「……ほう。同じ委員会の先輩、ね」  
 ディモレアはそう言って笑った。  
 ちなみにディアボロスはそれらの情報を全て白状させられる為にアイアンクローをかまされ、ビッグバムを三回撃たれと散々だった。  
 サラと番長は既に聞いていた話だったので苦笑していたが、何故かマクスターは真剣な顔つきだった。  
「ふむ、なるほど……まぁ、僕もあの子は嫌いじゃないけど。そうだな……」  
「で、その子あんたの先輩って事は、もう最上級生? もう一年ないじゃない」  
「そうですね、もう進路を決めなけりゃいけない頃ですね。そうだ、僕もどうしよう」  
 ディモレアの言葉にマクスターが頭を抱える。  
「アタシが今働いてる魔導書館の研究員に枠がいくつかあるみたいだけど、あんた考えてみる?」  
「遠慮しときます。僕は君主学科なんで学科違いです」  
「あら、そう。パルタクスは歴史が浅いから実績が少ない分、推薦も無いしねぇ。あんたは錬金術士学科だっけ? まだ望みあるわねぇ」  
 ディモレアの言葉に、マクスターとタークは頭を抱える。戦術系学科の就職事情は厳しい。  
「けどよ、後一年無いんだろ? なんで好きなら好きって言わないんだ?」  
「ティラ姉さん、それが出来たら苦労はしねぇ」  
「甲斐性ねぇな」  
「……………」  
 何も言い返せないディアボロス。  
 まぁ、確かに彼自身もそうだと思っている。  
 錬金術士学科も前衛をこなせなくはないので所属パーティでも前衛、しかも魔法や鑑定も出来るパーティの中核である。  
 だが、それでも好きな人に告白も出来ない意気地なしである。  
「……あんたねぇ。ダメよ、あの人を見習い……」  
 ディモレアがそう言いかけて黙る。ディモレアは息子である彼に、父の話をあまりしていない。  
 本人が父親の顔を知らないのに、そんな事を言ってもと思っているのだろうか。  
「……ここは僕たちがひと肌脱ぐしかないようだ」  
 マクスターが神妙な面持ちで呟き、番長が驚いた視線を送る。  
「で、何するんや兄貴? そうは言っても」  
「ターク。学校に帰るぞ。すいません、お邪魔しました」  
 マクスターは文字通り番長を引きずりつつ立ち上がって頭を下げる。  
「あら、もう帰るの? もう夜遅いわよ?」  
「いえ、今から準備をせねば。心配するな。お前の恋、必ず叶えさせてやる」  
「何する気ですか、会長」  
 ディアボロスの言葉に、マクスターは親指を軽く上げる。  
「僕を信じて任せろ!」  
「あんただから不安なんですけどね」  
 ディアボロスがため息をつくより先に、マクスターは番長を連れて去っていった。  
 しかし、何をするというのだろうか。  
 
 二日の時が流れ、ディアボロスは実家から学生寮へと戻っていた。  
 ちなみに、深夜にも関わらず番長を引き連れて学校へと戻ったマクスターの一大企画準備は生徒会全部を巻き込んだもので生徒会メンバーは毎朝疲れた様子だったという。  
 そして、朝。  
 ディアボロスは朝食を取るべく、食堂でいつも自らのパーティが座っている席へと向かうと、普段より多くの生徒が食堂に集まっている事に気付いた。  
「お。戻って来たのか?」  
 同じパーティのバハムーンが彼に気付き、大きく手を振って位置を示す。  
「ああ。おはよう、皆揃ってるのか……」  
「ああ。お前が最後さ」  
 同じパーティで同じく前衛をつとめるフェルパーの男子が頷き、対岸に座る後衛を担当する三人の女子達が「遅ーい」と口を揃えた。  
「悪い、最近寝不足で……」  
「実家に帰ったのに寝不足ってなんだよそれ」  
 フェルパーの問いに、ディアボロスは黙り込む。まさかライフゴーレム達にラブレターの書き方を延々と伝授され続けたとは口が裂けても言えない。  
 その内容についてサラに散々こき下ろされたのも恥ずかしくて言えない。  
 まさに悪夢のような日々である。  
「それにしても……今朝は生徒が多いな」  
「ん? ああ、まぁな」  
「そりゃあ、もちろんアレがあるからだよ」  
「パルタクス中の生徒が来てるんじゃない? 皆結構楽しみにしてるっぽいし」  
 何か含みのある言い方をしたバハムーンに続けて、盗賊学科のクラッズと僧侶学科のフェアリーの少女達がそれぞれ言葉を続ける。  
「アレってなんだ?」  
「私に聞くな。委員会に所属してるんだから、お前は知ってると思ったんだが」  
 超術士学科の同種族の女子はあきれた顔でそう答え、バハムーンがため息をついて口を開いた。  
「ああ。昨日の夜、お前は帰ってすぐ寝ちまっただろうから知らないかも知れないけどよぉ……。生徒会長がイベントの発表したんだ」  
「会長が? そのイベントは今日やるのか?」  
「ああ。その内容はな……」  
「「「愛しのあの子にオモイを告げるヒinパルタクス」」」  
 バハムーンの言葉の後に、三人の女子が口を揃える。この三人、実はハモる事が多いのだろうか?  
「……は?」  
 ディアボロスが思わず聞き返すと、バハムーンは口を開いた。  
「だから、好きな人に向かって全校生徒の前で告白するイベントなんだと。で、今朝から希望者を募ってやがる」  
「……マジかよ」  
 マクスターが言っていたひと肌脱ぐとはまさにこの事なのだろうか。そうだとしたら、全校生徒まで巻き込むのはスケールがでかすぎないか?  
「あ、ちなみにパルタクスだけじゃなくてマシュレニアやランツレートの生徒が相手でもオーケーらしいぜ。確か何人か希望を出してる」  
「スケールでかすぎだろ!」  
 ディアボロスが盛大に叫んだとき、背後から文字通り背中を叩かれた。  
「ちょっといいか?」  
「あ、会長。いった―――――」  
 ディアボロスが言葉を続けるより先に、マクスターは即座にディアボロスを引っ張って食堂の隅まで向かうと、声を潜めた。  
「これでお膳立てはした。お前はイベントの最後に予約してある」  
「え、でも」  
「でもも糞もあるか。後一年も無い。それは解ってるだろう? お前も男なら、腹をくくれ」  
「………………」  
「頼むぜ。彼女に、学生生活で最高の夢を見させてやれ」  
 マクスターの言葉に、ディアボロスは何も答える事は出来なかった。  
 だがしかし、もう既に賽は投げられた。決まりきった事なのだ。  
 
「おい番長! あれはどういう事だっ!」  
 朝食を済ませたディアボロスはいつものように屋上にたむろっていた不良グループの中からわざわざ番長を引っ張りだすと、盛大に首を揺さぶった。  
「ちょ、タンマ、落ち着けや、マジ勘弁ぐぐぐぐるじい」  
「番長に何すんだ!」  
「邪魔だ引っ込んでろ! ビッグバムかますぞ!」  
「もう既に撃ってるしー!」  
 止めに入った不良達をビッグバムで屋上から中庭まで吹っ飛ばしてから再び番長をつかむ。  
「で、あんな事言い出したのは会長だな? なんで止めなかった?」  
「ちょ、ちょい待ちいや。あのやな、止めた所でアニキは聞く筈も無いし、ワイもそれが一番やと」  
「だからと言って俺を勝手にラストなんかにするんじゃない!」  
「……なら、くすぶったままか?」  
「…………」  
「黙ったまんま、時が流れたら先輩卒業しちまうがな」  
 確かに番長の言う通りである。  
 しかし、イマイチ勇気の無いディアボロスにとって全校生徒の前で告白なんて百歩譲っても不可能に近い行為だ。  
「………お前ら、何の話してんだ?」  
「あ、悪い。すぐ終わる」  
 騒ぎを聞きつけたのかそれともディアボロスを探しに来たのかバハムーンが顔を出し、ディアボロスはそう答える。  
「で、どうすればいいんだよ俺は……勝手に決められても」  
「諦めて腹ぁくくるしかないやろ? もうお膳立てはしたし、そもそも今回の為にめっさ準備してきたんや。今年度の二度目はもう無いんやで」  
「来年はどうあがいても無理だしな……」  
「なぁ、お前まさか……告白するのか? なんだよ、スミにおけねぇなぁ」  
「……バハムーン、なんで今の会話だけで解ったんだよ」  
「いや、おい番長どういう事だのあたりから実は聞いてたんだが」  
「全部じゃねぇかよ!」  
 ディアボロスの突っ込みにバハムーンは頭を掻きつつ笑う。同時に他のパーティメンバー達も校舎から屋上へと続く階段の陰から次々と姿を現した。  
「おめでとう」  
「頑張ってね。叶うといいね」  
「お前ら、他人事だと思って……」  
 ため息をつく。  
 しかし、と彼は同時に思う。  
 番長の言う通り、イマイチ勇気がないままくすぶっていればそのオモイはおかしな方向に転がる事もありうる。実際好きなのだから。  
 その事を先輩に心配されて(スケールがデカすぎる)お膳立てをしてくれたのはお節介ではあるけれども。  
 普通に考えれば感謝するべき事なのかも知れない。本当に、後一年。  
「後、一年か……」  
 一年、と言えば。  
 そういえば委員長と出会ったのも、一年生の時だった気がする。  
 初めての委員会に配備されたのは自分よりちょっぴりだけ年上の先輩がいて。それで……。  
「だあああああああああっ!」  
 ディアボロスは手を大きく左右に振り回す。  
 そりゃ、昔から知っているんだから。好感を持たないというのが変だったのだろう。  
 好きだと言えば好きな訳で。一緒にいたいとかそばにいるだけで幸せとかそういう単純なものだけじゃなくて一言で言い表せないような。  
「………頑張りぃや」  
 番長が背中をポンと叩くのが、どこか嬉しかった。  
 イベントは、今夜。  
 
 つづく  
 

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