうしようって…!」
「いや、あの、食器が…」
「じゃあさ、明日のお昼でいいから、寮の玄関口まで来て!その時、みんなも紹介するから!」
「落ちて割れて…」
「それにしても、セレちゃんと組むの久しぶりー!何だか新入生に戻ったみたい!」
「掃除しなきゃ…」
「それじゃ、私はみんなに伝えなきゃだし、先に戻るね!う〜ん、早く明日にならないかな〜!」
「だから掃除しなきゃって……ちょっと、ヒューマンさんっ!逃げないで……こら、待ちなさーい!!!」
結局、一人で掃除を任される羽目になったものの、セレスティアも彼女とのパーティを楽しみに待っていた。もちろん、久しぶりに
彼女とパーティを組めるのは嬉しい。だがそれ以上に、個性が強すぎて馴染めない男連中とはどんな相手なのか。それに馴染む女の子は
どんな人なのか。それが楽しみでもあり、不安でもあり、要は怖いもの見たさという好奇心によるものが大きかった。
そして翌日の昼。彼女は言われたとおり、寮のロビーでヒューマンのパーティと対面した。
「ハイ、セレちゃん。これが、昨日言ってた、私の仲間達!」
彼女の横には、小柄なクラッズの女の子、そして問題の男連中、クラッズとバハムーンとドワーフが並んでいた。
「……天使様だぁ…」
―――ああ、なるほど…。
「嬢ちゃんが、こいつの言ってた?なるほど、お前さんの話はよく聞くぜ」
―――これは、まあ…。
「へ〜、僕もよく聞いてたけど、こんな子だったんだ」
―――確かに、これは…。
「あはは、みんな変わってると思うけど、よろしくね!あ、私はこれでも司祭学科、援護は任せてね!」
元気な声で言うクラッズの女の子。この子だけは普通に見えた。だが、今のセレスティアには、その挨拶に返事をするほどの余裕もない。
「おい、ぼーっとしてねえで挨拶しな。これから一緒に旅をする相手に、失礼だぜ」
「……あっ、ご、ごめんなさい!」
そう言われ、神でも見るような目つきで陶然としていたドワーフが、慌てて口を開いた。
「ぼ、ぼくは君主学科専攻です!よ、よろしくおねがいします!」
「こ……こちら……こそ…!」
「てことは、ドワーフと、君と、僕で肩を並べるのか。噂はよく聞くけど……こうして見ると、何だか頼りないなあ」
なるほど、とセレスティアは思った。口調だけ聞けば、ドワーフかクラッズと勘違いしてもおかしくないが、話す内容はやはり
バハムーンらしく、傲慢だ。
「見かけで判断するなんざ、いっぱしの冒険家がすることじゃねえぜ。っと、自己紹介がまだだったな。俺は見ての通り、盗賊だ。
お前さんと、末永い付き合いが出来るよう、努力するよ」
そう言ってくれるのはありがたいが、その彼が一番やばい。口調こそ渋い男だが、蓋を開ければ子供にしか見えない、小さなクラッズ
なのだ。どいつもこいつも、見た目と口調に隔たりがありすぎる。こういう人材が一人だったら、まだ何とでもなるのだが、まさか
三人揃って、中身がそれぞれ入れ替わったような喋りでは、噴き出さないようにするのが精一杯だ。
そこでふと、セレスティアは気付いた。同じクラッズである司祭の彼女は、その渋く語る彼をうっとりした目で眺めている。彼女が
馴染めた理由は、これだろう。
口を開けば、即座に噴き出してしまいそうだった。そのため、セレスティアは失礼と思いながらも、返事すらできずに顔を伏せていた。
「……おい、どうした嬢ちゃん?泣いてるのか?」
「…………い……い、え…!」
周りから見れば、そうとしか見えなかった。事実、彼女の目には涙が浮かんでいたし、その顔は耳まで真っ赤だった。しかし、それは
必死に笑いを堪えているせいであり、呼吸を止めて腹筋に力を入れている結果、そうなっているだけのことだ。
と、いきなりドワーフがバハムーンに食って掛かった。
「君が、天使様に変なこと言うからだぁ!」
「僕のせいだってのかよ!?言いがかりもいい加減にしろよな!」
「まあまあ二人とも。いきなり喧嘩なんかしちゃあ、嬢ちゃんの居心地が悪いだろう?それに、嬢ちゃんはまだ何も言ってねえ」
―――おかげさまで、ますます何も言えません。
つい、そう頭に思い浮かべ、セレスティアは余計に噴き出さない努力をする羽目になった。が、そこでクラッズが、少し困ったように
口を開いた。
「……で?お前さんから、まだちゃんとした挨拶を聞いてねえんだが?」
「ご……ごめん、なさ…!わ、わたくし……は……ぶふっ!」
ついに、堪えきれずに噴いてしまった。セレスティアは慌てて、思い切り咳き込んだふりをする。
「ごほっ、ごほっ!!げほっ!!……こほん!す、すみません、その、わたくし、あまり調子が…」
「ああ、そうだったのかい。無理はしなさんなよ?」
「は、はい……ありがとう、ござ……い、ます…」
困ったことに、全員性格はいかにもその種族らしい性格だった。クラッズは何かと気を使ってくれ、よく話しかけてくれるのだが、
そのおかげでいよいよ言葉が詰まってしまう。それでもつっかえつっかえの自己紹介を終えると、いきなりヒューマンが肩を抱いてきた。
「んじゃ、セレちゃん連行ー」
「おい、いきなり何するんだ!?まだ僕達会ったばっかりなのに!」
「トイレ付き合ってもらうぐらい、いいでしょ?私も久しぶりなんだし〜」
「ああ、連れションか。ま、ゆっくり行ってきな」
誘われるままに歩き続けると、ヒューマンはトイレに入り、そのまま窓を開けて抜け出し、セレスティアに手招きした。その意味をすぐに
悟り、セレスティアも窓から外に出る。そうして外に出ると、ヒューマンは彼女に笑顔を向け、言った。
「じゃ、笑っていいよ」
その一言で、セレスティアは堰を切ったように笑い転げた。あんまり笑うので、釣られてヒューマンも笑い出し、二人とも目に涙を
浮かべて笑い続けた。そのうち頬も腹筋も痛くなり、呼吸も苦しくなり、本格的に酸欠を起こす直前になって、ようやく笑いが収まった。
「ああ……わたくし、もうダメです…!お、お腹が…!」
「あ〜あ、久しぶりに笑った〜。ま、こんなわけで、なかなかみんな馴染めないのよ」
「悪い人達では、ないんですよね。クラッズさんなんか、何かと気をかけてくれますし、バハムーンさんは……まあ、まだあれですけど」
そこで、セレスティアはあの異様に子供っぽいドワーフを思い出した。どうも、彼が自分を見る目は普通ではなかった気がする。
「……そういえば、あのドワーフさんは一体どんな方ですか?」
「あの子?ああ、あの子はすっごい信仰心強い子なの。セレスティアって種族は一応知ってたみたいだけど、生で見ると、やっぱり
天使にしか見えないからね」
「ああ、だから『天使様』って…」
「そうそう。何でも、いいところのお坊ちゃんって噂もあるけど、見てると確かにそんな感じね。礼儀正しくて、信心深くて、でも
ちょっとずれた節のあるところなんか、特にね〜。一番いい子なのは、私が保証するよ」
確かに、見た感じでは大人しそうだし、君主というからには性格もいいのだろう。まずはあの辺から慣れるべきかなと、セレスティアは
考えていた。
ともかくも、一頻り笑ったところで、二人はまた仲間の元へ戻った。どうやら、まだドワーフがバハムーンに突っかかっていて、それを
クラッズ二人組が宥めているらしい。
「すみません、お待たせしました」
「ああ、お帰り。できれば、君からこいつを説得してくれないかなあ。さっきからうるさくてしょうがないんだ」
バハムーンはドワーフの頭を片手で押さえており、ドワーフはその状態で腕をブンブン振り回している。どうも、行動まで子供っぽい。
「コホン。それでは、さっきはちゃんとできませんでしたが、改めて自己紹介しますね」
セレスティアが言うと、ドワーフはハッとしたように姿勢を正した。他の仲間もそれに倣い、セレスティアの顔を見つめる。
「わたくしは、神女学科を学んでいます。以前ヒューマンさんとパーティを組んだことがあり、今回その縁で、またお誘いを受けました。
皆さんと比べれば、まだ頼りない部分も多いかと思います。ですが、一日でも早く皆さんに追いつけるよう、精一杯努力しますので、
どうか皆さん、よろしくお願いしますね」
それにとびきりの笑顔を付け加えると、その場にいた全員の表情が緩んだ。このまさしく天使の笑顔が、彼女の最も大きな武器だった。
「あの、天使様…」
そう話しかけたドワーフに、セレスティアは優しい笑顔を向けた。
「その呼び方は、どうかやめてください。確かに天使の血を引いてはいますが、わたくしはそう呼ばれるほど、崇高な者では
ありませんから」
「え……で、でも、天使様の血を引いてるなら、やっぱり天使様ですよぅ」
「まあまあドワーフ。その、他ならぬ天使様がそう仰ってるんだ。まさか、天使様の言うことが聞けねえってわけじゃ、ねえだろう?」
クラッズの言葉に、ドワーフは大慌てで首を振った。
「そ、そんなわけないですっ!でも……ん〜、わかり、ました」
少し不服そうではあったが、ドワーフは頷いた。やはり、このドワーフはだいぶ扱いやすそうだった。
「それにしても、戦いの腕はどうなんだい?僕ほどとは言わなくても、ドワーフと同じくらいはあるんだろうね?」
今度はバハムーンの声だ。セレスティアは、あえてムッとした顔をして見せた。
「それは、見てみないとわかりません。もしかしたら、皆さんより弱いかもしれないし、あるいは、皆さんより強いかもしれないし、
また、もしかしたら、あなたより強いかもしれませんよ?」
「なっ…!?く……あははは」
一瞬驚いた顔をしたものの、バハムーンはすぐに笑い出した。
「ほんとに、天使様って呼ぶには、ちょっと違うね。そう呼ぶのは、天使に対しても、君に対しても、失礼みたいだ」
どうやら、こっちも思ったほど付き合いにくい相手ではなさそうだった。それにホッと息をついていると、後ろから声が聞こえた。
「なかなか頼もしい嬢ちゃんだな。期待してるぜ」
「あ……ありがとう……ご、ござ…!」
どうも、このクラッズだけは苦手だった。見た目と口調のアンバランスさが、最もひどい。
今にも噴き出しそうになり、言葉に詰まっていると、ドワーフの声が響いた。
「君が『嬢ちゃん』なんて失礼なこというから、天使様……あ、セレスティアさんが〜!」
「そうだね、僕も思ってたけど、どうも君が原因みたいだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!おいおい、俺か!?俺が原因なのか!?」
「い、いえっ!そんな……ぐっ……そんな、こと……はっ…!」
「ほら、やっぱりー!」
「おいおいおい!そ、それならそうと言ってくれ!!お、俺は別に悪気はっ……おい、嬢ちゃ…」
腹筋がブルブルと震え、噛み締めた顎も痛みを持ち始めている。呼吸も、そろそろ止めないとまずい。
「また言った。クラッズ、君それわざとだろ」
「……す……すまねえ…」
「い……え……く、く……ぶふぁっ!」
ついに堪えきれず、セレスティアは思いっきり噴き出した。
セレスティアがパーティに加入して、早一ヶ月。最初こそどうしようかと思ったパーティにもだいぶ馴染み、今では息を合わせるのも
だいぶうまくなった。が、彼女の戦い方は、他の仲間をハラハラさせることも多かった。
真っ先に攻撃を仕掛けるのはいいのだが、気安く捨て身を使うのだ。その分殲滅力は折り紙つきだが、援護に回る仲間は気が気ではない。
その代表格が、ドワーフである。君主である彼は、剣を振るうことよりも、味方の盾になる機会の方がずっと多い。おまけに、
セレスティアが当たり前のように身を捨てるため、ここ最近は一度も攻撃しないまま戦闘を終えることも多い。
しかし、ドワーフはそれに対して文句一つ言わない。むしろ、彼女を守る時はいつにも増して気合が入っており、そうやって盾に
なれることを喜んでいる節もある。そんな相方がいるからこそ、彼女はますます気軽に捨て身を使い、仲間は対応に追われるのだった。
とはいえ、それはそれで一つの形である。いいコンビになったと、ヒューマンはよく笑っている。みんなもそれに同調するが、当の
ドワーフは、そう言われるといつも必死に否定した。
「そんなこと、ないですよ!ぼくはただ、これしかできないから…!」
「いや、そんなことはねえぜ。防御を捨てて攻撃に行く神女に、攻撃を捨てて仲間を守る君主だ。実に、いいコンビじゃねえか」
「いえ……その、えっと…」
「はっは。それに、身を挺して女性を守るなんて、いかにも騎士らしくていいじゃねえか。お前にゃお似合いだ」
クラッズに言われると、ドワーフは恥ずかしそうに顔を伏せる。耳もすっかり横向きになっているのだが、いつもいつも、尻尾だけは
千切れんばかりに振られている。
セレスティアも、彼のことは憎からず思っていた。天使の血族ということもあり、自分を無邪気に慕ってくれ、戦闘ではいつも代わりに
攻撃を受け止めてくれる。もちろん、他の仲間もいい仲間だと思うし、特にヒューマンは無二の親友である。が、こと戦闘に関してだけは、
今ではドワーフの方がずっと頼りになる仲間だと思っている。
「それにしても、本当に君は変わってる。天使は天使でも、きっと祖先が能天使なんだろうね」
そう笑うのはバハムーンである。なぜ彼が天使の階級など知ってるのだろうかと疑問に思いつつ、その言葉に言い返すことは出来ない。
「セレスティアって言うと、おしとやかで優しいイメージがあったんだけど、君は戦闘の時の方が、普段より生き生きしてるもんなあ」
「そ、そうでもないですよ。わたくしだって、別に戦闘が好きってわけじゃ…」
「だが、人が変わるのは確かだな。嬢ちゃんには、狂戦士セットが似合う気がしてならねえな」
「そう……ですか」
この一ヶ月で、彼女の腹筋は割れて見えるほどに鍛えられた。もちろん、特別なトレーニングなどしてはいない。
「ああ、機嫌を損ねたんなら謝るぜ。でも、俺に他意はねえ」
相変わらず口調は渋いクラッズ。今日は、その背中に司祭の彼女がかじりついている。それをものともせず、普段どおりに喋る姿は、
結構な破壊力があった。
「お……お気に、なさらず…」
「しかし、お前さんのおかげで戦力は充実したし、仲間の繋がりも深まってる。本当に…」
「ぷ……ぶふっ!」
とうとう、堪えきれずに噴き出してしまった。しまったと思ったときには既に遅く、クラッズの顔には微かな怒りの色が浮かんでいる。
「……さて、嬢ちゃん。ちょっと座ろうか」
「……はい…」
どうしても、彼にだけはなかなか慣れなかった。おかげで今でも、週に一回はこんなことがある。
「あのな、お前さんが何をどう面白がるかは勝手だがな、人の話の最中に笑うってのぁ、ちっと行儀が悪いんじゃねえか?」
「はい……ほんと、ごめんなさい……反省してます…」
クラッズの前に、セレスティアがきちんと正座して説教されている姿は、傍から見るととても滑稽に映る。が、本人達は真面目である。
「まあまあ、そう怒っちゃダメだよ〜。セレスティアさんだって、頑張ってるんだよ?」
背中にかじりついたままの司祭がフォローを入れる。それに続いて、陰でこっそり笑っていたヒューマンも声をかける。
「そうそう。セレちゃんだって、それはしっかりわかってるって」
「はぁ……ま、嬢ちゃん方の言う通りなんだろうがな。どうして俺だけ、いっつも笑われるんだ…」
「君の顔が面白いんだよ、きっと」
「んだとぉ!?」
その一言で、クラッズの標的はバハムーンに変わる。そっちに突っかかっていったところで、ドワーフがそっと近寄る。
「セレスティアさん、だいじょうぶですか?」
「ああ、うん。大丈夫ですよ、心配してくれて、ありがとう」
笑いかけると、ドワーフは一瞬毛を逆立てて顔を伏せ、そして恥ずかしそうに笑顔を返した。
薄々、彼女は気付いていた。ドワーフが自分を見る目は、今では天使の血族だから、という以外の熱っぽさが篭っている。
ただ、それが恋愛感情かというと、それも微妙に違う。限りなく近いものではあるのだが、どちらかというと、憧れなどといった
要素の方が強い。その視線に気付きつつも、セレスティアはパーティのためと思い、彼とはいつもと変わらぬ接し方を続けていた。
その関係に変化が訪れたのは、数日後のことである。
セレスティアの動きが、どうにも鈍い。地下道を歩くだけなら問題ないのだが、戦闘になるとそれは大きな痛手となる。
「君、今日はどうしたんだ?ずいぶん動きが鈍いじゃないか」
「あの……それは、その…」
言い淀むセレスティアに代わり、ヒューマンが意味深な笑みを浮かべながら答えた。
「しょうがないよ。女の子には毎月、そういう時があるんだって」
「ん…?」
「はは。嬢ちゃんにそれをはっきり言わせるのぁ、酷ってもんだ。後で教えてやるから、今は大変なんだってことだけ覚えとけ」
「だったら、休めばいいじゃないか。そんな状態でついてこられたって、はっきり言って迷惑だよ」
「ごめんなさい……でも、大丈夫です。決して足手まといにはなりませんから」
セレスティアは気丈に答えるが、決して言葉通りに楽観できる気分でもなかった。
彼女だけなら、さほど問題はないのだ。だが、この時はなぜかドワーフまでおかしかった。全体的にボーっとしていて、何をするにも
上の空といった雰囲気である。しかも、いつもはべったりくっついているセレスティアに、近寄ろうともしない。
「ドワーフも、どうしたってんだ?大丈夫なのか?」
「……え!?あ、うん!だいじょうぶ……ごめんなさい」
そんな折、一行はモンスターの群れに出会った。普段なら苦戦するような相手ではなく、セレスティアはいつも通りに、先陣を切って
敵の真っ只中へ飛び込んだ。捨て身の一撃で、死霊の戦士が倒れる。その彼女に向かい、残りの敵が一斉に襲い掛かった。
その間に、彼が飛び込んでくるはずだった。しかし、代わりに怒鳴り声が響いた。
「ドワーフ!何をしてるんだ!?」
「……あっ!」
瞬時に、援護はないと悟った。目の前に、いくつもの槍が迫る。
辛うじて、そのうちの二つはかわした。しかし、元々防御を考えていなかったため、続く追撃は避けられなかった。
「きゃっ!」
勢いよく振り回された槍が、頭に直撃した。景色がぐらりと揺らぎ、平衡感覚が消える。
倒れてはダメだと、何度も自分に言い聞かせた。しかし、体はいうことを聞かず、床が迫ってくるのが見えたところで、意識は途絶えた。
目を覚ました瞬間、目に飛びこんできたのは、心配そうに覗き込むヒューマンの顔だった。
「あ、セレちゃん起きたね。心配したよ」
「う……す、すみません……戦闘、は…?」
「ちょっと焦ったけど、まあ楽勝ってやつ。起きられる?」
優しく声をかけ、手を差し伸べるヒューマン。しかしそれを掴むまでもなく、突然の怒鳴り声に、セレスティアは驚いて飛び起きた。
「ほんとに、何を考えてるんだっ!あの暴走女を庇うのは、君の役目だろっ!」
「ご、ごめんなさい……うっく……ごめんなさい…!」
ああ、自分は影でああ呼ばれてるのかと、セレスティアは何ともいえない気分で思った。
「もうよせ、バハムーン。ともかくも、全員無事だったんだ。それでいいじゃねえか」
「よくない!ただでさえあの女の調子も悪いのに、こいつまで働かないんじゃ、どうしようもないだろ!それとも何かい!?いい加減、
君もあの女を庇うのは面倒になったのか!?」
―――『も』って言った…。
セレスティアは苦笑いを浮かべながら、彼等のやりとりを聞いている。
「ち、違うよぉ……でも、その……ごめん、なさい…!」
「みんな、やめなよー。こういう時だってあるんだから、あんまり気にするのはよくないよ」
「そうだな。常に最良の状態なんて、できるわけがねえんだ。お前の言い分はもっともだが、理想と現実を混同するんじゃねえ」
「ちっ、これだから君達みたいな種族は劣ってるって言うんだ!気安く妥協する前に、反省するって事を考えないのか!?あの女だって、
調子悪くても役割はこなした!いつも通りの暴走だけどさ!それがドワーフ、君は何だ!?自分の役割すら果たしてないじゃないか!」
苦笑いしつつバハムーンを見つめていると、不意にその彼と目が合った。
「大体っ、その、な…………おはよう…」
全員が、一斉にセレスティアの方を向いた。気まずい空気の中、セレスティアは頭を下げる。
「……ご迷惑、おかけしてたんですね…」
「起きてたんなら、早く言ってくれ…」
二人の間に流れる、猛烈に気まずい空気。そんな様子を見て、クラッズ二人組は笑いを堪えている。
「とりあえずさ、今日はこの辺で戻らない?」
そんな空気をとりなすように、ヒューマンが明るい声を出す。
「セレちゃん、この先も何日か調子悪いんだし、ドワ君もあんまり調子よくないみたいだしさ。だったらいっそ、この先何日か休みに
しちゃってさ、パーっと気晴らししようよ。ねっ!」
その意見に、バハムーン以外反対する者はいなかった。そのバハムーンも、現状が現状であるため、結局は渋々従うことにする。
バックドアルで学校に戻ると、クラッズ二人は学食に向かい、バハムーンもそれについていく。
「さて、私は部屋に戻るけど、セレちゃんはどうする?」
「わたくしも、部屋に戻ります。少し、ゆっくり休んだ方がいいみたいですし」
ちらりと、ドワーフを見る。彼はまだ半べそをかいているようで、ついつい慰めてやりたくなる姿だった。
特に深く考えず、そっとドワーフに手を伸ばした。が、ドワーフはギョッとしたように顔を上げると、慌てて後ずさった。
「ドワーフさん…!」
正直、ショックだった。何となくそんな気はしていたのだが、セレスティアは明らかに避けられている。その表情に気付いたのか、
ドワーフもハッと我に返ったようだった。だが、近寄りはせず、それでいて歩み寄ろうとはするのだが、苦しげな顔でそれをやめる。
それを数回繰り返した後、ドワーフは今にも泣きそうな顔のまま、深く頭を下げた。
「ごめん……なさい…!」
「あっ、ドワーフさん、待ってください!」
セレスティアの声も聞かず、ドワーフは走り去ってしまった。後を追うことも出来ず、やがてセレスティアはがっくりと肩を落とした。
「……まあ、そんな事もあるって。不幸は寂しがり屋だから、大抵、団体さんでお越しになるのよ」
ポンと、ヒューマンがうなだれた肩を叩く。
「一気に片付けようとしないで、一個一個やっていけばいいんだから。とにかく、何日か休みなさい。いっくら暴走セレちゃんだって、
たまには休まないとやってけないでしょ?」
「だ、誰が暴走ですかっ…!」
ムッとして顔を上げると、ヒューマンは素早く距離を取りつつ、溌剌とした笑顔を向けた。
「そうそう、そうやって元気にしてた方が、セレちゃんには似合ってる!少し休んで、その元気が本物になったら、また探索行こうね!」
「……もう!もうちょっと違う元気付け方、できないんですかー!?」
「無いものは望んじゃダメよー!それじゃ、またね!」
相変わらず、自分のことをよく知ってる相手だと、しみじみ思う。多少おかしな方法ではあったが、だいぶ気は楽になった。
それまでよりは少し明るい顔で、セレスティアは寮に向かって歩き出した。同時に、その顔には何か別の表情が見え隠れしている。
「さて、と」
部屋に入るなり、セレスティアはしっかりと鍵をかけ、戸締りを何度も確認する。その上で服を脱ぎ、全身を念入りに洗うと、
服も着ないままベッドに倒れこんだ。
少しの間、そのままボーっとしている。やがて、右手をそっと、自分の胸に這わせた。
「んっ…!」
全体を軽く揉み、乳首を摘むと、くりくりと転がすように弄ぶ。その度に、セレスティアは抑えた嬌声を漏らし、肌を上気させる。
「んうっ……ふあぁっ…!」
左手を秘部へと持っていく。指を入れると汚れてしまうため、周りからゆっくりとほぐすように撫で、そして最も敏感な突起を摘む。
「はうぅっ!……どうして、なんだろう…?」
疑問を口にしつつも、セレスティアは行為をやめない。それどころか、行為はますます激しさを増し、自分で胸を握り潰すように強く
揉みしだき、中に入れることの出来ないもどかしさを発散するように、自身の肉芽を押し付け、時には爪を立てる。
「はぁっ、はぁっ……さ、最近してなかったから、もうっ…!ん……んううぅぅっ!!!」
ビクンと体を震わせ、セレスティアは頭が真っ白になるような快感に酔い痴れた。
快感の波が去り、その気だるい余韻が残るだけになると、セレスティアは大きな溜め息をついて寝返りを打った。
「本当に……どうしてなんだろう…?」
彼女は変わった体質を持っていた。生理の痛みは、少し違和感がある程度のものでしかない。だが、その下腹部の痛みに誘発されるのか、
その時期とその前後には異様に性欲が高まるのだ。こうして発散しておかないと、やがては抑えきれないほどに膨れ上がってしまう。
今日の探索でも、彼女は痛みではなく、この膨れ上がる性欲のおかげで、動きが鈍っていたのだ。これが続くと、そのうち重大な過失を
犯してしまいそうだったが、幸いにも数日は休みである。その間に生理も終わるだろうし、今回はそんなに心配しなくていいかと、
セレスティアは半分眠り始めた頭で思っていた。
それから一週間ほど、一行は探索にも行かず、それぞれ好き勝手に過ごしていた。セレスティアは、主にヒューマンと遊んでいることが
多く、たまには他の仲間とも遊んでいる。が、なぜかドワーフだけは、あれ以来姿を見ていない。
姿を見ないまま数日が経過し、そろそろ面倒な出血がなくなった頃。セレスティアが図書館に向かっていると、同じように図書館へ
向かって歩くドワーフの姿を見つけた。
「あれ、ドワーフさんじゃないですか!」
呼ばれたドワーフはビクッと体を震わせ、伏目がちにセレスティアを見つめる。
「もう、最近全然見ないから、心配したんですよ?まったく、何してたんですか?」
「あ、あの……その…」
しどろもどろになりつつ、ドワーフは逃げるように背中を向けた。が、セレスティアは素早く近づくと、後ろから覆い被さるように、
その体を抱き締めた。
「ダメですよー、逃がしません。もしかして……本当に、わたくしには愛想が尽きちゃいましたか?」
「そっ、そんなことないですっ!だ、だけど、その…」
どうにも、要領を得ない。それに、何か焦っているらしいのだが、その理由もわからない。
「もう。だったら、どうしたっていうんですか?わたくしに会うと、何かまずい事でも…」
無意識に視線を落とした瞬間、セレスティアの声は止まってしまった。
子供だとしか思っていなかったドワーフ。その股間が、元気一杯に男であることを主張していた。結構立派なテントが張られているのに、
セレスティアはついつい見入ってしまう。すると、彼女の視線に気付いたらしく、ドワーフが今にも泣きそうな声を出した。
「あ、あの、違うんですよぅ…!ぼく……何にも、みだらなことなんか考えてないんです…!」
淫らな、というストレートな響きに、ついついセレスティアの顔も赤くなる。
「でもでも、変なんですよぉ!この間から、セレスティアさんの近く行くと……匂い嗅ぐと、こうなっちゃうんですよぉ…!」
「こ、この間って、いつぐらいですか?」
「えっと……一週間くらい、前です…」
それを聞くと、彼女には何となく想像がついた。大体、生理が始まったのがその頃で、性欲が高まってきたのがその少し前である。
そのせいで、嗅覚の鋭いこの種族は、無意識に『女』の匂いを嗅ぎつけてしまい、体が正直に反応してしまうのだろう。
簡単に言えば、自分のそれは発情期に近いのだろう。それで、近くにいたドワーフが、その巻き添えを食ったというわけだ。
しばらく、セレスティアはそのままじっとしていた。が、やがて彼女の中に、どうしようもできないほどの衝動が浮かび上がる。
「ドワーフさん、ちょっと来てください!」
「えっ、えっ!?セ、セレスティアさん、どこに行くんですかぁ!?」
強引に手を引き、困惑するドワーフを引きずるようにして、セレスティアは部屋に戻った。その目は、ある種の飢えた獣のような、
爛々とした光を放っている。
ドワーフを部屋に連れ込むと、しっかりと鍵を掛け、改めて彼を見つめる。相変わらず下半身は元気だが、その目は不安に満ちており、
尻尾も内股に巻かれている。
衝動的に連れ込んでしまったが、今ならまだ引き返せる、とも考える。だが、このドワーフを見ていると、その考えは急速に萎んでいった。
少しずつ、天使らしくない、背徳的な考えがセレスティアの頭を満たしていく。
この、無垢な少年を汚してみたい。堕ちていく姿を見たい。そして何より、自分の疼きも鎮めてもらいたい。
セレスティアは、優しくドワーフの体を抱き締めた。ドワーフはビクッと震えたが、抵抗は示さない。
そのまま後ろに回りこむ。ドワーフはいよいよ不安そうに、耳をせわしなく動かしているが、やはり抵抗はしない。
厚い胸板に手を当て、それを少しずつ、腰の方へ下げていく。
「あっ、あっ……セ、セレスティアさん!?」
胸を撫で、腹を擦り、そしてズボンの上から彼のモノに触る。
「んあっ!やっ!だ、ダメです!ダメですよぅ!」
「どうしてですか?」
「あのっ……だって、え、エッチなことはダメなんですよぉ!いけないことなんですよぅ!」
「そんなことありませんよ。ほら、こうすると気持ちいいでしょう?」
そっと、ズボンの上からその先端を撫でる。途端に、ドワーフの体がビクリと震えた。
「や、やめてくださいぃ!ダメなんですっ、ダメですってばぁ!」
「ふふ、可愛いです。こういう事、全然したことないんですか?」
優しく撫でながら尋ねると、ドワーフは切れ切れの声で必死に答える。
「だ……だって、だって……んあっ!い、いけないこと……あぅっ!なんですからぁ…!」
「でも、気持ちいいでしょう?」
耳元で囁くと、ドワーフは耳と尻尾を力なく垂らした。たぶん、他の種族であれば、今頃は全身真っ赤になっているのだろう。
「うふふ。いいんですよ、その感覚を否定しなくても。ほら、こうやって直接触ると…」
「ふあぁ!?だ、ダメ……ですぅ…!」
ズボンの中に手を入れ、直接触れると、さすがにドワーフは抵抗してくる。しかし手荒なことはできないらしく、せいぜい力なく
押してくる程度の抵抗である。それには構わず、セレスティアは彼のモノをそっと握り締めた。
「ああ……とっても、熱いです…。わたくしのせいで、こうなったんですよね?」
「そ、それは……えっと…!」
「いいんですよ。ですから、そのお詫びです」
「でもでも、そんな……やぁ!?」
ゆっくりと、前後に扱き始める。ドワーフの腰が跳ね上がり、抵抗の力がわずかに増す。それでも力任せに暴れない辺り、彼の教育は
相当しっかりと叩き込まれているのだろう。それがまた、セレスティアに背徳的な喜びを抱かせる。
「どうですか?気持ちいいですか?」
「ダ……メぇ…!いけない……こと……ですよぅ…!」
まだ抵抗を示すドワーフに、セレスティアの目が妖しく光る。
「もう、頑固なんですね。それじゃ、これはもうおしまいにしてあげます」
その言葉に、ホッと息をつくドワーフ。が、セレスティアはドワーフの前に回りこむと、その目に意地悪な笑みを浮かべた。
「その代わり、こうしちゃいます」
「え…?あ、セ、セレスティアさっ……やっ、うああ!!」
ズボンを下ろし、元気に飛び出たモノをぱくりと咥え込む。ドワーフは腰を引こうとしたが、セレスティアはしっかりと腰に手を回し、
それをさせない。
「あうぅ……おちんちん食べちゃ、ダメですよぉ…!」
舌先で、鈴口をチロチロと刺激する。ドワーフは嬌声とも悲鳴とも付かない声を上げ、セレスティアの頭を押す。それを意に介さず、
雁首をなぞるように舌を回し、筋を伝って舐め上げる。
「う、ああ……あ…!だ……めぇ…!やだ……ぁ…!」
じわりと、先端から透明な汁が滲む。わずかにしょっぱく、粘りのある感触。
―――わたくし、本当に、男の人のものを…!
しかも、相手は自分で慰めたことすらない、それこそ無垢な少年である。セレスティアは、背筋がぞくりとするような、えもいわれぬ
快感を覚える。それに刺激され、セレスティアの行為は激しさを増す。
「や……あぁ…!セレスティア、さん…!もう、やめて、くださいぃ…!」
限界が近いのか、ドワーフはセレスティアの頭に覆い被さるようにし、必死に刺激を耐えている。その姿がまた可愛らしく、
セレスティアはわざと大きな音を立てて奉仕を続ける。
さらに、無防備な尻尾に手を伸ばす。下からその根元を撫で上げると、ドワーフはビクッとして腰を突き出した。
「ひゃうっ!?も、もうやめてぇ!!なんか……なんか、変な感じがぁ…!」
一瞬、喉の奥まで突き入れられて焦ったものの、セレスティアはあえてそのままにし、舌全体を使って丁寧に舐めあげる。
「だっ、ダメ!ダメ!もうやめて!セレスティアさん、もうやめて!!放し……やっ、ダメぇ!!!」
突然、口の中に熱い液体が流れ込んできた。ひどく生臭く、えぐい味だったが、それが何であるかを知った瞬間、セレスティアは
恍惚の表情を浮かべた。
―――ああ……これが、男の人の…!
ドワーフのモノが、口の中でピクンと跳ねる度、大量の精液が流れ込む。その度に、セレスティアはごくりと喉を鳴らし、それを
飲み込んでいった。跳ねる間隔が長くなり、一度に出る量が減り、やがてそれが出なくなると、セレスティアはゆっくりと口を離した。
笑いかけようとした顔が、困惑の表情を浮かべる。ドワーフはべそどころではなく、本当に泣いていた。
「あ、あの、ドワーフさん…?」
「えっく……ひっく…!ご、ごめん……なさ…!」
「えっ……と…?」
「口の中に……がまん……できなくって……ふえぇ…!」
射精というものすら知らなかったのだろう。ドワーフは彼女の口の中に、漏らしてしまったと思っているのだ。
それを理解すると、セレスティアはドワーフの頭を優しく撫でた。
「違いますよ、ドワーフさん。お漏らししたんじゃなくって、これは大人になった印ですよ」
ドワーフはまだ涙を浮かべつつも、恐る恐るセレスティアを見つめる。
「……しるし…?」
「そう、印。ああやって刺激すると、出ちゃうんですよ。汚いものでもないし、恥ずかしい事でもないんですよ」
そう言われて、ドワーフはようやくホッとした顔を見せた。が、セレスティアはまたも爛々とした目を向ける。
「それじゃ、大人の次は、いよいよ『男』にしてあげますね」
「え、ぼく男ですけど……わわっ!?」
ドワーフの体を抱き上げると、ベッドの上に仰向けに寝かせる。その体に馬乗りになると、彼は怯えきった目でセレスティアを見つめる。
「な、何するんですかぁ!」
「ですから、『男』になってもらうんです」
言いながらショーツを脱ぎ捨て、そっと彼のモノを掴む。
「や、やだぁ!セレスティアさん、もうやめてぇ!」
「ふふ、可愛い。それじゃ、いきます……んんっ!」
ちゅぷっと、先端が入り込んだ。セレスティアの全身を、悦びと興奮とがない交ぜになった快感が駆け巡る。
「ああ…!わたくし、とうとう……こんなっ…!」
「いけ……ませんよぉ…!やめ……あううっ!」
ず、ず、と、少しずつ腰を落としていく。少しずつ強くなる、体内の圧迫感。それに伴う痛みに似た快感。それを全身で味わううち、
とうとうドワーフの全てがセレスティアの体内に納まる。そこでふと、セレスティアは我に返った。
―――初めてだったのに、痛くもないし血も出ないし、おまけに気持ちいいって…。
ほんの一瞬、セレスティアは自分に呆れ返ったが、すぐにまあいいかと気を取り直す。
「あうぅ…!か……かんいん……はっ…!た……大罪……だからぁ…!やめ……てぇ…!」
そんなドワーフに、セレスティアはそっと唇を寄せる。
「んー、そうですねえ。姦淫は罪ですよねえ」
途端に、ドワーフは怯えきった目を見開き、セレスティアをじっと見つめる。が、セレスティアは優しく笑いかけた。
「でもですよ?それは、程度が過ぎた場合とか、無理矢理それをなそうとした時です。そうでなければ、これは罪ではありませんよ」
一瞬、セレスティアは墓穴を掘ったかと焦った。しかし、今のドワーフには、そこまで頭が回るほどの余裕がないらしい。
「でも……でも、父上も、母上も、言ってましたよぉ…」
「ふふ、よく考えてみてください。神様が、わたくし達をそのようにお作りになられたのですよ?それなら、この欲求は自然なこと。
それを我慢したりして、自然に逆らう方が、罪だとは思いませんか?」
今まで信じきっていた価値観をひっくり返され、ドワーフはすっかり困惑しているようだった。そんな戸惑いの表情が、セレスティアに
たまらないほどの快感をもたらす。
「でも……えっと……その…」
「それに……ほら、気持ちいいでしょう?」
「ふあっ!」
軽く腰を動かしてやると、ドワーフはビクンと体を震わせた。
「こうやって、気持ちよくなる風にも作られてるんです。快感に溺れるのは、確かに大罪ですけど、そうでなければ、むしろとても
素晴らしい事ですよ?気持ちよくって、こうして仲良くなれて……これが罪だというなら、この世に正しい事などありません」
それでもドワーフは震えていたが、やがておずおずと、セレスティアの顔を見上げた。
「ほ……ほんと…?」
「わたくしは、天使の血族ですよ?そのわたくしが言うんですから、間違いありませんよ」
それでもまだ不安そうなドワーフを、セレスティアは優しく撫でてやった。
「大丈夫。すべて、わたくしに任せてください。すぐに、天国まで連れて行ってあげますよ、うふふ!」
艶っぽく笑うと、セレスティアはゆっくりと腰を動かし始める。
「うっ……ああ!」
膣内を締め付け、モノを扱くように上下に動くと、ドワーフはシーツをぎゅっと握り、その快感に耐える。セレスティアとしても、
体の奥深くを突き上げられる感覚は気持ちいい。
「んあっ!あぅ、あん!どう、ですか?気持ちいい、ですか?」
「はぁっ、はぁっ……は、はいぃ…!」
「ふふ、やっと素直になりましたね。それじゃ……んん!もっと、気持ちよくしてあげます」
腰を押し付けながら、さらに前後に動かし、時には腰を捻る。気付けば、結合部はセレスティアが溢れさせる愛液に塗れ、腰を動かせば
グチュグチュといやらしい音を立てる。
無意識に、動きが速くなっていく。より強く突き上げられる感覚を、より深く突き入れられる感覚を。体の中に響く振動が、痛みを伴う
快感となり、ただひたすらその快感を貪るために、セレスティアは激しく腰を動かす。
「ああっ!はぁ!!んああ!!わ、わたくし、もうっ…!」
「セ、セレスティアさんん…!ぼく……ぼく、またぁ…!」
奇しくも同じタイミングで、二人が声を上げる。ドワーフはセレスティアを止めるかのように、腰の辺りに手を伸ばした。セレスティアは
素早くその手を捕らえ、しかし押さえる事はせず、その手に指を絡めた。
さらに動きが激しくなり、部屋の中にパチュ、パチュと断続的な音が響く。それに合わせ、限界の近づいているドワーフが、尻尾で
ベッドを叩く音も加わる。
「ダメっ!セレスティアさっ……また、ぼくっ……う、うああぁぁ!!!」
ドワーフの腰が跳ね上がり、同時に体内で彼のモノがビクンと震えた。直後、体の奥にジンとした暖かみが広がる。
「ああ、わたくしの中にっ……あっ、わ、わたくしももう……んあ、ああぁぁ!!」
思い切り体をのけぞらせ、背中の翼をいっぱいに広げ、セレスティアの体が歓喜に打ち震えるが如く、激しく痙攣する。
トクン、トクンと、ドワーフのモノが体の中で跳ねるのを感じる。その度に、セレスティアは強い快感と、えもいわれぬ幸福感を覚える。
その快感に浸っていると、急にドワーフが腰を突き上げた。
「きゃんっ!?」
「あっ…!」
驚いてドワーフを見ると、彼は今にも泣きそうな顔でセレスティアを見つめていた。
「ご、ごめんなさい…!い、痛くするつもりはなかったんですよぅ…!でも、でも……腰が、勝手にぃ…!」
そんな彼を、セレスティアは優しい笑顔で見つめた。
「いいんですよ、気にしなくて。それだけ気持ちいいってことでしょう?わたくしも、それぐらい気持ちいいんですよ」
「い……痛く、ないんですか…?」
「痛いどころか、すごく気持ちいいですよ。だから次するときは、あなたがそうやって動いてくれると、嬉しいです」
「……が、がんばります」
恥ずかしそうに答えるドワーフ。本当に素直ないい子だと、セレスティアはしみじみ思った。
出なくなったのを見計らい、ゆっくりと腰を上げ、モノを引き抜く。それが抜けると同時に、入りきらずに溢れた精液がドロッと垂れた。
「なんか、白いのが…?」
「ふふ。それが、あなたがさっき出したものですよ。これが、赤ちゃんの元になるんです」
「……じゃあ、赤ちゃんできちゃうんですか…?」
「種族がだいぶ違いますから、それはないと思いますよ。それとも、出来ちゃった方がよかったですか?」
いたずらに笑いかけると、ドワーフは耳と目を伏せた。そんな純粋さが、やはり可愛い。
ハンカチで零れた物を拭き取ってから、セレスティアもドワーフの隣に寝転んだ。そして、その顔にそっと手を添える。
「それじゃあ、最後の仕上げです」
「しあげ?」
セレスティアは優しく、唇を重ねた。ドワーフは少し驚いたようだったが、控えめながらも、少しずつ自分から仕掛け始める。
しばし唇同士の感触を楽しんでから、セレスティアはつい、と顔を離した。
「これが、ただのキスです。大人のキスは、こうです」
返事を待たず、再び唇を重ねる。そっと舌を入れると、ドワーフの歯に当たった。彼は驚いて首を引こうとしたが、セレスティアは
腕を回し、さらにグイッと唇を押し付ける。やがて、彼もようやくやるべき事を悟ったらしく、おずおずと口を開き、舌を絡めた。
舌と舌がねっとりと絡み、漏れる吐息が混ざる。舌を舐め、歯をなぞり、時には口内を撫でるように舌を這わせる。ドワーフは舌と舌が
絡むのが好きらしく、しつこくセレスティアの舌を追っては、必死に絡めようとする。
いつしか、ドワーフもセレスティアの体を、しっかりと抱き寄せていた。暖かく、小さくとも力強い腕の中は、何ともいえない安心感を
感じさせてくれた。
が、腰に何かが当たる。ちらりと見てみると、ドワーフのそこはまた勢いを取り戻していた。呆れたように笑うと、セレスティアは
自分から唇を離した。
「もう。またそんなにさせちゃって、元気ですね」
「え?あっ、あの、これは、その…!」
セレスティアは優しく笑いながら、ドワーフの鼻をちょんと突いた。
「溺れるのは大罪ですから、今日はここまで。いいですね?」
「は……はい」
「ふふ、いい子です」
体を抱き締めてやると、ドワーフもぎゅっと抱き返す。その暖かさを全身に感じながら、セレスティアは心地良い眠りへと落ちていった
翌日から、一行はまた地下道探索を再開した。もう以前のような失態はなく、セレスティアは変わらず捨て身で敵陣に突っ込み、それを
しっかりとドワーフが守る。二人のコンビ復活に、一同はホッと安堵の息をついていた。
「やっぱり、それがなくっちゃね!セレちゃんとドワ君、息ぴったりじゃない!」
敵を殲滅すると、ヒューマンが弾んだ声をかけた。
「ええ、ゆっくり休みましたから。ね、ドワーフさん?」
「は、はい。ぼくも、休みましたから」
笑いかけると、ドワーフは恥ずかしげに視線を逸らした。やはり、何かと気恥ずかしいのだろう。
と、思った瞬間。彼はセレスティアの顔をしっかりと見つめ、口を開いた。
「あの、セレスティアさん」
「あ、はい?何ですか?」
「今日の探索が終わったら、またまじわりたいです!」
「っ!?」
その瞬間、パーティの空気が凍った。誰も彼も、その一言に耳を疑っていた。
「あ、あ、あ、あの……ま、交わりって…」
「はい!昨日みたいに、セレスティアさんとまじわりたいんです!」
「そそそ、そうじゃなくって!あの、ドワーフさんっ!」
「どうしたんですかぁ?」
無邪気に、本当に不思議そうに首を傾げるドワーフを見て、セレスティアは自分の誤算を知った。無垢すぎるこの少年は、自分の言葉の
全てを、言葉通りに受け取ってしまったのだ。
「あ……の……それ、は……そう、人前で言うようなことじゃ…!」
「???……でも、恥ずかしいことじゃないって、言ってたじゃないですか?」
ボッと、セレスティアの顔が真っ赤に染まる。
「そ、それは言いましたけどっ!その、えっと、だからって、みんなの前で…!」
「ぼくのおちんちんくわえたりしても、恥ずかしくないって言ってたのに?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
ボンッと、セレスティアの耳までが真っ赤に染まる。
「アノ……ソレハ、アノ…」
「……君達、そんな事してたんだ……くそ、ドワーフめ、羨ましいな…」
バハムーンが率直な感想を口にした瞬間、セレスティアは指先まで真っ赤になり、全身が固まってしまった。
「はっはっはっは、よしドワーフ、ちょっと来い」
「どうしたんですか?」
ドワーフの肩に腕を回し、クラッズが俗っぽい笑顔を見せる。
「具体的にどんなことされたか、ちょっとあっちで詳しく聞かせてくれや。恥ずかしくない事なんだからいいだろう?」
「あ、僕も聞きたいな。聞かせてくれ。是非に」
「いいですよー。あのですねえ…」
「ドワーフさんっ!!!」
慌てて後を追おうとした瞬間、ヒューマンがセレスティアの首にがっちりとヘッドロックを極めた。
「セ〜レちゃ〜ん!なかなか面白いことしてんじゃないの〜、ええ〜?」
「そうですよ!すごいです!私、セレスティアさん尊敬します!」
頭を拳でグリグリされつつ、セレスティアは急に敬語になったクラッズに目を向ける。
「痛たたた!な、何がですか!?」
「だって、あの難攻不落のドワーフ君を落としたんですよ!?すごいです!感動します!」
「ほ〜んとよね〜。にしても、天使の癖に、結構小悪魔なところあるんだねー、セレちゃんって」
「私なんか、彼と付き合い長いのに、キスすらないのに……セレスティアさん!男の人どうやって落とすのか、コツ教えてください!
私も彼と、そろそろキス……ううん、それ以上のことしたいんですっ!」
「コツって……いや、その、わ、わたくしは……て、ヒューマンさん、痛いですってば!」
何とかその腕から逃れようともがいていると、ヒューマンがそっと耳に唇を寄せた。
「あ、セレちゃ〜ん。もしパーティ抜けたら、この話、私が知ってる子全員に話しちゃうからね〜」
すうっと、セレスティアの顔から血の気が引いた。
「パーティ永住、してくれるよね〜?」
「そ、そんなっ!それはだって、あの……その…!」
「ばらしちゃうよ〜?」
「お願いです!セレスティアさん、私の先生になってください!お願いしますっ!」
どうやら、自分に拒否権はなさそうだと、セレスティアはぼんやりと理解した。
「……で、それで…………こう、この辺をこう…」
「うわぁ……わぁ…!」
「ふむふむ……で?それで……おおぉ……そ、それでその先は…?」
「って、三人とも何話してるんですかぁ〜!!!もうやめてくださ〜〜〜い!!!」
どうやら、色んな物を一度に手に入れてしまったようだと、セレスティアは思った。
面白い仲間達。気の置けない友人達。息の合う仲間達。そして、可愛い彼氏。
そこまでならよかった。だが、おまけに全員が知るところとなった恥ずかしい秘密。抜け出したいパーティ。抜けられないパーティ。
この先、自分は一体どうなるんだろうと、パーティ加入時よりさらに深刻に考えるセレスティア。
だが、それも悪くはないかという気持ちも、少なからずあった。
「あの……セレスティアさん、どうしたんですか?ぼく、なにか変なこと言いました?」
無邪気に、無垢な瞳で尋ねてくるドワーフ。その顔を見ていると、何だかどれもこれも、些細な問題に見えてしまった。
「……いえ、もういいんです。大丈夫です。全部話してあげてください」
「はーい」
彼と一緒にいられるというのなら、いい加減一所に身を置いてもいいかと、そう考えるセレスティアであった。